(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、成型加工において一般的に使用される樹脂は、その加工容易性、特に溶融時における樹脂の流動性が重要である。
【0009】
しかしながら、本発明者らが過去に提案した上記従来の液晶性高分子金属錯体は、錯体形成時にスメクチック相を形成するものであり、この性質は利用分野によっては極めて有用であるものの、成型加工の分野においては流動性の低下が惹起されることとなるため、加工容易性の観点からは改善が望まれていた。
【0010】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、遷移金属元素と錯体を形成することができ、また、錯形成することで液晶性を示し、さらには、錯形成した際に優れた流動性を示すことのできる高分子配位子、及び同高分子配位子を用いた液晶性を有する高分子錯体を提供する。
【0011】
また、本発明では、このような高分子配位子の製造方法についても提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係る高分子配位子では、(1)メソゲン基あるいはフェニレン基を有するジオールと、アミノ基を有するジオールと、前記ジオールとの間でウレタン結合を形成するジイソシアナートと、の三種を共重合させることにより合成したコポリウレタンよりなることとした。
【0013】
また、本発明に係る高分子配位子では、(2)前記アミノ基を有するジオールは、下記一般式[I]:
【化1】
(ただし、pは2〜6の整数を意味し、qは2〜6の整数を意味し、R1は炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を意味する。)
で表されることにも特徴を有する。
【0014】
また、本発明に係る高分子配位子では、(3)前記メソゲン基あるいはフェニレン基を有するジオールは、下記一般式[II]:
【化2】
(ただし、式中R2は、
【化3】
のいずれかの基を意味する。sは2〜12の整数を意味し、tは2〜12の整数を意味する。)
で表されることにも特徴を有する。
【0015】
また、本発明に係る高分子配位子では、(4)前記ジイソシアナートは、下記一般式[III]:
【化4】
(ただし、式中R3は、
【化5】
のいずれかの基を意味する。xは2〜8の整数を意味する。)
で表されることにも特徴を有する。
【0016】
また、本発明に係る高分子配位子では、(5)下記一般式[IV]:
【化6】
(ただし、式中R1は炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を意味し、R2は、
【化7】
のいずれかの基を意味し、R3は、
【化8】
のいずれかの基を意味する。nは0を超え0.7以下の値を意味し、pは2〜6の整数を意味し、qは2〜6の整数を意味し、sは2〜12の整数を意味し、tは2〜12の整数を意味し、xは2〜8の整数を意味する。)
で表されることとした。
【0017】
また、本発明に係る液晶性高分子金属錯体では、上述の(1)〜(5)のいずれかに該当する高分子配位子と、遷移金属イオンとを有し、前記高分子配位子が有するアミノ基及びウレタン結合を前記遷移金属イオンに配位させて構成した。
【0018】
また、本発明に係る液晶性高分子金属錯体の製造方法では、メソゲン基あるいはフェニレン基を有するジオールと、アミノ基を有するジオールと、前記ジオールとの間でウレタン結合を形成するジイソシアナートと、の三種を共重合させることにより合成しコポリウレタンよりなる高分子配位子を製造することとした。
【0019】
