【実施例1】
【0018】
<1.システム全体構成>
図1は本実施例における傾斜監視システムの設置例である。まず、
図1において傾斜監視システムの測定対象となる領域を、拠点ごとに、現場1a、1b、1cに分割する。各現場1には計測対象である電柱設備5が複数存在しており、電柱設備5毎にセンサノード2を設置する。
【0019】
センサノード2は、電柱設備5にかかる加速度を測定する機能を備える。また、センサノード2は、計測データをゲートウェイ3に送信するための機能を備える。センサノード2は多数の電柱設備5に設置されるので、安価な構成を採用することが望ましい。
【0020】
さらに、現場1a、1b、1cごとに、中継機能を備えるゲートウェイ3を設置する。ゲートウェイ3は、同じ現場内のセンサノード2から送信される計測データを受信する。現場1が広域(例えば1000m四方以上)であり、近距離無線(例えば通信可能距離が100m)の電波が届かない場合には、ゲートウェイ3を複数設置してもよい。また、ゲートウェイ3は固定された収納設備等に設置してもよいし、点検や運用上の理由により歩行する点検者に携帯されて移動してもよい。
【0021】
ゲートウェイ3は、センサノード2から受信した計測データ等の情報を、広域網6を経由してサーバ4へ送信する。ゲートウェイ3から広域網6までの送信方法としては、例えば遠距離無線(例えば通信可能距離が1km以上)が挙げられる。このために、広域網6には、図示しない遠距離無線の受信設備が接続される。
【0022】
サーバ4は、広域網6を経由して受信した情報を蓄積し、電柱設備5の傾斜状況を監視する機能を有する。サーバ4は、集約した加速度の計測データから傾斜角を算出し、各電柱設備5の傾斜状況を監視する。傾斜角が予め設定した閾値を上回った場合に、サーバ4は、電子メール等の通知手段によって、管理者7へ通知を行う。閾値としては、例えば5度の傾斜で通知を行うこととし、この場合傾斜角測定の分解能は例えば0.5度程度あればよい。
【0023】
また、センサノード2は電柱設備5上の柱上に設置するため、給電用の配線敷設や電池交換作業は労力を要する。長期稼働を実現する上では、センサノード2は太陽光パネルなどで構成した給電機構を備え、その電力で動作することが望ましい。また、センサノード2は、低消費電力化を図った設計であることが望ましい。このような制約から、センサノード2が送信する情報量を少なく抑えることが、本システムの運営上望ましいことになる。
【0024】
<2.センサノード>
図2は本実施例におけるセンサノード2の構成例を示している。センサノード2は、制御部20、加速度センサ21、記録部22、平均化処理部23、近距離無線部24、アンテナ25、時計部26、電源部27を備える。ここで、制御部20および平均化処理部23はソフトウェアとして機能を実現される。ソフトウェアは、記録部22上に実装することとする。以下、各部の機能について説明する。
【0025】
制御部20は、加速度センサ21、記録部22、平均化処理部23、近距離無線部24、時計部26に対してデータの受け渡しおよび動作指示を出し、センサノード2の全体の動作を制御する。制御部20の一連の動作については後述する。
【0026】
加速度センサ21は、電柱設備5にかかる加速度の値を計測する機能を有する。加速度センサ21は、南北方向や東西方向といった複数方向の加速度を計測できるものとする。加速度を測定する構成については、例えば特許文献1等に開示がある。また、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を用いた加速度センサが知られている。加速度センサ21は、計測した加速度データ(以下、計測データと称する)を、記録部22に記録する。さらに、加速度センサ21は、時計部26より時刻情報を取得する機能を有する。
【0027】
記録部22は、計測データおよび後述する平均化データを記録するためのものである。記録部22には各種の記憶デバイスが使用できる。たとえば、フラッシュメモリのような不揮発性の半導体メモリを用いることができる。
【0028】
