(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる。
【0011】
(第1実施形態)
図1は異種材の溶接方法および異種材の溶接品を説明するための第1実施形態の溶接品の概略構成図、
図2は異種材を溶接する前の
図1のX−X線に沿う断面図、
図3は
図1のY方向からの矢視図である。
図4は異種材を溶接する前の
図2の一部拡大図、
図5は異種材を溶接した後の
図2の一部拡大図である。
【0012】
図1を参照してディファレンシャルギヤユニットの構成を概説すると、リングギヤ12はデフケース21を介して、図示しない左右のテーパローラベアリングで支持される。デフケース21の内部には2つのピニオンギヤが図で上下方向に直列に、また2つのサイドギヤが図で左右方向に直列に並んでいる。ピニオンギヤとサイドギヤとは互いに直交する向きに配置され、互いに噛み合っている。デフケース21の左右端には2つの円筒状端部22,23が一体で形成されている。2つの円筒状端部22,23の中心はサイドギヤの軸心と一致している。
【0013】
図1において左右から、アクスルシャフト51,52を円筒状端部22,23の内部にそれぞれ挿入してサイドギヤとスプライン結合することで、左側のアクスルシャフト51と左側のサイドギヤが同軸で、右側のアクスルシャフト52と右側のサイドギヤが同軸で連結される。アクスルシャフト51,52は仮想線(一点鎖線参照)で示している。左右のアクスシャフト51,52の一端には、図示しない駆動輪がそれぞれ接続される。
【0014】
リングギヤ12は図示しないドライブピニオンと噛み合っている。例えば車両の直進時にドライブピニオンによってリングギヤ12が回されると、デフケース21がリングギヤ12と一体で回転する。デフケース21が回転すると、デフケース21内部のピニオンギヤが公転し、ピニオンギヤと噛み合う左右のサイドギヤが同じ速度で回転する。左右のサイドギヤが同じ速度で回転すると、左右のアクスルシャフト51,52も同じ速度で同じ方向に回転する(
図1の矢印参照)。つまり、左右の駆動輪が同じ速度で同じ方向に駆動されるため車両が直進する。
【0015】
上記のリングギヤ12は、デフケース21を形成する材料よりも炭素含有量の少ない材料によって形成される。リングギヤ12は、例えば鋼材によって形成される。鋼材は、例えばJIS規格に規定されたSCr417H、SCr420H、SCM420H、SCM418H、SNCM420H等である。一方、上記のデフケース21は、例えば鋳鉄材によって形成される。鋳鉄材は、例えばJIS規格に規定されたFCD450、FCD600、FCD700、FCD800等である。
【0016】
このように、異種材によって形成されているリングギヤ12およびデフケース21(二つは炭素含有量の異なる部材)を本実施形態の溶接方法によって溶接し、リングギヤ12およびデフケース21が接合した溶接品10を作製する。
【0017】
リングギヤ12とデフケース21を突き合せて溶接するため、リングギヤ12及びデフケース21に同じ外径の円筒状端部13,24を有させる。リングギヤ12と一体に成形される円筒状端部13(以下、「第1円筒部」ともいう。)の材質はリングギヤ12の材質(例えば鋼材)と同じである。デフケース21と一体に形成される円筒状端部24(以下、「第2円筒部」ともいう。)の材質はデフケース21の材質(例えば鋳鉄材)と同じである。第1円筒部13と第2円筒部24の中心は上記円筒状端部22,23の中心と一致するように配置される。
【0018】
第1円筒部13の開口端14と、第2円筒部24の開口端25はサイドギヤ(あるいはアクスルシャフト)の軸方向に直交する平面で形成する。以下、サイドギヤの軸方向を「サイドギヤ軸方向」という(
図1参照)。第1円筒部13と第2円筒部24を突き合せることで、第1円筒部13の開口端14と、第2円筒部24の開口端25とが全面で当接し、リングギヤ12とデフケース21の突き合せ部31が形成される。以下、第2円筒部24と第1円筒部13の突き合せ部31を、単に「突き合せ部」という。
【0019】
図2にも示すように、第2円筒部24の開口端25の内周側には、リングギヤ12の側に向けて突出する突起部26を有する。第1円筒部13の開口端14の内周側には、突起部26が嵌合する孔15を有する。
【0020】
