【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
実施例1における車載変速機の放熱構造は、エンジン車(車両の一例)の変速機に適用されるものである。以下、実施例1の構成を、「変速機の全体構成」と、「オイルパンの詳細構成」と、「波型リブの詳細構成」に分けて説明する。
【0011】
[変速機の全体構成]
図1は、実施例1における車載変速機の放熱構造の側面図(サイドビュー)を示す。以下、
図1に基づいて、実施例1の車載変速機の放熱構造の構成を説明する。
【0012】
前記変速機1(車載変速機)は、エンジン車に搭載される。この変速機1は、車両用変速機構として知られているベルト式無段変速機(CVT)である。前記変速機1は、変速機ケース2と、オイルパン3と、を有する。なお、変速機1の内部には、プライマリプーリやセカンダリプーリ等が設けられる。
【0013】
前記変速機ケース2は、ケース本体21と、サイドカバー22と、を有する。前記ケース本体21には、プライマリプーリやセカンダリプーリ等が内蔵される。前記サイドカバー22は、ケース本体21の側方(ケース本体21の左側)を覆う。即ち、サイドカバー22は、変速機ケース2の側部を構成する。このサイドカバー22の側面22a(以下、表面とも記載する。)には、複数の第1波型リブ4(波型リブ)が設けられる。また、サイドカバー22は、例えば、アルミダイカストにより形成される。複数の第1波型リブ4は、アルミダイカストによりサイドカバー22と一体に形成される。なお、第1波型リブ4の詳細構成については、後述する。
【0014】
前記オイルパン3は、ケース本体21の下方(
図1の下側LWR)を覆う。即ち、オイルパン3は、変速機ケース2の下側LWRに配置される。このオイルパン3には、オイルが溜められる(貯留される)。オイルは、ストレーナやオイルポンプ等を通じて各所へ供給される。なお、オイルパン3の詳細構成については、後述する。
【0015】
[オイルパンの詳細構成]
図2は、実施例1における車載変速機の放熱構造に適用されるオイルパンの外面の斜視図を示す。
図3は、実施例1における車載変速機の放熱構造に適用されるオイルパンの内面の斜視図を示す。
図4は、実施例1における車載変速機の放熱構造に適用されるオイルパンの平面部の概略部分端面図を示す。以下、
図1〜
図4に基づいて、実施例1のオイルパンの詳細構成を説明する。
【0016】
オイルパン3は、
図1に示すように、斜面部31と平面部32から構成される。斜面部31は、
図1に示すように、オイルパン3の前方FFに形成される。平面部32は、
図1に示すように、オイルパン3の後方FRに形成される。オイルパン3の外面3a(以下、表面または底面とも記載する。)には、
図1等に示すように、複数の第2波型リブ5(波型リブ)と、複数の放熱フィン6(フィン)と、が設けられる。オイルパン3の内面3b(以下、裏面とも記載する。斜面部31と平面部32の内面31b,32b)には、
図3に示すように、複数のディンプル部7(窪み部)が形成される。また、オイルパン3は、例えば、アルミダイカストにより形成される。
【0017】
斜面部31の外面31a(以下、表面または底面とも記載する。オイルパン3の外面3a)には、
図1と
図2に示すように、複数の放熱フィン6が設けられる。複数の放熱フィン6は、
図1と
図2に示すように、走行風A(外気)の流れ(車両前進走行による前方FFから後方FRへの気流)に平行に延びると共に、走行風Aの流れに交差する車幅方向X(左右方向LH,RH)に並べられる。即ち、複数の放熱フィン6は、
図2に示すように、走行風Aの流れに沿って設けられる。複数の放熱フィン6は、
図1と
図2に示すように、前方FFから後方FRへ向かうにしたがって、放熱フィン6の高さが徐々に低くなる。これにより、複数の放熱フィン6の高さは、
