(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6760161
(24)【登録日】2020年9月7日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】内燃機関の制御方法
(51)【国際特許分類】
F01N 5/02 20060101AFI20200910BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20200910BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20200910BHJP
F01P 3/12 20060101ALI20200910BHJP
F01P 7/16 20060101ALI20200910BHJP
【FI】
F01N5/02 G
F02D43/00 301B
F02D43/00 301Z
F02D41/04
F01P3/12
F01P7/16 504C
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-55230(P2017-55230)
(22)【出願日】2017年3月22日
(65)【公開番号】特開2018-159272(P2018-159272A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2019年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】深見 徹
【審査官】
菅野 京一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−100758(JP,A)
【文献】
特開2014−015942(JP,A)
【文献】
特開2006−207428(JP,A)
【文献】
特開2016−056752(JP,A)
【文献】
特開2009−222031(JP,A)
【文献】
特開2007−162556(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/125260(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気と冷却水との間で熱交換を行う排熱回収器が排気通路に設けられた内燃機関において、
内燃機関の始動時に、排気温度上昇制御もしくは排気流量増加制御と、上記排熱回収器への冷却水流量の低減と、を併用したデポジット燃焼制御を開始するとともに、
上記排熱回収器における排熱回収状態からデポジットの燃焼が完了したかを推定し、
デポジットの燃焼が完了したと推定されるまで上記デポジット燃焼制御を継続する、
内燃機関の制御方法であって、
上記排気通路における上記排熱回収器の入口側および出口側で、排熱回収器入口排気温度および排熱回収器出口排気温度をそれぞれ検出し、
内燃機関の運転条件から排気流量を求め、
これら排熱回収器入口排気温度、排熱回収器出口排気温度および排気流量に基づいて、上記排熱回収器における熱回収量を求め、
この熱回収量が初期性能に対し所定のレベルに回復したときに、デポジットの燃焼が完了したものと推定する、ことを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項2】
排気と冷却水との間で熱交換を行う排熱回収器が排気通路に設けられた内燃機関において、
内燃機関の始動時に、排気温度上昇制御もしくは排気流量増加制御と、上記排熱回収器への冷却水流量の低減と、を併用したデポジット燃焼制御を開始するとともに、
上記排熱回収器における排熱回収状態からデポジットの燃焼が完了したかを推定し、
デポジットの燃焼が完了したと推定されるまで上記デポジット燃焼制御を継続する、
内燃機関の制御方法であって、
上記排熱回収器を流れる冷却水通路の上記排熱回収器の入口側および出口側で、排熱回収器入口水温および排熱回収器出口水温をそれぞれ検出し、
上記排熱回収器を流れる冷却水流量を求め、
これら排熱回収器入口水温、排熱回収器出口水温および冷却水流量に基づいて、上記排熱回収器における熱回収量を求め、
排熱回収器入口水温と冷却水流量とをパラメータとして予め求めた初期性能の特性から、現時点の排熱回収器入口水温および冷却水流量に対応する熱回収量を初期性能の熱回収量として求め、
現時点の熱回収量を初期性能の熱回収量で除して性能レベルを求め、
この性能レベルが所定の閾値に回復したときに、デポジットの燃焼が完了したものと推定する、ことを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項3】
