特許第6759546号(P6759546)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6759546反射防止膜の形成方法及び光学素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6759546
(24)【登録日】2020年9月7日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】反射防止膜の形成方法及び光学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/111 20150101AFI20200910BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20200910BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20200910BHJP
   B05D 3/10 20060101ALI20200910BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20200910BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20200910BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20200910BHJP
【FI】
   G02B1/111
   B05D5/06 Z
   B05D3/02 Z
   B05D3/10 K
   B05D7/24 302Y
   B32B7/023
   B32B9/00 A
【請求項の数】12
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-186518(P2015-186518)
(22)【出願日】2015年9月24日
(65)【公開番号】特開2017-62301(P2017-62301A)
(43)【公開日】2017年3月30日
【審査請求日】2018年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】311015207
【氏名又は名称】リコーイメージング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(72)【発明者】
【氏名】玉田 剛章
(72)【発明者】
【氏名】中山 寛之
【審査官】 山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−204394(JP,A)
【文献】 特開2010−000447(JP,A)
【文献】 特表平08−511197(JP,A)
【文献】 米国特許第05705535(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10−1/18
B05D 1/00−7/26
C01B 33/00−33/193
B32B 7/023
B32B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に、アルカリ処理したシリカエアロゲル膜からなる反射防止膜を形成する方法であって、溶媒中でアルコキシシランを塩基性触媒により加水分解・重合してアルカリ性ゾルを調製し、これに酸性触媒を添加してさらに加水分解・重合することにより第一の酸性ゾルを調製し、溶媒中でアルコキシシランを酸性触媒により加水分解・重合して第二の酸性ゾルを調製し、前記第一及び第二の酸性ゾルを混合し、(1) 得られた混合ゾルを前記基材に塗布し、得られた塗布膜にアルカリで処理した後、マイクロ波を照射するか、(2) 得られた混合ゾルを前記基材に塗布し、マイクロ波を照射し、得られたシリカエアロゲル膜にアルカリで処理した後、マイクロ波を照射するか、(3) 得られた混合ゾル中にアルカリを混合したゾルを前記基材に塗布した後、マイクロ波を照射することを特徴とする方法。
【請求項2】
基材の表面に、単層又は多層の緻密膜と、アルカリ処理したシリカエアロゲル膜とからなる反射防止膜を形成する方法であって、前記基材の表面に無機層、無機微粒子−バインダ複合層及び樹脂層の少なくとも一つからなる単層又は多層の緻密膜を形成した後、溶媒中でアルコキシシランを塩基性触媒により加水分解・重合してアルカリ性ゾルを調製し、これに酸性触媒を添加してさらに加水分解・重合することにより第一の酸性ゾルを調製し、溶媒中でアルコキシシランを酸性触媒により加水分解・重合して第二の酸性ゾルを調製し、前記第一及び第二の酸性ゾルを混合し、(1) 得られた混合ゾルを前記単層又は多層の緻密膜に塗布し、得られた塗布膜にアルカリで処理した後、マイクロ波を照射するか、(2) 得られた混合ゾルを前記単層又は多層の緻密膜に塗布し、マイクロ波を照射し、得られたシリカエアロゲル膜にアルカリで処理した後、マイクロ波を照射するか、(3) 得られた混合ゾル中にアルカリを混合し、得られたアルカリ混合ゾルを前記単層又は多層の緻密膜に塗布した後、マイクロ波を照射することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の反射防止膜の形成方法において、前記アルカリ処理として、
上記方法(1) において、前記塗布膜、無機アルカリ、無機アルカリ塩、有機アルカリ及び有機酸アルカリ塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のアルカリ溶液を塗布するか、アンモニアガスを接触させる処理を行うか、
上記方法(2) において、前記シリカエアロゲル膜に、無機アルカリ、無機アルカリ塩、有機アルカリ及び有機酸アルカリ塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のアルカリ溶液を塗布するか、アンモニアガスを接触させる処理を行うか、
上記方法(3) において、前記混合ゾル中に無機アルカリ、無機アルカリ塩、有機アルカリ及び有機酸アルカリ塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のアルカリを混合させる処理を行うことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の反射防止膜の形成方法において、前記アルカリ溶液の濃度を1×10-4〜20Nにすることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の反射防止膜の形成方法において、前記マイクロ波照射は150〜1900 