【実施例1】
【0029】
図1及び
図2を参照して、本発明の実施例1に係るメカニカルシールについて説明する。
図1は、本発明の実施例1に係るメカニカルシールの全体を示す縦断面図であって、摺動面の外周から内周方向に向かって漏れようとする高圧流体である機内側の被密封流体を密封する形式のインサイド形式のものであり、右側が機内側(被密封流体側)であり、左側が機外側(大気側)である。また、
図2は、
図1のA−A断面図である。
【0030】
装置本体(ケーシング)1の軸孔2には回転体を構成する回転軸3が貫通して配設されている。
静止部材を構成する第1シールカバー5はケーシング1の外側面1aにOリング7を介して植え込みボルト9により着脱自在に固定され、また、静止部材を構成する第2シールカバー6は第1シールカバー5の側面5aにOリング8を介して植え込みボルト9により着脱自在に固定される。
【0031】
第1シールカバー5は断面が略矩形でリング状をなし、内周面5bはケーシング1の軸孔2と同程度の径を有している。また、第2シールカバー6は断面が略L字状でリング状をなし、第1シールカバー5側の第1内周面6aは第1シールカバー5の内周面5aと同程度の径を有し、第2内周面6bは回転軸3の外周面に嵌合されたスリーブ4の外周面より僅かに大きい径を有している。スリーブ4は回転軸3にセットスクリュー12により固定され、回転軸3とスリーブ4との間にはOリング11が設けられている
【0032】
第1シールカバー5の内周面5b及び第2シールカバー6の第1内周面6aとスリーブ4の外周面との間には、被密封空間10が形成されている。被密封空間10は、ケーシング1の内部と連通しており、ケーシング1内部の処理流体と同じ流体が、後記するメカニカルシール本体15により被密封流体として密封される。
なお、回転軸3は軸孔2に装着されて図示省略の軸受けにより回転可能に支持されている。
【0033】
メカニカルシール本体15は、固定側密封環16及び回転側密封環17を備え、固定側密封環16は第2シールカバー6の第1内周面6aとスリーブ4の外周面との間の被密封空間10に配設され、回転側密封環17は固定側密封環16にそれぞれの摺動面が対峙するようにして被密封空間10に配設される。固定側密封環16及び回転側密封環17の外周側は被密封流体側であり、内周側は大気側である。
【0034】
固定側密封環16は、摺動面16aを備え、ノックピン18により第2シールカバー6に回転不能に支持されている。固定側密封環16と第2シールカバー6との間にはOリング19が設けられている。
一方、回転側密封環17は、摺動面17aを備え、コンプレスリング21を介してカラー20により支持されている。回転側密封環17とカラー20との間にはOリング22が設けられている。
また、カラー20は、セットスクリュー25によりその内周面とスリーブ4の外周面との間に設けられたOリング23を介してスリーブ4に気密に保持されている。
また、コンプレスリング21の後部には、カラー20に一端が支持された複数のコイルスプリング24の他端が接合され、回転側密封環17を軸方向に付勢するようになっている。
【0035】
第1シールカバー5には、内周面5bから外方に向けて被密封空間10の被密封流体を循環させるための排出口30が、回転側密封環17の上方、かつ、軸方向の基端側に位置して周方向に1つ形成されている。
なお、排出口30は1つに限らず、周方向に複数形成されてもよい。
カラー20の回転側密封環17の外方を覆う円筒部分には、排出口30に向かう被密封流体の流れを許容する孔20aが形成されている。
【0036】
排出孔30の形成されている第1シールカバー5の内周面5bには、リング状のブランクピース32が設けられている。ブランクピース32については後記において詳細に説明する。
【0037】
また、第2シールカバー6には、被密封空間10の被密封流体を循環させるための流入孔31が固定側密封環16の下方に位置するように配設されている。被密封空間10の被密封流体は排出口30から外部配管33を経由し、流入孔31から被密封空間10へと循環され、その際、固定側密封環16及び回転側密封環17の摺動面の外周側(被密封流体側)の近傍を清浄化し、冷却する。
さらに、第2シールカバー6には、固定側密封環16及び回転側密封環17の摺動面の大気側にクエンチ流体を注入・排出するためのクエンチング孔34が設けられている。
【0038】
ブランクピース32は、被密封空間10内において第1シールカバー5に設けられた排出孔30、外部配管33及び第2シールカバー6に設けられた流入孔31を介して循環される被密封流体を、排出孔30に流入させ易くするための部材であり、
図1に示すように断面が略矩形状であって、
図2に示すように全体形状がリング状をなしており、排出孔30の入口を塞ぐようにして第1シールカバー5の内周面5bに形成された収容凹部5cに嵌入されている。
ブランクピース32は、例えば、ステンレスから形成される。
