特許第6760933号(P6760933)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6760933プリント配線板用原板及びプリント配線板、並びにプリント配線板用原板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6760933
(24)【登録日】2020年9月7日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】プリント配線板用原板及びプリント配線板、並びにプリント配線板用原板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/38 20060101AFI20200910BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20200910BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20200910BHJP
【FI】
   H05K3/38 A
   B32B15/08 J
   B32B15/088
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-522221(P2017-522221)
(86)(22)【出願日】2016年6月1日
(86)【国際出願番号】JP2016066260
(87)【国際公開番号】WO2016194972
(87)【国際公開日】20161208
【審査請求日】2018年12月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-113906(P2015-113906)
(32)【優先日】2015年6月4日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500400216
【氏名又は名称】住友電工プリントサーキット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 佳世
(72)【発明者】
【氏名】岡 良雄
(72)【発明者】
【氏名】春日 隆
(72)【発明者】
【氏名】朴 辰珠
(72)【発明者】
【氏名】上田 宏
【審査官】 ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−287217(JP,A)
【文献】 特開2006−104504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/38
B32B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムと、この樹脂フィルムの少なくとも一方の面に積層される金属層とを備えるプリント配線板用原板であって、
前記樹脂フィルムの金属層積層面に他の部分と組成の異なる改質層を有し、
この改質層が前記金属層の主金属とは異なる金属、金属イオン又は金属化合物を含み、
前記改質層表面における前記金属、金属イオン又は金属化合物に由来する金属元素の含有率が、0.2atomic%以上10atomic%以下であり、
前記樹脂フィルムの改質層が、前記樹脂フィルムへのアルカリ処理により形成され、
前記樹脂フィルムの主成分がポリイミドであり、
前記金属層の主金属が銅であり、
前記金属層が、金属粒子を含むインクの塗布及び加熱により形成される第1金属層と、この第1金属層の表面に無電解めっきで形成される第2金属層と、この第2金属層の表面に電気めっきで形成される第3金属層とを有し、
前記アルカリ処理が親水化処理及び金属導入処理を含み、前記金属元素が前記ポリイミドのイミド環が開環したカルボキシル基に化学結合し、
前記改質層が、前記樹脂フィルムを構成する樹脂若しくは添加物に結合して存在し、又は前記金属元素と結合した金属水酸化物として析出している、前記金属元素以外のアルカリ液の成分を含み、
前記金属粒子の平均粒子径が30nm以上100nm以下であるプリント配線板用原板。
【請求項2】
前記金属、金属イオン又は金属化合物を構成する金属が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属である請求項1に記載のプリント配線板用原板。
【請求項3】
導電パターンを有するプリント配線板であって、
前記導電パターンが、請求項1又は請求項2に記載のプリント配線板用原板の金属層に形成されているプリント配線板。
【請求項4】
前記主金属とは異なる金属元素の前記導電パターンから露出する改質層の表面における含有率が1.5atomic%以下である請求項に記載のプリント配線板。
【請求項5】
樹脂フィルムの表面に金属イオンを含有するアルカリ液によって他の部分と組成が異なる改質層を形成する工程と、
前記改質層形成工程後の樹脂フィルムを水洗する工程と、
前記水洗工程後の樹脂フィルムに前記アルカリ液の金属イオンと異なる金属を積層する工程と
を備え、
前記水洗工程において、前記改質層中に金属イオンを残留させ、
前記改質層表面における前記アルカリ液の金属イオンに由来する金属元素の含有率が、0.2atomic%以上10atomic%以下であり、
前記樹脂フィルムの主成分がポリイミドであり、
前記金属の主金属が銅であり、
前記金属積層工程が、金属粒子を含むインクの塗布及び加熱により第1金属層を形成する工程と、この第1金属層の表面に無電解めっきで第2金属層を形成する工程と、この第2金属層の表面に電気めっきで第3金属層を形成する工程とを含み、
前記改質層形成工程が親水化処理及び金属導入処理を含み、前記金属元素が前記ポリイミドのイミド環が開環したカルボキシル基に化学結合し、
前記改質層形成工程で、前記樹脂フィルムを構成する樹脂若しくは添加物に結合して存在し、又は前記金属元素と結合した金属水酸化物として析出している、前記金属元素以外のアルカリ液の成分を前記改質層が含み、
前記金属粒子の平均粒子径が30nm以上100nm以下であるプリント配線板用原板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板用原板及びプリント配線板、並びにプリント配線板用原板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば樹脂等で形成される絶縁性の樹脂フィルムの表面に、例えば金属等で形成される金属層が積層され、この金属層をエッチングすることで導電パターンを形成してプリント配線板を得るためのプリント配線板用原板が広く使用されている。
【0003】
