(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態の概略構成]
以下、本発明の実施形態であるミシンについて詳細に説明する。
図1はミシン100のミシンベッド部内の主要な構成を示す斜視図である。
【0011】
図示のように、ミシン100は、縫い針を上下動させる図示しない針上下動機構と、その駆動源となるミシンモーター16(
図7参照)と、ミシンモーター16により回転動作が行われる図示しない主軸と、上糸を下糸に絡める釜12と、縫い針の上下動に合わせて針板11上の被縫製物たる布地を送る送り装置30と、主軸から送り装置30の下軸33に回転力を伝達するベルト機構20と、上糸及び下糸を切断する糸切り装置14(
図7参照)上記各構成を支持するミシンフレーム(図示略)と、上記各構成を制御する制御装置90(
図7参照)とを備えている。
なお、上記ミシン100はいわゆる本縫いミシンであり、一般的な本縫いミシンが備える天秤機構、糸調子、布押さえ等の各構成を備えているが、これらは周知のものなので説明は省略する。
【0012】
上記ミシンフレームは、ミシンの全体において下部に位置するベッド部と、ミシンベッド部の長手方向の一端部において上方に立設された立胴部と、立胴部の上端部からベッド部と同方向に延設された図示しないアーム部とを備えている。
なお、以下の説明では、ミシンベッド部の長手方向に平行な水平方向をY軸方向とし、水平であってY軸方向に直交する方向をX軸方向とし、X軸及びY軸方向に直交する方向をZ軸方向とする。
【0013】
[針上下動機構及びベルト機構]
針上下動機構は、アーム部の内側に配設され、ミシンモーター16に回転駆動されると共にY軸方向に沿って配設された主軸と、縫い針を下端部で保持する針棒と、主軸の回転力を上下動の往復駆動力に変換して針棒に伝達する図示しないクランク機構とを備えている。
そして、ベルト機構20は、主軸に固定装備された主動プーリと、送り装置30の下軸33に固定装備された従動プーリ21と、主動プーリと従動プーリ21とに掛け渡されたタイミングベルト22とを備えている。そして、ベルト機構20により、下軸33は主軸と同速度で回転を行う。
なお、ベルト機構に替えて縦軸と傘歯車からなる歯車伝達機構で主軸から下軸33に回転力を伝達しても良い。
【0014】
[送り装置]
図1に示すように、送り装置30は、針板11の開口から出没して布地を所定方向に送る送り歯31と、送り歯31を保持する送り台32と、ミシンモーター16から動力を得て送り台32に対してX軸方向(水平方向)の往復動作を伝達する水平送り機構40と、送り台32に対して上下方向の往復動作を付与する上下送り機構60Bとを備えている。
【0015】
[水平送り機構]
水平送り機構40は、送り台32に対するX軸方向の往復動作のストロークを調節する送り調節機構50と、下軸33からX軸方向に沿った往復動作を取り出すクランクロッド41と、送り調節機構50を介してクランクロッド41から往復回動が付与される水平送り軸42と、水平送り軸42の往復回動駆動力を送り方向の往復駆動力に変換して送り台32に伝達する水平送りアーム43とを備えている。
【0016】
クランクロッド41は、その一端部が下軸33に固定装備された偏心カム(図示略)を回転可能に保持しており、他端部が送り調節機構50に連結されている。かかるクランクロッド41は、その長手方向がおおむねX軸方向に沿うように配置されており、下軸33が全回転で駆動すると、クランクロッド41の他端部は偏心カムによりその偏心量の二倍のストロークでその長手方向に沿って往復動作を行う。かかるクランクロッド41の往復動作が送り調節機構50を介して水平送り軸42への往復回動力として伝達される。
【0017】
送り調節機構50は、
図2に示すように、水平送り軸42に固定装備されると共に水平送り軸42を中心とする半径方向外側に延出された揺動アーム51と、クランクロッド41の他端部と揺動アーム51とを連結する一対の第一のリンク体53と、クランクロッド41の他端部の往復運動方向をいずれかの方向に誘導する一対の第二のリンク体54と、第二のリンク体54による誘導方向を決定する送り調節体55と、送り調節体55と一体的に回動する支軸52と、支軸52に固定装備されると共に支軸52を中心とする半径方向外側に延出された入力アーム56と、送り調節体55を回動させて下軸33から送り台32に伝達されるX軸方向(水平方向)の往復動作量を調節する送り調節モーター57と、送り調節モーター57の出力軸から入力アーム56に回動力を伝達する二つの伝達リンク58,59とを備えている。
