(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。尚、各図面において、実質的に同一又は等価な構成要素又は部分には同一の参照符号を付している。
【0018】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態に係るレーザレーダ装置について説明する。
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係るレーザレーダ装置100は、レーザ信号を出力する、波長が可変な信号発振器10と、信号発振器10のレーザ信号を分岐する方向性結合器12と、方向性結合器12からのレーザ信号が送信波として透過するレンズ14、ターゲットで反射したレーザ信号が受信波として透過するレンズ18と、受信波と方向性結合器12からのレーザ信号を合成するハーフミラー22と、合成された信号の波長差であるビート信号を電気信号に変換するフォトダイオード24と、フォトダイオード24で変換された電気信号をAD変換するAD変換器26と、AD変換された信号を解析し、信号発振器10を制御する制御部28とで構成される。
【0019】
なお、方位検出を行いたい場合は、送信側及び受信側の少なくとも一方にフェーズドアレイアンテナを設置し、アレイ間の位相を変化させることで、光を送受する方向を制御することができる。この場合、方向性結合器12からのレーザ信号と受信したレーザ信号を方向性結合器(図示省略)で合波させ、フォトダイオード24に入力する方法がある。
【0020】
また、信号発振器10、方向性結合器12と、レンズ14、18と、ハーフミラー22と、フォトダイオード24と、AD変換器26とが、センサの一例である。
【0021】
(送信信号)
レーザレーダ装置100はFMCW方式を採用しており、送信するレーザ信号の周波数は
図2に示すように、中心周波数をf
0、変調帯域をΔFとして、時間T[sec]の間に線形的に周波数が上昇する区画(Up)と周波数が下降する区画(Down)の2種類の送信パターンのどちらか一方、もしくは両方を繰り返す。本実施の形態では、信号発振器10は、Downの送信パターンを時間T[sec]で繰り返し出力することとする。本実施の形態では、信号発振器10は、レーザ発振素子で構成されている。
【0022】
(受信信号)
前方にターゲットが存在する場合、ターゲットによって送信波が反射され、その反射波を受信する。このときにターゲットとレーザレーダ装置100間の距離をRとすると、レーザレーダ装置100が送信したレーザ信号は2R/c[sec]の遅延で受信される。レーザレーダ装置100が送信する送信信号の周波数と受信する受信信号の周波数の差は、
【0023】
【数1】
[Hz]
となり、ハーフミラー22及びフォトダイオード24により、これをビート信号として検出する。このビート信号をAD変換器26にてデジタル信号としてサンプリングし、制御部28内に取り込む。
【0024】
(信号処理)
制御部28は、取り組んだビート信号より、送信信号が線形的に変調されているか判別し、送信信号の周波数変調特性が非線形と判別された場合は自動で補正する。
図3に示すように、制御部28は、区画周波数解析部40、ずれ判定部44、第1補正部46、第2補正部48、周波数発振制御部50、及び測定部52を備えている。
【0025】
ここで、送信信号の周波数変調特性を判別する原理について説明する。
【0026】
(測定環境)
まず、測定環境について説明する。送信信号の線形性を評価する際は、相対速度0のターゲットが一つの状況である必要がある。ターゲットが複数存在するとターゲットの数に応じてビート信号に含まれる周波数が増えてしまう。また、相対速度が生じると、一つの周期内でビート信号のドップラ周波数成分が変化してしまう。このような状況では、周波数変調特性の線形性評価が難しくなるため、本実施の形態では、相対速度0のターゲットが一つの状況であることを前提する。
【0027】
(区画毎のずれ・線形性の判断)
本実施の形態での周波数変調特性の線形性評価では、取得したDownの送信パターンに対応するビート信号の時系列を、
図4に示すように、あらかじめ決めた区画数に等分割する。ただし、Downの送信パターンの時間をTとする。等分割された両端を除く各区画毎にビート信号の周波数解析を行い、各区画の平均周波数を算出する。両端の区画では周波数が不連続に変化したり、急激に周波数が変化しており、信号発振器10が安定していないことがあるため、両端の区画を解析対象から除外する。なお、以降では、全区画と述べる場合は両端を除いた全区画を表す。
