(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2金属酸化物層と前記透明保護層との光路長の合計が100nm〜150nmの範囲内であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の赤外線反射フィルム。
前記透明フィルム基材の、前記第1金属酸化物層を積層した側と反対側の面に、粘着剤層を設けたことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の赤外線反射フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0016】
[赤外線反射フィルム]
図1に示すように、赤外線反射フィルム1は、透明フィルム基材10の一方の主面上に、第1金属酸化物層11、赤外線反射層12、第2金属酸化物層13、及び透明保護層14が、この順に積層されたものである。赤外線反射フィルム1は、透明フィルム基材10と第1金属酸化物層11との間に、アンダーコートを有していてもよく、また、透明フィルム基材10の、第1金属酸化物層11を積層した側と反対側の主面に、粘着剤層16を有していてもよい。
【0017】
以下、本発明による赤外線反射フィルムに含まれる各層について、順次説明する。
【0018】
[透明フィルム基材]
透明フィルム基材10としては、可視光透過率が高く比較的薄い材料であれば、ガラスや樹脂などの任意の材料を使用することができ、例えば、可撓性の透明樹脂フィルム等を使用することができる。透明フィルム基材としては、可視光線透過率が80%以上のものが好適に用いられる。
【0019】
なお、本明細書において、透明フィルム基材や赤外線反射フィルムについての可視光線透過率は、JIS A5759−2008(建築窓ガラスフィルム)に準じて測定した場合の値を意味する。
【0020】
透明フィルム基材10の厚さは特に限定されないが、10μm〜300μm程度の範囲であるのが好適である。
透明フィルム基材10として特に樹脂材料を使用する場合、透明フィルム基材10の上に第1金属酸化物層11、赤外線反射層12、あるいは第2金属酸化物層13を形成される際に、高温での加工が行われる場合があるため、耐熱性に優れた樹脂材料を使用するのが好ましい。透明フィルム基材に使用する樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネート(PC)等が挙げられる。
【0021】
[ハードコート層]
赤外線反射フィルムの機械的強度を高める等の目的で、透明フィルム基材10の第1金属酸化物層11を形成する方の主面の表面に、アンダーコート15として、ハードコート層を設けてもよい。ハードコート層は、例えばアクリル系、シリコーン系等の紫外線硬化型樹脂などからなる硬化被膜を、透明フィルム基材10に塗布することなどにより形成することができる。ハードコート層としては、硬度の高いものが好ましい。
【0022】
透明フィルム基材10の表面、あるいは(存在する場合には)ハードコート層の表面には、第1金属酸化物層11との密着性を高める等の目的で、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、ケン化処理、カップリング剤による処理等の表面改質処理を行ってもよい。
【0023】
[赤外線反射層]
赤外線反射層12は、可視光線を透過させる一方、近赤外線及び遠赤外線を反射するものであって、通常は金属層である。本発明においては、可視光線透過率と赤外線反射率を高める観点から、銀層又は銀合金層、アルミニウム層、金層などが好適に用いられる。
銀は高い自由電子密度を有するため、近赤外線・遠赤外線の高い反射率を実現することができ、赤外線反射層12を構成する層の積層数が少ない場合でも、遮熱効果及び断熱効果に優れる赤外線反射フィルムが得られる。
【0024】
赤外線反射層12に銀を使用する場合、赤外線反射層12中の銀の含有量は、90重量%以上が好ましく、93重量%以上がより好ましく、95重量%以上がさらに好ましく、96重量%以上が特に好ましい。金属層中の銀の含有量を高めることで、透過率及び反射率の波長選択性を高め、赤外線反射フィルムの可視光線透過率を高めることができる。
【0025】
