(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付の図面を参照して、本発明に係る、ガス分析装置に用いる計測セルの実施の形態を説明する。
【0015】
(実施の形態1)
1.ガス分析装置の構成
図1は、本発明に係るガス分析装置の一実施の形態の構成を示した図である。ガス分析装置は、計測対象ガスの濃度や温度を二次元的に計測可能な装置である。
図1に示すように、ガス分析装置1は、レーザ11と、レーザ制御装置14と、ファイバスプリッタ15と、計測セル30と、アンプ21と、解析装置23とを備える。
【0016】
レーザ11は所定の波長帯域のレーザ光を出力可能な光源(レーザダイオード)であり、例えば、DFBレーザで構成される。
【0017】
レーザ制御装置14は、レーザ11を制御して、レーザ11が出力するレーザ光の波長及び強度を制御する。具体的には、レーザ制御装置14はレーザ11を制御して、レーザ光の波長を時間的に変化(走査)させながらレーザ光を出力させる。レーザ制御装置14としては、レーザダイオードに電流を注入し、レーザダイオードを発光(駆動)させるための市販の種々の装置が使用でき、例えば、旭データシステムズ社製のLDドライバALP-7033CCが使用できる。
【0018】
ファイバスプリッタ15はレーザ11からのレーザ光を複数の光路に分岐して出力する。
【0019】
計測セル30は、計測セル30は計測対象ガスが含まれる計測場に配置されて使用され、計測場におけるレーザ光の光路を規定する装置である。計測セル30から、計測対象ガスに対してレーザ光が照射され、計測対象ガスを透過したレーザ光は再び計測セル30内に入射する。
【0020】
計測セル30には、光学アダプタ51a、51b、53a、53bが取り付けられている。光学アダプタ51a、51bはそれぞれ複数のコリメータ17を内部に含む。光学アダプタ51a、51bとファイバスプリッタ15とは光ファイバ18で接続される。コリメータ17はレーザ光の進行方向を調整するための光学部材(レンズ)である。
【0021】
光学アダプタ53a、53bはそれぞれ複数の受光器19を内部に含む。光学アダプタ53a、53bに含まれる各受光器19はそれぞれ、光学アダプタ51a、51b内の対応するコリメータ17と対向して配置される。受光器19は、フォトダイオードやフォトトランジスタのような受光素子を含み、計測対象ガスを透過したレーザ光を受光し、受光したレーザ光の強度に応じた電気信号に変換する。光学アダプタ53a、53bとアンプ21の間は電気信号を伝達する配線20で接続される。
【0022】
計測セル30は中央に円形の開口35を有している。計測セル30は、その開口35が計測場内に配置されるように配置されて使用される。
【0023】
アンプ21は、受光器19からの電気信号(アナログ信号)を増幅するとともにデジタル信号に変換する。
【0024】
解析装置23は、アンプ21から信号を入力し、入力した信号の波形(吸収スペクトル)を解析して、ガスの濃度および温度の分布を求め、濃度分布及び温度分布をそれぞれ示す二次元画像を生成する。
【0025】
図2は、計測セル30の筐体31aの内部構成を説明するために、計測セル30の筐体31aを計測セル30の主面に平行な面で切断した断面図である。計測セル30は中央部分に開口35を有する。開口35の周囲に、透光性を有する窓部材44と窓部材を保持する保持フレーム42が配置される。
【0026】
さらに、計測セル30の筐体31aにおいて、開口35から放射状に第1の光路33a〜33rと、第2の光路34a〜34rとが形成されている。第1の光路33a〜33rは、光学アダプタ51a、51b(コリメータ17)からのレーザ光を計測セル30の開口35(すなわち、計測場)へ導くための経路である。第2の光路34a〜34rは、開口35を通過した光を光学アダプタ53a、53bの受光器19へ導くための経路である。保持フレーム42の側面には、各光路33a〜33r、34a〜34rに対応した位置に光の透過孔41が設けられている。
【0027】
