(54)【発明の名称】殺菌作用を備えた表面を有する合成高分子膜、合成高分子膜を有するプラスチック製品、合成高分子膜の表面を用いた殺菌方法、光硬化性樹脂組成物、および合成高分子膜の製造方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記光重合開始剤は、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、2-ヒドロキシ-1-[4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル]-2-メチル-プロパン-1-オン、および1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項12から15のいずれかに記載の合成高分子膜。
前記プラスチック基材は、トリアセチルセルロースフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、およびポリカーボネートフィルムからなる群から選択される少なくとも1つのフィルムを含み、
前記少なくとも1つのフィルムと前記合成高分子膜とを含む、積層フィルムである、請求項19に記載のプラスチック製品。
前記光重合開始剤は、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、2-ヒドロキシ-1-[4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル]-2-メチル-プロパン-1-オン、および1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項23に記載の光硬化性樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態による、表面が殺菌効果を有する合成高分子膜および合成高分子膜の表面を用いた殺菌方法を説明する。
【0037】
なお、本明細書においては、以下の用語を用いることにする。
【0038】
「殺菌(sterilization(microbicidal))」は、物体や液体といった対象物や、限られた空間に含まれる、増殖可能な微生物(microorganism)の数を、有効数減少させることをいう。
【0039】
「微生物」は、ウィルス、細菌(バクテリア)、真菌(カビ)を包含する。
【0040】
「抗菌(antimicrobial)」は、微生物の繁殖を抑制・防止することを広く含み、微生物に起因する黒ずみやぬめりを抑制することを含む。
【0041】
本出願人は、陽極酸化ポーラスアルミナ層を用いて、モスアイ構造を有する反射防止膜(反射防止表面)を製造する方法を開発した。陽極酸化ポーラスアルミナ層を用いることによって、反転されたモスアイ構造を有する型を高い量産性で製造することができる。
【0042】
本出願人は、上記の技術を応用することによって、表面が殺菌効果を有する合成高分子膜を開発するに至った(例えば、特許文献5、6および7参照)。また、本出願人は、表面が殺菌効果を有する合成高分子膜を用いて、食品用フィルムおよび食品用容器ならびにこれらを用いて食品を保存する方法および食品を取り扱う方法を開発した(特許文献8参照)。参考のために、上記特許文献5、6、7および8の開示内容の全てを本明細書に援用する。
【0043】
図1(a)および(b)を参照して、本発明の実施形態による合成高分子膜の構造を説明する。
【0044】
図1(a)および(b)は、本発明の実施形態による合成高分子膜34Aおよび34Bの模式的な断面図をそれぞれ示す。ここで例示する合成高分子膜34Aおよび34Bは、いずれもベースフィルム42Aおよび42B上にそれぞれ形成されているが、もちろんこれに限られない。合成高分子膜34Aおよび34Bは、任意の物体の表面に直接形成され得る。
【0045】
図1(a)に示すフィルム50Aは、ベースフィルム42Aと、ベースフィルム42A上に形成された合成高分子膜34Aとを有している。合成高分子膜34Aは、表面に複数の凸部34Apを有しており、複数の凸部34Apは、モスアイ構造を構成している。合成高分子膜34Aの法線方向から見たとき、凸部34Apの2次元的な大きさD
pは20nm超500nm未満の範囲内にある。ここで、凸部34Apの「2次元的な大きさ」とは、表面の法線方向から見たときの凸部34Apの面積円相当径を指す。例えば、凸部34Apが円錐形の場合、凸部34Apの2次元的な大きさは、円錐の底面の直径に相当する。また、凸部34Apの典型的な隣接間距離D
intは20nm超1000nm以下である。
図1(a)に例示するように、凸部34Apが密に配列されており、隣接する凸部34Ap間に間隙が存在しない(例えば、円錐の底面が部分的に重なる)場合には、凸部34Apの2次元的な大きさD
pは隣接間距離D
intと等しい。凸部34Apの典型的な高さD
hは、50nm以上500nm未満である。後述するように、凸部34Apの高さD
hが150nm以下であっても殺菌作用を発現する。合成高分子膜34Aの厚さt
sに特に制限はなく、凸部34Apの高さD
hより大きければよい。
【0046】
図1(a)に示した合成高分子膜34Aは、特許文献1〜4に記載されている反射防止膜と同様のモスアイ構造を有している。反射防止機能を発現させるためには、表面に平坦な部分がなく、凸部34Apが密に配列されていることが好ましい。また、凸部34Apは、空気側からベースフィルム42A側に向かって、断面積(入射光線に直交する面に平行な断面、例えばベースフィルム42Aの面に平行な断面)が増加する形状、例えば、円錐形であることが好ましい。また、光の干渉を抑制するために、凸部34Apを規則性がないように、好ましくはランダムに、配列することが好ましい。しかしながら、合成高分子膜34Aの殺菌作用をもっぱら利用する場合には、これらの特徴は必要ではない。例えば、凸部34Apは密に配列される必要はなく、また、規則的に配列されてもよい。ただし、凸部34Apの形状や配置は、微生物に効果的に作用するように選択されることが好ましい。
【0047】
図1(b)に示すフィルム50Bは、ベースフィルム42Bと、ベースフィルム42B上に形成された合成高分子膜34Bとを有している。合成高分子膜34Bは、表面に複数の凸部34Bpを有しており、複数の凸部34Bpは、モスアイ構造を構成している。フィルム50Bは、合成高分子膜34Bが有する凸部34Bpの構造が、フィルム50Aの合成高分子膜34Aが有する凸部34Apの構造と異なっている。フィルム50Aと共通の特徴については説明を省略することがある。
【0048】
合成高分子膜34Bの法線方向から見たとき、凸部34Bpの2次元的な大きさD
pは20nm超500nm未満の範囲内にある。また、凸部34Bpの典型的な隣接間距離D
intは20nm超1000nm以下であり、かつ、D
p<D
intである。すなわち、合成高分子膜34Bでは、隣接する凸部34Bpの間に平坦部が存在する。凸部34Bpは、空気側に円錐形の部分を有する円柱状であり、凸部34Bpの典型的な高さD
hは、50nm以上500nm未満である。また、凸部34Bpは、規則的に配列されていてもよいし、不規則に配列されていてもよい。凸部34Bpが規則的に配列されている場合、D
intは配列の周期をも表すことになる。このことは、当然ながら、合成高分子膜34Aについても同じである。
【0049】
なお、本明細書において、「モスアイ構造」は、
図1(a)に示した合成高分子膜34Aの凸部34Apの様に、断面積(膜面に平行な断面)が増加する形状の凸部で構成される、優れた反射機能を有するナノ表面構造だけでなく、
図1(b)に示した合成高分子膜34Bの凸部34Bpの様に、断面積(膜面に平行な断面)が一定の部分を有する凸部で構成されるナノ表面構造も包含する。なお、微生物の細胞壁および/または細胞膜を破壊するためには、円錐形の部分を有することが好ましい。ただし、円錐形の先端は、ナノ表面構造である必要は必ずしもなく、セミの羽が有するナノ表面構造を構成するナノピラー程度の丸み(約60nm)を有していてもよい。
【0050】
図1(a)および(b)に例示したようなモスアイ構造を表面に形成するための型(以下、「モスアイ用型」という。)は、モスアイ構造を反転させた、反転されたモスアイ構造を有する。反転されたモスアイ構造を有する陽極酸化ポーラスアルミナ層をそのまま型として利用すると、モスアイ構造を安価に製造することができる。特に、円筒状のモスアイ用型を用いると、ロール・ツー・ロール方式によりモスアイ構造を効率良く製造することができる。このようなモスアイ用型は、特許文献2〜4に記載されている方法で製造することができる。
【0051】
図2(a)〜(e)を参照して、合成高分子膜34Aを形成するための、モスアイ用型100Aの製造方法を説明する。
【0052】
まず、
図2(a)に示すように、型基材として、アルミニウム基材12と、アルミニウム基材12の表面に形成された無機材料層16と、無機材料層16の上に堆積されたアルミニウム膜18とを有する型基材10を用意する。
【0053】