図1に示すように、最低地上高MGCの条件を満たすように設定される。ここで、「最低地上高MGC」とは、地表面Eから車体の一番低い部分までの距離のことである。また、放熱フィン6のうち、最も低くなる放熱フィン6の高さは、後述する波型高さHと同等になっている。複数の放熱フィン6は、アルミダイカストによりオイルパン3と一体に形成される。
【0018】
平面部32の外面32a(以下、表面または底面とも記載する。オイルパン3の外面3a)には、
図1と
図2に示すように、複数の第2波型リブ5が設けられる。複数の第2波型リブ5は、アルミダイカストによりオイルパン3と一体に形成される。なお、第2波型リブ5の詳細構成については、後述する。
【0019】
オイルパン3の内面3bには、
図3に示すように、複数のディンプル部7(窪み部)が形成される。複数のディンプル部7は、
図3に示すように、格子状に配置される。これにより、オイルパン3の内面3bには、
図3に示すように、複数のディンプル部7を密に配置することができる。ディンプル部7の形状は、
図4に示すように、オイルパン3の内面3b側から外面3a側へ窪んでいる。このディンプル部7の形状は、オイルパン3の複雑なオイル流れの各方向に対応可能な形状である。即ち、どのような方向のオイルの流れに対しても、ディンプル部7により渦流れを発生する。なお、各ディンプル部7の形状は、
図3と
図4に示すように、同様である。また、複数のディンプル部7は、アルミダイカストによりオイルパン3と一体に形成される。
【0020】
[波型リブの詳細構成]
図5は、実施例1における車載変速機の放熱構造に適用される波型リブと溝の関係を説明する説明図を示す。以下、
図1〜
図2と
図4〜
図5に基づいて、実施例1の波型リブの詳細構成を説明する。
【0021】
複数の第1波型リブ4と複数の第2波型リブ5は、
図1に示すように、変速機1の表面1sに設けられる。即ち、複数の第1波型リブ4は、
図1に示すように、サイドカバー22の表面22aの領域22Aに設けられる。複数の第2波型リブ5は、
図2に示すように、オイルパン3の外面3aすなわち平面部32の外面32aに設けられる。
【0022】
複数の第1波型リブ4は、
図1に示すように、走行風Aの流れに交差する上下方向Zに延びると共に、走行風Aの流れ方向Y1(前方FFから後方FRへの方向)に並べられる。なお、複数の第1波型リブ4は、エンジン車の進行方向(前方FF)に直交する上下方向Zに延びる。また、隣接する第1波型リブ4の間(第1波型リブ4と第1波型リブ4との間)には、
図1に示すように、第1溝41が形成される。第1波型リブ4と第1溝41の形状は、
図5に示すように、曲面形状(一般的にR形状と呼ばれる。)である。
【0023】
複数の第2波型リブ5は、
図2に示すように、走行風Aの流れに交差する車幅方向X(左右方向LH,RH)に延びると共に、走行風Aの流れ方向Y1に並べられる。なお、複数の第2波型リブ5は、エンジン車の進行方向(前方FF)に直交する車幅方向Xに延びる。また、隣接する第2波型リブ5の間(第2波型リブ5と第2波型リブ5との間)には、
図4に示すように、第2溝51が形成される。第2波型リブ5と第2溝51の形状は、
図4と
図5に示すように、曲面形状(一般的にR形状と呼ばれる。)である。
【0024】
次いで、複数の第2波型リブ5の波型高さHについて説明する。
波型高さHは、変速機1の表面1s(オイルパン3の表面3a、壁面)近傍の層流底層の厚さδ以上とする。ここで、「層流底層」とは、例えば
図4に示すように、乱流境界層の底側(表面側)であって、層流が発生している層のことである。この層流底層の厚さδは、流体の物性、流速により影響を受ける。また、表面(壁面)近傍の層流底層の厚さδは、レイノルズ数Reと代表長さdにて、下記の式(1)により算出される。
δ=63.5/(Re7/8)×d ・・・(1)