【0018】
第一のリンク体53は、一端部がクランクロッド41の他端部に連結され、他端部が揺動アーム51の揺動端部に連結され、これら両端部はいずれもY軸回りに回動可能に連結されている。
第二のリンク体54は、一端部が第一のリンク体53の一端部と共にクランクロッド41の他端部に連結され、他端部が送り調節体55の回動端部に連結され、これら両端部はいずれもY軸回りに回動可能に連結されている。
送り調節体55は、その基端部にY軸方向に沿った支軸52が固定装備されており、当該支軸52はミシンフレーム内でY軸回りに回動可能に支持されている。
また、送り調節体55の回動端部は第二のリンク体54の他端部とY軸回りに回動可能に連結されている。
【0019】
送り調節機構50では、第一のリンク体53と第二のリンク体54のそれぞれの長手方向が一致する状態、つまり各リンク体53,54が丁度重なる状態となるように送り調節体55を回動させると、クランクロッド41の駆動力が揺動アーム51に伝わらない状態となる。このとき、水平送り軸42には往復回動動作が伝わらないので、送り台32のX軸方向の往復のストロークが0、即ち、縫いピッチが0となる。このように、各リンク体53,54が重なる状態となる送り調節体55の回動角度を「送り調節体55の中立角度」とする。
【0020】
そして、この送り調節体55を中立角度から一方に回動させると、その回動角度量に応じて揺動アーム51側に往復の揺動動作が付与され、これにより正送り方向の縫いピッチを大きくすることができる。
また、この送り調節体55を中立角度から逆方向に回動させると、やはりその回動角度量に応じて揺動アーム51側に往復の揺動動作を付与することができるが、この場合には、位相が反転して伝達され、これにより逆送り方向の縫いピッチを大きくすることができる。
【0021】
送り調節モーター57は、ミシンベッド部内のY軸方向一端部側において、出力軸をY軸方向に向けて配置されている。前述した伝達リンク58は、その長手方向を概ねX軸方向に向けてその一端部が送り調節モーター57の出力軸に固定装備されている。従って、送り調節モーター57の駆動により伝達リンク58の他端部は上下に回動を行う。
伝達リンク59は、その長手方向が概ねZ軸方向に沿った状態で、その下端部が伝達リンク58の他端部にY軸回りに回動可能に連結されている。従って、送り調節モーター57の駆動により伝達リンク59は全体的に上下動を行う。
入力アーム56は、支軸52に固定装備されると共に支軸52から概ねX軸方向に沿って延出されており、その延出端部は伝達リンク59の上端部にY軸回りに回動可能に連結されている。
これらにより、送り調節モーター57が駆動すると、伝達リンク58,59及び入力アーム56を介して送り調節体55を回動させることができる。
【0022】
水平送り軸42は、ミシンベッド部内においてY軸方向に沿って回転可能に支持されており、下軸33に対して布地の送り方向下流側(
図1における左方)に配置されている。かかる水平送り軸42の立胴部側の一端部には前述した送り調節機構50を介して下軸33から往復回動力が付与され、水平送り軸42の他端部から水平送りアーム43を介して送り台32にX軸方向に沿った往復動作を伝達する。
【0023】
水平送りアーム43は、その基端部が水平送り軸42の針板11側の端部に固定連結され、その揺動端部はほぼ上方に向けられた状態で送り台32に連結されている。
従って、水平送りアーム43は、ミシンモーター16の駆動により送り台32をX軸方向に沿って往復移動させることができる。また、送り台32のX軸方向に沿った往復動作のストロークは、送り調節機構50の送り調節モーター57を制御することにより、任意に調節することができる。
【0024】
送り台32は、針板11の下方に配設され、布送り方向(X軸方向)における一端部が上下送り機構60Bに連結され、他端部が水平送りアーム43に連結されている。また、送り台32の長手方向中間位置の上部には送り歯31が固定装備されている。
これにより、送り台32はその一端部から上下方向に往復駆動力が付与され、他端部からは同じ周期で送り方向の往復駆動力が付与される。そして、これらの往復駆動力を合成することでX−Z平面に沿って長円運動を行うこととなる。この送り台32に伴って送り歯31も長円運動を行い、当該長円運動軌跡の上部領域を移動する際に送り歯31の先端部が針板11の開口部から上方に突出し、布地を送ることを可能としている。