また、本発明に係る液晶性高分子金属錯体の製造方法では、前記アミノ基を有するジオールの共重合組成割合nを0<n≦0.7とし、前記メソゲン基あるいはフェニレン基を有するジオールの共重合組成割合を1−nとして合成することにも特徴を有する。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る高分子配位子によれば、メソゲン基あるいはフェニレン基を有するジオールと、アミノ基を有するジオールと、前記ジオールとの間でウレタン結合を形成するジイソシアナートと、の三種を共重合させることにより合成したコポリウレタンよりなることとしたため、遷移金属元素と錯体を形成することができ、また、錯形成することで液晶性を示し、さらには、錯形成した際に優れた流動性を示すことのできる高分子配位子を提供することができる。
【0021】
また、前記アミノ基を有するジオールは、下記一般式[I]:
【化9】
(ただし、pは2〜6の整数を意味し、qは2〜6の整数を意味し、R1は炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を意味する。)
で表されることとすれば、アミノ基からウレタン結合までの距離をより適切なものとして、遷移金属元素への配位を更に堅実なものとすることができる。
【0022】
また、前記メソゲン基あるいはフェニレン基を有するジオールは、下記一般式[II]:
【化10】
(ただし、式中R2は、
【化11】
のいずれかの基を意味する。sは2〜12の整数を意味し、tは2〜12の整数を意味する。)
で表されることとすれば、遷移金属元素への配位前(錯形成前)においては液晶性を示さず、配位後(錯形成後)には液晶性を発現するメソゲンを実現することができる。
【0023】
また、前記ジイソシアナートは、下記一般式[III]:
【化12】
(ただし、式中R3は、
【化13】
のいずれかの基を意味する。xは2〜8の整数を意味する。)
で表されることとすれば、錯形成を堅実なものとすることができる。
【0024】
また、本発明に係る高分子配位子では、下記一般式[IV]:
【化14】
(ただし、式中R1は炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を意味し、R2は、
【化15】
のいずれかの基を意味し、R3は、
【化16】
のいずれかの基を意味する。nは0を超え0.7以下の値を意味し、pは2〜6の整数を意味し、qは2〜6の整数を意味し、sは2〜12の整数を意味し、tは2〜12の整数を意味し、xは2〜8の整数を意味する。)
で表されることとしたため、遷移金属元素と錯体を形成することができ、また、錯形成することで液晶性を示し、さらには、錯形成した際に優れた流動性を示すことのできる高分子配位子を提供することができる。
【0025】
また、本発明に係る液晶性高分子金属錯体では、上述の高分子配位子と、遷移金属イオンとを有し、前記高分子配位子が有するアミノ基及びウレタン結合を前記遷移金属イオンに配位させて構成したため、遷移金属元素と錯体を形成し、また、液晶性を示し、さらには優れた流動性を示すことのできる液晶性高分子金属錯体を提供することができる。
【0026】
また、本発明に係る高分子配位子の製造方法によれば、メソゲン基あるいはフェニレン基を有するジオールと、アミノ基を有するジオールと、前記ジオールとの間でウレタン結合を形成するジイソシアナートと、の三種を共重合させることにより合成しコポリウレタンよりなる高分子配位子を製造することとしたため、遷移金属元素と錯体を形成することができ、また、錯形成することで液晶性を示し、さらには、錯形成した際に優れた流動性を示すことのできる高分子配位子の製造方法を提供することができる。
【0027】
また、前記アミノ基を有するジオールの共重合組成割合nを0<n≦0.7とし、前記メソゲン基あるいはフェニレン基を有するジオールの共重合組成割合を1−nとして合成することにより、錯形成能や液晶性、良好な流動性をより堅実なものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、遷移金属元素と錯体を形成することができ、また、錯形成することで液晶性を示し、さらには、錯形成した際に優れた流動性を示すことのできる高分子配位子、及び同高分子配位子を遷移金属元素に配向させて形成した液晶性を有する高分子錯体を提供するものである。
