【課題を解決するための手段】
【0012】
方法に関する上記課題を解決するための方法について、請求項1に記載した特徴に従って説明する。本発明に係る方法は、少なくとも10
5Ωcm、好ましくは最大で10
12Ωcm、である電気比抵抗を有する少なくとも1つのSiC塊状単結晶を製造する方法であって、成長坩堝の少なくとも1つの結晶成長領域においてSiC成長気相が生成され、このSiC成長気相からの析出によってSiC塊状単結晶が成長する方法であり、前記SiC成長気相が、前記成長坩堝の中のSiC供給領域に位置するSiC供給源材料から供給される。この方法において、材料は、SiC供給領域から、特に結晶成長領域に位置する成長中のSiC塊状単結晶の成長境界面へ、移送される。また、バナジウムは、成長中のSiC塊状単結晶のドーピング剤として、好ましくは気体状態で、結晶成長領域へ供給される。更に、成長中のSiC塊状単結晶の成長境界面において、成長温度は、2,250℃以上、好ましくは最高で2,500℃、好適には2,350℃から2,450℃の間、に設定され、これにより、SiC塊状単結晶が、5×10
17cm
−3超、好ましくは最大で1×10
19cm
−3のバナジウムドーピング剤濃度で、ドープされて成長する。また、SiC供給領域から成長境界面への材料移送は、成長坩堝の中の温度条件に加えて、追加の移送影響手段によって制御され、これにより、成長境界面の成長温度と成長境界面への材料移送とは、少なくとも大部分、互いに無関係に、支配することができる。
【0013】
バナジウムは、単結晶SiCにおけるバナジウムの固溶限界であると以前に見なされていた約3×10
17cm
−3〜5×10
17cm
−3の濃度を上回るドーピング剤濃度で、成長中のSiC塊状単結晶へ導入可能であることが分かっている。このため、成長中のSiC塊状単結晶の成長境界において、半絶縁性SiC塊状単結晶の従来の成長方法において通常用いられていたよりも高い成長温度が設定される。この成長温度は、2,250℃以上、好ましくは2,350℃以上であり、例えば、2,400℃を超える、或いは更に2,450℃を超える値であってよい。このようにして、バナジウムは、5×10
17cm
−3を超える、好ましくは少なくとも6×10
17cm
−3、好適には少なくとも7.5×10
17cm
−3、最も好適には少なくとも2×10
18cm
−3の非常に高いドーピング剤濃度で、成長中のSiC塊状単結晶に、有益に埋め込み又は導入することができる。殊に、5×10
17cm
−3を超えるバナジウムドーピング剤濃度でドープされたSiC塊状単結晶は、巨視的なバナジウム沈殿物なしに成長する。巨視的なバナジウム沈殿物は、具体的には、1mmを超える横方向の幅を有するものとして定義される。好適には、バナジウムでドープしたSiC塊状単結晶は、完全に沈殿物無しで成長する。成長境界面における成長温度が高いので、単結晶SiCにおけるバナジウムの固溶限界は、好ましくは1×10
19cm
−3まで増加し得る。いずれの場合にも、このバナジウムドーピング剤濃度以下において、重大なバナジウム沈殿物は形成されない。沈殿物が無いことは、ドープしたバナジウムの電気的効果を最大限にすることについて、また、成長中のSiC塊状単結晶において欠陥を可能な限り少なくすることについて、有利に働く。
【0014】
SiC塊状単結晶に導入されたバナジウム原子は、少なくとも広範囲に又は全体的に、特に電気的に活性であり有効である。好ましくは、バナジウム原子が浅い欠陥を補うために利用される。高濃度のバナジウムドーピング剤が結晶格子中に導入される結果、従来知られている方法に比べて、より多くの浅い欠陥が補償され、これにより、浅い欠陥が多すぎて以前は廃棄されていたSiC塊状単結晶であっても、本発明に係る成長方法の場合、所望の半絶縁性挙動を維持する。従って、不良品発生率が低下する。本発明に係る方法により成長させたSiC塊状単結晶の電気比抵抗値は高く、好ましくは10
