(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6761623
(24)【登録日】2020年9月9日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】食品用抗酸化剤
(51)【国際特許分類】
A23L 3/3544 20060101AFI20200917BHJP
A23L 3/3499 20060101ALI20200917BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20200917BHJP
A21D 13/60 20170101ALI20200917BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20200917BHJP
【FI】
A23L3/3544
A23L3/3499
A23D9/00 506
A23D9/00 502
A21D13/60
A21D13/80
【請求項の数】20
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-163340(P2015-163340)
(22)【出願日】2015年8月21日
(65)【公開番号】特開2017-38570(P2017-38570A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2018年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】510179157
【氏名又は名称】木村 修一
(73)【特許権者】
【識別番号】399091061
【氏名又は名称】ヤマザキビスケット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】木村 修一
(72)【発明者】
【氏名】堤 克二
(72)【発明者】
【氏名】大石 憲孝
【審査官】
伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−155671(JP,A)
【文献】
特表2015−514435(JP,A)
【文献】
特表2015−514131(JP,A)
【文献】
特開2015−134867(JP,A)
【文献】
特開2008−092869(JP,A)
【文献】
特開平06−248267(JP,A)
【文献】
特表2013−537036(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/054627(WO,A1)
【文献】
特開2005−042221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/00
A23L 3/00
A21D 13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ジヒドロケルセチンと(B)グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びレシチンから選ばれる1種又は2種以上の乳化剤とを含有する、油脂含有食品用又は加熱調理用の油脂に添加するための食品用抗酸化剤であって、(B)乳化剤と(A)ジヒドロケルセチンの質量比(B/A)が、1〜300であり、油脂に対して(A)ジヒドロケルセチンを0.01〜0.3質量%、(B)乳化剤を0.02〜3質量%で配合されるものである、食品用抗酸化剤(但し、乳化剤がヘキサグリセリン縮合リシノレート、クエン酸モノオレイン酸グリセリン、コハク酸モノステアリン酸グリセリン、又はプロプレングリコールモノオレエートであるとき、油脂に対して(A)ジヒドロケルセチンを0.01〜0.1質量%で配合される)。
【請求項2】
油脂に対して(A)ジヒドロケルセチンを0.01〜0.1質量%、(B)乳化剤を0.02〜3質量%で配合される、請求項1記載の食品用抗酸化剤。
【請求項3】
(B)乳化剤と(A)ジヒドロケルセチンの質量比(B/A)が、5〜300である請求項1又は2記載の食品用抗酸化剤。
【請求項4】
(B)乳化剤と(A)ジヒドロケルセチンの質量比(B/A)が、10〜300である請求項1〜3のいずれか1項記載の食品用抗酸化剤。
【請求項5】
(B)乳化剤が、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる1種又は2種以上である請求項1〜4のいずれか1項記載の食品用抗酸化剤。
【請求項6】
前記油脂含有食品が、焼き菓子類、蒸し菓子、揚げ菓子、加熱調理食品のいずれかである、請求項1〜5のいずれか1項記載の食品用抗酸化剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の食品用抗酸化剤を含有する油脂。