【0030】
本実施形態に係る高分子配位子は、アミノ基を有するジオールと、メソゲン基あるいはフェニレン基を有するジオールと、前記ジオールとの間でウレタン結合を形成するジイソシアナートと、の三種を共重合させることにより合成したコポリウレタンである。
【0031】
また、構造的に表現するならば、本実施形態に係る高分子配位子は、メソゲン基あるいはフェニレン基を有するジオールとジイソシアナートとの反応で形成される第1の単位構造と、アミノ基を有するジオールとジイソシアナートとの反応で形成される第2の単位構造とのランダム共重合体とも言える。
【0032】
ここで、アミノ基を有するジオールは、高分子配位子を形成した際、遷移金属元素の存在下において、同遷移金属元素に配位可能で錯形成可能なアミノ基を有するジオールであれば特に限定されるものではない。
【0033】
このようなアミノ基を有するジオールとしては、例えば、下記一般式[I]:
【化17】
(ただし、pは2〜6の整数を意味し、qは2〜6の整数を意味し、R1は炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を意味する。)
で表されるジオールを好適に使用することができる。
【0034】
この一般式[I]で表されるアミノ基を有するジオールにあっては、p及びqの値、すなわち、アルキル鎖の炭素数は同じであっても良く、また異なっていても良い。
【0035】
また、p及びqの値は2〜6であるのがより好ましい。p及びqの値が1や7以上となると、遷移金属元素への配位が立体的に困難となり錯形成に影響を与える可能性があるため好ましくない。p及びqの値を2〜6の整数とすることにより、遷移金属元素へのアミノ基の配位をより堅実なものとすることができる。
【0036】
メソゲン基あるいはフェニレン基を有するジオールは、高分子配位子を形成した際に錯形成前の溶融状態で液晶性を示さず、錯形成後の溶融状態において液晶性を示すものであれば特に限定されるものではない。
【0037】
このようなメソゲン基あるいはフェニレン基を有するジオールとしては、例えば、下記一般式[II]:
【化18】
(ただし、式中R2は、
【化19】
のいずれかの基を意味する。sは2〜12の整数を意味し、tは2〜12の整数を意味する。)
で表されるジオールを好適に使用することができる。
【0038】
この一般式[II]で表されるメソゲン基あるいはフェニレン基を有するジオールにあっては、s及びtの値、すなわち、アルキル鎖の炭素数は同じであっても良く、また異なっていても良い。
【0039】
また、s及びtの値は2〜12であるのがより好ましい。s及びtの値が1や13以上となると、結晶性が高くなることがあるため好ましくない。s及びtの値を2〜12の整数とすることにより、液晶形成を堅実なものとすることができる。
【0040】
また、上述のアミノ基を有するジオールや、メソゲン基あるいはフェニレン基を有するジオールとの間でウレタン結合を形成するジイソシアナートは、分子内にイソシアナート基を2つ備え重付加反応を示すものであれば特に限定されるものではない。
【0041】
このようなジイソシアナートとしては、例えば、下記一般式[III]:
【化20】
(ただし、式中R3は、
【化21】
のいずれかの基を意味する。xは2〜8の整数を意味する。)
で表されるジイソシアナートを好適に使用することができる。
【0042】
この一般式[III]で表されるジイソシアナートにあっては、xの値、すなわち、アルキル鎖の炭素数はC2〜C8とするのが好ましい。C1以下とした場合、室温で気化しやすく定量的に反応させることが難しくなるため好ましくなく、また、C9以上とした場合、得られるコポリウレタンが非晶性となるため好ましくない。C2〜C8とすることにより、錯形成と液晶発現を堅実なものとすることができる。
【0043】