【0039】
収容凹部5cのケーシング1側の側面は段部5dが存在し、第2シールカバー6側の側面は開放されている。収容凹部5cの第2シールカバー6側の開放部には第2シールカバー6の突出部6cが嵌合するようになっており、内周面5b、段部5d及び突出部6cとでブランクピース32の収容凹部5cを形成している。
ブランクピース32は、第1シールカバー5に第2シールカバー6が装着される前の状態において、第1シールカバー5の収容凹部5cの開放側から嵌入され、嵌入された後、第2シールカバー6が装着されることにより、収容凹部5cに回動自在に収納される。
【0040】
図2に示すように、ブランクピース32には、1つの排出孔30に連通可能な一対の連通孔35、36が周方向に角度θの間隔を有して設けられている。
図2において、回転軸3の回転方向は反時計方向である。
【0041】
ブランクピース32は、収容凹部5c内において回転軸3の回転に伴う被密封流体の旋回流により周方向に回動され、一対の連通孔35、36のいずれか一方が排出孔30に連通する位置で後記する停止手段により停止される。
【0042】
第1シールカバー5には、停止手段を構成するところのノックピン37がブランクピース32の側面に対応する位置に装着されている。また、ブランクピース32の両側面のうち、ノックピン37に対峙する側であってノックピン37に対応する周方向の位置には、停止手段を構成する切り欠き38が設けられている。
切り欠き38は、角度θの周方向長さを有している。そして、一対の連通孔35、36の一方、例えば、
図2においては回転軸3の回転方向は反時計方向であるため、時計方向側の連通孔35が、排出孔30に連通するように回動され、連通孔35が排出孔30に連通する位置において、切り欠き38の一方の切り欠き端部38aがノックピン37に当接する。
これに対して、回転軸3の回転方向が時計方向の場合は、ブランクピース32が被密封流体の旋回流により時計方向にθだけ回動され、反時計方向側の連通孔36が排出孔30に連通され、この位置において切り欠き38の他方の切り欠き端部38bがノックピン37に当接する。
【0043】
一対の連通孔35、36は、それぞれ、被密封流体の旋回流に沿う方向に傾斜して設けられる。
図2の場合、回転軸3の回転方向は反時計方向であるため、被密封流体の旋回流は反時計方向となり、連通孔35は反時計方向の旋回流に沿う方向に傾斜して設けられる。
これに対して、連通孔36は、回転軸3の回転方向は時計方向である場合に排出孔30に連通されるため、被密封流体の旋回流は時計方向となり、連通孔36は時計方向の旋回流に沿う方向に傾斜して設けられる。
このように、一対の連通孔35、36は被密封流体のの旋回流に沿う方向に傾斜して設けられるため、排出孔30に流入する循環流体の量を増大することができる。
【0044】
以上説明した実施例1の構成によれば、以下のような効果を奏する。
(1)静止部材を構成する第1シールカバー5及びに第2シールカバー6に装着される静止側密封環16と、静止部材を構成する第1シールカバー5及びに第2シールカバー6に対して回転する回転体を構成する回転軸3に固定されて回転体と共に回転し、静止側密封環16の摺動面16aに対して相対摺動する摺動面17aを持つ回転側密封環17と、を有するメカニカルシールであって、
密封される被密封流体の被密封空間10が、両摺動面16a、17aの外周に形成されるように、静止部材を構成する第1シールカバー5及びに第2シールカバー6が両密封環16、17の外周を覆っており、
静止部材を構成する第1シールカバー5及びに第2シールカバー6には被密封空間10の被密封流体を循環させるための排出口30及び流入孔31が周方向に形成され、
排出孔30の形成された第1シールカバー5の内周面には、リング状のブランクピース32が回動可能に設けられ、
ブランクピース32には、排出孔30に連通可能な一対の連通孔35、36が周方向に間隔を有して設けられることにより、回転軸3が両方向に回転する機器に装着されるメカニカルシールにおいて、シールカバーに新たに排出孔を設けたり、また、新たな排出口に対応する整流部材を製作し、装着をしたりすることなく、両方向の回転に対応可能な被密封流体の循環システムを備えたメカニカルシールを提供することができる。
(2)第1シールカバー5の内周面にリング状のブランクピース32を装着するだけであるため、被密封流体の循環システムを構成する部材を容易かつ正確に取り付けることができる。
(3)ブランクピース32には、第1シールカバー5に装着されるノックピン37に対応する位置に切り欠き38が設けられ、切り欠き38は一対の連通孔35、36の一方が排出孔30に連通する位置で一方の切り欠き端部38aが記ノックピン37に当接し、一対の連通孔35、36の他方の連通孔が排出孔30に連通する位置で他方の切り欠き端部38bがノックピン37に当接するように形成されることにより、回転軸3の回転方向に応じて連通孔が切り換えられた場合、連通孔と排出孔30とが一致した位置においてブランクピース32を停止させることができる。