【請求項8】
請求項7記載の油脂を含有する食品。
【請求項9】
菓子類又は加熱調理食品である請求項8記載の食品。
【請求項10】
焼き菓子類又はフライ食品である請求項8又は9記載の食品。
【請求項11】
油脂含有食品用又は加熱調理用の油脂に(A)ジヒドロケルセチンと(B)グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びレシチンから選ばれる1種又は2種以上の乳化剤とを、(B)乳化剤と(A)ジヒドロケルセチンの質量比(B/A)を1〜300で、油脂に対して(A)ジヒドロケルセチンを0.01〜0.3質量%、(B)乳化剤を0.02〜3質量%で配合することを特徴とする、油脂の酸化安定性向上方法(但し、乳化剤がヘキサグリセリン縮合リシノレート、クエン酸モノオレイン酸グリセリン、コハク酸モノステアリン酸グリセリン、又はプロプレングリコールモノオレエートであるとき、油脂に対して(A)ジヒドロケルセチンを0.01〜0.1質量%で配合する)。
【請求項12】
油脂に対して(A)ジヒドロケルセチンを0.01〜0.1質量%、(B)乳化剤を0.02〜3質量%配合する請求項11記載の油脂の酸化安定性向上方法。
【請求項13】
(B)乳化剤と(A)ジヒドロケルセチンの質量比(B/A)が、5〜300である請求項11又は12記載の油脂の酸化安定性向上方法。
【請求項14】
(B)乳化剤と(A)ジヒドロケルセチンの質量比(B/A)が、10〜300である請求項11〜13のいずれか1項記載の油脂の酸化安定性向上方法。
【請求項15】
前記油脂含有食品が、焼き菓子類、蒸し菓子、揚げ菓子、加熱調理食品のいずれかである、請求項11〜14記載の油脂の酸化安定性向上方法。
【請求項16】
油脂含有食品の製造工程において、(A)ジヒドロケルセチンと(B)グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びレシチンから選ばれる1種又は2種以上の乳化剤とを、(B)乳化剤と(A)ジヒドロケルセチンの質量比(B/A)を1〜300で、油脂に対して(A)ジヒドロケルセチンを0.01〜0.3質量%、(B)乳化剤を0.02〜3質量%で配合する工程を含む、油脂含有食品の製造法(但し、乳化剤がヘキサグリセリン縮合リシノレート、クエン酸モノオレイン酸グリセリン、コハク酸モノステアリン酸グリセリン、又はプロプレングリコールモノオレエートであるとき、油脂に対して(A)ジヒドロケルセチンを0.01〜0.1質量%で配合する)。
【請求項17】
油脂に対して(A)ジヒドロケルセチンを0.01〜0.1質量%、(B)乳化剤を0.02〜3質量%で配合する、請求項16記載の油脂含有食品の製造法。
【請求項18】
(B)乳化剤と(A)ジヒドロケルセチンの質量比(B/A)が、5〜300である請求項16又は17記載の油脂含有食品の製造法。
【請求項19】
(B)乳化剤と(A)ジヒドロケルセチンの質量比(B/A)が、10〜300である請求項16〜18のいずれか1項記載の油脂含有食品の製造法。
【請求項20】
前記油脂含有食品が、焼き菓子類、蒸し菓子、揚げ菓子、加熱調理食品のいずれかである、請求項16〜19記載の油脂含有食品の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品用抗酸化剤、油脂の酸化安定性向上方法及び油脂含有食品の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
バター、マーガリン等の油脂類、油脂を多量に配合したケーキ類、ビスケット、クッキー、クラッカー等の焼き菓子類、さらにポテトチップス等のフライ食品等は、油脂を含有することによる良好な味を有する反面、油脂の酸化による劣化が大きな問題となっている。油脂の酸化が進行すると、これらの食品の味や匂い、食感なども低下する。
【0003】
かかる観点から、油脂及び油脂含有食品には、多くの酸化防止技術が施されている。例えば、容器や包装中に酸化防止剤を封入する方法、種々の酸化防止剤、例えばビタミンC、エリソルビン酸、カテキン、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン等を添加する方法等が広く採用されている(非特許文献1)。また、カテキンに代表される茶ポリフェノールには、酸化防止効果があることが知られており、乳化剤とともに配合して製菓用油脂、冷菓用油脂として使用することが報告されている(特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】東京都福祉保健局 食品衛生の窓「東京都の食品安全情報サイト」
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−33335号公報