このようなプリント配線板用原板を使用して形成したプリント配線板に曲げ折力が作用した際に、樹脂フィルムから金属層が剥離しないよう、樹脂フィルムと金属層との剥離強度が大きいプリント配線板用原板が求められている。
【0004】
また、近年、電子機器の小型化及び高性能化に伴い、プリント配線板の高密度化が要求されている。高密度化されたプリント配線板は、導電パターンの微細化に伴って導電パターンが樹脂フィルムから剥離し易くなる。そのため、このような高密度化の要求を満たすプリント配線板用原板として、微細な導電パターンが形成できると共に金属層及び樹脂フィルム間の密着性に優れたプリント配線板用原板が求められている。
【0005】
このような要求に対し、樹脂フィルムの表面に、例えばスパッタリング法等を用いて銅薄膜層を形成し、その上に電気めっき法を用いて銅厚膜層を形成することで、金属層と樹脂フィルムとの間の密着力を大きくする技術が公知である。しかし、樹脂フィルムに金属層を直接積層した場合、時間経過と共に、金属層の主金属原子が樹脂フィルム中に拡散し、金属層と樹脂フィルムとの間の密着性を低下させることが知られている。
【0006】
そこで、銅箔の樹脂フィルムに対する接合面にスパッタリングによってクロムの薄膜を蒸着し、樹脂フィルムに対して熱圧着する技術が提案されている(特開2000−340911号公報参照)。このように、金属層と樹脂フィルムとの界面に金属層の主金属とは異なる種類の金属の薄膜を介在させることによって、金属層の主金属の樹脂フィルムへの移動を阻害し、金属層の主金属原子の樹脂フィルムへの拡散による金属層と樹脂フィルムとの間の密着性の低下を抑制する効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−340911号公報
【発明の概要】
【0008】
本発明の一態様に係るプリント配線板用原板は、樹脂フィルムと、この樹脂フィルムの少なくとも一方の面に積層される金属層とを備えるプリント配線板用原板であって、前記樹脂フィルムの金属層積層面に他の部分と組成の異なる改質層を有し、この改質層が前記金属層の主金属とは異なる金属、金属イオン又は金属化合物を含む。
【0009】
また、本発明の別の態様に係るプリント配線板用原板の製造方法は、樹脂フィルムの表面に金属イオンを含有するアルカリ液によって他の部分と組成が異なる改質層を形成する工程と、前記改質層形成工程後の樹脂フィルムを水洗する工程と、前記水洗工程後の樹脂フィルムに前記アルカリ液の金属イオンと異なる金属を積層する工程とを備え、前記水洗工程において、改質層中に金属イオンを残留させる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態のプリント配線板用原板を示す模式的断面図である。
図2図2は、本発明の一実施形態のプリント配線板用原板の詳細な構成例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示が解決しようとする課題]
特開2000−340911号公報に記載されている構成では、銅箔の表面にスパッタリング法を用いてクロムの薄膜を形成しているので、真空設備を必要とし、設備の建設、維持、運転等におけるコストが高くなる。また設備面において、基板のサイズを大きくすることに限界がある。
【0012】
そこで、上述の事情を鑑みて、比較的安価で金属層と樹脂フィルムとの間の密着力に優れるプリント配線板用原板及びプリント配線板、並びにプリント配線板用原板の製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
[本開示の効果]
本発明の一態様に係るプリント配線板用原板、及びプリント配線板用原板の製造方法により製造されるプリント配線板用原板は、比較的安価で金属層と樹脂フィルムとの間の密着力に優れる。
【0014】
[本発明の実施形態の説明]
(1)本発明の一態様に係るプリント配線板用原板は、樹脂フィルムと、この樹脂フィルムの少なくとも一方の面に積層される金属層とを備えるプリント配線板用原板であって、前記樹脂フィルムの金属層積層面に他の部分と組成の異なる改質層を有し、この改質層が前記金属層の主金属とは異なる金属、金属イオン又は金属化合物を含む。
【0015】
当該プリント配線板用原板は、樹脂フィルムの金属層積層面に他の部分と組成の異なる改質層を有することによって、比較的安価に金属層と樹脂フィルムとの間の密着力を向上できる。また、改質層が金属層の主金属とは異なる金属、金属イオン又は金属化合物を含むことによって、金属層の主金属が改質層中に分散することを異種金属元素の存在により抑制することができる。これにより、当該プリント配線板用原板は、金属層と樹脂フィルムとの間の密着力が大きい状態を維持することができる。
【0016】
(2)前記改質層表面における前記金属、金属イオン又は金属化合物に由来する金属元素の含有率は、0.2atomic%以上10atomic%以下が好ましい。改質層表面における金属、金属イオン又は金属化合物に由来する金属元素の含有率が上記範囲内であることによって、金属層と樹脂フィルムとの間の密着力の向上及びその維持をより確実にすることができる。
【0017】
(3)前記金属、金属イオン又は金属化合物を構成する金属が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属であるとよい。金属、金属イオン又は金属化合物を構成する金属が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属であることによって、金属が電離したアルカリ液を用いて比較的容易にこれらの金属を樹脂フィルム中に導入することができる。
【0018】
(4)前記樹脂フィルムの改質層が、樹脂フィルムへのアルカリ処理により形成されているとよい。樹脂フィルムの改質層が、樹脂フィルムへのアルカリ処理により形成されていることによって、金属層と樹脂フィルムとの間の密着力を向上させる改質と、金属層の主金属が改質層中に分散することを抑制する異種金属元素の樹脂フィルムへの導入とを同時に行うことができる。
【0019】
(5)前記樹脂フィルムの主成分がポリイミドであるとよい。樹脂フィルムの主成分がポリイミドであることによって、樹脂フィルムが十分な絶縁性及び機械的強度を有する。
【0020】
(6)前記金属層の主金属が銅であるとよい。金属層の主金属が樹脂フィルムに比較的分散し易い銅であることによって、異種金属元素の樹脂フィルムへの導入による密着力維持効果が顕著となる。
【0021】
(7)前記金属層が金属粒子を含むインクの塗布及び加熱により形成されているとよい。金属層が金属粒子を含むインクの塗布及び加熱により形成されていることによって、当該プリント配線板用原板の製造が比較的容易である。
