(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ゲイン乗算部は、前記代表周波数が高くなるに連れて前記高調波成分に乗算するゲインを小さくし、前記代表周波数が低くなるに連れて前記高調波成分に乗算するゲインを大きくすることを特徴とする請求項1に記載の共振抑制装置。
前記ゲイン乗算部は、固定ゲインを出力する固定ゲイン出力部と、前記固定ゲインを前記代表周波数で除算することにより可変ゲインを出力する可変ゲイン出力部とを有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の共振抑制装置。
前記代表周波数抽出部は、前記高調波成分の実効値を前記高調波成分の積分値の実効値で除算することにより前記代表周波数を抽出することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の共振抑制装置。
前記ゲイン乗算部は、2軸直交座標系のd軸に対応する高調波成分が入力されて当該d軸に対応する電流指令値を出力する第1のゲイン乗算部と、2軸直交座標系のq軸に対応する高調波成分が入力されて当該q軸に対応する電流指令値を出力する第2のゲイン乗算部とを有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の共振抑制装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪第1実施形態≫
図1〜
図2を参照して、第1実施形態の共振抑制装置10について詳細に説明する。
【0012】
図1に示すように、共振抑制装置10は、風力発電所1に設置されて、風力発電機(電力設備)20が電力系統30に接続されることによって発生する共振を抑制する。風力発電機20と電力系統30は伝送路40によって接続されており、この伝送路40の中間部に位置する接続点45に共振抑制装置10が接続されている。
【0013】
風力発電機20は高調波フィルタ25を有しており、高調波フィルタ25のキャパシタンスがC1として図示されており、高調波フィルタ25のインダクタンスがL1として図示されている。インダクタンスL1は、風力発電機20を電力系統30に接続する変圧器のインダクタンスと等価である。また、電力系統30のインピーダンスがL2として図示されている。L2は簡易的にインダクタンスとして模擬されることが多いが、実際の電力系統には様々な発電設備、需要家設備、送電設備が接続されており、それらにはキャパシタンスを持つ設備もあるため、多数のLC共振回路を備えているのと等価である。さらに、伝送路40は非常に長いケーブルから構成されているため、電気回路的には、伝送路40自体が多数のLC共振回路を備えているのと等価である。共振抑制装置10は、以上のようなLC共振回路による共振を抑制する機能を持つ。
【0014】
図1では、風力発電機20から伝送路40の接続点45に流れ込む電流がi1で示され、伝送路40の接続点45から電力系統30に流れ出す電流がi2で示されている。また、伝送路40の接続点45の電圧(風力発電機20と電力系統30の接続点電圧)がVで示されている。
【0015】
共振抑制装置10は、電流指令値演算部50と、補償電流供給部60とを有している。電流指令値演算部50は、風力発電機20と電力系統30の接続点電圧Vに基づく電流指令値i
*を演算する。補償電流供給部60は、電流指令値i
*に基づく補償電流i(電流指令値i
*に追従する補償電流i)を伝送路40の接続点45(さらには電力系統30)に供給する。これにより、風力発電機20から伝送路40の接続点45に流れ込む電流i1と伝送路40の接続点45から電力系統30に流れ出す電流i2が補償電流iで補償される関係となり(i1+i=i2)、接続点電圧Vの高調波成分V
h(後述する)に起因する高調波歪みを抑制することが可能になる。
【0016】