【特許文献2】特開2015−15907号公報
【特許文献3】特開昭63−135483号公報
【特許文献4】特開2000−229118号公報
【特許文献5】特開平6−65074号公報
【特許文献6】特開平6−248267号公報
【特許文献7】特開2008−92869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の酸化防止剤では、油脂の酸化劣化に対する効果が十分でないという問題があり、安全かつ十分な効果を有する食品の酸化安定性向上手段が望まれていた。
従って、本発明の課題は、新たな食品の酸化安定性向上手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、強い抗酸化能を有することが知られているジヒドロケルセチン(特許文献5〜7)に着目して油脂及び油脂含有食品の酸化安定化効果について検討してきたところ、ジヒドロケルセチンと乳化剤とを併用すれば、種々の油脂及び油脂含有食品の酸化安定性が顕著に向上し、かつ味や外観も良好であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔17〕を提供するものである。
【0009】
〔1〕(A)ジヒドロケルセチンと(B)乳化剤とを含有する食品用抗酸化剤。
〔2〕(B)乳化剤が、油脂とともに180℃、30分加熱後のジヒドロケルセチンの変化率を10%以上とする乳化剤である〔1〕記載の食品用抗酸化剤。
〔3〕(B)乳化剤と(A)ジヒドロケルセチンの質量比(B/A)が、0.5〜300である〔1〕又は〔2〕記載の食品用抗酸化剤。
〔4〕(B)乳化剤と(A)ジヒドロケルセチンの質量比(B/A)が、10〜300である〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の食品用抗酸化剤。
〔5〕(B)乳化剤が、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる1種又は2種以上である〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の食品用抗酸化剤。
〔6〕食用油脂用抗酸化剤又は油脂含有食品用抗酸化剤である〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の食品用抗酸化剤。
〔7〕〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の食品用抗酸化剤を含有する油脂。
〔8〕〔7〕記載の油脂を含有する食品。
〔9〕菓子類又は加熱調理食品である〔8〕記載の食品。
〔10〕焼き菓子類又はフライ食品である〔8〕又は〔9〕記載の食品。
〔11〕油脂に(A)ジヒドロケルセチンと(B)乳化剤とを配合することを特徴とする油脂の酸化安定性向上方法。
〔12〕油脂に対して(A)ジヒドロケルセチンを0.005〜0.3質量%、(B)乳化剤を0.01〜5質量%配合する〔11〕記載の油脂の酸化安定性向上方法。
〔13〕(B)乳化剤と(A)ジヒドロケルセチンの質量比(B/A)が、0.5〜300である〔11〕又は〔12〕記載の油脂の酸化安定性向上方法。
〔14〕(B)乳化剤と(A)ジヒドロケルセチンの質量比(B/A)が、10〜300である〔11〕〜〔13〕のいずれかに記載の油脂の酸化安定性向上方法。
〔15〕油脂含有食品の製造工程において、(A)ジヒドロケルセチンと(B)乳化剤とを配合する工程を含む、油脂含有食品の製造法。
〔16〕(B)乳化剤と(A)ジヒドロケルセチンの質量比(B/A)が、0.5〜300である〔15〕記載の油脂含有食品の製造法。
〔17〕(B)乳化剤と(A)ジヒドロケルセチンの質量比(B/A)が、10〜300である〔15〕又は〔16〕記載の油脂含有食品の製造法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長期間酸化劣化を生じず、味や外観の変化しない油脂及び油脂含有食品が安全かつ安定して得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の食品用抗酸化剤は、(A)ジヒドロケルセチンと(B)乳化剤とを含有する。
【0012】
本発明に用いられるジヒドロケルセチンは、下記式(1)の構造を有するフラボノイドの一種である。
【0014】
当該ジヒドロケルセチンは、化学合成によって得ることもできるが、ジヒドロケルセチンを含有する植物からの抽出物を用いてもよい。ジヒドロケルセチンを含有する植物としては、例えばマツ科に属する植物が挙げられ、このうちマツ属(Pinus)又はカラマツ属(Larix kaempferi)に属する植物が好ましく、具体的にはシベリアカラマツ、ダウールカラマツ、シベリアマツ、ヨーロッパアカマツ、エゾマツ等が挙げられる。市販品としては、ジクベルチン(株式会社坂本バイオ製)が挙げられる。