赤外線反射層12には、例えば、赤外線反射層12の耐久性を高めるために、銀合金を用いることとしてもよい。金属層の耐久性を高める目的で添加される金属としては、パラジウム(Pd),金(Au),銅(Cu),ビスマス(Bi),ゲルマニウム(Ge),ガリウム(Ga)等が好ましい。中でも、銀に高い耐久性を付与する観点から、Pdが最も好適に用いることができる。Pd等の添加量を増加させると、赤外線反射層12の耐久性が向上する傾向がある。赤外線反射層12が、Pd等の銀以外の金属を含有する場合、その含有量は、0.3重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がより好ましく、1重量%以上がさらに好ましく、2重量%以上が特に好ましい。一方で、Pd等の添加量が増加し、銀の含有量が低下すると、赤外線反射フィルムの可視光線透過率が低下する傾向がある。そのため、赤外線反射層12中の銀以外の金属の含有量は、10重量%以下が好ましく、7重量%以下がより好ましく、5重量%以下がさらに好ましく、4重量%以下が特に好ましい。
【0026】
赤外線反射層12の厚みは、可視光線を透過し近赤外線を選択的に反射するように、材料の屈折率等を勘案して適宜に設定すればよい。赤外線反射層12の厚みは、例えば、3nm〜50nmの範囲とすることができる。好ましくは、5〜25nmの範囲とすることができる。
赤外線反射層12の製膜方法は特に限定されないが、スパッタ法、真空蒸着法、CVD法、電子線蒸着法等のドライプロセスを好適に使用することができる。
【0027】
[金属酸化物層]
第1金属酸化物層11、第2金属酸化物層13は、赤外線反射層12との界面における可視光線の反射量を制御して、高い可視光線透過率と赤外線反射率とを両立させる等の目的で設けられる。また、第1金属酸化物層11、第2金属酸化物層13は、赤外線反射層12の劣化を防止するための保護層としても機能し得る。赤外線反射層における反射及び透過の波長選択性を高める観点から、第1金属酸化物層11、第2金属酸化物層13の可視光に対する屈折率は、1.5以上が好ましく、1.6以上がより好ましく、1.7以上がさらに好ましい。特に、第2金属酸化物層13の可視光に対する屈折率は、2.0以上であるのが好ましい。
【0028】
上記の屈折率を有する材料としては、Ti,Zr,Hf,Nb,Zn,Al,Ga,In,Tl,Ga,Sn等の金属の酸化物(TiO
x、Nb
2O
xなど)、あるいはこれらの金属の複合酸化物(ZTO、IZOなど)が挙げられる。特に、本発明においては、赤外線反射層12の透明保護層14側に設けられる第2金属酸化物層13として、酸化亜鉛と酸化錫とを含む複合金属酸化物(ZTO)を用いることが好ましい。酸化亜鉛及び酸化錫を含む金属酸化物は、化学的安定性(酸、アルカリ、塩化物イオン等に対する耐久性)に優れると共に、透明保護層14との密着性に優れるため、第2金属酸化物層13と透明保護層14が相乗的に作用して、赤外線反射層12に対する保護効果が高められる。
【0029】
金属酸化物層に亜鉛を使用する場合、金属酸化物層中の亜鉛原子の含有量は、金属酸化物層の耐久性や赤外線反射層12との密着性の観点、及びスパッタ法などによる製膜の容易性の観点などから、金属原子全量に対して、10原子%〜60原子%が好ましく、15原子%〜50原子%がより好ましく、20原子%〜40原子%がさらに好ましい。
【0030】
金属酸化物層に錫を使用する場合、金属酸化物層中の錫原子の含有量は、金属酸化物層の化学的耐久性などの観点、及びスパッタ法などによる製膜の容易性の観点などから、金属原子全量に対して30原子%〜90原子%が好ましく、40原子%〜85原子%がより好ましく、50原子%〜80原子%がさらに好ましい。
【0031】
本発明による赤外線反射フィルムにおいて、第2金属酸化物層13の厚さは、赤外線反射フィルムをガラス窓等の室内側(屋内側)に配置して用いた場合の顔映り防止などの観点から、30nm以下であり、好ましくは25nm以下である。第2金属酸化物層13の厚さをこの範囲とすることにより、屋内側の可視光反射率を低く抑えることができるため、赤外線反射フィルムを付設した窓に居住者等の顔などが映るのを有効に防止し、居住者等が不快感を覚えることの無いようにすることができる。第2金属酸化物層13の厚さは、通常は5nm以上あればよいが、本発明の場合、第1金属酸化物層の厚さとの関係を考慮する必要がある。
【0032】