上述のように、メソゲン基あるいはフェニレン基を有するジオールと、アミノ基を有するジオールと、これらジオールとの間でウレタン結合を形成するジイソシアナートと、の三種を共重合させることにより、コポリウレタンである本実施形態に係る高分子配位子を得ることができる。
【0044】
すなわち、本実施形態に係る高分子配位子は、より限定的には、下記一般式[IV]:
【化22】
(ただし、式中R1は炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を意味し、R2は、
【化23】
のいずれかの基を意味し、R3は、
【化24】
のいずれかの基を意味する。nは0を超え0.7以下の値を意味し、pは2〜6の整数を意味し、qは2〜6の整数を意味し、sは2〜12の整数を意味し、tは2〜12の整数を意味し、xは2〜8の整数を意味する。)
で表されるコポリウレタンを含んでいると言える。
【0045】
ここで、p、q、s、t、xの値は、前述の通りである。また、nの値は、0を超え0.7以下の値とするのが望ましい。換言すると、メソゲン基あるいはフェニレン基を有するジオールとジイソシアナートとの反応で形成される第1の単位構造の割合と、アミノ基を有するジオールとジイソシアナートとの反応で形成される第2の単位構造の割合との合計を1とした場合、第2の単位構造の割合nは0を超え0.7以下の値であり、第1の単位構造の割合は1−n、すなわち0.3以上1未満の値とするのが望ましい。
【0046】
第1の単位構造の割合が0.3未満(第2の単位構造の割合が0.7を超える)となると、液晶性に乏しくなるため好ましくない。
【0047】
また、第1の単位構造の割合が1(第2の単位構造の割合が0)となると、第1の単位構造のホモポリマーとなってしまうこととなり、アミノ基が存在せず錯形成能を喪失するため好ましくない。
【0048】
一方、第1の単位構造の割合を0.7以下(第2の単位構造の割合を0.3以上)とすることにより、より顕著な錯形成を惹起させることが可能となる。
【0049】
すなわち、nの値を0を超え0.7以下、より好ましくは0.3以上0.7以下とすることにより、良好な錯形成能を発現しつつ、錯形成時には液晶性を示す高分子配位子とすることができる。
【0050】
また、本実施形態に係る液晶性高分子金属錯体は、上述した高分子配位子の2つのアミノ基と2つのウレタン結合とが遷移金属元素に配位して4配位の状態で錯形成したものであり、液晶性を示し、また優れた流動性を示す。
【0051】
また、本実施形態に係る高分子配位子や液晶性高分子金属錯体は、極めて高い汎用性を有する材料として使用することができる。
【0052】
ここで、高分子配位子や液晶性高分子金属錯体の利用分野の一例について言及するならば、例えば、金属含有のプラスチックや繊維としての使用や、特殊染料や塗料としての使用、複合繊維や樹脂としての使用、異種樹脂の混合補助剤としての使用、金属イオン吸着体としての使用等を挙げることができる。
【0053】
金属含有のプラスチックや繊維としての用途の一つとしては、成形材料としての使用が考えられる。本実施形態に係る液晶性高分子金属錯体は、後に詳述するがネマチック液晶相を呈することから、特定方向において極めて高い強度を示す成形材料として使用可能であると共に、成型時において良好な流動性を呈することができる。また、遷移金属元素を含有していることから、良好な熱伝導性を示すプラスチックや繊維として利用したり、例えば遷移金属元素として銅などを採用することにより、高抗菌性を示すプラスチックや繊維として利用することができる。
【0054】
また、本実施形態に係る高分子配位子や液晶性高分子金属錯体は、特殊染料や塗料としても利用することができる。本実施形態に係る高分子配位子を遷移金属イオンに配位させて液晶性高分子金属錯体を形成することにより、この遷移金属イオンに特有の色を呈する染料や塗料として使用することができる。また、液晶性を有することから、更に構造色を付加することも可能である。
【0055】