内燃機関の運転中に、上記排熱回収器における熱回収量を逐次求めるとともに、この熱回収量から初期性能に対する残存性能レベルを求め、
内燃機関の運転終了時に、直前の残存性能レベルを記憶しておき、
内燃機関の始動時に、前回運転時の記憶された残存性能レベルが所定のレベル以上であれば、上記デポジット燃焼制御を行わない、ことを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の制御方法。
【請求項4】
上記排気温度上昇制御は、点火時期リタードもしくは排気弁の早開きからなる、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の制御方法。
【請求項5】
上記排気流量増加制御は、アイドル回転速度の上昇補正からなる、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の内燃機関の制御方法。
【請求項6】
上記排熱回収器として、格子状ないしハニカム状に微細通路を設けた円柱状のフィン部材の外周を、冷却水通路が囲んだ外周冷却型排熱回収器に適用した、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の内燃機関の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、排気と冷却水との間で熱交換を行う排熱回収器が排気通路に設けられた内燃機関の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関で生成された熱の一部は、排気として無駄に外部へ排出されてしまう。近年、この排気熱を回収して車室内の暖房や内燃機関の暖機促進などのための何らかのエネルギ源として利用するように、排熱回収器を排気通路に設けることが提案されている。
【0003】
特許文献1には、冷却水が通流する偏平な複数のチューブを排気が通流するケーシング内に配置した一種の多板積層型熱交換器からなる排熱回収器が開示されている。
【0004】
このほか、多数の微細な通路を備えた円柱状のフィン部材を排気通路内に配置するとともに、このフィン部材の周囲を囲むように環状の冷却水通路を形成した外周冷却型の排熱回収器なども提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−330394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
排気通路中に熱交換用の何らかの部材が配置される排熱回収器にあっては、特許文献1に課題として記載されているように、排気中のススや未燃成分等が伝熱面にいわゆるデポジットとして付着・堆積し、熱交換効率が低下するとともに、排気系での圧力損失が増加する、という問題がある。特に、排気温度の低い低負荷運転が継続すると、デポジットの付着・堆積が顕著となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、この発明は、排気熱を利用して排熱回収器におけるデポジットを燃焼し、除去するようにしたものである。すなわち、この発明は、内燃機関の始動時に、排気温度上昇制御もしくは排気流量増加制御と、上記排熱回収器への冷却水流量の低減と、を併用したデポジット燃焼制御を開始し、上記排熱回収器における排熱回収状態からデポジットの燃焼が完了したと推定されるまで上記デポジット燃焼制御を継続する。
【0008】
排熱回収器にあっては、排熱回収のために冷却水が通流するので、仮に排気温度を高めても、冷却水による冷却を受ける部位では、デポジットの燃焼が可能な温度まで伝熱面の温度が上昇しにくい。しかし、この発明では、排気温度上昇もしくは排気流量増加とともに、排熱回収器への冷却水流量を低減させるので、より確実にデポジットの燃焼・除去が図れる。
この発明の一つの態様では、上記排気通路における上記排熱回収器の入口側および出口側で、排熱回収器入口排気温度および排熱回収器出口排気温度をそれぞれ検出し、
内燃機関の運転条件から排気流量を求め、
これら排熱回収器入口排気温度、排熱回収器出口排気温度および排気流量に基づいて、上記排熱回収器における熱回収量を求め、
この熱回収量が初期性能に対し所定のレベルに回復したときに、デポジットの燃焼が完了したものと推定する。
他の一つの態様では、上記排熱回収器を流れる冷却水通路の上記排熱回収器の入口側および出口側で、排熱回収器入口水温および排熱回収器出口水温をそれぞれ検出し、
上記排熱回収器を流れる冷却水流量を求め、
これら排熱回収器入口水温、排熱回収器出口水温および冷却水流量に基づいて、上記排熱回収器における熱回収量を求め、