電流指令値演算部50は、ハイパスフィルタ52と、代表周波数抽出部54と、固定ゲイン出力部(ゲイン乗算部)56と、可変ゲイン出力部(ゲイン乗算部)58とを有している。
【0017】
ハイパスフィルタ52には、風力発電機20と電力系統30の接続点電圧Vが入力される。ハイパスフィルタ52は、入力した接続点電圧Vの高調波成分V
hだけを選択的に通過させる。
【0018】
代表周波数抽出部54は、接続点電圧Vの高調波成分V
hの中から当該高調波成分V
hが他の周波数より相対的に大きい代表周波数fを抽出する。代表周波数fは、風力発電機20・高調波フィルタ25・電力系統30・伝送路40の特性を如実に示すパラメータとして本発明者が着想に至ったものである。一般に、風力発電機20はそれ単体では高調波歪みが電力系統の問題にならない様に設計されている。しかし、高調波フィルタ25・電力系統30・伝送路40の性質や条件によっては共振によって高調波歪みが大きくなる問題が発生する。共振はある特定の周波数においてインピーダンスが顕著に大きくなることに起因して高調波歪みが大きくなる問題であるため、高調波成分V
hに含まれる周波数は特定の周波数に偏っている。代表周波数抽出部54は、例えば、接続点電圧Vの高調波成分V
hの中から当該高調波成分V
hが最も大きくなる周波数(高調波成分V
hが最も大きくなる周波数が複数ある場合にはそのうちのいずれか1つ)をピンポイントで特定することができる。
【0019】
図2に示すように、代表周波数抽出部54は、ラプラス積分部(積分部)54Aと、第1の実効値演算部54Bと、第2の実効値演算部54Cと、除算部54Dとを有している。ラプラス積分部54Aは、接続点電圧Vの高調波成分V
hをラプラス積分(積分)する。第1の実効値演算部54Bは、接続点電圧Vの高調波成分V
hのラプラス積分値(積分値)の実効値を演算する。第2の実効値演算部54Cは、接続点電圧Vの高調波成分V
hの実効値を演算する。除算部54Dは、接続点電圧Vの高調波成分V
hの実効値を、接続点電圧Vの高調波成分V
hのラプラス積分値(積分値)の実効値で除算することにより、代表周波数fを抽出する。
【0020】
ここで、代表周波数fを角周波数ωで表す場合、以下の説明が成立する。電圧V(s)を積分すると、伝達関数はV(s)/sとなる。周波数応答はV(jω)/jωとなり、電圧V(jω)に対して位相が90°遅れ、振幅が1/ω倍になる。この振幅が1/ω倍になる性質を利用して、ωを算出している。実効値は振幅の大きさに比例するので、電圧の実効値と電圧の積分値の実効値の比はω:1になる。
【0021】
固定ゲイン出力部56は、予め定められた固定ゲインK
0を出力する。上述したように、共振抑制装置10は、高調波電圧に対して高調波電流を同位相で吸収する(高調波電圧と高調波電流の位相を変えずにゲインにより大きさだけを変える)ものであるため、システムがあたかも純抵抗負荷(インピーダンス負荷)であるかのように振る舞う。この点を考慮して、固定ゲインK
0は、例えば、システムが示す純抵抗値Rの逆数を基準にして設定することができる(K
0=1/R)。
【0022】
可変ゲイン出力部58は、固定ゲイン出力部56による固定ゲインK
0を代表周波数抽出部54による代表周波数fで除算することにより、可変ゲインK’を出力する(K’=K
0/f)。つまり、可変ゲインK’を仮想的な抵抗と捉えたときに、当該仮想抵抗の値が代表周波数fに応じて変動する(周波数依存抵抗)。
【0023】
固定ゲイン出力部56と可変ゲイン出力部58は、これらを「ゲイン乗算部」という1つの機能ブロックとして捉えたとき、接続点電圧Vの高調波成分V
hに代表周波数fに応じた可変ゲインK’を乗算することで電流指令値i
*を演算する機能を持つ。可変ゲインK’はK’=K
0/fで表されるので、固定ゲイン出力部56と可変ゲイン出力部58(ゲイン乗算部)は、接続点電圧Vの高調波成分V
hに代表周波数fに反比例する可変ゲインK’を乗算することになる。