【0022】
(8)また、本発明の別の態様に係るプリント配線板は、導電パターンを有するプリント配線板であって、前記導電パターンが、当該プリント配線板用原板の金属層に形成されている。
【0023】
当該プリント配線板は、当該プリント配線板用原板を用いて形成されることによって、比較的安価でありながら、金属層から形成される導電パターンが樹脂フィルムから剥離し難い。導電パターンは、プリント配線板用原板の金属層にサブトラクティブ法又はセミアディティブ法を用いることで形成されていることが好ましい。
【0024】
(9)前記主金属とは異なる金属元素の前記導電パターンから露出する改質層の表面における含有率は、1.5atomic%以下が好ましい。主金属とは異なる金属元素の導電パターンから露出する改質層の表面における含有率が上記上限以下であることによって、マイグレーションによる短絡が生じ難い。
【0025】
(10)また、本発明のさらに別の態様に係るプリント配線板用原板の製造方法は、樹脂フィルムの表面に金属イオンを含有するアルカリ液によって他の部分と組成が異なる改質層を形成する工程と、前記改質層形成工程後の樹脂フィルムを水洗する工程と、前記水洗工程後の樹脂フィルムに前記アルカリ液の金属イオンと異なる金属を積層する工程とを備え、前記水洗工程において、改質層中に金属イオンを残留させる。
【0026】
当該プリント配線板用原板の製造方法は、アルカリ液によって改質層を形成することによって、比較的安価に金属層と樹脂フィルムとの間の密着力を向上できる。また、当該プリント配線板用原板の製造方法は、水洗工程において、改質層中にアルカリ液の金属イオンを残留させることによって、金属層の主金属が改質層中に分散することを異種金属元素の存在により抑制することができる。これにより、当該プリント配線板用原板の製造方法は、金属層と樹脂フィルムとの間の密着力に優れるプリント配線板用原板を比較的安価に製造することができる。
【0027】
ここで、「主金属」とは、質量含有率が最も大きい金属、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上含有される金属を意味する。また、「元素の含有率」は、例えばX線光電子分光法(ESCA:Electron Spectroscopy for Chemical Analysis又はXPS:X−ray Photoelectron Spectroscopy)、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X−ray Spectroscopy又はEDS:Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)、電子プローブマイクロアナリシス法(EPMA:Electron Probe Micro Analysis)、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS:Time Of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)、オージェ電子分光法(AES:Auger Electron Spectroscopy)等により測定することができる。X線光電子分光法による場合は、測定条件として、X線源をアルミニウム金属のKアルファ線、ビーム径を50μm、分析表面に対するX線入射角度を45°とし、表面を走査することによって測定することができる。測定装置としては、例えばULVAC−Phi社製の走査型X線光電子分光分析装置「Quantera」等を使うことができる。なお、「改質層表面における元素の含有率」については、金属層を剥離し、樹脂フィルムの剥離面及び金属層に付着する樹脂フィルムの剥離面について測定した平均値とする。
【0028】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施形態に係るプリント配線板用原板について図面を参照しつつ詳説する。
【0029】
〔プリント配線板用原板〕
図1のプリント配線板用原板1は、樹脂フィルム2と、この樹脂フィルム2の一方の面(金属層積層面)に積層される金属層3とを備える。
【0030】
<樹脂フィルム>
樹脂フィルム2は、金属層積層面に他の部分と組成が異なり、金属層3との密着性を向上させた改質層4を有する。
【0031】
樹脂フィルム2の材料としては、例えばポリイミド、液晶ポリマー、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の可撓性を有する樹脂、紙フェノール、紙エポキシ、ガラスコンポジット、ガラスエポキシ、ポリテトラフルオロエチレン、ガラス基材等のリジッド材、硬質材料と軟質材料とを複合したリジッドフレキシブル材などを用いることが可能である。これらの中でも、金属酸化物等との結合力が大きく、絶縁性及び機械的強度に優れることから、ポリイミドが特に好ましい。
【0032】
樹脂フィルム2の厚さは、プリント配線板用原板1を利用するプリント配線板によって設定されるものであり特に限定されないが、例えば樹脂フィルム2の平均厚さの下限は、5μmが好ましく、12μmがより好ましい。一方、樹脂フィルム2の平均厚さの上限は、2mmが好ましく、1.6mmがより好ましい。樹脂フィルム2の平均厚さが上記下限に満たない場合、樹脂フィルム2ひいてはプリント配線板用原板1の強度が不十分となるおそれがある。逆に、樹脂フィルム2の平均厚さが上記上限を超える場合、プリント配線板用原板が不必要に厚くなるおそれがある。
【0033】
(改質層)
改質層4は、樹脂フィルム2の他の部分と組成が異なると共に、金属層3の主金属とは異なる金属、金属イオン又は金属化合物を含む。
【0034】
樹脂フィルム2の「他の部分と組成が異なる」とは、例えば樹脂の分子鎖に対する官能基の置換や付加によって元素の含有比率が異なる場合、分子の直鎖が切断されている場合、環状の構造が開環されている場合等を含む。理由は定かではないが、例示したような構造変化により樹脂の反応性が高まることに起因して、金属層3に対する密着性が向上すると考えられる。
【0035】
また、改質層4は、金属層3の主金属とは異なる金属、金属イオン又は金属化合物を含むことによって、これらの金属元素(以下、異種金属元素ということがある)が、金属層3の主金属元素が樹脂フィルム2中に拡散することを阻害する機能を果たす。これにより、プリント配線板用原板1は、樹脂フィルム2と金属層3との間の密着力が大きい状態を維持することができる。
【0036】
