(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6760177
(24)【登録日】2020年9月7日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】雌端子
(51)【国際特許分類】
H01R 13/11 20060101AFI20200910BHJP
H01R 4/02 20060101ALI20200910BHJP
H01R 13/187 20060101ALI20200910BHJP
【FI】
H01R13/11 302A
H01R4/02 C
H01R13/187 A
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-67266(P2017-67266)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-170188(P2018-170188A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年6月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】椋野 潤一
【審査官】
杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/077144(WO,A1)
【文献】
特開2011−249169(JP,A)
【文献】
特許第5660458(JP,B2)
【文献】
特開2016−225289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/11
H01R 4/02
H01R 13/187
H01R 13/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄端子と嵌合され、且つ電線が接続される雌端子であって、
前記雄端子が挿入され、前後方向に開口する箱状の雌側本体部と、
前記雄端子に対して、前記雌側本体部の天井壁から前記雌側本体部の内方に向かって接圧を付与する接圧付与部と、
前記雌側本体部の底壁から突出し、前記雄端子と接する底壁接点部とを備え、
前記電線の導体部が、前記底壁と前記雄端子とが接する面の反対側となる背面における前記底壁接点部と対応する位置に溶接により取り付けられていることを特徴とする雌端子。
【請求項2】
前記底壁の前端部から下方に突出する第一位置決め板と、
前記底壁の後端部から後方に向かって突出し、板状をなす後方板部と、
前記後方板部の両側端部から下方に突出する一対の第二位置決め板とを備えることを特徴とする請求項1に記載の雌端子。
【請求項3】
前記接圧付与部は、前記天井壁の後端部から前記雌側本体部の前端部に向けて前方に延びて形成され、前記天井壁から前記雌側本体部の内方に突出しており、前記雌側本体部内への前記雄端子の挿入方向と交差する方向に複数の弾性接触片が並べられた構成とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の雌端子。
【請求項4】
前記接圧付与部は、前記雌側本体部とは別体とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の雌端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、雌端子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の雌端子の一例として、特許第3415141号(下記特許文献1)に記載の雌端子金具が知られている。この雌端子金具は、前後に開口する略箱型をなす雌側本体部と、電線の端末に圧着接続可能なバレル部とを前後に繋げた構成となっている。雌側本体部の内部には、ピン状の雄端子金具と弾性的に接触する弾性接触片が備えられている。
【0003】
雄端子金具を、雌端子金具の雌側本体部の内部に挿入すると、雄端子金具は雌端子金具の弾性接触片と弾性的に接触し、雄端子金具と雌端子金具とは電気的に導通する。これにより、雄端子金具と雌端子金具とが接する雄端子接点部においては接触抵抗が生じる。また、電線の芯線をバレル部に圧着接続すると、雌端子金具と電線とは電気的に導通する。これにより、バレル部と芯線とが接する芯線接点部においては接触抵抗が生じる。さらに、雄端子接点部と芯線接点部の間においては、雌端子金具の導体抵抗が生じる。従って、雌端子金具に通電させると、これらの抵抗によって雌端子金具は発熱する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3415141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、雌端子金具に流す電流が大きくなるに従って、雌端子金具の発熱量は増加し、雌端子金具の発熱量に比例して雌端子金具の導体抵抗も増加する。