(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6760949
(24)【登録日】2020年9月7日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】電子銃、電子管及び高周波回路システム
(51)【国際特許分類】
H01J 1/20 20060101AFI20200910BHJP
H01J 23/34 20060101ALI20200910BHJP
【FI】
H01J1/20
H01J23/34 A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-541425(P2017-541425)
(86)(22)【出願日】2016年9月16日
(86)【国際出願番号】JP2016004241
(87)【国際公開番号】WO2017051528
(87)【国際公開日】20170330
【審査請求日】2019年8月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-186732(P2015-186732)
(32)【優先日】2015年9月24日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、総務省、「テラヘルツ波デバイス基盤技術の研究開発−300GHz帯増幅器技術−」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】599161890
【氏名又は名称】NECネットワーク・センサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124154
【弁理士】
【氏名又は名称】下坂 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中里 行平
(72)【発明者】
【氏名】藤原 英次
【審査官】
関口 英樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−159266(JP,A)
【文献】
特開平11−242943(JP,A)
【文献】
実開昭50−041406(JP,U)
【文献】
実開昭57−034954(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J1/13−1/28
23/00−27/26
37/00−37/18
37/21
37/24−37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端子をヒータ端子、他方の端子を共通端子として、これら端子間に低圧電源が接続されて、該低圧電源からの電流供給により発熱するヒータと、
前記共通端子と接続されて、前記ヒータにより加熱されて熱電子を放出するカソード電極と、を備え、
前記カソード電極から放出された熱電子によるカソード電流と、前記低圧電源による電流とが、前記ヒータを逆方向に流れることを特徴とする電子銃。
【請求項2】
一方の端子をヒータ端子、他方の端子を共通端子として、これら端子間に低圧電源が接続されて、該低圧電源からの電流供給により発熱するヒータと、
前記共通端子と接続されて、前記ヒータにより加熱されて熱電子を放出するカソード電極と、
前記カソード電極の対極をなすコレクタ電極と、を備えて、
前記カソード電極と前記コレクタ電極との間に高圧電源が接続されて、該高圧電源による電場により前記カソード電極から放出された熱電子が前記コレクタ電極に集電されて前記ヒータを経由したカソード電流が流れ、かつ、当該カソード電流が前記低圧電源による電流と逆方向に流れることを特徴とする電子管。
【請求項3】
請求項2に記載の電子管であって、
前記低圧電源は、定電流電源であることを特徴とする電子管。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の電子管であって、
前記ヒータに所定の規定電流が流れるように、前記低圧電源を制御し、
前記規定電流により前記ヒータが一定温度に達すると、前記カソード電極に前記カソード電流が流れるように前記高圧電源を制御し、
前記カソード電流が流れた後に、前記低圧電源から前記ヒータに供給されている電流が前記カソード電流に相当した値だけ増大するように、当該低圧電源を制御する制御手段を備えることを特徴とする電子管。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の電子管と、
前記電子管に電力供給する電源と、を備えたことを特徴とする高周波回路システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧駆動にて電子ビームを発生させる電子銃、電子管及び高周波回路システムに関する。
【背景技術】
【0002】
進行波管やクライストロン等は、電子銃から放出された電子ビームと高周波回路との相互作用により高周波信号の増幅や発振等を行うために用いる電子管である。
【0003】
特許文献1においては、
図3に示すような進行波管100が開示されている。進行波管100は、電子ビーム101を放出する電子銃102と、電子銃102から放出された電子ビーム101と高周波信号(マイクロ波)とを相互作用させる高周波回路であるヘリックス電極105と、ヘリックス電極105から出力された電子ビーム101を集電するコレクタ電極106を有している(特許文献1参照)。
【0004】
電子銃102は、熱電子を放出するカソード電極103と、カソード電極103に熱電子を放出させるための熱エネルギーを与えるヒータ104とを備えている。
【0005】
そして、電子銃102から放出された電子ビーム101は、カソード電極103とヘリックス電極105との電位差により加速されてヘリックス電極105内に導入される。そして、ヘリックス電極105の一端から入力された高周波信号と相互作用しながらヘリックス電極105の内部を進行する。ヘリックス電極105の内部を通過した電子ビーム101は、コレクタ電極106に集電される。
