特許第6761497号(P6761497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本碍子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6761497-セルスタック及び電気化学セル 図000002
  • 特許6761497-セルスタック及び電気化学セル 図000003
  • 特許6761497-セルスタック及び電気化学セル 図000004
  • 特許6761497-セルスタック及び電気化学セル 図000005
  • 特許6761497-セルスタック及び電気化学セル 図000006
  • 特許6761497-セルスタック及び電気化学セル 図000007
  • 特許6761497-セルスタック及び電気化学セル 図000008
  • 特許6761497-セルスタック及び電気化学セル 図000009
  • 特許6761497-セルスタック及び電気化学セル 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6761497
(24)【登録日】2020年9月8日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】セルスタック及び電気化学セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1226 20160101AFI20200910BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20200910BHJP
   H01M 8/1213 20160101ALI20200910BHJP
   H01M 8/2425 20160101ALI20200910BHJP
【FI】
   H01M8/1226
   H01M8/12 101
   H01M8/12 102C
   H01M8/1213
   H01M8/2425
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-30731(P2019-30731)
(22)【出願日】2019年2月22日
(65)【公開番号】特開2020-136175(P2020-136175A)
(43)【公開日】2020年8月31日
【審査請求日】2020年3月31日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕己
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊之
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6188181(JP,B1)
【文献】 特開2017−098145(JP,A)
【文献】 特開2013−012397(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/172451(WO,A1)
【文献】 特開2017−157476(JP,A)
【文献】 特開2016−181350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/1226
H01M 8/12
H01M 8/1213
H01M 8/2425
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列方向に並べられた複数の電気化学セルを備え、
前記複数の電気化学セルそれぞれは、合金部材と、前記合金部材によって支持される第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層と第2電極層との間に配置される電解質層とを有し、
前記合金部材は、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記基材の表面の少なくとも一部を覆うコーティング膜と、前記基材から前記コーティング膜が剥離することを抑制する剥離抑制部とを含み、
前記複数の電気化学セルは、前記配列方向の中央部に位置する中央部電気化学セルと、前記配列方向の端部に位置する端部電気化学セルとを含み、
前記中央部電気化学セルの合金部材が有する前記剥離抑制部の数は、前記端部電気化学セルの合金部材が有する前記剥離抑制部の数より多い、
セルスタック。
【請求項2】
前記剥離抑制部は、前記基材の表面に形成された凹部内に配置され、クロムより平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有するアンカー部である、
請求項1に記載のセルスタック。
【請求項3】
前記コーティング膜は、前記基材の表面に形成された凹部内に埋設され、前記凹部の開口でくびれている埋設部を有し、
前記剥離抑制部は、前記埋設部である、
請求項1に記載のセルスタック。
【請求項4】
前記基材は、前記基材と前記コーティング膜との界面から30μm以内の界面領域に形成され、前記基材の断面における円相当径が0.5μm以上20μm以下の気孔を有し、
前記剥離抑制部は、前記気孔である、
請求項1に記載のセルスタック。
【請求項5】
合金部材と、
前記合金部材によって支持される第1電極層と、
第2電極層と、
前記第1電極層と第2電極層との間に配置される電解質層と、
を備え、
合金部材は、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記基材の表面の少なくとも一部を覆うコーティング膜と、前記基材から前記コーティング膜が剥離することを抑制する剥離抑制部とを含み、
前記合金部材は、前記合金部材の表面を流れるガスの流通方向において下流側に位置する下流部位と、前記流通方向において前記下流部位の上流側に位置する上流部位とを含み、
前記下流部位が有する前記剥離抑制部の数は、前記上流部位が有する前記剥離抑制部の数より多い、
電気化学セル。
【請求項6】
前記剥離抑制部は、前記基材の表面に形成された凹部内に配置され、クロムより平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有するアンカー部である、
請求項5に記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記コーティング膜は、前記基材の表面に形成された凹部内に埋設され、前記凹部の開口でくびれている埋設部を有し、
前記剥離抑制部は、前記埋設部である、
