(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の従来例では、ワークを調芯するための機構として内側加圧部及び外側加圧部が設けられている。
内側加圧部及び外側加圧部は、ともにスプリングによってローラをワークに向けて付勢するという複雑な構成である。
しかも、内側加圧部と外側加圧部の双方のスプリングのばね力を正確に調整しないと、ワークの調芯ができなくなるという課題がある。
【0006】
本発明の目的は、環状部材の調芯を簡易な構成で実現できる調芯装置及び熱処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の調芯装置は、環状部材を支持する支持ローラと、前記支持ローラを回転駆動する駆動機構とを備え、前記環状部材を仮想円の円中心に調芯する調芯装置であって、前記支持ローラは、前記仮想円の周方向に沿って複数が配置され、前記支持ローラの軸芯と前記仮想円の径方向とが交差していることを特徴とする。
【0008】
本発明では、複数の支持ローラに環状部材を支持させた状態で、これらの支持ローラを駆動機構で駆動させると、支持ローラを介して環状部材が回転する。支持ローラは、その軸芯と直交する方向に回転力を環状部材に伝達する。回転力が伝達された環状部材は周方向に回転する。
本発明では、支持ローラの軸芯と仮想円の径方向とが交差しているため、環状部材が仮想円に対して偏心して配置されていると、環状部材に伝達される力の向きが仮想円の接線と一致しない。支持ローラは仮想円の周方向に沿って複数配置されているので、これらの支持ローラから環状部材に伝達する力の合力が仮想円の円中心に向かうことになり、環状部材が支持ローラ上を回転しながら調芯される。
従って、本発明では、複数本の支持ローラを、その軸芯が仮想円の径方向と交差するように配置することで環状部材を仮想円に調芯できるから、環状部材自体を径方向の内外に移動させるための加圧機構が不要となり、調芯のための構造が簡易となる。
【0009】
本発明では、前記軸芯と前記径方向とのなす角度は、前記支持ローラの全てで同じである構成が好ましい。
この構成では、支持ローラの全てにおいて、軸芯と仮想円の径方向とのなす角度を同じにするので、支持ローラの設置作業が容易となる。
【0010】
本発明では、前記支持ローラは、3本以上の奇数本であり、互いに前記仮想円の周方向に等間隔に配置されている構成が好ましい。
この構成では、複数の支持ローラを仮想円の周方向に沿って互いに等間隔に配置しているから、環状部材が複数の支持ローラにより均等に支持されることになる。そのため、支持ローラを回転させた場合に、環状部材が安定した状態で回転することになる。
支持ローラを仮想円の周方向に沿って互いに等間隔に配置している場合、支持ローラが2本以上の偶数では、環状部材を支持する2箇所が仮想円の円中心を挟んで対向配置されることになるので、支持ローラから環状部材に伝達される力が相殺されることになり、調芯を十分に行えない。
従って、3本以上の奇数本からなる支持ローラを互い等間隔に配置することで、調芯を確実に行うことができる。
【0011】
本発明の熱処理装置は、環状部材を熱処理する熱処理本体部と、前記環状部材を環状部材周方向に回転させる回転機構と、を備え、前記回転機構は、仮想円の円周上に配置され前記環状部材を支持する複数本の支持ローラと、前記支持ローラを回転駆動する駆動機構とを有し、前記支持ローラは、その軸芯が前記仮想円の径方向とは交差して配置されることを特徴とする。
【0012】
本発明では、複数の支持ローラにワークとして環状部材を支持させた状態で、これらの支持ローラを駆動機構で駆動させると、支持ローラを介して環状部材が回転する。環状部材は、支持ローラによって回転しながら、熱処理本体部で熱処理が施される。
本発明では、支持ローラは仮想円の周方向に沿って複数配置されており、支持ローラの軸芯と仮想円の径方向とが交差しているので、これらの支持ローラから環状部材に伝達する力の合力が仮想円の円中心に向かうことになり、環状部材が支持ローラ上を回転しながら調芯される。