排熱回収器入口水温と冷却水流量とをパラメータとして予め求めた初期性能の特性から、現時点の排熱回収器入口水温および冷却水流量に対応する熱回収量を初期性能の熱回収量として求め、
現時点の熱回収量を初期性能の熱回収量で除して性能レベルを求め、
この性能レベルが所定の閾値に回復したときに、デポジットの燃焼が完了したものと推定する。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、内燃機関の始動のたびに排熱回収器のデポジットの燃焼・除去を行うので、経時的な熱交換効率の低下ならびに圧力損失の増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】排熱回収器を備えた内燃機関の排気系の説明図。
【
図4】内燃機関始動時の処理の流れを示すフローチャート。
【
図5】
図4のステップ4,5の処理の詳細を示すフローチャート。
【
図6】
図4のステップ4,5の処理の異なる例を示すフローチャート。
【
図7】デポジット燃焼制御の詳細を示すフローチャート。
【
図8】始動後の点火時期リタードの特性の一例を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1は、排熱回収器1を備えた内燃機関2の排気系の構成を示している。内燃機関2は、ディーゼル機関であってもよいが、一実施例においては、ガソリン機関のような火花点火式内燃機関であり、一般的な水冷式の冷却装置を具備している。冷却装置は、図示しないが、内燃機関2のシリンダブロックおよびシリンダヘッドの内部に形成されたウォータジャケット、冷却水の放熱のためのラジエータ、冷却水をウォータジャケットとラジエータとの間で循環させるウォータポンプ、冷却水温度が比較的に低いときにラジエータを経由せずにバイパス通路を介して冷却水の循環を可能とするサーモスタット、等を含んで構成されている。
【0013】
内燃機関2の排気マニホルド3の出口部には、三元触媒あるいは酸化触媒等からなる触媒装置4が取り付けられており、この触媒装置4の出口側つまり触媒装置4の下流側に、排熱回収器1が配置されている。なお、排熱回収器1からさらに下流側へ延びる排気管5には、図外の下流側触媒装置が介装されており、さらに図外の消音器を介して排気管5の先端が大気に開放されている。
【0014】
図2および
図3は、一実施例の排熱回収器1を示している。この排熱回収器1は、いわゆる外周冷却型の構成であり、多数の微細通路11aが軸方向に沿って貫通形成された円柱状のフィン部材11と、このフィン部材11の全周を囲む円環状の冷却水ハウジング12と、を備えている。フィン部材11は、排気通路13の横断面に沿って配置されており、排気通路13を上流側から流れてきた排気が多数の微細通路11aを通過することで、排気の熱を回収する。多数の微細通路11aは、
図3に示すように、フィン部材11の端面の全面に、格子状もしくはハニカム状に形成されている。このフィン部材11は、例えば、耐腐食性ならびに耐熱性を有するステンレス鋼等の金属あるいはセラミックスから形成されている。
【0015】
冷却水ハウジング12は、同様にステンレス鋼等の金属あるいはセラミックスから形成されたもので、内部に、環状に連続した冷却水通路つまり冷却水ジャケット14が形成されている。この冷却水ジャケット14は、フィン部材11の外周を円筒状に囲むように形成されている。従って、排気の熱は、フィン部材11から冷却水ジャケット14内の冷却水へと伝わる。円筒状をなす冷却水ジャケット14は、例えば互いに180°離れた箇所に冷却水入口15および冷却水出口16を有する。これらの冷却水入口15および冷却水出口16は、内燃機関2の冷却装置におけるウォータポンプによって冷却水が内燃機関2との間で循環するように、内燃機関2の冷却装置に接続されている。例えば、冷却水入口15が、冷却水通路17Aを介して内燃機関2のシリンダブロックないしシリンダヘッドのウォータジャケットに接続され、冷却水出口16が、冷却水通路17Bを介して内燃機関2のウォータポンプの吸入側に接続される。あるいは、冷却水入口15をウォータポンプの吐出側に接続し、冷却水出口16を冷却水経路の低圧部に接続するようにしてもよい。そして、入口側の冷却水通路17Aあるいは出口側の冷却水通路17Bには、冷却水流量を可変制御する流量制御弁18が介装されている。一実施例では、デューティ比制御により流量制御が可能な流量制御弁18が入口側の冷却水通路17Aに配置されている。
【0016】