Wの出力で20秒〜10分行うことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の反射防止膜の形成方法において、前記第一の酸性ゾルの調製を、前記アルコキシシランとしてテトラアルコキシシラン又はそのオリゴマーを用い、前記塩基性触媒としてアンモニアを用い、前記酸性触媒として塩酸を用い、前記溶媒としてメタノールを用いて行うことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の反射防止膜の形成方法において、前記第二の酸性ゾルの調製を、前記アルコキシシランとしてメチルトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン及びこれらのオリゴマーからなる群から選ばれた少なくとも一種を用い、前記酸性触媒として塩酸を用い、前記溶媒としてメタノール及び/又はエタノールを用いて行うことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の反射防止膜の形成方法において、前記混合ゾルの第一の酸性ゾルの第二の酸性ゾルに対する固形分質量比を5〜90にすることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の反射防止膜の形成方法において、前記混合ゾルの第一の酸性ゾルの第二の酸性ゾルに対するメジアン径比を5〜50にすることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の反射防止膜の形成方法において、前記アルカリ処理したシリカエアロゲル膜の物理膜厚を15〜500 nmにすることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の方法により反射防止膜を光学基材の表面に形成することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の光学素子の製造方法において、前記光学基材は平板状又はレンズ状であることを特徴とする光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノサイズの微細孔を有するアルカリ処理シリカエアロゲル膜を少なくとも有する反射防止膜の形成方法、及びかかる反射防止膜を具備する光学素子の製造方法に関し、特に低屈折率及び優れた耐擦傷性を有するアルカリ処理シリカエアロゲル膜を少なくとも有する反射防止膜の形成方法、及びかかる反射防止膜を具備する光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、反射防止膜は真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の物理蒸着法によって成膜されてきた。単層の反射防止膜は基材より小さな屈折率を有する必要があるが、物理蒸着法で形成される最も屈折率の小さなMgF2層でも1.38と比較的大きな屈折率を有し、屈折率1.5程度のレンズ用の反射防止膜にとって理想とされる1.2〜1.25の屈折率を有さない。1.2〜1.25の屈折率を有する反射防止膜は、可視光領域すなわち波長400〜700 nmにおいて1%未満の反射率を示すのに対し、屈折率1.38のMgF2からなる反射防止膜の反射率は2%未満ではあるものの、1%より高い。
【0003】
近年、ゾルゲル法等の液相法も反射防止膜の成膜に用いられている。液相法には、物理蒸着法のような大掛かりな装置を要することなく、また基材を高温に曝すことなく反射防止膜を成膜できるという特長がある。しかし、液相法によって得られる反射防止膜の最小屈折率は1.37付近と、物理蒸着法と同程度であり、反射防止特性も大差ない。したがって、いずれの方法による場合も、可視光の波長領域における反射率を1%未満に抑えるためには、低屈折率材料と高屈折率材料とを積層して多層膜を形成する必要がある。
【0004】
MgF2より小さな屈折率を示す材料として、シリカエアロゲルが知られている。アルコキシシランの加水分解反応によってシリカ湿潤ゲルを調製し、これを二酸化炭素、水、有機溶媒等の超臨界流体で乾燥すると、0.01 g/cc以下の密度を有し、屈折率1.1未満のシリカエアロゲルを作製できる。しかしこの製造方法には、超臨界乾燥装置を要する上に手間が掛かり、高コストであるという問題がある。また得られるシリカエアロゲルの靭性が非常に小さく脆いために、使用に耐えないという問題もある。
【0005】
特開2009-258711号(特許文献1)は、基材又は基板上に形成された単層又は多層の緻密膜の表面に、アルカリ処理したシリカエアロゲル膜からなる反射防止膜を形成する方法であって、溶媒中でアルコキシシランを塩基性触媒により加水分解・重合してアルカリ性ゾルを調製し、これに酸性触媒を添加してさらに加水分解・重合することにより第一の酸性ゾルを調製し、溶媒中でアルコキシシランを酸性触媒により加水分解・重合して第二の酸性ゾルを調製し、第一及び第二の酸性ゾルを混合し、得られた混合ゾルを基材に塗布し、乾燥し、得られたシリカエアロゲル膜をアルカリで処理する方法を開示している。
【0006】
特許文献1は乾燥工程として自然乾燥又は100〜200℃の温度で熱処理した後、アルカリ処理したシリカエアロゲル膜を100〜200℃で乾燥する旨記載している。また実施例では、緻密膜上に混合ゾルをスピンコートし、80℃で30分間及び160℃で30分間熱処理してシリカエアロゲル膜を形成した後、シリカエアロゲル膜上に、0.001 Nの水酸化ナトリウム水溶液400 mLをスピンコートしてアルカリ処理を行い、室温で30分間放置した後、120℃で30分間乾燥して反射防止膜を形成している。
【0007】
このように特許文献1では混合ゾルをスピンコートした後に自然乾燥又は熱処理により乾燥し、さらにアルカリ処理を行った後に100〜200℃程度の熱処理により乾燥を行っている。そのため、シリカエアロゲル膜の成膜からアルカリ処理までの工程が2時間程度と長く、乾燥工程において100℃以上の熱処理を行うため融点の低い樹脂レンズや樹脂−ガラスハイブリッドレンズには不向きである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-258711号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、低屈折率及び優れた耐擦傷性を有するシリカエアロゲル膜を少なくとも有する反射防止膜を短時間かつ低温で形成する方法、かかる反射防止膜を具備する光学素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、順次塩基性触媒及び酸性触媒の存在下でアルコキシシランを加水分解・重合した第一の酸性ゾルと、酸性触媒の存在下でアルコキシシランを加水分解・重合した第二の酸性ゾルとを混合し、(1) 得られた混合ゾルを基材に塗布し、得られた塗布膜にアルカリで処理した後、マイクロ波を照射するか、(2) 得られた混合ゾルを基材に塗布し、マイクロ波を照射し、得られたシリカエアロゲル膜にアルカリで処理した後、マイクロ波を照射するか、(3) 得られた混合ゾル中にアルカリを混合し、得られたアルカリ混合ゾルを基材に塗布した後、マイクロ波を照射することにより、シリカエアロゲル膜をアルカリで処理すると、短時間かつ低温で、低屈折率及び優れた耐擦傷性を有するシリカエアロゲル膜を形成することができることを見出し、本発明に想到した。
【0011】