本発明による赤外線反射フィルムでは、赤外線反射フィルムの遮熱性及び赤外線反射フィルムを付設したガラス窓の熱割れ防止などの観点から、第1金属酸化物層11の厚さが第2金属酸化物層13の厚さよりも薄い。第1金属酸化物層11の厚さと第2金属酸化物層13の厚さとの差は、2nm以上とするのがよい。第1金属酸化物層11と第2金属酸化物層13との厚さの関係をこのように設定することにより、赤外線反射フィルムの遮蔽係数を小さくすることができるため、赤外線反射フィルムを付設した窓を有する室内を夏涼しくしておくことが可能となるとともに、窓側の可視光線反射率が比較的高いものと考えられ、赤外線反射フィルムに吸収される熱が小さくなり、ガラス窓に熱が伝わりにくくなる。第1金属酸化物層11の厚さと第2金属酸化物層13の厚さとの差は、3nm以上、さらには、5nm以上としてもよい。
第1金属酸化物層11の厚さは、赤外線反射フィルムの低コスト化及び生産性の向上などの観点から、20nm未満であるのが好ましく、さらには15nm以下であるのが好ましい。第1金属酸化物層11の厚さは、薄いほど良いと考えられるが、3nm以上、さらには4nm以上あるのが望ましい。
第1金属酸化物層11は、単一又は複数の異なる金属酸化物からなる単層体又は1層より多数の層が積層された多層体から構成されるものとすることができる。赤外線反射フィルムのコスト及び生産性などの観点から、第1金属酸化物層11は、単層体であるのが好ましい。
【0033】
金属酸化物層の製膜方法は特に限定されないが、スパッタ法、真空蒸着法、CVD法、電子線蒸着法等のドライプロセスを好適に使用することができる。
図2に、本発明の一実施形態の赤外線反射フィルムの製造方法の一例を模式的に示す。
図2に示されているような、真空ポンプVACにより真空状態を維持することのできる真空室21内に繰出ロール22、成膜ロール(キャンロール)23、及び巻取ロール24を備える巻取式スパッタ装置では、所望によりハードコート層を設けた透明フィルム基材10を、繰出ロール22から成膜ロール23を経由して巻取ロール24へ搬送し、その際、それぞれ直流電源DCに接続され、冷却ステージSTを備える第1金属酸化物層形成用ターゲット25、赤外線反射層形成用ターゲット26、及び第2金属酸化物層形成用ターゲット27を用いて、透明フィルム基材10(存在する場合にはハードコート層の表面)の上に、第1金属酸化物層11、赤外線反射層12、及び第2金属酸化物層13を、順次積層する。
特に第1金属酸化物層11及び第2金属酸化物層13に使用する材料として、ZTOを選択する場合、高い製膜レートを実現する観点から、金属と金属酸化物とを含有するターゲットを用いたDCスパッタ法により製膜するのが好ましい。ZTOは導電性が小さいため、酸化亜鉛と酸化錫のみを含有する焼結ターゲットは抵抗率が高く、DCスパッタにより製膜することは困難である。また、亜鉛と錫とを含有する金属ターゲットを用いた反応性スパッタは、酸素雰囲気下で行われるため、金属層である赤外線反射層12上にZTOを製膜する際に、製膜下地層となる赤外線反射層12が過剰な酸素によって酸化され、赤外線反射層12の特性が低下するという問題を生じ得る。そのため、特に、赤外線反射層12上に第2金属酸化物層13としてZTOからなる金属酸化物層を製膜する場合は、酸化亜鉛と酸化錫と金属とを焼結させたターゲットを用いたDCスパッタ法により製膜を行うのが好ましい。
ターゲットは、好ましくは0.1重量%〜20重量%、より好ましくは0.2重量%〜15重量%の金属を、酸化亜鉛及び/又は酸化錫とともに焼結することによって形成したものが好ましい。ターゲット形成時の金属含有量が過度に小さいと、ターゲットの導電性が不十分となるためにDCスパッタによる製膜が困難となったり、赤外線反射層12との密着性が低下したりする場合がある。ターゲット形成時の金属含有量が過度に大きいと、製膜時に酸化されない残存金属や、酸素量が化学量論組成に満たない金属酸化物の量が多くなり、金属酸化物層の可視光線透過率が低下する傾向がある。ターゲットに含まれる金属としては、亜鉛及び/又は錫が好ましいが、それ以外の金属としてはTi,Zr,Hf,Nb,Al,Ga,In,Tl,Ga等の金属を含むものであってもよい。
【0034】
