(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
<エアバッグ用基布>
本発明の一実施形態のエアバッグ用基布は、下記式(1)で定義される経方向のエネルギー吸収特性が30〜50であり、かつ、下記式(2)で定義される緯方向のエネルギー吸収特性が30〜50であることを特徴とする。このようなエアバッグ用基布は、多様なエアバッグの装着部位(運転席、助手席、サイド、カーテンエアバッグ等)にエアバッグとして適用され得る。エアバッグは、上記エネルギー吸収特性を有するエアバッグ用基布からなるため、多様な衝突形態において衝突時のエネルギーを充分に吸収し得る。以下、詳細に説明する。
(式(1))
経方向のエネルギー吸収特性=経方向のエネルギー吸収量/経糸のカバーファクター
式(1)中、経方向のエネルギー吸収量は、経方向の引張強度および破断伸度を測定する際において、測定開始からサンプルが破断するまでに加えられる応力の積分値である。(式(2))
緯方向のエネルギー吸収特性=緯方向のエネルギー吸収量/緯糸のカバーファクター
式(2)中、緯方向のエネルギー吸収量は、緯方向の引張強度および破断伸度を測定する際において、測定開始からサンプルが破断するまでに加えられる応力の積分値である。
【0012】
(エネルギー吸収特性の定義)
まず、エネルギー吸収特性の定義について、
図1を参照してより詳細に説明する。本実施形態において、エネルギー吸収特性は、経方向および緯方向のそれぞれについて測定されるエネルギー吸収量を、経方向および緯方向のそれぞれについて算出されるカバーファクターによって除することにより算出されるパラメータである。
図1は、後述する実施例1のエアバッグ用基布の引張強度および破断伸度を測定する際に得られる経方向の応力−ひずみ曲線L1を表すグラフである。応力−ひずみ曲線L1は、後述するJIS L 1096:2010 8.14 A法(ストリップ法)に基づいて引張強度および破断伸度を測定することにより得られる。
図1において、横軸はひずみ(mm)を表し、縦軸は応力(N/mm
2)を表す。引張強度および破断伸度を測定することにより、測定開始からサンプルが破断するまでの各時点における応力が所定時間毎に測定される。応力−ひずみ曲線L1は、所定時間毎に測定された応力の値をプロットし、プロットされたそれぞれの応力の値を結んで得られる曲線である。
【0013】
・経方向のエネルギー吸収量について
経方向のエネルギー吸収量は、
図1に示される網掛け部分(領域R)として表される。領域Rは、上記式(1)に示されるように、測定開始からサンプルが破断するまでに加えられる応力の積分値である。より具体的には、経方向のエネルギー吸収量は、たとえば以下の式(3)にしたがって算出される微小領域を原点から破断点まで総和することにより算出し得る。このような経方向のエネルギー吸収量は、測定開始からサンプルが破断されるまでに加えられた応力の総和の近似値に相当する。測定間隔が充分に短い場合(たとえば50mm秒ごとに測定する場合)には、この近似値は、実質的には応力の総和とみなし得る。
(式(3))
微小領域(N/mm)=(n+1番目のひずみ(mm)−n番目のひずみ(mm))×(n+1番目の応力)(N/mm
2)
ただし、n番目とは、任意の測定時点であり、n+1番目とはn番目の測定時点から50m秒後の測定時点である。そのため、n+1番目のひずみ(mm)とは、n+1番目の測定時におけるひずみの値(mm)を示し、n+1番目の応力(N/mm
2)とは、n+1番目の測定時における応力の値(N/mm
2)を示す。
【0014】
図2は、実施例1のエアバッグ用基布の引張強度および破断伸度を測定する際に得られる経方向の応力−ひずみ曲線L1と、比較例1のエアバッグ用基布の引張強度および破断伸度を測定する際に得られる緯方向の応力−ひずみ曲線L2とを表すグラフである。
図2に示されるように、本実施形態のサンプルは、応力−ひずみ曲線L1で示されるとおり、最大応力が比較的大きく、かつ、破断するまでに要するひずみも大きい。一方、応力−ひずみ曲線L2で示されるサンプルは、最大応力が大きく、破断するまでに要するひずみが小さい。そのため、結果的に、応力−ひずみ曲線L1に基づいて算出されるエネルギー吸収量は、応力−ひずみ曲線L2に基づいて算出されるエネルギー吸収量よりも大きい。このような大きなエネルギー吸収量は、得られるエアバッグが多様な衝突形態に対応するために重要である。
【0015】
なお、緯方向のエネルギー吸収量は、経方向のエネルギー吸収量と同様に求め得る。そのため、重複する説明は、省略する。
【0016】
・経方向のカバーファクターについて
経方向のカバーファクターとは、糸間の隙間の程度を表すパラメータである。本実施形態において、経方向のカバーファクターは、以下の式(4)によって定義される。なお、総繊度は、JIS L1096:2010 8.9.1.1 B法に基づき算出し得る。また、織密度は、JIS L 1096:2010 8.6.1 A法に基づき算出し得る。
(式(4))
経方向のカバーファクター=(経糸の総繊度(dtex))
1/2×経糸の織密度(本/25.4mm)
【0017】
なお、緯方向のカバーファクターは、経方向のカバーファクターと同様に求め得る。そのため、重複する説明は、省略する。
【0018】
・経方向のエネルギー吸収特性について
ところで、上記のとおり、エアバッグは、多様な装着部位(運転席、助手席、サイド、カーテンエアバッグ等)に装着される。それぞれの装着部位において、エアバッグ用基布を構成する糸(以下分解糸ともいう)の総繊度や織密度の最適範囲が異なる。そこで、本実施形態のエアバッグは、上記した経方向のエネルギー吸収量の多寡ではなく、式(1)に示されるように、経方向のエネルギー吸収量を経糸のカバーファクターで除することにより得られる経方向のエネルギー吸収特性が所定の範囲になることを特徴としている。経方向のエネルギー吸収特性は、繊度あたりの経方向のエネルギー吸収量が規定されているため、経糸の総繊度や経糸の織密度の影響を充分に排除し得る。その結果、経方向のエネルギー吸収特性は、多様な衝突形態だけでなく、多様な装着部位にも適用し得る。
【0019】
なお、緯方向のエネルギー吸収特性は、経方向のエネルギー吸収特性と同様に、式(2)に基づいて算出し得る。そのため、重複する説明は、省略する。
【0020】
本実施形態のエアバッグ用基布は、経方向のエネルギー吸収特性が30以上である。経方向のエネルギー吸収特性は、33以上であることが好ましく、35以上であることがより好ましい。また、経方向のエネルギー吸収特性は、50以下である。経方向のエネルギー吸収特性は、45以下であることが好ましく、43以下であることがより好ましい。また、本実施形態のエアバッグ用基布は、緯方向のエネルギー吸収特性が30以上である。緯方向のエネルギー吸収特性は、33以上であることが好ましく、35以上であることがより好ましい。また、緯方向のエネルギー吸収特性は、50以下である。緯方向のエネルギー吸収特性は、45以下であることが好ましく、43以下であることがより好ましい。エアバッグ用基布の経方向および緯方向におけるエネルギー吸収特性が30〜50である場合、得られるエアバッグは、多様な装着部位(運転席、助手席、サイド、カーテンエアバッグ等)に装着され得るとともに、車体の変形と乗員を同時に受け止める等、多様な衝突形態に対応し得る。一方、経方向または緯方向におけるエネルギー吸収特性が30未満である場合、車体の変形と乗員を同時に受け止めた際、応力集中によりクッションがダメージを受ける可能性がある。また、経方向または緯方向におけるエネルギー吸収特性が50を超える場合、エアバッグが展開して乗員を受け止めている間に、分解糸が塑性変形し、総繊度が小さくなる傾向がある。この場合、エアバッグ用基布は、とりわけノンコートのエアバッグ用基布である場合に通気度が高くなりやすい。その結果、得られるエアバッグは、展開時の内圧が不足する傾向がある。