すなわち、本発明の第一の反射防止膜の形成方法は、基材の表面に、アルカリ処理したシリカエアロゲル膜からなる反射防止膜を形成する方法であって、溶媒中でアルコキシシランを塩基性触媒により加水分解・重合してアルカリ性ゾルを調製し、これに酸性触媒を添加してさらに加水分解・重合することにより第一の酸性ゾルを調製し、溶媒中でアルコキシシランを酸性触媒により加水分解・重合して第二の酸性ゾルを調製し、前記第一及び第二の酸性ゾルを混合し、(1) 得られた混合ゾルを前記基材に塗布し、得られた塗布膜にアルカリで処理した後、マイクロ波を照射するか、(2) 得られた混合ゾルを前記基材に塗布し、マイクロ波を照射し、得られたシリカエアロゲル膜にアルカリで処理した後、マイクロ波を照射するか、(3) 得られた混合ゾル中にアルカリを混合し、得られたアルカリ混合ゾルを前記基材に塗布した後、マイクロ波を照射することを特徴とする。
【0012】
本発明の第二の反射防止膜の形成方法は、基材の表面に、単層又は多層の緻密膜と、アルカリ処理したシリカエアロゲル膜とからなる反射防止膜を形成する方法であって、前記基材の表面に無機層、無機微粒子−バインダ複合層及び樹脂層の少なくとも一つからなる単層又は多層の緻密膜を形成した後、溶媒中でアルコキシシランを塩基性触媒により加水分解・重合してアルカリ性ゾルを調製し、これに酸性触媒を添加してさらに加水分解・重合することにより第一の酸性ゾルを調製し、溶媒中でアルコキシシランを酸性触媒により加水分解・重合して第二の酸性ゾルを調製し、前記第一及び第二の酸性ゾルを混合し、(1) 得られた混合ゾルを前記単層又は多層の緻密膜に塗布し、得られた塗布膜にアルカリで処理した後、マイクロ波を照射するか、(2) 得られた混合ゾルを前記単層又は多層の緻密膜に塗布し、マイクロ波を照射し、得られたシリカエアロゲル膜にアルカリで処理した後、マイクロ波を照射するか、(3) 得られた混合ゾル中にアルカリを混合し、得られたアルカリ混合ゾルを前記単層又は多層の緻密膜に塗布した後、マイクロ波を照射することを特徴とする。
【0013】
塗布膜又はシリカエアロゲル膜にアルカリで処理する場合、前記アルカリ処理として、上記方法(1) において、前記塗布膜、無機アルカリ、無機アルカリ塩、有機アルカリ及び有機酸アルカリ塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のアルカリ溶液を塗布するか、アンモニアガスを接触させる処理を行うか、上記方法(2) において、前記シリカエアロゲル膜に、無機アルカリ、無機アルカリ塩、有機アルカリ及び有機酸アルカリ塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のアルカリ溶液を塗布するか、アンモニアガスを接触させる処理を行うのが好ましい。前記アルカリ溶液の濃度を1×10-4〜20Nにするのが好ましい。また混合ゾル中にアルカリを混合する場合、上記方法(3) において、前記混合ゾル中に無機アルカリ、無機アルカリ塩、有機アルカリ及び有機酸アルカリ塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のアルカリを混合させる処理を行うのが好ましい。
【0014】
前記マイクロ波照射は150〜1900 Wの出力で20秒〜10分行うのが好ましい。
【0015】
前記第一の酸性ゾルを調製するアルコキシシランとしてテトラアルコキシシラン又はそのオリゴマーを用いるのが好ましい。前記塩基性触媒としてアンモニアを用いるのが好ましい。前記溶媒としてメタノールを用いるのが好ましい。
【0016】
前記第二の酸性ゾルを調製するアルコキシシランとしてメチルトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン及びこれらのオリゴマーからなる群から選ばれた少なくとも一種を用いるのが好ましい。前記第二の酸性ゾルを調製する酸性触媒として塩酸を用いるのが好ましい。前記溶媒としてメタノール及び/又はエタノールを用いるのが好ましい。
【0017】
一層優れた耐擦傷性を得るために、前記混合ゾルの第一の酸性ゾルと第二の酸性ゾルとの固形分質量比を5〜90にするのが好ましい。前記混合ゾルの第一の酸性ゾルと第二の酸性ゾルとのメジアン径比を5〜50にするのが好ましい。前記アルカリ処理したシリカエアロゲル膜の物理膜厚を15〜500 nmにするのが好ましい。
【0018】
本発明の光学素子の製造方法は、上記方法によ反射防止膜光学基材の表面に形成することを特徴とする。前記光学基材は平板状又はレンズ状であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、溶媒中で塩基性触媒及び酸性触媒をこの順に用いてアルコキシシランを加水分解・重合した第一の酸性ゾルと、溶媒中でアルコキシシランを酸性触媒により比較的短い時間加水分解・重合した第二の酸性ゾルとの混合ゾルを生成し、(1) 得られた混合ゾルを単層又は多層の緻密膜に塗布し、得られた塗布膜にアルカリで処理した後、マイクロ波を照射するか、(2) 得られた混合ゾルを単層又は多層の緻密膜に塗布し、マイクロ波を照射し、得られたシリカエアロゲル膜にアルカリで処理した後、マイクロ波を照射するか、(3) 得られた混合ゾル中にアルカリを混合し、得られたアルカリ混合ゾルを単層又は多層の緻密膜に塗布した後、マイクロ波を照射するので、短時間かつ低温で低屈折率を有するシリカエアロゲル膜を少なくとも有する反射防止膜を形成することができる。かかるシリカエアロゲル膜は、第一の酸性ゾルに由来する比較的大きいシリカ粒子の隙間に、第二の酸性ゾルに由来する比較的小さいシリカ粒子が入り込んだ構造を有し、かつアルカリ処理により未反応シラノール基が縮合してSi-O-Si結合が増加している。そのため本発明の反射防止膜は優れた耐擦傷性を有し、屈折率の経時変化が小さい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】マイクロ波乾燥装置の一例を示す図である。
図2】実施例1の反射防止膜の表面を示す倍率50,000倍のSEM写真である。
図3】実施例2の反射防止膜の表面を示す倍率50,000倍のSEM写真である。
図4】実施例3の反射防止膜の表面を示す倍率50,000倍のSEM写真である。
図5】比較例1の反射防止膜の表面を示す倍率50,000倍のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(1)反射防止膜の形成方法
本発明の反射防止膜の形成方法は、[1](a) 溶媒中でアルコキシシランを塩基性触媒により加水分解・重合してアルカリ性ゾルを調製し、(b) これに酸性触媒を添加してさらに加水分解・重合することにより第一の酸性ゾルを調製し、[2] 溶媒中でアルコキシシランを酸性触媒により加水分解・重合して第二の酸性ゾルを調製し、[3] 第一及び第二の酸性ゾルを混合し、[4](1)(a) 得られた混合ゾルを単層又は多層の緻密膜に塗布し、(b) 得られた塗布膜にアルカリで処理した後、(c) マイクロ波を照射するか、(2)(a) 得られた混合ゾルを単層又は多層の緻密膜に塗布し、(b) マイクロ波を照射し、(c) 得られたシリカエアロゲル膜にアルカリで処理した後、(d) マイクロ波を照射するか、(3)(a) 得られた混合ゾル中にアルカリを混合し、(b) 得られたアルカリ混合ゾルを単層又は多層の緻密膜に塗布した後、(c) マイクロ波を照射する工程を有する。必要に応じて、最終工程のマイクロ波照射の前及び/又は後に、[5] 洗浄工程を設けてもよい。基材上に予め緻密膜を形成し、その上にシリカエアロゲル膜を形成し、多層の反射防止膜を形成してもよい。