平均化処理部23は、加速度のデータから、平均値を算出する平均化処理を行う。ここで、平均化処理による効果を説明する。電柱の傾斜角には、電柱そのものの傾斜度合いを表す成分(以下、傾斜成分と称する)と、周囲環境起因の現象によって発生する一時的な変動成分(以下、変動成分と称する)とが混在している。例えば、強風により架線が振動することで電柱が引っ張られることで0.5度程度の変動成分が生じる。これを受け、電柱上で計測する加速度も、傾斜成分の加速度と、変動成分の加速度とが混在する。
【0029】
図3に、傾斜角の変動成分が発生した際の、加速度の変動例を示す。横軸に時間をとり、縦軸に加速度をとっている。
図3に示されるように、黒丸で示される計測データは、加速度の傾斜成分に加速度の変動成分が重畳された形となる。
【0030】
図4に、計測値の例を示す。振動が発生した際、傾斜成分から大きく乖離した計測データ(例えば0.98)が発生する。ここで、計測データに平均化処理を施した値(以下、平均化データと称する)は、便宜的に下記の式1で定義できる。
ai+(1/N)Σbi ・・・(式1)
【0031】
aiは加速度の傾斜成分、biは加速度の変動成分、Nは平均化処理の対象となる計測データの数である。平均化対象のデータ数が多いほど、変動成分を低減できる。列車の走行起因の振動を変動成分の対象にした場合、数分間程度の計測データから平均化データを生成すると、その影響を十分に低減可能である。例えば8分間程度の計測データを平均化対象とすると、15両編成の列車が近傍を通過する間、その震動による加速度の変動成分を、十分低減することができる。具体的には、(列車長(m)÷走行速度V(m/s))×安全率30などで求められる。25m×15÷24×30倍=8分程度となる。
【0032】
計測データに平均化処理を施した平均化データを、
図3に白丸で示す。平均化処理の結果、従来のように加速度センサ21の計測データから傾斜角を算出する場合と比較して、振動による影響を低減した、正確性の高い傾斜角を得ることができる。
【0033】
また、平均化処理による平均化データ(
図3の白丸)を送信することによって、計測データ(
図3の黒丸)をそのまま送信するのに比較して、通信量を圧縮する効果を得られる。これにより、センサノード2の低消費電力化に効果がある。平均化処理部23は、算出した加速度の平均化データを記録部22に記録する。
【0034】
前述のように、
図2における制御部20および平均化処理部23はソフトウェアとして機能実現される。すなわち、制御部20および平均化処理部23の機能は、単独では図示しない処理装置により、記録部22に格納されたプログラムを実行することで、定められた処理を他のハードウェアと協働して実現される。計算機などが実行するプログラム、その機能、あるいはその機能を実現する手段を、「機能」、「手段」、「部」、「ユニット」、「モジュール」等と呼ぶ場合がある。
【0035】
なお、ソフトウェアで構成した機能と同等の機能は、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードウェアでも実現できる。
【0036】
近距離無線部24は、平均化データと、時計部26が提供する時刻情報を、アンテナ25を介してゲートウェイ3に送信する機能を有する。近距離無線部24は、所定の加速度センサ21の計測処理と同期して、送信処理を繰り返し実行するものとする。
【0037】
この時、近距離無線部24は、センサノード2毎に一意に割り振られた識別ID(MACアドレスなど)を保持する。それゆえ、受信したゲートウェイ3は、送信元のセンサノード2を判断可能である。
【0038】
図5に、近距離無線部24の送信データの構成例を示す。近距離無線部24の送信データは、センサノード識別ID、加速度センサのxyz等各軸に対応した平均化データ、計測時刻を含む。ここで、送信データのサイズを増やせる場合には、センサノード2の稼働情報などを同時に送信してもよい。例えば、電源部27の供給電圧値や、過去の計測データ履歴などを同時に送信すれば、センサノード2の稼働管理に役立つ。アンテナ25は、近距離無線の電波を送信する機能を有する。またさらに受信機能を備えてもよい。
【0039】
時計部26は、現在時刻を提供する機能を有する。現在時刻は時計部26が自ら計測してもよいし、外部からの信号を元に取得してもよい。