【0021】
次に、本実施形態のエアバッグ用基布が好適に備える各種特性について説明する。
【0022】
(エアバッグ用基布の破断伸度)
本実施形態のエアバッグ用基布において、経方向の破断伸度は、35%以上であることが好ましく、44%以上であることがより好ましく、45%以上であることがさらに好ましい。また、経方向の破断伸度は、55%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、48%以下であることがさらに好ましい。一方、緯方向の破断伸度は、35%以上であることが好ましく、44%以上であることがより好ましく、45%以上であることがさらに好ましい。また、緯方向の破断伸度は、55%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、48%以下であることがさらに好ましい。さらに、経方向の破断伸度と緯方向の破断伸度との平均は、35%以上であることが好ましく、44%以上であることがより好ましく、45%以上であることがさらに好ましい。また、経方向の破断伸度と緯方向の破断伸度との平均は、55%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、48%以下であることがさらに好ましい。経方向の破断伸度、緯方向の破断伸度、または、経方向と緯方向との破断伸度の平均が上記範囲内である場合、得られるエアバッグは、展開時にエアバッグ用基布が適度に伸びやすい。そのため、エアバッグ用基布は、コンパクト化されやすく、材料コストが低減されやすい。また、得られるエアバッグは、車体の変形や乗員を受け止める際に、応力が集中しにくい。その結果、クッションへのダメージが軽減されやすい。なお、エアバッグ用基布の破断伸度は、JIS L 1096:2010 8.14 A法(ストリップ法)に基づいて算出し得る。
【0023】
(分解糸の機械特性)
本実施形態のエアバッグ用基布を構成する分解糸は、通気度の低い基布を得るために、経糸、緯糸のそれぞれがマルチフィラメントであることが好ましい。また、経糸および緯糸は、マルチフィラメント糸の強度、伸度などを所望の範囲とすることが容易である点から合成繊維マルチフィラメント糸であることが好ましい。
【0024】
経糸および緯糸の総繊度は、それぞれ145dtex以上であることが好ましく、200dtex以上であることがより好ましく、300dtex以上であることがさらに好ましい。また、経糸および緯糸の総繊度は、それぞれ720dtex以下であることが好ましく、600dtex以下であることがより好ましく、500dtex以下であることがさらに好ましい。経糸および緯糸の総繊度が上記範囲内である場合、得られるエアバッグ用基布の引張強度や引裂強力が高められやすく、エアバッグの用途に適切な機械特性が得られやすい。また、得られるエアバッグ用基布は、コンパクト性および軽量性がより優れる。特に、総繊度が200dtex以上である場合や、600dtex以下である場合、機械特性と、コンパクト性および軽量性とが両立されやすい。なお、経糸および緯糸の総繊度は、JIS L 1096:2010 8.9.1.1 B法に基づいて算出し得る。
【0025】
ところで、経糸および緯糸の総繊度が同じである場合、単繊維繊度が小さいと、フィラメント数が多くなる。この場合、エアバッグ用基布の製造工程やエアバッグ作動時において、経糸と緯糸とが摩擦し、単繊維が傷つく場合がある。後述するエアバッグ用基布の引張強度や破断伸度を測定する際も同様に、経糸と緯糸との摩擦により単繊維が傷つき、最終的にはエアバッグ用基布そのものが破断し得る。その際、傷ついた単繊維が先に破断するため、傷ついていない単繊維のみに応力が加えられることとなる。そのため、フィラメント数が小さいと、傷ついた単繊維の破断が、エアバッグ用基布全体の破断に与える影響が大きくなる 。そこで、フィラメント数を示す単繊維繊度は、適度に小さい方が好ましい。
【0026】
具体的には、経糸および緯糸の単繊維繊度は、それぞれ2dtex以上であることが好ましく、3dtex以上であることがより好ましい。また、経糸および緯糸の単繊維繊度は、10dtex以下であることが好ましく、7dtex以下であることがより好ましく、5dtex以下であることがさらに好ましい。経糸および緯糸の単繊維繊度が上記範囲内である場合、得られるエアバッグ用基布は、良好な機械特性とエネルギー吸収特性を備え得る。また、このような単繊維繊度の経糸および緯糸は、高強度となるよう製造しやすい。また、このような単繊維繊度の経糸および緯糸は、フィラメント数が適切であり、得られるエアバッグ用基布は、破断強度が大きくなりやすく、機械特性とエネルギー吸収特性とが向上しやすい。さらには、得られるエアバッグ用基布は、通気度を低く抑えることができる。なお、単繊維繊度は、上記総繊度をフィラメント数で除することにより算出し得る。
【0027】
経糸および緯糸の引張強度は、それぞれ4.5cN/dex以上であることが好ましく、5.0cN/dex以上であることがより好ましく、5.3cN/dex以上であることがさらに好ましい。また、経糸および緯糸の引張強度は、それぞれ6.5cN/dex以下であることが好ましく、6.0cN/dex以下であることがより好ましく、5.7cN/dex以下であることがさらに好ましい。経糸および緯糸の引張強度が上記範囲内である場合、得られるエアバッグ用基布は、優れたエネルギー吸収特性と、機械特性とが両立されやすい。なお、経糸および緯糸の引張強度は、JIS L 1013:2010
8.5.1に基づいて算出し得る。
【0028】
経糸および緯糸の破断伸度は、それぞれ23%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、35%以上であることがさらに好ましい。また、経糸および緯糸の破断伸度は、45%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、39%以下であることがさらに好ましい。経糸および緯糸の破断伸度が上記範囲内である場合、得られるエアバッグ用基布は、優れたエネルギー吸収特性と、機械特性とが両立されやすい。また、得られるエアバッグは、展開時に乗員等によって加えられる応力を分散させやすい。なお、経糸および緯糸の破断伸度は、JIS L 1013:2010 8.5.1に基づいて算出し得る。
【0029】
経糸のカバーファクターと緯糸のカバーファクターとの和(総カバーファクター)は、1900以上であることが好ましく、2000以上であることがより好ましく、2100以上であることがさらに好ましい。また、総カバーファクターは、2400以下であることが好ましく、2350以下であることがより好ましく、2300以下であることがさらに好ましい。総カバーファクターが上記範囲内である場合、得られるエアバッグは、展開時に形状が維持されやすく、通気度が低く、かつ、優れた機械特性を示しやすい。
【0030】
(経糸および緯糸の原料)
経糸および緯糸を構成するポリマーは、特に限定されない。一例を挙げると、ポリマーは、ナイロン6・6、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン5・6、ナイロン6・10等のポリアミドや、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルの、ホモポリマー、共重合ポリマー等、高分子配列体繊維が得られるポリマーである。これらの中でも、ポリマーは、得られるエアバッグ用基布に耐衝撃性を付与しやすい点から、ポリアミド、ポリエステルであることが好ましく、ナイロン6・6やナイロン6等のポリアミドであることがより好ましい。