【0022】
[1] 第一の酸性ゾルの調製
(a) 塩基性触媒による加水分解・重合
溶媒中でアルコキシシランを塩基性触媒により加水分解・重合してアルカリ性ゾルを調製する。
(i) 原料
アルコキシシランとしてはテトラアルコキシシランが好ましい。3官能以下のアルコキシシランを原料とすると、比較的大きなメジアン径を有するゾルを得るのが困難となる。ただし本発明の効果を阻害しない範囲で、テトラアルコキシシランと、少量の3官能以下のアルコキシシランとを含むアルコキシシランを用いてもよい。テトラアルコキシシランはモノマーでも、オリゴマーでも良い。テトラアルコキシシランモノマーは、式:Si(OR)4により表される。式中のRとしては、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、アセチル基等が挙げられる。
【0023】
テトラアルコキシシランモノマーとして、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジエトキシジメトキシシラン等が挙げられる。中でもテトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランが好ましい。テトラアルコキシシランオリゴマーとしては、上述のモノマーの縮重合物が好ましい。
【0024】
塩基性触媒として、NaOH、KOH、アンモニア及びアミンが挙げられる。好ましいアミンの例としてアルコールアミン及びアルキルアミン(メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、n-プロピルアミン、n-ブチルアミン等)が挙げられる。
【0025】
溶媒としてはアルコールが好ましい。アルコールとしてはメタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール及びブタノールが好ましく、メタノール及びエタノールがより好ましい。
【0026】
(ii) 加水分解・重合
溶媒にアルコキシシランを溶解させる。溶媒/アルコキシシランのモル比は3〜100にするのが好ましい。このモル比を3未満にすると、ゾルの粒径が大きくなり過ぎる。一方100超にすると、ゾルの粒径が小さくなり過ぎる。アルコキシシランの溶液に、塩基性触媒及び水を添加する。塩基性触媒/アルコキシシランのモル比は1×10-4〜1にするのが好ましく、1×10-4〜0.8にするのがより好ましく、3×10-4〜0.5にするのが最も好ましい。このモル比が1×10-4未満であると、アルコキシシランの加水分解反応が十分に起こらない。一方1超としても、触媒効果は増大しない。水/アルコキシシランのモル比は0.1〜5にするのが好ましい。このモル比が5超であると、加水分解反応が速く進行し過ぎる。一方0.1未満であると、アルコキシシランの加水分解が十分に起こらない。
【0027】
アルコキシシランを含むアルカリ性溶液を10時間〜60時間程度エージングする。具体的には、10〜90℃で溶液を静置するか、ゆっくり撹拌する。エージングにより重合が進行し、酸化珪素を含有するゾルが生成する。本明細書中、「酸化珪素を含有するゾル」には酸化珪素からなるコロイド粒子が分散状態になっているもののほか、凝集したコロイド粒子からなるゾルのクラスターが分散状態になっているものも含まれる。
【0028】
(b) 酸性触媒による加水分解・重合
得られたアルカリ性ゾルに、酸性触媒、水及び溶媒を添加し、さらに加水分解・重合して第一の酸性ゾルを調製する。酸性触媒の例として塩酸、硝酸、燐酸、硫酸及び酢酸が挙げられる。溶媒は上記と同じでよい。
【0029】
第一の酸性ゾルにおける溶媒/アルコキシシランのモル比(仕込み比)は上記と同じでよい。酸性触媒/塩基性触媒のモル比(仕込み比)は1.1〜10にするのが好ましく、1.5〜5にするのがより好ましく、2〜4にするのが最も好ましい。このモル比が1.1未満であると、酸性触媒による重合が十分に進行しない。一方10超としても、触媒効果は増大しない。第一の酸性ゾルにおける水/アルコキシシランのモル比(仕込み比)も上記と同じでよい。
【0030】
酸性触媒存在下でゾルを15分〜24時間程度エージングする。具体的には、10〜90℃でゾルを静置するか、ゆっくり撹拌する。エージングによりさらに重合が進行する。
【0031】
(c) ゾルのメジアン径
以上のようにして、溶媒中でアルコキシシランを塩基性触媒及び酸性触媒をこの順に用いて加水分解・重合して得られる第一の酸性ゾルのメジアン径は100 nm以下であり、好ましくは1nm〜50 nmである。メジアン径は、粒子の集合の全体積を100%として累積曲線を求めた時、累積値が50%となる点の粒子径であり、動的光散乱法により求められる(以下同じ)。
【0032】
[2] 第二の酸性ゾルの調製
溶媒中でアルコキシシランを酸性触媒により加水分解・重合して第二の酸性ゾルを調製する。溶媒及び酸性触媒は上記と同じでよい。アルコキシシランとしては、2〜4官能のアルコキシシランが使用できる。テトラアルコキシシランは上記と同じでよい。アルコキシシランはモノマーでも、オリゴマーでも良い。2官能及び3官能のアルコキシシランモノマーは、式:Si(OR1)x(R2)4-xにより表される(ただしxは2又は3である)。式中のR1としては、上記の炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基が好ましい。R2としては、炭素数1〜10の有機基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、tert-オクチル基、n-デシル基、フェニル基、ビニル基、アリル基等の無置換の炭化水素基、及びγ-クロロプロピル基、CF3CH2-基、CF3CH2CH2-基、C2F5CH2CH2-基、C3F7CH2CH2CH2-基、CF3OCH2CH2CH2-基、C2F5OCH2CH2CH2-基、C3F7OCH2CH2CH2-基、(CF3)2CHOCH2CH2CH2-基 、C4F9CH2OCH2CH2CH2-基、3-(パーフルオロシクロヘキシルオキシ)プロピル基、H(CF2)4CH2OCH2CH2CH2-基、H(CF2)4CH2CH2CH2-基、γ-グリシドキシプロピル基、γ-メルカプトプロピル基、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル基、γ-メタクリロイルオキシプロピル基等の置換炭化水素基が挙げられる。
【0033】
2官能のアルコキシシランモノマーとして、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のジメチルジアルコキシシラン等が挙げられる。3官能のアルコキシシランモノマーとして、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等のメチルトリアルコキシシラン;フェニルトリエトキシシラン等のフェニルトリアルコキシシラン等が挙げられる。