10Ωcm以上、好適には、更に10
11Ωcm以上である。ここに提示した抵抗値及び後述する抵抗値は、常に環境温度での値である。
【0015】
成長境界面と場合によっては成長坩堝内の他の地点とにおける高い成長温度に伴う温度条件変化の好ましくない効果を避けるために、本発明に係る方法においては、成長境界面における成長温度の設定と、成長境界面への材料移送の設定と、場合によっては追加の成長条件の設定とが、ほとんど分離される。この有利な分離は、追加の移送影響手段によって達成される。この方法により、高い成長温度にも拘わらず、高品質のSiC塊状単結晶をほとんど欠陥なく成長させることができる。
【0016】
SiC塊状単結晶の成長中の成長温度とは別に、好ましくは、以下の成長条件が成長坩堝内で設定される。供給領域内の供給源温度は、好適には2,400℃から2,700℃の間、より好適には2,450℃から2,550℃までである。前記供給源温度と前記成長境界面における成長温度との間の温度差は、好適には100℃から250℃までの間、より好適には100℃から150℃までの間である。成長坩堝内の成長圧力は、1hPa(=ミリバール)から50hPa(=ミリバール)の間、より好適には5hPa(=ミリバール)から10hPa(=ミリバール)の間である。
【0017】
全体として、本発明に係る成長方法により、SiC塊状単結晶が製造可能であり、この単結晶から高品質の半絶縁性SiC基板を得ることができる。SiC結晶構造に高度の精密さを備えたSiC基板は、部品製造中に実施される後続の加工工程に、ほぼ完璧な状態を提供する。本発明に従って製造されたSiC塊状単結晶は、殊に、半導体及び/又は高周波部品を製造するために、非常に効率的に更に加工される。
【0018】
本発明に係る方法によれば、単一のSiC塊状単結晶だけではなく、より多数の、例えば2個、3個、4個、5個、あるいは好ましくは10個までのSiC塊状単結晶も製造することができる。2個のSiC塊状単結晶を、好ましくは中心軸線の方向に、互いに上下に又は前後に配列して、SiC供給領域の両側で中心軸線の方向に成長するように、成長させる方法が有益である。
【0019】
本発明に係る方法の有利な態様が、請求項1を引用する各請求項の特徴に表わしてある。
【0020】
有利な一態様において、多孔性材料からなる気体透過性膜が少なくとも1つ、SiC供給領域と結晶成長領域との間に、追加の移送影響手段として配置される。好ましくは、SiC供給源材料が前記気体透過性膜により覆われる。前記多孔性材料は、好ましくは、好適には0.8g/cm
3〜1.6g/cm
3の間の、より好適には1.2g/cm
3の密度を備える多孔性黒鉛である。(SiC)気体種に対する前記膜の透過率は、密度及び場合によっては多孔性膜の厚さに応じて、非常に簡単に且つ広い限度内で調節可能である。前記膜の透過率により、成長境界面への材料移送を明確に調節することができる。気体透過性膜は、成長境界面への材料移送と成長境界面の成長温度設定との非常に効果的な分離をもたらす。前記膜を適用することにより、膜を有しない成長装置に比べて、成長境界面における成長温度を、同じ成長速度で、50℃〜250℃、特に約150℃、増加させることができる。これらのことにより、成長中のSiC塊状単結晶において、より高いバナジウムドーピング剤濃度を達成することが可能である。
【0021】