【0031】
なお、これらのポリマーを用いて、経糸および緯糸を製造する際、製造工程や加工工程での生産性や特性を改善するために、各種添加剤が配合されてもよい。このような添加剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料、難燃剤等が例示される。
【0032】
(エアバッグ用基布の厚み)
エアバッグ用基布の厚みは、コンパクト性の点からは薄い方がよい。しかしながら、必要な機械特性を得るために、厚みは、0.15mm以上であることが好ましく、0.20mm以上であることがより好ましく、0.23mm以上であることがさらに好ましく、0.28mm以上であることが特に好ましい。また、エアバッグ用基布の厚みは、0.40mm以下であることが好ましく、0.38mm以下であることがより好ましく、0.34mm以下であることがさらに好ましい。エアバッグ用基布の厚みが上記範囲内である場合、得られるエアバッグは、必要な機械特性を示しつつ、充分にコンパクトであり、これにより車両スペースを大きく確保し得る。
【0033】
(エアバッグ用基布の目付)
エアバッグ用基布の目付は、軽量性の点からは小さい方がよい。しかしながら、必要な機械特性を得るために、目付は、120g/m
2以上であることが好ましく、150g/m
2以上であることがより好ましく、170g/m
2以上であることがさらに好ましい。また、エアバッグ用基布の目付は、320g/m
2以下であることが好ましく、280g/m
2以下であることがより好ましく、230g/m
2以下であることがさらに好ましい。エアバッグ用基布の目付が上記範囲内である場合、得られるエアバッグは、必要な機械特性を示しつつ、充分に軽量であり、これにより車両の燃費が向上し得る。
【0034】
(樹脂コートの有無)
本実施形態のエアバッグ用基布は、通気度をより小さくするために、少なくとも一方の面に樹脂が被覆または積層されてもよい。樹脂は、生機表面に被覆または積層可能な樹脂であれば、特に限定されない。一例を挙げると、樹脂は、シリコーン樹脂やポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリアミド樹脂やポリウレタン樹脂等の熱可塑性樹脂、フッ素樹脂等である。これらの中でも、塗布後に熱処理を施すことにより硬化し得る熱硬化性樹脂であれば、後述する熱セット工程にて生機の熱固定と樹脂の硬化とを同時に実施し得るため好ましい。これらの中でも、樹脂は、耐熱性、耐老化性、汎用性が優れる点から、シリコーン樹脂であることが好ましい。
【0035】
樹脂を塗布する場合の塗布量は、所望する通気度が得られるよう調整されればよい。一例を挙げると、塗布量は、5g/m
2以上であることが好ましく、10g/m
2以上であることがより好ましい。また、塗布量は、30g/m
2以下であることが好ましく、25g/m
2以下であることがより好ましい。樹脂の塗布量が上記範囲内である場合、得られるエアバッグ用基布は、軽量でありながら、通気度が適度に低くなるよう調整され得る。
【0036】
(エアバッグ用基布の引張強度)
エアバッグ用基布の引張強度は、経方向および緯方向のそれぞれにおいて、1000N/30mm以上であることが好ましく、1400N/30mm以上であることがより好ましく、1600N/30mmであることがさらに好ましい。また、エアバッグ用基布の引張強度は、経方向および緯方向のそれぞれにおいて、2200N/30mm以下であることが好ましく、2000N/30mm以下であることがより好ましく、1800N/30mm以下であることがさらに好ましい。引張強度が上記範囲内である場合、エアバッグ用基布の機械特性がより優れる。なお、エアバッグ用基布の引張強度は、JIS L 1096:2010 8.14 A法(ストリップ法)に基づいて算出し得る。
【0037】
(エアバッグ用基布の引裂強力)
エアバッグ用基布の引裂強力は、経方向および緯方向のそれぞれにおいて、100N以上であることが好ましく、110N以上であることがより好ましい。また、エアバッグ用基布の引裂強力は、経方向および緯方向のそれぞれにおいて、300N以下であることが好ましく、250N以下であることがより好ましい。引裂強力が上記範囲内である場合、得られるエアバッグは、展開時に乗員を受け止める際の応力等が集中した際に、引き裂かれにくい。その結果、展開したエアバッグは、通気部が発生することが防がれる。なお、エアバッグ用基布の引裂強力は、JIS L 1096:2010 8.17 A法(シングルタング法)に基づいて算出し得る。
【0038】
(エアバッグ用基布の滑脱抵抗値)
エアバッグ用基布の滑脱抵抗値は、経方向および緯方向のそれぞれにおいて、200N以上であることが好ましく、250N以上であることがより好ましい。また、エアバッグ用基布の滑脱抵抗値は、経方向および緯方向のそれぞれにおいて、900N以下であることが好ましく、800N以下であることがより好ましい。滑脱抵抗値が上記範囲内である場合、得られるエアバッグは、縫製部の目ズレが小さくなる。その結果、得られるエアバッグは、展開時にインフレーターの熱ガスが漏れにくく、内圧が維持されやすく、かつ、縫製部における基布の溶融が防がれる。なお、エアバッグ用基布の滑脱抵抗値は、ASTM D 6479−02に基づいて算出し得る。
【0039】
(エアバッグ用基布の剛軟度)
エアバッグ用基布の剛軟度は、5N以上であることが好ましく、7N以上であることがより好ましく、9N以上であることがさらに好ましい。また、剛軟度は、25N以下であることが好ましく、20N以下であることがより好ましく、17N以下であることがさらに好ましい。剛軟度が上記範囲内である場合、エアバッグ用基布は、縫製しやすい。また、得られたエアバッグクッションを折り畳んで、収納する際の作業性が優れる。なお、エアバッグ用基布の剛軟度は、ASTM D 4032−94のサーキュラーベンド法(Circular Bend)に基づいて算出し得る。
【0040】
(エアバッグ用基布の通気度)
エアバッグ用基布の通気性を表す19.6kPa差圧下の通気度は、8.0L/cm
2/分以下であることが好ましく、5.0L/cm
2/分以下であることがより好ましく、3.0L/cm
2/分以下であることがさらに好ましい。また、通気度は、0.5L/cm
2/分以上であることが好ましい。通気度が上記範囲内である場合、得られるエアバッグは、展開時の乗員拘束性能がより優れる。なお、エアバッグ用基布の通気度は、JIS
L 1096:2010 8.26 A法(フラジール形法)に基づいて算出し得る。
【0041】
(エアバッグ用基布のクリンプ率)