アルミニウム基材12としては、アルミニウムの純度が99.50mass%以上99.99mass%未満である比較的剛性の高いアルミニウム基材を用いる。アルミニウム基材12に含まれる不純物としては、鉄(Fe)、ケイ素(Si)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、鉛(Pb)、スズ(Sn)およびマグネシウム(Mg)からなる群から選択された少なくとも1つの元素を含むことが好ましく、特にMgが好ましい。エッチング工程におけるピット(窪み)が形成されるメカニズムは、局所的な電池反応であるので、理想的にはアルミニウムよりも貴な元素を全く含まず、卑な金属であるMg(標準電極電位が−2.36V)を不純物元素として含むアルミニウム基材12を用いることが好ましい。アルミニウムよりも貴な元素の含有率が10ppm以下であれば、電気化学的な観点からは、当該元素を実質的に含んでいないと言える。Mgの含有率は、全体の0.1mass%以上であることが好ましく、約3.0mass%以下の範囲であることがさらに好ましい。Mgの含有率が0.1mass%未満では十分な剛性が得られない。一方、含有率が大きくなると、Mgの偏析が起こり易くなる。モスアイ用型を形成する表面付近に偏析が生じても電気化学的には問題とならないが、Mgはアルミニウムとは異なる形態の陽極酸化膜を形成するので、不良の原因となる。不純物元素の含有率は、アルミニウム基材12の形状、厚さおよび大きさに応じて、必要とされる剛性に応じて適宜設定すればよい。例えば圧延加工によって板状のアルミニウム基材12を作製する場合には、Mgの含有率は約3.0mass%が適当であるし、押出加工によって円筒などの立体構造を有するアルミニウム基材12を作製する場合には、Mgの含有率は2.0mass%以下であることが好ましい。Mgの含有率が2.0mass%を超えると、一般に押出加工性が低下する。
【0054】
アルミニウム基材12として、例えば、JIS A1050、Al−Mg系合金(例えばJIS A5052)、またはAl−Mg−Si系合金(例えばJIS A6063)で形成された円筒状のアルミニウム管を用いる。
【0055】
アルミニウム基材12の表面は、バイト切削が施されていることが好ましい。アルミニウム基材12の表面に、例えば砥粒が残っていると、砥粒が存在する部分において、アルミニウム膜18とアルミニウム基材12との間で導通しやすくなる。砥粒以外にも、凹凸が存在するところでは、アルミニウム膜18とアルミニウム基材12との間で局所的に導通しやすくなる。アルミニウム膜18とアルミニウム基材12との間で局所的に導通すると、アルミニウム基材12内の不純物とアルミニウム膜18との間で局所的に電池反応が起こる可能性がある。
【0056】
無機材料層16の材料としては、例えば酸化タンタル(Ta
2O
5)または二酸化シリコン(SiO
2)を用いることができる。無機材料層16は、例えばスパッタ法により形成することができる。無機材料層16として、酸化タンタル層を用いる場合、酸化タンタル層の厚さは、例えば、200nmである。
【0057】
無機材料層16の厚さは、100nm以上500nm未満であることが好ましい。無機材料層16の厚さが100nm未満であると、アルミニウム膜18に欠陥(主にボイド、すなわち結晶粒間の間隙)が生じることがある。また、無機材料層16の厚さが500nm以上であると、アルミニウム基材12の表面状態によって、アルミニウム基材12とアルミニウム膜18との間が絶縁されやすくなる。アルミニウム基材12側からアルミニウム膜18に電流を供給することによってアルミニウム膜18の陽極酸化を行うためには、アルミニウム基材12とアルミニウム膜18との間に電流が流れる必要がある。円筒状のアルミニウム基材12の内面から電流を供給する構成を採用すると、アルミニウム膜18に電極を設ける必要がないので、アルミニウム膜18を全面にわたって陽極酸化できるとともに、陽極酸化の進行に伴って電流が供給され難くなるという問題も起こらず、アルミニウム膜18を全面にわたって均一に陽極酸化することができる。
【0058】
また、厚い無機材料層16を形成するためには、一般的には成膜時間を長くする必要がある。成膜時間が長くなると、アルミニウム基材12の表面温度が不必要に上昇し、その結果、アルミニウム膜18の膜質が悪化し、欠陥(主にボイド)が生じることがある。無機材料層16の厚さが500nm未満であれば、このような不具合の発生を抑制することもできる。
【0059】
アルミニウム膜18は、例えば、特許文献3に記載されているように、純度が99.99mass%以上のアルミニウムで形成された膜(以下、「高純度アルミニウム膜」ということがある。)である。アルミニウム膜18は、例えば、真空蒸着法またはスパッタ法を用いて形成される。アルミニウム膜18の厚さは、約500nm以上約1500nm以下の範囲にあることが好ましく、例えば、約1μmである。
【0060】
また、アルミニウム膜18として、高純度アルミニウム膜に代えて、特許文献4に記載されている、アルミニウム合金膜を用いてもよい。特許文献4に記載のアルミニウム合金膜は、アルミニウムと、アルミニウム以外の金属元素と、窒素とを含む。本明細書において、「アルミニウム膜」は、高純度アルミニウム膜だけでなく、特許文献4に記載のアルミニウム合金膜を含むものとする。
【0061】
上記アルミニウム合金膜を用いると、反射率が80%以上の鏡面を得ることができる。アルミニウム合金膜を構成する結晶粒の、アルミニウム合金膜の法線方向から見たときの平均粒径は、例えば、100nm以下であり、アルミニウム合金膜の最大表面粗さRmaxは60nm以下である。アルミニウム合金膜に含まれる窒素の含有率は、例えば、0.5mass%以上5.7mass%以下である。アルミニウム合金膜に含まれるアルミニウム以外の金属元素の標準電極電位とアルミニウムの標準電極電位との差の絶対値は0.64V以下であり、アルミニウム合金膜中の金属元素の含有率は、1.0mass%以上1.9mass%以下であることが好ましい。金属元素は、例えば、TiまたはNdである。但し、金属元素はこれに限られず、金属元素の標準電極電位とアルミニウムの標準電極電位との差の絶対値が0.64V以下である他の金属元素(例えば、Mn、Mg、Zr、VおよびPb)であってもよい。さらに、金属元素は、Mo、NbまたはHfであってもよい。アルミニウム合金膜は、これらの金属元素を2種類以上含んでもよい。アルミニウム合金膜は、例えば、DCマグネトロンスパッタ法で形成される。アルミニウム合金膜の厚さも約500nm以上約1500nm以下の範囲にあることが好ましく、例えば、約1μmである。
【0062】
次に、
図2(b)に示すように、アルミニウム膜18の表面18sを陽極酸化することによって、複数の凹部(細孔)14pを有するポーラスアルミナ層14を形成する。ポーラスアルミナ層14は、凹部14pを有するポーラス層と、バリア層(凹部(細孔)14pの底部)とを有している。隣接する凹部14pの間隔(中心間距離)は、バリア層の厚さのほぼ2倍に相当し、陽極酸化時の電圧にほぼ比例することが知られている。この関係は、
図2(e)に示す最終的なポーラスアルミナ層14についても成立する。
【0063】
ポーラスアルミナ層14は、例えば、酸性の電解液中で表面18sを陽極酸化することによって形成される。ポーラスアルミナ層14を形成する工程で用いられる電解液は、例えば、蓚酸、酒石酸、燐酸、硫酸、クロム酸、クエン酸、リンゴ酸からなる群から選択される酸を含む水溶液である。例えば、アルミニウム膜18の表面18sを、蓚酸水溶液(濃度0.3mass%、液温10℃)を用いて、印加電圧80Vで55秒間陽極酸化を行うことにより、ポーラスアルミナ層14を形成する。
【0064】
次に、
図2(c)に示すように、ポーラスアルミナ層14をアルミナのエッチャントに接触させることによって所定の量だけエッチングすることにより凹部14pの開口部を拡大する。エッチング液の種類・濃度、およびエッチング時間を調整することによって、エッチング量(すなわち、凹部14pの大きさおよび深さ)を制御することができる。エッチング液としては、例えば10mass%の燐酸や、蟻酸、酢酸、クエン酸などの有機酸や硫酸の水溶液やクロム酸燐酸混合水溶液を用いることができる。例えば、燐酸水溶液(10mass%、30℃)を用いて20分間エッチングを行う。
【0065】
次に、
図2(d)に示すように、再び、アルミニウム膜18を部分的に陽極酸化することにより、凹部14pを深さ方向に成長させるとともにポーラスアルミナ層14を厚くする。ここで凹部14pの成長は、既に形成されている凹部14pの底部から始まるので、凹部14pの側面は階段状になる。
【0066】
さらにこの後、必要に応じて、ポーラスアルミナ層14をアルミナのエッチャントに接触させることによってさらにエッチングすることにより凹部14pの孔径をさらに拡大する。エッチング液としては、ここでも上述したエッチング液を用いることが好ましく、現実的には、同じエッチング浴を用いればよい。
【0067】
このように、上述した陽極酸化工程およびエッチング工程を交互に複数回(例えば5回:陽極酸化を5回とエッチングを4回)繰り返すことによって、
図2(e)に示すように、反転されたモスアイ構造を有するポーラスアルミナ層14を有するモスアイ用型100Aが得られる。陽極酸化工程で終わることによって、凹部14pの底部を点にできる。すなわち、先端が尖った凸部を形成することができる型が得られる。
【0068】
図2(e)に示すポーラスアルミナ層14(厚さt
p)は、ポーラス層(厚さは凹部14pの深さD
dに相当)とバリア層(厚さt
b)とを有する。ポーラスアルミナ層14は、合成高分子膜34Aが有するモスアイ構造を反転した構造を有するので、その大きさを特徴づける対応するパラメータに同じ記号を用いることがある。
【0069】
ポーラスアルミナ層14が有する凹部14pは、例えば円錐形であり、階段状の側面を有してもよい。凹部14pの二次元的な大きさ(表面の法線方向から見たときの凹部の面積円相当径)D
pは20nm超500nm未満で、深さD
dは50nm以上1000nm(1μm)未満程度であることが好ましい。また、凹部14pの底部は尖っている(最底部は点になっている)ことが好ましい。凹部14pは密に充填されている場合、ポーラスアルミナ層14の法線方向から見たときの凹部14pの形状を円と仮定すると、隣接する円は互いに重なり合い、隣接する凹部14pの間に鞍部が形成される。なお、略円錐形の凹部14pが鞍部を形成するように隣接しているときは、凹部14pの二次元的な大きさD