【0025】
[上下送り機構]
図3は上下送り機構60Bの斜視図、
図4〜
図6は上下送り機構60Bの動作説明図である。
この上下送り機構60Bは、送り台32に対する上下方向(Z軸方向)の往復動作の駆動源となる上下送りモーター66と、当該上下送りモーター66の出力軸に連結されて回動動作を行う第一リンク61Bと、第一リンク61Bの回動端部に一端部が連結された第二リンク62Bと、第二リンク62Bの他端部に一端部が連結された第三リンク63Bと、第三リンク63Bの他端部に連結されると共にミシンフレーム内で位置が固定された回動軸67と、当該回動軸67を介して第三リンク63Bと連結された第四リンク64と、当該第四リンク64の回動端部に一端部が連結されると共に他端部が送り台32の一端部に連結された第五リンク65とを備えている。
なお、上記の上下送り機構60Bに替えて、モーターと偏心カムとリンクを用いる構成や、モーターとラックとピニオンを用いる構成に変更することも容易に考えられる。
【0026】
上下送りモーター66は、ミシンベッド部内でY軸方向における針板11側の端部に配置され、Y軸方向について、前述した送り調節機構50の送り調節モーター57と離隔して配置されている。これらのモーター57,66は、いずれも設置スペースを広く必要とするが、このようにミシンベッド部内でその長手方向について離隔して配置することにより、相互間のスペースをミシンの他の構成、例えば、モーターと同様に設置スペースを広く必要とする糸切り装置14の駆動源となるソレノイドの設置スペースを確保することができる。
また、上下送りモーター66はその出力軸をY軸方向に沿わせて配置されている。
【0027】
さらに、上下送りモーター66は、前述した送り調節モーター57と同一仕様且つ同一性能であって機種及び種別が同一のモーターを使用している。
これにより、モーター及びその周辺の部材の共通化を図ることができ、コスト低減及びメンテナンス性の向上を図ることが可能となる。
【0028】
第一リンク61Bは、回動中心となる基端部が上下送りモーター66の出力軸に固定支持されている。
一方、第三リンク63Bは、その他端部がミシンベッド部のフレームにより回転可能に支持された回動軸67に固定支持されている。
そして、第一リンク61Bの回動端部と第三リンク63Bの回動端部は第二リンク62Bの一端部と他端部とにそれぞれY軸回りに回動可能に連結されている。
そして、これら第一〜第三リンク61B〜63Bは、
図4に示すように、第一リンク61BがZ軸方向にほぼ並行且つその回動端部が上方を向いた状態であって、第三リンク63BがZ軸方向にほぼ並行且つその回動端部が下方を向いた状態である場合に、第二リンク62BはほぼX軸方向に平行な水平状態となるように、それぞれの長さが設定されている。
【0029】
これにより、上下送りモーター66の出力軸を
図4に示す軸角度(0°)とすると、第一リンク61Bと第二リンク62Bとが90度(直角)となる。この状態が第一〜第三リンク61B〜63Bからなるリンク列における「原点」である。
上記「原点」となる軸角度では、送り歯31の高さは針板11の上面の高さと一致する。
また、「原点」となる軸角度を基準として、
図5に示すように逆方向(反時計方向)に上下送りモーター66を回転駆動させると送り歯31は針板11の上面より上昇し、
図6に示すように正方向(時計方向)に上下送りモーター66を回転駆動させると送り歯31は針板11の上面より下降する。
なお、ミシン100では、その制御装置90が、送り歯31による一針分の送り動作につき、上下送りモーター66に対して、第一リンク61Bと第二リンク62Bとが同一直線上に並んだ最大伸長状態となる出力軸角度には到達しない角度範囲内(例えば原点±10°)で正逆方向の往復回動を一回行う動作制御を実行する。
【0030】
このように、第一〜第三リンク61B〜63Bからなるリンク列は、上下送りモーター66の回動動作と送り台32への上下動作の付与を等倍の頻度に維持するので、水平方向の送りの往復動作をミシンモーター16から独立したモーターによって付与する場合に比べると、往復のストロークが小さいことにより、高速回転の縫製への追従性が優れている。特に、上下送りモーター66が、第一リンク61Bと第二リンク62Bとが直角をなす軸角度を含む範囲で駆動を行うことにより、往復のストロークをより小さくすることができ、高速回転の縫製への追従性をさらに向上させることができる。