計測セル30は、その開口35において、コリメータ17と受光器19の対がパスを形成する。
図2において開口35内に示した破線矢印がパスを示している。本実施の形態では、計測セル30は18個のパスを有する。各パスは同じ平面に含まれるよう形成されており、この平面内において二次元的な計測が可能となる。
【0028】
図3は、解析装置23の具体的な構成を説明した図である。解析装置23は例えばコンピュータ(情報処理装置)により実現できる。解析装置23は、その全体動作を制御するコントローラ61と、種々の情報を表示する表示部63と、ユーザが操作を行う操作部65と、データを一時的に記憶するRAM66と、データやプログラムを記憶するデータ記憶部67と、外部機器(特に、携帯情報端末1)と通信を行うための通信インタフェース68とを備える。
【0029】
表示部63は例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LED等で構成される。表示部63はガスの濃度分布及び温度分布を示す二次元画像を表示可能である。操作部65は、ボタンやタッチパネルのようなユーザ操作を受け付けるユーザインタフェースである。
【0030】
通信インタフェース68は、所定の通信規格(USB、HDMI(登録商標)、WiFi、Bluetooth(登録商標)等)規格にしたがい通信を行うための回路(モジュール)である。
【0031】
RAM66は、例えば、DRAMやSRAM等の半導体デバイスで構成され、データを一時的に記憶するとともに、コントローラ61の作業エリアとしても機能する。
【0032】
データ記憶部67は所定の機能を実現するために必要なパラメータ、制御プログラム67a、測定データ等を記録する記録媒体である。データ記憶部67は例えばハードディスク(HDD)や半導体記憶装置(SSD)で構成される。
【0033】
コントローラ61は制御プログラム67aを実行することで後述する所定の機能を実現する。また、コントローラ61は、後述する機能を実現するよう設計された専用のハードウェア回路でもよい。コントローラ61は、CPU、MPU、DSP、FPGA、ASIC等で構成することができる。なお、制御プログラム67aは、DVD−ROM、CD−ROM等の記録媒体によって提供されてもよいし、通信回線を介してネットワーク上のサーバからダウンロードされてもよい。
【0034】
2.動作
以上のように構成されるガス分析装置1の動作を説明する。
【0035】
ガス分析装置1は、レーザ11から出力されるレーザ光の波長を走査しながらレーザ光を計測場(例えば、エンジンのシリンダ内の燃焼室)内の計測対象ガスに照射し、その際得られるレーザ光の吸収スペクトルを解析することで、計測対象ガスの濃度や温度の計測(分析)を行う。計測対象ガスの濃度や温度の計測を行う場合、計測セル30は、計測セル30の開口35内に計測場が含まれるように燃焼機関に取り付けられる。
【0036】
レーザ11は、例えば、計測対象ガスの成分が吸収する特定の波長を含む波長帯のレーザ光を出力する。または、レーザ11は、計測対象ガス成分が吸収しない特定の波長、または計測対象ガス以外のガス成分を吸収する波長を含む波長帯のレーザ光を出力してもよい。
【0037】
レーザ11から出射されたレーザ光は、ファイバスプリッタ15に入力される。ファイバスプリッタ15はレーザ11からのレーザ光を分岐し光学アダプタ51a、51b内の各コリメータ17に入力させる。各コリメータ17に入力されたレーザ光は、計測セル30の筐体内に設けられた光路33a〜33rに入力される。各光路33a〜33rに入力されたレーザ光は保持フレーム42及び窓部材44を透過し、計測場(計測セル30の開口)に照射される。
【0038】
計測場(計測セル30の開口35)に照射された光は、ガス中を透過する際、特定の波長成分が計測場のガス中に含まれている計測対象ガスによって吸収される。計測場(計測セル30の開口35)を透過したレーザ光は、窓部材44及び保持フレーム42を介して受光側の光路34a〜34rに入射し、光学アダプタ53a、53b内に配置された受光器19にて入射される。受光器19は受光したレーザ光を電気信号に変換する。