また、本実施形態に係る高分子配位子や液晶性高分子金属錯体は、複合繊維や樹脂としても利用することができる。例えば、湿式紡糸において、凝固液中に錯形成可能な遷移金属イオンを混在させておき、本実施形態に係る高分子配位子繊維を紡糸することで繊維表面が錯形成されることとなるため、例えば、金属光沢を有する繊維や抗菌性を呈する繊維を形成することができる。また樹脂の場合には、成形後に金属塩溶液中に浸すことで、樹脂中心部とは異なる性質の表面部を有する樹脂成形体を形成することも可能である。
【0056】
また、本実施形態に係る高分子配位子や液晶性高分子金属錯体は、異種樹脂の混合補助剤としても利用することができる。例えば、本実施形態に係る高分子配位子を第1の樹脂とし、錯形成能を有する他の樹脂を第2の樹脂とした場合、遷移金属元素を介して錯形成しつつ混合することで、異なる高分子同士の複合や分散化を容易に行うことができる。
【0057】
また、本実施形態に係る高分子配位子や液晶性高分子金属錯体は、金属イオン吸着体としても利用することができる。例えば、本実施形態に係る高分子配位子をシート状に加工し、被験対象物に接触させて色の変化を検出することにより、被験対象物に存在する金属イオンの存在を検出することができる。
【0058】
このように、本実施形態に係る高分子配位子や液晶性高分子金属錯体は、極めて汎用性の高い材料として利用することができる。
【0059】
また、本実施形態に係る液晶性高分子金属錯体は、前述の一般式[IV]にて表される本実施形態に係る高分子配位子と、遷移金属元素のイオンとを混合して、高分子配位子が有するアミノ基及びウレタン結合を遷移金属元素のイオンに配位させることで製造することができる。
【0060】
より具体的には、例えば、高分子配位子と遷移金属のイオンとの混合は、高分子配位子を溶媒中に溶解又は分散させた高分子配位子含有液と、遷移金属の塩類を溶媒に溶解させた塩類溶液とを混合して行うようにしても良い。このような方法によ
れば、比較的容易かつ速やかに液晶性高分子金属錯体を製造することができる。なお、以下の説明において、このような調製方法を溶液混合法とも称する。
【0061】
また、別の方法として、例えば、高分子配位子と遷移金属のイオンとの混合は、粉体状又は固体状の高分子配位子と、遷移金属の塩類を溶媒に溶解させた塩類溶液とを接触させて行うようにしても良い。このような方法によれば、高分子配位子の所望する部位に本実施形態に係る液晶性高分子金属錯体を形成することができる。なお、以下の説明において、このような調製方法を接触法とも称する。
【0062】
また、別の方法として、例えば、高分子配位子と遷移金属のイオンとの混合は、加熱することにより流動性を有する状態とした高分子配位子と、遷移金属の塩類とを混練して行うようにしても良い。このような方法によれば、溶媒を使用することなく、液晶性高分子金属錯体を製造することができる。なお、以下の説明において、このような調製方法を混練法とも称する。
【0063】
このような液晶性高分子金属錯体の製造方法によれば、前述の一般式[IV]にて表される高分子配位子と、遷移金属元素のイオンとを混合して、高分子配位子が有するアミノ基及びウレタン結合を遷移金属元素のイオンに配位させること、より具体的には、溶液混合法や、接触法、混練法等によって液晶性高分子金属錯体を比較的容易に効率良く製造することができる。
【0064】
なお、本実施形態に係る高分子配位子の配位対象となる遷移金属原子は特に限定されるものではない。
【0065】
以下、本実施形態に係る高分子配位子や液晶性高分子金属錯体及びこれらの製造方法について、図面を参照しつつ詳説する。
【0066】
〔1.高分子配位子の調製〕
まず、本実施形態に係る高分子配位子の調製について説明する。ここでは、メソゲン基を有するジオールとしての4,4'-ビス(6-ヒドロキシヘキシルオキシ)ビフェニルと、アミノ基を有するジオールとしてのN-メチルジエタノールアミンと、これら2つのジオールの間でウレタン結合を形成するジイソシアナートとしてのジイソシアン酸トルエンとを用いることにより、本実施形態に係る高分子配位子としてのコポリウレタンの合成を行った。