pは隣接間距離D
intと等しい。ポーラスアルミナ層14の厚さt
pは、例えば、約1μm以下である。
【0070】
なお、
図2(e)に示すポーラスアルミナ層14の下には、アルミニウム膜18のうち、陽極酸化されなかったアルミニウム残存層18rが存在している。必要に応じて、アルミニウム残存層18rが存在しないように、アルミニウム膜18を実質的に完全に陽極酸化してもよい。例えば、無機材料層16が薄い場合には、アルミニウム基材12側から容易に電流を供給することができる。
【0071】
ここで例示したモスアイ用型の製造方法は、特許文献2〜4に記載の反射防止膜を作製するための型を製造することができる。高精細な表示パネルに用いられる反射防止膜には、高い均一性が要求されるので、上記のようにアルミニウム基材の材料の選択、アルミニウム基材の鏡面加工、アルミニウム膜の純度や成分の制御を行うことが好ましいが、殺菌作用に高い均一性は求められないので、上記の型の製造方法を簡略化することができる。例えば、アルミニウム基材の表面を直接、陽極酸化してもよい。また、このときアルミニウム基材に含まれる不純物の影響でピットが形成されても、最終的に得られる合成高分子膜34Aのモスアイ構造に局所的な構造の乱れが生じるだけで、殺菌作用に与える影響はほとんどないと考えられる。
【0072】
また、上述の型の製造方法によると、反射防止膜の作製に好適な、凹部の配列の規則性が低い型を製造することができる。モスアイ構造の殺菌性を利用する場合には、凸部の配列の規則性は影響しないと考えられる。規則的に配列された凸部を有するモスアイ構造を形成するための型は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0073】
例えば厚さが約10μmのポーラスアルミナ層を形成した後、生成されたポーラスアルミナ層をエッチングにより除去してから、上述のポーラスアルミナ層を生成する条件で陽極酸化を行えばよい。厚さが10μmのポーラスアルミナ層は、陽極酸化時間を長くすることによって形成される。このように比較的厚いポーラスアルミナ層を生成し、このポーラスアルミナ層を除去すると、アルミニウム膜またはアルミニウム基材の表面に存在するグレインによる凹凸や加工ひずみの影響を受けることなく、規則的に配列された凹部を有するポーラスアルミナ層を形成することができる。なお、ポーラスアルミナ層の除去には、クロム酸と燐酸との混合液を用いることが好ましい。長時間にわたるエッチングを行うとガルバニック腐食が発生することがあるが、クロム酸と燐酸との混合液はガルバニック腐食を抑制する効果がある。
【0074】
図1(b)に示した合成高分子膜34Bを形成するためのモスアイ用型も、基本的に、上述した陽極酸化工程とエッチング工程とを組み合わせることによって製造することができる。
図3(a)〜(c)を参照して、合成高分子膜34Bを形成するための、モスアイ用型100Bの製造方法を説明する。
【0075】
まず、
図2(a)および(b)を参照して説明したのと同様に、型基材10を用意し、アルミニウム膜18の表面18sを陽極酸化することによって、複数の凹部(細孔)14pを有するポーラスアルミナ層14を形成する。
【0076】
次に、
図3(a)に示すように、ポーラスアルミナ層14をアルミナのエッチャントに接触させることによって所定の量だけエッチングすることにより凹部14pの開口部を拡大する。このとき、
図2(c)を参照して説明したエッチング工程よりも、エッチング量を少なくする。すなわち、凹部14pの開口部の大きさを小さくする。例えば、燐酸水溶液(10mass%、30℃)を用いて10分間エッチングを行う。
【0077】
次に、
図3(b)に示すように、再び、アルミニウム膜18を部分的に陽極酸化することにより、凹部14pを深さ方向に成長させるとともにポーラスアルミナ層14を厚くする。このとき、
図2(d)を参照して説明した陽極酸化工程よりも、凹部14pを深く成長させる。例えば、蓚酸水溶液(濃度0.3mass%、液温10℃)を用いて、印加電圧80Vで165秒間陽極酸化を行う(
図2(d)では55秒間)。
【0078】
その後、
図2(e)を参照して説明したのと同様に、エッチング工程および陽極酸化工程を交互に複数回くり返す。例えば、エッチング工程を3回、陽極酸化工程を3回、交互に繰り返すことによって、
図3(c)に示すように、反転されたモスアイ構造を有するポーラスアルミナ層14を有するモスアイ用型100Bが得られる。このとき、凹部14pの二次元的な大きさD
pは隣接間距離D
intより小さい(D
p<D
int)。
【0079】
微生物の大きさはその種類によって異なる。例えば緑膿菌の大きさは約1μmであるが、細菌には、数100nm〜約5μmの大きさのものがあり、真菌は数μm以上である。例えば、2次元的な大きさが約200nmの凸部は、約0.5μm以上の大きさの微生物に対しては殺菌作用を有すると考えられるが、数100nmの大きさの細菌に対しては、凸部が大きすぎるために十分な殺菌作用を発現しない可能性がある。また、ウィルスの大きさは数10nm〜数100nmであり、100nm以下のものも多い。なお、ウィルスは細胞膜を有しないが、ウィルス核酸を取り囲むカプシドと呼ばれるタンパク質の殻を有している。ウィルスは、この殻の外側に膜状のエンベロープを有するウィルスと、エンベロープを有しないウィルスとに分けられる。エンベロープを有するウィルスにおいては、エンベロープは主として脂質からなるので、エンベロープに対して凸部が同様に作用すると考えられる。エンベロープを有するウィルスとして、例えば、インフルエンザウィルスやエボラウィルスが挙げられる。エンベロープを有しないウィルスにおいては、このカプシドと呼ばれるタンパク質の殻に対して凸部が同様に作用すると考えられる。凸部が窒素元素を有すると、アミノ酸から構成されるタンパク質との親和性が強くなり得る。
【0080】
そこで、数100nm以下の微生物に対しても殺菌作用を発現し得る凸部を有する合成高分子膜の構造およびその製造方法を以下に説明する。
【0081】
以下では、上記で例示した合成高分子膜が有する、2次元的な大きさが20nm超500nm未満の範囲にある凸部を第1の凸部という。また、第1の凸部に重畳して形成された凸部を第2の凸部といい、第2の凸部の2次元的な大きさは、第1の凸部の2次元的な大きさよりも小さく、かつ、100nmを超えない。なお、第1の凸部の2次元的な大きさが100nm未満、特に50nm未満の場合には、第2の凸部を設ける必要はない。また、第1の凸部に対応する型の凹部を第1の凹部といい、第2の凸部に対応する型の凹部を第2の凹部という。
【0082】
上述の陽極酸化工程とエッチング工程とを交互に行うことによって、所定の大きさおよび形状の第1の凹部を形成する方法をそのまま適用しても、第2の凹部を形成することができない。
【0083】
図4(a)にアルミニウム基材(
図2中の参照符号12)の表面のSEM像を示し、
図4(b)にアルミニウム膜(
図2中の参照符号18)の表面のSEM像を示し、
図4(c)にアルミニウム膜(
図2中の参照符号18)の断面のSEM像を示す。これらのSEM像からわかるように、アルミニウム基材の表面およびアルミニウム膜の表面に、グレイン(結晶粒)が存在している。アルミニウム膜のグレインは、アルミニウム膜の表面に凹凸を形成している。この表面の凹凸は、陽極酸化時の凹部の形成に影響を与えるので、D
pまたはD
intが100nmよりも小さい第2の凹部の形成を妨げる。
【0084】
そこで、本発明の実施形態による合成高分子膜の製造に用いられる型を製造する方法は、(a)アルミニウム基材または支持体の上に堆積されたアルミニウム膜を用意する工程と、(b)アルミニウム基材またはアルミニウム膜の表面を電解液に接触させた状態で、第1のレベルの電圧を印加することによって、第1の凹部を有するポーラスアルミナ層を形成する陽極酸化工程と、(c)工程(b)の後に、ポーラスアルミナ層をエッチング液に接触させることによって、第1の凹部を拡大させるエッチング工程と、(d)工程(c)の後に、ポーラスアルミナ層を電解液に接触させた状態で、第1のレベルよりも低い第2のレベルの電圧を印加することによって、第1の凹部内に、第2の凹部を形成する工程とを包含する。例えば、第1のレベルは、40V超であり、第2のレベルは、20V以下である。
【0085】
すなわち、第1のレベルの電圧での陽極酸化工程で、アルミニウム基材またはアルミニウム膜のグレインの影響を受けない大きさを有する第1の凹部を形成し、その後、エッチングによってバリア層の厚さを小さくしてから、第1のレベルよりも低い第2のレベルの電圧での陽極酸化工程で、第1の凹部内に第2の凹部を形成する。このような方法で、第2の凹部を形成すると、グレインによる影響が排除される。
【0086】
図5を参照して、第1の凹部14paと、第1の凹部14pa内に形成された第2の凹部14pbとを有する型を説明する。
図5(a)は型のポーラスアルミナ層の模式的な平面図であり、
図5(b)は模式的な断面図であり、
図5(c)は試作した型のSEM像を示す。
【0087】
図5(a)および(b)に示すように、本実施形態による型の表面は、2次元的な大きさは20nm超500nm未満の範囲内にある複数の第1の凹部14paと、複数の第1の凹部14paに重畳して形成された複数の第2の凹部14pbをさらに有している。複数の第2の凹部14pbの2次元的な大きさは、複数の第1の凹部14paの2次元的な大きさよりも小さく、かつ、100nmを超えない。第2の凹部14pbの高さは、例えば、20nm超100nm以下である。第2の凹部14pbも、第1の凹部14paと同様に、略円錐形の部分を含むことが好ましい。