なお、複数の第1波型リブ4の波型高さHも同様であるので説明を省略する。ただし、複数の第1波型リブ4の場合、変速機1の表面1sは、第1波型リブ4にあってはサイドカバー22の表面22a(壁面)となる。
【0025】
次いで、第2波型リブ5のアスペクト比ARについて説明する。
第2波型リブ5において、
図5に示すように、波型高さ(溝の深さ)をHとし、第2溝51の溝幅をW1とし、隣接する第2波型リブ5の先端のリブ幅をW2とするとき、溝幅W1と波型高さHのアスペクト比ARは、下記の式(2)により算出される。
AR=W1/H ・・・(2)
【0026】
第2波型リブ5のアスペクト比ARは、第2溝51の第2溝内部52(溝内部)に渦流れVFを発生する値以上に設定される。このアスペクト比ARの値は、好ましくは0.450〜0.950の範囲であり、より好ましくは0.550〜0.850の範囲である。また、溝幅W1やリブ幅W2を小さくすると、複数の第2波型リブ5が設けられる領域(平面部32)の面積あたりにおける第2波型リブ5の数(第2溝51の数)が増える(
図10参照)。反対に、溝幅W1やリブ幅W2を大きくすると、複数の第2波型リブ5が設けられる領域(平面部32)の面積あたりにおける第2波型リブ5の数(第2溝51の数)が減る(
図10参照)。
なお、第1波型リブ4のアスペクト比ARも同様であるので説明を省略する。ただし、第1波型リブ4の場合、第2波型リブ5は、第1波型リブ4となり、第2溝51は、第1溝41となり、第2溝51の第2溝内部52(溝内部)は、第1溝41の第1溝内部42(溝内部)となる。また、複数の第2波型リブ5が設けられる領域は、複数の第1波型リブ4が設けられる領域(複数の第1波型リブ4にあってはサイドカバー22の表面22aの領域22A)となる。さらに、第2波型リブ5の数(第2溝51の数)は、第1波型リブ4の数(第1溝41の数)となる。
【0027】
次に、作用を説明する。
実施例1の車載変速機の放熱構造における作用を、「フィンと波型リブの放熱量の比較」と、「アスペクト比による放熱作用」と、「放熱フィンと波型リブによる走行風の流れ作用」と、「車載変速機の放熱構造の特徴作用」に分けて説明する。
【0028】
[フィンと波型リブの放熱作用]
図6は、テストピース(試験片)の表面近傍を流れる風速(例えば、走行風A)と、投影面積あたりの熱伝達量(放熱量)との関係図を示す。なお、
図6の平滑平板(一点鎖線)は、平板の表面が平滑である。
図6のフィン(破線)は、平板の表面にフィンを設けた構成である。
図6の波型リブ(実線)は、平板の表面に上記の第1波型リブ4/第2波型リブ5を設けた構成である。また、
図6の図中の数字は、フィンまたは波型リブの高さである。以下、
図6に基づいて、実験により確認された「フィンと波型リブの放熱作用」を説明する。
【0029】
図6に示すように、風速を増加させるほど、平板に対する放熱効果が大きくなる傾向が確認された。「平滑平板」と「フィン及び波型リブ」を比較すると、フィン及び波型リブは平滑平板に対して熱伝導率が大きくなる。
【0030】
また、
図6に示すように、フィンの高さを高くするほど投影面積当たりの熱伝導率は大きくなる。
図6に示すように、波型高さHを高くして、アスペクト比ARの値をより好ましい値に近づけるほど投影面積当たりの熱伝導率は大きくなる。
【0031】
図6において、フィンの高さと波型高さHを同等の「4[mm]」にして比較すると、波型リブはフィンに対して熱伝導率を大きくすることができる。また、波型高さHを「2[mm]」としフィンの高さを「4[mm]」として比較しても、波型リブ4はフィンに対して熱伝導率を大きくすることができる。一方で、フィンの高さが比較的高い領域(17[mm]、30[mm])では、フィンの高さが低い領域と比較すると、風速が弱くてもフィンの熱伝導率を大きくすることができる。
【0032】
このため、平板にフィンや波型リブを設けるとき、それらのフィンや波型リブの高さに対する制約がある場合には、フィンよりも波型リブを設けた方が熱伝導率を大きくすることができる。