【0067】
具体的には、100mlの乾燥したナスフラスコ中にて、0.5gのメソゲンジオール(s=6, t=6, R2=none: 6B6)と0.154gのメチルジエタノールアミンとを3mlのN-メチルピロリドンに溶解させた。ナスフラスコ内を乾燥窒素で満たした後、3mlのN-メチルピロリドンに溶解させた0.451gの2,4−トリレンジイソシアナートをシリンジで加え均一の溶液にした。この反応液に硬化触媒として0.03mlのジブチルスズラウリラートをシリンジで加え、室温で24時間撹拌反応させた。
【0068】
次に、反応液を100mlのメタノールに投入し、コポリウレタンを沈殿させ、ろ別後減圧乾燥し、
図1に示すコポリウレタン(n=0.5)を0.5g得た。以下、このコポリウレタンをLCPU[6Bp6/NMe0.5]と称する。このLCPU[6Bp6/NMe0.5]は、第1の単位構造と第2の単位構造との存在割合が0.5:0.5のランダムコポリマーである。
【0069】
また同様にして、第1の単位構造と第2の単位構造との存在割合を0.67:0.33としたLCPU[6Bp6/NMe0.33]の調製も行った。
【0070】
具体的には、100mlの乾燥したナスフラスコ中にて、0.5gのメソゲンジオール(s=6, t=6, R2=none: 6B6)と77mgのメチルジエタノールアミンとを3mlのN-メチルピロリドンに溶解させた。ナスフラスコ内を乾燥窒素で満たした後、3mlのN-メチルピロリドンに溶解させた0.338gの2,4−トリレンジイソシアナートをシリンジで加え均一の溶液にした。この反応液に硬化触媒として0.03mlのジブチルスズラウリラートをシリンジで加え、室温で24時間撹拌反応させた。次に、反応液を100mlのメタノールに投入し、コポリウレタンを沈殿させ、ろ別後減圧乾燥し、
図1に示すコポリウレタン(n=0.33)を0.4g得た。
【0071】
〔2.高分子配位子の熱的性質〕
次に、上記〔1.高分子配位子の調製〕にて得られたLCPU[6Bp6/NMe0.5]に関し、熱的性質について確認を行った。その結果を
図2に示す。
【0072】
図2の下方に示したDSC曲線からも分かるように、LCPU[6Bp6/NMe0.5]のガラス転移温度は約50℃であることが示された。なお、本実施形態に係る高分子配位子では、一般式[IV]に記載したメソゲン基及びその近傍であるR2の構造やs及びtの値を本発明の思想の範囲内において適宜変更することにより、このガラス転移温度を調整することは可能である。付言すれば、本実施形態に係る高分子配位子は、製造現場の要望等に応じて、適宜ガラス転移温度を設計変更することができる。
【0073】
〔3.液晶性高分子金属錯体の調製〕
次に、前述の〔1.高分子配位子の調製〕にて得られたLCPU[6Bp6/NMe0.33]を用いて、本実施形態に係る液晶性高分子金属錯体の合成を行った。ここでは、遷移金属元素の供給源として、塩化銅二水和物を用いた。
【0074】
まず、20ml容量のガラス製サンプル管に、
図3の上部に示すLCPU[6Bp6/NMe0.33](0.15mmol:繰り返し単位を1分子として計算)を入れ、5mlのテトラヒドロフラン(Tetrahydrofuran:THF)に溶解させた。
【0075】
次に、このコポリウレタンのTHF溶液に対し、2mlのTHFに0.15mmolの塩化銅二水和物を溶かした溶液を滴下し、溶液混合法によりゲル状物質を析出させた。
【0076】
析出したゲル状物質をTHFで数回洗浄し、洗浄溶液が着色しなくなった後取り出して乾燥させることにより、液晶性高分子金属錯体を得た。
【0077】
また、同様の操作を行うことにより、LCPU[6Bp6/NMe0.5]についても銅イオンに配向させることにより液晶性高分子金属錯体の調製を行った。
【0078】