【0088】
図5(c)に示すポーラスアルミナ層は、以下の様にして製造した。
【0089】
アルミニウム膜として、Tiを1mass%含むアルミニウム膜を用いた。陽極酸化液には蓚酸水溶液(濃度0.3mass%、温度10℃)を使用して、エッチング液には、燐酸水溶液(濃度10mass%、温度30℃)を使用した。電圧80Vにおける陽極酸化を52秒間行った後、エッチングを25分間、続いて、電圧80Vにおける陽極酸化を52秒間、エッチング25分間を行った。この後、20Vにおける陽極酸化を52秒間、エッチングを5分間、さらに、20Vにおける陽極酸化を52秒間行った。
【0090】
図5(c)からわかるように、D
pが約200nmの第1の凹部の中に、D
pが約50nmの第2の凹部が形成されている。上記の製造方法において、第1のレベルの電圧を80Vから45Vに変更して、ポーラスアルミナ層を形成したところ、D
pが約100nmの
第1の凹部の中に、D
pが約50nmの第2の凹部が形成された。
【0091】
このような型を用いて合成高分子膜を作製すると、
図5(a)および(b)に示した第1の凹部14paおよび第2の凹部14pbの構造を反転した凸部を有する合成高分子膜が得られる。すなわち、複数の第1の凸部に重畳して形成された複数の第2の凸部をさらに有する合成高分子膜が得られる。
【0092】
このように第1の凸部と、第1の凸部に重畳して形成された第2の凸部を有する合成高分子膜は、100nm程度の比較的小さな微生物から、5μm以上の比較的大きな微生物に対して殺菌作用を有し得る。
【0093】
もちろん、対象とする微生物の大きさに応じて、2次元的な大きさが20nm超100nm未満の範囲内にある凹部だけを形成してもよい。このような凸部を形成するための型は、例えば、以下の様にして作製することができる。
【0094】
酒石酸アンモニウム水溶液などの中性塩水溶液(ホウ酸アンモニウム、クエン酸アンモニウムなど)や、イオン解離度の小さい有機酸(マレイン酸、マロン酸、フタル酸、クエン酸、酒石酸など)を用いて陽極酸化を行い、バリア型陽極酸化膜を形成し、バリア型陽極酸化膜をエッチングによって除去した後、所定の電圧(上記の第2のレベルの電圧)で陽極酸化することによって、2次元的な大きさが20nm超100nm未満の範囲内にある凹部を形成することができる。
【0095】
例えば、アルミニウム膜として、Tiを1mass%含むアルミニウム膜を用い、酒石酸水溶液(濃度0.1mol/L、温度23℃)を用いて、100Vにおいて2分間、陽極酸化を行うことによってバリア型陽極酸化膜を形成する。この後、燐酸水溶液(濃度10mass%、温度30℃)を用いて25分間、エッチングすることによって、バリア型陽極酸化膜を除去する。その後、上記と同様に、陽極酸化液には蓚酸水溶液(濃度0.3mass%、温度10℃)を使用し、20Vにおける陽極酸化を52秒間、上記エッチング液を用いたエッチングを5分間、交互に、陽極酸化を5回、エッチングを4回繰り返すことによって、2次元的な大きさが約50nmの凹部を均一に形成することができる。
【0096】
上述のようにして、種々のモスアイ構造を形成することができるモスアイ用型を製造することができる。
【0097】
次に、
図6を参照して、モスアイ用型100を用いた合成高分子膜の製造方法を説明する。
図6は、ロール・ツー・ロール方式により合成高分子膜を製造する方法を説明するための模式的な断面図である。以下では、上記のロール型を用い、被加工物としてのベースフィルムの表面に合成高分子膜を製造する方法を説明するが、本発明の実施形態による合成高分子膜を製造する方法は、これに限られず、他の形状の形を用いて種々の被加工物の表面上に合成高分子膜を製造することができる。
【0098】
まず、円筒状のモスアイ用型100を用意する。なお、円筒状のモスアイ用型100は、例えば
図2を参照して説明した製造方法で製造される。
【0099】
図6に示すように、紫外線硬化樹脂34'が表面に付与されたベースフィルム42を、モスアイ用型100に押し付けた状態で、紫外線硬化樹脂34'に紫外線(UV)を照射することによって紫外線硬化樹脂34'を硬化する。紫外線硬化樹脂34'としては、例えばアクリル系樹脂を用いることができる。ベースフィルム42は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムまたはTAC(トリアセチルセルロース)フィルムである。ベースフィルム42は、図示しない巻き出しローラから巻き出され、その後、表面に、例えばスリットコータ等により紫外線硬化樹脂34'が付与される。ベースフィルム
42は、
図6に示すように、支持ローラ46および48によって支持されている。支持ローラ46および48は、回転機構を有し、ベースフィルム42を搬送する。また、円筒状のモスアイ用型100は、ベースフィルム42の搬送速度に対応する回転速度で、
図6に矢印で示す方向に回転される。
【0100】
その後、ベースフィルム42からモスアイ用型100を分離することによって、モスアイ用型100の反転されたモスアイ構造が転写された合成高分子膜34がベースフィルム42の表面に形成される。表面に合成高分子膜34が形成されたベースフィルム42は、図示しない巻き取りローラにより巻き取られる。
【0101】
合成高分子膜34の表面は、モスアイ用型100のナノ表面構造を反転したモスアイ構造を有する。用いるモスアイ用型100のナノ表面構造に応じて、
図1(a)および(b)に示した合成高分子膜34Aおよび34Bを作製することができる。合成高分子膜34を形成する材料は、紫外線硬化性樹脂に限られず、可視光で硬化可能な光硬化性樹脂を用いることもできる。
【0102】
表面にモスアイ構造を有する合成高分子膜の殺菌性は、合成高分子膜の物理的構造のみならず、合成高分子膜の化学的性質とも相関関係を有する。例えば、本願出願人は、化学的な性質として、合成高分子膜の表面の接触角(特許文献5)、表面に含まれる窒素元素の濃度(特許文献6)、窒素元素の濃度に加えさらにエチレンオキサイド単位(−CH
2CH
2O−)の含有率(特許文献7)との相関関係を見出した。
【0103】
図7に上記特許文献6(
図8)に示されているSEM像を示す。
図7(a)および(b)は、
図1(a)に示したモスアイ構造を有する表面で死に至った緑膿菌をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察したSEM像を示す図である。
【0104】
これらのSEM像を見ると、凸部の先端部分が緑膿菌の細胞壁(外膜)内に侵入している様子が見て取れる。また、
図7(a)および
図7(b)を見ると、凸部が細胞壁を突き破ったように見えず、凸部が細胞壁に取り込まれたかのように見える。これは、非特許文献1のSupplemental Informationにおいて示唆されているメカニズムで説明されるかもしれない。すなわち、グラム陰性菌の外膜(脂質二重膜)が凸部と近接して変形することによって、脂質二重膜が局所的に1次の相転移に似た転移(自発的な再配向)を起こし、凸部に近接する部分に開口が形成され、この開口に凸部が侵入したのかもしれない。あるいは、細胞が有する、極性を有する物質(栄養源を含む)を取り込む機構(エンドサイトーシス)によって、凸部が取り込まれたのかもしれない。
【0105】
さらに、本出願人は、特願2017−226887号に記載されているように、合成高分子膜が有機カルボン酸を含んでいる場合、モスアイ構造を有する表面による殺菌性が向上させられることを見出した。有機カルボン酸は、合成高分子膜に含まれていればよく、光硬化性樹脂が、光分解によって有機カルボン酸を生成してもよい。光分解によって有機カルボン酸を生成する化合物は、開始剤(光重合開始剤)であってもよいし、開始剤として機能しない化合物(「光酸発生剤」ということにする。)であってもよい。光硬化性樹脂として、ラジカル重合性の光硬化性樹脂を用いる場合、ラジカルを発生せず、有機カルボン酸を生成する、光酸発生剤を用いればよい。参考のために特願2017−226887号の開示内容のすべてを本明細書に援用する。
【0106】
有機カルボン酸は、殺菌性(または抗菌性)を有しており、例えば、食品の保存料として用いられている。有機カルボン酸は、種々のメカニズムで、殺菌性(抗菌性)を発現すると考えられている。メカニズムには、(1)周囲のpHを低下させることによるもの、および(2)非解離の酸が細胞膜を通過し、細胞内のpHを低下させることによるものがある。メカニズム(2)は、弱酸(解離定数が小さい)ほど寄与が大きくなる。例えば、Rosa M. Raybaudi-Massilia他、"Control of Pathogenic and Spoilage Microorganisms in Fresh-cut Fruits and Fruit Juices by Traditional and Alternative Natural Antimicrobials", COMPREHENSIVE REVIEWS IN FOOD SCIENCE AND FOOD SAFETY, Vol.8, pp.157-180,2009(特にp.162)を参照。
【0107】