別の有利な態様によれば、SiC供給領域からの材料移送及び成長境界面への材料移送に対する追加の移送影響手段として、少なくとも1段階の再昇華が実施される。好ましくは、SiC供給領域に位置するSiC供給源材料は、昇華によって気体状態へ変化し、そこから、まず、SiC供給領域と成長境界面との間の規定された地点で沈殿(再昇華、凝縮)する。この固体中間段階から、材料を再び昇華させて実際の結晶成長領域へ到達させる。必要に応じて、SiC気体種が結晶成長領域へ達する前に、再昇華を複数回実施しても、即ち、昇華及び沈殿(再昇華、凝縮)を複数回相互に繰り返しても、よい。必要に応じたこのような多重の再昇華は、成長境界面への材料移送と成長境界面における成長温度の設定との非常に有効な分離をもたらす。
【0022】
別の有利な態様によれば、粉末化された、好ましくは、0.8g/cm
3〜3.2g/cm
3の範囲内の相対密度を有する顆粒状のSiC材料が、SiC供給領域へ導入されるSiC供給原材料に対する追加の移送影響手段として、使用される。SiC供給源材料の密度を変化させることにより、昇華温度を変えることができる。SiC供給源材料の密度が高いほど−従って、殊にSiC供給源材料の自由表面が小さいほど−昇華温度は高くなる。高密度のSiC供給源材料を使用することにより、好適には、SiC供給源材料が在る供給領域から種結晶及び(SiC塊状単結晶が成長する)成長境界面が在る結晶成長領域までを含む成長装置全体の温度を、成長速度を変えることなく上昇させることができる。
【0023】
別の有利な態様によれば、成長中のSiC塊状単結晶にドーピング剤として導入されるバナジウムは、実際にSiC塊状単結晶を成長させる前に、SiC供給源材料に添加するか、又は、SiC供給源材料の中に載置される開放ドーピング剤容器に導入することができる。両方とも比較的簡単な手段であり、少しの工夫で適用できるにも拘わらず、成長中のSiC塊状単結晶に対する、特に、非常に高度のそして好適には均質な、バナジウムのドーピングを可能にする。
【0024】
別の有利な態様によれば、成長中のSiC塊状単結晶の追加のドーピング剤として、窒素が結晶成長領域に添加される。窒素の特殊な外部供給が、変態(modification)を安定させ、成長中のSiC塊状単結晶の結晶品質を向上させるために、使用される。成長中のSiC塊状単結晶にある量の窒素があると、そうでなければ結晶成長中に起こるであろうポリタイプ(結晶多形)交換を抑制する。SiC塊状単結晶の窒素ドーピング濃度は、好適には少なくとも5×10
16cm
−3、最適には少なくとも1×10
17cm
−3、好適には最大で5×10
18cm
−3であり、最も好ましくは1×10
18cm
−3である。窒素ドーピング剤濃度は、バナジウムドーピング剤濃度を少なくとも25%下回るのが有利であり、これにより、特に、窒素ドーピングの高信頼性で完全な電気的補償及び、その結果としての、所望の半絶縁性挙動を得る。成長坩堝の外で特別に制御されたやり方、例えば気体状態、で、窒素を添加することにより、窒素とバナジウムとの比率を調節することができ、存在し得る窒素不純物に対処することができる。このようにして、変態安定性(modification stability)に重要な高窒素濃度を、同時に半絶縁特性(補償)を伴いながら、設定することが可能である。
【0025】
別の有利な態様によれば、2個のSiC塊状単結晶が製造される。成長坩堝は、2つの分離された結晶成長領域を備え、これらの結晶成長領域の間にSiC供給領域が配置されていて、このSiC供給領域は、2つの結晶成長領域のそれぞれに関して多孔性材料からなる気体透過性膜で覆ってある。これは、この方法により、同時に2以上のSiC塊状単結晶を成長させることができるので、特に有効である。
【0026】
前記SiC基板に関する課題を解決するために、SiC基板が、請求項8の特徴に従って提供される。本発明による単結晶SiC基板は、少なくとも10
5Ωcmから好ましくは最大10
12Ωcmまでの電気比抵抗を有するものであり、このSiC基板は、ドーピング剤としてのバナジウムでドープされ、完成したSiC基板で測定されるバナジウムドーピング剤濃度の全体平均値は、5×10