請求項5に記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記基材は、前記基材と前記コーティング膜との界面から30μm以内の界面領域に形成され、前記基材の断面における円相当径が0.5μm以上20μm以下の気孔を有し、
前記剥離抑制部は、前記気孔である、
請求項5に記載の電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルスタック及び電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池などの電気化学セルに用いられる合金部材として、Fe−Cr系合金やNi−Cr系合金などによって構成される基材からCrが揮発することを抑制するために、基材をコーティング膜で覆った合金部材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2013/172451号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の合金部材では、基材と被覆膜との熱膨張係数が異なることに起因して、コーティング膜が基材から剥離するおそれがある。
【0005】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、合金部材のコーティング膜が剥離することを抑制可能なセルスタック及び電気化学セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るセルスタックは、配列方向に並べられた複数の電気化学セルを備える。複数の電気化学セルそれぞれは、合金部材と、合金部材によって支持される第1電極層と、第2電極層と、第1電極層と第2電極層との間に配置される電解質層とを有する。合金部材は、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、基材の表面の少なくとも一部を覆うコーティング膜と、基材からコーティング膜が剥離することを抑制する剥離抑制部とを含む。複数の電気化学セルは、配列方向の中央部に位置する中央部電気化学セルと、配列方向の端部に位置する端部電気化学セルとを含む。中央部電気化学セルの合金部材が有する剥離抑制部の数は、端部電気化学セルの合金部材が有する剥離抑制部の数より多い。
【0007】
本発明に係る電気化学セルは、合金部材と、合金部材によって支持される第1電極層と、第2電極層と、第1電極層と第2電極層との間に配置される電解質層とを備える。合金部材は、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、基材の表面の少なくとも一部を覆うコーティング膜と、基材からコーティング膜が剥離することを抑制する剥離抑制部とを含む。合金部材は、合金部材の表面を流れるガスの流通方向において上流側に位置する上流部位と、流通方向において上流部位の下流側に位置する下流部位とを含む。下流部位が有する剥離抑制部の数は、上流部位が有する剥離抑制部の数より多い。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、合金部材のコーティング膜が剥離することを抑制可能なセルスタック及び電気化学セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係るセルスタック装置10の側面図
図2】第1実施形態に係るセル1の構成を示す断面図
図3】第1実施形態に係る合金部材4の表面付近における構成を示す断面図
図4】第1実施形態に係る剥離抑制部の具体例1を示す断面図
図5】第1実施形態に係る剥離抑制部の具体例2を示す断面図
図6】第1実施形態に係る剥離抑制部の具体例3を示す断面図
図7】第1実施形態の変形例に係るセルスタックの分解斜視図
図8】第2実施形態に係る合金部材4の平面図
図9】第2実施形態の変形例に係る合金部材4の平面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.第1実施形態
(セルスタック装置10の構成)
図1は、第1実施形態に係るセルスタック装置10の側面図である。セルスタック装置10は、セルスタック11と、マニホールド12とを備える。
【0011】
セルスタック11は、複数の燃料電池セル1と、複数の集電部材2とを有する。燃料電池セル1は、本発明に係る「電気化学セル」の一例である。「電気化学セル」とは、燃料電池セルのほか、水蒸気から水素と酸素を生成するための電解セルを含む概念である。以下の説明では、燃料電池セルを「セル」と略称する。
【0012】
複数のセル1は、配列方向に沿って一列に並べられる。各セル1の基端部は、マニホールド12に固定される。各セル1の先端部は、自由端である。このように、各セル1は、マニホールド12によって片持ち状態で支持される。
【0013】
複数のセル1は、中央部セル1a(中央部電気化学セルの一例)と、中央部セル1aの配列方向両側に配置された端部セル1b(端部電気化学セルの一例)とを含む。
【0014】
中央部セル1aは、複数のセル1のうち、セルスタック11の配列方向中央部に配置されたセル1である。配列方向中央部とは、セルスタック11の配列方向中央を中心とする領域であり、セルスタック11の全長の1/3程度の領域に設定される。図1に示すように、本実施形態では、9個のセル1が中央部セル1aとされているが、中央部セル1aの個数は、複数のセル1の全長と各セル1のサイズに応じて適宜変更できる。
【0015】
端部セル1bは、複数のセル1のうち、セルスタック11の配列方向端部に配置されたセル1である。配列方向端部とは、セルスタック11の配列方向両端からセルスタック11の全長の1/3程度の領域に設定される。図1に示すように、本実施形態では、9個の中央部セル1aの両側に配置された8個のセル1が端部セル1bとされているが、端部セル1bの個数は、複数のセル1の全長と各セル1のサイズに応じて適宜変更できる。
【0016】
なお、中央部セル1aと端部セル1bとの間には、中央部セル1aと端部セル1bのいずれにも属さないセル1が配置されていてもよい。
【0017】
隣接する2つのセル1は、互いに対向するように配置される。隣接する2つのセル1それぞれの主面の間には、酸化剤ガス(例えば、空気)が流れる空間が形成される。酸化剤ガスは、隣接する2つのセル1間において、セル1の配列方向に略垂直な流通方向に沿って流れる。本実施形態において、酸化剤ガスの流通方向は、セルスタック11の側面視において、マニホールド12から離れる方向である。隣接する2つのセル1間には集電部材2が配置されているため、酸化剤ガスは、集電部材2の隙間を縫うように流れる。
【0018】