そのため、大電流を流す機器においては、雌端子金具の発熱を抑える必要がある。一般的に、発熱を抑えるために雌端子金具の板厚を厚くすることで、雌端子金具の導体抵抗を減らしている。そのため、板厚が厚くなることによる雌端子金具の加工費や材料費等のコストの増加及び端子重量の増加という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書で開示される雌端子は、雄端子と嵌合され、且つ電線が接続される雌端子であって、前記雄端子が挿入され、前後方向に開口する箱状の雌側本体部と、前記雄端子に対して、前記雌側本体部の天井壁から前記雌側本体部の内方に向かって接圧を付与する接圧付与部と、前記雌側本体部の底壁から突出し、前記雄端子と接する底壁接点部とを備え、前記電線の導体部が、前記底壁と前記雄端子とが接する面の反対側となる背面に溶接により取り付けられている。
このような構成にすると、雄端子と雌端子との接点部から、雌端子と電線との接点部までの長さが、底壁の板厚の厚さと略等しくなる。従って、雌端子に通電させた際、雌端子の導体抵抗により生じる発熱を抑制することができる。また、雄端子と雌端子との接点部で生じる接触抵抗により生じた熱を、電線の導体部へ放熱させ易くすることができる。
【0007】
また、前記底壁の前端部から下方に突出する第一位置決め板と、前記底壁の後端部から後方に向かって突出し、板状をなす後方板部と、前記後方板部の両側端部から下方に突出する一対の第二位置決め板とを備えることとしても良い。
このような構成にすると、雌端子に設けられた第一位置決め板及び一対の第二位置決め板は、例えば雌コネクタハウジングに雌端子が挿入された際、雌コネクタハウジング内部の前壁、側壁及び底壁に当接するため、それぞれ3つの板が位置決めの役割を果たすこととなる。
【0008】
また、前記接圧付与部は、前記天井壁の後端部から前記雌側本体部の前端部に向けて前方に延びて形成され、前記天井壁から前記雌側本体部の内方に突出しており、前記雌側本体部内への前記雄端子の挿入方向と交差する方向に複数の弾性接触片が並べられた構成とされていることとしても良い。
このような構成とすると、弾性接触片が雌端子と一体となっているため、別体とするのに比べて加工コストを低減することができる。
【0009】
また、前記接圧付与部は、前記雌側本体部とは別体とされていることとしても良い。
このような構成にすると、接圧付与部を別体部品としているので、接圧付与部の材質や板厚を変更することで、雄端子への接圧の変更を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本明細書に開示される雌端子によれば、雌端子の板厚を厚くすることなく、雌端子の発熱を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図5】雄端子と雌端子との勘合後におけるA−A断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態1>
図1から
図5を参照して実施形態1を説明する。
本実施形態の雌端子10は、例えばハイブリッド自動車や電気自動車におけるインバータとモータとの間の接続に用いられるものである。雌端子10は、0.6mm程度の厚さの銅板金を打ち抜き加工及び曲げ加工することにより形成されている。雌端子10は図示しない雌コネクタハウジングの内部に挿入される。雌端子10は、
図5に示すように、箱状の雌側本体部12と、雌側本体部12の底壁24の反対側の面となる底壁背面28に取り付けられた編組線40とを備えている。さらに、雌端子10には、図示しない雌コネクタハウジングに雌端子10が挿入された際の位置決めの役割を果たす、第一位置決め板36及び一対の第二位置決め板38が備えられている。一方、雌端子10と嵌合される雄端子60は、板状をなす雄側本体部62を備えている。雄端子60は図示しない雄コネクタハウジングの内部に挿入される。以降の説明では、雄端子60との嵌合方向を前方、雌端子10の底壁24から天井壁14に向かう方向を上方とする。
【0013】
箱状の雌側本体部12は、前後方向に開口している。雌側本体部12の内部の上方にある天井壁14は、雄側本体部62に接圧を付与する接圧付与部16を備えている。
【0014】
接圧付与部16は、天井壁14の後端部から雌側本体部12の前端部に向けて前方に延びて形成されている。さらに、接圧付与部16は、
図4に示すように、雌側本体部12への雄端子60の挿入方向と交差する方向に、等間隔に4つ設けられた弾性接触片18によって構成されている。
【0015】