【0040】
電源部27は、センサノード2の各部へ電力を供給する機能を有する。電源部27は、太陽光パネル等で構成し、自然エネルギーから電力を生成してもよいし、リチウムイオン電池などの蓄電池で構成してもよい。
【0041】
<3.ゲートウェイ>
図6は、本実施例におけるゲートウェイ3の構成例を示している。ゲートウェイ3は、制御部30、近距離無線部31、近距離無線用アンテナ32、遠距離無線部33、遠距離無線用アンテナ34、電源部35を備える。以下、各部の機能について説明する。
【0042】
制御部30は、近距離無線部31、遠距離無線部33を制御する機能を有する。制御部30の一連の動作については後述する。制御部30は、センサノード2の制御部20と同様に、ソフトウェアあるいはハードウェアで構成することができる。
【0043】
近距離無線部31は、近距離無線用アンテナ32を通じてセンサノード2と通信する機能を有する。
【0044】
近距離無線用アンテナ32は、近距離無線の電波を受信する機能を有する。さらに送信機能を備えてもよい。
【0045】
遠距離無線部33は、遠距離無線用アンテナ34を通じて、サーバ4と通信する機能を有する。ゲートウェイ3とサーバ4は設置場所が離れている。したがって、その通信は、広域網6を経由し、ゲートウェイ3と広域網6間は無線通信で、広域網6とサーバ4間は有線通信で通信を行う。遠距離無線部33が動作するタイミングは、近距離無線部31の平均化データ受信と同期してもよいが、遠距離無線部33等に記憶領域を設けて一時的にバッファに蓄積し、後で送信してもよい。
【0046】
遠距離無線用アンテナ34は、遠距離無線の電波を送信する機能を有する。さらに受信機能を備えてもよい。
【0047】
電源部35は、ゲートウェイ3の各部へ電力を給電する機能を有する。電源部35は、リチウムイオン電池などの蓄電池で構成してもよいし、外部から電力を得られる現場では、ACアダプタなどで構成してもよい。
【0048】
<4.サーバ>
図7は、本実施例におけるサーバ4の構成例を示している。サーバ4は、制御部40、通信部41、蓄積部42、傾斜角算出部43、傾斜閾値判定部44、通知部45、画面表示部46を備える。以下、各部の機能について説明する。
【0049】
制御部40は、通信部41、蓄積部42、傾斜角算出部43、傾斜閾値判定部44、通知部45、画面表示部46を制御する機能を有する。制御部40の一連の動作については後述する。制御部40は、センサノード2の制御部20と同様に、ソフトウェアあるいはハードウェアで構成することができる。
【0050】
通信部41は、ゲートウェイ3と通信する機能を有する。ゲートウェイ3とサーバ4は設置場所が離れている。したがって、通信は、広域網6を経由する。このため、通信部41は、インターネット等の広域網6に接続するためのインタフェースを備える。
【0051】
蓄積部42は、センサノード2が送信した平均化データを蓄積する。平均化データは、センサノード2の識別情報毎に整理して蓄積される。蓄積部42は、半導体メモリや磁気ディスクのような記憶装置を用いることができる。
【0052】
傾斜角算出部43は、蓄積部42に蓄積された平均化データから、電柱設備5が最も傾いている傾斜方向と、その傾斜角度を算出する機能を有する。加速度から傾斜方向と傾斜角度を算出する方法は、例えば、加速度センサがx軸、y軸の2軸の加速度Ax、Ayを取得できる場合、下記の式で算出することが可能である。記号「^2」は自乗を示す。gは重力加速度である。
傾斜方向:Arctan(Ay/Ax)
傾斜角度:Arcsin(√((Ax^2)+(Ay^2))/g)
傾斜角算出部43は、算出した傾斜方向と傾斜角度を蓄積部42に保存する。
【0053】
傾斜閾値判定部44は、傾斜角度と、予め設定した閾値を比較し、大小を判定する機能を有する。傾斜角度が閾値を上回った場合には、傾斜閾値判定部44は、通知部45に異常傾斜の発生を知らせる。
【0054】
通知部45は、予め登録した1人以上の管理者7が使用する端末に対し、傾斜の発生を通知する機能を有する。通知手段としては、電子メールで管理者の端末のメールアドレスに通知してもよいし、端末の液晶ディスプレイに表示してもよい。通知する情報には、少なくとも、電柱設備5の識別情報と、傾斜角の情報を含むことが望ましい。