リングギヤ12とデフケース21を溶接するに際しては、第2円筒部24の突起部26を第1円筒部13の孔15に嵌合し、第2円筒部24の開口端25と第1円筒部13の開口端14とを突き合せることで、リングギヤ12およびデフケース21を接続する。
【0021】
なお、
図2には第2円筒部24の開口端25の外周側(突き合せ部31のうちデフケース21の側)に凹部27を設けているが、この点は後述する。
【0022】
炭素含有量の異なる部材同士を溶接する工程(以下単に「溶接工程」ともいう。)の準備工程として、リングギヤ12及びデフケース21からなる回転体(以下、単に「回転体」ともいう。)11を台上に置き、台上でサイドギヤ(あるいはアクスルシャフト51,52)の軸回りに回転可能に支持する。
【0023】
図1にも示したように、突き合せ部31に近接してレーザ溶接機のトーチ42を配置する。トーチ先端のノズル43からはレーザビーム44が出射される。レーザビーム44は、発振器によって発振された後、集光レンズ等を含む集光光学系を経てノズル43から出射されるものである。レーザビーム44は、例えばCO2レーザであるが、これに限定されない。レーザビーム44は、例えばYAGレーザであってもよい。ノズル43は、ガスの流路を備え、アルゴンや窒素等のシールドガスを吹き出してもよい。
【0024】
レーザビーム44はきわめて指向性の高い光線であるが、ある程度は広がって伝搬するため、レーザビーム44が焦点を結ぶ位置では点とならず少し広がった円状となる。この少し広がった円状の焦点44aを「スポット」といい、スポット径(レーザビームを加工するものに垂直に照射したときのビームの直径)を有する。このレーザビーム44のスポット44aの中心位置には溶接ワイヤ45を供給する。なお、スポット44aの中心位置を、以下、単に「スポット位置」ともいう。あるいは、「レーザビーム44の照射位置」ともいう。溶接ワイヤ45は、溶接ワイヤ45が巻回されたワイヤリールから溶接ワイヤ45を送り出すワイヤ送給機構によって供給される。回転体11は後述するように周方向に回転される。溶接ワイヤ45はレーザビーム44のスポット位置及び回転体1が回転する位置に合わせて順次供給される。
【0025】
溶接ワイヤ45はニッケルを含む。溶接ワイヤ45のニッケルの含有量は好ましくは10質量%以下であるが、これに限定されず10質量%より多くてもよい。溶接ワイヤ45を形成する材料は、例えばJIS規格に規定されたY308、Y310等Niを含有する溶接ワイヤである。
【0026】
レーザビーム44のスポット位置およびその近傍は、
図3にも示したようにCCDカメラ等の撮影装置46によって撮影される。溶接の間、作業者は、撮影装置46によって撮影された画像を液晶ディスプレイ等の表示装置で確認する。リングギヤ12およびデフケース21は、レーザビーム44のスポット位置が監視されつつ溶接される。
【0027】
溶接工程における溶接方法を具体的に述べると、まず上記回転体11が回転しないように回転体を台上に固定する。また、トーチ先端のノズル43は固定した状態とする。この状態で、ノズル43から一定の出力で照射されるレーザビーム44の照射位置が、突き合せ部31を最外周から内周側に向かって一定の速度で侵入するように、レーザビーム44の照射位置を制御する。
【0028】
レーザビーム44の照射スポット44aは突き合せ部31を最外周から内周側に向かって進む。突き合せ部31の最外周からレーザビーム44の照射を止める位置までの距離が「溶接溶け込み深さ」である(
図5参照)。レーザビーム44のスポット44aが進む速度(溶接速度)は一定である。溶接速度が相対的に遅いと被加工材であるリングギヤ12及びデフケース21への入熱量が大きくなり、この反対に溶接速度が相対的に速いと被加工材であるリングギヤ12及びデフケース21への入熱量が小さくなる。溶接溶け込み深さが相対的に浅いとリングギヤ12とデフケース21の間の締結強度が低下し、この反対に溶接溶け込み深さが相対的に深いとリングギヤ12とデフケース21の間の締結強度が大きくなる。これら溶接速度と溶接溶け込み深さは予め設定しておく。
【0029】
溶接の開始当初には、