雌側本体部12の天井壁14の中央付近には、過度撓み防止部22が設けられている。過度撓み防止部22は、天井壁14の一部を切り込むことで切り込み片を設け、さらに切り込み片を雌側本体部12の上方から内方に向けて押し出すことで形成されている。これは、雄端子60が雌側本体部12に挿入され、雄側本体部62と弾性接触片18とが弾性的に接触すると、弾性接触片18は上方に押されて動くこととなるが、弾性接触片18が一定以上動くと過度撓み防止部22に当たり、弾性接触片18はこれ以上、上方に動かなくなる。これによって、弾性接触片18が過度に撓むことで、弾性接触片18が塑性変形することを防止している。
【0016】
雌側本体部12の底壁24には、雄側本体部62と接する底壁接点部26が設けられている。底壁接点部26は、
図4に示すように、4つの弾性接触片18のうち両端の弾性接触片18に対応する位置に、底壁24から上方に突出する形で、ビード状に形成されている。また、それぞれの底壁接点部26には、前後方向に2つの山が形成されている。それぞれの山の頂点が、雄側本体部62との接点となる。
【0017】
底壁24の前端部にあたる底壁前端部30から下方に向けて、板状をなす第一位置決め板36が突出して形成されている。また、底壁24の後端部にあたる底壁後端部32から後方に向けて、板状をなす後方板部34が突出して形成されている。さらに後方板部34の両側端部から下方に向けて、一対の第二位置決め板38が突出して形成されている。
【0018】
雌端子10の底壁背面28に、編組線40の導体部が抵抗溶接により接続されている。これにより、雌端子10と編組線40とは、底壁背面28と編組線40との間の導体接点部42を介して電気的に導通している。
【0019】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0020】
図示しないものの、雌端子10を雌コネクタハウジングの内部に挿入すると、雌コネクタハウジングの内部の側壁に雌端子10の一対の第二位置決め板38が当たる。また、雌コネクタハウジング内部の底壁に雌端子10の第一位置決め板36及び一対の第二位置決め板38が当たる。さらに、雌端子10の第一位置決め板36が雌コネクタハウジングの内部に設けられた前壁に当たり、雌端子10は前止まりされる。このようにして、雌端子10の雌コネクタハウジング内での位置が定まる。
【0021】
雄コネクタハウジングと雌コネクタハウジングを嵌合させると、
図5に示すように、雄端子60の雄側本体部62に、雌端子10の弾性接触片18が弾性的に押さえつけられる。これにより、雄側本体部62と弾性接触片18とは、接触片接点部20を介して弾性的に接触する。また、雄側本体部62が弾性接触片18に弾性的に押さえつけられることで、雄側本体部62は雌端子10の底壁24に押し当てられる。これにより、雄側本体部62と雌端子10の底壁24とは、底壁接点部26を介して接触する。ここで、雄端子60と雌端子10との接点部から、導体接点部42の間の合成抵抗Rは、抵抗R1及び抵抗R2を用いて、以下のように表される。
抵抗R=(R1
/R2)+導体接点部42の接触抵抗
抵抗R1=接触片接点部20の接触抵抗+接触片接点部20から導体接点部42の間の導体抵抗Rc1
抵抗R2=底壁接点部26の接触抵抗+底壁接点部26から導体接点部42の間の導体抵抗Rc2
雌端子10に通電させると、抵抗Rにより発熱が生じる。
一般的に、導体抵抗は導体断面積に反比例し、導体長さに比例する。ここで、導体抵抗Rc2を決める導体長さは、
底壁接点部26から導体接点部42までの長さとなるので、雌端子10の板厚0.6mmと略等しくなる。また、導体抵抗Rc2を決める導体断面積は底壁24の面積となる。一方、導体抵抗Rc1を決める断面積は部位によって異なるが、例えば、接圧付与部16の断面積は底壁24の面積より小さくなる。また、接圧付与部16の長さは、雌端子10の板厚よりも長いことから、導体抵抗Rc1は導体抵抗Rc2よりも大きくなる。従って、接触片接点部20から導体接点部42の間を流れる電流より、底壁接点部26から導体接点部42の間を流れる電流の方が大きくなるため、底壁接点部26から導体接点部42の間の導体抵抗Rc2における発熱が問題となる。しかし、上述の通り、導体抵抗Rc2を決める導体長さは雌端子10の板厚0.6mm分の長さであり、導体断面積は底壁24の面積であるため、導体抵抗Rc2での発熱を抑制できる。このように、従来の雌端子では、導体抵抗を下げるために雌端子の板厚を厚くする必要があったが、雌端子10では、板厚を薄くする程、導体抵抗Rc2を小さくすることができる。また、雄端子60と雌端子10との接点となる底壁接点部26の接触抵抗により発熱が生じるが、生じた熱は0.6mmの板厚の底壁24を通って、底壁背面28に接続された編組線40の後方の導体部に伝わっていく。従って、底壁接点部26の接触抵抗による発熱を抑制できる。同様に、導体接点部42の接触抵抗により発熱が生じるが、生じた熱は編組線40の後方の導体部に伝わっていくため、導体接点部42の接触抵抗による発熱も抑制できる。以上より、雌端子10の発熱を抑制することができる。