集電部材2は、隣接する2つのセル1の間に配置される。集電部材2は、隣接する2つのセル1を電気的に接続する。集電部材2は、酸化剤ガスをセル1に供給可能であればよく、その形状及びサイズは特に制限されない。集電部材2は、酸化剤ガスの流れを妨げない形状であることが好ましい。
【0019】
集電部材2は、導電性接合材(不図示)を介して、セル1に固定される。導電性接合材としては、導電性セラミックス材料が好適であるが、これに限られない。導電性セラミックス材料としては、LSCF((La,Sr)(Co,Fe)O:ランタンストロンチウムコバルトフェライト)、LSF((La,Sr)FeO:ランタンストロンチウムフェライト)、LSC((La,Sr)CoO:ランタンストロンチウムコバルタイト)、LNF(La(Ni,Fe)O:ランタンニッケルフェライト)、LSM((La,Sr)MnO:ランタンストロンチウムマンガネート)などから選択される少なくとも1種を用いることができるが、これに限られない。
【0020】
マニホールド12の内部には、外部から燃料ガス(例えば、水素ガス)が供給される内部空間が形成されている。内部空間に供給された燃料ガスは、各セル1に分配される。マニホールド12は、各セル1の基端部を固定し、かつ、各セル1に燃料ガスを供給できるように構成されていればよく、その形状及びサイズは特に制限されない。
【0021】
(セル1の構成)
図2は、第1実施形態に係るセル1の構成を示す断面図である。セル1は、流路部材3、合金部材4、第1電極層5、中間層6、電解質層7、反応防止層8、及び第2電極層9を有する。
【0022】
[流路部材3]
流路部材3は、U字状に形成される。流路部材3は、合金部材4に接合される。流路部材3と合金部材4との間には、流路3Sが形成される。
【0023】
流路3Sは、マニホールド12(図1参照)の内部空間に繋がる。マニホールド12の内部空間から流路3Sに流入する燃料ガスは、セル1の基端部側から先端部側に向かって流路3S内を流れる。セル1の発電に利用されなかった残燃料ガスは、流路3Sの先端部側に設けられた排出口から排出される。流路部材3は、例えば、合金材料によって構成することができる。流路部材3は、合金部材4と同様の構成を有していてもよい。
【0024】
[合金部材4]
合金部材4は、第1電極層5、中間層6、電解質層7、反応防止層8、及び第2電極層9を支持する支持体である。本実施形態において、合金部材4は、板状に形成されているが、これに限られない。合金部材4は、例えば、筒状、或いは、箱状などの他の形状であってもよい。
【0025】
合金部材4のうち第1電極層5に接合される領域には、複数の貫通孔4aが形成されている。流路3Sを流れる燃料ガスは、各貫通孔4aを介して、第1電極層5に供給される。各貫通孔4aは、機械加工(例えば、パンチング加工)、レーザ加工、或いは、化学加工(例えば、エッチング加工)などによって形成することができる。或いは、合金部材4は、ガス透過性を有する多孔質金属によって構成されていてもよい。この場合、多孔質金属に形成された孔が貫通孔4aとして機能するため、貫通孔4aを形成するための加工を施す必要がない。
【0026】
合金部材4は、セル1の強度を保つことができればよく、その厚みは特に制限されないが、例えば0.1mm〜2.0mmとすることができる。
【0027】
ここで、図3は、合金部材4の表面付近における構成を示す断面図である。図3では、合金部材4の表面に垂直な断面が図示されている。
【0028】
図3に示すように、合金部材4は、基材41及びコーティング膜42を有する。
【0029】
基材41は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成される。このような金属材料としては、Fe−Cr系合金鋼(ステンレス鋼など)やNi−Cr系合金鋼などを用いることができる。基材41におけるCrの含有率は特に制限されないが、4〜30質量%とすることができる。
【0030】
基材41は、Ti(チタン)やAl(アルミニウム)を含有していてもよい。基材41におけるTiの含有率は特に制限されないが、0.01〜1.0at.%とすることができる。基材41におけるAlの含有率は特に制限されないが、0.01〜0.4at.%とすることができる。基材41は、TiをTiO(チタニア)として含有していてもよいし、AlをAl(アルミナ)として含有していてもよい。
【0031】
コーティング膜42は、基材41の少なくとも一部を覆う。コーティング膜42は、貫通孔4aの内周面を覆っていてもよい。
【0032】
本実施形態において、コーティング膜42は、酸化クロム膜43及び被覆膜44を含む。
【0033】
酸化クロム膜43は、基材41の表面41a上に形成される。酸化クロム膜43は、基材41の表面41aのうち少なくとも一部を覆う。酸化クロム膜43は、基材41の表面41aのうち少なくとも一部を覆っていればよいが、表面41aの略全面を覆っていてもよい。酸化クロム膜43は、酸化クロムを主成分として含有する。本実施形態において、組成物Xが物質Yを「主成分として含む」とは、組成物X全体のうち、物質Yが70重量%以上を占めることを意味する。酸化クロム膜43の厚みは特に制限されないが、例えば0.1〜20μmとすることができる。
【0034】
被覆膜44は、酸化クロム膜43の表面43a上に形成される。被覆膜44は、酸化クロム膜43の表面43のうち少なくとも一部を覆う。被覆膜44は、酸化クロム膜43の表面43aのうち少なくとも一部を覆っていればよいが、表面43aの略全面を覆っていてもよい。特に、被覆膜44は、酸化クロム膜43の表面43aのうち酸化剤ガスと接触する領域を覆っていることが好ましい。被覆膜44の厚みは特に制限されないが、例えば1〜200μmとすることができる。
【0035】
被覆膜44は、基材41からCrが揮発することを抑制する。これにより、各燃料電池セル2の電極(本実施形態では、空気極7)がCr被毒によって劣化することを抑制できる。
【0036】
被覆膜44を構成する材料としては、導電性のセラミックス材料を用いることができる。導電性のセラミックス材料としては、例えば、LaおよびSrを含有するペロブスカイト形複合酸化物、Mn,Co,Ni,Fe,Cu等の遷移金属から構成されるスピネル型複合酸化物などを用いることができる。
【0037】
このような合金部材4では、基材41の熱膨張係数とコーティング膜42の熱膨張係数とが異なるため、セル1が作動と非作動を繰り返すたびに、基材41とコーティング膜42との間に熱応力が発生する。そのため、コーティング膜42が基材41から剥離するおそれがある。
【0038】
