(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6760912
(24)【登録日】2020年9月7日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】土木工事用起泡剤組成物
(51)【国際特許分類】
E21D 9/06 20060101AFI20200910BHJP
B01F 17/42 20060101ALI20200910BHJP
【FI】
E21D9/06 301L
B01F17/42
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-202584(P2017-202584)
(22)【出願日】2017年10月19日
(65)【公開番号】特開2019-73957(P2019-73957A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2019年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】島田 聡之
(72)【発明者】
【氏名】下田 政朗
【審査官】
亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−206205(JP,A)
【文献】
特開2014−234483(JP,A)
【文献】
特開2007−002168(JP,A)
【文献】
特開2013−035701(JP,A)
【文献】
特開2016−130416(JP,A)
【文献】
特開2016−056083(JP,A)
【文献】
特開2017−061791(JP,A)
【文献】
特開2002−047488(JP,A)
【文献】
特開2000−086322(JP,A)
【文献】
特開平10−183176(JP,A)
【文献】
特開平07−126427(JP,A)
【文献】
特開2000−336357(JP,A)
【文献】
特開2007−077181(JP,A)
【文献】
米国特許第05645375(US,A)
【文献】
特開2005−314475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00−9/14
B01F 17/00−17/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)硫黄原子を含む還元剤、並びに(B)アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤を含有する土木工事用起泡剤組成物であって、
(A)が、ヒドロキシメタンスルホン酸、ヒドロキシメタンスルフィン酸及びこれらのアルカリ金属塩から選ばれる1種以上の化合物である、
土木工事用起泡剤組成物。
【請求項2】
水を含有する液体組成物である、請求項1記載の土木工事用起泡剤組成物。
【請求項3】
(B)としてアニオン界面活性剤を含有する、請求項1又は2記載の土木工事用起泡剤組成物。
【請求項4】
アニオン界面活性剤が下記一般式(1)で表される化合物である、請求項1〜3の何れかに記載の土木工事用起泡剤組成物。
R1−O−(R2O)n−SO3M (1)
〔式中、R1は、炭素数8以上16以下の炭化水素基であり、R2は、炭素数2以上4以下のアルキレン基であり、nは、平均付加モル数であり、0以上25以下の数である。Mは、水素原子又は陽イオンである。〕
【請求項5】
シールド工法用である、請求項1〜4の何れかに記載の土木工事用起泡剤組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の土木工事用起泡剤組成物を用いた気泡を使用する気泡シールド工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木工事用起泡剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
土木工事を行う工法として、起泡剤を含む液体を発泡させて掘削土に注入し、掘削土と気泡とを混合攪拌させながら掘削する工法、即ちカッターヘッドの掘削抵抗低減と摩耗低減及び掘削土運搬処理の作業性を向上させる気泡シールド工法が知られている。気泡シールド工法では、カッターヘッドの掘削抵抗低減と摩耗低減及び掘削土運搬処理の作業性を向上させるために気泡が用いられる。また、掘削用としても気泡が用いられている。このような土木建設材料に用いる気泡を発生させるために起泡剤が使用される。
【0003】
特許文献1には、疎水膜剤が水溶性溶剤で可溶化され、さらに陰イオン界面活性剤が混合されてなる起泡剤水溶液を発泡倍率10倍〜50倍の倍率で発泡させて気泡を生成し、切羽の土砂とシールド掘進機のチャンバ内の土砂に前記気泡を注入して気泡混合土を形成する気泡シールド工法であって、前記気泡混合土に重金属類を不溶化する不溶化材を添加することを特徴とする、気泡シールド工法が開示されている。
特許文献2には、特定の硫酸エステル化合物と、特定のポリエーテル化合物とを含有する気泡シールド工法用起泡剤が開示されている。
【0004】
土木工事を行うにあたり、土壌を掘削する際もしくはセメント系固化材により地盤の改良を行う際に、土壌もしくはセメントに含有されていた環境汚染物質、例えば六価クロムが溶出し、環境基準を超える場合がある。そのような土壌は使用範囲も限られ、掘削後の排泥処理も問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017−061791号公報