本出願人による上記の特願2017−226887号に記載されているように、合成高分子膜の表面に滴下した水が早く濡れ広がることが殺菌性に有利に作用することが見出された。すなわち、水が広がる程度(面積円相当径)が大きいことが好ましい。この過程で、水に抽出された酸によって、水溶液(水滴)のpHが比較的短時間で低下する(酸性になる)。このpHの低下による殺菌作用が効果的に働く。殺菌性の観点からは、例えば、合成高分子膜の表面に200μLの水を滴下後5分後の水溶液の面積円相当径が20mm以上であることが好ましい。また、滴下後5分後の水溶液のpHは5以下であることが好ましい。滴下後5分後の水溶液のpHが5以下であると、解離してない有機カルボン酸が細胞内に取り込まれることによる殺菌作用が効果的に働く。
【0108】
本発明者は、例えば食品を取り扱う用途に好適に用いられる合成高分子膜を検討した。本発明の実施形態による合成高分子膜は、食品に使用することが法令で認められている、抗菌効果を有する抗菌性添加物を有する。このような抗菌性添加物は、例えば、有機カルボン酸である。有機カルボン酸は、上記メカニズムによって殺菌性(または抗菌性)を発現する。有機カルボン酸に限られず、抗菌効果を有することが知られている物質(例えばカラシ抽出物、防カビ剤等)であって、食品に使用することが法令で認められている物質を用いることができる。
【0109】
日本においては、食品に使用することが認められているのは以下の4種類の添加物である。なお、「添加物」は、食品衛生法で「食品の製造の過程において又は食品の加工若しくは保存の目的で、食品に添加、混和、浸潤その他の方法によつて使用する物をいう。」(第4条第2項)と定義されている。
【0110】
(1)指定添加物:食品衛生法第10条に基づいて、厚生労働大臣の指定を受けた添加物である。指定添加物は、食品衛生法施行規則別表1(「指定添加物リスト」ということがある。)に記載されている。
【0111】
(2)既存添加物:食品衛生法改正当時(平成7年)に既に我が国において広く使用されている添加物であり、化学的合成品および天然物を含む。既存添加物は、食品衛生法及び栄養改善法の一部を改正する法律(平成7年法律第101号)附則第2条第4項に規定する「既存添加物名簿」(「既存添加物リスト」ということがある。)に記載されている。
【0112】
(3)天然香料:動植物から得られる天然の物質で、食品に香りを付ける目的で使用される添加物である(食品衛生法第4条第3項)。天然香料は、例えば、平成22年10月20日 消食表第377号 消費者庁次長通知「食品衛生法に基づく添加物の表示等について」別添2(「天然香料リスト」ということがある。)に記載されている。
【0113】
(4)一般飲食物添加物:一般に飲食に供されているもので添加物として使用されるものである。一般飲食物添加物は、例えば、平成22年10月20日 消食表第377号 消費者庁次長通知「食品衛生法に基づく添加物の表示等について」別添3(「一般飲食物添加物リスト」ということがある。)に記載されている。
【0114】
[合成高分子膜]
参考例1〜7、本発明の実施形態による実施例1〜12、および比較例1〜3の各試料フィルムを作製した。各試料フィルム(参考例1を除く。)は、ベースフィルムと、ベースフィルム上に形成された合成高分子膜とを有する。参考例1は、厚さが50μmのPETフィルム(東洋紡株式会社製の「A4300」)である。各試料フィルムの合成高分子膜を形成する紫外線硬化性樹脂に使用した原材料を表1に示す。
【0116】
各試料フィルムの合成高分子膜の組成を表2および表3に示す。なお、表2中の参考例2〜6、表3中の実施例5〜10および比較例2、3は、水を加えた樹脂組成物を用いた。水は合成高分子膜にほとんど残らないと考えられるので、表2および表3の組成には含めていない。水の添加量は、いずれの場合も、48.5gのアクリルモノマーM280に対して5gとした。例えば、参考例2〜6について、水を含む組成物の全体を100%として組成を表すと、M280:45.3%、M282:45.3%、ACMO:2.8%、重合開始剤:1.9%、水:4.7%である。水は、和光純薬工業株式会社製の蒸留水(販売元コード;041-16786)を用いた。
【0117】
ベースフィルム42としては、厚さが50μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(東洋紡株式会社製の「A4300」)、厚さが80μmのTAC(トリアセチルセルロース)フィルム(富士フイルム株式会社製の「TAC−TD80U」)、または、厚さが110μmのPC(ポリカーボネート)フィルム(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製の「ユーピロンKS3410UR」)を用いた(ユーピロンは登録商標)。
【0118】
各試料フィルムは、
図6を参照して説明したのと同様の方法で、型試料として、以下で説明する型試料Aまたは型試料Bを用いて作製した。ただし、比較例
1の試料フィルムは、型試料としてガラス板を用いて形成した。いずれの場合も、露光量は約200mJ/c
m
2(波長が375nmの光を基準)とし、無溶剤で合成高分子膜を作製した。紫外線照
射には、Fusion UV Systems社製のUVランプ(製品名:LIGHT HANMAR6J6P3)を用いた。
【0119】
型試料Aは、モスアイ用型100Aと同様の構造を有する。モスアイ用型は、ガラス基板(約5cm×約5cm)上にアルミニウム膜(厚さ:約1μm)を形成し、このアルミニウム膜に陽極酸化とエッチングとを交互に繰り返すことによって、ポーラスアルミナ層(D
pは約200nm、D
intは約200nm、D
hは約150nm)を形成した。型試料Aを用いて作製した試料フィルム(参考例2〜6、実施例1〜9および比較例2、3)は、
図1(a)に示したフィルム50Aと同様の構造を有する。すなわち、表面にモスアイ構造を有する合成高分子膜34Aを有し、各試料フィルムにおけるD
pは約200nm、D
intは約200nm、D
hは約150nmであった。
【0120】
型試料Bは、
図8(a)を参照して後述する型100Cと同様の構造を有する。型試料Bを用いて作製した試料フィルム(参考例7および実施例10〜12)は、
図8(c)を参照して後述するフィルム50Cと同様の構造を有する。すなわち、表面に複数の凹部34Cdを有する合成高分子膜34Cを有し、各試料フィルムにおける複数の凹部34Cdの2次元的な大きさは740nmであった。
【0121】
ベースフィルム42AとしてPCフィルムを用いた場合(実施例11、12および参考例7)は、型試料をヒートステージ上で40℃に加熱した状態で、各組成の紫外線硬化性樹脂を型試料に付与した。紫外線硬化性樹脂が付与された型試料の上に、PCフィルムを配置し、ハンドローラーで均一に押し当てた。次に、PCフィルム側から紫外線を照射し、紫外線硬化性樹脂を硬化させることによって、PCフィルム上に合成高分子膜を有する試料フィルムを得た。PCフィルム上に合成高分子膜を作製する工程を転写工程ということがあり、そのときの温度(40℃)を転写温度ということがある。
【0124】
ここで、型試料Bおよび型試料Bを用いて作製した試料フィルム(参考例7および実施例10〜12)の構造を、
図8(a)〜(c)を参照して説明する。
図8(a)は、本発明の実施形態による合成高分子膜34Cを形成するための型100Cの模式的な断面図であり、
図8(b)は、型100Cを用いて合成高分子膜34Cを製造する方法を説明するための模式的な断面図であり、
図8(c)は、合成高分子膜34Cを有するフィルム50Cの模式的な断面図である。フィルム50Aと共通の特徴には共通の参照符号を付し、説明を省略することがある。
【0125】
まず、
図8(a)を参照して、型100Cおよびその製造方法を説明する。
【0126】
図8(a)に示すように、基材12上にアルミニウム層18pを形成することによって、型100Cを得る。基材12の材質は、例えば、ガラス、セラミック、プラスティックなどの耐酸性を有する絶縁物であってもよい。また、基材12は、例えば、アルミニウム材であってもよい。あるいは、例えばアルミニウムでない金属上に絶縁物を付与したものであってもよい。基材12の表面は、例えば、平面、曲面、ロール面のいずれかであってよい。アルミニウム層18pの表面18psには、結晶粒径の平均値が、0.5μm以上3μm以下である複数の結晶粒18paが存在する。
図8(a)に、アルミニウム層18pの表面18psに存在する結晶粒界18pbを模式的に示す。アルミニウム層18pは、例えば、スパッタリング法や電子線蒸着法などの真空成膜法を用いて形成することができる。型100Cの表面には、結晶粒18paに対応した複数の凸部が形成されており、隣接する凸部の間は結晶粒界18pbに対応している。図示する例では、隣接する凸部の間には、平坦な部分は形成されていない。型100Cは、2次元的な大きさが0.5μm以上3μm以下である複数の凸部を含む凹凸構造を表面に有する。型100Cは、表面にアルミニウム層18pを有し、アルミニウム層18pの表面に上記の凹凸構造が形成されている。
【0127】
アルミニウム層18pは、例えば高純度アルミニウム層である。高純度アルミニウム層18pは、例えば、純度が99.99質量%以上のアルミニウムで形成されている。高純度アルミニウム層18pの厚さは、例えば2μm以上6μm以下である。
【0128】
アルミニウム層18pは、例えば、アルミニウム(Al)とチタン(Ti)とを含むアルミニウム合金層であってもよい。アルミニウム合金層18p中のTiの含有率は、例えば0.01質量%以上1質量%以下である。アルミニウム合金層18pの厚さは、例えば4μm以上6μm以下である。アルミニウム合金層18pの厚さが4μmに満たないと、所望の大きさの結晶粒が形成されないことがあった。
【0129】
型100Cは、アルミニウム層18pの下に無機下地層(不図示)をさらに有してもよい。無機下地層は、例えば無機酸化物または無機窒化物で形成することができ、例えば、酸化シリコン層、酸化タンタル層、酸化チタン層、またはAZO(アルミニウムを添加した酸化亜鉛)層である。無機下地層の厚さは、例えば50nm以上300nm以下である。