【0039】
受光器19からの電気信号は、アンプ21で増幅され、デジタル信号に変換されて解析装置23に入力される。
【0040】
解析装置23は、各受光器19からの信号波形に基づいて、ガス成分の濃度及び/または温度分布を示す二次元画像を再構築する。解析装置23は、二次元画像の再構築をCT(Computed Tomography)技術を用いて行う。
【0041】
以下、本実施形態の解析装置23による二次元画像の再構築処理(以下「CT解析処理」という)の詳細について説明する。
【0042】
2.1 吸収法
計測対象ガスにレーザ光を照射し、レーザ光が計測対象ガス(吸収媒体)を通過したときの、入射光の強度(I
λ0)と透過光(I
λ)の強度の比(I
λ/I
λ0)を求めることにより、計測対象ガスの濃度や温度を計測することができる。入射光と透過光の強度比(I
λ/I
λ0)は次式で表される。
【数1】
λ:レーザ光の波長
A
λ:波長λに対する吸光度
n
i:順位iにおける分子数密度
L :パス長
S
i,j(t):吸収線強度
T :温度
G
vi,j:吸収線のブロードニング関数
【0043】
各パスpにおける吸光度A
λ,pは次式で表される。
【数2】
A
λ,p:各パスpにおける吸光度
n
p :グリッドq内の分子数密度(濃度)
α
λ,q:グリッドq内の吸光係数
L
p,q:グリッドqを通るパスpのパス長
λ:レーザ光の波長
p:パスの番号
q:グリッドの番号
【0044】
ここで、パス及びグリッドは
図4に示すように設定される。すなわち、計測セル30の開口35内の平面領域において、格子状に配置された矩形領域の中心にグリッド1〜25が設定される。各グリッドの位置はXY座標で表される。また、パスは、開口35内の平面領域において、各コリメータ17からそれに対向する受光器19へ向かう光路であり、
図4に示すように本実施の形態では18個のパス(パス1〜18)が存在する。
【0045】
式(2)より、ある波長に対する吸光度A
λ,pは、計測対象ガスの濃度(n)と、吸光係数(α
λ,q)と、パス長(L)とで求められる。ここで、パス長(L)は既知の値であることから、各パスに含まれる複数のグリッド(q)のそれぞれに対して計測対象ガスの濃度(n)と吸光係数(α
λ,q)が分かれば、パス(p)毎に吸光度A
λ,pが求められる。ここで、吸光係数(α
λ,q)は温度(T)の関数である。よって、換言すれば、各パスに含まれる複数のグリッド(q)のそれぞれに対して計測対象ガスの濃度(n)と温度(T)が分かれば、パス(p)毎に吸光度A
λ,pが求められる。
【0046】
そこで、本実施の形態のCT解析処理では、対象ガスの濃度(n)及び温度(t)それぞれについて
図5(A)に示すような関数、例えば、対象ガスの濃度(n)及び温度(t)の平面分布を規定するm次の二次元多項式を規定する。
図5(A)に示す式は、解析対象である領域R0に対して濃度分布または温度分布を規定する関数である。X,Yは領域R0上に設定されたXY座標系の座標であり、a
k-i,iは各項の係数である。そして、濃度分布及び温度分布に関する関数(m次の二次元多項式)を用いて吸光度の計算値を求め、吸光度の計算値と吸光度の測定値とを比較して、それらの誤差が最小となるときの係数a
k-i,iを求める。これにより、対象ガスの濃度(n)及び温度(t)の平面分布を規定する関数(m次の二次元多項式)が確定する。すなわち、計測対象ガスの濃度分布及び温度分布が求められる。
【0047】
具体的には以下のようにガスの濃度及び温度それぞれについてm次の二次元項式(関数)を設定する。
【0048】
濃度分布関数n(X,Y)は例えばm次の二次元多項式として以下のように設定する。
【数3】
式(3)において、係数a
k-i,iを求めることで濃度分布関数n(X,Y)が求まる。
【0049】
温度分布関数T(X,Y)は例えばm次の二次元多項式として以下のように設定する。
【数4】
式(4)において、係数b
k-i,iを求めることで温度分布関数T(X,Y)が求まる。
ここで、