【0028】
Downの送信パターンに対応するビート信号全体における平均周波数と、各区画での平均周波数との差d21を求める。差d21の絶対値が全区画にわたり、予め定められた閾値r22以下である場合はビート信号の周波数変動が少なく、送信信号の周波数変調特性が線形であると判断し、補正が必要ではないと判断する。差d21の絶対値が全区画のいずれかであらかじめ決めた閾値r22より大きい場合は送信信号の周波数変調特性が非線形状態にあると判断し、補正が必要であると判断する。
【0029】
(前半・後半のずれ)
また、補正が必要と判断された場合、次に全区画を前半と後半の2区画にまとめ、2区画それぞれで平均周波数を算出する。2区画それぞれでの平均周波数とビート信号全体の平均周波数との差d23を求める。差d23の絶対値が前半と後半両方であらかじめ決めた閾値r24以下である場合は送信信号の周波数変調特性の線形性はある程度確保されており、微調整のみが必要と判断する。差d23の絶対値が前半及び後半の少なくとも一方であらかじめ決めた閾値r24より大きい場合は送信信号の周波数変調特性の線形性が大きく崩れていると判断する。
【0030】
以上説明した原理に従って、本実施の形態では、区画周波数解析部40は、取得したビート信号の時系列のうち、Downの送信パターンに対応するビート信号の時系列を複数区画に分けて、各区画のビート信号に対して周波数解析を行って、各区画の平均周波数を算出する。また、全区画を前半と後半の2区画にまとめ、2区画それぞれで、当該区画の平均周波数を算出する。
【0031】
ずれ判定部44は、区画周波数解析部40で算出した各区画の平均周波数に基づいて、各区画について、当該区画の平均周波数と全区画の平均周波数との差d21を算出し、少なくとも1つの区画において、当該区画の差d21の絶対値が、予め定められた閾値r22より大きい場合には、補正が必要であると判定する。一方、全区画において、当該区画の差d21の絶対値が、予め定められた閾値r22以下である場合には、補正が必要でないと判定する
【0032】
また、ずれ判定部44は、補正が必要であると判定した場合、全区画を前半と後半にまとめた2区画それぞれで、当該区画の平均周波数と全区画の平均周波数との差d23を算出し、2区画の少なくとも一方の区画において、当該区画の差d23の絶対値が、予め定められた閾値r24より大きい場合には、送信信号の周波数変調特性の線形性が大きく崩れていると判断する。一方、2区画それぞれで、当該区画の差d23の絶対値が、予め定められた閾値r24以下である場合には、微調整のみが必要と判断する。
【0033】
(線形性が崩れる原因)
ここで、線形性が崩れる原因について説明する。線形性が崩れる最も大きな要因は信号発振器10自身が駆動することによる発熱や周囲温度上昇などが考えられる。さらに、信号発振器10がレーザ発振素子の場合、波長変調は素子内の温度で制御することが多い。波長を長くする場合(周波数を低下させる場合)は流す電流の量で温度を下げ、波長を短くする場合(周波数を上昇させる場合)は温度を上げる。上記
図2の周期Tを短くすると、波長を変化させるための温度変動制御が間に合わず、波長が線形的に変化しなかったり、所望の波長変動範囲が得られないことがある。特に、温度上昇と比較して温度低下では素子が冷める時間を要するため、波長を短くするときと長くするときの特性が異なる。
【0034】
例として、周波数を低下させるために素子の温度を下げる際、素子内に電流を流すために印加する電圧を線形的に変化させると、最初は温度が低下しにくいため、周波数は緩やかに低下する。
図5に、このときの送受信信号の周波数、制御電圧、及びビート信号の周波数の時間特性を示す。ターゲットから反射して受信される受信信号は距離に比例して遅延した送信信号のため、ビート信号は
図5(A)の送信信号と受信信号の差に相当する。このビート信号の周波数特性は経時的に変化しており、複数の周波数成分が混在しているため、FFT処理しても急峻なピークが得られず、測定精度が低下してしまう。
【0035】
(前半・後半での補正)
図5(A)のような場合、前半は緩やかに変動する周波数をより早く変動させるために、制御電圧を大きく変化させる(傾き大にする)必要がある。一方、後半はビート周波数が高くなってしまうため、周波数の変動が緩やかになるよう制御電圧を変化させる(傾き小にする)必要がある。制御電圧の始端と終端は、素子の許容範囲や変調させたい帯域により決まっているため、補正された制御電圧特性は