【0055】
傾斜角算出部43、傾斜閾値判定部44、通知部45は、制御部40と同様に、ソフトウェアあるいはハードウェアで構成することができる。
【0056】
画面表示部46は、通知部45の通知を表示する機能を有する。また、管理者の要求に応じて、蓄積部42に保存された電柱設備5の状況を表示する機能を備える。
【0057】
図8に、画面表示部46の表示の一例を示す。画面表示部46は、センサノード識別ID、計測時刻、傾斜方向、傾斜角度、異常判定結果を表示する。表示される異常判定結果は、加速度の変動成分の影響を低減して実際の傾斜角を反映している。よって、電柱の傾斜角を、効率的かつ的確に把握することができる。
【0058】
<5.処理フロー>
図9により、本実施例において、加速度の計測から管理者7への通知までの一連の動作を、フローチャートを用いて説明する。
【0059】
センサノード2の制御部20は、時計部26から時刻情報を読み込み、計測時刻かどうかを判定する(501)。ここで、制御部20が予め決められた計測時間であると判定した場合(501でYes)、加速度センサ21は、電柱設備5にかかる加速度の計測を実施する(502)。加速度センサ21は、複数方向の加速度計測が可能であるので、方向毎に計測を行い、計測データを記録部22に記録する。
【0060】
計測データ数が、既定の計測回数Nに達した時(503でYes)、制御部20が、計測データを平均化処理部23に送る。平均化処理部23は、計測方向毎に計測データに平均化処理を施す(504)。同時に、制御部20は、時計部26から時刻情報を取得し、平均化データと合わせて記録部22に記録する(505)。一方、計測データ数が、既定の計測回数Nに満たない時(503でNo)、制御部20は処理を終え、次の計測時間を待つ。
【0061】
一方、ステップ501において計測時刻ではない場合(501でNo)、制御部20は、時計部26から時刻情報を読み込み、送信時刻かどうかを判定する(506)。ここで、送信時間ではない場合(506でNo)、制御部20は処理を終え、次の計測時間を待つ。
【0062】
送信時刻であった場合(506でYes)、制御部20は、記録部22から最新の平均化データを抽出し(507)、近距離無線部24に対し、送信を指示する(507)。計測時刻の間隔や送信時刻の間隔は任意に定めることができる。例えば、送信時刻と送信時刻の間に、少なくともN回計測ができるように設定すれば、毎回新しい平均化データを送信できるが、これに限定するものではない。
【0063】
近距離無線部24は、平均化データと時刻情報を近距離無線でゲートウェイ3へ送信する(508)。
【0064】
ゲートウェイ3の近距離無線部31は、センサノード2が送信したデータを受信する。制御部30は、受信したデータを近距離無線部31から遠距離無線部33へデータを渡す。そして、遠距離無線部33は、サーバ4へ送信する(510)。
【0065】
サーバ4の通信部41は、ゲートウェイ3が送信したデータを受信し、蓄積部42に、保存する(511)。制御部40は、蓄積部42に保存された平均化データを傾斜角算出部43に渡す。平均化データを傾斜角算出部43に渡すタイミングは任意に定めることができる。例えば、ゲートウェイ3が送信したデータを受信するたびに、最新の平均化データを傾斜角算出部43に渡してもよいが、これに限定するものではない。
【0066】
傾斜角算出部43は、平均化データから、電柱設備5の最も傾いている方向と、その傾斜角度を算出し、蓄積部42に記録する(512)。算出した傾斜角、例えば最大の傾斜角が予め設定した閾値以内であれば(513でNo)、傾斜閾値判定部44は、異常傾斜の発生のアラームをあげずに処理を終了する。
【0067】
算出した傾斜角、例えば最大の傾斜角、が予め設定した閾値を超えた場合(513でYes)、傾斜閾値判定部44は、異常傾斜の発生のアラームを通知部45に送る。
【0068】
通知部45は、傾斜閾値判定部44からアラームを受けると、例えば管理者7に対して、傾斜の発生を示す通知を行う(514)。
【0069】