【0050】
2.2 CT解析
ガス分析装置1は、二次元的に複数の方向から開口35に向けてレーザ光を照射し、開口35を透過したレーザ光を受光し、受光した光の強度に基づき吸光度を求め、その吸光度に基づいて計測セル30の開口35内の領域のガスの燃焼状態(ガスの濃度、温度)を解析する。
【0051】
図6は、ガス分析装置1によるCT解析処理における解析領域を説明した図である。計測セル30における開口35内の領域R1は計測領域である。本CT解析処理では、計測領域R1を含み、計測領域R1よりも大きい領域R2を解析領域として設定する。
【0052】
解析領域R2における領域R1に対して、式(3)及び式(4)に示すような計測対象ガスの濃度及び温度の分布をそれぞれ規定する関数(例えばm次の二次元多項式)を設定する。一方、解析領域R2における領域R1の外側の領域R21(
図6の斜線ハッチング領域)に対しては、制約条件を設定する。具体的には、領域R21において関数(濃度や温度)の上限値を設定したり、または、領域R21に対して固定値を与える関数を設定したりする。領域R1の周縁部(外周に近い領域)はパス数が少ないため、「濃度及び温度の分布をそれぞれ規定する関数により計算される値」が「実際の濃度及び温度値」と大きく乖離する(計測精度が大きく低下する)場合がある。そこで、このように領域R21に対して制約条件を設定し、領域R21も含めて計算を行うようにすることにより、領域R1と領域R21の境界付近での計測精度の低下を防止することができる。
【0053】
領域R1において、式(3)及び式(4)において、係数a
k-i,i、b
k-i,iを、計測対象ガスに対する計測値を用いて求めることで、計測対象ガスの濃度または温度の分布を規定する二次元多項式を決定する。
【0054】
図7は、解析装置23のコントローラ61により実行されるCT解析処理を示すフローチャートである。
図7のフローチャートを参照して解析処理を説明する。
【0055】
まず、コントローラ61は、初期設定として、計測対象ガスの濃度分布関数n(X,Y)と温度分布関数T(X,Y)を設定する(S11)。具体的には、式(3)、(4)における次数mの値、及び係数ak、bkそれぞれの初期値を設定する。次数mは例えば2に設定される。
【0056】
次に、コントローラ61は濃度分布関数n及び温度分布関数Tを用いて吸光度Aの理論値を算出する(S12)。具体的には、コントローラ61は、式(2)を用いて各パス(p)及びサンプリングした複数の波長(λ)のそれぞれについて吸光度A
λ,pを求める。吸光度A
λ,pは、グリッド(q)毎にn
qα
λ,qL
p,qを算出し、全てのグリッドについてn
qα
λ,qL
p,qを合算することで求める。n
qは式(3)から求められる。α
λ,qは式(4)を用いて求めた温度に基づき求められる。
【0057】
次に、コントローラ61は、算出した吸光度の計算値と、吸光度の測定値との誤差(Error)を下記式(5)に基づき計算する(S13)。具体的には、以下の手順で吸光度の((A
λ,p)
theo)計算値と吸光度の測定値((A
λ,p)
exp)との誤差を計算する。
手順1)全てのパス及び全ての波長に対して、パス(p)毎及び波長(λ)毎に、吸光度(A
λ,p)の計算値と測定値の差分の二乗を求める。なお、吸光度の測定値については、各パスの受光器19で受光したレーザ光の情報に基づき算出される。
手順2)パス(p)毎に、求めた差分の二乗値を全波長について合計する。
手順3)パス(p)毎に求めた差分の二乗値を全パスで合計することにより、誤差(Error)を算出する。
【数5】
【0058】
コントローラ61は、濃度分布関数n、温度分布関数Tの係数ak、bkをそれぞれ変化させながら(S17)、上記処理を所定回数繰り返し、誤差(Error)が極小となる係数ak、bkを求める(S14)。このとき、濃度分布関数nの係数akと温度分布関数Tの係数bkを同時に変化させてもよい。または、濃度分布関数nの係数akと温度分布関数Tの係数bkを一方ずつ変化させてもよい。すなわち、温度分布関数Tの係数bkは変更せずに、濃度分布関数nの最適化を行うステップ(ステップA)と、濃度分布関数nの係数akは変更せずに、温度関数Tの最適化を行うステップ(ステップB)とを繰り返しても良い。