また、後述する熱回収量の推定を行うために、排気通路13のフィン部材11上流側および下流側に、入口側排気温度センサ21および出口側排気温度センサ22がそれぞれ配置されている。入口側排気温度センサ21は、フィン部材11通過前の排気温度を検出し、出口側排気温度センサ22は、フィン部材11通過後の排気温度を検出する。さらに、入口側の冷却水通路17Aおよび出口側の冷却水通路17Bには、入口側冷却水温度センサ23および出口側冷却水温度センサ24がそれぞれ配置されている。入口側冷却水温度センサ23は、冷却水ジャケット14で熱交換する前の冷却水温度を検出し、出口側冷却水温度センサ24は、冷却水ジャケット14で熱交換した後の冷却水温度を検出する。これらの検出信号は、内燃機関2の燃料噴射量制御や点火時期制御等の種々の制御を行うエンジンコントローラ25に入力される。エンジンコントローラ25には、内燃機関2の制御に一般的に用いられる図示しない他のセンサ類、例えば、吸入空気量を検出するエアフロメータ、機関回転速度を検出するクランク角センサ、スロットル弁の開度を検出するスロットル開度センサ、アクセルペダルの踏込量を検出するアクセル開度センサ、冷却水温を検出する水温センサ、排気空燃比を検出する空燃比センサ、等の検出信号も入力されている。
【0017】
なお後述するように排気温度に基づいて熱回収量の推定を行う場合には冷却水温度センサ23,24の省略が可能であり、冷却水温度に基づいて熱回収量の推定を行う場合には逆に排気温度センサ21,22の省略が可能である。
【0018】
上記のように構成された排熱回収器1にあっては、通常の運転時には、流量制御弁18が全開状態となり、図示せぬウォータポンプの回転に伴い、冷却水ジャケット14を常時冷却水が通流する。従って、排気の熱は、フィン部材11を介して冷却水に回収される。
【0019】
一方、フィン部材11の微細通路11aを排気が通流するので、伝熱面となる微細通路11aの内壁面に徐々にデポジットが堆積する。排気温度の低い低負荷運転が継続すると、デポジットの堆積が顕著となる。特に、上記の外周冷却型の排熱回収器1にあっては、フィン部材11の外周側部分が冷却水との熱交換で温度低下するため、円形をなすフィン部材11の中心寄り部分に比較して外周側部分の微細通路11aでデポジットが堆積し易い。そのため、本実施例においては、内燃機関2の始動時に、排気熱を利用してデポジットの燃焼・除去を行う。
【0020】
図4は、内燃機関2の始動時にエンジンコントローラ25が実行する処理の流れを示したフローチャートである。
【0021】
このフローチャートに示すルーチンは、内燃機関2の運転中に例えば所定時間毎に繰り返し実行されるものであって、ステップ1では、内燃機関2の始動であるか否かを判定する。内燃機関2の始動でない場合つまり内燃機関2の通常の運転中であれば、後述するステップ8の熱回収量Hの推定およびステップ9の性能レベルPの算出を繰り返し行う。性能レベルPの値は、排熱回収器1の初期性能として得られるべき熱回収量Hnewに対するその時点の推定した熱回収量Hの割合(%)として与えられるものであり、内燃機関2の運転中に逐次更新され、かつエンジンコントローラのメモリに残存性能レベルP0として保持される。換言すれば、残存性能レベルP0は、フィン部材11へのデポジットの堆積に伴う排熱回収器1の熱交換効率低下の程度を表す指標となる。
【0022】
内燃機関2の始動時には、ステップ1からステップ2へ進み、メモリに保持されている前回の運転時における残存性能レベルP0(換言すればキーOFF時の残存性能レベルP0)の値(%)が、所定の閾値Pth1(%)以上であるか否かを判定する。残存性能レベルP0が閾値Pth1以上であれば、デポジットの燃焼・除去の処理が不要であるとみなして、燃焼・除去の処理は行わない。
【0023】
残存性能レベルP0が閾値Pth1未満であれば、デポジットの堆積により排熱回収器1の熱交換効率が低下しているものとみなし、ステップ3以降の処理へ進む。ステップ3では、所定のデポジット燃焼制御を開始する。
【0024】
このデポジット燃焼制御は、
図7のフローチャートに示すように、排気温度上昇制御例えば点火時期リタード(ステップ31)と、排気流量増加制御例えばアイドル回転速度の上昇補正(ステップ32)と、排熱回収器1を通過する冷却水流量の低減(ステップ33)と、を含んでいる。すなわち、ステップ31では、内燃機関2の負荷と回転速度とから定まる通常のアイドル運転時における点火時期に対して大幅な点火時期リタードを行う。これにより、排気温度が上昇する。またステップ32では、暖機が完了した状態でのアイドル運転時のアイドル回転速度よりも高い回転速度にアイドル回転速度を制御する。これにより、内燃機関2から排出される排気の流量が増加する。またステップ33では、冷却水通路17Aに設けられた流量制御弁18によって冷却水流量を少なく制限する。これにより、フィン部材11に対する冷却作用が弱くなり、フィン部材11の温度(特に外周側部分の温度)が高く得られやすくなる。