【0015】
前記植物の抽出部位としては、樹皮及び木質部等が挙げられるが、形成層を含む木質部が好ましい。シベリアカラマツ等のマツの木質部には多量のジヒドロケルセチンが含まれるので、抽出部位としてはマツの形成層を含む木質部が特に好ましい。
【0016】
抽出方法は、有機溶媒、水又はこれらの混合溶媒による抽出方法が好ましい。用いられる溶媒としては、水、エタノール、酢酸エチル、アセトン、これらの混合溶媒等が挙げられるが、安全性等の点で水、エタノール又はこれらの混合溶媒がより好ましい。より好ましい抽出方法としては、例えば、木質部又は形成層を含む木質部を細切りし、水、エタノール又は水−エタノール混合液で熱時(例えば50〜100℃)抽出すればよい。必要に応じて、さらに濃縮し、蒸留、再結晶等により精製してもよい。
【0017】
ジヒドロケルセチンを含有する植物抽出物を用いる場合、当該抽出物中のジヒドロケルセチン濃度は50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。なお、当該抽出物中のジヒドロケルセチン濃度の上限は100質量%である。
【0018】
(A)ジヒドロケルセチンは、十分な酸化安定化効果を得る点及び味の点から、油脂に対して0.005〜0.3質量%含有させるのが好ましく、0.01〜0.3質量%含有させるのがより好ましく、0.01〜0.2質量%含有させるのがさらに好ましい。
【0019】
本発明に用いられる(B)乳化剤は、食品に使用できる乳化剤であれば限定されないが、油脂とともに180℃、30分加熱後のジヒドロケルセチンの変化率を10%以上とする乳化剤が、油脂に対する酸化安定化効果の点で好ましい。当該条件でのジヒドロケルセチンの変化率を12%以上とする乳化剤がより好ましく、当該条件でのジヒドロケルセチンの変化率を15%以上とする乳化剤がさらに好ましく、25%以上とする乳化剤が最も好ましい。なお、当該条件でのジヒドロケルセチンの変化率の上限は80%が好ましい。
【0020】
(B)乳化剤の例としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。このうち、酸化安定化効果の点から、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる1種又は2種以上がより好ましい。
また、これらの乳化剤のうち、酸化安定化効果及び油脂への溶解性の点から、HLB値が9以下の乳化剤が好ましく、HLB値が8.5以下の乳化剤がより好ましく、HLB値が8以下の乳化剤がさらに好ましい。なお、HLB値の下限は0.5が好ましい。
さらに、(B)乳化剤の好ましい例としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種又は2種以上であり、かつHLB値が9以下の乳化剤が好ましい。ここでHLB値は8.5以下がより好ましく、8以下がさらに好ましい。なお、HLB値はグリフィン法で求められる値である。
【0021】
グリセリン脂肪酸エステルとしては、モノグリセリン脂肪酸エステル(モノグリセリド)、有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。より具体的には、モノグリセリンC
8−C
24脂肪酸エステル、酢酸モノグリセリンC
8−C
24脂肪酸エステル、クエン酸モノグリセリンC
8−C
24脂肪酸エステル、コハク酸モノグリセリンC
8−C
24脂肪酸エステル、ジアセチル酒石酸モノグリセリンC
8−C
24脂肪酸エステル、乳酸モノグリセリンC
8−C
24脂肪酸エステルが挙げられる。
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンが2〜10個縮合したポリグリセリンに脂肪酸がエステル結合した化合物や、リシノール酸を3〜5個縮合したポリリシノール酸をポリグリセリンに結合した化合物であるポリグリセリン縮合リシノール酸が挙げられ、ポリグリセリンC
8−C
24脂肪酸エステルが好ましい。ポリグリセリンの縮合度、脂肪酸エステル化率等により多くの種類があり、HLB値が調整される。
ショ糖脂肪酸エステルとしては、ショ糖C
8−C
24脂肪酸エステルが挙げられる。
乳化剤は、特に酸化安定性が良好であるという観点から、ポリグリセリン脂肪酸エステル(ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル)、グリセリン脂肪酸エステル(有機酸モノグリセリン脂肪酸エステル、モノグリセリド)、ショ糖脂肪酸エステルが好ましい。
また本発明の食品用抗酸化剤は油脂に添加しフライ油として用いる際に褐変しづらいという観点からは、グリセリン脂肪酸エステル(有機酸モノグリセリン脂肪酸エステル、モノグリセリド)が好ましい。