【0059】
コントローラ61は、誤差が極小となるときの係数ak、bkが検出された場合、それらの係数を用いて濃度分布関数n及び温度分布関数Tを確定する(S15)。コントローラ61は、確定した濃度分布関数n及び温度分布関数Tをそれぞれ用いて、計測領域内の濃度分布及び温度分布をそれぞれ示す画像を生成する(S16)。生成された画像のデータはデータ記憶部67に格納される。濃度分布及び温度分布をそれぞれ示す画像は表示部63で表示される。
【0060】
図8は、1つのパスについての吸光度の測定値((A
λ,p)
exp)と、上述のCT解析方法により求めた濃度分布関数n及び温度分布関数Tを用いて算出した吸光度の計算値((A
λ,p)
theo)とを比較して示した図である。同図に示すように、吸光度の測定値((A
λ,p)
exp)に対して、精度のよい計算値((A
λ,p)
theo)が得られていることがわかる。
【0061】
上記の実施の形態では、ガスの濃度および温度について濃度分布関数および温度分布関数をそれぞれ1種類だけ規定したが、複数種類設定してもよい。すなわち、解析領域に応じて、解析に使用する濃度関数n及び/または温度関数Tを異ならせても良い。例えば、
図9に示すように、開口35に対応する領域R1において、中央部の領域R12と、その外側の領域R11とで、濃度分布及び温度分布を規定する関数を異ならせても良い。パス配置の関係から、中央部の領域R12では比較的多くのパスから情報が得られるのに対して、その外側の領域R11では、比較的少ない数のパスからしか情報が得られない。このため、
図10(A)、(B)に示すように、空間分解能の異なる2種類の関数f
1、f
2を用意しておき、比較的多くのパスから情報が得られる領域R12に対しては、分解能が高い関数f2を適用し、比較的少ない数のパスからしか情報が得られない領域R11に対しては、分解能が低い関数f1を適用する。このようにすることで、領域R12における空間分解能を向上することができる。すなわち、パス配置に応じて関数f
1、f
2を使い分けることで特定の領域について空間分解能を向上することができる。
【0062】
空間分解能はレーザパスの配置に依存し、レーザパスの間隔以下の空間分解能を得ることはできない。よって、画像再構成において、レーザパスの間隔以下の空間分解能を有さないよう、濃度分布及び/または温度分布についての関数の次数mを設定する。
図11は、計測対象ガス(メタン(CH4))の濃度について計算値と測定値とを対比して示した図である。
図11(A)は、濃度を規定する関数の次数mが適切に設定された場合であり、
図11(B)は、濃度を規定する関数の次数mが大きすぎる場合を示している。
図11(B)に示すように、次数mが大きすぎる場合、計算値においてハンチングが発生している。すなわち、
図11(B)に示すように、計算結果においてハンチングが発生する場合は、ハンチングが発生しないように関数の次数mを低い値に調整する必要がある。
【0063】
2.3 三次元領域への拡張
本実施の形態の思想は、三次元領域でのガスの温度や濃度を計測する場合にも拡張できる。例えば、三次元領域での計測の場合、三次元空間での濃度分布関数n(X,Y,Z)をm次の三次元多項式として以下のように設定することができる。
【数6】
【0064】
二次元領域に対する解析の場合と同様に、式(6)において、係数a
k-i,i-j,jを求めることで三次元領域での濃度分布関数n(X,Y,Z)が求まる。最適化を行うステップは上記二次元の場合と同様である。三次元領域での温度分布についても、濃度分布の場合と同様に、次式のように、m次の三次元多項式を設定することで求めることができる。
【数7】
【0065】
3.まとめ