【0130】
本出願人による国際公開第2011/052652号によると、基板(例えばガラス基板)上に形成するアルミニウム膜の成膜条件を調整することにより、アルミニウム膜の表面に存在する複数の結晶粒の結晶粒径を調整することができる。例えば、0.5μm以上5μm以下の厚さのアルミニウム膜を形成するときに成膜条件を調整することにより、結晶粒径の平均値が200nm以上5μm以下である複数の結晶粒が表面に存在するアルミニウム膜を形成できる。また、本出願人による国際公開第2016/084745号に記載されているように、AlとTiとを含むアルミニウム合金層の組成および/または成膜条件(例えばアルミニウム合金層の厚さ)を調整することにより、アルミニウム合金層の表面に存在する複数の結晶粒の結晶粒径を調整することができる。このようなアルミニウム合金層またはアルミニウム膜に対して、陽極酸化とエッチングとを交互に行うことにより得られたポーラスアルミナ層を型として用いると、アンチグレア機能を発現する反射防止膜を形成することができる。ただし、本発明の実施形態による型100Cは、高純度アルミニウム層に対して陽極酸化およびエッチングを施さずに得たものである。国際公開第2011/052652号および国際公開第2016/084745号の開示内容の全てを参考のために本明細書に援用する。
【0131】
アルミニウム層(高純度アルミニウム層またはアルミニウム合金層)18pの成膜条件を調整する以外の方法で、型100Cの表面の凹凸構造の形状を変化させることもできる
。例えば、アルミニウム層18pの下に無機下地層を形成することによって、アルミニウム層18pの表面に無機下地層の表面形状を反映させることができる。さらに、無機下地層の表面をエッチャントに接触させることによって、無機下地層の表面の凹凸構造の深さ(高さ)を大きくしてもよい。あるいは、アルミニウム層18pの表面をエッチャントに接触させることによって、アルミニウム層18pの表面の凹凸構造の深さ(高さ)を大きくすることもできる。例えば、燐酸水溶液(10質量%、30℃)を用いて50分間以上エッチングを行う。これらの方法を併用してももちろんよい。このように、アルミニウム層18pの成膜条件以外の方法で、型100Cの表面の凹凸構造の形状を調整する場合、アルミニウム層18pの厚さは、上述した範囲よりも小さくてもよい。例えば、高純度アルミニウム層18pの厚さは、1μm以上2μm未満であってもよく、アルミニウム合金層18pの厚さは、1μm以上4μm未満であってもよい。アルミニウム層(高純度アルミニウム層またはアルミニウム合金層)18pの厚さが大きいと、結晶粒界18pbが深くなるので、転写性に劣る場合がある。アルミニウム層18pの下に無機下地層を形成すると、アルミニウム層18pの厚さを小さくすることができるので、優れた転写性が得られるという利点が得られ得る。
【0132】
アルミニウム層18pは、高純度アルミニウム層とアルミニウム合金層との積層構造を有していてもよい。このとき、高純度アルミニウム層の厚さは1μm以上であることが好ましい。また、型100Cは、型100Cの表面に高純度アルミニウム層を有することが好ましい。すなわち、アルミニウム合金層の上に高純度アルミニウム層が形成されていることが好ましい。
【0133】
型100Cを用いて、
図6を参照して説明したのと同様にして、合成高分子膜を製造することができる。
図8(b)に示す様に、被加工物42の表面と、型100Cとの間に、紫外線硬化樹脂34’を付与した状態で、型100Cを介して紫外線硬化樹脂34’に紫外線(UV)を照射することによって紫外線硬化樹脂34’を硬化する。紫外線硬化樹脂34’は、被加工物42の表面に付与しておいてもよいし、型100Cの型面(凹凸構造を有する面)に付与しておいてもよい。紫外線硬化樹脂としては、例えばアクリル系樹脂を用いることができる。
【0134】
その後、被加工物42から型100Cを分離することによって、
図8(c)に示す様に、型100Cの凹凸構造(複数の凸部により構成される凹凸構造)が転写された紫外線硬化樹脂34’の硬化物層が被加工物42の表面に形成される。こうして、2次元的な大きさが500nm以上1μm以下である複数の凸部18paにより構成される凹凸構造が反転された凹凸構造を有する合成高分子膜34Cが得られる。フィルム50Cは、ベースフィルム42と、ベースフィルム42上に形成された合成高分子膜34Cとを有している。合成高分子膜34Cは、表面に複数の凹部34Cdを有している。合成高分子膜34Cの法線方向から見たとき、凹部34Cdの2次元的な大きさは500nm以上1μm以下の範囲内にある。凹部34Cdは、結晶粒界18pbに対応する凸部34Cbによって画定されている。合成高分子膜34Cは、例えば、隣接する凹部34Cdの間に、平坦な部分を有しなくてもよい。平坦な部分とは、例えば、最大高さが10nm未満である部分をいう。
【0135】
型試料Bは、ガラス基板(5cm×10cm)上に高純度アルミニウム層(厚さ:4μm、アルミニウムの純度:99.99質量%以上)を形成することによって得た。
【0136】
図9(a)に型試料Bの表面のSEM像(10000倍)を示し、
図9(b)に型試料Bの断面のSEM像(30000倍)を示す。
【0137】
図9(a)に示すように、型試料Bは、
図8を参照して説明したように、結晶粒に対応する凸部を有し、結晶粒界に凹部を有していることが分かる。また、型試料Bの表面の凸部は、ランダムに配列されていることも分かる。
【0138】
型試料Bが表面に有する複数の凸部の2次元的な大きさは、表面SEM像から以下のようにして求めた。
図9(a)に示すように、型試料Bの表面SEM像(10000倍)から9μm×12μmの領域を選択した。選択した領域の中から、大部分の結晶粒と比べて不連続的に大きな結晶粒(「異常粒子」ということがある。)を除いて、結晶粒を20個任意に選択し、それらの面積円相当径の平均値を求めた。例えば、
図9(a)のSEM像の右下に複数見える、粒径が特に大きい粒子が異常粒子である。
【0139】
各試料フィルムについて、殺菌性およびフィルム表面特性の評価結果を下記の表4および表5に示す。フィルム表面特性としては、合成高分子膜表面における水滴の濡れ広がりやすさ、水滴のpHの変化、および表面に対する水の静的接触角を評価した。
【0140】
[殺菌性の評価]
試料フィルム上に飛散した菌液(水)に対する殺菌性を評価した。菌液を付与した試料フィルムを室温・大気中に放置した際の殺菌性を評価した。ここでは、黄色ブドウ球菌に対する殺菌性を評価した。具体的な評価方法は以下の通りである。各試料フィルムについて、N=3で実験を行った。
【0141】
各試料フィルムは、予め25℃、RH50%で2週間放置した後、エタノールを含ませたベンコットン(旭化成株式会社製、キュプラ長繊維不織布)で表面を拭取ったものを用いた。
(1)初期菌数が1E+06CFU/mLとなるように、黄色ブドウ球菌を含む菌液を1/500NB培地を用いて調製した。
(2)各試料フィルム(5cm角)の上に、上記菌液10μLを滴下した。
(3)室温(約25℃)、大気中に、15分間、放置した後、SCDLP培地を試料フィルムにかけ流し、菌を洗い出した(洗い出し液)。
(4)洗い出し液を適宜PBSで希釈を行い、標準寒天培地等で培養し、菌数をカウントした。
【0142】
殺菌性は、参考例1の試料フィルムの殺菌性を基準に評価した。上述したように、参考例1の試料フィルムは、厚さが50μmのPETフィルム(東洋紡株式会社製A4300)である。参考例1の試料フィルムについて、上記の手順で菌数をカウントし、参考例1の試料フィルムについて得られた菌数に対する、各試料フィルムの菌数の比率(%)で、各試料フィルムの殺菌性を評価した。具体的には、下記の式に従って、生菌率を求めた。
生菌率(%)=各試料フィルムの菌数(N=3の合計)/参考例1の試料フィルムの菌数(N=3の合計)×100
【0143】
殺菌性の判定基準は、上記のように求めた生菌率に基づいて、◎:0%、〇:0%超10%未満、△:10%以上50%未満、×:50%以上とした。ここでは、生菌率が50%未満であれば使用可とした。
【0144】
[ベースフィルムとの密着性の評価]
合成高分子膜のベースフィルムに対する密着性は、以下の様にして評価した。
【0145】
温度23℃、湿度50%の環境下で、各試料フィルムの合成高分子膜の表面(基材とは反対側の表面)に対して、カッターナイフで、碁盤目状に縦11本、横11本の切り込みを1mm間隔で入れて、100個の正方形状の升目(1mm角)を刻んだ。そして、日東電工社製のポリエステル粘着テープ「No.31B」を升目部分に圧着した後、粘着テープを升目部分の表面に対して90°の方向に、100mm/sの速度で剥がした。その後、基材上の合成高分子膜の剥離状態を目視観察し、基材上の重合体層が剥がれずに残った升目の個数「M」(単位:個)を数えた。
【0146】
[フィルム表面特性の評価]
・合成高分子膜上の水の広がり程度
脱イオン水を0.01mol/L−塩酸および0.011mol/L−水酸化ナトリウムにてpH=7.0±0.1に調整した。すなわち、このようにして、中性の水を用意した。
【0147】
各試料フィルム表面にマイクロピペットにて上記pH調整水を0.2cc(200μL)滴下後、5minまでの最大広がり径(面積円相当径)を測定し、各5回の平均値を用いた。
【0148】
・pH測定
pHの測定は、以下の様にして行った。
【0149】
上記と同様に、各試料フィルム表面にマイクロピペットにて上記pH調整水を0.2cc(200μL)滴下し、5分経過後に、各試料フィルム表面の水溶液(水に合成高分子