【0034】
アルコキシシランとしては、3官能以上のアルコキシシランが好ましく、テトラアルコキシシランがより好ましい。テトラアルコキシシランとしては、メチルトリアルコキシシラン及びテトラアルコキシシランが好ましい。アルコキシシランオリゴマーとしては、上述の2〜4官能のモノマーのいずれか又はこれらの混合物の縮重合物が好ましく、テトラアルコキシシランの縮重合物及び3官能アルコキシシランの縮重合物(シルセスキオキサン)がより好ましい。
【0035】
溶媒にアルコキシシランを溶解させる。溶媒/アルコキシシランのモル比は上記と同じでよい。アルコキシシランの溶液に、酸性触媒及び水を添加する。酸性触媒/アルコキシシランのモル比は、1×10-4〜1にするのが好ましく、1×10-4〜3×10-2にするのがより好ましく、3×10-4〜1×10-2にするのが最も好ましい。水/アルコキシシランのモル比も上記と同じでよい。
【0036】
アルコキシシランを含む酸性溶液を30分〜60時間程度エージングする。具体的には、10〜90℃で溶液を静置するか、ゆっくり撹拌する。エージングにより重合が進行し、酸化珪素を含有するゾルが生成する。エージング時間を60時間超にすると、ゾルのメジアン径が大きくなり過ぎる。
【0037】
以上のようにして得られる第二の酸性ゾルは、比較的小さいメジアン径を有する。具体的には、第二の酸性ゾルのメジアン径は10 nm以下であり、好ましくは1nm〜5nmである。第一の酸性ゾル/第二の酸性ゾルのメジアン径比は5〜50であるのが好ましく、5〜35であるのがより好ましい。この比が10未満又は50超であると、反射防止膜の耐擦傷性が低い。
【0038】
[3] 混合ゾルの調製
上記のようにして得られた第一及び第二の酸性ゾルを混合し、第一及び第二の酸性ゾルの混合物を、1〜30℃で1分〜6時間程度ゆっくり撹拌する。必要に応じて、混合物を30℃超〜80℃以下の温度に加熱しながら撹拌してもよい。
【0039】
本発明では、第一の酸性ゾルに、比較的重合時間の短い第二の酸性ゾルを添加するので、比較的短い合成時間で、低屈折率及び優れた耐擦傷性を有する反射防止膜が得られるゾルを製造することができる。
【0040】
第一の酸性ゾル/第二の酸性ゾルの固形分質量比は5〜90であるのが好ましく、5〜80であるのがより好ましい。この比が5未満又は90超であると、反射防止膜の耐擦傷性が低い。
【0041】
[4] アルカリ処理されたシリカエアロゲル膜の形成
(1) 第一の形成方法
(a) 塗布
混合ゾルを基材の表面に塗布する。混合ゾルの塗布方法として、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法、バーコート法、リバースコート法、フレキソ法、印刷法及びこれらを併用する方法等が挙げられる。中でもスピンコート法及びスプレーコート法は、膜の均一化、膜厚の制御等が容易であるので好ましい。得られるゲル膜の物理膜厚は、例えばスピンコート法における基材回転速度の調整、混合ゾルの濃度の調整等により制御することができる。スピンコート法における基材回転速度は1,000〜15,000 rpm程度にするのが好ましい。
【0042】
混合ゾルの濃度及び流動性が適切な範囲になるように、塗布の前にさらに分散媒として上記溶媒を加えても良い。溶媒に対する酸化珪素の質量比は0.1〜20%にするのが好ましい。この質量比の範囲外だと、均一な薄膜を形成し難いので好ましくない。
【0043】
必要に応じて、混合ゾルを超音波処理してもよい。超音波処理によってコロイド粒子の凝集を少なくすることができる。超音波処理には、超音波振動子を利用した分散装置を使用することができる。照射する超音波の周波数は10〜30 kHzにするのが好ましい。出力は300〜900 Wにするのが好ましい。超音波処理時間は5〜120分間にするのが好ましい。
【0044】
(b) アルカリ処理
得られた塗布膜をアルカリで処理する。これにより耐擦傷性が一層向上する。アルカリとして、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の無機アルカリ;、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等の無機アルカリ塩;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n-プロピルアミン、ジ-n-プロピルアミン、n-ブチルアミン、ジ-n-ブチルアミン、n-アミルアミン、n-ヘキシルアミン、ラウリルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、アニリン、メチルアニリン、エチルアニリン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ピロリジン、ピリジン、イミダゾール、グアニジン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、コリン等の有機アルカリ;蟻酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、蟻酸モノメチルアミン、酢酸ジメチルアミン、酢酸アニリン、乳酸ピリジン、グアニジノ酢酸等の有機酸アルカリ塩等を用いることができる。
【0045】
アルカリ処理は、上記アルカリの溶液を用いて行うのが好ましい。溶媒はアルカリに応じて適宜選択すればよい。溶媒として、水、アルコール等が挙げられる。アルカリ溶液の濃度は、1×10-4〜20Nが好ましく、1×10-3〜15Nがより好ましい。
【0046】
アルカリ溶液をシリカエアロゲル膜に塗布する。アルカリ溶液は、シリカエアロゲル膜1cm2当たり10〜200 mL塗布するのが好ましい。塗布方法は上記と同じでよいが、スピンコート法が好ましい。スピンコート法における基材回転速度は、例えば1,000〜15,000 rpm程度にするのが好ましい。
【0047】
アルカリ溶液によるシリカエアロゲル膜の処理温度は、1〜40℃が好ましく、10〜30℃がより好ましい。アルカリ溶液によるシリカエアロゲル膜の処理時間は、0.1〜10時間が好ましく、0.2〜1時間がより好ましい。
【0048】
シリカエアロゲル膜をアンモニアで処理する場合、アンモニアガスをシリカエアロゲル膜に接触させてもよい。アンモニアガスの圧力は1×10-1〜1×105Paとするのが好ましい。アンモニアガスによるシリカエアロゲル膜の処理温度は、1〜40℃が好ましく、10〜30℃がより好ましい。アンモニアガスによるシリカエアロゲル膜の処理時間は、1〜170時間が好ましく、5〜80時間がより好ましい。
【0049】
(c) マイクロ波照射
アルカリ処理した塗布膜にマイクロ波を照射させることにより、塗布した混合ゾル及びアルカリ溶液から溶媒を乾燥させ、アルカリ処理されたシリカエアロゲル膜を形成する。マイクロ波を塗布膜に照射することにより、短時間で塗布膜を乾燥させることができる。マイクロ波照射による乾燥は乾燥収縮が生じにくいため、得られるシリカエアロゲル膜の低屈折率を維持することができる上に、熱クラックが生じない。またマイクロ波照射により乾燥を行うことにより、シリカエアロゲル膜が形成されている基材自体の温度上昇が抑えられるため、基材として融点の低い樹脂レンズや樹脂−ガラスハイブリッドレンズ等も用いることができる。