本実施形態のガス分析装置1は、二次元または三次元領域における計測対象ガスの物理的状態(例えば、濃度分布、温度分布)を分析する装置である。ガス分析装置11は、レーザ光を出力するレーザ11と、レーザ11を制御するレーザ制御装置14と、レーザ11からのレーザ光を複数の光路に分岐するファイバスプリッタ(分波器)15と、分岐されたレーザ光を複数の方向から、計測対象ガスが含まれる計測領域に照射させるコリメータ17及び計測セル30(照射部の一例)と、計測領域を透過したレーザ光を受光し、受光したレーザ光の強度に応じた電気信号を出力する複数の受光器19と、各受光器19から出力された電気信号に基づき、計測対象ガスの物理的状態を解析する解析装置23と、を備える。解析装置23は、少なくとも計測領域において計測対象ガスの物理的状態(例えば、濃度分布、温度分布)を示す多次元多項式(式(3)、(4)、式(6)(7)(関数の一例))を設定し、受光器19から出力された電気信号から得られる計測値を用いて、多次元多項式に含まれる各項の係数(a
k-i,i、b
k-i,i)(a
k-i,i-j,j、b
k-i,i-j,j)を決定することにより、計測対象ガスの物理的状態を計測する。
【0066】
また、本実施の形態は、以下の、二次元または三次元領域における計測対象ガスの物理的状態(例えば、濃度分布、温度分布)を分析するガス分析方法も開示している。ガス分析方法は、レーザ光を複数の方向から、計測対象ガスが含まれる計測領域に照射するステップと、計測領域を透過したレーザ光を受光するステップと、受光したレーザ光の情報に基づき、計測対象ガスの物理的状態(例えば、濃度分布、温度分布)を解析するステップと、を含む。解析するステップは、少なくとも計測領域において計測対象ガスの物理的状態を示す多次元多項式(式(3)、(4)、式(6)、(7)(関数の一例))を設定し、受光したレーザ光の情報から得られる計測値を用いて、多次元多項式に含まれる各項の係数(a
k-i,i、b
k-i,i)(a
k-i,i-j,j、b
k-i,i-j,j)を決定する。
【0067】
以上の構成を有するガス分析装置及びガス分析方法によれば、短時間でかつ精度よく計測対象ガスの解析を行うことができる。よって、時々刻々と変化する燃焼状態をリアルタイムで把握したい分野においても、精度よく二次元画像の再構築を行うことが可能となる。
【0068】
(実施の形態2)
本実施形態では、実施の形態1で示したガス分析装置1の種々の燃焼機関に対する適用例を説明する。
A)適用例1
【0069】
図12は、ガス分析装置1をエンジンに適用したときの計測セル30のエンジンに対する取り付け状態を説明した図である。
図12に示すにように、計測セル30の開口35がエンジン200の燃焼室に位置するように、エンジン200のシリンダ210の上部に計測セル30を配置する。このように計測セル30を配置することで、エンジン200内の燃焼室における燃焼ガスに対して、レーザ光を照射し、燃焼ガスを透過したレーザ光の測定が可能となり、導体レーザ吸収法を用いて燃焼ガスの燃焼状態(濃度、温度)を二次元的に解析することが可能となる。
【0070】
なお、上記の例では、計測セル30の開口35がエンジン200の燃焼室に配置されるように、計測セル30を配置したが、燃焼室に代えて、シリンダ210から排出される排気ガスの流路である排気管に対して計測セル30を設けてもよい。この構成によれば、排気ガスの状態を測定、解析することができる。また、また、シリンダ210または排気管に対して、計測セル30をその法線方向に複数並べて配置して設けてもよい。これにより、3次元的にガスの状態を測定することが可能になる。
【0071】
以上のように、本実施形態の計測セル30を用いたガス分析装置1は、エンジンのシリンダ内または排気系において各種ガスの温度、濃度の検出を可能とし、燃焼の過渡現象や未燃燃料排出挙動の解明に有用である。
【0072】
B)適用例2
上記の実施の形態のガス分析装置1は、火力発電所等で使用されるボイラ用バーナーの燃焼室内の燃焼状態(対象ガスの温度、濃度)の検出に適用することができる。
図13(A)は、上述のガス分析装置1のボイラ用バーナーへの適用を説明した図である。例えば、