【特許文献2】特開2005−314475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、起泡性が良好で、起泡安定性に優れ、六価クロムなどの環境汚染物質の溶出を抑制できる土木工事用起泡剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(A)硫黄原子を含む還元剤〔以下、(A)成分という〕、並びに(B)アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤〔以下、(B)成分という〕を含有する土木工事用起泡剤組成物に関する。
【0008】
また、本発明は、前記本発明の土木工事用起泡剤組成物を用いた気泡を使用する気泡シールド工法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、起泡性が良好で、起泡安定性に優れ、六価クロムなどの環境汚染物質の溶出を抑制できる土木工事用起泡剤組成物が提供される。本発明の土木工事用起泡性組成物から製造した気泡を土壌掘削もしくは地盤改良の際に用いることで、土壌と起泡とが混合され、土壌もしくはセメントに含まれている重金属、例えば六価クロムの溶出が効果的に抑制される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔土木工事用起泡剤組成物〕
<(A)成分>
(A)成分は、硫黄原子を含む還元剤である。(A)成分は、六価クロムを三価クロムに還元する効果を持つ、硫黄原子を含む還元剤が好ましい。(A)成分としては、チオ硫酸ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、ヒドロキシメタンスルホン酸、及びヒドロキシメタンスルフィン酸から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
(A)成分は、六価クロム溶出抑制の観点から、ヒドロキシメタンスルホン酸、ヒドロキシメタンスルフィン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上の化合物が好ましい。(A)成分は、六価クロム溶出抑制の観点から、ヒドロキシメタンスルフィン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物がより好ましい。
ヒドロキシメタンスルホン酸及びヒドロキシメタンスルフィン酸の塩は、六価クロム溶出抑制の観点から、それぞれ、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。ヒドロキシメタンスルホン酸及びヒドロキシメタンスルフィン酸の塩は、それぞれ、水和物の粉末品も使用できるが、量は無水物換算とする。
【0011】
<(B)成分>
(B)成分は、アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤である。
(A)成分と(B)成分とを組み合わせることで、土壌掘削もしくは地盤改良の際に環境汚染物質の溶出を抑制でき、また、良好な起泡性が得られると共に、気泡安定性が向上する。本発明では、このような効果を有する土木工事用起泡剤組成物を、一液型で得ることができる。
【0012】
アニオン界面活性剤としては、起泡性と気泡安定性の観点から、下記一般式(1)で表される界面活性剤が挙げられる。
R
1−O−(R
2O)
n−SO
3M (1)
〔式中、R
1は、炭素数8以上16以下の炭化水素基であり、R
2は、炭素数2以上4以下のアルキレン基であり、nは、平均付加モル数であり、0以上25以下の数である。Mは、水素原子又は陽イオンである。〕
R
1の炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基が挙げられる。R
2は、エチレン基、プロピレン基が挙げられる。R
2はエチレン基を含むことが好ましい。nは、好ましくは0又は0.5以上の数である。nが0より大きい数の場合、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは1以上、そして、好ましくは10以下、より好ましくは3以下である。Mは、水素原子又は陽イオンである。陽イオンは、無機陽イオン、有機陽イオンが挙げられ、具体的には、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アルカノールアンモニウムイオンが挙げられる。
【0013】
ノニオン界面活性剤としては、起泡性の観点から、ノニルフェニルポリエチレンオキシエーテルやアルキルポリグリコシド(β−ドデシルマルトシド、β−ステアリルグルコシド等)が挙げられる。また、起泡安定性の向上の観点から、炭素数8以上22以下のアルキル基を1つ有し、オキシプロピレンの平均付加モル数が1以上10以下であるポリプロピレンモノアルキールエーテル、および炭素数5以上22以下のアルキル基を有するアルキルモノグリセリルエーテルから選ばれる1種以上のノニオン界面活性剤が挙げられる。
【0014】
本発明の土木工事用起泡剤組成物は、(B)成分としてアニオン界面活性剤を含有することが好ましい。また、本発明の土木工事用起泡剤組成物は、(B)成分として、起泡性と気泡安定性の観点から、アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤を含有することができる。アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤を含有する場合、アニオン界面活性剤/ノニオン界面活性剤の質量比は、起泡安定性、水溶性の観点から、好ましくは2.0以上、より好ましくは2.5以上、更に好ましくは3.0以上、そして、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下、更に好ましくは3.3以下である。