【0050】
マイクロ波照射の方法は特に限定されないが、従来のマイクロ波加熱装置を用いて行うことができる。マイクロ波照射の一例を図1に示すマイクロ波加熱装置を用いて以下説明する。
【0051】
図1に示すマイクロ波加熱装置は、マイクロ波加熱炉11と、加熱炉11内に設けられ、アルカリ処理した塗布膜が設けられた基材Aを載せて回転させるターンテーブル12と、モータを備え、ターンテーブル12を駆動させるテーブル駆動部13と、マイクロ波発振器14と、マイクロ波発振器14と加熱炉11とを連結する導波管15と、加熱炉11の底面接続した真空ポンプ16と、マイクロ波加熱炉11の側部に配設したブレーク弁17及び気圧センサ18とを有する。
【0052】
マイクロ波発振器14から発振された周波数2.45 GHzのマイクロ波は、導波管15を伝播して加熱炉11内のターンテーブル12上に裁置された基材Aに投射される。その際、ターンテーブル12上を回転させることにより、基材A上の塗布膜を均一に乾燥させることができる。
【0053】
マイクロ波出力は150〜1900Wであるのが好ましい。マイクロ波出力がこの範囲であると膜形成が可能である。より好ましいマイクロ波出力は500〜1400Wである。マイクロ波照射時間は20秒〜10分であるのが好ましい。マイクロ波照射時間がこの範囲であると膜形成が可能である。より好ましいマイクロ波照射時間は1〜5分である。加熱炉11にスチーム導入口(図示せず)を設けて、マイクロ波を照射させる際に加熱炉11内にスチームを導入しても良い。それにより得られるシリカエアロゲル膜の硬さが増大する。
【0054】
マイクロ波を照射させる際、加熱炉11内は大気圧でも良いが、真空ポンプ16を動作させて加熱炉11内を所定の気圧まで減圧しても良い。気圧は気圧センサ18の働きによりブレーク弁17を動作させ所定の気圧になるように調節する。
【0055】
マイクロ波を照射させる際、加熱炉11内を加熱ヒータ(図示せず)により加熱しても良い。マイクロ波照射と加熱を組み合わせることにより、塗布膜をより短時間で乾燥させることができる。
【0056】
(2) 第二の形成方法
(a) 塗布
混合ゾルを基材の表面に塗布する。混合ゾルの塗布方法は第一の形成方法と同じで良い。
【0057】
(b) マイクロ波照射
得られた塗布膜にマイクロ波を照射させることにより、塗布した混合ゾル及びアルカリ溶液から溶媒を乾燥させ、シリカエアロゲル膜を形成する。マイクロ波照射の方法は第一の形成方法と同じで良い。アルカリ処理を行う前にマイクロ波照射により塗布膜の乾燥を行うことにより、アルカリ処理により塗布膜が破損したり、得られるシリカエアロゲル膜の屈折率が低下したりするのを防止できる。
【0058】
(c) アルカリ処理
得られたシリカエアロゲル膜をアルカリで処理する。アルカリ処理の方法は第一の形成方法と同じで良い。
【0059】
(d) マイクロ波照射
アルカリ処理したシリカエアロゲル膜にマイクロ波を照射させることにより、塗布したアルカリ溶液の溶媒を乾燥させ、アルカリ処理されたシリカエアロゲル膜を形成する。マイクロ波照射の方法は第一の形成方法と同じで良い。
【0060】
(3) 第三の形成方法
(a) アルカリ混合
得られた混合ゾル中にアルカリを混合し、アルカリ混合ゾルを調製する。混合するアルカリは、第一の形成方法のアルカリ処理に用いたアルカリと同じもので良い。混合ゾル中のアルカリ濃度は1×10-4〜10質量%であるのが好ましく、1×10-3〜5×10-1質量%であるのがより好ましい。アルカリの混合方法は特に限定されないが、上記アルカリの溶液を混合ゾル中に添加した後、撹拌することにより行うことができる。アルカリ溶液の濃度は、1×10-4〜20Nが好ましく、1×10-3〜15Nがより好ましい。
【0061】
(b) 塗布
アルカリ混合ゾルを基材の表面に塗布する。アルカリ混合ゾルの塗布方法は第一の形成方法と同じで良い。
【0062】
(c) マイクロ波照射
塗布膜にマイクロ波を照射させることにより、塗布膜から溶媒を乾燥させ、アルカリ処理されたシリカエアロゲル膜を形成する。マイクロ波照射の方法は第一の形成方法と同じで良い。
【0063】
[4] 洗浄
必要に応じて、最終工程のマイクロ波照射の前及び/又は後に、アルカリ処理シリカエアロゲル膜を洗浄してもよい。洗浄は、水に浸漬する方法、水をシャワーする方法、又はこれらの組合せにより行うことができる。水に浸漬する場合、超音波処理してもよい。洗浄温度は、1〜40℃の範囲が好ましい。洗浄時間は0.2〜15分が好ましい。水はアルカリ処理シリカエアロゲル膜1cm2当たり0.01〜1,000 mL使用するのが好ましい。乾燥後に洗浄する場合、上記条件で再び乾燥する。
【0064】
[5] 緻密膜の形成
基材上に予め緻密膜を形成し、その上に上記シリカエアロゲル膜を形成した後、アルカリで処理して多層の反射防止膜を形成してもよい。緻密膜は、金属酸化物等の無機材料からなる層(「無機層」と言う)、無機微粒子とバインダからなる複合層(「無機微粒子−バインダ複合層」又は単に「複合層」と言う)、又は樹脂からなる層のいずれでも良い。緻密膜の材料は、基材の屈折率より小さく、アルカリ処理シリカエアロゲル膜の屈折率より大きな屈折率を有するものの中から選択する。
【0065】
無機層に使用可能な無機材料の例としてフッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化アルミニウム、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化セリウム、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、クライオライト、チオライト、酸化チタン、酸化セリウム、窒化珪素及びこれらの混合物が挙げられる。
【0066】
複合層に使用可能な無機微粒子の例として、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化セリウム、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、クライオライト、チオライト、酸化チタン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化セリウム、酸化ハフニウム及び酸化亜鉛からなる群から選ばれた少なくとも一種の無機物の微粒子が挙げられる。酸化珪素は好ましくはコロイダルシリカであり、コロイダルシリカはシランカップリング剤等により表面処理しても良い。無機微粒子−バインダ複合層の屈折率は、無機微粒子の組成や含有率の他、バインダの組成に依存する。
【0067】