【0024】
なお、可変ゲインK’は、必ずしも代表周波数fに反比例する必要は無い。例えば、固定ゲイン出力部56と可変ゲイン出力部58(ゲイン乗算部)は、代表周波数fが高くなるに連れて接続点電圧Vの高調波成分V
hに乗算する可変ゲインK’を小さくし、代表周波数fが低くなるに連れて接続点電圧Vの高調波成分V
hに乗算する可変ゲインK’を大きくしてもよい。
【0025】
電流指令値演算部50から出力された電流指令値i
*は、加算部70に入力される。また、加算部70には、電流指令値i
*に基づく実際の補償電流iが入力される。加算部70は、電流指令値i
*と補償電流iの差分(i
*−i)を演算して、当該差分を補償電流供給部60に出力する。
【0026】
補償電流供給部60は、電流制御部62と、並列インバータ64と、直流電源66とを有している。
【0027】
電流制御部62には、加算部70から電流指令値i
*と補償電流iの差分(i
*−i)が入力される。電流制御部62は、入力された電流指令値i
*と補償電流iの差分(i
*−i)に基づいて、電圧指令値V
*を演算する。
【0028】
並列インバータ64は、直流電源66からの電力供給を受けて駆動される。並列インバータ64には、電流制御部62から電圧指令値V
*が入力される。並列インバータ64は、入力された電圧指令値V
*に基づいて、補償電流iを演算する。並列インバータ64は、変圧器(図示略)を介して電力系統30に並列に接続されており、並列インバータ64から出力される補償電流iは、風力発電機20からの出力電流i1と並列に電力系統30に供給される(i1+i=i2)。このような並列インバータ64としては、例えば、電力用アクティブフィルタ、静止形無効電力補償装置(STATCOM)、自励式SFCなどの装置が代表的であるが、他にも、統合電力潮流制御装置(UPFC:Unified Power Flow Controller)などの直並列インバータが備える並列補償部を用いることもできる。
【0029】
以上のように構成された共振抑制装置10によれば、電流指令値演算部50において、代表周波数抽出部54が、接続点電圧Vの高調波成分V
hの中から当該高調波成分V
hが他の周波数より相対的に大きい代表周波数fを抽出し、固定ゲイン出力部56と可変ゲイン出力部58(ゲイン乗算部)が、高調波成分V
hに代表周波数fに応じたゲインK’(=K
0/f)を乗算することで電流指令値i
*を演算する。これにより、風力発電機(電力設備)20と電力系統30を含むシステムの特性を活用して、常に最適なゲインK’が動的に設定されるので、共振抑制装置10が優れた共振抑制機能を発揮することができる。
【0030】
別言すると、共振抑制装置は、電力系統のインピーダンスとゲインの関係を積極的に活用して、電力系統において共振現象が発生した場合、その共振周波数が高いほど、補償電流を小さくしても共振抑制効果が得られるという性質を利用して、ゲインに掛ける係数を調整するというものである。例えば、風力発電所の風車台数が変化して共振周波数が低くなる場合、適正なゲインが大きくなる傾向がある。なぜなら、電力系統のインピーダンス、特に直列機器のインピーダンスが主にインダクタンス成分であり、周波数が低くなるとインピーダンスが低くなるためである。系統インピーダンスが小さくなると、それに比例して共振抑制装置のインピーダンスも小さくなる。共振抑制装置は純抵抗負荷として振る舞い、抵抗値はゲインの逆数になるため、適正なゲインは大きくなる。共振周波数が低下すると適正なゲインが大きくなる性質を活用し、系統電圧の高調波成分の周波数に応じてゲインを調整し、且つ、高調波電圧に対して高調波電流を同位相で吸収することにより、優れた共振抑制機能を発揮することが可能になる。
【0031】
≪第2実施形態≫
図3〜
図4は、第2実施形態の共振抑制装置10の電流指令値演算部50を示している。第2実施形態の共振抑制装置10は、3相電力系統において発生する共振を抑制するための装置である。