金属酸化物と金属とを焼結させたターゲットを用いて、ZTO金属酸化物層の製膜を行う場合、製膜室内への酸素導入量は、全導入ガス流量に対し8体積%以下が好ましく、5体積%以下がより好ましく、4体積%以下がさらに好ましい。酸素導入量を小さくすることで、第2金属酸化物層13製膜時の赤外線反射層12の酸化を防止することができる。酸素導入量は、金属酸化物層の製膜に用いられるターゲットが配置された製膜室への全ガス導入量に対する酸素の量(体積%)である。遮蔽板により区切られた複数の製膜室を備えるスパッタ製膜装置が用いられる場合は、それぞれの区切られた製膜室へのガス導入量を基準に酸素導入量が算出される。
【0035】
第1金属酸化物層11、赤外線反射層12、及び第2金属酸化物層13は、これら3つの層のみからなるものであってもよく、これら以外の層を含むものとしてもよい。例えば、赤外線反射層12と金属酸化物層11、13との密着性の向上や、赤外線反射層12への耐久性の付与等を目的として、赤外線反射層12と金属酸化物層11、13との間に他の金属層や金属酸化物層等を設けてもよい。また、第1金属酸化物層11の透明フィルム基材10側に、さらに金属層及び金属酸化物層を追加して積層数を増大させ、可視光線や近赤外線の透過及び反射の波長選択性を向上させることもできる。
【0036】
一方、生産性向上や製造コスト低減の観点からは、第1金属酸化物層11、赤外線反射層12、及び第2金属酸化物層13は、これら3つの層からなるのが好ましい。
【0037】
[透明保護層]
第2金属酸化物層13上には、金属酸化物層あるいは赤外線反射層の擦傷や劣化を防止する目的で、透明保護層14が設けられる。透明保護層14は、第2金属酸化物層13に直接接していてもよく、透明保護層14と第2金属酸化物層13との間に追加の他の層を設けてもよい。
【0038】
透明保護層14の材料としては、可視光線透過率が高く、機械的強度及び化学的強度に優れるものが好ましい。透明保護層14の材料としては、有機物が好適に用いられる。有機物としては、フッ素系、アクリル系、ウレタン系、エステル系、エポキシ系等の活性光線硬化型あるいは熱硬化型の有機樹脂や、有機成分と無機成分が化学結合した有機・無機ハイブリッド材料が好ましく用いられる。透明保護層14は、上記有機物に加えて、酸性基と重合性官能基とを同一分子中に有するエステル化合物に由来する架橋構造を有するものとすることができる。
【0039】
酸性基と重合性官能基とを同一分子中に有するエステル化合物としては、リン酸、硫酸、シュウ酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、マレイン酸等の多価の酸と;エチレン性不飽和基、シラノール基、エポキシ基等の重合性官能基と水酸基とを分子中に有する化合物とのエステルが挙げられる。なお、当該エステル化合物は、ジエステルやトリエステル等の多価エステルでもよいが、多価の酸の酸性基中の少なくとも1つはエステル化されていないことが好ましい。
【0040】
透明保護層14が、上記のエステル化合物に由来する架橋構造を有することで、透明保護層の機械的強度及び化学的強度が高められると共に、透明保護層14と第2金属酸化物層13との密着性が高められ、赤外線反射層の耐久性を高めることができる。上記エステル化合物の中でも、リン酸と重合性官能基を有する有機酸とのエステル化合物(リン酸エステル化合物)が、透明保護層と金属酸化物層との密着性を高める上で好ましい。透明保護層と金属酸化物層との密着性の向上は、エステル化合物中の酸性基が金属酸化物と高い親和性を示すことに由来し、中でもリン酸エステル化合物中のリン酸ヒドロキシ基が金属酸化物層との親和性に優れるため、密着性が向上すると推定される。
【0041】
透明保護層14の機械的強度及び化学的強度を高める観点から、上記エステル化合物は、重合性官能基として(メタ)アクリロイル基を含有することが好ましい。上記エステル化合物は、分子中に複数の重合性官能基を有していてもよい。上記エステル化合物としては、例えば、下記式(1)で表される、リン酸モノエステル化合物又はリン酸ジエステル化合物が好適に用いられる。なお、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとを併用することもできる。
【0042】
[H
2C=(C-X)-(C=O)-O-CH
2-CH
2-(Y)
n-O]
p-(P=O)-(OH)
3-p
(式中、Xは水素原子又はメチル基を表し、(Y)は−OCO(CH
2)
5−基を表す。nは0又は1であり、pは1又は2である。)
【0043】