図4にも示したように、突き合せ部31の最外周に溶接ワイヤ45(溶接用金属材料)が供給される。レーザビーム44のスポット44aが一定の速度で突き合せ部31を最外周から内周側に向かって侵入するようにレーザビーム44を照射しつつ、レーザビームのスポット44aの移動に合わせて溶接ワイヤ45を供給する。レーザビーム44のスポット44aが予め定めた溶接溶け込み深さに到達したら、レーザビーム44の照射を中断する。この溶接(1回目の溶接)によって、第1円筒部13の開口端14および第2円筒部24の開口端25が線分状に一箇所で接合される。1回目の溶接後には
図5にも示したように、リングギヤ12、デフケース21、および溶接ワイヤ45の材料が溶融した後に冷えて固まった部位(以下、単に「溶接部」ともいう。)47が突き合せ部31の最外周から内周側に向かって線分状に形成される。
【0030】
次に、レーザビーム44の出射方向を固定したまま、回転体11を所定の角度だけ円筒部13,24の周方向に回転させる。例えば、
図3にも示すように回転体11を、サイドギヤの軸を中心にして反時計方向に所定の角度だけ回転させる。そして、上記の操作を繰り返す。すなわち、レーザビーム44の照射位置が一定の速度で突き合せ部31を最外周から内周側に向かって侵入するようにレーザビーム44を照射しつつ、レーザビーム44のスポット44aの移動に合わせて溶接ワイヤ45を供給する。レーザビーム44のスポット44aが予め定めた溶接溶け込み深さに到達したら、レーザビーム44の照射を中断する。この溶接(2回目の溶接)によって、第1円筒部13の開口端14および第2円筒部24の開口端25が二箇所目で接合される。
【0031】
同様にして、レーザビーム44の出射方向を固定したまま、回転体11を所定の角度だけ、サイドギヤの軸を中心にして円筒部13,24の周方向の同じ方向に回転させる。そして、上記の操作を繰り返す。すなわち、レーザビーム44のスポット44aが一定の速度で突き合せ部31を最外周から内周側に向かって侵入するようにレーザビーム44を照射しつつ、レーザビーム44のスポット44aの移動に合わせて溶接ワイヤ45を供給する。レーザビーム44のスポット44aが予め定めた溶接溶け込み深さに到達したら、レーザビームの照射を中断する。この溶接(3回目の溶接)によって、第1円筒部13の開口端14および第2円筒部24の開口端25が三箇所目で接合される。
【0032】
以下、レーザビーム44の出射方向を固定したまま、回転体11を所定の角度ずつ円筒部13,24の周方向に回転しては、上記の操作を繰り返す。このように、レーザビーム44の照射位置を円筒部13,24の周方向の一方向に所定の角度回転する毎に溶接を繰り返すことで、リングギヤ12およびデフケース21が円筒部13、24の周方向に複数の箇所(全周)にわたって接合される。
【0033】
上記所定の角度を相対的に小さくすると、線分状に形成される溶接部47の数が円筒部13,24の周方向に増えるためリングギヤ12とデフケース21の締結強度が増すものの、溶接工程全体に要する時間が長くなる。一方、上記所定の角度を相対的に大きくすると溶接部47の数が減るためリングギヤ12とデフケース21の締結強度が減るものの、溶接工程全体に要する時間は短くて済む。よって、リングギヤ12とデフケース21の間に要求される締結強度と溶接溶け込み深さによって所定の角度を定める。
【0034】
ここまで、溶接工程における溶接方法の一例を具体的に述べたが、溶接方法はこの例に限られるものでない。
【0035】
さて、異種材の2つの円筒部13,24を、例えばレーザビーム44のスポット径を一定として、4m/min以上の高速で溶接することで、被加工材である2つの円筒部13,24への入熱量を、2つの円筒部13,24を例えば1m/min程度の低速で溶接する場合より小さくすることができる。円筒部13,24への入熱量が小さくなると、その分溶接ひずみが低減される。その一方で、2つの円筒部13,24を高速で溶接する場合に、レーザビーム44のスポット位置を突き合せ部31から炭素含有量の相対的に少ない部材であるリングギヤ12の側にずらすと、溶接部47の組織がマルテンサイト化して硬くなり、溶接割れが発生する恐れがある、ことを本発明者らが初めて見出した。
【0036】
この問題を解決するためには、レーザビーム44のスポット位置を炭素含有量の相対的に多い部材であるデフケース21の側に照射する必要があるということが、本発明者らが行った実験で初めて明らかになった。
【0037】
そこで本実施形態では、