また、ブランクピース32の停止を、ノックピン37と切り欠き38の2つの部材だけで簡単に行うことができる。
(4)ブランクピース32は、回転体の回転に伴う被密封流体の旋回流により周方向に回動され、一対の連通孔35、36のいずれか一方が排出孔30に連通する位置でノック部材37と切り欠き端部38aとの当接により停止されることにより、回転軸3の回転方向が逆転される場合でも、ブランクピース32が被密封流体の旋回流により自動的に所定の位置に回動され、外部からの操作をすることなく、自動的に他方の連通孔36を排出孔30に一致させることができる。
(5)一対の連通孔35、36のそれぞれは、被密封流体の旋回流に沿う方向に傾斜して設けられることにより、排出孔30に流入する循環流体の量を増大することができ、回転側密封環17と静止側密封環16との摺動による発熱を冷却する能力を増大することができる。
【実施例3】
【0050】
図4を参照して、本発明の実施例3に係るメカニカルシールについて説明する。
実施例3に係るメカニカルシールは、排出孔30が複数設けられる点で実施例1と相違するが、その他の基本的な形状は実施例1と同じであり、実施例1と同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0051】
図4に示すように、実施例3に係るメカニカルシールは、第1シールカバー5には、内周面5bから外方に向けて被密封空間10の被密封流体を循環させるための排出口30が、周方向に2つ形成されている。
図4の場合、2つの排出口30、30は直近の側において周方向に120°離れて配設されており、周方向の配設位置は設計的に決められる。
なお、排出口30は、2つに限らず、周方向に3つ以上形成されてもよい。
【0052】
排出孔30、30の形成されている第1シールカバー5の内周面5cには、リング状のブランクピース45が設けられている。ブランクピース45には、それぞれの排出孔30に対して連通可能な一対の連通孔46、47が周方向に角度θの間隔を有して設けられている。
【0053】
上記のように、ブランクピース45には、それぞれの排出孔30に対して連通可能な一対の連通孔46、47が周方向に間隔を有して設けられることにより、ブランクピース40の内周面に沿って回動される被密封流体を2つの排出孔30を介して循環する被密封流体の量を増大することができるため、回転側密封環17と静止側密封環16との摺動による発熱を冷却する能力を増大することができる。
【0054】
なお、一対の連通孔46、47は、それぞれ、被密封流体の旋回流に沿う方向に傾斜して設けられることは実施例1と同じであり、また、ブランクピース45の両側面のうち、ノックピン37に対峙する側であってノックピン37に対応する周方向の位置には、停止手段を構成する切り欠き48が設けられ、切り欠き端部48a又は48bがノックピン37に当接することにより、停止されることも実施例1と同じである。
【実施例4】
【0055】
図5及び6を参照して、本発明の実施例4に係るメカニカルシールについて説明する。
実施例4に係るメカニカルシールは、ブランクピースの軸方向の側面形状及び一対の連通孔の形状等が実施例2と相違するが、その他の基本的な形状は実施例2と同じであり、実施例2と同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0056】
図5に示すように、実施例4に係るメカニカルシールは、ブランクピース140の軸方向の側面の周方向の必要な部分を除いて凹部を設け、ブランクピース140の軸方向の側面と第1シールカバー5あるいは第2シールカバー6と接触する接触面積を小さくしている。ブランクピース140の軸方向の側面と第1シールカバー5あるいは第2シールカバー6と接触する接触面積を小さくすることにより、接触部における静止摩擦力が低減され、ブランクピース140を回転させ易くすることができる。
【0057】
図5に示すブランクピース140においては、切り欠き44の設けられた側面において、一対の連通孔141、142及び被密封流体を案内する案内突部143の設けられた出口部分144並びに切り欠き44の周方向の両側のノックピン係合部分145a、145bを除いた周方向の部分に非当接凹部146a、146bが設けられている。
このため、ブランクピース140の切り欠き44の設けられた側面は、出口部分144並びにノックピン係合部分145a及び145bの3点においてシールカバーに当接することになり、接触面積が小さくなると共に安定した状態で保持される。
非当接凹部146a、146bの軸方向の深さ及び周方向の長さについては、適宜、設計的に決められる。また、非当接凹部146a、146bの形成手段についても、型成形時あるいはレーザー加工など、種々の手段を採用することができる。