透明保護層14中の上記エステル化合物に由来する構造の含有量は、1重量%〜40重量%が好ましく、1.5重量%〜35重量%がより好ましく、2重量%〜20重量%がさらに好ましく、2.5重量%〜17.5重量%がさらに好ましい。特に好ましい形態において、透明保護層14中の上記エステル化合物に由来する構造の含有量は、2.5重量%〜15重量%、あるいは2.5重量%〜12.5重量%である。エステル化合物由来構造の含有量が過度に小さいと、強度や密着性の向上効果が十分に得られない場合がある。一方、エステル化合物由来構造の含有量が過度に大きいと、透明保護層形成時の硬化速度が小さくなって硬度が低下したり、透明保護層表面の滑り性が低下して耐擦傷性が低下したりする場合がある。透明保護層14中のエステル化合物に由来する構造の含有量は、透明保護層14形成時に、組成物中の上記エステル化合物の含有量を調整することによって、所望の範囲とすることができる。
【0044】
透明保護層14の形成方法は特に限定されない。透明保護層14は、例えば、上記の有機材料、あるいは有機材料の硬化性モノマーやオリゴマーと上記エステル化合物を溶剤に溶解させて溶液を調整し、この溶液を第2金属酸化物層14上に塗布し、溶媒を乾燥させた後、紫外線や電子線等の照射や熱エネルギーの付与によって、硬化させる方法により形成されることが好ましい。
【0045】
なお、透明保護層14には、上記の有機材料及びエステル化合物以外に、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等のカップリング剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤滑剤、可塑剤、着色防止剤、難燃剤、帯電防止剤等の添加剤が含まれていてもよい。これらの添加剤の含有量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜に調整され得る。
【0046】
[接着剤層]
透明フィルム基材10の第1金属酸化物層11を積層した側と反対側の面には、本発明の赤外線反射フィルム1を窓ガラス等に貼り合せるために用いる接着剤層16等が付設されていてもよい。接着剤層16としては、可視光線透過率が高く、透明フィルム基材10との屈折率差が小さいものが好適に用いられる。例えば、アクリル系の粘着剤(感圧接着剤)は、光学的透明性に優れ、適度な濡れ性と凝集性と接着性を示し、耐候性や耐熱性等に優れることから、透明フィルム基材10に付設される接着剤層16の材料として好適である。
【0047】
接着剤層16は、可視光線の透過率が高く、かつ紫外線透過率が小さいものが好ましい。接着剤層16の紫外線透過率を小さくすることによって、太陽光等の紫外線に起因する赤外線反射層12の劣化を抑制することができる。接着剤層16の紫外線透過率を小さくする観点から、接着剤層16は紫外線吸収剤を含有することが好ましい。なお、紫外線吸収剤を含有する透明フィルム基材10等を用いることによっても、屋外からの紫外線に起因する赤外線反射層12の劣化を抑制することができる。接着剤層16の露出面は、赤外線反射フィルムが実用に供されるまでの間、露出面の汚染防止等を目的にセパレータが仮着されてカバーされることが好ましい。これにより、通常の取扱状態で、接着剤層16の露出面の外部との接触による汚染を防止できる。
【0048】
[赤外線反射フィルムの特性]
本発明による赤外線反射フィルムは、赤外線反射フィルムの遮熱性及び赤外線反射フィルムを付設したガラス窓の熱割れ防止などの観点から、透明フィルム基材10側から測定した可視光反射率が11%を超え、さらには13%以上であるのが望ましい。透明フィルム基材10側から測定した可視光反射率がこのような範囲である場合には、赤外線反射フィルムを付設した窓を有する室内を夏涼しくしておくことが可能となるとともに、ガラス窓に熱が伝わりにくくなる。
なお、本明細書において、可視光線反射率は、赤外線反射フィルムの透明フィルム基材10側の面を、粘着剤層を介して厚み3mmのJIS R 3202:2011で規定するフロート板ガラスに貼りつけたものを試料として用い、この試料の透明保護層14側及びガラス側(すなわち透明フィルム基材10側)から入射角5°で光を入射し、波長380nm〜780nmの範囲の絶対反射率を分光光度計にて測定したのち、JIS A5759:2008に記載される可視光線透過率計算のための重価係数を用い、加重平均値を算出することにより求めた値を意味する。