【0025】
このようなデポジット燃焼制御によって、デポジットが堆積しているフィン部材11の温度が上昇し、デポジットが燃焼する。例えば、伝熱面の温度を400℃程度に温度上昇させることでデポジットの燃焼・除去が可能である。
【0026】
図1のステップ3に続くステップ4では、後述するように熱回収量Hの推定を行い、ステップ5で、推定した熱回収量Hに基づいてその時点での性能レベルPを算出する。この性能レベルPは、上述したように、排熱回収器1の初期性能として得られるべき熱回収量Hnewに対するその時点の推定した熱回収量Hの割合(%)として与えられる。デポジットの燃焼・除去が進行すれば、性能レベルPの値(%)は徐々に増加する。
【0027】
ステップ6では、ステップ5で求めた性能レベルPの値(%)が所定の閾値Pth2(%)以上であるか否かを判定する。閾値Pth2未満であれば、ステップ3のデポジット燃焼制御を継続し、性能レベルPが閾値Pth2まで回復したか否かを繰り返し判定する。
【0028】
性能レベルPの値(%)が閾値Pth2以上となったら、ステップ6からステップ7へ進み、ステップ3のデポジット燃焼制御を終了する。なお、閾値Pth2は、残存性能レベルP0に関するステップ2における閾値Pth1と同じ値であってもよく、あるいは異なる値であってもよい。
【0029】
図5は、ステップ4の熱回収量Hの推定およびステップ5の性能レベルPの算出の一実施例の詳細を示すフローチャートである。この実施例は、排熱回収器1を通過する排気の温度変化から熱回収量Hを求めるようにしたものであり、ステップ11において、そのときの内燃機関2の運転条件から排気流量Qexを推定する。排気流量Qexは、内燃機関2の吸入空気量と投入した燃料量とから定まるので、内燃機関2の回転速度と負荷とに基づき例えばマップ検索により排気流量Qexを推定する。次にステップ12において、入口側排気温度センサ21が検出した入口側排気温度Tex1および出口側排気温度センサ22が検出した出口側排気温度Tex2を読み込む。そして、ステップ13において、入口側排気温度Tex1と出口側排気温度Tex2と排気流量Qexとに基づき、排熱回収器1の熱回収量Hを推定する。熱回収量Hは、単位時間当たりに排気から冷却水へ回収された熱量を示している。以上のステップ11〜ステップ13が
図4のステップ4に相当する。
【0030】
ステップ14では、排熱回収器1の初期性能として得られるべき熱回収量Hnewを求める。例えば、入口側排気温度Tex1と排気流量Qexとをパラメータとして新品時の熱回収量Hnewをマップに割り付けておき、ステップ12で読み込んだ入口側排気温度Tex1とステップ11で推定した排気流量Qexとに対応する熱回収量Hnewをマップ検索する。そして、ステップ15において、ステップ13で推定した現時点の熱回収量Hをステップ14の初期性能の熱回収量Hnewで除して、性能レベルP(%)を求める。以上のステップ14,15が
図4のステップ5に相当する。
【0031】
図6は、ステップ4の熱回収量Hの推定およびステップ5の性能レベルPの算出の第2の実施例の詳細を示すフローチャートである。この実施例は、排熱回収器1の冷却水ジャケット14を通過する冷却水の温度変化から熱回収量Hを求めるようにしたものであり、ステップ21において、冷却水ジャケット14を通過する冷却水流量Qwを推定する。冷却装置のウォータポンプが内燃機関2によって機械的に駆動される構成では、冷却水流量Qwは、基本的に内燃機関2の回転速度に相関する。また、上述のように流量制御弁18によって排熱回収器1への冷却水流量を低減している状況では、流量制御弁18の開度にも冷却水流量Qwが影響される。従って、例えば内燃機関2の回転速度に基づいて求めた基本の冷却水流量の値を流量制御弁18の開度に基づき補正することにより、冷却水ジャケット14を通過する冷却水流量Qwを推定することができる。なお、このほか冷却水流量Qwに影響する他のパラメータを考慮するようにしてもよい。
【0032】
次にステップ22において、入口側冷却水温度センサ23が検出した入口側冷却水温度Tw1および出口側冷却水温度センサ24が検出した出口側冷却水温度Tw2を読み込む。そして、ステップ23において、入口側冷却水温度Tw1と出口側冷却水温度Tw2と冷却水流量Qwとに基づき、排熱回収器1の熱回収量Hを推定する。熱回収量Hは、上述したように単位時間当たりに排気から冷却水へ回収された熱量を示している。以上のステップ21〜ステップ23が
図4のステップ4に相当する。
【0033】