【0022】
以上のように本実施形態によれば、雄端子60と雌端子10との接点部26から、雌端子10と編組線40との導体接点部42までの長さが、底壁24の板厚の厚さと略等しくなる。従って、雌端子10に通電させた際、雌端子10の導体抵抗により生じる発熱を抑制することができる。また、雄端子60と雌端子10との接点部から雌端子10と編組線40との導体接点部42までの距離が底壁24の板厚の厚さ分となるため、雄端子と雌端子との接点部で生じる接触抵抗により生じた熱を、編組線40の導体部へ放熱させ易くすることができる。
【0023】
また、雌端子10に設けられた第一位置決め板36板及び一対の第二位置決め板38は、例えば図示しない雌コネクタハウジングに雌端子10が挿入された際、それぞれ3つの板が位置決めの役割を果たすこととなる。
【0024】
また、接圧付与部16が雌端子10と一体となっているため、別体とするのに比べて加工コストを低減することができる。
【0025】
<実施形態2>
次に、接圧付与部の構造を変更した実施形態2について、
図6を参照して説明する。
実施形態1では、雌側本体部12と接圧付与部16は一体となっているが、本実施形態の雌端子310では、雌側本体部312と接圧付与部316は別体となっている。接圧付与部316は、0.5mm程度の厚さのステンレス鋼板を打ち抜き加工及び曲げ加工することにより形成されている。
【0026】
雌側本体部312の天井壁314は、前端保持部344と後端保持部346とを備えている。前端保持部344は、天井壁314の前端部を雌側本体部312の内方に向かって折り曲げることで形成されている。後端保持部346は、天井壁314の後端部を雌側本体部312の内方に向かって折り曲げることで形成されている。
【0027】
接圧付与部316は、板状をなす前端保持板317及び後端保持板319と、前端保持版317と後端保持板319との間に谷状をなすばね部318とを有している。接圧付与部316の前端保持版317は前端保持部344の内部に収められ、また、後端保持版319は後端保持部346の内部に収められている。これにより、接圧付与部316は、雌側本体部312に保持されている。接圧付与部316のばね部318には、図示しないものの、嵌合される雄端子360の雄側本体部362の挿入方向と交差する方向に、等間隔に3つのスリットが入れられている。これにより、雄側本体部362が雌側本体部312に挿入されると、雄側本体部
362とばね部318は、4つの接点を介して弾性的に接触する。
【0028】
その他の部位については、実施形態1と同様のため、説明を省略する。
以上のように本実施形態によれば、接圧付与部316を別体部品としているので、接圧付与部316の材質や板厚を変更することで、雄端子360への接圧の変更を容易にすることができる。
【0029】
<他の実施形態>
本明細書によって開示される技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような種々の態様も含まれる。
(1)上記実施形態1では、雌側本体部12の母材として、0.6mm程度の厚さの銅板金を用いたが、板金の厚さ及び材質は何でも良い。
(2)上記実施形態2では、接圧付与部316の母材として、0.5mm程度の厚さのステンレス鋼板を用いたが、板金の厚さ及び材質は何でも良い。
(3)上記実施形態1では、弾性接触片18の数は4つとしたが、弾性接触片18の数はいくつでも良い。
(4)上記実施形態1では、雌端子10に接続される電線として編組線40を用いたが、電線であれば何でも良い。例えば、芯線を絶縁材からなる被覆で覆った被覆電線を用いても良い。
(5)上記実施形態1では、底壁接点部26を、底壁24から上方に突出する形で、ビード状に形成したが、形状は何でも良い。例えば、エンボス状に形成しても良い。
(6)上記実勢形態1では、雌側本体部12に編組線40を抵抗溶接により溶接していたが、溶接方法は何でも良い。例えば、超音波溶接、レーザー溶接、又は電子ビーム溶接等により溶接しても良い。
【符号の説明】
【0030】
10…雌端子
12…雌側本体部
14…天井壁
16…接圧付与部
18…弾性接触片
20…接触片接点部
22…過度撓み防止部
24…底壁
26…底壁接点部
28…底壁背面
30…底壁前端部
32…底壁後端部
34…後方板部
36…第一位置決め板
38…第二位置決め板
40…編組線(電線)
42…導体接点部
60…雄端子
62…雄側本体部
310…雌端子
312…雌側本体部
314…天井壁
316…接圧付与部
317…前端保持板
318…ばね部
319…後端保持板
344…前端保持部
346…後端保持部
360…雄端子
362…雄側本体部