【0049】
本発明による赤外線反射フィルムはまた、赤外線反射フィルムをガラス窓等の室内側(屋内側)に配置して用いた場合の顔映り防止などの観点から、透明保護層14側から測定した可視光反射率が11%以下、さらには10%以下であるのが望ましい。透明保護層14側から測定した可視光反射率がこのような範囲である場合には、屋内側の可視光反射率を低く抑えることができるため、赤外線反射フィルムを付設した窓に居住者等の顔などが映るのを有効に防止し、居住者等が不快感を覚えることの無いようにすることができる。
【0050】
さらに、本発明による赤外線反射フィルムは、上記のようにガラス窓等の室内側(赤外線反射フィルムの透明保護層側)の可視光反射を低く抑えるとともに、室内側の反射光の色相をニュートラルにすることにより、居住者が赤外線反射フィルムの存在を意識しにくくすることができる。
この場合、本発明による赤外線反射フィルムにおいて、透明保護層14側から測定した反射光が、L
*a
*b
*表色系において、a
*及びb
*がいずれも−5〜5の範囲内である色相を有するのが望ましい。
なお、本明細書において、色相は、赤外線反射フィルムの透明フィルム基材側の面を、粘着剤層を介して厚み3mmのJIS R 3202:2011で規定するフロート板ガラスに貼りつけたものを試料として用い、この試料の保護層側から入射角5°で光を入射し、波長380nm〜780nmの範囲の分光反射率を分光光度計にて、10度視野、標準光源としてD65を使用して測定し、JIS Z 8722:2009にて規定される三刺激値X、Y、Zを計算し、その三刺激値を用いて、JIS Z 8781−4:2013にて規定されるa
*、b
*を求めた値を意味する。
また、本発明による赤外線反射フィルムにおいて、透明保護層の厚さが20nm〜100nm、さらには40nm〜80nmの範囲内であるのが望ましい。
さらに、本発明による赤外線反射フィルムにおいて、第2金属酸化物層13と透明保護層14との光路長の合計が100nm〜150nm、さらには110nm〜140nmの範囲内であるのが望ましい。なお、本明細書において光路長は波長550nmにおける屈折率と厚さ(nm)の積で表される。
【0051】
[用途]
本発明の赤外線反射フィルムは、建物や乗り物等の窓、植物等を入れる透明ケース、冷凍もしくは冷蔵のショーケース等に貼着し、冷暖房効果の向上や急激な温度変化を防ぐために、好ましく使用することができる。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
[実施例、比較例で用いた測定方法]
<各層の厚み>
赤外線反射層を構成する各層の厚みは、集束イオンビーム加工観察装置(日立製作所製、製品名「FB−2100」)を用いて、集束イオンビーム(FIB)法により試料を加工し、その断面を、電界放出形透過電子顕微鏡(日立製作所製、製品名「HF−2000」)により観察して求めた。基材上に形成されたハードコート層、及び透明保護層の厚みは、瞬間マルチ測光システム(大塚電子製、製品名「MCPD3000」)を用い、測定対象側から光を入射させた際の可視光の反射率の干渉パターンから、計算により求めた。なお、透明保護層の厚みが小さく、可視光域の干渉パターンの観察が困難なもの(厚み約65nm以下)については、上記赤外線反射層の各層と同様に、透過電子顕微鏡観察により厚みを求めた。
【0054】
<垂直放射率>
垂直放射率は、角度可変反射アクセサリを備えるフーリエ変換型赤外分光(FT−IR)装置(Varian製)を用いて、保護層側から赤外線を照射した場合の、波長5μm〜25μmの赤外光の正反射率を測定し、JIS R3107:1998(板ガラス類の熱抵抗及び建築における熱貫流率の算出方法)に準じて求めた。
【0055】
<可視光線透過率・反射率・日射吸収率>
可視光線透過率及び日射吸収率は、分光光度計(日立ハイテク製 製品名「U−4100」)を用いて、JIS A5759:2008(建築窓ガラスフィルム)に準じて求めた。
可視光線反射率は、赤外線反射フィルムの透明フィルム基材側の面を、粘着剤層を介して厚み3mmのJIS R 3202:2011で規定するフロート板ガラスに貼りつけたものを試料として用い、この試料の保護層側及びガラス側から入射角5°で光を入射し、波長380nm〜780nmの範囲の絶対反射率を分光光度計(U−4100)にて測定したのち、JIS A5759:2008に記載される可視光線透過率計算のための重価係数を用い、加重平均値を算出することにより求めた。