【0032】
図3〜
図4に示すように、第2実施形態の共振抑制装置10の電流指令値演算部50では、入出力系統の各種構成要素が2軸直交座標系のd軸とq軸に対応して設けられている。
【0033】
より具体的に、電流指令値演算部50は、2軸直交座標系のd軸に対応するハイパスフィルタ52dと、固定ゲイン出力部(第1のゲイン乗算部)56dと、可変ゲイン出力部(第1のゲイン乗算部)58dとを有している。代表周波数抽出部54は、2軸直交座標系のd軸に対応するラプラス積分部(積分部)54Adを有している。
【0034】
同様に、電流指令値演算部50は、2軸直交座標系のq軸に対応するハイパスフィルタ52qと、固定ゲイン出力部(第2のゲイン乗算部)56qと、可変ゲイン出力部(第2のゲイン乗算部)58qとを有している。代表周波数抽出部54は、2軸直交座標系のq軸に対応するラプラス積分部(積分部)54Aqを有している。
【0035】
ハイパスフィルタ52dには、風力発電機20と電力系統30の接続点電圧Vのd軸電圧V
dが入力する。ハイパスフィルタ52dは、入力した接続点電圧Vのd軸電圧V
dの高調波成分V
hdだけを選択的に通過させる。ハイパスフィルタ52qには、風力発電機20と電力系統30の接続点電圧Vのq軸電圧V
qが入力する。ハイパスフィルタ52qは、入力した接続点電圧Vのq軸電圧V
qの高調波成分V
hqだけを選択的に通過させる。
【0036】
ラプラス積分部54Adは、接続点電圧Vのd軸電圧V
dの高調波成分V
hdをラプラス積分(積分)する。ラプラス積分部54Aqは、接続点電圧Vのq軸電圧V
qの高調波成分V
hqをラプラス積分(積分)する。第1の実効値演算部54Bは、接続点電圧Vのd軸電圧V
dの高調波成分V
hdとq軸電圧V
qの高調波成分V
hqのラプラス積分値(積分値)の実効値を演算する。第2の実効値演算部54Cは、接続点電圧Vのd軸電圧V
dの高調波成分V
hdとq軸電圧V
qの高調波成分V
hqの実効値を演算する。除算部54Dは、接続点電圧Vのd軸電圧V
dの高調波成分V
hdとq軸電圧V
qの高調波成分V
hqの実効値を、接続点電圧Vのd軸電圧V
dの高調波成分V
hdとq軸電圧V
qの高調波成分V
hqのラプラス積分値(積分値)の実効値で除算することにより、代表周波数fを抽出する。
【0037】
固定ゲイン出力部56dと可変ゲイン出力部58d(第1のゲイン乗算部)は、接続点電圧Vのd軸電圧V
dの高調波成分V
hdに代表周波数fに反比例する可変ゲインK’(=K
0/f)を乗算することにより、d軸対応の電流指令値i
d*を演算する。固定ゲイン出力部56qと可変ゲイン出力部58q(第2のゲイン乗算部)は、接続点電圧Vのq軸電圧V
qの高調波成分V
hqに代表周波数fに反比例する可変ゲインK’(=K
0/f)を乗算することにより、q軸対応の電流指令値i
q*を演算する。
【0038】
図5は、第2実施形態の代表周波数抽出部54における第1の実効値演算部54Bと第2の実効値演算部54Cの具体的構成例を示している。過去N点の入力データ(d軸対応入力データ、q軸対応入力データ)をサンプリングして、それぞれ二乗して総和をとった後に、1/N倍して平方根をとることにより、実効値(積分の実効値)が演算される。
【0039】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている構成要素の大きさや形状、機能などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0040】
例えば、電力設備は、風力発電機や太陽光発電機などの共振を発生し得る発電設備でもよいし、鉄道用やアルミニウム製錬プラント用などの電源装置を持つ共振を発生し得る需要家設備でもよいし、直流送電変換器などの共振を発生し得る送配電設備でもよい(電力設備の適用対象には自由度がある)。