【0022】
(B)乳化剤は、十分な酸化安定化効果を得る点及び味の点から、油脂に対して0.01〜5質量%含有させるのが好ましく、0.02〜5質量%含有させるのがより好ましく、0.05〜5質量%含有させるのがさらに好ましい。
【0023】
(B)乳化剤と(A)ジヒドロケルセチンの質量比(B/A)は、十分な酸化安定化効果を得る点及び味の点から、0.5〜300が好ましく、5〜300がより好ましく、10〜300がさらに好ましく、10〜200がさらに好ましく、25〜200が最も好ましい。
【0024】
本発明の抗酸化剤は、食品用抗酸化剤であり、好ましくは食用油脂用抗酸化剤、油脂含有食品用抗酸化剤である。本発明の抗酸化剤は、食用油脂又は油脂含有食品に配合すればよいが、食用油脂に含有させるのが好ましい。従って、本発明の抗酸化剤を含有する油脂は、酸化安定性が向上した油脂となる。また、本発明の抗酸化剤を含有する油脂を含む食品は、酸化安定性が向上した食品となる。
【0025】
本発明の抗酸化剤が酸化安定化効果を示す油脂としては、食用油脂であればよく、動物油脂、植物油脂を問わず、例えば大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、コーン油、米油、オリーブ油、ゴマ油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、シソ油等の植物油、マグロ油、イワシ油等の魚油、ラード、牛脂、乳脂等の動物油や、これら分別油、エステル交換油脂等が挙げられる。
【0026】
また、食品、特に油脂含有食品としては、クッキーやビスケット(クラッカーを含む)ケーキ類等の焼き菓子類、蒸パン、蒸しケーキ、中華まん、蒸まんじゅう等の蒸し菓子、米菓、ドーナツ、チュロス等の揚げ菓子、アイスクリーム等の冷菓、加熱調理食品(ポテトチップス等のスナック菓子、フライドポテト、コロッケ、から揚げ、天ぷら等のフライ食品、お好み焼き、焼き肉などの焼き物、野菜炒め、焼きそばなどの炒め物、ソーセージやハンバーグ等の肉類、シチュー等)が挙げられる。このうち、油脂を加熱する工程を含む食品、例えば菓子類(クッキー、ビスケット、クラッカー、ケーキ等)、フライ食品、炒め物、焼き物、油脂をスプレーするスナック菓子、米菓等に用いるのが好ましく、さらに焼き菓子類(クッキー、ビスケット、クラッカー、ケーキ等)、フライ食品に用いるのがより好ましい。
【0027】
本発明において酸化安定性向上効果を得るには、油脂含有食品の製造工程の任意の工程で、前記成分(A)と成分(B)とを配合する工程を含めばよい。例えば油脂と成分(A)と成分(B)とを個別に配合すること、油脂に成分(A)、成分(B)のいずれか一方を添加し、いずれか一方を個別に配合すること、油脂に成分(A)と成分(B)とを配合する等を挙げることができる。また、焼き菓子類、フライ食品等の油脂の加熱工程を含む食品の場合には、焼き菓子類の練り込み用油脂や、フライ食品の揚げ油等の加熱調理用油脂の中に成分(A)及び成分(B)を添加しておくのが好ましい。
これらの油脂含有食品においても、(A)及び(B)の配合量、及び配合比は、前記抗酸化剤の場合と同様である。
【0028】
<食品用抗酸化剤を含有する油脂>
油脂としては、前述の油脂に成分(A)と成分(B)とを配合し得ることができる。油脂の製造方法としては、例えば成分(A)を分散させた油脂に、成分(B)を分散させる方法、成分(B)を分散させた油脂に、成分(A)を分散させる方法、成分(A)を分散させた油脂と、成分(B)を分散させた油脂とを混合する方法、成分(A)と成分(B)とを混合した混合物を油脂に分散させる方法等が挙げられる。また成分(A)の分散性を向上させるために、エタノール、アルコール製剤などのアルコールや、水に分散させて配合することもできる。水を添加する場合は、長期保存性を考慮すると、脱水処理し使用することが好ましい。中でも成分(A)の分散性がより向上し、均一な製品が得られ、また脱水処理等を行わず使用できるという観点から、成分(B)を分散させた油脂に、エタノールに分散させた成分(A)を配合する方法がより好ましい。
【0029】
本発明では、上記油脂を急冷混和し、可塑性油脂として使用することもできる。
また上記油脂に水相を添加した乳化物を急冷混和し、可塑性油脂とすることもできる。
水相を含有する乳化物の形態としては油中水型、水中油型、油中水中油型、水中油中水型が挙げられ、水相の含有量は、好ましくは0.6〜40質量%、より好ましくは2〜35質量%である。水相を含有する形態としては油中水型が好ましく、マーガリンが挙げられる。
また油脂を可塑性油脂とした形態としてはショートニングが挙げられる。
【0030】