そこで、本実施形態に係る合金部材4には、コーティング膜42が基材41から剥離することを抑制するための「剥離抑制部」が設けられている。剥離抑制部の詳細については後述する。
【0039】
[第1電極層5]
第1電極層5は、合金部材4によって支持される。第1電極層5は、合金部材4の表面側に設けられる。第1電極層5は、合金部材4のうち複数の貫通孔4aが設けられた領域を覆うように設けられる。図2において、第1電極層5は、合金部材4の表面上に配置されており、各貫通孔4aに入り込んでいないが、第1電極層5の少なくとも一部は、各貫通孔4aに入り込んでいてもよい。第1電極層5が各貫通孔4aに入り込むことによって、合金部材4と第1電極層5との接続性が向上するため、合金部材4と第1電極層5との間に発生する熱応力によって第1電極層5が合金部材4から剥離することを抑制できる。
【0040】
第1電極層5は、多孔質であることが好ましい。第1電極層5の気孔率は特に制限されないが、例えば20%〜70%とすることができる。第1電極層5の厚さは特に制限されないが、例えば1μm〜100μmとすることができる。
【0041】
本実施形態において、第1電極層5は、アノード(燃料極)として機能する。第1電極層5は、NiO−GDC(ガドリニウムドープセリア)、Ni−GDC、NiO−YSZ(イットリア安定化ジルコニア))、Ni−YSZ、CuO−CeO、Cu−CeOなどの複合材料によって構成することができる。
【0042】
第1電極層5の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法(溶射法、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法など)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することができる。
【0043】
[中間層6]
中間層6は、第1電極層5上に配置される。中間層6は、第1電極層5と電解質層7との間に介挿される。中間層6の厚さは特に制限されないが、例えば1μm〜100μmとすることができる。
【0044】
中間層6は、酸化物イオン(酸素イオン)伝導性を有することが好ましい。中間層6は、電子伝導性を有することがより好ましい。中間層6は、YSZ、GDC、SSZ(スカンジウム安定化ジルコニア)、SDC(サマリウム・ドープ・セリア)などによって構成することができる。中間層6の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などにより形成することができる。
【0045】
[電解質層7]
電解質層7は、第1電極層5と第2電極層9との間に配置される。本実施形態では、セル1が中間層6及び反応防止層8を有しているため、電解質層7は、中間層6と反応防止層8との間に介挿されている。
【0046】
本実施形態において、電解質層7は、第1電極層5全体を覆うように形成されており、電解質層7の外縁は、合金部材4に接合されている。これにより、酸化剤ガスと燃料ガスとの混合を抑制できるため、合金部材4と電解質層7との間を別途封止する必要がない。
【0047】
電解質層7は、酸化物イオン伝導性を有する。電解質層7は、酸化剤ガスと燃料ガスとの混合を抑制できる程度のガスバリア性を有する。電解質層7は、複層構造であってもよいが、少なくとも1つの層が緻密層であることが好ましい。緻密層の気孔率は、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、2%以下が更に好ましい。電解質層7の厚さは特に制限されないが、例えば1μm〜10μmとすることができる。
【0048】
電解質層7は、YSZ、GDC、SSZ、SDC、LSGMなどによって構成することができる。電解質層7の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などにより形成することができる。
【0049】
[反応防止層8]
反応防止層8は、電解質層7上に配置される。反応防止層8は、電解質層7と第2電極層9との間に介挿される。反応防止層8の厚さは特に制限されないが、例えば1μm〜100μmとすることができる。反応防止層8は、第2電極層9の構成材料と電解質層7の構成材料とが反応して高抵抗層が形成されることを抑制する。
【0050】
反応防止層8は、GDC、SDCなどのセリア系材料によって構成することができる。反応防止層8の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などにより形成することができる。
【0051】
[第2電極層9]
第2電極層9は、電解質層7を基準として、第1電極層5の反対側に配置される。本実施形態では、セル1が反応防止層8を有しているため、第2電極層9は、反応防止層8上に配置される。
【0052】
第2電極層9は、多孔質であることが好ましい。第2電極層9の気孔率は特に制限されないが、例えば20%〜70%とすることができる。第2電極層9の厚さは特に制限されないが、例えば1μm〜100μmとすることができる。
【0053】
本実施形態において、第2電極層9は、カソード(空気極)として機能する。第2電極層9は、LSCF、LSF、LSC、LNF、LSMなどによって構成することができる。特に、第2電極層9は、La、Sr、Sm、Mn、CoおよびFeからなる群から選ばれる2種類以上の元素を含有するペロブスカイト型酸化物を含んでいることが好ましい。
【0054】
第2電極層9の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などにより形成することができる。
【0055】
[セル1の動作]
まず、流路3Sから各貫通孔4aを介して第1電極層5に燃料ガスを供給し、かつ、第2電極層9に酸化剤ガスを供給しながら、セル1を作動温度(例えば、600℃〜850℃)まで加熱する。すると、第2電極層9においてO(酸素)がe(電子)と反応してO2−(酸素イオン)が生成される。生成されたO2−は、電解質層7を通って第1電極層5に移動する。第1電極層5に移動したO2−は、燃料ガスに含まれるH(水素)と反応して、HO(水)とeとが生成される。このような反応によって、第1電極層5と第2電極層9との間に起電力が発生する。
【0056】
(合金部材4に設けられた剥離抑制部)
上述したように、本実施形態に係る合金部材4には、コーティング膜42が基材41から剥離することを抑制するための剥離抑制部が設けられている。
【0057】