【0006】
電源装置は、カソード電極103に対してヘリックス電極105の電位(HELIX)を基準に負の直流電圧であるヘリックス電圧(Ehel)を供給するヘリックス電源107と、コレクタ電極106に対してカソード電極103の電位(H/K)を基準に正の直流電圧であるコレクタ電圧(Ecol)を供給するコレクタ電源108と、ヒータ104に対してカソード電極103の電位(H/K)を基準に負の直流電圧であるヒータ電圧(Eh)を供給するヒータ電源109とを備えている。
【0007】
このような構成の電子銃では、ヒータ104によりカソード電極103を加熱することで、該カソード電極103から熱電子が放出され易くしている。
【0008】
しかし、ヒータ電流、ヘリックス電圧値、コレクタ電圧値等が同じ条件で駆動されていても、長期間の利用によるカソード電極の経年劣化によって、放出電子量が減少する(即ち、電子ビーム量が減少する)問題があった。
【0009】
かかる問題に対し、特許文献2においては、放出電子量を監視し、その監視結果に基づきヒータ電流を増加させることによりカソード温度を上昇させて、放出電子量の減少を補償する技術を提案している。特許文献3は、ショットキーエミッション電子銃の動作温度設定に関するものである。特許文献3では、所定の引出電圧において予め定められたショットキーエミッション電子電流が得られるように、動作温度を決定することが記載されている。また特許文献3では、電子銃のショットキーエミッションチップの清浄度を高めるために、ショットキーエミッションチップを短時間、上記動作温度以上に加熱することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第5099636号公報
【特許文献2】米国特許第6456009号明細書
【特許文献3】特開平8−171879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2にかかる構成では、放出電子量の監視手段や監視結果に基づきヒータ電流を調整する制御手段が必要となる。このため、制御が複雑になると共に回路規模が大きくなって、装置コストをアップさせる要因となっている。
【0012】
そこで、本発明の主目的は、モニタ等の電子ビーム量を監視する手段を設けることなく、自律的に電子ビーム量を補償する電子銃、電子管及び高周波回路システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明にかかる電子銃は、一方の端子をヒータ端子、他方の端子を共通端子として、これら端子間に低圧電源が接続されて、該低圧電源からの電流供給により発熱するヒータと、共通端子と接続されて、ヒータにより加熱されて熱電子を放出するカソード電極と、を備え、カソード電極から放出された熱電子によるカソード電流と、低圧電源による電流とが、ヒータを逆方向に流れる。
【0014】
また、電子管にかかる発明は、一方の端子をヒータ端子、他方の端子を共通端子として、これら端子間に低圧電源が接続されて、該低圧電源からの電流供給により発熱するヒータと、共通端子と接続されて、ヒータにより加熱されて熱電子を放出するカソード電極と、カソード電極の対極をなすコレクタ電極と、を備えて、カソード電極とコレクタ電極との間に高圧電源が接続されて、該高圧電源による電場によりカソード電極から放出された熱電子がコレクタ電極に集電されてヒータを経由したカソード電流が流れ、かつ、当該カソード電流が低圧電源による電流と逆方向に流れることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ヒータに流れる低圧電流とカソード電流とが逆向きになるようにすることで、カソード電極における熱電子放出特性の劣化による電子ビーム量の減少が自律的に補償されるので、安価かつ簡単な構成で信頼性の高い電子銃及び電子管が提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】低圧電流、ヒータ電流、カソード電流の時間変化を示した図で、(a)はIk=0のとき、(b)はカソード電流Ikを流したとき、(c)は低圧電流Ihを調整したとき、(d)はヒータ電流Ifの自己補償動作を説明する図である。
【
図3】関連技術の説明に適用される電子管の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を説明する。
図1は、本実施形態にかかる電子管2を備えた高周波回路システム3の構成図である。高周波回路システム3は、電子管2及びこの電子管2に電力供給する電源を備え、例えば衛星通信、地上マイクロ波通信などにおいて、映像、データ、音声などの情報を送るため、マイクロ波を増幅する大電力増幅器(HPA:High
Power Amplifier)や、それをモジュール化したマイクロ波パワーモジュール(MPM:Microwave Power Module)等が例示される。
【0018】
電子管2は、カソード電極11、ヒータ12、ヘリックス電極13、コレクタ電極14により構成されている。なお、カソード電極11とヒータ12とは、電子銃を構成している。そして、電子管2の内部でカソード電極11とヒータ12とは、接続されている。
図1において、接続点を符号HKで示している。
【0019】
電子管2は、低圧電源21、高圧電源22、制御部24による制御駆動手段により制御駆動される。なお、高圧電源22には、コレクタ電源22aやヘリックス電源22bが含まれる。なお、高周波回路システム3の電源は、上記電子管2の電源でもある。
【0020】
低圧電源21は、ヒータ端子Hとヒータ端子HKとに接続されて、ヒータ12に電流を供給する。なお、ヒータ端子HKは、カソード電極11にも接続されているので、以下においては共通端子HKと記載する。
【0021】