〔4.液晶性高分子金属錯体の熱的性質〕
次に、上記〔3.液晶性高分子金属錯体の調製〕にて得られたLCPU[6Bp6/NMe0.5]由来の液晶性高分子金属錯体に関し、熱的性質について検証を行った。その結果を
図4に示す。
【0079】
図4に示すDSC曲線からも分かるように、錯形成前である高分子配位子としてのLCPU[6Bp6/NMe0.5]のガラス転移温度は約50℃であったが、錯形成後は約30℃ほど上昇して約80℃となった。
【0080】
また、
図4の上下に示した偏光顕微鏡像からも分かるように、LCPU[6Bp6/NMe0.5]由来の液晶性高分子金属錯体は、エナンチオトロピックネマチック相が観察された。このことは、本発明者らが過去に提案したスメクチック相を形成する液晶性高分子金属錯体と比較して、成形加工等の際に優れた流動性を呈することを示している。
【0081】
また、LCPU[6Bp6/NMe0.5]由来の液晶性高分子金属錯体は、室温状態においても液晶配向構造が保持されることが示された。このことは、例えば成形加工後において、その成形加工品の寸法等が経時変化しにくいことを示しており、精密加工用樹脂としての有用性も示唆している。
【0082】
〔5.相転移温度〕
〔1.高分子配位子の調製〕にて得られた2種の高分子配位子(LCPU[6Bp6/NMe0.33]及びLCPU[6Bp6/NMe0.5])及び、〔3.液晶性高分子金属錯体の調製〕にて得られた2種の液晶性高分子金属錯体(LCPU[6Bp6/NMe0.33]とCu
2+で構成した液晶性高分子金属錯体及びLCPU[6Bp6/NMe0.5]とCu
2+で構成した液晶性高分子金属錯体)について、それぞれの相転移温度一覧を
図5に示す。
【0083】
図5からも分かるように、錯形成前である高分子配位子としてのLCPU[6Bp6/NMe0.33]は、ガラス転移温度が70.0℃、融点が96.0℃であり、液晶性を示すことはなかったが、錯形成させることにより、ガラス転移温度は91.9℃と21.9℃上昇した。また、液晶−等方相転移温度は126.1℃であり、ネマチック液晶となることが示された。
【0084】
また、錯形成前である高分子配位子としてのLCPU[6Bp6/NMe0.5]は、ガラス転移温度が50.0℃、融点が70.0℃であり、液晶性を示すことはなかったが、錯形成させることにより、ガラス転移温度は82.8℃と32.8℃上昇した。また、液晶−等方相転移温度は117.9℃であり、ネマチック液晶となることが示された。
【0085】
これらのことから、本実施形態に係る高分子配位子は、錯形成前は液晶性を示さない(自己秩序化能をもたない)が、金属錯体形成後、すなわち本実施形態に係る液晶性高分子金属錯体は、液晶性を示し、転移温度も錯形成前より上昇することが示された。
【0086】
〔6.液晶性に関する考察〕
図6は、これまでの検証結果や本発明者らがこれまでに行ってきた膨大な実験経験等を踏まえた上で本実施形態に係る高分子配位子や液晶性高分子金属錯体についてまとめた説明図である。
図6に示すように、例えばLCPU[6Bp6]の如きアミノ基を有しないホモポリマーでは、液晶性を示すものの、錯形成しない。すなわち、高分子配位子として機能しない。
【0087】
一方、本実施形態に係る高分子配位子は、錯形成前である高分子配位子の状態では、液晶性を示さない。
【0088】
そして、この高分子配位子に対して遷移金属元素イオンを供給することにより、高分子配位子のアミノ基とウレタン結合とが配位して、錯形成することとなる。
【0089】
すなわち、本実施形態に係る高分子配位子は、液晶を形成しないことにより、等方的な樹脂やフィルムの作製が容易となる。また、この樹脂やフィルムの表面に金属塩溶液を塗布するなどして付着させることで、異方性配向を実現できる。この場合、片面は非液晶その逆側は液晶で連続的に非液晶から液晶状態への遷移がある傾斜材料を容易に構築することもできる。
【0090】