図4に示すように、レーザビーム44のスポット位置を突き合せ部31から炭素含有量の多い部材であるデフケース21の側に所定の距離K(正の値)だけずらす。すなわち、スポット44aの中心及びレーザビーム44の中心を通る直線L(二点鎖線参照)と、第1円筒部13の開口端14に沿う直線M(二点鎖線参照)の2つの線の最短距離が上記所定の距離Kである。このようにレーザビーム44のスポット位置をずらせて溶接を行うことで、
図5に示すように、溶接した後に形成される溶接部47の中心は、突き合せ部31からデフケース21の側にずれて位置する。
【0038】
ところで、レーザビーム44のスポット位置をデフケース21の側にずらせることで、接合する材料のうちの鋳鉄材(デフケース21を形成する)の割合が、レーザビーム44のスポット位置をデフケース21の側にずらせない場合より増加する。すると、接合した状態での鉄材に含まれる球状黒鉛がスパッタの飛散を促進する。接合材料の溶融状態(溶融池)から飛散するスパッタが溶接部47の周囲にある円筒部13,24の外周などに付着して固化したのでは、見映えが悪くなる。円筒部13,24の外周などに付着して固化したスパッタはディファレンシャルギヤユニットを組み立てた後もそのままディファレンシャルギヤユニットの内部に残ってしまうおそれもある。
【0039】
図1,
図2にはリングギヤ12の歯が左面12aに形成されている場合を示しているが、右面12bにリングギヤ12の歯が形成されるものもある。右面12bにリングギヤ12の歯が形成される場合には、リングギヤ12の歯が形成される右面12bに向けてスパッタが飛散し付着して固化することがある。このときにはリングギヤ12の歯面を再仕上げすることが必要となってしまう。
【0040】
このように、レーザビーム44のスポット位置をデフケース21の側にずらす場合には、溶融した状態の鋳鉄材に含まれる球状黒鉛に起因するスパッタの飛散を抑制することが好ましい。
【0041】
そこで、本実施形態では、レーザビーム44のスポット位置をデフケース21の側にずらす場合に、第2円筒部24の開口端25の外周側(突き合せ部31のうちデフケース21側)に凹部27を設ける。凹部27は、第2円筒部24の最外周から径方向の内側に向けて、かつリングギヤ12からサイドギヤ軸方向に離れる向きに、へこませて形成する。
【0042】
詳細には、凹部27の表面は平面状に形成する。かつ、この凹部27の平面と第1円筒部13の開口端14とが平行な位置関係となるように凹部27を形成する。この結果、第2円筒部24の凹部27と第1円筒部13の開口端14との間に、円筒部13,24の外周側に向かって開口する隙間28が生じる。つまり、突き合せ部31の外周側に、全体として平板リング状の隙間28が形成される。
【0043】
このように、鋳鉄材で形成される第2円筒部24に凹部27を設けることによって、溶接部47を構成する組成のうちの鋳鉄材の割合を、第2円筒部24に凹部27を設けない場合より少なくするのである。溶接部47を構成する組成のうちの鋳鉄材の割合が、凹部27を設けない場合より少なくなれば、異種材の接合時に接合材料の溶融状態で発生するスパッタの周囲への飛散を効果的に抑えることができる。
【0044】
隙間28の幅、言い換えると凹部27のサイドギヤ軸方向幅W1(
図4参照)は50μm以上とする。つまり、サイドギヤ軸方向幅W1の最小値は50μmである。サイドギヤ軸方向幅W1の最小値を50μmとしたのは、次の理由からである。すなわち、凹部27を設けていない状態で2つの円筒部13,24を突き合せたとき、第1円筒部13の開口端14と第2円筒部24の開口端25との間には、リングギヤ12、デフケース21の製作バラツキに起因する隙間が実際に生じる。この製作バラツキに起因する隙間の最大値はある値に予め定まる。この予め定まる値を許容値とすると、この許容値に余裕代を加算した値が上記の50μmである。従って、サイドギヤ軸方向幅W1を50μm以上とすることで、リングギヤ12やデフケース21に製作バラツキがあっても、溶接部47を構成する組成のうちの鋳鉄材の割合を、凹部27を設けない場合より少なくすることができるのである。
【0045】