ステップ24では、排熱回収器1の初期性能として得られるべき熱回収量Hnewを求める。ここでは、例えば、入口側冷却水温度Tw1と冷却水流量Qwとをパラメータとして新品時の熱回収量Hnewをマップに割り付けておき、ステップ22で読み込んだ入口側冷却水温度Tw1とステップ21で推定した冷却水流量Qwとに対応する熱回収量Hnewをマップ検索する。そして、ステップ25において、ステップ23で推定した現時点の熱回収量Hをステップ24の初期性能の熱回収量Hnewで除して、性能レベルP(%)を求める。以上のステップ24,25が
図4のステップ5に相当する。
【0034】
内燃機関2の運転中に繰り返し実行されるステップ8の熱回収量Hの推定およびステップ9の性能レベルPの算出も、
図5もしくは
図6のフローチャートによる処理と全く同様に行われる。
【0035】
このように、上記実施例によれば、基本的に内燃機関2の始動のたびにデポジット燃焼制御(ステップ3)が実行され、デポジットの燃焼・除去が行われる。そして、排熱回収器1における排熱回収状態からデポジットの燃焼が完了したと推定されるまでデポジット燃焼制御が継続される。従って、デポジットの堆積による熱交換効率の低下や排熱回収器1における圧力損失の増加が抑制される。特に、円柱状のフィン部材11の外周に環状の冷却水ジャケット14を設けた外周冷却型排熱回収器1にあっては、冷却水による冷却作用を強く受ける外周側部分でデポジットが堆積しやすく、また高負荷運転によっても外周側部分に堆積したデポジットは自然には除去されにくいものとなるが、上記実施例のようにデポジット燃焼制御を実行することで、デポジットの過度の堆積が確実に回避できる。
【0036】
また、デポジット燃焼制御が内燃機関2の始動直後に実行されるので、デポジット燃焼制御に伴う異音発生(例えばアイドル回転速度の上昇による騒音増加等)が問題となりにくく、車両の乗員に違和感を与えることが少ない。
【0037】
なお、内燃機関2の冷間始動の際には、図示しない別の制御ルーチンによって触媒装置4の触媒の早期活性化のために排気温度を高める触媒暖機制御として点火時期リタードが実行されるが、冷間始動時に上述したデポジット燃焼制御が実行される場合には、デポジット燃焼制御が触媒暖機制御を兼ねたものとなる。
【0038】
図8は、触媒暖機制御およびデポジット燃焼制御による点火時期リタードの特性を概略的に示したタイムチャートであり、時刻t1において内燃機関2が冷間始動として始動されたとすると、触媒暖機制御もしくはデポジット燃焼制御として点火時期リタードが開始される。これにより排気温度が急速に上昇する。ここで、デポジット燃焼制御ではなく単に触媒暖機制御であれば、排熱回収器1の上流側に位置する触媒装置4の温度は短時間で触媒活性温度に到達するので、時刻t2において触媒暖機制御が終了する。これに対し、デポジット燃焼制御は、デポジットの燃焼・除去が完了したとみなし得るまでにさらに長い時間が必要であり、例えば時間t3まで点火時期リタードが継続され、高い排気温度が与えられる。
【0039】
なお、図示例のように排熱回収器1の上流に触媒装置4が位置する構成では、冷間始動時に点火時期リタードにより排気温度が高くなっても、触媒装置4が活性化するまでの間は、排気熱の多くが触媒装置4で吸収されてしまうので、排熱回収器1のフィン部材11の温度上昇は緩慢である。従って、一般的な触媒暖機制御のみではデポジットの燃焼には至らない。
【0040】
以上、この発明の一実施例を詳細に説明したが、この発明は上記実施例に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、排気温度上昇制御としては、上記の点火時期リタードに代えて(あるいはこれに加えて)、内燃機関2の排気弁を通常の開時期よりも早期に開く排気弁早開きによって排気温度上昇を図ることも可能である。また、上記実施例では、フィン部材11の温度を高めるために、点火時期リタードによる排気温度上昇制御とアイドル回転速度の上昇による排気流量増加制御との双方を行っているが、いずれか一方のみを実行する構成であってもよい。
【0041】
また、この発明は、上記実施例における外周冷却型排熱回収器1に限らずに、排気と冷却水との間で熱交換を行う種々の型式の排熱回収器に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1…排熱回収器
2…内燃機関
4…触媒装置
11…フィン部材
12…冷却水ハウジング
14…冷却水ジャケット
18…流量制御弁
21…入口側排気温度センサ
22…出口側排気温度センサ
23…入口側冷却水温度センサ
24…出口側冷却水温度センサ
25…エンジンコントローラ