以上述べたとおり、本実施例によれば、センサノード2が計測した加速度の値に、平均化処理を施すことで、変動成分を低減することができ、電柱そのものの傾斜成分を取り出すことができる。そして、サーバ4では、変動成分が低減された平均化データを利用して電柱そのものの傾斜度合いに基づき異常有無を監視しているので、従来のように変動成分を低減していない電柱の単なる傾斜角に基づく異常有無の監視と比較して、正確性の高い監視が可能となる。
【0070】
傾斜角の変動成分は、電柱の倒壊予兆を検知するシステムを構築する場合において、誤った判断の原因になる。例えば従来のように、計測した傾斜角に基づいて異常アラートをあげる場合、振動による変動成分を傾斜の発生と誤認識し、誤報のアラートが頻発することが懸念される。これに対し、本実施例を適用したシステムでは、変動成分を低減した平均化データに基づき、電柱の傾斜角の異常無を判定しているので、変動成分による誤報のアラートが頻発する等の問題を解決できる。
【0071】
さらに、平均化処理は計測データの情報量を削減し、センサノード2の低消費電力化を可能にする。また、ゲートウェイ3によって近距離無線と遠距離無線とを組み合わせたデータ収集方式を採用することで、広域に散在した多数の電柱にかかる加速度を効率的に収集する。本実施例により、傾斜の発生を正確に検知し、アラートをあげる傾斜監視システムを構築することができ、倒壊事故を未然に防ぐことを可能にする。
【0072】
上記の実施例1の構成で、平均化処理によって変動成分の影響を低減した。しかし、平均化処理による効果は、計測データの分散に依存する。そのため、計測データの値やデータ数次第では、変動成分が平均化データに残存することが考えられる。例えば、あまりに大きな計測データを記録した場合、平均化処理だけではその影響を十分に低減できない。また、高頻度に傾斜角を測定したい場合、平均化対象のデータが少なくなり、変動成分が残存しやすい。そこで、平均化処理に加え、計測データの取得段階で変動成分を低減し、傾斜の監視精度を高める方法を、別の実施例として以下に説明する。
【実施例2】
【0073】
測定対象物の周囲に他の構造物がある場合、共振を起こすことがある。例えば、高架橋近傍に設置された電柱は、高架橋と電柱の共振周波数が一致した場合、共振現象によって大きな振幅の振動が発生する。電柱の共振周波数は1〜10Hz程度である。そのことから、本発明者等は、電柱の固有振動数と、傾斜角の計測周期の関係に着目した。そして、発明者等は、計測周期の値によって、実施例1が共振現象の影響を大きく受けることを、新たに見いだした。この新たな知見に基づき、傾斜の監視精度を高める手段を、実施例2として説明する。共振現象による影響について下記に説明する。
【0074】
図10は、実施例1において、電柱設備5が共振する場合の加速度と、計測データの例を表した図である。横軸が時間を示し、縦軸が加速度を示す。電柱設備5が共振する場合、加速度は602の様な、正弦波状の曲線となる。この時、センサノード2の計測周期が、共振周波数と近い値であると、センサノード2が、本来計測したい傾斜成分より大きな加速度(例えば、計測値H1、H2近傍)だけを取得する場合がある。このような状態では、計測データに平均化処理を施したとしても、変動成分を低減できない。
【0075】
そこで、センサノード2の加速度センサ21の計測周期を調整することで、変動成分の影響を低減する。具体的には、加速度センサ21の計測周期Tsを、下記の式を満たすよう設定する。
Ts ≦ 1 / (2・Fp) ・・・・(式2)
Fs ≧ 2 Fp
ここで、Tsは加速度センサ21の計測周期、Fsは加速度センサ21のサンプリングレート、Fpは電柱設備5の持つ共振周波数を表す。上記条件を満たすことで、計測データは、傾斜成分より大きい値だけでなく、傾斜成分より小さい値を含む。
【0076】
例えば、
図10の例では計測周期(Ts)=振動周期の半分(1 / (2・Fp))としている。この例では、計測データは傾斜成分より大きい値H1,H2と、傾斜成分より小さい値L1,L2の両方を含むので、平均化処理により大きい値と小さい値が相互に打ち消しあって、変動成分を低減することができる。計測周期の位相がずれた場合であっても、計測データの大きい値と小さい値が打ち消す効果は同様である。ここで