エアバッグ用基布のクリンプ率は、経方向および緯方向のそれぞれのクリンプ率の平均が2%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましく、4%以上であることがさらに好ましい。また、クリンプ率の平均は、10%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、6%以下であることがさらに好ましい。生機の加工前後においてクリンプ率の平均が上記範囲内に保たれる場合、エアバッグ用基布の製造工程中に、経糸および緯糸の引張強度・破断伸度が低下しにくい。その結果、得られるエアバッグ用基布は、高いエネルギー吸収特性を維持しやすい。また、経方向および緯方向のそれぞれのクリンプ率に関して、たとえばウォータージェットルームにて製織する場合、緯糸挿入時の張力が高いため、経糸のクリンプ率は、緯糸のクリンプ率よりも高くなる傾向がある。そのため、加工後の経方向のクリンプ率は、緯方向のクリンプ率よりも大きい方が好ましい。具体的には、経方向のクリンプ率は、4.0%以上であることが好ましく、5.0%以上であることがより好ましい。また、経方向のクリンプ率は、10.0%以下であることが好ましく、9.0%以下であることがより好ましい。一方、緯方向のクリンプ率は、1.6%以上であることが好ましく、2.0%以上であることがより好ましい。また、緯方向のクリンプ率は、4.0%以下であることが好ましく、3.5%以下であることがより好ましい。なお、エアバッグ用基布のクリンプ率は、JIS L1096:2010 8.7 B法に基づいて算出し得る。
【0042】
以上、本実施形態のエアバッグ用基布は、経方向および緯方向のエネルギー吸収特性が、それぞれ30〜50である。このようなエアバッグ用基布を縫製したエアバッグは、多様な衝突形態において衝突時のエネルギーを充分に吸収し得る。
【0043】
<エアバッグ用基布の製造方法>
本発明の一実施形態のエアバッグ用基布の製造方法は、上記実施形態のエアバッグ用基布の製造方法である。本実施形態のエアバッグ用基布の製造方法は、以下に例示される製造方法により製織された生機に対し、精練工程、乾燥工程および熱セット工程を行うことを特徴とする。以下、それぞれについて説明する。なお、本実施形態のエアバッグ用基布の製造方法は、上記工程のほか、任意の工程を含んでもよい。たとえば、エアバッグ用基布の製造方法は、樹脂でコートされたコート基布を製造する場合には、コーティング工程を含んでもよい。
【0044】
(生機の準備)
生機は、経糸および緯糸を織機により製織することによって得られる。使用する経糸および緯糸(原糸)は特に限定されない。一例を挙げると、経糸および緯糸は、それぞれ総繊度が150〜700dtexであり、単繊維繊度が2〜10dtexであり、引張強度が5.0〜7.5cN/dtexであり、破断伸度が30〜50%である合成繊維マルチフィラメント糸である。その際、緯糸は、得られるエアバッグ用基布の機械特性が経方向および緯方向で同等となる点から、経糸と同様のマルチフィラメント糸であることが好ましい。なお、本実施形態において、「同様の機械特性」とは、総繊度、単繊維繊度、引張強度および破断伸度の差がいずれも10%以内であることをいう。
【0045】
経糸および緯糸の織密度は、総繊度およびカバーファクターに依る。一例を挙げると、経糸および緯糸の織密度は、総繊度が470dtexの分解糸でエアバッグ用基布を作成する場合は、47本/2.54cm以上であることが好ましく、49本/2.54cm以上であることがより好ましい。また、経糸および緯糸の織密度は、総繊度が470dtexの分解糸でエアバッグ用基布を作成する場合は、58本/2.54cm以下であることが好ましく、57本/2.54cm以下であることがより好ましい。経糸および緯糸の織密度が上記範囲内である場合、ノンコート基布であっても、低通気性と高い機械特性を維持できるという利点がある。また、経方向および緯方向において同等の機械特性を備えるエアバッグ用基布を得るためには、経糸および緯糸の織密度の差は、2.0本/2.54cm以下であることが好ましく、1.0本/2.54cm以下であることがより好ましい。
【0046】
使用する織機は特に限定されない。織機は、ウォータージェットルーム、レピアルーム、エアージェットルーム等のいずれであってもよい。織機は、高速製織が比較的容易である点から、ウォータージェットルームであることが好ましい。
【0047】
織物組織は、特に限定されない。一例を挙げると、織物組織は、平織、綾織、朱子織およびこれらの変化織、多軸織等から適宜選択され得る。これらの中でも、織物組織は、機械特性が優れる点から、平織物が好ましい。
【0048】
織機に備えられるテンプル装置は、生機の耳部を把持するリングテンプル、生機の全面を把持するバーテンプルのいずれであってもよい。テンプル装置は、高密度の生機を製織でき、より安定した緯入れを可能とするために、バーテンプルであることが好ましい。
【0049】
製造された生機は、精練機を用いた精練工程が行われる。
【0050】
(精練工程)
精練工程は、生機に含まれる不純物を分解して水溶性にすることにより落としやすくするための工程である。精練工程では、生機は、たとえば水浴でアルカリ洗浄や界面活性剤洗浄される。精練工程において使用される精練機は、オープンソーパー型やドラム型リラクサーなど、精練工程内での生機の経糸方向の張力を制御しつつ、配置されたロールにより緯糸方向の収縮を抑制し得る精練機であることが好ましい。これらの中でも、精練機は、高い張力下で精練を行い得る点から、オープンソーパー型精練機であることが好ましい。また、精練機は、生機の片側面に対して少なくとも10本以上のロールを接触させ得る機器であることが好ましい。これにより、生機は、緯糸方向の収縮が抑制されやすい。
【0051】
精練機内の各槽(薬液および水洗各槽)の水温は、70℃以下であればよく、65℃以下であることが好ましい。水温が70℃を超える場合、生機は、強く収縮しやすく、ポリマーの配向が乱れて、分解糸の引張強度や破断伸度が低下しやすい。また、水温は、30℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましい。この場合、精練剤は、充分に活性化されやすく、かつ、生機に付着している油剤やワックス等の不純物が除去されやすい。
【0052】
精練工程において経糸方向に付与される走行張力は、150N/m以上であればよく、200N/m以上であることが好ましい。また、走行張力は、400N/m以下であればよく、350N/m以下であることが好ましい。走行張力が上記範囲内である場合、生機は、ポリマーの配向が乱されにくく、かつ、効率よく油剤やワックス等の不純物を除去し得る。走行張力が150N/m未満である場合、生機は、発現される収縮力によって収縮しやすく、ポリマーの配向が乱れやすい。そのため、分解糸の引張強度および伸度が低下する場合があり、多様な衝突形態における、衝突時のエネルギー吸収に対する特性を示す、基布のエネルギー吸収特性が小さくなる場合がある。走行張力が400N/mを超える場合、精練機は、ロールやフレームの掛かる荷重が大きくなり過ぎ、設備上の制約を受けやすい。
【0053】
(乾燥工程)
乾燥工程は、精練工程後の生機を乾燥する工程である。乾燥工程で使用される乾燥機は、熱風乾燥機、サクションドラム乾燥機、ノンタッチドライヤー等が例示される。これらの中でも、乾燥機は、生機の走行張力を一定に保つことが容易である点から、熱風乾燥機であることが好ましい。また、乾燥機は、生機の片側面に対して少なくとも5本以上のロールを接触させ得る機器であることが好ましい。これにより、生機は、乾燥工程において生じ得る収縮が抑制されやすい。
【0054】
乾燥温度は、140℃以下であればよく、120℃以下であることが好ましい。乾燥温度が上記範囲内である場合、生機の分解糸は、収縮応力が強く発現されにくい。乾燥温度が140℃を超える場合、生機は、発現される収縮力によって収縮しやすく、ポリマーの配向が乱れやすい。そのため、分解糸の引張強度および伸度が低下する場合があり、多様な衝突形態における、衝突時のエネルギー吸収に対する特性を示す、基布のエネルギー吸収特性が小さくなる場合がある。また、乾燥温度は、80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。この場合、生機は、充分に乾燥されやすい。