また、改質層4において、異種金属元素は、樹脂フィルム2を構成する成分と化学結合していることが好ましい。異種金属元素が樹脂フィルム2を構成する成分と化学結合することによって、異種金属元素が樹脂フィルム2中に固定され、金属層3の主金属の樹脂フィルム2中への拡散をより効果的に抑制することができる。なお、異種金属元素と樹脂フィルム2を構成する成分との化学結合は、例えばX線光電子分光法(ESCA)等により確認することができる。
【0037】
このような改質層4は、好ましくは親水化処理及び金属導入処理によって形成される。この親水化処理として、例えばプラズマを照射して表面を親水化するプラズマ処理、アルカリ液で表面を親水化するアルカリ処理等を採用することができる。また、金属導入処理としては、例えば異種金属元素、又はその金属イオン若しくは金属化合物を含む溶液に樹脂フィルム2を浸漬することにより異種金属元素等を樹脂フィルム2に含浸させる処理を採用することができる。中でも、親水化処理及び金属導入処理を安価かつ同時に行うことができる方法としてアルカリ処理を用いることが好ましい。また、親水化処理及び金属導入処理としてアルカリ処理を用いることによって、比較的容易に、上述のように異種金属元素を化学結合により樹脂フィルム2中に固定し、金属層3の主金属の樹脂フィルム2中への拡散をより効果的に抑制することができる。例として、樹脂フィルム2がポリイミドを主成分とする場合、アルカリ処理によってイミド環を開環することにより形成されるカルボキシル基に異種金属元素を化学結合させて固定することができる。
【0038】
アルカリ処理により形成される改質層4は、異種金属元素以外のアルカリ液の成分、例えばアルカリ液に由来する水酸基を有する化合物等を含んでもよい。アルカリ液の成分は、樹脂フィルム2を構成する樹脂や添加物に結合して存在してもよく、例えば異種金属元素と結合した金属水酸化物等の形態で樹脂フィルム2中に析出していてもよい。このように改質層4中に存在するアルカリ液の成分は、親水化及び異種金属元素の固定に寄与して、改質層4と金属層3との密着性を向上させ得る。
【0039】
後述するように金属粒子を含有するインクの塗布及び加熱により金属層3を形成する場合、樹脂フィルム2に親水化処理を施すことにより改質層4を形成することで、インクの樹脂フィルム2に対する表面張力が小さくなるので、インクを樹脂フィルム2に均一に塗り易くなる。
【0040】
改質層4に含まれる異種金属元素としては、特に限定されないが、水溶液を用いて改質層4に導入できるよう、水溶液中で電離してイオン化する金属が好ましい。
【0041】
水溶液中で電離する金属としては、特に限定されないが、アルカリ金属又はアルカリ土類金属が好ましく、中でも、安価で容易に電離するナトリウム、カリウム及びカルシウムが特に好ましい。逆にいうと、異種金属元素として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を用いることによって、異種金属元素を樹脂フィルム2の改質層4中に比較的容易に導入することができる。
【0042】
改質層4の表面における異種金属元素の含有率の下限は、0.2atomic%が好ましく、0.5atomic%がより好ましく、1atomic%がさらに好ましい。一方、改質層4の表面における異種金属元素の含有率の上限は、10atomic%が好ましく、9atomic%がより好ましく、5atomic%がさらに好ましい。改質層4の表面における異種金属元素の含有率が上記下限に満たない場合、金属層3の主金属が改質層4中に拡散することを十分に抑制できないおそれがある。逆に、改質層4の表面における異種金属元素の含有率が上記上限を超える場合、金属層3をパターニングして回路を形成したときに、異種金属元素のマイグレーションによって短絡を生じやすくなるおそれがある。
【0043】
<金属層>
金属層3は、単層構造であってもよいが、多層構造であってもよい。例えば図2に示すように、金属層3は、複数の金属粒子を焼結することによって、樹脂フィルム2の表面に積層される第1金属層5と、この第1金属層5の表面に無電解めっきにより積層される第2金属層6と、この第2金属層6の表面に電気めっきによりさらに積層される第3金属層7とを有する構成とすることができる。
【0044】
金属層3の主金属としては、第1金属層5の樹脂フィルム2との界面近傍に、その金属に基づく金属酸化物又はその金属酸化物に由来する基並びにその金属に基づく金属水酸化物又はその金属水酸化物に由来する基が生成されるものが好ましく、例えば銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、金(Au)又は銀(Ag)等を用いることができる。この中でも、導電性がよく、樹脂フィルム2との密着性に優れると共に、エッチングによるパターニングが容易で比較的安価な金属として、銅が好適に使用される。また、金属層3の主金属が銅である場合、改質層4中の異種金属元素の存在による密着力低下抑制効果が顕著となる。
【0045】
(第1金属層)
第1金属層5は、改質層4の表面に金属層3の主金属となる金属を主成分とする複数の金属粒子を含むインクを塗布及び加熱することによって、樹脂フィルム2の一方の面に積層して形成される。このように、金属粒子を含有するインクを用いることで、樹脂フィルム2の一方の面に容易かつ安価に第1金属層5を形成することができる。
【0046】
第1金属層5を形成する金属粒子の平均粒子径の下限は、1nmが好ましく、30nmがより好ましい。一方、金属粒子の平均粒子径の上限は、500nmが好ましく、100nmがより好ましい。金属粒子の平均粒子径が上記下限に満たない場合、例えばインク中での金属粒子の分散性及び安定性が低下することにより、樹脂フィルム2の表面に均一に積層することが容易でなくなるおそれがある。逆に、金属粒子の平均粒子径が上記上限を超える場合、金属粒子間の隙間が大きくなり、第1金属層5の空隙率を小さくすることが容易でなくなるおそれがある。なお、「平均粒子径」とは、レーザー回折法により測定される粒子径の分布において体積積算値が50%となる粒子径を意味する。
【0047】
金属粒子を含むインクを塗布及び加熱することによって形成する場合の第1金属層5の平均厚さの下限は、50nmが好ましく、100nmがより好ましい。一方、第1金属層5の平均厚さの上限は、2μmが好ましく、1.5μmがより好ましい。第1金属層5の平均厚さが上記下限に満たない場合、平面視で金属粒子が存在しない部分が多くなり導電性が低下するおそれがある。逆に、第1金属層5の平均厚さが上記上限を超える場合、第1金属層5の空隙率を十分低下させることが困難となるおそれや、金属層3が不必要に厚くなるおそれがある。
【0048】
(第2金属層)