【0033】
[アスペクト比による放熱作用]
図7は、第1アスペクト比の走行風の流れを説明する説明図を示す。
図8は、第2アスペクト比(比較例)の走行風の流れを説明する説明図を示す。
図9は、第3アスペクト比(比較例)の走行風の流れを説明する説明図を示す。
図10は、第1アスペクト比〜第3アスペクト比の平面部の面積あたりにおける第2波型リブ5の数の概略断面図を示す。
図11は、実施例1におけるアスペクト比と熱伝達量(放熱量)との熱伝達特性の関係図を示す。なお、
図7〜
図9の波型高さHは、変速機1の表面1s(壁面)近傍の層流底層の厚さ以上である。また、平面部32の面積あたり(
図10の面積に仮定した場合の面積あたり)における第2波型リブ5の数(第2溝51の数)の大小関係は、
図10に示すように、「第2アスペクト比AR2>第1アスペクト比AR1>第3アスペクト比AR3」となっている。以下、
図7〜
図11に基づいて、第2波型リブ5のアスペクト比ARによる放熱作用を説明する。
【0034】
まず、第1アスペクト比AR1では、
図7に示すように、第2溝内部52に渦流れVFが発生する。第1アスペクト比AR1では、
図7に示すように、第2溝内部52に第1渦流れVF1と第2渦流れVF2が発生する。即ち、第2溝内部52の手前側(走行風Aに近い側)の第1渦流れVF1は、
図7に示すように、走行風Aの一部の流れが第2波型リブ5に沿って流れることにより発生する。第2溝内部52の奥側(走行風Aから遠い側)の第2渦流れVF2は、
図7に示すように、第1渦流れVF1の一部の流れにより発生する。このため、第2渦流れVF2により、オイルパン3の表面3a付近の空気(層流底層)が撹拌され、オイルパン3の表面3a付近及びその周囲温度を低下させる(撹拌作用)。また、第2波型リブ5の波型高さHを層流底層以上の高さとすることにより、オイルパン3の表面3a付近における流速の遅い部分の境界層を破壊し、より温度の低い空気をオイルパン3の表面3a付近に近づけることができる。即ち、層流底層と乱流境界層との空気が混合され、層流底層と乱流境界層の温度差が縮小される。そして、オイルパン3の表面3a温度と渦流れVFの空気(外気)温度との温度差が拡大される。これにより、オイルパン3の放熱が促進される。また、撹拌した第2渦流れVF2の一部の流れが、
図7に示すように、第1渦流れVF1へ流れ、第1渦流れVF1から走行風Aへ流れる。なお、
図7に示すように、第1渦流れVF1と第2渦流れVF2の渦の流れは逆になっている。
【0035】
このように、第2溝内部52に入った外気(走行風A)は、
図7に示すように、渦流れVFにより、第2溝内部52を撹拌する。そして、第2溝内部52を撹拌した空気は、
図7に示すように、渦流れVFと走行風Aにより、第2溝内部52から走行風Aへ流れる。つまり、渦流れVFと走行風Aにより、第2溝内部52の空気は入れ替えられるので、オイルパン3の放熱が促進される。加えて、第2波型リブ5により、オイルパン3の放熱が促進される。
【0036】
従って、第1アスペクト比AR1では、
図11に示すように、第2アスペクト比AR2と第3アスペクト比AR3よりも熱伝導率が大きくなる。
【0037】
次いで、第2アスペクト比AR2では、
図8に示すように、第2溝51の入口付近に渦流れVFが発生する。しかし、第2アスペクト比AR2では、
図8に示すように、第1アスペクト比AR1のように第2溝内部52に渦流れVFが発生しない。即ち、渦流れVFは、
図8に示すように、走行風Aの一部の流れが第2波型リブ5にあたることにより発生する。このため、隣接する第2波型リブ5の間の空気は撹拌されるが、
図8に示すように、オイルパン3の表面3a付近の空気は撹拌されない。このため、第2溝内部52の空気は略入れ替えられず、第2溝内部52で滞留する。なお、第2波型リブ5により、オイルパン3の放熱が促進される。
【0038】