【0055】
乾燥工程において経糸方向に付与される張力は、150N/m以上であることが好ましく、200N/m以上であることがより好ましい。また、張力は、400N/m以下であることが好ましく、350N/m以下であることがより好ましい。張力が上記範囲内である場合、生機は、乾燥時にポリマーの配向が乱されにくい。その結果、得られるエアバッグ用基布は、多様な衝突形態における、衝突時のエネルギーをより吸収しやすい。
【0056】
乾燥された生機は、次いで、熱セット工程が行われる。なお、熱セット工程の前に、コーティング工程が行われてもよい。
【0057】
(コーティング工程)
コーティング工程は、樹脂でコートされたコート基布を製造する場合に好適に採用される工程である。コーティング工程が採用されることにより、得られるエアバッグ用基布は、通気度が低減され得る。コーティング工程は、任意の工程であり、省略されてもよい。
【0058】
コーティング工程で使用される塗布装置は特に限定されない。一例を挙げると、塗布装置は、フローティングナイフコーター、ロールオンナイフコーター、コンマコーター等である。これらの中でも、薄塗りコート基布を製造し得る点から、フローティングナイフコーターが好適に使用される。フローティングナイフコーターによれば、生機は、経糸方向に高い張力が付与された状態で、ナイフと接触され、樹脂が塗布され得る。これにより、充分に軽量な薄塗りコート基布が得られ得る。
【0059】
生機に付与される経糸方向の張力は、300N/m以上であることが好ましい。また、経糸方向の張力は、2000N/m以下であることが好ましい。張力が上記範囲内である場合、生機が持つ凹凸や、生機の幅方向(緯方向)の両端部と中央部との長さ方向(経方向)の長さの差に起因する織り端部におけるフレアを小さくすることができ、樹脂を幅方向により均一に塗布し得る。
【0060】
コートされる樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、樹脂は、耐熱性、耐寒性、難燃性等を付与し得る点から、シリコーン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂等である。また、コーティング量は特に限定されない。一例を挙げると、コーティング量は、5〜35g/m
2程度である。
【0061】
(熱セット工程)
熱セット工程は、乾燥工程後(またはコーティング工程後)の生機を熱セットする工程である。熱セット工程では、ピンテンター乾燥機が使用される。
【0062】
生機は、ピンテンター乾燥機により、乾燥された生機の幅に対し98%以上の基布幅が得られるよう幅出しを行う。基布幅は、98%以上であればよく、99%以上となるよう設定されることが好ましい。基布幅が上記範囲内である場合、生機は、熱セット中に発現される収縮が抑制される。また、得られるエアバッグ用基布は、エネルギー吸収特性だけでなく、優れた機械特性と低通気性とを高度に両立し得る。基布幅が98%未満である場合、熱セット中に収縮が発現されやすく、ポリマーの配向が乱れ、分解糸の引張強度や破断伸度が低下しやすい。また、得られるエアバッグ用基布は、通気度が高くなりやすい。また、基布幅は、100.5%以下となるよう設定されることが好ましく、100%以下となるよう設定されることがより好ましい。基布幅が100.5%以下となるよう設定される場合、ピンテンター乾燥機のピンに負荷が掛かにくく、ピン折れやピン曲がりが防がれる。
【0063】
熱セット工程において、オーバーフィード率は、−2%以上であり、−1%以上であることが好ましい。また、オーバーフィード率は、+2%以下であり、+1%以下であることが好ましい。オーバーフィード率が上記範囲内である場合、生機は、熱セット中に発現される収縮を抑制し得る。なお、本実施形態において、オーバーフィード率とは、熱セット工程の入り口にて、生機を長さ方向(経方向)に、加工速度に対して何%送り込むかを示す値である。例えば、オーバーフィード率+2%とは、熱セット工程での加工速度30m/分と設定した場合、熱セット機の入り口に設置するオーバーフィードローラーを用いて、1分あたり30.6mの生機を熱セット機に送り込むことを意味する。
【0064】
熱セット工程における乾燥温度は、120℃以上であればよく、140℃以上であることが好ましく、160℃以上であることがより好ましい。また、乾燥温度は、200℃以下であればよく、190℃以下であることが好ましく、180℃以下であることがより好ましい。乾燥温度が上記範囲内である場合、得られるエアバッグ用基布は、寸法安定性が優れる。乾燥温度が120℃未満である場合、得られるエアバッグ用基布の寸法安定性が低下しやすい。一方、乾燥温度が200℃を超える場合、得られるエアバッグ用基布は、機械特性が低下する傾向がある。
【0065】
また、上記コーティング工程が実施される場合において、熱セット工程における乾燥温度は、160℃以上であることが好ましく、170℃以上であることがより好ましい。また、乾燥温度は、200℃以下であることが好ましく、190℃以下であることがより好ましい。乾燥温度が上記範囲内である場合、得られるエアバッグ用基布は、コーティングされた樹脂が充分に乾燥され、かつ、機械特性が低下しにくい。
【0066】
熱セット工程の所要時間は特に限定されない。一例を挙げると、所要時間は、15秒以上であることが好ましく、30秒以上であることがより好ましい。また、所要時間は、120秒以下であることが好ましく、90秒以下であることがより好ましい。熱セット工程の所要時間が上記範囲内である場合、得られるエアバッグ用基布は、寸法安定性が充分に付与され得る。
【0067】
以上、本実施形態のエアバッグ用基布の製造方法によれば、上記したエネルギー吸収特性を備えるエアバッグ用基布が製造される。このようなエアバッグ用基布を縫製したエアバッグは、多様な衝突形態において衝突時のエネルギーを充分に吸収し得る。そのため、エアバッグは、前面衝突に対応する運転席、助手席用エアバッグとしてだけではなく、膝を保護するニーエアバッグ、側面衝突に対応するサイドエアバッグおよびカーテンエアバッグ等、種々のエアバッグとして有用である。特に、上記のとおり、サイドエアバッグは、変形したドア等が乗員に当たるのを防止する隔壁として機能するだけでなく、衝突時の反力による乗員の腰部や胸部の移動も受け止める機能も同時に有する必要があり、要求される性能が高度である。本実施形態のエアバッグ用基布から得られるエアバッグは、このようなサイドエアバッグとして使用される場合であっても、衝突時のエネルギーを充分に吸収し、隔壁として機能するだけでなく、乗員を適切に受け止め得る。
【0068】
以上、本発明の一実施形態について説明した。本発明は、上記実施形態に格別限定されない。なお、上記した実施形態は、以下の構成を有する発明を主に説明するものである。
【0069】
(1)下記式(1)で定義される経方向のエネルギー吸収特性が30〜50であり、下記式(2)で定義される緯方向のエネルギー吸収特性が30〜50である、エアバッグ用基布。
(式(1))
経方向のエネルギー吸収特性=経方向のエネルギー吸収量/経糸のカバーファクター
(式(1)中、経方向のエネルギー吸収量は、経方向の引張強度および破断伸度を測定する際において、測定開始からサンプルが破断するまでに加えられる応力の積分値である)(式(2))
緯方向のエネルギー吸収特性=緯方向のエネルギー吸収量/緯糸のカバーファクター
(式(2)中、緯方向のエネルギー吸収量は、緯方向の引張強度および破断伸度を測定する際において、測定開始からサンプルが破断するまでに加えられる応力の積分値である)