図6に示すような弓状の曲線になる。なお、この例では電圧を上げると周波数が下がる素子で説明しているが、異なる特性をもつ素子の場合、弓状の凸の向きが異なる場合がある。さらに、以降の説明で用いる正負の符号が逆になる場合がある。用いる素子の特性に応じて符号を変える必要がある。
【0036】
第1補正部46は、両端の電圧の2点、前後半の2区画からそれぞれ1点、そして全区画の中点の1点からなる合計5点の電圧から、上述した弓状の曲線を3次関数近似し、補正用の制御電圧特性を大雑把に算出する。
【0037】
具体的には、第1補正部46は、まず、前後半の2区画の電圧値を決めるために、2区画それぞれにおいて、区画の差d23の絶対値が、予め定められた閾値th32のN倍(Nは整数)であることを算出する。そして、2区画それぞれにおいて、この倍数Nに、予め定められた電圧v32を乗じる。
【0038】
次に、凸の向きを決めて、正負を付加する。例えば、前半の差d23が負で後半の差d23が正の場合は、
図5(C)に示す周波数特性が得られているため、さきほど述べたように上向きに凸がある補正曲線を作る必要がある。このため、正負を付加するために、電圧v32を乗じた値に、前半は-1, 後半は+1を乗じ、計算後の電圧が正になるようにする。
【0039】
一方、前半の差d23が正で後半の差d23が負の場合は
図7(B)に示す周波数特性が得られる。この場合は前半の電圧は緩やかに、後半は大きく変化させる必要があるため、下向きに凸がある補正曲線を作る必要がある。このときも、電圧v32を乗じた値に、前半は-1、後半は+1を乗じ、計算後の電圧が負になるようにする。なお、Upの送信パターンに対応する制御電圧特性を補正する場合は、電圧v32を乗じた値に、前半は-1、後半は-1を乗じるようにすればよい。
【0040】
そして、2区画それぞれにおいて、当該区画内における、特定の時刻に対応する周波数を変調させるための制御電圧値に、正負が付加された、電圧v32を乗じた値を加える。例えば、 前後半で算出された符号付きの電圧値を、それぞれ前後半におけるあらかじめ定めた時刻(前半の開始点+Δ1、後半の終了点-Δ2)における制御電圧に加え、これをその時刻における近似用制御電圧値とする。
図8に近似用制御電圧値と時刻の関係を示す。前後半におけるあらかじめ定めた時刻は両端に近ければ近いほど急激な電圧の立ち上がり、または立下りが得られる。
【0041】
更に、2区画それぞれにおいて算出された近似用制御電圧値の平均値に、予め定められた係数を乗じて制御電圧特性全体の中央値とする。例えば、1周期の中央からあらかじめ定めた時刻Δc分ずれた点における近似用制御電圧値を中央点として、前後半の近似用制御電圧値の平均値を算出した後に、あらかじめ定めた係数k33を乗算した値とする。前後半の近似用制御電圧値の平均値を中央点として用いると中央において凸が得にくくなるため、係数k33を乗じている。なお、凸の向きに応じてこの係数k33を使い分けても良い。
【0042】
そして、両端の制御電圧値、前後半の近似用制御電圧値、そして中央点の近似用制御電圧値の計5点分を時系列順に並べ、3次関数近似する。なお、近似曲線では両端の制御電圧値は必ず通るようにし、両端間の制御電圧値の最大最小は両端の制御電圧値を超えないようにする。次回の制御電圧特性を、近似された3次曲線で表される制御電圧特性に補正する。
【0043】
(各区画毎での補正)
上記の第1補正部46では発振素子の特性を考慮した補正により、ある程度線形特性が得られるが、精度の高い線形特性を得るためには微調整が必要である。この微調整を、第2補正部48で行う。
【0044】
第2補正部48は、以下に説明するように、各区画で、送信信号の周波数変調特性が線形特性となるように、制御電圧特性を補正する。
【0045】
まず、差d21の絶対値が閾値r22より大きい区画それぞれにおいて、差d21の絶対値が閾値th41のN倍(整数)であることを算出する。この倍数Nにあらかじめ決めた電圧v42を乗じる。
【0046】
次に、現在の制御電圧値に補正値を足すか、引くかを決める。例として
図9に、周期の前半で素子内の温度が十分下がらずに、前半のみ、第1補正部46により補正しても補正し切れていないときの特性を示す。ビート周波数特性に示すように、差d21の絶対値が、各区画のうちの2つの区画で閾値r22より大きい。この2つの区画において、第1補正部46と同様に、電圧v42を乗じた値に、最初の方の区画は-1、後の方の区画は+1を乗じる。このように、補正が必要な各区画において、補正する電圧の符号を決定し、各区画の中央における時刻の現在の制御電圧値に加え、近似用制御電圧値とする。補正が必要ない各区画では中央における時刻の現在の制御電圧値を近似用制御電圧値とする。