従って、第2アスペクト比AR2では、
図11に示すように、第1アスペクト比AR1よりも熱伝導率が小さくなる。
【0039】
次いで、第3アスペクト比AR3では、
図9に示すように、第2溝内部52に渦流れVFが発生する。即ち、第2溝内部52の渦流れVFは、
図9に示すように、走行風Aの一部の流れが第2波型リブ5にあたることにより発生する。このため、
図9に示すように、渦流れVFにより、オイルパン3の表面3a付近の空気(層流底層)が撹拌され、オイルパン3の表面3a付近及びその周囲温度を低下させる(撹拌作用)。また、第3アスペクト比AR3では、第1アスペクト比AR1と同様に、層流底層と乱流境界層との空気が混合され、層流底層と乱流境界層の温度差が縮小される。そして、オイルパン3の表面3a温度と渦流れVFの空気(外気)温度との温度差が拡大される。これにより、オイルパン3の放熱が促進される。また、撹拌した渦流れVFの一部の流れが、
図9に示すように、走行風Aへ流れる。また、第2波型リブ5により、オイルパン3の放熱が促進される。
【0040】
しかし、第3アスペクト比AR3では、
図10に示すように、第1アスペクト比AR1よりも、平面部32の面積あたりにおける第2波型リブ5の数(第2溝51の数)が減る。このため、第2波型リブ5によるオイルパン3からの放熱量は、第1アスペクト比AR1よりも、第3アスペクト比AR3の方が小さい。
【0041】
従って、第3アスペクト比AR3では、
図11に示すように、第1アスペクト比AR1よりも熱伝導率が小さくなる。言い換えると、第3アスペクト比AR3のトータルの放熱量は、第1アスペクト比AR1のトータルの放熱量よりも小さい。
【0042】
このように、アスペクト比ARに対する熱伝導率が異なる。このような結果から、
図11の熱伝達特性(放熱効果特性)が得られた。アスペクト比ARの値としては、
図11に示すように、好ましくは熱伝導率がB1以上となるアスペクト比の範囲である。即ち、第1アスペクト比AR1を含み、第2アスペクト比AR2と第3アスペクト比AR3が除外された範囲である。言い換えると、アスペクト比ARの値としては、
図11に示すように、好ましくは熱伝導率がB1以上となるアスペクト比AR11〜AR14の範囲である。また、アスペクト比ARの値としては、
図11に示すように、より好ましくは熱伝導率がB2以上となるとなるアスペクト比の範囲である。即ち、第1アスペクト比AR1に近いアスペクト比の範囲である。言い換えると、アスペクト比ARの値としては、
図11に示すように、より好ましくは熱伝導率がB2以上となるアスペクト比AR12〜AR13の範囲である。
なお、第1波型リブ4のアスペクト比による放熱作用も同様であるので説明を省略する。ただし、第1波型リブ4の場合、第2波型リブ5は、第1波型リブ4となり、第2溝内部52は、第1溝内部42となり、第2波型リブ5の数(第2溝51の数)は、第1波型リブ4の数(第1溝41の数)となる。また、平面部32は、サイドカバー22の表面22aの領域22Aとなる。さらに、オイルパン3の表面3aは、サイドカバー22の表面22aとなり、オイルパン3からの放熱は、サイドカバー22からの放熱となる。なお、領域22Aは、サイドカバー22の表面22aのうち、比較的に温度が高くなる領域である。
【0043】
[放熱フィンと波型リブによる走行風の流れ作用]
図12は、実施例1における車載変速機の放熱構造に適用されるオイルパンの概略底面図を示す。以下、
図12に基づいて、放熱フィンと波型リブによる走行風の流れ作用を説明する。
【0044】
まず、放熱フィン6には、前方FFの様々な方向から走行風Aが流れてくる。しかし、放熱フィン6は走行風Aの流れに平行に延びるので、走行風Aの流れは放熱フィン6により整流される(整流作用、整流流れC)。言い換えると、走行風Aの流れは放熱フィン6により一方向に整えられる。
【0045】