第2金属層6は、第1金属層5の外面に無電解めっきを施すことにより、第1金属層5を形成する金属粒子の主金属と同一の金属を積層して形成される。また、第2金属層6は、第1金属層5の内部に含浸するよう形成されている。つまり、第1金属層5を形成する金属粒子間の隙間に無電解めっきにより主金属が充填されることにより、第1金属層5の内部の空隙を減少させている。無電解めっき金属が金属粒子間の隙間に充填されることによって、金属粒子間の空隙を減少させることで、空隙が破壊起点となって第1金属層5が樹脂フィルム2から剥離することを抑制できる。
【0049】
無電解めっきの条件によっては、第2金属層6は、第1金属層5の内部にのみ形成される場合もある。一般論としては、第1金属層5の外面に形成される第2金属層6の平均厚さ(第1金属層5の内部のめっき金属の厚さを含まない)の下限は、0.2μmが好ましく、0.3μmがより好ましい。一方、第1金属層5の外面に形成される第2金属層6の平均厚さの上限は、1μmが好ましく、0.7μmがより好ましい。第1金属層5の外面に形成される第2金属層6の平均厚さが上記下限に満たない場合、第2金属層6が第1金属層5の金属粒子の隙間に十分に充填されず、空隙率を十分に低減できないことから樹脂フィルム2と金属層3との剥離強度が不十分となるおそれがある。逆に、第1金属層5の外面に形成される第2金属層6の平均厚さが上記上限を超える場合、無電解めっきに要する時間が長くなり製造コストが不必要に増大するおそれがある。
【0050】
(第3金属層)
第3金属層7は、第1金属層5の外面側、つまり第2金属層6の外面に電気めっきにより主金属をさらに積層することで形成される。この第3金属層7によって、金属層3の厚さを容易かつ正確に調節することができる。また、電気めっきを用いることにより、金属層3の厚さを短時間で大きくすることが可能である。
【0051】
第3金属層7の厚さは、プリント配線板用原板1を用いて形成するプリント配線板に必要とされる導電パターンの種類や厚さに応じて設定されるものであって、特に限定されない。一般的には、第3金属層7の平均厚さの下限は、1μmが好ましく、2μmがより好ましい。一方、第3金属層7の平均厚さの上限は、100μmが好ましく、50μmがより好ましい。第3金属層7の平均厚さが上記下限に満たない場合、金属層3が損傷し易くなるおそれがある。逆に、第3金属層7の平均厚さが上記上限を超える場合、プリント配線板用原板1が不必要に厚くなるおそれや、プリント配線板用原板1の可撓性が不十分となるおそれがある。
【0052】
〔利点〕
プリント配線板用原板1は、樹脂フィルム2の金属層積層面に他の部分と組成の異なる改質層4を有することによって、比較的安価に金属層3と樹脂フィルム2との間の密着力を向上できる。
【0053】
また、改質層4が金属層3の主金属とは異なる金属、金属イオン又は金属化合物を含むことによって、この異種金属元素の存在により金属層3の主金属が改質層4中に分散することを抑制することができる。従って、プリント配線板用原板1は、金属層3と樹脂フィルム2との間の密着力が大きい状態を維持することができる。
【0054】
〔プリント配線板用原板の製造方法〕
当該プリント配線板用原板の製造方法は、樹脂フィルム2の表面に金属イオンを含有するアルカリ液によって他の部分と組成が異なる改質層4を形成する工程と、この改質層形成工程後の樹脂フィルム2を水洗する工程と、この水洗工程後の樹脂フィルム2にアルカリ液の金属イオンと異なる金属を主成分とする金属層3を積層する工程とを備える。
【0055】
<改質層形成工程>
改質層形成工程では、例えば浸漬等により、樹脂フィルム2の少なくとも一方の面にアルカリ液を接触させることによって改質層4を形成する。
【0056】
この改質層形成工程で用いるアルカリ液としては、樹脂フィルム2に導入する異種金属元素のイオンを含有するアルカリ性水溶液を用いることができる。この異種金属元素のイオンを含有するアルカリ性水溶液としては、例えば水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等が挙げられる。
【0057】
改質層形成工程で用いるアルカリ液のpHは、例えば12以上15以下とすることができる。また、樹脂フィルム2のアルカリ液との接触時間は、例えば15秒以上10分以下とすることができる。アルカリ液の温度は、例えば10℃以上70℃以下とすることができる。
【0058】
<水洗工程>
水洗工程では、樹脂フィルム2を水洗いして、樹脂フィルム2の表面に付着しているアルカリ液を除去するが、改質層4中にはアルカリ液中の異種金属元素のイオンを残留させる。また、この水洗工程では、改質層4中に、アルカリ液の異種金属元素のイオン以外の成分、例えば水酸化物イオン等を残留させることが好ましい。
【0059】
この水洗工程において、溜め水中への浸漬により水洗する場合、水洗時間の下限は、3秒が好ましく、5秒がより好ましい。一方、水洗時間の上限は、180秒が好ましく、100秒がより好ましく、50秒がさらに好ましい。水洗時間が上記下限に満たない場合、樹脂フィルム2の表面のアルカリ液を十分に除去できないおそれがある。逆に、水洗時間が上記上限を超える場合、改質層4中に異種金属元素を残留させられず、金属層3の主金属の樹脂フィルム2への拡散抑制効果が不十分となるおそれがある。
【0060】
水洗工程後における樹脂フィルム2の表面をX線光電子分光法により測定した場合の異種金属元素の含有率の下限は、1atomic%が好ましく、2atomic%がより好ましい。一方、水洗工程後における樹脂フィルム2の表面の異種金属元素の含有率の上限は、10atomic%が好ましく、9atomic%がより好ましい。水洗工程後における樹脂フィルム2の表面の異種金属元素の含有率が上記下限に満たない場合、後述する金属層積層工程において異種金属元素が拡散又は流出してさらに減少することにより、金属層3の主金属が改質層4中に拡散することを十分に抑制できなくなるおそれがある。逆に、水洗工程後における樹脂フィルム2の表面の異種金属元素の含有率が上記上限を超える場合、改質層4の機械的強度が不十分となるおそれがある。
【0061】
また、水洗工程では、水洗後に樹脂フィルム2を十分に乾燥することが好ましい。樹脂フィルム2中の水分を蒸発させることによって、異種金属元素のイオンが、金属や金属酸化物としての析出や、樹脂フィルム2の樹脂成分等との結合により安定化する。
【0062】
<金属層積層工程>
金属層積層工程は、複数の金属粒子を含むインクの塗布及び加熱により第1金属層5を形成する工程と、無電解めっきにより第2金属層6を形成する工程と、電気めっきにより第3金属層7を形成する工程とを有する。
【0063】
(第1金属層形成工程)