この低圧電源21は定電流電源であり、制御部24から加熱信号G1を受信すると、当該予め設定された値の電流を出力する。以下、低圧電源21が出力する電流を低圧電流Ihと記載する。低圧電流Ihは、ヒータ端子H、ヒータ12、共通端子HKから形成される回路を流れる。なお、以下の説明では、実際にヒータ12に流れる電流をヒータ電流Ifと定義している。これは、低圧電流Ihとヒータ電流Ifとは、必ずしも一致しないためである。
【0022】
高圧電源22を構成するコレクタ電源22aは、カソード電極11から放出された電子を引き出して電子ビームとするための電源である。また、へリックス電源22bは、熱放出された電子を加速してマイクロ波を発生させるための電源である。
【0023】
そして、コレクタ電源22aは、コレクタ電極14とヒータ端子Hと間に接続されている。また、へリックス電源22bは、へリックス電極13とヒータ端子Hと間に接続されている。
【0024】
このような接続関係により、カソード電極11から放出された電子は、当該カソード電極11とヘリックス電極13との電位差により加速されてコレクタ電極14に集電される。この時の電流が、電子ビームであり、またカソード電流Ikである。
【0025】
即ち、カソード電流Ikは、ヒータ端子H、ヒータ12、カソード電極11、コレクタ電極14、コレクタ電源22a、ヒータ端子Hにより形成される回路を流れる。従って、ヒータ12に流れるヒータ電流Ifは、
If=Ih+Ik …(1)
となる。
【0026】
式1で、Ihは低圧電流、Ikはカソード電流である。そして、低圧電流Ihとカソード電流Ikとは、共にヒータ12を流れるが、電流の向きが逆方向である。従って、式1は電流の向きを考慮して、
If=Ih−Ik …(2)
と書ける。このことは、ヒータ電流Ifは、カソード電流Ikが流れると、低圧電流Ihより小さくなることを意味している。
【0027】
次に、このような電子管2の制御駆動について説明する。
図2は、低圧電流Ih、ヒータ電流If、カソード電流Ikの時間変化を示した図で、(a)はIk=0のとき、(b)はカソード電流Ikを流したとき、(c)は低圧電流Ihを調整したとき、(d)はヒータ電流Ifの自己補償動作を説明する図である。
【0028】
先ず、制御部24は、低圧電流Ihの通電を指示する加熱信号G1を低圧電源21に出力する(
図2(a)参照)。
図2(a)において、「低圧ON」は、低圧電源21が駆動されてヒータ12に通電が開始されたタイミングを示している。低圧電流Ihは、ヒータ12に供給され、かつ、この時は引出信号G2が高圧電源22に出力されていないので(Ik=0)、ヒータ電流Ifは、低圧電流Ihと同じ値になる(If=Ih)。
【0029】
この低圧電流Ihによりヒータ12は発熱し、カソード電極11は温度上昇して、熱電子を放出する。そして、カソード電極11が一定の温度に達すると、制御部24は高圧電源22に引出信号G2を出力する。
図2(b)において、「高圧ON」は、高圧電源22の動作タイミングを示している。これにより、へリックス電極13及びコレクタ電極14と、ヒータ12との間に電圧が印加されて、カソード電流Ikが流れる。
【0030】
なお、制御部24は加熱信号G1を出力してから、予め設定された時間が経過すると、カソード電極11が一定の温度に達したとみなす制御が可能である。このように、カソード電極11の温度監視を不要とするため、制御部24の回路構成が簡単になる利点がある。
【0031】
このときの、カソード電流Ikと低圧電流Ihとは逆向きの電流なので、ヒータ電流Ifは低圧電流Ihよりカソード電流Ikだけ小さな値となっている(式2を参照)。このことは、低圧電源21がヒータ12の定格電流を出力していても、当該ヒータ12には定格電流よりカソード電流Ik分だけ小さいヒータ電流しか流れないため、当該カソード電流Ikが定格電流に対する動作マージンとして機能することを意味している。
【0032】
動作マージンを動作マージンとして利用することも可能であるが、低圧電源21が定電流電源であり、ヒータ12は電流能動素子であるので、かかる動作マージンを余り考慮する必要がない場合もある。
【0033】
このような場合には、低圧電流Ihを増大させることも可能である(
図2(c)参照)。
図2(c)では、高圧ONのタイミングで、低圧電流Ihを動作マージンに相当するΔIh(=Ik)だけ増大させている。なお、低圧電流Ihを増大させるタイミングは、高圧ONの後(動作マージンが発生した後)であればいつでも良い。
【0034】
このような状態で運転を続けた場合に、カソード電極11の特性劣化により、当該カソード電極11からの熱電子の放出量が減少したとする。
図2(d)における点線K1は、かかる熱電子放出特性が劣化したことによるカソード電流Ikの減少を示している。ここで、カソード電流Ikの劣化量をΔIkとする。このとき、ヒータ電流Ifは、
If=Ih−(Ik−ΔIk)
=Ih−Ik+ΔIk …(3)
となる。即ち、カソード電極11の特性劣化により熱電子の放出量が減少すると、ヒータ電流Ifは、このΔIkだけ増加してヒータ12による発熱量が増大する。これにより、カソード電極11の温度が上昇して、熱電子放出量の減少が自律的に補償される。
【0035】
以上説明したように、ヒータに流れる低圧電流とカソード電流とが逆向きになるようにすることで、カソード電極における熱電子放出特性の劣化による電子ビーム量の減少が自律的に補償されるので、安価かつ簡単な構成で信頼性の高い電子銃及び電子管が提供できるようになる。
【0036】
以上、上述した実施形態を模範的な例として本発明を説明した。しかしながら、本発明は、上述した実施形態には限定されない。即ち、本発明は、本発明のスコープ内において、当業者が理解し得る様々な態様を適用することができる。
【0037】
この出願は、2015年9月24日に出願された日本出願特願2015−186732号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0038】
2 電子管
3 高周波回路システム
11 カソード電極
12 ヒータ
13 ヘリックス電極
14 コレクタ電極
21 低圧電源
22 高圧電源
22a コレクタ電源
22b へリックス電源
24 制御部