ただし、サイドギヤ軸方向幅W1を決めるに際しては、次のことをも考慮する必要がある。すなわち、サイドギヤ軸方向幅W1を大きくするほど、溶接部47を構成する組成のうちの鋳鉄材の割合が少なくなっていくものの、幅W1はひろがってゆく。すると、幅W1が広がっても2つの円筒部13,24の開口端14,25同士を溶接できるようにレーザビーム44のスポット径を大きくする必要がある。これは、次の理由による。すなわち、2つの部材(13,24)は溶けないと接合できないし、レーザビーム44が同時に2つの部材に照射されないと2つの部材を接合できない。このため、幅W1が広がっても、同時に2つの部材にレーザビームのスポット44aをあてて溶かすためにはスポット径を大きくする必要があるためである。こうしてサイドギヤ軸方向幅W1を大きくすることに伴い、レーザビーム44のスポット径が大きくなったのでは、被加工材ある2つの円筒部13,24への入熱量が大きくなってしまう。したがって、レーザビーム44のスポット径があまり大きくならないようにサイドギヤ軸方向幅W1を定める必要がある。
【0046】
隙間28の深さ、言い換えると凹部27の径方向深さD1(
図4参照)は、溶接溶け込み深さの1/2以上であるとする。つまり、径方向深さD1の最小値は溶接溶け込み深さの1/2である。径方向深さD1の最小値を溶接溶け込み深さの1/2としたのは、次の理由からである。すなわち、凹部27を設けたのは、溶接部47を構成する組成のうちの鋳鉄材の割合を少なくして、スパッタの発生を抑制するためであった。ここで、スパッタの発生が問題となるのは、レーザビーム44のスポット位置が突き合せ部31の外周側にあるときに、スポット位置にできる溶融池で発生するスパッタが円筒部13,24の外周やその周囲に、あるいはリングギヤ12の歯面に飛散して付着し固化することである。
【0047】
一方、レーザビーム44のスポット位置が突き合せ部31の奥(円筒部13,24の径方向内側)に移動したときには、スポット44aの周囲の隙間28を構成する壁面(14,27)にスパッタが付着して固化するだけで、円筒部13,24の外周やその周囲にまで、あるいはリングギヤ12の歯面にまで飛散してくるスパッタは殆どないと考えられる。言い換えると、スパッタの飛散があっても、そのスパッタが円筒部13,24の外周やその周囲に、あるいはリングギヤ12の歯面に飛散してこなければ、スパッタの発生は問題とならないのである。そこで、レーザビーム44のスポット位置が溶接溶け込み深さの1/2までくればスパッタの飛散が問題とならないと推定し、凹部27の径方向深さD1の最小値を溶接溶け込み深さの1/2としたものである。
【0048】
凹部27の形状は、
図4の場合に限られるものでない。凹部27の平面と、第1円筒部13の開口端14とが平行な位置関係から多少ずれていてもかまわない。凹部27は平面でなくてもかまわない。
【0049】
突き合せ部31の外周側に凹部27を有する場合においては、凹部27を有する部分において、第1円筒部13の開口端14と第2円筒部24の開口端15とが、厳密には突き合せられていない。しかしながら、突き合せ部31の外周側に凹部27を有する場合においても、第1円筒部13の開口端14と、第2円筒部24の開口端25とが突き合さっている位置を基準として、レーザビーム44のスポット位置を考える。
【0051】
本実施形態の溶接方法によれば、リングギヤ12およびデフケース21のうち炭素含有量の多い部材であるデフケース21の側にずれた位置にレーザビーム44が照射され、また、溶接品10においては炭素含有量の多い部材であるデフケース21の側にずれた位置に溶接部47が形成される。これによって、溶接部47の組織がオーステナイト化され、溶接部47の硬度が高くなることを防止できる。これによって溶接割れを防止できる。
【0052】
本実施形態では、突き合せ部31のうちデフケース21(炭素含有量の多い一方の前記部材側)の側に凹部27を設けている。鋳鉄材(炭素含有量の多い一方の部材であるデフケース21)に含まれる球状黒鉛がスパッタを発生させる原因の主なものであるため、凹部27を設けて鋳鉄材の溶融量を、凹部27を設けない場合より減らすことで、異種材の2つの円筒部13,24の接合時に発生するスパッタを低減することができる。また、凹部27を設けたことで、溶融金属(被溶接材、溶接ワイヤ)が溶融池で攪拌しやすくなり、溶接部47の全域で均一な組織状態を得ることがきる。
【0053】