この第1金属層形成工程で用いるインクとしては、金属粒子の分散媒と、この分散媒中に金属粒子を均一に分散させる分散剤とを含むものが好適に使用される。均一に金属粒子が分散するインクを用いることで、樹脂フィルム2の表面に金属粒子を均一に付着させることができ、樹脂フィルム2の表面に均一な第1金属層5を形成することができる。
【0064】
インクに含まれる金属粒子は、高温処理法、液相還元法、気相法等で製造することができるが、粒子径が均一な粒子を比較的安価に製造できる液相還元法により製造されるものを使用することが好ましい。
【0065】
インクに含まれる分散剤は、特に限定されないが、分子量が2,000以上300,000以下の高分子分散剤を用いることが好ましい。分子量が上記範囲の高分子分散剤を用いることで、金属粒子を分散媒中に良好に分散させることができ、得られる第1金属層5の膜質を緻密でかつ欠陥のないものにすることができる。分散剤の分子量が上記下限に満たない場合、金属粒子の凝集を防止して分散を維持する効果が十分に得られないおそれがあり、その結果、樹脂フィルム2に積層される第1金属層5を緻密で欠陥の少ないものにできないおそれがある。逆に、分散剤の分子量が上記上限を超える場合、分散剤の嵩が大き過ぎ、インクの塗布後に行う加熱時に、金属粒子同士の焼結を阻害してボイドを生じさせるおそれがある。また、分散剤の嵩が大き過ぎると、第1金属層5の膜質の緻密さが低下したり、分散剤の分解残渣が導電性を低下させるおそれがある。
【0066】
分散剤は、部品の劣化防止の観点より、硫黄、リン、ホウ素、ハロゲン及びアルカリを含まないものが好ましい。好ましい分散剤としては、分子量が上記範囲にあるもので、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン等のアミン系の高分子分散剤、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース等の分子中にカルボン酸基を有する炭化水素系の高分子分散剤、ポバール(ポリビニルアルコール)、スチレン−マレイン酸共重合体、オレフィン−マレイン酸共重合体、あるいは1分子中にポリエチレンイミン部分とポリエチレンオキサイド部分とを有する共重合体等の極性基を有する高分子分散剤等を挙げることができる。
【0067】
分散剤は、水又は水溶性有機溶媒に溶解した溶液の状態で反応系に添加することもできる。分散剤の含有割合は、金属粒子100質量部当たり1質量部以上60質量部以下が好ましい。分散剤が金属粒子を取り囲むことで凝集を防止して金属粒子を良好に分散させるが、分散剤の含有割合が上記下限に満たない場合、この凝集防止効果が不十分となるおそれがある。逆に、分散剤の含有割合が上記上限を超える場合、インクの塗布後の加熱工程において、過剰の分散剤が金属粒子の焼結を阻害してボイドが発生するおそれがあり、また、高分子分散剤の分解残渣が不純物として第1金属層5中に残存して導電性を低下させるおそれがある。
【0068】
インクにおける分散媒となる水の含有割合は、金属粒子100質量部当たり20質量部以上1900質量部以下が好ましい。分散媒の水は、分散剤を十分に膨潤させて分散剤で囲まれた金属粒子を良好に分散させるが、水の含有割合が上記下限に満たない場合、水によるこの分散剤の膨潤効果が不十分となるおそれがある。逆に、水の含有割合が上記上限を超える場合、インク中の金属粒子割合が少なくなり、樹脂フィルム2の表面に必要な厚さと密度とを有する良好な第1金属層5を形成できないおそれがある。
【0069】
インクに必要に応じて配合する有機溶媒として、水溶性である種々の有機溶媒が使用可能である。その具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、エチレングリコール、グリセリン等の多価アルコールやその他のエステル類、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類等を挙げることができる。
【0070】
水溶性の有機溶媒の含有割合は、金属粒子100質量部当たり30質量部以上900質量部以下が好ましい。水溶性の有機溶媒の含有割合が上記下限に満たない場合、有機溶媒による分散液の粘度調整及び蒸気圧調整の効果が十分に得られないおそれがある。逆に、水溶性の有機溶媒の含有割合が上記上限を超える場合、水による分散剤の膨潤効果が不十分となり、インク中で金属粒子の凝集が生じるおそれがある。
【0071】
樹脂フィルム2にインクを塗布する方法としては、例えばスピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ダイコート法、スリットコート法、ロールコート法、ディップコート法等の従来公知の塗布方法を用いることができる。また、例えばスクリーン印刷、ディスペンサ等により樹脂フィルム2の表面の一部のみにインクを塗布するようにしてもよい。
【0072】
そして、インクを樹脂フィルム2に塗布したインクの塗膜を加熱する。これにより、インクの溶媒分散剤が蒸発又は熱分解し、残る金属粒子が焼結されて樹脂フィルム2の一方の面に固着された第1金属層5が得られる。なお、加熱の前にインクの塗膜を乾燥させることが好ましい。
【0073】
焼結は、一定量の酸素が含まれる雰囲気下で行うことが好ましい。焼結時の雰囲気の酸素濃度の下限は、1体積ppmが好ましく、10体積ppmがより好ましい。一方、酸素濃度の上限は、10,000体積ppmが好ましく、1,000体積ppmがより好ましい。酸素濃度が上記下限に満たない場合、第1金属層5の界面近傍における金属酸化物の生成量が少なくなり、樹脂フィルム2と第1金属層5との密着力を十分に向上できないおそれがある。逆に、酸素濃度が上記上限を超える場合、金属粒子が過剰に酸化してしまい第1金属層5の導電性が低下するおそれがある。
【0074】
焼結温度の下限は、150℃が好ましく、200℃がより好ましい。一方、焼結温度の上限は、500℃が好ましく、400℃がより好ましい。焼結温度が上記下限に満たない場合、金属粒子間を接続できず、次の第2金属層6の形成時に第1金属層5が崩壊するおそれがある。逆に、焼結温度が上記上限を超える場合、樹脂フィルム2が変形するおそれがある。
【0075】
(第2金属層形成工程)
第2金属層形成工程では、第1金属層形成工程で樹脂フィルム2の一方の面に積層した第1金属層5の外面に、無電解めっきを施すことにより第2金属層6を形成する。
【0076】
なお無電解めっきは、例えばクリーナ工程、水洗工程、酸処理工程、水洗工程、プレディップ工程、アクチベーター工程、水洗工程、還元工程、水洗工程等の処理と共に行うことが好ましい。
【0077】