次いで、第2波型リブ5側の放熱フィン6の高さは波型高さHと同等であるから、放熱フィン6を通過した走行風Aの流れは、第2波型リブ5に直交する。このため、第2溝内部52において、より渦流れを発生させやすくなる。
【0046】
このように、走行風Aの流れの上流に放熱フィン6が配置され、走行風Aの流れの下流に第2波型リブ5が配置されることにより、走行風Aの流れが整流され、第2溝内部52に、より渦流れを発生させやすくなる。このため、撹拌作用が向上するので、オイルパン3の放熱がより促進されやすくなる。
【0047】
[車載変速機の放熱構造の特徴作用]
例えば、車両の自動変速機は、車両の駆動により、自動変速機内部の軸受やプーリ等の部品が発熱する。この発熱により、それらの部品に塗布されたグリース(潤滑剤)の温度やケース内の空気の温度が上昇する。これにより、ケース内の温度が上昇する。また、オイルパン3からそれらの部品へオイルが供給される。オイルは、自動変速機内部の部品の潤滑油となると共に、それらの部品の温度上昇を抑制する。このため、オイルパン3に戻るオイル温度は、供給されるオイル温度よりも高くなる。なお、オイルは、オイルパン3から自動変速機内部の部品へ供給され、自動変速機内部の部品からオイルパン3へ戻る。即ち、オイルはオイルパン3と自動変速機内部の部品を循環し、自動変速機内部の部品に繰り返しオイルが供給される。
【0048】
これに対し、従来の車両の自動変速機は、オイル(作動油)を貯留するオイルパンを備えている。オイルパンには、フィンが設けられている。また、フィンを設ける構成では、放熱量を確保するために、フィンの高さを高くする必要がある。
【0049】
しかし、フィンを設けたオイルパンを設置するためには、オイルパンに加えフィンの分の設置スペースが必要となる。この設置スペースは、車両の最低地上高条件を満たすために十分に取れない場合がある。この場合には、その最低地上高条件を満たす(レイアウト余裕がない)ために、フィンの高さを短くしなければならず、フィンのレイアウトを犠牲にしていた。このため、オイルパンの放熱を促進できないおそれがある、という課題がある。
【0050】
これに対し、実施例1では、波型高さHを層流底層の厚さδ以上とし、溝幅W1と波型高さHのアスペクト比ARを、第1溝内部42及び第2溝内部52に渦流れを発生する値(アスペクト比AR11)以上に設定する。
即ち、第1溝内部42及び第2溝内部52の渦流れVFにより、変速機1の表面1s付近の空気が撹拌される。このため、層流底層と乱流境界層との空気が混合され、層流底層と乱流境界層の温度差が縮小される。そして、変速機1の表面1s温度と渦流れVFの空気(外気)温度との温度差が拡大される。これにより、変速機1の放熱が促進される(変速機1と外気との熱交換)。
この結果、車両が走行するとき、変速機1の放熱を促進することができる。
【0051】
加えて、波型高さHは放熱フィン6の高さよりも低くすることができるので、レイアウト余裕がなくても変速機1の放熱を促進することができる。このため、変速機1の温度上昇抑制による信頼性が向上する。また、フィンが設けられない場合であっても、第1波型リブ4と第2波型リブ5を設けることができるので、外部冷却デバイスが削減できる。
【0052】
実施例1では、オイルパン3の平面部32に、複数の第2波型リブ5を設ける。また、オイルパン3の斜面部31に、複数の放熱フィン6を設ける。
例えば、オイルパンにフィンを設けるとき、オイルパンにおいて最低地上高の制約が厳しく(オイルパンの一番低い部分が最低地上高の付近にある場合など、フィンを設けるレイアウト余裕がなく)、オイルパンの底面にフィンを設けることができないおそれがある。