【0058】
なお、非当接凹部146a、146bは、ブランクピース140の軸方向の側面の少なくとも一方に設けられればよく、たとえば、第1シールカバー5に当接する側だけに向けられてもよく、あるいは、第2シールカバー6に当接する側も含む両側面に設けられてもよい。
非当接凹部146a、146bがブランクピース140の軸方向の両側面に設けられる場合、両側の非当接凹部146a、146bは周方向の同じ位置に設けられるのが望ましい。
【0059】
また、
図6に示すように、本例では、一対の連通孔141、142は、連通孔141、142の設けられる壁面に対して垂直に設けられている。このため、被密封流体の旋回流が連通孔141、142の壁面に衝突する際の衝撃力を、前記実施例のように被密封流体の旋回流に沿う方向に傾斜して設けられる場合に比較して大きくすることができ、ブランクピース140に作用する回転方向の力を大きくすることができる。
【0060】
また、
図5に示すように、一対の連通孔141、142の径Dは、ブランクピース140の幅Eよりわずかに小さく、すなわち、連通孔141、142の径Dをブランクピース140の幅Eぎりぎりまで大きく設定される。このため、被密封流体の旋回流の衝突する面積を許容限度まで大きくすることができ、ブランクピース140に作用する回転方向の力を大きくすることができる。
【0061】
さらに、一対の連通孔141、142は、それぞれ、案内突部143の側面143a、143bに近接して設けられる。このため、被密封流体の旋回流は案内突部143の側面143a、または、143bのいずれか一方と衝突することになり、旋回流の衝突する面積がさらに増大され、ブランクピース140に作用する回転方向の力をさらに大きくすることができる。
【0062】
以上説明した実施例4の構成によれば、上記した実施例の効果の他に以下のような効果を奏する。
(1)ブランクピース140の軸方向の側面の少なくとも一方の側面には非当接凹部146が設けられることにより、ブランクピース140の軸方向の側面とシールカバーと接触する接触面積が小さくなり、接触部における静止摩擦力が低減され、ブランクピース140を回転させ易くすることができる。
(2)非当接凹部146は、出口部分144並びにノックピン係合部分145a及び145bを除いた側面に設けられることにより、ブランクピース140の側面は、出口部分144並びにノックピン係合部分145a及び145bの3点においてシールカバーに当接することになり、ブランクピース140を回転させ易くすると共に安定した状態で保持することができる。
(3)一対の連通孔141、142は、垂直に設けられることにより、被密封流体の旋回流が連通孔141、142の壁面に衝突する際の衝撃力を、実施例1ないし3のように被密封流体の旋回流に沿う方向に傾斜して設けられる場合に比較して大きくすることができ、ブランクピース140に作用する回転方向の力を大きくすることができる。
(4)一対の連通孔141、142の径Dは、ブランクピース140の幅Eよりわずかに小さく設定されることにより、被密封流体の旋回流の衝突する面積を許容限度まで大きくすることができ、ブランクピース140に作用する回転方向の力を大きくすることができる。
(5)一対の連通孔141、142は、それぞれ、案内突部143の側面143a、143bに近接して設けられることにより、被密封流体の旋回流は案内突部143の側面143a、または、143bのいずれか一方と衝突することになり、旋回流の衝突する面積がさらに増大され、ブランクピース140に作用する回転方向の力をさらに大きくすることができる。
【0063】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0064】
例えば、前記実施例では、静止部材が、第1シールカバー5及び第2シールカバー6より構成され、第1シールカバー5に被密封空間10の被密封流体を循環させるための排出口30が設けられ、また、第2シールカバー6に被密封空間10の被密封流体を循環させるための流入孔31が設けられる場合について説明したが、これに限らず、静止部材を3つ以上の部材から構成してもよく、その場合、被密封流体を循環させるための排出口30及び流入孔31を、いずれの静止部材に設けるかは設計的に決められればよい。
【0065】
また、例えば、前記実施例では、ブランクピース32は、ステンレスから形成される場合について説明したが、これに限らず、例えば、合成樹脂などの非金属から形成されてもよい。
【0066】
また、例えば、前記実施例では、ブランクピース32は、一体的にリング状に形成される場合について説明したが、これに限らず、周方向において2つ割りでもよい。
【0067】
また、例えば、前記実施例では、ブランクピース140の非当接凹部146a、146bは、ブランクピース140の軸方向の側面の一方に設けられる場合について説明したが、これに限らず、両側面に設けられてもよい。