【0070】
このような構成によれば、エアバッグ用基布は、経方向および緯方向のエネルギー吸収特性が、それぞれ30〜50である。このようなエアバッグ用基布を縫製したエアバッグは、多様な衝突形態において衝突時のエネルギーを充分に吸収し得る。
【0071】
(2)前記エアバッグ用基布を構成する経糸および緯糸は、合成繊維マルチフィラメント糸であり、総繊度は、それぞれ145〜720dtexであり、単繊維繊度は、それぞれ2〜10dtexであり、引張強度は、それぞれ4.5〜6.5cN/dtexであり、破断伸度は、それぞれ23〜45%である、(1)記載のエアバッグ用基布。
【0072】
このような構成によれば、エアバッグ用基布を縫製して得られるエアバッグは、通気度が低く、展開時に適度な内圧となり、エアバッグ展開時に縫製したエアバッグが破れることなく乗員を保護できる機械特性が得られる。また、得られるエアバッグは、コンパクトでありながら、大きく展開させることができる。そのため、エアバッグ用基布は、材料コストが削減され得る。
【0073】
(3)経方向の破断伸度と、緯方向の破断伸度との平均は、35〜55%である、(1)または(2)記載のエアバッグ用基布。
【0074】
このような構成によれば、エアバッグ用基布は、使用する材料の量を低減でき、コストを削減し得る。また、得られるエアバッグは、展開時に基布が適度に伸び、乗員を受け止める際に応力が集中しにくい。そのため、エアバッグは、クッションへのダメージが低減される。なお、本明細書において、「クッションへのダメージ」は、エアバッグ用基布や縫製部が、展開時の内圧、熱ガス、乗員や車体との接触により傷ついたりやぶれたり孔が空いたりする損傷等を含む。
【0075】
(4)前記経糸のカバーファクターと、前記緯糸のカバーファクターとの和は、1900〜2400である、(1)〜(3)のいずれかに記載のエアバッグ用基布。
【0076】
このような構成によれば、エアバッグ用基布を縫製して得られるエアバッグは、機械特性が優れる。また、得られるエアバッグは、通気度が低く、展開時に形状が維持されやすい。
【0077】
(5)経方向の破断伸度と、緯方向の破断伸度との平均は、44〜50%であり、前記エアバッグ用基布を構成する経糸および緯糸の単繊維繊度は、それぞれ3〜7dtexである、(1)〜(4)のいずれかに記載のエアバッグ用基布。
【0078】
このような構成によれば、エアバッグ用基布を縫製して得られるエアバッグは、機械特性がより優れる。また、得られるエアバッグは、展開時にエアバッグ用基布が適度に伸び、乗員を受け止める際に応力がより集中しにくい。そのため、エアバッグは、クッションへのダメージがより低減される。さらに、得られるエアバッグは、コンパクトでありながら、より大きく展開させることができる。そのため、エアバッグ用基布は、材料コストがより削減され得る。
【0079】
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載のエアバッグ用基布が縫製された、エアバッグ。
【0080】
このような構成によれば、エアバッグは、上記したエアバッグ用基布からなる。そのため、エアバッグは、多様な衝突形態において衝突時のエネルギーを充分に吸収し得る。
【0081】
(7)サイドエアバッグとして使用される、(6)記載のエアバッグ。
【0082】
このような構成によれば、エアバッグは、特に側面からの衝突に対して適切に展開し、衝突時のエネルギーを充分に吸収し得る。
【0083】
(8)(1)〜(5)のいずれかに記載のエアバッグ用基布を製造するための製造方法であり、製織された生機を、70℃以下の水を使用し、経糸方向に150〜400N/mの走行張力を加えて精練する精練工程と、140℃以下で生機を乾燥する乾燥工程と、製織した生機を熱セットする熱セット工程とを含み、前記熱セット工程は、ピンテンター乾燥機を用いて、120〜200℃にて、オーバーフィード率が−2〜+2%であり、乾燥機によって乾燥された生機の幅に対し98%以上の基布幅となるよう幅出しを行う工程である、エアバッグ用基布の製造方法。
【0084】
このような構成によれば、上記したエアバッグ用基布が製造される。このようなエアバッグ用基布を縫製したエアバッグは、多様な衝突形態において衝突時のエネルギーを充分に吸収し得る。
【実施例】
【0085】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。なお、以下の実施例において、それぞれの特性値は、以下の方法により算出した。
【0086】
<特性値の算出方法>
(分解糸の総繊度)
分解糸の総繊度(dtex)は、JIS L1096:2010 8.9.1.1 B法に基づき、エアバッグ用基布の中央部分から切り出した試料(寸法250mm×250mm)から、経方向および緯方向の分解糸をそれぞれ5本ずつ採取し、下記式(5)に従って算出した。
(式(5))
T=M/(1250×(1+Cw))×10000
式(5)中、Tは分解糸の総繊度(dtex)、Mは経糸または緯糸の分解糸5本の重さ(mg)、Cwは後述するクリンプ率(%)を示す。
(分解糸の単繊維繊度)
分解糸の単繊維繊度は、分解糸の総繊度をフィラメント数で除することにより算出した。
【0087】
(フィラメント数)
分解糸のフィラメント数(本)は、JIS L1013(2010) 8.4の方法に基づいて算出した。
【0088】
(分解糸の引張強度および破断伸度)
分解糸の引張強度および破断伸度は、JIS L1013:2010 8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件に基づいて算出した。具体的には、基布の中央部から採取した分解糸に20回/25cmの撚り掛けをして測定した。測定器は引張・圧縮試験機(テンシロン UCT−100 (株)オリエンテック製)を用い、掴み間隔は25cm、引張速度は30cm/分とした。分解糸の引張強度(cN/dtex)は、得られた分解糸の引張強力(cN)を分解糸の総繊度で除して算出した。また、破断伸度(%)は、測定時に得られる応力−ひずみ曲線における最大強度を示した点の伸びから算出した。
【0089】
(エアバッグ用基布の織密度)
エアバッグ用基布の織密度は、JIS L 1096:2010 8.6.1 A法に基づき測定した。具体的には、織密度は、試料を平らな台上に置き、不自然なしわや張力を除いて、異なる5か所について、経糸および緯糸をほぐすことなく、デジタル密度測定器(FX3250 TEXTEST社製)を用いて、2.54cmあたりの経糸および緯糸の本数を測定し、それぞれの平均値を織密度(本/2.54cm)として算出した。
【0090】
(エアバッグ用基布のクリンプ率)
エアバッグ用基布のクリンプ率は、JIS L1096:2010 8.7 B法に基づき、エアバッグ用基布の中央部分からサンプルを切り出し、初荷重(cN)は下記式(6)で示す計算式にて設定し、経方向および緯方向のクリンプ率(%)を下記式(7)で示す計算式にてそれぞれ算出した。
(式(6))
IG=T×0.1
式6中、IGは初荷重(cN)、Tは分解糸の総繊度(dtex)を示す。
(式(7))
Cw=(L−200)/200×100
式(7)中、Cwはクリンプ率(%)、Lは式(6)にて算出した初荷重(IG)の下で測定した長さ(mm)を示す。
【0091】
(エアバッグ用基布の目付)
エアバッグ用基布の目付は、JIS L 1096:2010 8.3 A法に基づき、エアバッグ用基布の異なる3か所について、試料(寸法25cm×25cm)を作成し、電子天秤を用いて、1平方mあたりの質量を算出し、平均値を目付(g/m
2)とした。
【0092】