図13(A)に示すように、計測セル30の開口35がボイラの燃焼室110に配置されるように、計測セル30を配置する。これにより、バーナー100の燃焼室110内の燃焼状態を二次元的に把握することが可能となる。さらに、
図13(B)に示すように、燃焼室110に対して、計測セル30を、計測セル30の法線方向に複数並べて配置することで、三次元領域における燃焼状態を測定することも可能になる。
【0073】
C)適用例3
ガス分析装置1は、ジェットエンジンや産業用ガスタービンの燃焼状態(対象ガスの温度、濃度)の検出にも適用することができる。
図14(A)は、本実施形態のガス分析装置1のジェットエンジンへの適用を説明した図である。ジェットエンジン300(またはガスタービン)では、取り込んだ気流はタービン303の回転力を原動力とする圧縮機により圧縮され、燃焼器301において燃料と混合されて燃焼させられる。燃焼により生じた燃焼ガスはタービン303を回転させるとともに、噴射口から外部に排気される。計測セル30は、例えば、
図14(A)に示すように、ジェットエンジン300の噴射口付近に設けてもよい。これにより、ジェット燃料シリンダ内部の燃焼状態を検出することが可能となる。このような技術は、流れ場及び燃料不均一性による振動現象の解明に有用である。また、
図14(B)に示すように、計測セル30を、噴射口付近において、燃焼ガスの排気方向に複数並べて配置してもよく、これにより三次元領域における燃焼状態の検出が可能となる。
【0074】
以上のように、実施の形態1のガス分析装置1の構成を二次元あるいは三次元で温度・濃度分布を計測する手法に適用することで、装置の簡略化と定量化、高感度化を達成しつつ、ボイラ、エンジン、ガスタービンなどの燃焼機器へ応用展開させることが可能となる。
【0075】
(変形例)
上記の実施の形態のガス分析装置1では、レーザ光源を1つのみ用いたが、2種類のレーザ光源を用いてもよい。2種類のレーザ光源を用いる場合、2種類のレーザ光源それぞれからのレーザ光を合波器を用いて合成した後にファイバスプリッタに入力し、複数の光路に分岐する。
【0076】
また、一方のレーザ光源から出力されるレーザ光(以下「レーザ光1」という)の波長帯と、他方のレーザ光源から出力されるレーザ光(以下「レーザ光2」という)の波長帯とを異ならせる。例えば、レーザ光1の波長帯を、計測対象ガスの成分が吸収する特定の波長を含む波長帯とし、レーザ光2の波長帯を、計測対象ガス成分が吸収しない特定の波長を含む波長帯としてもよい。このとき、レーザ光1の吸収スペクトルに観測される吸収線により、計測対象ガス成分を計測することができる。または、レーザ光1を走査する際の波長帯を、第1の計測対象ガスの成分が吸収する特定の波長(第1の波長)を含む波長帯とし、レーザ光2を走査する際の波長帯を、第1の計測対象ガスではない他のガス成分(第2の計測対象ガス)が吸収する特定の波長(第2の波長)を含む波長帯としてもよい。この場合、レーザ光1及びレーザ光2それぞれの吸収スペクトルに観測される吸収線により、2つのガス成分を同時に計測することが可能となる
【0077】
上記の実施の形態のガス分析装置は、計測対象ガスの濃度分布及び温度分布を求めたが、解析対象は濃度や温度に限定されるものではない。計測したい物理量に関する多次元多項式(例えば、二次元または三次元多項式)を設定することで、ガスの濃度や温度以外の物理量についても同様に解析することができる。
【0078】
また、上記の実施の形態で開示した解析手法は、ガス分析に限定されず、広くCT技術に適用することができる。すなわち、計測対象領域(二次元平面または三次元空間)にある計測対象物に対して計測用の信号を照射し、計測対象物を通過した信号に基づき、計測対象物の状態や構造を解析する装置に対して広く適用できる。すなわち、計測対象領域(二次元平面または三次元空間)に対して、計測項目(計測対象の物理量)に関する二次元または三次元多項式を規定し、計測対象領域を通過した信号の情報に基づき二次元または三次元多項式の各項の係数を決定する。これにより、計測項目(計測対象物の物理量)に関する多項式を確定することができ、計測対象物の解析が可能となる。