図10に時刻と近似用制御電圧値の関係を示す。
【0047】
そして、両端の制御電圧値を含めた近似用制御電圧値を用い、3次スプライン曲線にフィットさせ、補正された区画の前後の曲線が滑らかになるようにする。第1補正部46と同様に、このときも曲線は両端の制御電圧値を必ず通るようにする。さらに、各区画の中央における時刻以外の制御電圧値を求めるために、上記
図10に示すように、3次スプライン曲線にフィットした電圧値とその時刻を用いて6次関数近似し、次回の制御電圧特性を、近似された6次関数で表わされる制御電圧特性に補正する。第2補正部46では1回の処理で線形特性は得にくいが、複数回繰り返すことで微調整が行われ、全区画にわたり同じビート周波数が得られるようになる。
【0048】
周波数発振制御部50は、Downの送信パターン毎に、第1補正部46及び第2補正部48で新たに作成された制御電圧特性を用いて信号発振器10を制御して、レーザの送信信号を送信させる。また、繰り返し取得されるビート信号を解析することにより、第1補正部46及び第2補正部48により制御電圧特性が補正され、周波数変調特性の線形特性が得られる。
【0049】
測定部52は、区画周波数解析部40によって得られた各区画の平均周波数から、全区画の平均周波数を求め、全区画の平均周波数から、ターゲットまでの距離及び相対速度を測定する。
【0050】
<レーザレーダ装置100の動作>
次に、レーザレーダ装置100の動作について説明する。
【0051】
まず、レーザレーダ装置100の制御部28には、初期設定として、線形な制御電圧特性が与えられ、制御部28は、
図11に示す制御電圧特性補正処理ルーチンを実行する。
【0052】
まず、ステップS100において、初期設定として与えられ、又は後述するステップS112、114で前回補正された制御電圧特性に従って、信号発振器10の周波数変調を制御して、送信信号を送信させ、更に、Downの送信パターンに対応するビート信号の時系列を取得する。
【0053】
ステップS102では、上記ステップS100で取得した、Downの送信パターンに対応するビート信号の時系列を、複数区画に分割する。ステップS104では、両端の区画を除いた各区画のビート信号に基づいて、各区画について、ビート信号の周波数解析を行って、各区画の平均周波数、及び全区画の平均周波数を計算する。また、各区画を前半と後半の2区画にまとめ、2区画のそれぞれで平均周波数を計算する。
【0054】
次のステップS106では、各区画で、当該区画の平均周波数と全区画の平均周波数との差の絶対値が、予め定めた閾値以下であるか否かを判定する。全ての区画で、当該区画の平均周波数と全区画の平均周波数との差の絶対値が、予め定めた閾値以下である場合には、補正が必要ないと判断し、ステップS108で、前回の制御電圧特性をそのまま使用すると決定し、上記ステップS100へ戻る。
【0055】
一方、少なくとも1つの区画で、当該区画の平均周波数と全区画の平均周波数との差の絶対値が、予め定めた閾値より大きい場合には、補正が必要であると判断し、ステップS110へ移行する。
【0056】
ステップS110では、2区画のそれぞれで、当該区画の平均周波数と全区画の平均周波数との差の絶対値が、予め定めた閾値以下であるか否かを判定する。2区画の双方で、当該区画の平均周波数と全区画の平均周波数との差の絶対値が、予め定めた閾値以下である場合には、微調整が必要であると判断し、ステップS114へ移行する。
【0057】
一方、2区画の少なくとも一方で、当該区画の平均周波数と全区画の平均周波数との差の絶対値が、予め定めた閾値より大きい場合には、大雑把な補正が必要であると判断し、ステップS112へ移行する。
【0058】
ステップS112では、2区画それぞれの、当該区画の平均周波数と全区画の平均周波数との差に応じて、制御電圧特性を補正する。
【0059】
ステップS114では、各区画の、当該区画の平均周波数と全区画の平均周波数との差に応じて、制御電圧特性を補正する。
【0060】
ステップS116では、補正された制御電圧特性を、次回の制御電圧特性として使用することを決定し、上記ステップS100へ戻る。
【0061】
上記ステップS112は、
図12に示す処理ルーチンにより実現される。
【0062】
ステップS120において、2区画それぞれにおいて、区画の差d23の絶対値が、予め定められた閾値th32のN倍(Nは整数)であることを算出する。そして、ステップS122において、2区画それぞれにおいて、上記ステップS120で算出された倍数Nに、予め定められた電圧v32を乗じる。
【0063】