ここで、端部セル1bでは、各セル1から放出されるジュール熱や反応熱が放出されやすいのに対して、中央部セル1aでは、両側に端部セル1bが配置されているため、各セル1から放出されるジュール熱や反応熱によって加熱されやすい。従って、中央部セル1aの合金部材4は、端部セル1bの合金部材4に比べて高温になるため、中央部セル1aの合金部材4には大きな熱応力が生じやすい。
【0058】
そこで、本実施形態では、中央部セル1aの合金部材4に設けられた剥離抑制部の数は、端部セル1bの合金部材4に設けられた剥離抑制部の数より多い。これにより、中央部セル1aの合金部材4においてコーティング膜42が基材41から剥離することを抑制できるため、セルスタック11全体としての耐久性を向上させることができる。
【0059】
剥離抑制部は、コーティング膜42が基材41から剥離することを抑制する機能を有している限り、その構成は特に制限されない。剥離抑制部は、例えば、基材41に対するコーティング膜42の密着力(又は、接合力)を高めるものであってもよいし、基材41とコーティング膜42との間に発生する熱応力を緩和させるものであってもよい。
【0060】
以下、剥離抑制部の具体例について、図4図6を参照しながら説明する。図4図6は、合金部材4の表面付近における構成を模式的に示す断面である。図4図6では、合金部材4の表面に垂直な断面が図示されている。
【0061】
[剥離抑制部の具体例1]
図4では、剥離抑制部の一例として「アンカー部45」が図示されている。アンカー部45は、基材41に対するコーティング膜42の密着力を高める機能を有する。
【0062】
アンカー部45は、基材41の表面41aに形成された凹部41b内に配置される。アンカー部45は、凹部41bの開口部付近においてコーティング膜42に接続される。具体的には、図4に示す例において、アンカー部45は、コーティング膜42のうち酸化クロム膜43に接続される。このようなアンカー部45が凹部41bに係止されることで生じるアンカー効果によって、基材41に対するコーティング膜42の密着力を高めることができる。その結果、コーティング膜42が基材41から剥離することを抑制することができる。
【0063】
そして、中央部セル1aの合金部材4に設けられたアンカー部45の数は、端部セル1bの合金部材4に設けられたアンカー部45の数より多い。これにより、中央部セル1aの合金部材4においてコーティング膜42が基材41から剥離することを抑制できるため、セルスタック11全体としての耐久性を向上させることができる。
【0064】
「アンカー部45の数」とは、燃料ガスの流通方向における合金部材4の中央において基材41を断面観察した場合に、表面41aの10mm軌跡長(延長長さ)当たりに存在するアンカー部45の数を意味する。基材41の断面観察は、FE−SEM(Field Emission − Scanning Electron Microscope:電界放射型走査型電子顕微鏡)によって1000−20000倍に拡大した画像において行うものとする。
【0065】
中央部セル1aの合金部材4におけるアンカー部45の数は特に制限されないが、コーティング膜42の剥離抑制効果を考慮すると、3個/10mm以上が好ましく、6個/10mm以上がより好ましく、10個/10mm以上が特に好ましい。端部セル1bの合金部材4におけるアンカー部45の数は特に制限されないが、コーティング膜42の剥離抑制効果を考慮すると、アンカー部45の数は、1個/10mm以上が好ましく、2個/10mm以上がより好ましく、5個/10mm以上が特に好ましい。
【0066】
アンカー部45は、Crよりも平衡酸素圧の低い元素(以下、「低平衡酸素圧元素」という。)の酸化物を含有する。すなわち、アンカー部45は、Crよりも酸素との親和力が大きくて酸化しやすい低平衡酸素圧元素の酸化物を含有する。そのため、セルスタック装置10の運転中、コーティング膜42を透過してくる酸素をアンカー部45に優先的に取り込むことによって、アンカー部45を取り囲む基材41が酸化することを抑制できる。これにより、アンカー部45の形態を維持できるため、アンカー部45によるアンカー効果を長期間に亘って得ることができる。その結果、基材41に対するコーティング膜42の密着力を長期間維持することができる。
【0067】
低平衡酸素圧元素としては、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、Ca(カルシウム)、Si(シリコン)、Mn(マンガン)などが挙げられるが、これに限られるものではない。低平衡酸素圧元素の酸化物としては、Al、TiO、CaO、SiO、MnO、Mn、MnCrなどが挙げられるが、これに限られるものではない。
【0068】
アンカー部45における低平衡酸素圧元素の含有率は、全構成元素のうち酸素を除く元素の総和に対する各元素のモル比をカチオン比と定義した場合、カチオン比で0.01以上が好ましい。これにより、アンカー部45を取り囲む基材41の酸化をさらに抑制できるため、基材41に対するコーティング膜42の密着力をさらに長期間維持することができる。アンカー部45における低平衡酸素圧元素の含有率は、カチオン比で0.05以上がより好ましく、0.10以上が特に好ましい。
【0069】
アンカー部45における低平衡酸素圧元素の含有率は、以下のように得られる。まず、上述したFE−SEM画像から無作為に選出した20個のアンカー部45ごとに、EDS(エネルギー分散型X線分光器)を用いて、アンカー部45の実長さを11等分する10点における低平衡酸素圧元素の含有率をカチオン比で測定する。次に、20個のアンカー部45ごとに10点で測定された含有率から最大値を選択する。次に、20個のアンカー部45ごとに選択された最大値を算術平均する。この算術平均によって得られた値が、アンカー部45における低平衡酸素圧元素の含有率である。一断面において20個のアンカー部45を観察できない場合には、複数断面から20個のアンカー部45を選択すればよい。なお、アンカー部45の実長さとは、基材41の表面41aに平行な面方向におけるアンカー部45の中点を連ねた線の全長である。アンカー部45の実長さは特に制限されないが、例えば0.2μm以上30μm以下とすることができる。
【0070】
アンカー部45は、1種の低平衡酸素圧元素を含有していてもよいし、2種以上の低平衡酸素圧元素を含有していてもよい。例えば、アンカー部45は、Alによって構成されていてもよいし、AlとTiOの混合体によって構成されていてもよい。
【0071】
また、アンカー部45は、酸化クロムを部分的に含有していてもよい。ただし、アンカー部45におけるクロムの含有率は、カチオン比で0.95以下が好ましく、0.90以下がより好ましい。
【0072】