従って、本発明では、環状部材自体を径方向の内外に移動させるための加圧機構が不要となり、調芯のための構造が簡易となる。しかも、ワークとしての環状部材を仮想円に調芯できるから、環状部材と熱処理本体部との距離が一定となり、環状部材の熱処理を効率的に行える。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[調芯装置]
本発明の調芯装置にかかる実施形態を図面に基づいて説明する。
[第1実施形態]
第1実施形態を
図1から
図3に基づいて説明する。
図1及び
図2において、本実施形態の調芯装置1は、ベース2と、ベース2に配置される3本の支持ローラ31,32,33と、これらの支持ローラ31,32,33を回転駆動する駆動機構4とを備えている。支持ローラ31,32,33の上には調芯対象となる環状部材Rが配置されている。環状部材Rは、外周面と内周面とが同じ円中心ORであり、かつ、外周面と内周面とに直交する面は平面とされている。
図1及び
図2では、環状部材Rは、円中心ORが仮想円Sの円中心Oと一致して支持ローラ31,32,33に配置されている。
【0015】
ベース2は、平面矩形状の板状に形成され、その四隅には支持ボルト20が設けられている。
支持ローラ31,32,33は、それぞれ環状部材Rの平面に外周面が当接するローラ本体30Aと、ローラ本体30Aに設けられた摩擦部30Bとを有する。
ローラ本体30Aの両端は、それぞれベース2に取り付けられた2つの支持金具38に回動自在に支持されている。ローラ本体30Aは、2つの支持金具38のうちベース2の中心側に配置された支持金具38から一端部が突出している、摩擦部30Bは、ローラ本体30Aのうち支持金具38から突出した部分に設けられたリング状のゴム部材である。
【0016】
支持ローラ31,32,33は、仮想円Sの周方向に沿って互いに等間隔に配置されており、かつ、支持ローラ31,32,33の軸芯Cと仮想円Sの径方向SRとが交差している。
支持ローラ31,32,33は仮想円Sに対して偏角をもって配置されている。この偏角は、軸芯Cと径方向SRとのなす角度のうち鋭角の角度θである。角度θは、3本の支持ローラ31,32,33で同じである。
効率的に調芯をするためには、角度θは大きければよいが、あまり大きすぎると、支持ローラ31,32,33を長くしなければならず、装置が大型化する。
【0017】
駆動機構4は、ベース2の中心部にそれぞれ立設された複数本の柱部41と、柱部41の頂部に設けられた取付板部42と、取付板部42の中心に回動自在に設けられベース2の平面に対して軸芯が直交する回動部材43と、回動部材43のベース側の一端部に設けられた駆動板部44と、回動部材43及び駆動板部44を回転させるハンドル45とを備えている。
取付板部42と駆動板部44とは、それぞれベース2と平行に配置された円板である。駆動板部44は、ベース2に対向する平面が支持ローラ31,32,33の摩擦部30Bの周面に当接する摩擦板として機能する。
ハンドル45は、回動部材43の他端部に固定された固定部451と、固定部451に一端が固定されたアーム部452と、アーム部452の他端部に設けられたロッド状の把持部453とを有する。
本実施形態では、駆動板部44及び回動部材43の円中心が仮想円Sの円中心Oであり、円中心Oに円中心ORが一致するように、調芯装置1によって、環状部材Rが調芯される。
【0018】
次に、第1実施形態の調芯原理について、
図3から
図5に基づいて説明する。
図3(A)は調芯装置全体の概略を示し、
図3(B)は1つの支持ローラにおけるベクトルを示す。
図3(A)に示される通り、仮想円Sに対して環状部材Rが偏心して配置されている状態が示されている。環状部材Rは、3本の支持ローラ31,32,33に支持されている。これらの支持ローラ31,32,33のうち1本、例えば、支持ローラ31が支える環状部材Rの質量は、全質量の3分の1とは異なる。例えば、3本の支持ローラ31,32,33が環状部材Rを均等に支持している場合、1本あたりの支持ローラ31(32,33)で支持する質量の分配率を100%とすると、本実施形態では、環状部材Rが支持ローラ31,32,33で均等に支持されていないので、全てが100%とはならない。例えば、