【0056】
<遮蔽係数>
遮蔽係数は、分光光度計(日立ハイテク製 製品名「U−4100」)を用いて、日射透過率τe及び日射反射率ρeを測定し、JIS A5759−2008(建築窓ガラスフィルム)A法により、遮蔽係数を算出した。
<色相>
色相は、赤外線反射フィルムの透明フィルム基材側の面を、粘着剤層を介して厚み3mmのJIS R 3202:2011で規定するフロート板ガラスに貼りつけたものを試料として用い、この試料の保護層側から入射角5°で光を入射し、波長380nm〜780nmの範囲の分光反射率を分光光度計(U4100)にて測定したのち、JIS Z 8722:2009にて規定される三刺激値X、Y、Zを計算した。その三刺激値を用いて、JIS Z 8781−4:2013にて規定されるa
*、b
*を求めた。なお、10度視野、標準光源としてD65を使用した。
【0057】
<屈折率>
各層の屈折率は、厚みが50μmの(東レ製、商品名「ルミラー U48」、可視光線透過率93%)の一方の面に、実施例・比較例で用いた金属酸化物材料を厚み30nm、樹脂材料は60nm形成し、多入射角分光エリプソメーターM−2000V(J.A.Woollam製)及び解析ソフトCompleteEASE(J.A.Woollam製)を用いて、波長550nmの屈折率を測定、解析を行った。なお、測定サンプルの材料形成面と反対側の面をサンドペーパー(#600)を用いて荒らし、裏面反射を消した。なお測定時間は5秒、入射角50、60、70°として、測定したPsi、Deltaの解析を行った。
【0058】
[実施例1]
(透明フィルム基材への金属酸化物層及び赤外線反射層の形成)
透明フィルム基材として、厚みが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ製、商品名「ルミラー U48」、可視光線透過率93%)を用意し、その一方の面に、巻取式スパッタ装置を用いて、金属酸化物層及び赤外線反射層を形成した。具体的には、DCマグネトロンスパッタ法により、亜鉛−錫複合酸化物(ZTO)からなる膜厚8nmの第1金属酸化物層、Ag−Pd合金からなる膜厚12nmの赤外線反射層、ZTOからなる膜厚17nmの第2金属酸化物層を順次形成した。ZTO金属酸化物層の形成には、酸化亜鉛と酸化錫と金属亜鉛粉末とを、10:82.5:7.5の重量比(亜鉛と錫の原子比は30:70)で焼結させたターゲットを用い、電力密度:2.67W/cm2、基板温度80℃の条件でスパッタを行った。この際、スパッタ製膜室へのガス導入量を、Ar:O
2が98:2(体積比)となるように調整した。金属層の形成には、銀:パラジウムを96:4の重量比で含有する金属ターゲットを用いた。ZTO層の屈折率は2.17であった。
【0059】
(透明樹脂保護層の形成)
第2金属酸化物層であるZTO層上に、アクリル系の紫外線硬化型樹脂からなる透明保護層を60nmの膜厚で形成した。具体的には、アクリル系ハードコート樹脂溶液(JSR製、商品名「オプスター Z7537」)をスピンコート法によりZTO層上に塗布し、60℃で1分間乾燥後、窒素雰囲気下で超高圧水銀ランプにより積算光量400mJ/cm
2の紫外線を照射し、硬化させた。硬化後の透明保護層の波長550nmにおける屈折率は1.48であった。
【0060】
[実施例2〜4]
第1金属酸化物層の厚みを表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様に赤外線反射フィルムを作製した。
【0061】
[実施例5〜6]
第2金属酸化物層の厚みを表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様に赤外線反射フィルムを作製した。
【0062】
[実施例7]
透明保護層の厚みを表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様に赤外線反射フィルムを作製した。
【0063】
[実施例8]
第2金属酸化物層の厚み及び透明保護層の材料を表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様に赤外線反射フィルムを作製した。透明保護層の材料はアクリル系ハードコート樹脂溶液(JSR製、商品名「オプスター KZ6719」)を用いた。