可塑性油脂は、公知の方法により製造することができる。例えば本発明の油脂を含む油相を加熱し、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター、ネクサス等の冷却混合機により急冷捏和し得ることができる。また水相を含有する形態のものは、本発明の油脂を含む油相と水相とを適宜に加熱し混合して乳化した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター、ネクサス等の冷却混合機により急冷捏和し得ることができる。冷却混合機により急冷捏和後には、必要に応じて熟成(テンパリング)してもよい。
【0031】
本発明の油脂は、菓子に添加する場合は、菓子を製造する際の作業性と菓子へ均一に分散し、焼成品での酸化安定性がばらつくことがないという観点で可塑性油脂として添加することがより好ましい。
【0032】
本発明の油脂は、本発明の効果を損なわないものであれば、既知の酸化防止剤を併用する事が出来る。併用する酸化防止剤としては、天然及び合成された酸化防止剤が使用でき、例えば、各種トコフェロール類(α、β、γ、δ等)、L−アスコルビン酸ステアレート、L−アスコルビン酸パルミテート、エリソルビン酸ナトリウム、カテキン類等が挙げられる。
本発明の油脂は、必要に応じて、香料、色素、シリコーン等を添加することができる。
【実施例】
【0033】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0034】
実施例1
パーム油に表1、2の乳化剤を溶解した後、ジヒドロケルセチン(DHQ:ジクベルチン:株式会社坂本バイオ製(ジヒドロケルセチン91.3%含有))の1%(w/v)エタノール溶液をパーム油100gに対し2mL添加して撹拌し、試料1〜39を得た。
尚試料1は、パーム油のみ、試料2はDHQのエタノール溶液のみを添加したもの、試料3、39は油脂に乳化剤のみを添加したものである。
得られた試料のCDM(hr)、180℃に30分加熱後のDHQ量、DHQの変化率、180℃に加熱時の褐変の有無を評価した。その結果を表1〜表2に示す。
【0035】
(1)CDM
基準油脂分析法およびアメリカ油化学協会法に公定法として収載された油脂の酸化安定性の評価方法であり、油脂の酸化により発生した揮発性分解物を純水中に捕集して、その導電率を継続的に測定し急激に変化率が上昇する屈曲点までの時間を求める方法である。
[CDM試験(Conductometric Determination Method:ランシマット法]
基準油脂分析試験法 2.5.1.2−1996(日本油化学会編)によりCDM値を求めた。
具体的には、120℃に加熱した油脂に空気を吹き込み、酸化により生成した揮発性分解物を水中に捕集し、水の導電率が急激に変化する変曲点までの時間(hr)を調べた。CDM値が高いほど油脂の酸化安定性が高いことを示す。
【0036】
(2)DHQの測定方法
油脂中のDHQをアセトニトリル溶液で抽出し高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分析した。
カラム InertSustain C18(4.6mm×250mm×5μm) 検出器 DAD(288nm)
【0037】
(3)DHQ変化率:パーム油にDHQと各種乳化剤を添加して180℃に30分間加熱したときのDHQ残存量とDHQのみを添加した時の残存量の差をDHQのみを添加した時の残存量で除した値。
(乳化剤無添加加熱後のDHQ量−乳化剤添加加熱後のDHQ量)/加熱前乳化剤無添加のDHQ量×100
尚乳化剤無添加加熱後のDHQ量は194.9ppmであった。
【0038】
(4)180℃加熱時の褐変の有無
パーム油にDHQと各種乳化剤を添加し、180℃に30分加熱した時の褐変の有無を目視で判定した。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
実施例2
パーム油に対するDHQの添加量を変化させた場合(試料番号40〜54)の効果を実施例1と同様にして評価した。その結果を表3に示す。
尚試料40はパーム油のみ、試料41〜46はジヒドロケルセチン(DHQ:ジクベルチン(ジヒドロケルセチン91.3%含有))の1%(w/v)エタノール溶液を油脂100gに対し1mL添加し調整した。また試料47〜54はジヒドロケルセチン(DHQ:ジクベルチン(ジヒドロケルセチン91.3%含有))の5%(w/v)エタノール溶液を油脂100gに対し2mL添加し調整した。
【0042】
【表3】
【0043】
実施例3(試料番号55〜58)
混合油A(硬化油60質量%、パーム油30質量%、菜種油10質量%)に表4の割合で、DHQ、乳化剤を混合し、ショートニングを製造し、実施例1同様にCDM(hr)を測定した。