また、無電解めっきにより第2金属層6を形成した後、さらに熱処理を行うことが好ましい。第2金属層6形成後に熱処理を施すと、第1金属層5の樹脂フィルム2との界面近傍の金属酸化物等がさらに増加し、樹脂フィルム2と第1金属層5との間の密着力がさらに大きくなる。この無電解めっき後の熱処理の温度及び酸素濃度は、第1金属層形成工程における加熱温度及び酸素濃度と同様とすることができる。
【0078】
(第3金属層形成工程)
第3金属層形成工程では、第2金属層6の外面に、電気めっきによって第3金属層7を積層する。この第3金属層形成工程において、金属層3全体の厚さを所望の厚さまで増大させる。
【0079】
この電気めっきは、例えば銅、ニッケル、銀等のめっきする金属に応じた従来公知の電気めっき浴を用いて、かつ適切な条件を選んで、所望の厚さの金属層3が欠陥なく速やかに形成されるように行うことができる。
【0080】
〔利点〕
当該プリント配線板用原板の製造方法では、真空設備を使用せずにアルカリ処理によって樹脂フィルム2に改質層を形成して、金属層3と樹脂フィルム2との間の密着力を向上させるため、比較的安価に金属層3と樹脂フィルム2との間の密着力に優れるプリント配線板用原板1を製造できる。
【0081】
当該プリント配線板用原板の製造方法では、水洗工程において、改質層4中にアルカリ液の異種金属元素のイオンを残留させることによって、金属層3の主金属が改質層4中に分散することを抑制する。このため、当該プリント配線板用原板の製造方法によれば、金属層3と樹脂フィルム2との間の密着力が大きく、この密着力が低下し難いプリント配線板用原板を比較的安価に製造することができる。
【0082】
[プリント配線板]
プリント配線板は、プリント配線板用原板1を用いて形成される。プリント配線板は、プリント配線板用原板1を用い、サブトラクティブ法又はセミアディティブ法を用いて形成されることが好ましい。より詳しくは、プリント配線板は、プリント配線板用原板1の金属層3を利用するサブトラクティブ法又はセミアディティブ法により導電パターンを形成することにより製造される。
【0083】
サブトラクティブ法では、プリント配線板用原板1の一方の面に、感光性のレジストを被覆形成し、露光、現像等によりレジストに対して導電パターンに対応するパターニングを行う。続いて、パターニングしたレジストをマスクとしてエッチングにより導電パターン以外の部分の金属層3を除去する。そして最後に、残ったレジストを除去することにより、プリント配線板用原板1の金属層3の残された部分から形成される導電パターンを有するプリント配線板が得られる。
【0084】
セミアディティブ法では、プリント配線板用原板1の一方の面に、感光性のレジストを被覆形成し、露光、現像等によりレジストに対して導電パターンに対応する開口をパターニングする。続いて、パターニングしたレジストをマスクとしてめっきを行うことにより、このマスクの開口部に露出している金属層3をシード層として選択的に導体層を積層する。その後、レジストを剥離してからエッチングにより導体層の表面及び導体層が形成されていない金属層3を除去することにより、プリント配線板用原板1の金属層3の残された部分にさらなる導体層が積層されて形成される導電パターンを有するプリント配線板が得られる。
【0085】
プリント配線板において、金属層3の主金属とは異なる異種金属元素の導電パターンから露出する改質層4の表面における含有率の上限は、1.5atomic%が好ましく、1.0atomic%がより好ましく、0.5atomic%がさらに好ましい。一方、異種金属元素の導電パターンから露出する改質層4の表面における含有率の下限は、特に限定されない。異種金属元素の導電パターンから露出する改質層4の表面における含有率が上記上限を超える場合、プリント配線板の使用時にこれらの金属元素のマイグレーションにより短絡を生じるおそれがある。
【0086】
〔利点〕
当該プリント配線板は、プリント配線板用原板1を用いて製造したものなので、樹脂フィルム2と金属層3との密着力が大きく、導電パターンが剥離し難い。
【0087】
また、プリント配線板が、プリント配線板用原板1を用いて、一般的なサブトラクティブ法又はセミアディティブ法により形成されると、比較的安価に製造することができる。
【0088】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0089】
プリント配線板用原板の樹脂フィルムの両面に金属層が積層されてもよい。この場合、樹脂フィルムの少なくとも一方の金属層積層面に改質層が形成されていればよい。また、この場合、樹脂フィルムの両方の金属層積層面に改質層が形成されることが好ましい。
【0090】
プリント配線板用原板において、金属層は、多層構造でなくてもよく、第1金属層、第2金属層及び第3金属層のうちの1層又は2層を省略してもよい。
また、プリント配線板用原板において、金属層の表面にさらに別の重畳金属層を積層して設けてもよい。例えば上記実施形態において第3金属層を主金属と異なる金属で形成してもよく、この場合の第3金属層は重畳金属層であると解釈される。換言すると、金属層の主金属とは、樹脂フィルムと接触している金属層の主金属を意味する。
【0091】
プリント配線板用原板の第1金属層は、金属粒子を含むインクの塗布及び加熱によらず積層されてもよい。インクを用いない金属層の積層方法としては、例えば金属箔の熱圧着、無電解めっき及び電気めっきのみによる金属の積層、金属の蒸着、スパッタリング等を挙げることができる。なお、例えば、スパッタリングにより第1金属層を積層する場合、第1金属層の厚さの下限は1nmとすることができ、上限は1000nmとすることができる。
また、第2金属層は無電解めっき以外の積層方法で積層されてもよく、第3金属層は電気めっき以外の積層方法で積層されてもよい。
【実施例】
【0092】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0093】
以下の要領で、樹脂フィルムの表面に改質層を形成してから金属層を積層したプリント配線板用原板の試作品No.1〜No.11を作成した。これらのプリント配線板用原板の試作品No.1〜No.11について、金属層を積層する前の改質層表面の金属元素の含有率(金属量)をイオンクロマトグラフ(IC)及びX線光電子分光法(ESCA)により測定した。また、プリント配線板用原板の試作品No.1〜No.11の金属層を剥離し、剥離面における金属元素の含有率(金属量)をX線光電子分光法(ESCA)により測定した。さらに、プリント配線板用原板の試作品No.1〜No.11について、耐候性試験を実施し、この耐候性試験の前後における金属層の剥離強度(密着力の指標)を測定した。また、プリント配線板用原板の試作品No.1〜No.11の金属層をエッチングして線幅と線間隔とが共に50μm又は100μmであるストライプ状の導電パターンを形成することによってプリント配線板の試作品No.1〜No.11を得た。このプリント配線板の試作品No.1〜No.11について、導電パターンから露出する改質層の表面における金属元素の含有率(金属量)をX線光電子分光法(ESCA)により測定した。また、プリント配線板の試作品No.1〜No.11について、500時間電圧を印加し続けるマイグレーション試験を行った。