(エアバッグ用基布における樹脂の塗布量)
樹脂の塗布量は、樹脂をコーティングした部分(コート基布)と、樹脂をコーティングしなかった部分(未塗布基布)とを作成し、コート基布の目付から未塗布基布の目付を差し引いた値を塗布量(g/m
2)として算出した。
【0093】
(エアバッグ用基布の厚さ)
エアバッグ用基布の厚さ(mm)は、JIS L 1096:2010 8.5 A法に基づき、エアバッグ用基布の異なる5か所について、厚さ測定器(製品名ABSデジマチックインジケーターID−CX、(株)ミツトヨ製)、直径が1.05cmの円形の測定子を用いて、1.0kPaの加圧下で、厚さを落ち着かせるために10秒間経過後に厚さを測定し、平均値を算出した。
【0094】
(エアバッグ用基布の引張強度および破断伸度)
エアバッグ用基布の引張強度および破断伸度は、JIS L 1096:2010 8.14 A法(ストリップ法)に基づいて算出した。具体的には、エアバッグ用基布の異なる3か所について、試料片(幅40mm×長さ300mm)を作成し、幅方向の両側から糸を取り除き、30mmとなるように幅を調整した。材料試験機(インストロン(登録商標)5965、インストロン社製)と、XL長伸度接触式伸び計(型番2603、インストロン社製)を用い、調製した試料片を、掴み間隔150mmでチャッキングし、チャッキングされた150mmサンプルにおいて、XL長伸度接触式伸び計を間隔100mmで試料片に取り付け、引張速度200mm/分で試料片が破断するまで試験を行い、破断時の応力を求め、平均値を引張強度(N/30mm)とした。また、破断伸度(%)は、「応力(N/mm
2)−ひずみ(mm)(XL長伸度接触式伸び計により算出)の曲線」における最大強度を示した点の伸びから、平均値を算出した。その際、エネルギー吸収量を算出するために、データのサンプリング間隔を50m秒に調整し、各サンプリング時の応力(N/mm
2)とひずみ(mm)(XL長伸度接触式伸び計により算出)のデータを収集した。
【0095】
(エアバッグ用基布のエネルギー吸収量)
エアバッグ用基布のエネルギー吸収量は、上記引張強度および破断伸度の測定時に収集された応力とひずみのデータを元に、以下の式(7)に基づいて微小領域(N/mm)を算出し、測定開始時(原点)から破断時までの微小領域を総和してエネルギー吸収量(N/mm)を算出した。経方向および緯方向のそれぞれについて平均を算出し、それぞれ経方向のエネルギー吸収量、緯方向のエネルギー吸収量とした。
(式(7))
微小領域(N/mm)=(n+1番目のひずみ(mm)−n番目のひずみ(mm))×(n+1番目の応力)(N/mm
2)
ただし、n番目とは、任意の測定時点であり、n+1番目とはn番目の測定時点から50m秒後の測定時点である。そのため、n+1番目のひずみ(mm)とは、n+1番目の測定時におけるひずみの大きさ(mm)を示し、n+1番目の応力(N/mm
2)とは、n+1番目の測定時における応力の大きさ(N/mm
2)を示す。
得られるエネルギー吸収量は、測定開始から試料片が破断するまでに加えられた応力の総和(積分値)の近似値に相当する。本実施例では、測定間隔が50m秒であり充分に短いため、この近似値を応力の総和(エネルギー吸収量)とみなして取り扱う。
【0096】
(エアバッグ用基布の引裂強力)
エアバッグ用基布の引裂強力は、JIS L 1096:2010 8.17 A法(シングルタング法)に基づいて算出した。具体的には、引裂強力は、エアバッグ用基布の異なる3か所から、試験片(寸法15cm×20cm)を作成し、短辺の中央(端から7.5cmの位置)に短辺と直交する10cmの切れ目を入れた。このサンプルを、材料試験機(インストロン(登録商標、以下において同じ)5965、インストロン社製)により、幅15cm以上のクランプを用いて、各切片(上記切れ目が入れられた箇所(7.5cm×10cmの部分))が上下のクランプと直角になるように挟み、引張速度10cm/分にて、サンプルが9cm引き裂かれるまで試験を行った。得られた応力―ひずみ曲線の最初の極大点から試験終点までを4分割し、最初の1/4部分を除いた残部(3/4部分)において最大点の平均を求めた。この試験を3回繰り返し、その平均値を引裂強力(N)とした。なお、本試験方法において、最大点とは、上記残部(3/4部分)における平均の応力に対して10%以上、直前の凹部から変化した点とした。
【0097】
(エアバッグ用基布の滑脱抵抗値)
エアバッグ用基布の滑脱抵抗値(N)は、ASTM D 6479−02に基づき、エアバッグ用基布の異なる5か所から試験片(寸法30cm×5cm)を採取し、材料試験機(インストロン(登録商標)5965、インストロン社製)により測定し、平均値を算出した。
【0098】
(エアバッグ用基布の剛軟度)
エアバッグ用基布の剛軟度(N)は、ASTM D 4032−94のサーキュラーベンド法(Circular Bend)に基づいて算出した。
【0099】
(エアバッグ用基布の通気度)
エアバッグ用基布の通気度(静的通気度)は、JIS L 1096:2010 8.26 A法(フラジール形法)に基づき、エアバッグ用基布の異なる6か所について、測定面積78.5cm
2、19.6kPa差圧下における、エアバッグ用基布を通過する空気量(L/cm
2/分)を求め、平均値を算出した。
【0100】
(エアバッグのクッション直径)
エアバッグのクッション直径は、以下の方法によりクッションを作成して算出した。
図3は、本特性値を算出する際に作製されるクッション1の模式図である。具体的には、まず、エアバッグ用基布から直径630mmの円状サンプル2枚を打抜き法にて裁断し、一方の円状サンプル2の中央部分に直径90mmの孔2aを、孔2aの外周から20mm離れた任意の箇所に直径10mmの孔2bを1つ設けた。次いで、孔2aを設けた円状サンプル2と、孔を設けていない円状サンプル3との縁同士を、経糸方向に45°ずらして重ね合わせ、直径600mmの円周状を上下糸とも総繊度470dtexのナイロン6・6マルチフィラメント糸を3本合糸し撚り合わせた縫糸で、縫製線4に沿って二重環縫いによりミシン縫製してクッション1を作成した。その後、得られたクッション1を裏返した。孔2aと孔2bから、直径10mmでナットの付いた圧力測定用のパイプと、直径90mmでナットの付いた圧縮空気を注入するためのパイプとを挿入し、予めクッション1の中に入れておいた、それぞれのパイプに付けるためのナットを締め付けることによりにより孔2aおよび孔2bを閉止してから、圧縮空気を注入した。その後、内圧が80kPaに到達した時点におけるクッション1の最大直径を測定した。なお、クッション1の直径は、計算上は約382mmとなる。しかしながら、内圧により、実際のクッションの直径は、サンプルの経方向および緯方向におけるクリンプ率(%)に基づいて大きくなり得る。さらに、大きい破断伸度のエアバッグ基布を用いることで、サンプルが塑性変形することによりクッション1の直径が大きくなる場合がある。したがって、計算上のクッション1の直径382mmから、実際のクッションがどれだけ大きくなったかを比較することで、クッションを作成するために必要なエアバッグ基布の使用量を見積もることができる。
【0101】
<実施例1>
(生機の準備)
経糸および緯糸として、ナイロン6・6からなり、単繊維繊度が3.5dtexであり、フィラメント数が136であり、総繊度が470dtexであり、引張強度が5.8cN/dtexであり、破断伸度が42%であり、無撚りの合成繊維マルチフィラメントを準備した。ウォータージェットルームにて、経糸密度が52.5本/2.54cm、緯糸密度が52.5本/2.54cmとなるよう生機を製織した。