樹脂層の例として、フッ素樹脂層、エポキシ樹脂層、アクリル樹脂層、シリコーン樹脂層及びウレタン樹脂層が挙げられる。フッ素樹脂には、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、パーフルオロエチレンプロピレン共重合体、パーフルオロアルコキシ樹脂、ポリビニリデンフルオライド、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン等の結晶性フッ素樹脂と、フルオロオレフィン共重合体、含フッ素脂肪族環構造を有する重合体、フッ素化アクリレート共重合体等の非結晶性フッ素樹脂とがあるが、非結晶性フッ素樹脂の方が優れた透明度を有するので好ましい。フルオロオレフィン系の共重合体の好ましい例として、37〜48質量%のテトラフルオロエチレンと、15〜35質量%のビニリデンフルオライドと、26〜44質量%のヘキサフルオロプロピレンとが共重合したものが挙げられる。含フッ素脂肪族環構造を有する重合体には、含フッ素脂肪族環構造を有するモノマーが重合したものや、少なくとも二つの重合性二重結合を有する含フッ素モノマーを環化重合したものがある。
【0068】
緻密膜は多層であってもよい。多層の緻密膜は、上記無機層、複合層及び樹脂層のいずれかにより形成することができる。無機層を積層することにより多層の緻密膜を形成する場合、材料として例えばフッ化マグネシウム、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化セリウム、窒化珪素等を用いることができる。
【0069】
無機材料のみからなる層は真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法、熱CVD、プラズマCVD、光CVD等の化学蒸着法等により形成することができるが、真空蒸着法が好ましい。無機微粒子−バインダ複合層はディップコート法、スピンコート法、スプレー法、ロールコティング法、スクリーン印刷法等の湿式の方法で形成することができるが、ディップコート法が好ましい。樹脂層は化学蒸着法や湿式法で形成可能である。これらの方法のうち、蒸着法により無機層を作製する方法、及びディップコート法により無機微粒子−バインダ複合層及びフッ素樹脂層を作製する方法が、例えば特開2006-215542号に記載されている。
【0070】
(2)反射防止膜
上記形成方法により得られる反射防止膜はアルカリ処理シリカエアロゲル膜からなるか、アルカリ処理シリカエアロゲル膜と単層又は多層の緻密膜との多層膜からなる。アルカリ処理シリカエアロゲル膜の物理膜厚は15〜500 nmが好ましく、70〜170 nmがより好ましい。アルカリ処理シリカエアロゲル膜の物理膜厚は混合ゾルの濃度や、塗布の回数等によって適宜調製できる。
【0071】
アルカリ処理シリカエアロゲル膜は、ナノメートルサイズの微細孔を均一に有する多孔質膜であり、Si-O結合を有する骨格からなる。そのようなアルカリ処理シリカエアロゲル膜は高い透明性を有する。アルカリ処理シリカエアロゲル膜の屈折率は空隙率に依存し、大きな空隙率を有するものほど屈折率が小さい。アルカリ処理シリカエアロゲル膜の空隙率は30〜90%であるのが好ましい。30〜90%の空隙率を有するアルカリ処理シリカエアロゲル膜の屈折率は、通常1.05〜1.35である。例えば空隙率78%のアルカリ処理シリカエアロゲル膜の屈折率は約1.1である。空隙率90%超であると、機械的強度が小さすぎる。空隙率30%未満であると、屈折率が大きすぎる。ここで屈折率はレンズ反射率測定機を用いて測定する。
【0072】
アルカリ処理シリカエアロゲル膜は、第一の酸性ゾルに由来する比較的大きいメジアン径を有するシリカ粒子の隙間に、第二の酸性ゾルに由来する比較的小さいメジアン径を有するシリカ粒子が入り込んだ構造を有し、かつアルカリ処理によりシリカエアロゲル膜の未反応シラノール基が縮合してSi-O-Si結合が増加している。そのため優れた耐擦傷性を有する。
【0073】
反射防止膜が、アルカリ処理シリカエアロゲル膜と単層の緻密膜との二層膜からなる場合、屈折率は基材から緻密膜、アルカリ処理シリカエアロゲル膜及び入射媒質の順に小さくなっているのが好ましい。緻密膜及びアルカリ処理シリカエアロゲル膜の光学膜厚d1及びd2は設計波長λdに対してλd/5〜λd/3の範囲であるのが好ましい。光学膜厚は膜の屈折率と物理膜厚との積である。また薄膜の構成を決定する際に用いる設計波長λdは、光学素子に使用する波長に応じて適宜設定し得るが、例えば可視域[CIE(国際照明委員会)の定義による380〜780 nmの波長域]のほぼ中心波長であるのが好ましい。
【0074】
屈折率が基材から順に小さくなるように設けた緻密膜及びアルカリ処理シリカエアロゲル膜の二層からなる反射防止膜において、緻密膜及びアルカリ処理シリカエアロゲル膜の光学膜厚d1及びd2の合計を設計波長λdに対してλd/5〜λd/3の範囲にすると、反射防止膜の光学膜厚(d1+d2)は2λd/5〜2λd/3の範囲となり、基材から入射媒質にかけての光学膜厚に対する屈折率の変化は、滑らかな階段状となる。反射防止膜の光学膜厚が2λd/5〜2λd/3の範囲であると、反射防止膜表面での反射光と、反射防止膜と基材の境界での反射光との光路差が設計波長λdのほぼ1/2となるので、これらの光線が干渉により打ち消し合う。基材から入射媒質にかけての光学膜厚に対する屈折率の変化を滑らかな階段状にすると、各層の境界において起こる入射光の反射を広い波長域で低減できる。さらに各層の界面で生じる反射光は、各層に入射する光線と干渉することによって相殺し合う。したがって、反射防止膜は広い波長域及び広い入射角範囲の光線に対して優れた反射防止効果を示す。緻密膜及びアルカリ処理シリカエアロゲル膜の光学膜厚がλd/5〜λd/3の範囲でないと、基材から入射媒質にかけての光学膜厚に対する屈折率の変化が滑らかでない。このため、緻密膜及びアルカリ処理シリカエアロゲル膜の界面における反射率が大きくなってしまう。緻密膜及びアルカリ処理シリカエアロゲル膜の光学膜厚は設計波長λdに対して各々λd/4.5〜λd/3.5であるのがより好ましい。
【0075】
基材と緻密膜との間、緻密膜とアルカリ処理シリカエアロゲル膜との間、及びアルカリ処理シリカエアロゲル膜と入射媒質との間の屈折率差はそれぞれ0.02〜0.4であるのが好ましく、これにより光学膜厚に対する屈折率の変化を直線に概略近似できる程度の滑らかさのものとすることができる。したがって反射防止膜の反射防止効果が一層向上する。
【0076】
反射防止膜が、アルカリ処理シリカエアロゲル膜と多層の緻密膜からなる場合、多層の緻密膜は、各界面で生じた反射光と、各層に入射する光線とが干渉によって相殺し合うように設計されているのが好ましい。具体的には、屈折率の異なる複数の膜を適宜組合せることにより、反射防止効率をより高めることが可能である。
【0077】
(3)光学素子
本発明の光学素子は、光学基材の表面に上記反射防止膜を有する。光学基材の材料は、ガラス、結晶性材料及びプラスチックのいずれでも良い。光学基材の材料の具体例として、BK7、LASF01、LASF016、LaFK55、LAK14、SF5等の光学ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、石英、青板ガラス、白板ガラス、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、鎖状又は環状のポリオレフィン等が挙げられる。これらの材料の屈折率は1.45〜1.85の範囲内である。光学基材の形状としては、平板状、レンズ状、プリズム状、ライトガイド状、フィルム状、回折素子状等が挙げられる。