本実施形態では、凹部27のサイドギヤ軸方向幅W1(幅)は50μm以上、かつ凹部27の径方向深さD1(深さ)は溶接溶け込み深さの1/2以上としている。凹部27のサイドギヤ軸方向幅W1の最小値を50μmとすることによって、リングギヤ12やデフケース21に製造バラツキがあっても、溶接部47を構成する組成のうちの鋳鉄材の割合を、凹部27を設けない場合より少なくすることができる。また、凹部27の径方向深さD1の最小値を1/2とすることで、スパッタの飛散が問題となる範囲にだけ凹部27を設けることが可能となり、凹部27の不必要な加工を省略することができる。
【0054】
(第2実施形態)
図6は第2実施形態の異種材を溶接する前の
図1のX−X線に沿う断面図、
図7は第2実施形態の異種材を溶接する前の
図6の一部拡大図で、第1実施形態の
図2,
図4と置き換わるものである。
【0055】
第1実施形態では、デフケース21と一体成型される第2円筒部24の側だけに凹部27を設けた。一方、第2実施形態は、リングギヤ12と一体成型される第1円筒部13の側にも凹部16を設けるものである。すなわち、
図7に示したように第1円筒部13の開口端14の外周側に、デフケース21から離れる向きにへこむ凹部16を設ける。凹部16の表面は平面状に形成する。かつ、この凹部16の平面とデフケース21側の凹部27の平面が、平行な位置関係となるように凹部16を形成する。
【0056】
この結果、第2円筒部24の凹部27と第1円筒部13の凹部16との間に隙間28’が生じる。つまり、突き合せ部31の外周側に、全体として平板リング状の隙間28’が生じる。
【0057】
隙間28’のサイドギヤ軸方向幅W2は第1実施形態の隙間28のサイドギヤ軸方向幅W1と同等とする。例えば、凹部16のサイドギヤ軸方向幅と凹部27のサイドギヤ軸方向幅とを等しくし、かつ、隙間28’のサイドギヤ軸方向幅W2を第1実施形態の隙間28のサイドギヤ軸方向幅W1と同じにしたとき、第1実施形態の凹部27のサイドギヤ軸方向幅は第1実施形態の凹部27のサイドギヤ軸方向幅W1の半分となる。隙間28’の径方向深さD2も第1実施形態の隙間28の径方向深さD1と同等とする。
【0058】
このように、リングギヤ12の側にも凹部16を設ける場合であっても、突き合せ部31からデフケース21の側にずれた位置にレーザビーム44が照射されることとなる。
【0059】
第2実施形態でも、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0060】
<実施例>
本発明者らは、第1実施形態と同様のリングギヤ12とデフケース21とを実際に溶接して溶接品20を作製した。
【0061】
リングギヤ12を形成する材料は、肌焼き鋼としてJIS規格に規定されたSCM418Hである。デフケース21を形成する材料は、黒鉛鋳鉄としてJIS規格に規定されたFCD700である。本発明者らは、JIS規格に規定されたY308によって形成された溶接ワイヤ45を用いた。照射するレーザビーム44は、CO2レーザである。
【0062】
本発明者らは、サイドギヤ軸方向に沿って位置をずらして設定した複数のスポット位置のそれぞれでレーザビーム44の出力を一定として高速で溶接した。レーザビーム44の照射によってリングギヤ12、デフケース21、および溶接ワイヤ45の材料が溶融した後に冷えて固まって形成される溶接部47の組織、溶接部47の硬さに関し、レーザビーム44のスポット位置に応じて異なる結果が得られた。
【0063】
図8は、溶接部47が硬化した後の溶接部47の組織、溶接部47の硬さ(平均硬さ及び最大硬さ)、溶接部47の性状について得られた結果をまとめて示すものである。
【0064】
図8において、最上段に示すレーザビーム44のスポット位置は、リングギヤ12とデフケース21との突き合せ部31からのサイドギヤ軸に沿う方向の離隔距離である。レーザビーム44のスポット位置が正の場合、レーザビーム44のスポット位置は突き合せ部31よりもデフケース21の側に位置する。例えばレーザビーム44のスポット位置が0.075mmの場合、突き合せ部31からサイドギヤ軸方向に0.075mm、デフケース21の側にずれた位置にレーザビーム44が照射されることを意味している。一方、最上段に示すレーザビーム44のスポット位置が負の場合、レーザビーム44のスポット位置は突き合せ部31よりもリングギヤ11の側に位置する。例えばレーザビーム44のスポット位置が−0.15mmの場合、突き合せ部31からサイドギヤ軸方向に0.15mm、リングギヤ11の側にずれた位置にレーザビーム44が照射されることを意味している。