【0015】
<組成、任意成分等>
本発明の土木工事用起泡剤組成物は、(A)成分を、還元効果の観点から好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下含有する。
【0016】
本発明の土木工事用起泡剤組成物は、起泡性と気泡安定性の観点から、(B)成分を、好ましくは15質量%以上、より好ましくは17質量%以上、更に好ましくは18質量%以上、そして、好ましくは27質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下含有する。
【0017】
本発明の土木工事用起泡剤組成物は、水を含有する液体組成物であることが好ましい。本発明の土木工事用起泡剤組成物は、水を含有する一液型の組成物がより好ましい。水は、組成物の残部の量で含有される。例えば、本発明の土木工事用起泡剤組成物は、水を、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下含有する。本発明の(A)成分に該当しない還元剤を(B)成分と組み合わせても、安定な一液型の組成物を得るのが困難であったり、六価クロムなどの環境汚染物質の溶出を十分に抑制できなかったりして、本発明の効果を得ることができない。
【0018】
本発明の土木工事用起泡剤組成物は、気泡安定性の観点から、界面活性助剤を含有することが好ましい。界面活性助剤とはそれ自身の界面活性能は低いが、他の界面活性剤と併用した場合に当該他の界面活性剤の界面活性能を向上させるもの、あるいは当該他の界面活性剤との混合物が界面活性を示すものをいう。界面活性助剤としては、例えば、炭素8以上22以下の炭化水素誘導体が挙げられる。ここで炭化水素誘導体としては高級アルコール、高級脂肪酸などが挙げられる。具体的には、起泡性と気泡安定性の観点から、界面活性助剤として、炭素数8以上22以下のアルコールが挙げられる。界面活性助剤の含有量は、起泡性と気泡安定性の観点から、組成物中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。
【0019】
本発明の起泡剤組成物は、土木工事用である。ここで、土木工事としては、シールド工法、更に気泡シールド工法、気泡掘削工法、地中連続壁工法、機械撹拌工法、噴射撹拌工法などが挙げられる。本発明の起泡剤組成物は、シールド工法用、更に気泡シールド工法用として好適である。
【0020】
〔気泡シールド工法〕
本発明は、前記本発明の土木工事用起泡剤組成物を用いた気泡を使用する気泡シールド工法に関する。本発明の気泡シールド工法は、このような所定の気泡を用いる以外は、公知の気泡シールド工法に準じて行うことができる。
本発明の起泡剤組成物は、該組成物及び水を含有する起泡剤水溶液として用いることが好ましい。かかる起泡剤水溶液は、(A)成分を、還元効果の観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは1質量%以下含有する。また、かかる起泡剤水溶液は、(B)成分を、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下含有する。このような起泡剤水溶液から気泡を形成する方法については限定するものではなく、また起泡剤溶液を直接掘削土に練り込んでもよく、添加する方法についても限定しない。
【実施例】
【0021】
(1)土木工事用起泡剤組成物の調製
表1に示す土木工事用起泡剤組成物を次の手順で調製した。
表1の(B)成分を混合し、60℃に加熱し、そこに溶融させたミリスチルアルコールを混合した。すべてが溶解し、均一な混合物が得られたら、次いで(A)成分を混合し、水を加えて、有効分(水以外の成分)の濃度が20質量%となるように調整し、土木工事用起泡剤組成物を得た。
実施例1、2の土木工事用起泡剤組成物は、室温で透明な液体であり、60℃で24時間保存した後も透明であり、高温での安定性が良好であった。
【0022】
(2)評価
(2−1)六価クロム溶出抑制試験
二クロム酸ナトリム水溶液(約278ppb)を15gはかりとり、そこに表1の土木工事用起泡剤組成物を、前記水溶液に対して、1質量%(有効分として0.2質量%)、2質量%(有効分として0.4質量%)、又は3質量%(有効分として0.6質量%)になるよう添加し、全体で41.7gにイオン交換水でメスアップした。メスアップ後の混合液は、六価クロム濃度が約100ppbであった。この混合液10gに、六価クロム検出指示薬を加えて、6分間静置したのちに紫外可視吸光度計により吸光度を測定し、検量線によって液中の六価クロム濃度とした。
【0023】
(2−2)起泡性試験
表1の土木工事用起泡剤組成物0.15gをメスシリンダーに計りとり、イオン交換水で、全体で15gになるようにメスアップして起泡剤水溶液とした。起泡剤水溶液は、実施例1、2及び比較例1の何れも透明であった。起泡剤水溶液を試験管に投入し、試験管を20回手振りして起泡させ、2分後の泡高さを測定した。結果を表1に示した。
【0024】
(2−3)起泡安定性試験
表1のうち、実施例1と比較例1の土木工事用起泡剤組成物0.15gをビオレu(花王株式会社製)のポンプフォーマー容器に計りとり、150gにイオン交換水でメスアップした。その後、ポンプフォーマーを2秒間隔でプッシュして、200mLメスシリンダーに100mLの気泡を充填した。最初の排液量と15分後の排液量をそれぞれ測定し、15分後の排液率を算出した。排液率が小さいほど、起泡安定性に優れることを意味する。排液量はメスシリンダーの目盛を読み取り、測定した。結果を表1に示した。
【0025】
【表1】