これに対し、実施例1では、レイアウト余裕のないオイルパン3の平面部32(オイルパン3の底面3a)に複数の第2波型リブ5が設けられるので、オイルパン3の放熱性を確保することができる。また、レイアウト余裕があるオイルパン3の斜面部31に複数の放熱フィン6が設けられる。このため、複数の放熱フィン6により、オイルパン3の放熱性を確保することができる。これにより、オイルパン3の表面3a温度と渦流れVFの空気(外気)温度との温度差が拡大されるので、オイルパン3の放熱が促進される(オイルパン3と外気との熱交換)。
従って、車両が走行するとき、オイルパン3の放熱を促進することができる。
【0053】
加えて、走行風Aの流れは放熱フィン6により整流される。このため、放熱フィン6と第2波型リブ5との組み合わせによって、より第2溝内部52に渦流れVFを発生させることができる。従って、オイルパン3の放熱量をより確保することができる。
【0054】
実施例1では、オイルパン3の内面3bに、複数のディンプル部7を形成する。
例えば、オイルパン内のオイル流れは複雑であるため、オイルパンの内面に波型リブを形成しても、複雑なオイル流れの各方向に放熱効果を発揮できない。
これに対し、実施例1では、オイルパン3の内面3bに、複数のディンプル部7が形成されるので、どのような方向のオイルの流れに対しても、ディンプル部7により渦流れを発生する。
このため、その渦流れにより、ディンプル部7及びその周囲すなわちオイルパン3の内面3b付近のオイルが撹拌される。これにより、第2波型リブ5を設けた場合と同様に、渦流れのオイル温度とオイルパン3の内面3b付近との温度差が拡大される。これにより、オイルの放熱が促進される(オイルとオイルパン3との熱交換)。
従って、車両が走行するとき、オイルの放熱を促進することができる。
【0055】
実施例1では、サイドカバー22の側面22aに、複数の第1波型リブ4を設ける。
即ち、第1溝内部42の渦流れVFにより、サイドカバー22の側面22a付近の空気が撹拌される。このため、層流底層と乱流境界層との空気が混合され、層流底層と乱流境界層の温度差が縮小される。そして、サイドカバー22の側面22a温度と渦流れVFの空気(外気)温度との温度差が拡大される。これにより、サイドカバー22の放熱が促進される(サイドカバー22と外気との熱交換)。
従って、車両が走行するとき、サイドカバー22の放熱を促進することができる。
【0056】
実施例1では、第1波型リブ4と第1溝41の形状を曲面形状(R形状)とした。また、第2波型リブ5と第2溝51の形状を曲面形状(R形状)とした。このため、型から成形品を取り出しやすくなる。従って、ダイカストによる生産性(量産性)が向上する。
【0057】
次に、効果を説明する。
実施例1における車載変速機の放熱構造にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0058】
(1) 車両に変速機1(サイドカバー22、オイルパン3)が搭載される。変速機1(サイドカバー22、オイルパン3)の表面1s(側面22a、表面3a)に、走行風Aの流れに交差する方向(上下方向Z、車幅方向X)に延びると共に、走行風Aの流れ方向Y1に並べられた複数の波型リブ(第1波型リブ4、第2波型リブ5)を設ける。
波型リブ(第1波型リブ4、第2波型リブ5)と波型リブ(第1波型リブ4、第2波型リブ5)との間に溝(第1溝41、第2溝51)が形成される。
波型リブ(第1波型リブ4、第2波型リブ5)の波型高さHを、表面近傍の層流底層の厚さδ以上とする。
溝(第1溝41、第2溝51)の溝幅W1と波型高さHのアスペクト比ARを、溝(第1溝41、第2溝51)の溝内部(第1溝内部42、第2溝内部52)に渦流れVFを発生する値以上に設定する(
図5)。
このため、車両が走行するとき、変速機1の放熱を促進することができる。
【0059】
(2) 変速機1の変速機ケース2の下側LWRに、オイルを溜めるオイルパン3を有する。
オイルパン3の平面部32に、複数の波型リブ5を設ける。
オイルパン3の斜面部31に、走行風Aの流れに平行に延びると共に、走行風Aの流れに交差する方向(車幅方向X)に並べられた複数のフィン(放熱フィン6)を設ける(