【実施例】
【0078】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0079】
実施例1
(1) 第一の酸性ゾルの調製
(a) 塩基性触媒による加水分解・重合
テトラエトキシシラン17.05 gとメタノール69.13 gとを混合した後、アンモニア水(3N)3.88 gを加えて室温で15時間撹拌し、アルカリ性ゾルを調製した。
【0080】
(b) 酸性触媒による加水分解・重合
アルカリ性ゾル40.01 gに、メタノール2.50 gと塩酸(12 N)1.71 gとを添加して室温で30分間撹拌し、第一の酸性ゾル(固形分:4.94質量%)を調製した。
【0081】
(2) 第二の酸性ゾルの調製
室温でテトラエトキシシラン30 mLと、エタノール30 mLと、水2.4 mLとを混合した後、塩酸(1N)0.1 mLを加え、60℃で90分間撹拌し、第二の酸性ゾル(固形分:14.8質量%)を調製した。
【0082】
(3) メジアン径の測定
動的光散乱式粒径分布測定装置LB-550(株式会社堀場製作所製)を使用し、第一及び第二の酸性ゾルのメジアン径を動的光散乱法により測定した。第一及び第二の酸性ゾルのメジアン径はそれぞれ16.0 nm及び1.8 nmであった。
【0083】
(4) 混合ゾルの調製
第一の酸性ゾルの全量に、第二の酸性ゾル0.22 gを添加し(第一の酸性ゾル/第二の酸性ゾルの固形分質量比:67.1)、室温で5分間攪拌して混合ゾルを調製した。混合ゾルの調製条件を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
注:(1) TEOSはテトラエトキシシランを表す。
(2) 3N。
(3) 12 N。
(4) 1N。
(5) 第一の酸性ゾル/第二の酸性ゾルの固形分質量比。
(6) 第一の酸性ゾル/第二の酸性ゾルのメジアン径比。
【0086】
(5) 多層緻密膜の形成
LASF01ガラス平板(φ30 mm、屈折率1.79)に、表2に示す構成になるように、電子ビーム式の蒸着源を有する装置を用いて、真空蒸着法により六層の緻密膜を形成した。物理膜厚及び屈折率の測定には、レンズ反射率測定機(型番:USPM-RU、オリンパス株式会社製)を使用した(以下同じ)。
【0087】
【表2】
【0088】
(6) アルカリ処理された塗布膜の形成
六層緻密膜上に混合ゾルをスピンコートし、得られた塗布膜の上に0.001 Nの水酸化ナトリウム水溶液400 mLをスピンコートした。
【0089】
(7) マイクロ波照射
塗布膜が設けられたガラス平板を図1に示すマイクロ波加熱装置のターンテーブル12に裁置し、常温・大気圧下で出力500 Wのマイクロ波を1分間照射し、反射防止膜を形成した。
【0090】
実施例2
工程(1)〜(5) まで実施例1と同様に行った。
【0091】
(6) シリカエアロゲル膜の形成
六層緻密膜上に混合ゾルをスピンコートし、実施例1と同様の条件で1分間マイクロ波照射し、シリカエアロゲル膜を形成した。
【0092】
(7) アルカリ処理
シリカエアロゲル膜上に、0.001 Nの水酸化ナトリウム水溶液400 mLをスピンコートし、実施例1と同様の条件で1分間マイクロ波照射し、反射防止膜を形成した。
【0093】
実施例3
工程(1)〜(5) まで実施例1と同様に行った。
【0094】
(6) アルカリ混合ゾルの作成
0.5質量%のナトリウムメトキシドメタノール溶液(0.0476N)を混合ゾル液中に濃度が0.05質量%になるまで滴下し、5分程度撹拌し、アルカリ混合ゾルを作成した。
【0095】
(7) シリカエアロゲル膜の形成
六層緻密膜上にアルカリ混合ゾルをスピンコートし、実施例1と同様の条件で1分間マイクロ波照射し、反射防止膜を形成した。
【0096】
比較例1
工程(1)〜(5) まで実施例1と同様に行った。
【0097】
(6) シリカエアロゲル膜の形成
六層緻密膜上に混合ゾルをスピンコートし、80℃で30分間及び160℃で30分間熱処理し、シリカエアロゲル膜を形成した。
【0098】
(7) アルカリ処理
シリカエアロゲル膜上に、0.001 Nの水酸化ナトリウム水溶液400 mLをスピンコートし、室温で30分間放置した後、120℃で30分間乾燥して反射防止膜を形成した。
【0099】
シリカエアロゲル膜の屈折率の評価
実施例1〜3及び比較例1の反射防止膜について、六層緻密膜と同様に物理膜厚及び屈折率を測定した。得られた結果を表3に示す。
【0100】
耐擦傷性の評価
実施例1〜3及び比較例1の反射防止膜について、1kg/cm2の圧力及び120回/分の速度で不織布(商品名「スピックレンズワイパー」、小津産業株式会社製)で10回擦る処理を施した後、表面の様子を観察し、下記基準により耐擦傷性を評価した。得られた結果を表3に示す。
○:全く傷が付かなかった。
△:少し傷が付いたが剥離しなかった。
×:剥離した。
【0101】
【表3】
【0102】
表3から明らかなように、実施例1〜3及び比較例1の反射防止膜はいずれも低屈折率を有し、耐擦傷性に優れていた。このようにマイクロ波照射によりシリカエアロゲル膜を乾燥した実施例1〜3の反射防止膜は、熱処理によりシリカエアロゲル膜を乾燥した比較例1の反射防止膜と比べて、遜色のない特性が得られることが分かった。
【0103】
外観評価
実施例1〜3及び比較例1の反射防止膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により倍率50,000倍で撮影を行った。得られたSEM写真を図2〜5に示す。図2〜5に示すように、マイクロ波照射によりシリカエアロゲル膜を乾燥した実施例1〜3の反射防止膜は、熱処理によりシリカエアロゲル膜を乾燥した比較例1の反射防止膜と比べて、遜色のない外観を有していた。
【0104】
比較例1では混合ゾルの塗布後に1時間熱処理し、アルカリ溶液の塗布後に30分間熱処理することにより乾燥を行っている。さらに熱処理後に15分程度の放冷が必要なため、乾燥工程は合計で2時間程度かかる。それに対し、実施例1では混合ゾルの塗布後とアルカリ溶液の塗布後にそれぞれ1分間(計2分間)マイクロ波照射することにより乾燥を行っており、実施例2及び3では混合ゾル又はアルカリ混合ゾルの塗布後に1分間マイクロ波照射することにより乾燥を行っている。すなわち、比較例1では乾燥工程は2時間程度かかるが、本発明の実施例1〜3では乾燥工程を数分のマイクロ波照射により行っており、短時間かつ低温で、低屈折率及び優れた耐擦傷性及び外観を有するシリカエアロゲル膜を形成することができることが分かった。
【符号の説明】
【0105】
11・・・マイクロ波加熱炉
12・・・ターンテーブル
13・・・テーブル駆動部
14・・・マイクロ波発振器
15・・・導波管
16・・・真空ポンプ
17・・・ブレーク弁
18・・・気圧センサ
図1
図2
図3
図4
図5