図3で示した通り、過去の計測データ数N=5で平均化すれば十分な精度を得ることができる。何個のデータ数Nで平均化するのが適切かは、対象とする電柱設備等の環境によるので、過去データを検討して決めればよい。
【0077】
また、計測周期がさらに短くなった場合は、隣り合う計測データ同士の打消し効果は小さくなるが、本来計測したい傾斜成分より大きな(または小さな)加速度だけを取得することはない。また、サンプリングレートが大きくなることで、平均化処理による平準化の効果が顕著になる。
【0078】
この結果、平均化処理により、共振現象による変動成分を低減することができ、共振がない場合の加速度601に近い計測値が得られる。
【0079】
本実施例において、センサノード2は、計測周期の設定を、記録部22に保持するものとする。監視対象の電柱設備5が、共振することが予め分かっている場合には、記録部22に計測周期を設定する。センサノード2の設置後に、共振が判明した場合に備え、センサノード2は、設定を変更できる機構を備えてもよい。
【0080】
以上説明したように、電柱設備5の共振周波数に基づいてセンサノード2の計測周期を決定することで、共振の影響を低減し、傾斜の監視精度を高めることができる。
【実施例3】
【0081】
線路近傍に設置した電柱は、列車走行時に生じる大きな振動を受ける。本発明者等は、列車の走行時に生じる振動が、特定の周波数帯にピークを持つことに着目した。そして、その周波数を、予め特定可能であることを新たに見いだした。この新たな知見に基づき、傾斜の監視精度を高める手段を、実施例3として説明する。列車の走行によって生じる振動について、下記に述べる。
【0082】
図11は、列車110の走行による、加速度の変動の例を表した図である。
図11(a)に示すように、列車110による振動の主な原因は、列車110が線路の継ぎ目111を通過する際に発生する、車輪と線路の衝撃である。そのため、衝撃は、車輪の数だけ繰り返し発生し、衝撃の時間的間隔は車輪の物理的間隔に依存する。このため、
図11(b)に示すように、横軸に時間を示し、縦軸に加速度を示した場合、列車走行の影響を受けた加速度701には、所定の間隔で振動のピークが現れる。
【0083】
この時、振動が重畳されるため、ピークの周波数Fは、車輪間隔と列車速度から決まり、下記の式で表される。
F= V / L
Lは車輪間距離、Vは列車110の走行速度である。上記式から、振動のピークとなる周波数帯703を把握することができる。
【0084】
図11(c)は、横軸に周波数を示し、縦軸に加速度を示し、列車走行の影響を受けた加速度702を図示したものである。振動のピークとなる周波数F=V / L以上の周波数帯703を除去することにより、列車走行の影響を低減することができる。
【0085】
以上の知見に基づき、本実施例における傾斜監視システムの構成について述べる。センサノード2の加速度センサ21は、内部にLPF(Low Pass Filter)処理機能を有するものとする。一般に、加速度センサデバイスは、電気的ノイズや、手に持った場合の手振れの影響を抑える目的で、LPF処理機能を搭載するものである。
【0086】
LPF処理は、ある所定の周波数以上の高周波成分を遮断する。加速度センサデバイスのLPF処理の詳細は、製品などにより公知である。加速度センサ21は、計測データ取得時に、LPF処理を実行し、上記の式で得られた列車振動の周波数成分を除去する。
【0087】
センサノード2は、LPF処理の遮断周波数の設定を、記録部22に保持するものとする。また、センサノード2は、設定を変更できる機構を備えてもよい。
【0088】
以上説明したように、加速度センサ21がLPF処理を備え、LPF処理の遮断周波数を、振動要因に特有の周波数に設定することで、列車走行の振動の影響を低減し、傾斜の監視精度を高めることができる。
【0089】
実施例3のLPF処理は実施例1の平均化処理と組み合わせて用いることにより、平均化処理による加速度の変動成分の低減効果を増大させることができる。また、加速度の変動成分の原因が、所定の周波数以上の高周波成分に限られる等の状況では、平均化処理と組み合わせなくとも一定の効果が得られる。