膜からの抽出物が溶解したものを含む)を下記の平板用電極にて測定を行い、各5回の平均値を用いた。
【0150】
ただし、水の広がりが20mmに満たない試料フィルムについては、pH測定時に水滴の径が広がってしまうため、下記のサンプリングシートを用いて評価を行った。
電極:株式会社堀場製作所製、pH電極、型番:0040−10D(半導体センサ)
サンプリングシート:株式会社堀場製作所製、サンプリングシートB、型番:Y011A
【0151】
・静的接触角の測定
接触角計(協和界面科学株式会社製、PCA−1)を用いて、各試料フィルムの合成高分子膜の表面に対する、水の静的接触角を測定した。各試料フィルムの合成高分子膜の表面に、水の液滴(およそ10μL )を滴下し、それぞれ、滴下後1秒後、10秒後および60秒後の静的接触角を測定した。θ/2法(θ/2=arctan(h/r)、θ:接触角、r:液滴の半径、h:液滴の高さ)で測定された、3箇所の接触角の平均値を求めた。ここで、1箇所目の測定点としては、各試料フィルムの中央部分を選択し、2箇所目及び3箇所目の測定点としては、1箇所目の測定点から20mm以上離れ、かつ、1箇所目の測定点に対して互いに点対称な位置にある2点を選択した。
【0152】
[酸の同定]
各試料フィルムから水に抽出される酸をGC−MS(ガスクロマトグラフ質量分析計)を用いて以下のようにして同定した。
【0153】
ガラス容器に各試料フィルム100cm
2に対し10mLのTHFを加え50℃×3日間浸漬した後、0.45μmメンブレンフィルターにてろ過を行った。
【0154】
溶出液0.1mLを熱分解用カップ中で濃縮後、メチル化剤Tetramethylammonium Hydroxide水溶液を10μL添加し、メチル化処理を行ったのち下記条件にて測定を行った。
熱分解装置:FRONTIER LAB 社製 EGA/PY−3030D
条件: 400℃/30sec
GC−MS装置: Agilent Technologies 社製 7890A(GC) 5975C(MS)
カラム: FRONTIER LAB 製 UA5HT−30M−0.1F
条件:オーブン 40℃⇒320℃(20℃/min)
カラム流量 1mL/min
スプリット比 100:1
【0157】
まず、表4に示す、参考例2〜6の試料フィルムの評価結果を参照する。
【0158】
参考例2〜6の合成高分子膜は、表2に示したように、硬化性樹脂に含まれる光重合開始剤の種類を変えて作製した。参考例2〜6の試料フィルムは、いずれもベースフィルムとしてPETフィルムを有し、合成高分子膜を形成する硬化性樹脂に含まれる光重合開始剤の種類のみ異なる。
【0159】
表4に示すように、参考例2および3の試料フィルムは、pHが5以下である。参考例2および3の合成高分子膜においては、光重合開始剤が光分解によって有機カルボン酸を生成し、有機カルボン酸が試料フィルム表面の水(水溶液)のpHを低下させる。これにより、参考例2および3は殺菌性を有する。参考例2で用いた重合開始剤819は、光分解によって、2,4,6−トリメチル安息香酸(TMBA)を生成する。参考例3で用いた重合開始剤TPOは、TMBAとジフェニルホスホン酸(DPPA)とを生成する。
【0160】
しかしながら、TMBAおよびDPPAは食品添加物として使用することが認められている物質ではないので、参考例2および3の試料フィルムは、例えば食品用途に適していない場合がある。
【0161】
これに対して、参考例4〜6の試料フィルムは、pHが6.9〜7.1の範囲にあり、試料フィルム表面の水(水溶液)のpHがほぼ変化していないことが分かる。参考例4〜6で用いた重合開始剤OXE02、127、および2959は、光分解によって酸を発生しない。従って、参考例4〜6は、殺菌性を有しない。
【0162】
以下では、光分解によって酸を発生しない重合開始剤OXE02、127および2959を用いて、本発明の実施例1〜12の試料フィルムを作製した。以下に示すように、本発明の実施形態の合成高分子膜において、光分解によって有機カルボン酸を実質的に生成しない光重合開始剤(例えば光重合開始剤OXE02、127または2959)を好適に用いることができる。
【0163】
次に、表5に示す、実施例1〜12、比較例1〜3および参考例7の評価結果を参照する。
【0164】
実施例1〜12は、いずれも、5分後の水溶液のpHが5以下であり、かつ、水が広がる程度が20mm以上であり、良好な殺菌性を有している。実施例1〜12の合成高分子膜は、エチレンオキサイド単位(EO単位)を有するアクリルモノマー(M280および/またはM282)を含む紫外線硬化性樹脂組成物を用いて形成されている。したがって、適度な親水性を有しており、モスアイ構造を有する表面は、超親水性表面となっている。
【0165】
実施例1〜6の合成高分子膜は、いずれも、重合開始剤OXE02を用い、有機カルボン酸としてコハク酸を添加した。コハク酸は、指定添加物として食品に使用することが認められている。実施例1〜6の合成高分子膜は、良好な殺菌性を有する。
【0166】
比較例1は、実施例1と同じ紫外線硬化性樹脂を用い、型試料としてガラス板を用いて形成した。すなわち、比較例1の合成高分子膜は、表面に複数の凸部(モスアイ構造)を有しない。比較例1は殺菌性を有しない。
【0167】
実施例2は、実施例1の組成に、乳化剤として離型剤DL100を添加したものである。離型剤DL100は、表1に示したように、グリセリン脂肪酸エステルを含む。グリセリン脂肪酸エステルは、指定添加物として食品に使用することが認められている。実施例2においては、実施例1よりも水が広がる程度が大きく、かつ、5分後の水溶液のpHが低い。実施例2は、実施例1よりも優れた殺菌性を有している。実施例3および4は、実施例2に比べてコハク酸の含有率が高い。コハク酸の含有率は、実施例4、実施例3、実施例2の順で高い。実施例2〜4の結果から、コハク酸の含有率が高いほど、優れた殺菌性を有することが分かる。
【0168】
実施例2〜4のように、本発明の実施形態による合成高分子膜は、抗菌性添加物(例えば有機カルボン酸)に加えて乳化剤(界面活性剤)を含んでもよい。乳化剤も食品に添加することが法令で認められているものを用いる。合成高分子膜が乳化剤を含むと、合成高分子膜の表面の水溶液が広がり易くなり、合成高分子膜の殺菌性が向上したと考えられる。乳化剤のHLB値は、7以上14以下であることが好ましく、9以上11以下であることがさらに好ましい。乳化剤のHLB値が7未満であると、合成高分子膜の表面の水溶液が広がり難くなり、殺菌性が低下し得る。乳化剤のHLB値が14超であると、有機カルボン酸の水に対する溶解度が高すぎることがあり、殺菌効果が早く低下してしまう。
【0169】
乳化剤は、光硬化性樹脂の全体に対して、概ね0.1質量%以上5質量%以下混合すればよい。0.1質量%未満であると殺菌性を向上させる効果が得られないことがあり、約5質量%を超えると、硬化物(光硬化された樹脂)の物性を低下させる恐れがある。合成高分子膜の殺菌効果をより向上させるためには、約0.5質量%以上が好ましい。硬化物の物性への影響を抑制するためには約3質量%以下が好ましい。
【0170】
実施例5は、実施例4の硬化性樹脂の組成からアクリルモノマー成分を変更し、さらに水を加えた硬化性樹脂を用いた。実施例6は、実施例5に比べてコハク酸の含有率が高い。実施例6は、実施例5よりも優れた殺菌性を有する。
【0171】
硬化性樹脂に水を加えることによって、有機カルボン酸が抽出され易くなり、pHを低下させ、また、表面の親水性が増すことによって、水が広がる程度が増大すると考えられる。
【0172】
紫外線硬化樹脂に水を添加・混合すると、安定性が低下するので、水の添加は、上述した製造方法における光照射工程の直前に行うことが好ましい。水の量は、光硬化性樹脂の全体に対して、1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。1質量%よりも少ないと添加した効果が得られないことがあり、10質量%を超えると、均一な組成物が得られないことがある。
【0173】
比較例2は、実施例5の組成とコハク酸を有しない点において異なる。比較例3は、比較例2の組成に乳化剤(離型剤DL100)を添加したものである。比較例2および3は、いずれも有機カルボン酸を有しないので殺菌性を有しない。
【0174】
実施例7〜9は、実施例6の組成から添加する有機カルボン酸の種類を変更したものである。実施例7はアジピン酸、実施例8はリンゴ酸、実施例9はフィチン酸およびコハク酸をそれぞれ添加した。アジピン酸およびリンゴ酸は指定添加物として、フィチン酸は、既存添加物として、それぞれ食品に使用することが認められている。実施例7〜9は、いずれも優れた殺菌性を有している。
【0175】
実施例10は、実施例9と同じ組成の硬化性樹脂を用いて、型試料Bを用いて作製した。すなわち、実施例10の合成高分子膜は、実施例9の合成高分子膜と表面の凹凸構造において異なる。実施例10においても、実施例9と同様に優れた殺菌性を有している。
【0176】
実施例10の結果から、本発明の実施形態による合成高分子膜が表面に有する複数の凹部が、例えば500nm以上1μm以下の範囲内にあるものは、良好な殺菌性を有している。すなわち、5分後の水溶液のpHが5以下であり、かつ、水が広がる程度も20mm以上であれば、合成高分子膜が表面に有する構造が、複数の凸部であっても複数の凹部であっても良好な殺菌性を有すると考えられる。このとき、複数の凸部または複数の凹部の2次元的な大きさは、20nm超1μm以下の範囲内にあればよいと考えられる。
【0177】