次のステップS124では、2区画それぞれの区画の差d23の正負に応じて、2区画それぞれの値に付加する正負を決定し、上記ステップS122で得られた、倍数Nに電圧v32を乗じた値に、決定した正負を付加した電圧値を求める。
【0064】
そして、ステップS126において、2区画それぞれにおいて、当該区画内における、特定の時刻に対応する周波数を変調させるための制御電圧値に、上記ステップS124で求められた電圧値を加えて、近似用制御電圧値を求める。更に、2区画それぞれにおいて算出された近似用制御電圧値の平均値に、予め定められた係数を乗じて制御電圧特性全体の中央値とする。
【0065】
そして、ステップS128において、制御電圧特性の両端の制御電圧値、上記ステップS126で得られた、2区画のぞれぞれの特定時刻の近似用制御電圧値、及び中央点の近似用電圧の計5点分を時系列順に並べ、3次関数近似を行って、制御電圧特性を、近似された3次曲線で表わされる制御電圧特性に補正し、処理ルーチンを終了する。
【0066】
上記ステップS114は、
図13に示す処理ルーチンにより実現される。
【0067】
ステップS130において、差d21の絶対値が予め定められた閾値より大きい、補正が必要な区画それぞれにおいて、差d21の絶対値が閾値th41のN倍(整数)であることを算出する。ステップS132では、各区画について、上記ステップS130で算出された倍数Nにあらかじめ決めた電圧v42を乗じる。
【0068】
ステップS134では、補正が必要な区画それぞれの差d21の正負に応じて、区画それぞれの値に付加する正負を決定し、上記ステップS132で得られた、倍数Nに電圧v42を乗じた値に、決定した正負を付加した電圧値を求める。
【0069】
そして、ステップS136において、補正が必要な区画それぞれにおいて、当該区画内における、特定の時刻に対応する周波数を変調させるための制御電圧値に、上記ステップS134で求められた値を加えて、近似用制御電圧値とする。補正が必要ない各区画では中央における時刻の現在の制御電圧を近似用制御電圧値とする。そして、両端の制御電圧値を含めた近似用制御電圧値を用い、3次スプライン曲線にフィットさせ、補正された区画の前後の曲線が滑らかになるようにする。
【0070】
次のステップS138では、さらに、各区画の中央における時刻以外の制御電圧値を求めるために、3次スプライン曲線にフィットした制御電圧値とその時刻を用いて6次関数近似し、制御電圧特性を、近似された6次関数で表わされる制御電圧特性に補正し、処理ルーチンを終了する。
【0071】
周波数発振制御部50は、上記の制御電圧特性補正処理ルーチンにおいて繰り返し作成された制御電圧特性を用いて信号発振器10を制御して、送信信号の送信を行わせる。
【0072】
測定部52は、区画周波数解析部40によって得られた各区画の平均周波数から、全区画の平均周波数を求め、全区画の平均周波数から、ターゲットまでの距離及び相対速度を測定する。
【0073】
ここで、
図12、13の処理ルーチンの違いについて説明する。
【0074】
図12の処理ルーチンによる補正を用いずに
図13の処理ルーチンによる補正のみを用いて制御電圧特性を補正すると、正しく補正できない場合がある。例えば、上記
図5(C)のビート信号の周波数特性では前半では差d21が負、後半では正の値となり、端に近いほど差d21の絶対値が大きくなる。このため、
図13の処理ルーチンによる補正では両端に近づくにつれて補正する電圧値が大きくなり、前半では負の値である差d21に-1を乗じ、後半では正の値である差d21に+1を乗じ、元の制御電圧値に加えるため、次の制御電圧特性は、
図14に示すような特性になる。この制御電圧特性では補正前の周波数特性よりも複雑な非線形特性になり、
図13の処理ルーチンによる補正のみでは線形補正が難しいことが分かる。以上より、
図12の処理ルーチンによる補正では、区画全体の特性を考慮したうえで補正を行い、
図13の処理ルーチンによる補正は、局所補正する、という特徴を有する。
【0075】
以上説明したように、第1の実施の形態に係るレーザレーダ装置によれば、各区画のビート信号の周波数に基づいて、前半、後半の2区画で、送信信号の周波数変調特性が線形特性となるように、制御電圧特性を補正した後に、各区画で、送信信号の周波数変調特性が線形特性となるように、制御電圧特性を補正することにより、簡易な構成で、送信信号の周波数変調特性が線形特性となるように、制御電圧特性を安定して補正することができる。
【0076】