(エアバッグ用基布の製造)
得られた生機を、オープンソーパー型精練機にて精練した。精練は、精練槽の水温を65℃とし、湯洗槽の水温を40℃とし、経糸方向の張力を200N/mとして実施した。その後、乾燥温度120℃にて生機を乾燥させた。さらに、ピンテンター乾燥機を用いて、乾燥後の生機幅と同じ幅になるよう幅出し率を設定し、オーバーフィード率0%の寸法規制の下で、180℃にて60秒間、生機を熱セットした。使用した分解糸および得られたエアバッグ用基布のそれぞれの特性値を表1に示す。
【0102】
<実施例2>
経糸および緯糸として、引張強度が6.0cN/dtexであり、破断伸度が40%である合成繊維マルチフィラメントを使用した以外は、実施例1と同様にエアバッグ用基布を作製した。
【0103】
<比較例1>
経糸および緯糸として、引張強度が8.5cN/dtexであり、破断伸度が23%である合成繊維マルチフィラメントを使用した以外は、実施例1と同様にエアバッグ用基布を作製した。
【0104】
<比較例2>
熱セット工程におけるオーバーフィード率を5%とし、乾燥後の生機幅に対する幅出し率が95%となるよう変更した以外は、実施例1と同様にエアバッグ用基布を作製した。
【0105】
<比較例3>
熱セット工程におけるオーバーフィード率を−5%とし、乾燥後の生機幅に対する幅出し率が105%となるよう変更した以外は、実施例1と同様にエアバッグ用基布を作製した。
【0106】
<実施例3>
経糸および緯糸の織密度をいずれも49.5本/2.54cmに変更した以外は、実施例1と同様にエアバッグ用基布を作製した。
【0107】
<比較例4>
経糸および緯糸の織密度をいずれも49.5本/2.54cmに変更した以外は、比較例1と同様にエアバッグ用基布を作製した。
【0108】
<実施例4>
経糸および緯糸の総繊度を350dtexに変更した以外は、実施例1と同様にエアバッグ用基布を作製した。
【0109】
<比較例5>
経糸および緯糸の総繊度を350dtexに変更した以外は、比較例1と同様にエアバッグ用基布を作製した。
【0110】
<実施例5>
乾燥工程の後に、塗布量が20g/m
2となるよう、無溶剤系シリコーン樹脂を、乾燥後の生機にコーティングするコーティング工程を採用し、かつ、熱セット工程における温度を200℃に変更した以外は、実施例3と同様にエアバッグ用基布を作製した。シリコーン樹脂は、縫製時に内側となる面にコーティングした。
【0111】
<比較例6>
乾燥工程の後に、塗布量が20g/m
2となるよう、無溶剤系シリコーン樹脂を、乾燥後の生機にコーティングするコーティング工程を採用し、かつ、熱セット工程における温度を200℃に変更した以外は、比較例4と同様にエアバッグ用基布を作製した。シリコーン樹脂は、縫製時に内側となる面にコーティングした。
【0112】
<実施例6>
経糸および緯糸の織密度をいずれも44.5本/2.54cmに変更した以外は、実施例5と同様にエアバッグ用基布を作製した。
【0113】
<実施例7>
経糸および緯糸のフィラメント数を72本に変更した以外は、実施例1と同様にエアバッグ用基布を作製した。
【0114】
<比較例7>
経糸および緯糸のフィラメント数を72本に変更した以外は、比較例1と同様にエアバッグ用基布を作製した。
【0115】
<実施例8>
経糸および緯糸のフィラメント数を48本に変更した以外は、実施例1と同様にエアバッグ用基布を作製した。
【0116】
<比較例8>
経糸および緯糸のフィラメント数を48本に変更した以外は、比較例1と同様にエアバッグ用基布を作製した。
【0117】
<実施例9>
経糸および緯糸の総繊度を175dtexに変更し、経糸および緯糸のフィラメント数を72本に変更し、乾燥工程の後に、塗布量が15g/m
2となるよう、無溶剤系シリコーン樹脂を、乾燥後の生機にコーティングするコーティング工程を採用し、かつ、熱セット工程における温度を200℃に変更した以外は、実施例1と同様にエアバッグ用基布を作製した。シリコーン樹脂は、縫製時に内側となる面にコーティングした。
【0118】
<比較例9>
精練工程における経糸方向の走行張力を500N/mに変更した以外は、実施例4と同様にエアバッグ用基布を作製した。
【0119】
<比較例10>
熱セット工程における、乾燥後の生機幅に対する幅出し率が95%となるよう変更した以外は、実施例4と同様にエアバッグ用基布を作製した。
【0120】
<比較例11>
熱セット工程における、乾燥後の生機幅に対する幅出し率が103%となるよう変更した以外は、実施例4と同様にエアバッグ用基布を作製した。
【0121】
<比較例12>
熱セット工程における温度を210℃に変更した以外は、実施例4と同様にエアバッグ用基布を作製した。
【0122】
<比較例13>
精練工程における温度を80℃に変更した以外は、実施例4と同様にエアバッグ用基布を作製した。
【0123】
<比較例14>
経糸および緯糸の総繊度を175dtexに変更し、経糸および緯糸のフィラメント数を72本に変更し、乾燥工程の後に、塗布量が15g/m
2となるよう、無溶剤系シリコーン樹脂を、乾燥後の生機にコーティングするコーティング工程を採用し、かつ、熱セット工程における温度を200℃に変更した以外は、比較例1と同様にエアバッグ用基布を作製した。シリコーン樹脂は、縫製時に内側となる面にコーティングした。
【0124】
実施例1〜9および比較例1〜14について、使用した分解糸および得られたエアバッグ用基布の特性値を表1または表2に示す。
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
表1または表2に示されるように、実施例1〜9において製造されたエアバッグ用基布は、経方向および緯方向のエネルギー吸収特性が30〜50であり、衝突時のエネルギーを充分に吸収し得ることが分かった。また、これらエアバッグ用基布は、上記エネルギー吸収特性を示しつつ、かつ、通気度が低かった。そのため、これらエアバッグ用基布を縫製して得られるエアバッグは、展開時の乗員拘束性能が優れることが分かった。特に、実施例1〜5および実施例7〜8において製造されたエアバッグ用基布は、適度な剛軟度を示した。そのため、これらエアバッグ用基布は、エアバッグクッションを作製しやすく、かつ、該クッションを折りたたんで収納する際の作業性がよいことが分かった。ほかにも、これらエアバッグ用基布は、適度な引裂強力を示した。そのため、これらエアバッグ用基布を縫製して得られるエアバッグは、乗員を受け止める際に応力等が集中する場合であっても引き裂かれにくく、信頼性が高いことが分かった。加えて、これらエアバッグ用基布を縫製して得られるエアバッグは、展開時のクッション直径が、クリンプ率が加味された予想直径(実施例1〜3、5および実施例7〜9は40cm、実施例4は41cm、実施例6は39cm)よりも大きくなった。そのため、これらエアバッグ用基布は、コンパクト性が優れ、かつ、材料使用量を低減させることによる低コスト化が図れることが分かった。
【0128】
一方、比較例1〜14において製造されたエアバッグ用基布は、少なくとも経方向および緯方向のいずれか一方のエネルギー吸収特性が30〜50の範囲から外れており、衝突時のエネルギーを充分に吸収できないことが分かった。中でも、比較例1、4〜8および14において製造されたエアバッグ用基布を縫製して得られるエアバッグは、展開時のクッション直径が、クリンプ率が加味された予想直径(比較例1、4および6〜8は40cm、比較例5、14は41cm)から変化がなかった。そのため、これらエアバッグ用基布は、コンパクト性に寄与せず、材料使用量の低減による低コスト化に寄与できないことが分かった。