また、この錯形成によって生じた本実施形態に係る液晶性高分子金属錯体は、ネマチック液晶を示すことで、従来の液晶性高分子金属錯体に比して、極めて加工性に優れた樹脂材料として利用可能であることが示された。
【0091】
〔7.モデル化合物を用いた錯形成能の検証〕
次に、アミノ基とウレタン結合との両方を備えるモデル化合物と、このモデル化合物と同様にアミノ基を備えるがウレタン結合の部分がエステル結合に置換されているモデル化合物との2つのモデル化合物を用いて、ウレタン結合の有無による錯形成能の違いについて検証を行った。
【0092】
具体的には、
図7においてDUで示す化合物(アミノ基とウレタン結合とを有するモデル化合物)と、DEで示す化合物(アミノ基とエステル結合とを有するモデル化合物)とを用い、それぞれをTHFに溶解させて溶液状とし、遷移金属イオン含有溶液を添加して錯形成するか否かについて確認を行った。
【0093】
その結果、
図7の表に示すように、DEでは金属錯体の沈殿は観察されなかったが、DUでは遷移金属イオンとの反応によって金属錯体が沈殿した。
【0094】
この結果から、ウレタン結合のN-H基が錯形成に重要であることが示唆された。また、アミノ基を持たないホモポリウレタンにおいても錯形成が起きないことより、アミノ基とウレタン結合の2つの官能基が相乗的に機能することが、金属錯体の形成に必要であることが示された。
【0095】
〔8.高分子金属錯体の液晶性に関するまとめ〕
図8は、LCPU[6Bp6/NMe0.33]を用いて形成した液晶性高分子金属錯体とLCPU[6Bp6/NMe0.5]を用いて形成した液晶性高分子金属錯体とについて、その液晶温度範囲と光学組織を示した説明図である。
【0096】
図8からも分かるように、アミン導入率が0.33、すなわち、第1の単位構造と第2の単位構造とで構成される高分子配位子における第2の単位構造の構成割合を33%としたLCPU[6Bp6/NMe0.33]を遷移金属元素に配位させて形成した液晶性高分子金属錯体の液晶温度範囲は91.9℃〜126.1℃であり、この温度範囲の所定温度にて左に示す光学組織が観察された。
【0097】
また、アミン導入率が0.5、すなわち、第1の構成単位の構成割合と第2の構成単位の構成割合とをそれぞれ50%としたLCPU[6Bp6/NMe0.5]で形成した液晶性高分子金属錯体の液晶温度範囲は82.8℃〜117.9℃であり、この温度範囲の所定温度にて左に示す光学組織が観察された。
【0098】
なお、本実施形態に係る高分子配位子や液晶性高分子金属錯体は、この第1の単位構造と第2の単位構造との構成割合を適宜調整することで、現実的な用途に応じた性質を有するよう変更可能であることも特徴の一つである。
【0099】
例えば、アミン導入率を低下させることにより、アミン導入率の高い液晶性高分子金属錯体に比して、錯形成に利用される金属量を減少させることもできる。このことは、一例を挙げるならば、熱伝導性樹脂の熱伝導効率を任意に変更できることを示唆している。
【0100】
特に、本実施形態に係る高分子配位子の製造方法では、メソゲン基あるいはフェニレン基を有するジオールと、アミノ基を有するジオールと、前記ジオールとの間でウレタン結合を形成するジイソシアナートと、の三種を共重合させることにより合成するため、第1の単位構造と第2の単位構造との構成割合を容易に変更させることができる。
【0101】
上述してきたように、本実施形態に係る高分子配位子によれば、メソゲン基あるいはフェニレン基を有するジオールと、アミノ基を有するジオールと、前記ジオールとの間でウレタン結合を形成するジイソシアナートと、の三種を共重合させることにより合成したコポリウレタンよりなる高分子配位子としたため、遷移金属元素と錯体を形成することができ、また、錯形成することで液晶性を示し、さらには、錯形成した際に優れた流動性を示すことのできる高分子配位子を提供することができる。
【0102】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。