【0031】
また、第四リンク64は、概ねX軸方向に沿った状態で基端部が回動軸67に固定されているので、第三リンク63Bと一体的に回動を行う。
そして、第五リンク65は、概ねZ軸方向に沿った状態で第四リンク64の回動端部に一端部が連結されると共に他端部が送り台32の一端部に連結されているので、第四リンク64の回動により第五リンク65を介して送り台32に上下動を伝達することができる。
【0032】
[糸切り装置]
糸切り装置14は、送り歯31と釜12との間に配置された固定メス及び動メスと、下軸33に設けられたカムと、カムに係合して動メスに切断動作を付与するカムコロと、カムコロをカムに係合させるソレノイドとを備えている。ソレノイドは、制御装置90の制御によって作動し、ソレノイドの作動によりカムコロがカムに係合して、動メスに往復の切断動作を伝達し、動メスと固定メスとの協働により上糸及び下糸を切断する。
【0033】
[ミシンの制御系]
上記ミシン100の制御系を
図7のブロック図に示す。この
図7に示すように、ミシン100は、各構成の動作制御を行う制御装置90を備えている。そして、この制御装置90には、ミシンモーター16、送り調節モーター57及び上下送りモーター66が各々のモーター駆動回路16a,57a,66aを介して接続されている。
また、ミシンモーター16には、その回転数を検出するエンコーダ161が併設されており、このエンコーダ161もモーター駆動回路16aを介して制御装置90に接続されている。
また、制御装置90には、糸切り装置14が接続されており、糸切りの実行の際に駆動するソレノイドが制御装置90により制御される。
【0034】
制御装置90は、CPU91、ROM92、RAM93、EEPROM94(EEPROMは登録商標)を備え、後述する各種の動作制御を実行する。
また、制御装置90には、後述する送り装置30に対する各種の動作制御の選択、実行や設定を入力するための操作入力部96がインターフェイス97を介して接続されている。
【0035】
[送り装置の動作制御(基準形の軌跡パターン)]
ミシン100では、送り歯31の上下方向の往復動作をミシンモーター16とは独立して上下送りモーター66が行うので、上下送りモーター66を制御することにより、送り歯31の周回移動の軌跡を任意に変更することが可能である。
図8は通常の送りを行う場合の基準形の軌跡である。
図8では横軸が送り歯31のX軸方向の位置、縦軸がZ軸方向の送り歯31の位置を示している。横軸の左側が送り方向下流側であり、横軸の0となる位置は針落ち位置である。また、縦軸の0となる位置が針板11の上面の高さである(後述する
図10、12も同様とする)。
この基準形の軌跡では、針板11の上面を基準として上下にほぼ対称な長円となる。なお、送り歯31の歯先(上端部)が針板11の上面以上の位置にある主軸角度の範囲を「送り区間」と定義する。
【0036】
制御装置90は、この長円の軌跡上に並んだドットの各位置に送り歯31を位置決めするための上下送りモーター66の軸角度を主軸角度と関連づけて記録した軌跡パターンデータをEEPROM94内に保持している。
なお、送り調節モーター57の軸角度は長円の軌跡の横軸の幅(縫いピッチ)を決定するので、操作入力部96から縫いピッチが設定されると、送り歯が周回移動している間は縫いピッチが設定値となる送り調節モーター57の軸角度を維持する。
【0037】
そして、制御装置90は、縫製の際には、軌跡パターンデータをRAM93に読み込み、エンコーダ161の出力を監視して、所定の主軸角度となるたびに上下送りモーター66を軌跡パターンデータに定める軸角度に位置決めすることにより送り歯31を
図8の軌跡に従って周回移動させる。
【0038】
図9は基準形の軌跡で得る上下送りモーター66の軸角度(縦軸)と主軸角度(横軸)との関係を示している。
図8の基準形の軌跡パターンにおける上下送りモーター66の軸角度の変化は、
図9に示すように、おおよそ2π分のサインカーブとなる。
なお、正方向と逆方向の一往復回動で送り歯が上下に一往復する関係のため、時計方向の回動で得る軌跡パターンデータと反時計方向の回動で得る軌跡パターンデータとの二種類を用意する必要はなく、一種類の軌跡パターンデータのみを保有している。
【0039】
[送り歯高さ変更]