17cm
−3を超え、好ましくは最大1×10
19cm
−3であり、SiC基板の如何なる1mm
3体積部分においてもそこで測定されたバナジウムドーピング剤濃度の局所最大値は、前記バナジウムドーピング剤濃度の全体平均値よりも50%を超えて上回らない。
【0027】
本発明に係るSiC基板は半絶縁性であり、従って、好ましくは10
10Ωcm以上、好適には更に上の10
11Ωcm以上の高い電気抵抗を有する。高い電気抵抗は、特に、5×10
17cm
−3を超える非常に高い全体平均バナジウムドーピング剤濃度により測定される。有利なことに、高い全体平均バナジウムドーピング剤濃度にも拘わらず、このSiC基板には、巨視的なバナジウム沈殿物がない。巨視的な沈殿物は、最大いずれかの方向に1mmを超えて延びている沈殿として、定義される。本発明のSiC基板は、全体として、バナジウム沈殿物を(大部分)欠いている。本発明に係る方法と関連して上述したとおり、沈殿物の欠如は、ドープしたバナジウムの最大限の電気的有効性を達成することに関して、また、SiC基板において可能な限り欠陥を少なくすることに関して、有益である。本発明のSiC基板は、非常に良好な結晶品質も有する。
【0028】
他の点では、本発明に係る上記SiC基板及びその好適な変形は、本質的に、本発明に係る製造方法及びその好適な変形に関連して記述したとおりの同じ利点をもつ。
【0029】
本発明に係るSiC基板の有利な態様について、請求項8を引用する各請求項の特徴に表してある。
【0030】
有利な態様において、バナジウムドーピング剤濃度の全体平均値が少なくとも6×10
17cm
−3、特に少なくとも7.5×10
17cm
−3、好適には、少なくとも2×10
18cm
−3である。このようなバナジウムドーピング剤濃度において、浅い欠陥の更に多くが電気的に補償される。
【0031】
別の有利な態様によれば、SiC結晶構造は、単一のSiCポリタイプのみ、特にSiCポリタイプ4H、6H、3C及び15Rのうちの1つ、を備える。好適には、特にポリタイプ変化が広範囲に存在しないことによって特徴付けられる高い変態安定性が存在する。SiC基板が単一のSiCポリタイプのみを備えていれば、SiC基板には、欠陥がほとんど無いという利点もある。これにより、格段に高品質のSiC基板が得られる。
【0032】
別の有利な態様によれば、SiC基板の主基板表面は、少なくとも7.62cm、特には最大で20cmの基板直径を有する。基板直径が大きくなればなるほど、その単結晶SiC基板を、例えば半導体及び/又は高周波部品の生産に、より効率的に使用することができる。従って、部品製造費が削減される。このような大きな直径を有するSiC基板は、例えば約1cm
2の底面積をもつ、比較的大規模の半導体及び/又は高周波部品の生産への使用にも有利である。
【0033】
別の有利な態様によれば、SiC基板は、主基板表面と主基板表面全体に対して最大で10cm
−2、特に最大で1cm
−2の平均マイクロパイプ密度とを有する。これにより、半導体及び/又は高周波部品の生産に最適な、欠陥の非常に少ないSiC基板が提供される。
【0034】
別の有利な態様によれば、追加のドーピング剤として窒素が添加され、特に、この窒素ドーピング剤のSiC基板全体における平均濃度は、少なくとも5×10
16cm
−3、好適には少なくとも1×10
17cm
−3、特に、最大で5×10
18cm
−3、好適には最大で1×10
18cm
−3である。この量での窒素ドーピングは、特に、変態安定性を向上させ、SiC基板が、本質的に、単一のポリタイプのみを備え、結果として欠陥がほとんど無いということを意味する。結晶品質は非常に高い。
【0035】
本発明のその他の特徴、利点及び詳細は、図面を参照して説明する以下の実施形態により明らかにされる。