アンカー部45の垂直深さLは特に制限されず、0.5〜15μmとすることができるが、十分なアンカー効果を考慮すれば、1.0μm以上が好ましく、1.5μm以上がより好ましい。アンカー部45の幅Wは特に制限されず、0.1〜3.5μmとすることができるが、十分なアンカー効果を考慮すれば、0.15μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましい。また、十分なアンカー効果を考慮すれば、幅Wは垂直深さLよりも小さいことが好ましく、深さLに対する幅Wの比(W/L)は、0.5以下が好ましく、0.3以下がより好ましい。なお、垂直深さLとは、基材41の厚み方向におけるアンカー部45の深さである。幅Wとは、基材41の表面41aに平行な方向におけるアンカー部45とコーティング膜42との接合幅である。
【0073】
アンカー部45の断面形状は特に制限されず、例えば、楔形、半円形、矩形、及びその他の複雑形状であってもよい。図4では、断面形状が楔形のアンカー部45が図示されており、アンカー部45の最深部が鋭角状であるが、鈍角状であってもよいし、丸みを帯びていてもよい。また、アンカー部45は、基材41の内部に向かって真っ直ぐに延びていなくてもよく、例えば、厚み方向に対して斜めに形成されていてもよいし、全体的或いは部分的に曲がっていてもよい。
【0074】
なお、アンカー部45の垂直深さL、幅W及び断面形状は、アンカー部45ごとに異なっていてもよい。
【0075】
具体例1に係る合金部材4は、以下の手順で形成することができる。
【0076】
まず、ショットピーニング又はサンドブラストを用いて、基材41の表面41aに凹部41bを形成する。この際、端部セル1bの合金部材4よりも中央部セル1aの合金部材4により多くの凹部41bを形成する。
【0077】
次に、低平衡酸素圧元素を含有する粉末にエチルセルロースとテルピネオールを添加したペーストを凹部41b内に充填して、基材41を大気雰囲気で熱処理(800〜900℃、5〜20時間)する。これによって、凹部41bにアンカー部45が形成されるとともに、基材41の表面41aに酸化クロム膜43が形成される。
【0078】
次に、酸化クロム膜43上にセラミックス材料ペーストを塗布して、熱処理(800〜900℃、1〜5時間)する。これによって、被覆膜44が形成される。
【0079】
[具体例2]
図5は、剥離抑制部の一例として「埋設部42a」を示す断面図である。埋設部42aは、基材41に対するコーティング膜42の密着力を高める機能を有する。
【0080】
埋設部42aは、コーティング膜42の一部である。本実施形態において、埋設部42aは、コーティング膜42のうち酸化クロム膜43の一部である。
【0081】
埋設部42aは、基材41の表面41aに形成された凹部41c内に配置される。埋設部42aは、凹部41cの全体に充填されていてもよいし、凹部41cの一部分に配置されていてもよい。
【0082】
埋設部42aは、凹部41cの開口S2においてくびれている。すなわち、埋設部42aは、開口S2付近で局所的に細くなっている。このようなボトルネック構造によって、埋設部42aが凹部41cに係止されて生じるアンカー効果によって、基材41に対するコーティング膜42の密着力を高めることができる。その結果、コーティング膜42が基材41から剥離することを抑制することができる。
【0083】
そして、中央部セル1aの合金部材4に設けられた埋設部42aの数は、端部セル1bの合金部材4に設けられた埋設部42aの数より多い。これにより、中央部セル1aの合金部材4におけるコーティング膜42の剥離を特に抑制できるため、セルスタック11全体としての耐久性を向上させることができる。
【0084】
「埋設部42aの数」とは、基材41を断面観察した場合に、表面41aの10mm軌跡長(延長長さ)当たりに存在する埋設部42aの数を意味する。基材41の断面観察は、FE−SEMによって1000−20000倍に拡大した画像において行うものとする。
【0085】
中央部セル1aの合金部材4における埋設部42aの数は特に制限されないが、コーティング膜42の剥離抑制効果を考慮すると、埋設部42aの数は、3個/10mm以上が好ましく、6個/10mm以上がより好ましく、10個/10mm以上が特に好ましい。端部セル1bの合金部材4における埋設部42aの数は特に制限されないが、コーティング膜42の剥離抑制効果を考慮すると、埋設部42aの数は、1個/10mm以上が好ましく、2個/10mm以上がより好ましく、5個/10mm以上が特に好ましい。
【0086】
本実施形態において、「埋設部42aが開口S2においてくびれている」とは、基材41の表面41aに垂直な断面において、埋設部42aの幅W2が開口S2の開口幅W1よりも大きいことを意味する。埋設部42aの幅W2とは、開口S2の開口幅W1を規定する直線CLに平行な方向における埋設部42aの最大寸法である。直線CLは、開口S2の最短距離を規定する2点を結ぶ直線である。
【0087】
埋設部42aの深さD1は特に制限されないが、例えば0.5〜300μmとすることができる。埋設部42aの深さD1とは、図5に示すように、開口S2の開口幅W1を規定する直線CLに垂直な方向における埋設部42aの最大寸法である。十分なアンカー効果を考慮すれば、深さD1は、0.5μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましく、1.5μm以上が更に好ましい。
【0088】
埋設部42aの幅W2は特に制限されないが、例えば0.5〜35μmとすることができる。十分なアンカー効果を考慮すれば、埋設部42aの幅W2は、開口S2の開口幅W1の101%以上が好ましく、105%以上がより好ましく、110%以上が特に好ましい。
【0089】
埋設部42aの断面形状は特に制限されず、例えば、楕円状、楔形、半円形、矩形、及びその他の複雑形状であってもよい。図5では、断面形状が略楕円状の埋設部42aが図示されており、埋設部42aの最深部が湾曲状に丸みを帯びているが、屈曲状の楔形であってもよい。また、埋設部42aは、基材41の内部に向かって真っ直ぐに延びていてもよいし、全体的或いは部分的に曲がっていてもよい。
【0090】
なお、埋設部42aの深さD1、幅W2及び断面形状は、埋設部42aごとに異なっていてもよい。
【0091】
具体例2に係る合金部材4は、以下の手順で形成することができる。
【0092】
まず、ショットピーニング又はサンドブラストを用いて、基材41の表面41aに凹部41cを形成する。この際、端部セル1bの合金部材4よりも端部セル1bの合金部材4に多くの凹部41cを形成する。
【0093】