【0094】
(プリント配線板用原板No.1)
樹脂フィルムとして、カネカ社のポリイミドシート「アピカルNPI」(平均厚さ25μm)を使用した。この樹脂フィルムを40℃の2.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(pH約14)に90秒浸漬して改質層を形成した後、溜め水に6秒浸漬することにより水洗してから乾燥した。そして、樹脂フィルムに形成した改質層の表面に、スパッタリングにより銅を積層して平均厚さ10nmの第1金属層を形成した後、電解銅めっきにより銅を積層して第3金属層を積層して平均合計厚さ20μmの金属層を形成することでプリント配線板用原板No.1を得た。なお、スパッタリングによる銅の積層には真空スパッタリング装置を用い、スパッタリングの条件としては、真空到達度を0.8×10−4Pa、スパッタリング圧を0.1Pa、電力を13kWとした。
【0095】
(プリント配線板用原板No.2)
プリント配線板用原板No.1と同様の樹脂フィルムに同様のアルカリ処理によって改質層を形成した後、溜め水に9秒浸漬することにより水洗してから乾燥した。そして、改質層の表面に、以下のようにして金属層を形成した。先ず、銅ナノインク(粒径80nmの銅粒子を26質量%含むインク)を塗布及び乾燥し、350℃の窒素雰囲気で2時間焼成して平均厚さ150nmの第1金属層を形成した。次に、無電解銅めっきにより平均合計厚さが0.5μmとなるよう銅を積層し、350℃の窒素雰囲気で2時間焼成して第2金属層を形成した。さらに、電解銅めっきにより銅を積層して第3金属層を積層することにより、平均合計厚さ20μmの金属層を形成して、プリント配線板用原板No.2を得た。
【0096】
(プリント配線板用原板No.3)
プリント配線板用原板No.3は、水洗時間を9秒とした以外はプリント配線板用原板No.1と同様に作成した。
【0097】
(プリント配線板用原板No.4)
プリント配線板用原板No.4は、水洗時間を30秒とした以外はプリント配線板用原板No.2と同様に作成した。
【0098】
(プリント配線板用原板No.5)
プリント配線板用原板No.5は、水洗時間を60秒とした以外はプリント配線板用原板No.2と同様に作成した。
【0099】
(プリント配線板用原板No.6)
プリント配線板用原板No.6は、水洗時間を150秒とした以外はプリント配線板用原板No.2と同様に作成した。
【0100】
(プリント配線板用原板No.7)
プリント配線板用原板No.7は、水洗時間を150秒とした以外はプリント配線板用原板No.1と同様に作成した。
【0101】
(プリント配線板用原板No.8)
プリント配線板用原板No.8は、改質層の形成に2.5mol/Lの水酸化カリウム水溶液を用いた以外はプリント配線板用原板No.2と同様に作成した。
【0102】
(プリント配線板用原板No.9)
プリント配線板用原板No.9は、改質層の形成に2.5mol/Lの水酸化カルシウム水溶液を用いた以外はプリント配線板用原板No.2と同様に作成した。
【0103】
(プリント配線板用原板No.10)
プリント配線板用原板No.10は、水洗時間を1秒とした以外はプリント配線板用原板No.1と同様に作成した。
【0104】
(プリント配線板用原板No.11)
プリント配線板用原板No.11は、水洗時間を300秒とした以外はプリント配線板用原板No.1と同様に作成した。
【0105】
(イオンクロマトグラフ)
イオンクロマトグラフによる改質層表面の金属量の測定は、水洗後の樹脂フィルムを幅3cm、長さ4cmに切り出し、20mLの超純水中に投入して温度80℃で1時間抽出した水溶液を試料とし、サーモフィッシャーサイエンティフィック社のイオンクロマトグラフ「ICS−3000」を使用しておこなった。測定には、サーモフィッシャーサイエンティフィック社のイオン分離カラム「IonPac−CS14」及びサーモフィッシャーサイエンティフィック社のサプレッサー「CERS−500」を使用した。測定条件としては、サプレッサーの電流値を30mAとし、溶離液として10mmol/Lのメタンスルホン酸を用い、サンプル注入量を25μLとして、流量1.0mL/minで測定した。この測定値を樹脂フィルムの単位面積当たりのイオン量[μg/cm]に換算した。
【0106】
(X線光電子分光法)
X線光電子分光法による改質層表面の金属量の測定は、ULVAC−Phi社製の走査型X線光電子分光分析装置「Quantera」を用い、X線源をアルミニウム金属のKアルファ線、ビーム径を50μm、分析表面に対するX線入射角度を45°としておこなった。
【0107】
(耐候性試験)
耐候性試験としては、プリント配線板用原板を150℃で7日間保持した。
【0108】
(剥離強度)
剥離強度は、樹脂フィルムをたわみ性被着材としてJIS−K−6854−2(1999)「接着剤−はく離接着強さ試験方法−2部:180度はく離」に準じた方法により測定した。
【0109】
(マイグレーション試験)
温度85℃、湿度85%の雰囲気中で、導電パターンの隣接する線間に線間隔1μmあたり1Vの電圧(線間の電界強度が1V/μm)を印加し続け、500時間経過時の線間の電気抵抗(絶縁抵抗)を測定した。
【0110】
プリント配線板用原板及びプリント配線板の試作品の作成条件、金属量の測定結果、剥離強度の測定結果及びマイグレーション試験での絶縁抵抗の測定結果を次の表1にまとめて示す。
【0111】
【表1】
【0112】
以上のように、改質層の表面に金属元素を比較的多く含有するプリント配線板用原板No.1〜No.10は、剥離強度が比較的大きく、特に耐候性試験前の剥離強度に比べて耐候性試験後の剥離強度の低下が小さいことが確認された。また、プリント配線板の導電パターンから露出する改質層表面における金属元素の含有量が大きくなるとマイグレーションにより絶縁抵抗が低下しやすくなることが確認された。
【符号の説明】
【0113】
1 プリント配線板用原板
2 樹脂フィルム
3 金属層
4 改質層
5 第1金属層
6 第2金属層
7 第3金属層
図1
図2