尚ジヒドロケルセチン(DHQ)は、ジクベルチン(ジヒドロケルセチン91.3%含有))の1%(w/v)エタノール溶液を油脂100gに対し2mL添加し調整した。
<ショートニングの作製>
混合油Aを70℃で溶解後、パーフェクターで急冷混和しショートニングを得た。(試料番号55)
混合油Aを70℃で溶解後、表4の乳化剤を添加し分散させた後、ジヒドロケルセチン(DHQ:ジクベルチン(ジヒドロケルセチン91.3%含有))の1%(w/v)エタノール溶液を油脂100gに対し2mL添加した。その後パーフェクターで急冷混和しショートニングを得た。(試料番号56〜58)
【0044】
【表4】
【0045】
実施例4
実施例3で製造したショートニング(試料番号55〜58)を用い下記配合でラングドシャを製造しラングドシャのCDM(hr)、ラングドシャのオーブンテストを行った。
<ラングドシャ配合>
ショートニング 100重量部
上白糖 80重量部
食塩 0.5重量部
バニラオイル 0.2重量部
全卵 80重量部
薄力粉 100重量部
【0046】
<製法>
ミキサーにショートニング、上白糖、食塩、バニラオイルを入れ、ビーターですり合わせた後、全卵を2回に分け添加しすり合わせ、薄力粉を軽く混ぜ合わせラングドシャ生地を得た。成形後175℃で8分焼成し、ラングドシャを製造した。
<CDM測定>
焼成したラングドシャ3枚を細かく砕き、3gを使用し焼成品のCDMを測定した。結果を表5に示す。
<オーブンテスト>
褐色蓋付きシャーレに細かく砕いたラングドシャを30g入れ、62℃の恒温槽で、油脂の劣化臭が発生するまでの日数を官能により評価した。結果を表5に示す。
【0047】
【表5】
【0048】
実施例5(試料番号59〜62)
混合油B(パーム油30質量%、サラダ油70質量%)に表4の割合で、DHQ、乳化剤を混合しフライ油を得た。
【0049】
実施例6
実施例5で製造したフライ油を用いフライドポテトを製造し、フライドポテトのCDM(hr)、オーブンテストを行った。
<フライドポテトの製造>
5mm角長さ10cmにスライスした生ポテトを180℃できつね色になるまでフライし、フライドポテトを得た。
<CDM測定>
フライドポテトを細かく砕き、3gを使用しフライドポテトのCDMを測定した。結果を表6に示す。
<オーブンテスト>
褐色蓋付きシャーレに細かく砕いたフライドポテトを30g入れ、62℃の恒温槽で、油脂の劣化臭が発生するまでの日数を官能により評価した。結果を表6に示す。
【0050】
【表6】
【0051】
表1〜表4から明らかなように、油脂にジヒドロケルセチンと乳化剤を配合することにより、CDM値が顕著に延長し、酸化安定性が向上することが判明した。また、油脂とともに180℃、30分加熱後のジヒドロケルセチンの変化率を10%以上とする乳化剤が、油脂の酸化安定性を向上させていることが判明した。
また、(B)乳化剤と(A)ジヒドロケルセチンの質量比(B/A)が5以上、さらに10以上、特に20以上の場合にCDM値が顕著に延長することが判明した。
【0052】
表5より、油脂にジヒドロケルセチンと乳化剤を配合したショートニングで製造したラングドシャは、油脂のみのショートニングで製造したラングドシャに比べ顕著にCDM値が延長することが判明した。またオーブンテストでは、ジヒドロケルセチンと乳化剤を配合したショートニングで製造したラングドシャは、油脂のみのショートニングで製造したラングドシャに比べ1.2倍以上の劣化耐性があることが判明した。
【0053】
表6より油脂にジヒドロケルセチンと乳化剤を配合したフライ油で製造したフライドポテトは、油脂のみのフライ油で製造したフライドポテトに比べ顕著にCDM値が延長することが判明した。また同様にオーブンテストにおいても、油脂にジヒドロケルセチンと乳化剤を配合したフライ油で製造したフライドポテトは、油脂のみのフライ油で製造したフライドポテトに比べ1.3倍以上の劣化耐性があることが判明した。
上記より、油脂だけでなく、油脂を用いた焼き菓子やフライ食品においても本発明は効果がある
【0054】
実施例7
油脂(パーム油)、乳化剤(ポリグリセリン脂肪酸縮合リシノール酸エステル)とジヒドロケルセチン又は茶ポリフェノール(カテキン)とを表7の割合で配合し、実施例1と同様にしてCDM測定を行った。その結果を表7に示す。
【0055】
【表7】
【0056】
表7より、ジヒドロケルセチンと乳化剤を併用した場合は、茶ポリフェノールと乳化剤とを併用した場合に比べて、油脂の酸化安定性向上効果に優れていることがわかる。
また、表7中のジヒドロケルセチンと乳化剤の混合物と、茶ポリフェノールと乳化剤の混合物との味を比較した結果、茶ポリフェノールと乳化剤の混合物は、苦みがあり、また飲み込んだ後も、舌に残存する苦みを感じたのに対し、ジヒドロケルセチンと乳化剤の混合物は、苦味がなく、また口中で舌に残る苦みも感じないことが判明した。