以上のように、ミシン100の送り歯31を上下させるための動力を、従来のように主軸とメカ的にリンクさせて得るのではなく、送り歯31の上下動用に用意したアクチュエーター、実施形態ではパルスモーターによる上下送りモーター66から得るようにする。
そして、主軸回転用のミシンモーター16と上下送りモーター66はCPU91で一括に制御し、主軸回転速度の情報を送り歯上下用のアクチュエーター制御に利用できるようにする。
この構成であれば、主軸の回転中であっても、送り歯31の高さを独立して変更できる。
【0040】
ここで、縫い速度、即ち、主軸回転速度は、
図7に示すように、ミシンペダル101の踏み込み量、または、エンコーダ161によるミシンモーター16の回転数に基づいて検出する。
【0041】
[送り装置の動作制御]
主軸回転速度が2000rpm時の送り歯の軌跡は、
図8で示した通常の送りを行う場合の基準形の軌跡と同様の軌跡である。
低速時には送り歯が押さえに勢いよくぶつかることで、押さえが跳ね上がるジャンピングは発生しない。従って、基準形の軌跡に対して補正を加える必要がない。
制御装置90は、この長円の軌跡上に並んだドットの各位置に送り歯31を位置決めするための上下送りモーター66の軸角度を主軸角度と関連づけて記録した軌跡パターンデータをEEPROM94内に保持している。
【0042】
そして、制御装置90は、主軸回転が低速(例えば0〜2500rpm)と判断された場合、所定の主軸角度となるたびに上下送りモーター66を軌跡パターンデータに定める軸角度に位置決めするように制御する。
【0043】
また、上下送りモーター66の軸角度(縦軸)と上軸角度(横軸)との関係は、基準形と同様である事から、
図9に示したようになる。
【0044】
図10は主軸回転速度が3000rpm時の送り歯の変形軌跡である。この軌跡では基準形の軌跡に比べて、送り区間における送り歯31刃先の高さが高くなる軌跡である。この軌跡で送り歯31を周回させると、送り歯31の刃先の高さが基準形の軌跡よりも高い位置を通過するので、例えば、主軸の回転数が上がるに連れて押さえのジャンピングが発生しても、押さえと送り歯の隙間を小さくすることができ、適切な押さえ圧を保って縫製作業を良好に行うことが可能となる。
制御装置90は、この長円の軌跡上に並んだドットの各位置に送り歯31を位置決めするための上下送りモーター66の軸角度を主軸角度と関連づけて記録した軌跡パターンデータをEEPROM94内に保持している。
【0045】
そして、制御装置90は、主軸回転速度が3000rpmと判断された場合、所定の主軸角度となるたびに上下送りモーター66を3000rpm用の軌跡パターンデータに定める軸角度に位置決めするように補正制御する。
【0046】
図11は
図10の変形軌跡の回動で得る軌跡パターンデータの上下送りモーター66の軸角度(縦軸)と上軸角度(横軸)との関係を示している。基準形の軌跡パターンに対して、送り歯31の刃先の高さが高くなるように駆動される。
【0047】
図12は主軸回転速度が4000rpm時の送り歯の変形軌跡である。この軌跡では
図10で示した3000rpm時の軌跡に比べて、送り区間における送り歯31刃先の高さが更に高くなる軌跡である。この軌跡で送り歯31を周回させると、送り歯31の刃先の高さが3000rpm時よりも高い位置を通過するので、主軸の回転数が高速になり激しい押さえのジャンピングが発生しても、押さえと送り歯の隙間を小さくすることができ、適切な押さえ圧を保って縫製作業を良好に行うことが可能となる。
制御装置90は、この長円の軌跡上に並んだドットの各位置に送り歯31を位置決めするための上下送りモーター66の軸角度を主軸角度と関連づけて記録した軌跡パターンデータをEEPROM94内に保持している。
【0048】
そして、制御装置90は、主軸回転が4000rpmと判断された場合、所定の主軸角度となるたびに上下送りモーター66を4000rpm用の軌跡パターンデータに定める軸角度に位置決めするように制御する。
【0049】
図13は
図12の変形軌跡の回動で得る軌跡パターンデータの上下送りモーター66の軸角度(縦軸)と上軸角度(横軸)との関係を示している。3000rpm時の軌跡パターンに対して、送り歯31の刃先の高さがさらに高くなるように駆動される。
【0050】
このように、制御装置90は、主軸回転速度に応じて、送り歯31を位置決めするための上下送りモーター66の軸角度を主軸角度と関連づけて記録した軌跡パターンデータをEEPROM94内に保持している。