【0064】
[実施例9〜10]
透明保護層の材料を表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様に赤外線反射フィルムを作製した。実施例9の透明保護層の材料はフッ素系ハードコート樹脂溶液(JSR製、商品名「オプスター JUA204」)を用いた。
【0065】
[実施例11]
第2金属酸化物層の厚み及び透明保護層の材料を表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様に赤外線反射フィルムを作製した。
【0066】
[実施例12]
第1金属酸化物層及び第2金属酸化物層の材料として、ZTOに代えて、インジウム亜鉛複合酸化物(IZO)を用いたこと以外は、実施例1と同様に赤外線反射フィルムを得た。IZO層の形成には、スパッタターゲットとして、酸化インジウムと酸化亜鉛を、90:10の重量比で焼結させた酸化物ターゲットを用いた。その際、スパッタ製膜室へのガス導入量を、Ar:O2が95:5(体積比)となるように調整した。IZO層の屈折率は2.05であった。
【0067】
[実施例13]
第1金属酸化物層及び第2金属酸化物層の材料として、ZTOに代えて、ニオブ酸化物(Nb
2O
x)を用いたこと以外は、実施例1と同様に赤外線反射フィルムを得た。Nb
2O
x層の形成には、スパッタターゲットとして、Nb
2O
xの酸化物ターゲットを用いた。その際、スパッタ製膜室へのガス導入量を、Ar:O2が100:0(体積比)となるように調整した。Nb
2O
x層の屈折率は2.34であった。
【0068】
[実施例14]
第1金属酸化物層及び第2金属酸化物層の材料として、ZTOに代えて、チタン酸化物(TiO
x)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で赤外線反射フィルムを得た。TiO
x層の形成には、スパッタターゲットとして、TiO
xの酸化物ターゲットが用いられた。この際、スパッタ製膜室へのガス導入量は、Ar:O
2が100:0(体積比)となるように調整された。TiO
x層の屈折率は2.35であった。
【0069】
[実施例15]
赤外線反射層の材料として、AgPdに代えて、AgAu合金を用いたこと以外は、実施例1と同様に赤外線反射フィルムを得た。赤外線反射層の形成には、銀:金を92:8の重量比で含有する金属ターゲットを用いた。
【0070】
[実施例16〜17]
赤外線反射層の材料を表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様に赤外線反射フィルムを作製した。
【0071】
[比較例1]
第1金属酸化物層の厚みを表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様に赤外線反射フィルムを作製した。
【0072】
[比較例2]
第2金属酸化物層の厚みを表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様に赤外線反射フィルムを作製した。
【0073】
[比較例3]
第1金属酸化物層の厚みを表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様に赤外線反射フィルムを作製した。
【0074】
[比較例4]
第1金属酸化物層及び第2金属酸化物層の厚みを表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様に赤外線反射フィルムを作製した。
【0075】
実施例及び比較例の赤外線反射フィルムの構成(各層の材料、厚み及び屈折率等)及び特性についての評価結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1から明らかなように、実施例1〜17の赤外線反射フィルムは、遮蔽係数が低く遮熱性に優れている一方、屋内側可視光反射率が低く顔映りを有効に防止するとともに、屋内側の反射光をニュートラルなものとしている。
これに対して、比較例1〜4の赤外線反射フィルムはいずれも遮蔽係数が高い。特に、比較例2の赤外線反射フィルムは屋内側可視光反射率が高く、顔映りの問題を生ずる。さらに、比較例1、2及び4の赤外線反射フィルムは、屋内側の反射光に着色がある。