図1と
図2)。
このため、(1)の効果に加え、車両が走行するとき、オイルパン3の放熱を促進することができる。
【0060】
(3) 変速機1の変速機ケース2の下側LWRに、オイルを溜めるオイルパン3を有する。
オイルパン3の内面3bに、オイルパン3の内面3b側から外面3a側へ窪む複数のディンプル部7を形成する(
図3)。
このため、(1)〜(2)の効果に加え、車両が走行するとき、オイルの放熱を促進することができる。
【0061】
(4) 変速機1は、ケース本体21とサイドカバー22と、を有する。
サイドカバー22の側面22aに、複数の波型リブ(第1波型リブ4)を設ける(
図1)。
このため、(1)〜(3)の効果に加え、車両が走行するとき、サイドカバー22の放熱を促進することができる。
【0062】
以上、本開示の車載変速機の放熱構造を実施例1に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0063】
実施例1では、サイドカバー22に複数の第1波型リブ4を設け、オイルパン3に複数の第2波型リブ5を設ける例を示した。しかし、サイドカバー及びオイルパンの何れか一方にのみ設けても良い。また、波型リブは、サイドカバーやオイルパンに限らず、変速機の表面に設けられれば良い。
【0064】
実施例1では、オイルパン3の平面部32に、第2波型リブ5を設ける例を示した。しかし、オイルパン3の外面3aすなわち斜面部31と平面部32の両方に波型リブを設けても良い。言い換えると、オイルパンの斜面部に、放熱フィンに代えて波型リブを設けても良い。
【0065】
実施例1では、複数の第1波型リブ4と複数の第2波型リブ5を、エンジン車の進行方向(前方FF)に直交する上下方向Zに延びる例を示した。しかしこれに限らず、複数の第1波型リブ4と複数の第2波型リブ5を、エンジン車の進行方向(前方FF)に交差する上下方向Zに延びるようにしても良い。
【0066】
実施例1では、第1波型リブ4と第1溝41の形状及び第2波型リブ5と第2溝51の形状を、曲面形状(一般的にR形状と呼ばれる。)とする例を示した。しかし、これに限られない。例えば、
図13(第1変形例)〜
図15(第3変形例)に示すように、波型リブと溝を、各種形状(三角形状等)としても良い。このように
図13〜
図15に示すように構成しても、実施例1の(1)〜(4)に記載した効果が得られる。
【0067】
実施例1では、各ディンプル部7の形状を同様とする例を示した。しかし、各ディンプルの形状(大きさや窪みの深さ等を含む)を異ならせても良い。例えば、ディンプル部の形状を2種類としても良い。要するに、各ディンプルの形状は、オイルパンの複雑なオイル流れの各方向に対応可能な形状であれば良い。
【0068】
実施例1では、複数の第1波型リブ4は、アルミダイカストによりサイドカバー22と一体に形成される例を示した。また、複数の第2波型リブ5と複数の放熱フィン6と複数のディンプル部7は、アルミダイカストによりオイルパン3と一体に形成される例を示した。しかし、アルミダイカストにより製造する例に限らず、樹脂成型や板金加工(鉄)等により製造しても良い。
【0069】
実施例1では、走行風Aの流れを、車両前進走行による前方FFから後方FRへの気流とする例を示した。しかし、走行風の流れを、車両後退走行による後方FRから前方FFへの気流としても良い。
【0070】
実施例1では、変速機1を、ベルト式無段変速機(CVT)とする例を示した。しかし、変速機は、有段変速機などの自動変速機でも良いし、手動変速機でも良い。
【0071】
実施例1では、本開示の車載変速機の放熱構造を、エンジン車の変速機に適用する例を示した。しかし、ハイブリッド車両や電気自動車等の変速機に対しても、本開示の車載変速機の放熱構造を適用しても良い。要するに、車両に搭載される変速機であれば、本開示の車載変速機の放熱構造を適用することができる。