実施例10〜12で用いた型試料Bは、所望の大きさ(例えば、平均粒径が500nm以上1μm以下)の結晶粒を形成するだけで得られるので(すなわちモスアイ用型の様に陽極酸化等を行う必要が無いので)、低コストで製造され得る。また、転写性に優れるという利点も有している。
【0178】
実施例1〜10の試料フィルムは、いずれもベースフィルムとしてTACフィルムを有する。これに対して、実施例11および12の試料フィルムは、ベースフィルムとしてPETフィルムを有する。
【0179】
本出願人による特願2017−176590号に記載されているように、本出願人は、PCフィルムに対する密着性を改善するアクリルモノマーとして、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルモノマーが有効であることを見出した。参考のために特願2017−176590号の開示内容のすべてを本明細書に援用する。例えば、
合成高分子膜の架橋構造における合成高分子膜の全体に対するエチレンオキサイド単位の含有率が35質量%以上70質量%未満であり、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルモノマー単位の含有率が15質量%以上45質量%未満であれば、優れたPC密着性および殺菌性を有し得る。PCは、エンジニアリングプラスチックの中でも平均して高い物性を示す樹脂で、特に、耐衝撃性および耐熱性に優れるので、幅広く利用されている。
【0180】
実施例11および12では、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルとして、株式会社日本触媒製のVEEAを用いた。実施例11は、実施例4の組成から、アクリルモノマー成分にVEEAを追加し、重合開始剤をOXE02から127に変更し、乳化剤(離型剤)をDL100からC250に変更したものである。離型剤C250は、表1に示したように、ソルビタン脂肪酸エステルを含む。ソルビタン脂肪酸エステルは、指定添加物として食品に使用することが認められている。実施例12は、実施例11の組成から、重合開始剤を127から2959に変更したものである。実施例11および12は、いずれも実施例4と同様に優れた殺菌性を有している。さらに、実施例11および12は、いずれもPCフィルムとの密着性に優れている。
【0181】
参考例7は、ベースフィルムとしてPCフィルムを用い、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルモノマーを含まない硬化性樹脂を用いた。参考例7は、PCフィルムとの密着性が悪い。
【0182】
なお、ベースフィルムとしてTACフィルムを用いた実施例1〜10は、いずれもTACフィルムとの密着性に問題はなかった。
【0183】
PCフィルムとしては、実施例に用いたものの他に、旭硝子社製の「カーボグラス(登録商標)」、帝人社製の「ピュアエース(登録商標)」、コベストロ社製の「Makrofol(登録商標)」等を用いることができる。
【0184】
上記では、ベースフィルムとしてポリカーボネートフィルムを用いた、ポリカーボネートフィルムと合成高分子膜とを含む積層フィルムの例を示したがこれに限られない。例えば、ポリカーボネートのプラスチック成型品をプラスチック基材として用いることもできる。この場合、所望の形状のガラス基材上に堆積したアルミニウム膜を用いて作製したモスアイ用型を用いればよい。
【0185】
上記では、殺菌作用を備えた表面を有する合成高分子膜を備える成形品(プラスチック製品)として、ベースフィルム(例えばポリカーボネートフィルム)とベースフィルム上に形成された合成高分子膜とを有する成形品を例示したが、本発明の実施形態はこれに限られない。任意の形状のポリカーボネートのプラスチック成型品をプラスチック基材として用いることができる。また、ポリカーボネート成形品に限られず、少なくとも合成高分子膜が形成される表面にポリカーボネートが存在する基材であればよい。また、ポリカーボネートフィルムと合成高分子膜とを含む積層フィルムを用いて、種々の形状の成形品をラミネートすることによって、種々の形状の成形品の表面に、殺菌性を付与することができる。
【0186】
なお、ベースフィルム(例えばポリカーボネートフィルム)を基材として用いると、上述したロール・ツー・ロール方式で量産することができる。したがって、量産性を考慮すると、以下で説明するように、架橋構造が窒素元素(ウレタン結合を構成する)およびフッ素元素を含まない合成高分子膜を用いることが好ましい。しかしながら、本発明の実施形態による合成高分子
膜は、これに限られず、種々の方法で製造することができる。他の製造方法を用いる場合には、架橋構造が窒素元素(ウレタン結合を構成する)および/またはフッ素元素を含んでももちろんよい。
【0187】
本発明者が検討したところ、特許文献5から8に記載された合成高分子膜は、量産性(転写性)において、改善の余地が残されていることがわかった。その原因として、特許文献5から8に記載の合成高分子膜が、ウレタン結合を有するアクリレートを含む光硬化性樹脂を用いて形成されていたことが考えられる。ウレタン結合を有するアクリレートは粘度が比較的高いので、離型性を低下させる傾向にある。したがって、例えば、ロール・ツー・ロール方式で量産する際に生産性の低下を招く。
【0188】
ここでは、紫外線硬化性樹脂を例示したが、可視光硬化性樹脂を用いることもできる。ただし、保存性や作業性の観点から、紫外線硬化性樹脂が好ましい。
【0189】
また、ここでは、合成高分子膜が、食品に添加することが法令で認められている、抗菌効果を有する抗菌性添加物として、有機カルボン酸を有する例を示した。上述した例に限られず、例えば指定添加物または既存添加物から選択した有機カルボン酸を用いることができる。指定添加物または既存添加物である有機カルボン酸の例は、表6に示している。特に、コハク酸、アジピン酸、クエン酸、アルギン酸、およびフィチン酸を好適に用いることができる。
【0190】
有機カルボン酸は、光硬化性樹脂組成物の全体に対して、概ね0.1質量%以上10質量%以下混合すればよい。0.1質量%未満であると抗菌性を向上させる効果が得られないことがあり、約10質量%を超えると、硬化物(光硬化された樹脂組成物)の物性を低下させる恐れがある。合成高分子膜の殺菌効果をより向上させるためには、約1質量%以上が好ましい。硬化物の物性への影響を抑制するためには約5質量%以下が好ましい。具体的には、光硬化性樹脂の種類、有機カルボン酸の種類に応じて、配合量を適宜調整すればよい。有機カルボン酸以外の抗菌性添加物についても同様である。
【0191】
有機カルボン酸(抗菌性添加物)の水に対する溶解度は、高すぎないことが好ましい。有機カルボン酸の水に対する溶解度が高すぎると、高温高湿度下における殺菌効果が早く低下してしまう。例えば、有機カルボン酸は水に任意溶解しない(溶解度指数が1〜7)ことが好ましい。例えば、コハク酸、アジピン酸、クエン酸およびアルギン酸は、水に任意溶解しないので好適に用いることができる。例えば、有機カルボン酸1gを溶解するために必要な水の量が、1mL以上10000mL未満(溶解度指数が2〜6)であってもよい。10mL以上であってもよく、100mL未満であってもよい。
【0192】
溶質が約20℃〜約25℃の水に溶ける程度を、溶質1gまたは1mLを溶かすのに必要な水の量に基づいて、下記に示す、溶解度指数(0〜7)および用語を用いる。
0:任意に溶解する
1:極めて溶けやすい 1mL未満
2:溶けやすい 1mL以上 10mL未満
3:やや溶けやすい 10mL以上 30mL未満
4:やや溶けにくい 30mL以上 100mL未満
5:溶けにくい 100mL以上 1000mL未満
6:極めて溶けにくい 1000mL以上 10000mL未満
7:ほとんど溶けない 10000mL以上
【0193】
下記表6に、それぞれの抗菌性添加物の水溶性を示している。「○」は水に任意溶解すること(溶解度指数が0)を示し、「×」は水に任意溶解しないこと(溶解度指数が1〜7)を示している。「×」と併記して溶解度指数(1〜7)を示している場合もある。
【0194】
抗菌効果を有する抗菌性添加物として、有機カルボン酸の他に、防カビ剤、抗菌効果を有する天然抽出物等を用いることができる。防カビ剤および抗菌効果を有する天然抽出物の例も表6に示している。
【0196】
日本以外の国においても、それぞれの国の法令で食品に添加することが認められている物質のなかから抗菌効果を有するものを選べばよい。
【0197】
例えば米国では、食品に直接添加することが法令で認められている物質として以下のものが挙げられる。
【0198】
(1)食品添加物
・直接添加物(Direct Additives):ヒト が摂取する食品に直接加えることができる添加物(21 CFR Part 172)。
・二次的直接添加物(Secondary Direct Additives):酵素製剤等、食品の加工を促進する等の目的で加えることができる添加物(21 CFR Part 173)。
【0199】
(2)GRAS(Generally Recognized as Safe)物質
・GRAS物質:一般的に安全と認められる物質(21 CFR Part 182)。
・GRAS直接添加物:食品医薬品局(FDA)によりGRASであることが確認された物質(21 CFR Part 184)。
・GRAS Notificationに掲載されている物質(FDA GRAS Notification)。
【0200】
(3)着色料(21 CFR Part 74, 82)
【0201】
表7には、表6に示した抗菌性添加物について、米国での認定状況を示している。なお、米国では、防カビ剤を含むポストハーベスト農薬は、農薬に分類されている。