そして、主軸が高速回転している場合は速度に応じて送り区間における送り歯31の高さを高くなるように補正することで、主軸の回転速度が上昇した際に押さえのジャンピングが発生しても、最適な押さえ圧を保つことができる。
また、主軸速度低速時には送り区間における送り歯13の高さ補正をせずに済むので、一度の縫製で主軸低速動作と高速動作が混じるような場合においても、押さえ圧を最適に保ち続けることができる。
【0051】
[実施形態による効果]
以上、実施形態のミシン100によれば、水平送り機構40は、ミシンモーター16による送り台32に対する水平方向の往復動作のピッチを変更調節する送り調節モーター57を有し、上下送り機構60Bは、送り台32に対する上下方向の往復動作の駆動源となる上下送りモーター66を有し、送り調節モーター57と上下送りモーター66を制御して送り歯31による被縫製物の送り動作を行う制御装置90を備えている。
このため、送り歯31の上下の往復動作についてミシンモーター16から制約を受けることなく任意に動作させることができるので、前述したように、多種多様の軌跡パターンで送り歯31を周回移動させることが可能となる。
【0052】
また、送り歯31の水平方向の往復動作についてミシンモーター16から独立した他のモーターを駆動源とすることでも、前述した各種の軌跡パターンの内の一部については実行可能である。しかしながら、水平方向の往復ストロークは上下方向の往復ストロークよりも遙かに大きいので、より低イナーシャで出力が大きなモーターが必要となる。なお、モーターは出力が大きくなるとイナーシャも大きくなる傾向にあるので、実際にはそのようなモーターは入手困難であるため、縫製速度を低減して送りを行うことが余儀なくされる。
これに対して、実施形態のミシン100は、送り歯31の水平方向の往復動作の駆動源をミシンモーター16とし、送り歯31の上下方向の往復動作の駆動源を上下送りモーター66としているので、送り歯31の上下動については狭い往復ストロークの範囲で往復させれば良く、上下送りモーター66として入手が容易な小型、低出力のものを使用することができる。そして、より多彩な軌跡パターンで送りを行うことができる。
また、縫いピッチの調節は、従来から行われている送り調節体55と送り調節モーター57の構成を使用するので、信頼性及び安定性が高く、高精度である。
【0053】
特に、制御装置90により、主軸の高速回転時には送り区間における送り歯31の高さを低速回転時よりも高くするように上下送りモーター66を制御するので、主軸回転中であっても、送り歯31の高さ・送り軌跡をソフトウェアにて任意に変更して、主軸速度に応じて送り歯31の高さが高くなるように送り軌跡を変更することができる。
従って、主軸の高速回転時に押さえのジャンピングが発生しても、最適な押さえ圧を保つことができる。
また、主軸の速度低速時には送り区間における送り歯13の高さ変更をせずに済むので、一度の縫製で主軸低速動作と高速動作が混じるような場合においても、押さえ圧を最適に保ち続けることができる。
【0054】
[その他]
また、上記の発明の実施形態では、本縫いミシンを例示したが、送り装置30は、送り歯で被縫製物を送るいずれのタイプのミシンにも適用可能である。
また、上記の発明の実施形態では、上下送りモーター66の出力軸に直接的に第一リンク61Bを取り付けて連結した場合を例示したが、上下送りモーター66の出力軸と第一リンク61Bとの間に伝達部材や伝達機構を介在させて間接的に連結しても良い。
また、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【0055】
なお、上述した高速回転時の送り歯の高さの変更制御は、送り旋回軌跡の上半部における送り歯の高さを段階的に増やした複数の軌跡パターンを予め用意しておき、検出される主軸回転速度に応じて予め用意された複数の軌跡パターンの中から適切なものを選択して、送り歯31が選択された軌跡パターンを周回するように動作制御を行っても良い。
また或いは、
図8のような基準形の軌跡パターンを予め用意し、これに対応する基準速度を定め、当該基準速度と検出される主軸回転速度との速度差から算出される補正値に基づいて、基準形の軌跡パターンにおける送り旋回軌跡の上半部における各点の送り歯の高さに対して補正を行い、送り歯31が補正後の軌跡パターンを周回するように動作制御を行っても良い。