次に、基材41の表面41a上でローラーを転がすことによって、凹部41cの開口S2を狭くする。
【0094】
次に、酸化クロムペーストを基材41の表面41a上に塗布しつつ凹部41c内に酸化クロムペーストを充填した後、基材41を大気雰囲気で熱処理(800〜900℃、5〜20時間)する。これによって、基材41の表面41a上に酸化クロム膜43が形成されるとともに、凹部41c内に埋設された埋設部42aが形成される。
【0095】
次に、酸化クロム膜43上にセラミックス材料ペーストを塗布して、熱処理(800〜900℃、1〜5時間)する。これによって、被覆膜44が形成される。
【0096】
[具体例3]
図6は、合金部材4の内部に発生する熱応力を緩和する機能を有する剥離抑制部の一例として「気孔41d」を示す断面図である。
【0097】
基材41は、表面41aから30μm以内の領域である表面領域41Xにおいて、気孔41dを有する。気孔41dの円相当径は、0.5μm以上20μm以下である。これによって、基材41の表面領域41Xの柔軟性を向上させることができるため、合金部材4の内部に発生する熱応力を表面領域41Xによって緩和することができる。その結果、コーティング膜42が基材41から剥離することを抑制することができる。
【0098】
そして、中央部セル1aの合金部材4に設けられた気孔41dの数は、端部セル1bの合金部材4に設けられた気孔41dの数より多い。これにより、中央部セル1aの合金部材4におけるコーティング膜42の剥離を特に抑制できるため、セルスタック11全体としての耐久性を向上させることができる。
【0099】
「気孔41dの数」とは、基材41を断面観察した場合に、表面41aの10mm軌跡長(延長長さ)当たりに存在する気孔41dの数を意味する。基材41の断面観察は、FE−SEMによって1000−20000倍に拡大した画像において行うものとする。また、「気孔41dの円相当径」とは、「気孔41dの数」を計測する対象とした気孔41dと同じ面積を有する円の直径である。
【0100】
中央部セル1aの合金部材4における気孔41dの数は特に制限されないが、コーティング膜42の剥離抑制効果を考慮すると、気孔41dの数は、5個/10mm以上が好ましく、10個/10mm以上がより好ましく、15個/10mm以上が特に好ましい。端部セル1bの合金部材4における気孔41dの数は特に制限されないが、コーティング膜42の剥離抑制効果を考慮すると、気孔41dの数は、2個/10mm以上が好ましく、4個/10mm以上がより好ましく、6個/10mm以上が特に好ましい。
【0101】
気孔41dのアスペクト比は、3以下であることが好ましい。これによって、気孔41dをより変形しやすくすることができるため、合金部材4の内部に発生する熱応力を表面領域41Xによって緩和することができる。気孔41dのアスペクト比とは、気孔41dの最大フェレー径を最小フェレー径で除した値である。最大フェレー径とは、上述したFE−SEM画像上において、平行な2本の直線間の距離が最大になるように気孔41dを挟んだときの当該2本の直線間の距離である。最小フェレー径とは、上述したFE−SEM画像上において、平行な2本の直線間の距離が最小になるように気孔41dを挟んだときの当該2本の直線間の距離である。
【0102】
なお、図6に示す例では、各気孔41dの内部が空孔になっているが、各気孔41dの内部には、酸化クロム、アルミナ、チタニア、又はこれらの混合物が配置されていてもよい。
【0103】
具体例3に係る合金部材4は、以下の手順で形成することができる。
【0104】
まず、ショットピーニング又はサンドブラストを用いて、基材41の表面41aに凹部を形成する。この際、端部セル1bの合金部材4よりも端部セル1bの合金部材4に多くの凹部を形成する。
【0105】
次に、基材41の表面41a上でローラーを転がすことによって、凹部の開口を塞いで、気孔41dを形成する。
【0106】
次に、酸化クロムペーストを基材41の表面41a上に塗布した後、基材41を大気雰囲気で熱処理(800〜900℃、5〜20時間)する。これによって、基材41の表面41a上に酸化クロム膜43が形成される。
【0107】
次に、酸化クロム膜43上にセラミックス材料ペーストを塗布して、熱処理(800〜900℃、1〜5時間)する。これによって、被覆膜44が形成される。
【0108】
2.第1実施形態の変形例
(セルスタック20の構成)
図7は、第1実施形態の変形例に係るセルスタック20の分解斜視図である。セルスタック20は、複数の燃料電池セル21と、複数のセパレータ22とを備える。燃料電池セル1は、本発明に係る「電気化学セル」の一例である。以下の説明では、燃料電池セルを「セル」と略称する。
【0109】
各セル21と各セパレータ22とは、配列方向において交互に積層される。複数のセル21は、配列方向に沿って一列に並べられる。各セル21の構成は、上記第1実施形態にて説明したとおりである(図2及び図3参照)。ただし、本変形例に係るセル21は、流路部材3を備えていない。
【0110】
複数のセル21は、中央部セル21a(中央部電気化学セルの一例)と、中央部セル21aの配列方向両側に配置された2つの端部セル21b(端部電気化学セルの一例)とを含む。中央部セル21a及び端部セル21bの配置は、上記第1実施形態にて説明したとおりである。なお、セル21の数は、適宜変更可能である。セル21を4つ以上設ける場合には、配列方向におけるセルスタック20の全長を3等分して、中央部に配置された中央部セル21aとし、それ以外のセル21を端部セル21bとすればよい。
【0111】
セパレータ22は、導電性を有し、かつ気体透過性を有さない板状の部材である。セパレータ22の第1主面には、複数の第1気体流路22aが形成される。各第1気体流路22aには、酸化剤ガスが流される。酸化剤ガスは、セル21の第2電極層9に供給される。セパレータ22の第2主面には、複数の第2気体流路22bが形成される。各第2気体流路22bには、燃料ガスが流される。燃料ガスは、合金部材4に形成された各貫通孔4aを介して、セル21の第1電極層5に供給される(図2参照)。本実施形態では、各第1気体流路22aと各第2気体流路22bとが互いに直交する方向に延びているが、これに限られない。各第1気体流路22aと各第2気体流路22bとは、互いに平行な方向に延びていてもよい。
【0112】
ここで、端部セル21bでは、各セル21から放出されるジュール熱や反応熱が放出されやすいのに対して、中央部セル21aでは、両側に端部セル21bが配置されているため、各セル21から放出されるジュール熱や反応熱によって加熱されやすい。従って、中央部セル21aの合金部材4は、端部セル21bの合金部材4に比べて高温になるため、中央部セル21aの合金部材4には大きな熱応力が生じやすい。