【0065】
図8第2段目に示されるように、レーザビーム44のスポット位置が−0.2mmのとき、溶接部47に溶接方向に沿って(サイドギヤ軸に直交する方向に)割れが発生している。
【0066】
レーザビーム44のスポット位置が−0.15mm、0mm、0.075mmとデフケース21の側にずれていくほど、
図8に示されるように、溶接部47の平均硬さがビッカース硬さで604Hv,410Hv,379Hvと小さい側に変化する。しかしながら、
図8に示されるように、溶接部47にマルテンサイトが発生している。
【0067】
一方、レーザビーム44のスポット位置がデフケース21の側にさらにずれて、0.125mmになると、
図8に示されるように、溶接部47の平均硬さがビッカース硬さで343Hvと、レーザビーム44の照射位置が0.075mmのときより小さくなっている。かつ、
図8に示されるように、溶接部47の全域がオーステナイトになっている。
【0068】
レーザビーム44のスポット位置がデフケース21の側にさらにずれて、0.15mmになると、
図8に示されるように、溶接部47の平均硬さはビッカース硬さで384Hvと、レーザビーム44のスポット位置が0.075mmのときより却って大きくなっているものの、溶接部47の全域はオーステナイトになっている。
【0069】
レーザビーム44のスポット位置が0.2mmにまでずれたときには、
図8に示されるように、溶接部47の平均硬さがビッカース硬さで396Hvと、レーザビーム44のスポット位置が0.15mmのときと同様に、レーザビーム44のスポット位置が0.075mmのときより却って大きくなっている。しかしながら、溶接部47の全域は、レーザビーム44のスポット位置が0.15mmのときと同様にオーステナイトになっており、かつ溶接部47に球状黒鉛が含まれている。
【0070】
図8の結果から、レーザビーム44のスポット位置は、好ましくは、突き合せ部31よりもデフケース21の側で、かつ突き合せ部31からデフケース21の側に0.05〜0.2mmずれた位置であることが分かった。レーザビーム44のスポット位置の好ましい範囲として、スポット位置が0.075mmである場合を含めたのは次の理由による。すなわち、レーザビーム44のスポット位置が0.075mmである場合には、スポット位置が0mmの場合と同じく溶接部47にマルテンサイトが発生するものの、溶接部47の平均硬さはスポット位置が0mmの場合より小さくなると考えられるためである。
【0071】
一方、レーザビーム44のスポット位置の好ましい範囲として、スポット位置が0.2mmである場合を含めたのは次の理由による。すなわち、レーザビーム44のスポット位置が0.2mmになると、性状はオーステナイトであっても、溶接部47の平均硬さがビッカース硬さで396Hvとなっており、平均硬さの限界にきていると考えられるためである。
【0072】
このように、ビーム44が突き合せ部31からデフケース21の側に0.05〜0.2mmずれた位置に照射されることによって、
図8の結果のとおり、溶接部47の破断および溶接割れを効果的に防止でき、また溶接部47を深く形成して部材同士の接合を強固にできる。特に、ビームが突き合せ部31からデフケースの側に0.125〜0.15mmずれた位置に照射されるときには、溶接部47の組織全域をオーステナイト化でき、硬度を抑えて溶接欠陥のない品質の溶接品を得ることができる。
【0073】
本発明は、上述した実施形態および実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変できる。
【0074】
例えば、溶接される部材は、互いに炭素含有量の異なる部材であればリングギヤおよびデフケースに限定されず、他のものであってもよい。
【0075】
また、実施形態および実施例では、レーザビームの出射位置および出射方向を固定したままリングギヤ12およびデフケース21を周方向に回転させることによってリングギヤ12とデフケース21を接合したが、これに限定されない。本発明は、リングギヤおよびデフケースを回転することなく固定し、レーザビームの出射位置および出射方向を変化させつつ周方向に溶接する形態を含む。また、ビームは、レーザビームに限定されず、電子ビームであってもよい。