また、レーザなどの素子は波長(=周波数)変調を素子内部の温度を制御することで、実現している。このため、素子の種類に応じて変調特性が異なる。また、周波数を上昇、下降させるためには一方は温度を上げ、一方は下げる必要があり、制御するために素子に流す電流の特性が変調方向でも異なる。これらの特性を考慮してまずは3次関数を用いて素子に流す電流の特性を大雑把に補正する。これにより、素子特有の特性を考慮した、1段階目の補正を行うことができる。
【0077】
また、大雑把に補正した後に、より線形性を確保するために細かな電流の微調整を2段階目に行うことで、素子の種類、変調幅に捉われず、線形補正が可能になる。
【0078】
また、熱などの影響により信号を発振する素子の特性が変化し、FMCWの線形特性が崩れても、自動で歪みを検知し、2段階に分けて線形補正することができる。
【0079】
なお、上記の実施の形態では、ターゲットからの反射信号を用いる場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、送信信号を、遅延の役割を果たす光ファイバに入射させ、光ファイバからの出射信号を受信信号として用いるようにしてもよい。
【0080】
<第2の実施の形態>
次に、第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態では、電波レーダ装置に本発明を適用した場合について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0081】
図15に示すように、第2の実施の形態に係る電波レーダ装置200は、発振周波数が可変の信号発振器210と、信号発振器210の出力信号を分岐する方向性結合器212と、方向性結合器212からの信号に応じた送信波を送信する送信アンテナ214と、受信アンテナ218からの信号と方向性結合器212からの信号を混合するミキサ222と、ミキサ222の出力から送信信号の周波数と受信信号の周波数との差の周波数のビート信号を取り出すためのバンドパスフィルタ224と、AD変換器26と、AD変換された信号を解析し、信号発振器210を制御する制御部28とを備えている。
【0082】
なお、方位検出を行いたい場合は受信アンテナ218を複数本設置し、複数本の受信アンテナ218とミキサ222の間にスイッチを入れ、スイッチを切り替えることでそれぞれの受信アンテナ218からの受信信号を入力し、位相の違いからターゲットの方位を検出することができる。
【0083】
また、信号発振器210、方向性結合器212と、送信アンテナ214と、受信アンテナ218と、ミキサ222と、バンドパスフィルタ224と、AD変換器26とが、センサの一例である。
【0084】
なお、第2の実施の形態に係る電波レーダ装置200の他の構成及び作用については、第1の実施の形態に係るレーザレーダ装置100と同様であるため、説明を省略する。
【0085】
以上説明したように、第2の実施の形態に係る電波レーダ装置によれば、各区画のビート信号の周波数に基づいて、前半、後半の2区画で、送信信号の周波数変調特性が線形特性となるように、制御電圧特性を補正した後に、各区画で、送信信号の周波数変調特性が線形特性となるように、制御電圧特性を補正することにより、簡易な構成で、送信信号の周波数変調特性が線形特性となるように、制御電圧特性を安定して補正することができる。
【0086】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0087】
例えば、上記の実施の形態においては、1段階目の補正として、前半、後半の2区画で、送信信号の周波数変調特性が線形特性となるように、制御電圧特性を補正する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、1段階目の補正において、粗い区画であれば、3区画以上で制御電圧特性を補正してもよい。
【0088】
また、信号発振器は、Downの送信パターンを時間T[sec]で繰り返し出力する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、信号発振器は、UPの送信パターンを時間T[sec]で繰り返し出力するようにし、UPの送信パターン毎に、周波数変調特性を線形にするように、制御電圧特性を補正するようにしてもよい。また、信号発振器は、UPとDownの2種類の送信パターンを時間2T[sec]で繰り返し出力するようにし、UPの送信パターン毎に、周波数変調特性を線形にするように、制御電圧特性を補正し、Downの送信パターン毎に、周波数変調特性を線形にするように、制御電圧特性を補正するようにしてもよい。