【0113】
そこで、本変形例においても、中央部セル21aの合金部材4に設けられた剥離抑制部の数は、端部セル21bの合金部材4に設けられた剥離抑制部の数より多くされている。これにより、中央部セル21aの合金部材4においてコーティング膜42が基材41から剥離することを抑制できるため、セルスタック20全体としての耐久性を向上させることができる。
【0114】
なお、剥離抑制部の具体例としては、上記第1実施形態にて説明したアンカー部45、埋設部42a及び気孔41d(図4図6参照)が挙げられるが、これに限られない。
【0115】
3.第2実施形態
上記第1実施形態では、図1に示したセルスタック11において、中央部セル1aの合金部材4に設けられた剥離抑制部の数が、端部セル1bの合金部材4に設けられた剥離抑制部の数より多いこととした。
【0116】
一方、本実施形態に係るセル1では、合金部材4のうち、その表面を流れるガスの流通方向において下流側に位置する下流部位において相対的に多くの剥離抑制部が設けられている。
【0117】
このように、上記第1実施形態では、高温になりやすいセル1の合金部材4に多くの剥離抑制部が設けられているのに対して、本実施形態では、合金部材4のうち高温になりやすい部位に多くの剥離抑制部が設けられている。
【0118】
図8は、図2に示した合金部材4を矢印P1の方向から見た平面図である。合金部材4の表面を流れるガス(本実施形態では、燃料ガス)は、セル1から放出されるジュール熱や反応熱によって徐々に加熱されるため、上流から下流に向かうほど高温になる。従って、合金部材4のうち下流部位4pは、上流部位4qより高温になるため、下流部位4pでは、上流部位4qに比べて、基材41とコーティング膜42との間に大きな熱応力が発生する。
【0119】
そこで、本実施形態では、合金部材4の下流部位4pに設けられた剥離抑制部の数が、合金部材4の上流部位4qに設けられた剥離抑制部の数より多くされている。これにより、下流部位4pにおいてコーティング膜42が基材41から剥離することを抑制できるため、セル1全体としての耐久性を向上させることができる。
【0120】
なお、剥離抑制部の具体例としては、上記第1実施形態にて説明したアンカー部45、埋設部42a及び気孔41d(図4図6参照)が挙げられるが、これに限られない。
【0121】
また、下流部位4pと上流部位4qとは、ガスの流通方向における合金部材4の中央を基準として区別することができる。
【0122】
また、複数のセル1のうち少なくとも1つのセル1において、下流部位4pに設けられた剥離抑制部の数が上流部位4qに設けられた剥離抑制部の数より多くされていればよい。
【0123】
4.第2実施形態の変形例
上記第1実施形態の変形例では、図7に示したセルスタック20において、中央部セル21aの合金部材4に設けられた剥離抑制部の数が、端部セル21bの合金部材4に設けられた剥離抑制部の数より多いこととした。
【0124】
一方、本変形例に係るセル21では、合金部材4のうち、その表面を流れるガスの流通方向において下流側に位置する下流部位において相対的に多くの剥離抑制部が設けられている。
【0125】
このように、上記第1実施形態の変形例では、高温になりやすいセル1の合金部材4に多くの剥離抑制部が設けられているのに対して、本変形例では、合金部材4のうち高温になりやすい部位に多くの剥離抑制部が設けられている。
【0126】
図9は、図7に示したセル21を矢印P2の方向から見た平面図である。合金部材4の表面を流れるガス(本変形例では、燃料ガス)は、セル21から放出されるジュール熱や反応熱によって徐々に加熱されるため、上流から下流に向かうほど高温になる。従って、合金部材4のうち下流部位4pは、上流部位4qより高温になるため、下流部位4pでは、上流部位4qに比べて、基材41とコーティング膜42との間に大きな熱応力が発生する。
【0127】
そこで、本変形例では、合金部材4の下流部位4pに設けられた剥離抑制部の数が、合金部材4の上流部位4qに設けられた剥離抑制部の数より多くされている。これにより、下流部位4pにおいてコーティング膜42が基材41から剥離することを抑制できるため、セル21全体としての耐久性を向上させることができる。
【0128】
なお、剥離抑制部の具体例としては、上記第1実施形態にて説明したアンカー部45、埋設部42a及び気孔41d(図4図6参照)が挙げられるが、これに限られない。
【0129】
また、下流部位4pと上流部位4qとは、ガスの流通方向における合金部材4の中央を基準として区別することができる。
【0130】
また、複数のセル21のうち少なくとも1つのセル21において、下流部位4pに設けられた剥離抑制部の数が上流部位4qに設けられた剥離抑制部の数より多くされていればよい。
【0131】
5.他の実施形態
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形又は変更が可能である。
【0132】
第1実施形態、第2実施形態及びこれらの変形例において、コーティング膜42は、酸化クロム膜43及び被覆膜44を含むこととしたが、少なくとも酸化クロム膜43及び被覆膜44の一方を含んでいればよい。従って、コーティング膜42は、実質的に被覆膜44のみによって構成されていてもよいし、実質的に酸化クロム膜43のみによって構成されていてもよい。
【0133】
第1実施形態、第2実施形態及びこれらの変形例において、中間層6及び反応防止層8を含むこととしたが、少なくとも中間層6及び反応防止層8の一方を含んでいなくてよい。
【0134】
第1実施形態、第2実施形態及びこれらの変形例において、第1電極層5はアノードとして機能し、第2電極層9はカソードとして機能することとしたが、第1電極層5がカソードとして機能し、第2電極層9がアノードとして機能してもよい。この場合、第1電極層5と第2電極層9の構成材料を入れ替えるとともに、第1電極層5の外表面に燃料ガスを流すとともに、流路3Sに酸化剤ガスを流せばよい。
【符号の説明】
【0135】
1 セル
1a 中央部セル
1b 端部セル
10 セルスタック装置
11 セルスタック
12 マニホールド
20 セルスタック
21 セル
21a 中央部セル
21b 端部セル
3 流路部材
4 合金部材
4a 下流部位
4b 上流部位
5 第1電極層
6 中間層
7 電解質層
8 反応防止層
9 第2電極層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9