図3(A)において、支持ローラ31では、分配率が100.09%となり、支持ローラ32では分配率が96.92%となり、支持ローラ33では、分配率が102.98%となる。これらの分配率は、環状部材Rが支持される支持ローラ31,32,33の軸B1,B2,B3の上の点W1,W2,W3の位置と、環状部材Rの重心Wとに基づいて求められる。
【0019】
支持ローラ32の軸B2と支持ローラ33の軸B3とを支点として、環状部材Rの重心Wを支持ローラ31の軸B1の上の点W1で支えることになる。同様に、支持ローラ31の軸B1と支持ローラ33の軸B3とを支点として、環状部材Rの重心Wを支持ローラ32の軸B2の上の点W2で支えることになり、支持ローラ31の軸B1と支持ローラ32の軸B2とを支点として、環状部材Rの重心Wを支持ローラ33の軸B3の上の点W3で支えることになる。
本実施形態では、点W1で駆動ベクトルP1が軸B1と直交する方向に生じることになり、点W2で駆動ベクトルP2が軸B2と直交する方向に生じることになり、点W3で駆動ベクトルP3が軸B3と直交する方向に生じることになる。これらの駆動ベクトルP1,P2,P3は、分配された質量に比例した駆動力の大きさとなる。例えば、3本の支持ローラ31,32,33で環状部材Rを均等に支持する場合の1本あたりの駆動力に比べて、駆動ベクトルP1の大きさは、100.09%であり、駆動ベクトルP2の大きさは96.92%であり、駆動ベクトルP3の大きさは102.98%である。
【0020】
環状部材Rには、支持ローラ31,32,33の円周方向にそれぞれ駆動ベクトルPR1,PR2,PR3が生じる。本実施形態では、支持ローラ31,32,33がそれぞれ偏角として角度θ(例えば、30°)で配置されている(
図1参照)。そのため、
図3(B)に示される通り、環状部材Rに生じる駆動ベクトルPR1と支持ローラ31で生じる駆動ベクトルP1とは点W1を基点として異なる角度に向いており、同様に、駆動ベクトルPR2と駆動ベクトルP2とは異なる角度に向いており、駆動ベクトルPR2と駆動ベクトルP2とは異なる方向に向いている。駆動ベクトルP1,P2,P3は、いわば、支持ローラ31,32,33の回転トルクであり、これらは、ベクトル和の方向に重心Wが作用を受けることになる。支持ローラ31,32,33の回転により、ベクトル量に比例して環状部材Rが移動することになる。つまり、重心Wに作用する力と向きとは理想的な回転中心である中心Oに向かって作用することになる。
これに対して、角度θが0°である従来例では、駆動ベクトルP1,P2,P3と駆動ベクトルPR1,PR2,PR3とはほぼ同じ方向を向いているので、仮想円に対して偏心して環状部材Rが配置された場合には、支持ローラを回転させても、環状部材Rが正しい位置に戻ることがない。
【0021】
以上の原理に基づいて、支持ローラ31,32,33の回転により、環状部材Rが正しい位置に戻ることを
図4に基づいて説明する。
図4(A)に示される通り、駆動ベクトルP1は支持ローラ31の軸芯とは直交する方向に向いており、駆動ベクトルP2は、支持ローラ32の軸芯とは直交する方向に向いており、駆動ベクトルP3は支持ローラ33の軸芯とは直交する方向に向いている。
駆動ベクトルP1は、環状部材Rの径方向の分力P11と、周方向の分力P12とに分けられる。
駆動ベクトルP2は、環状部材Rの径方向の分力P21と、周方向の分力P22とに分けられる。
駆動ベクトルP3は、環状部材Rの径方向の分力P31と、周方向の分力P32とに分けられる。
ここで、分力P12,P22,P32は、環状部材Rを周方向に回転させるためのものであり、分力P12と、分力P22と、分力P32との合力によって環状部材Rが周方向に回転する。
分力P11,P21,P31は、それぞれ方向と大きさが相違する。分力P11,P21,P31は、環状部材Rを調芯させるものであり、これらの合力P0は仮想円Sの円中心Oに向かっている。
【0022】
環状部材Rは、その円中心ORが仮想円Sの円中心Oに向かうように移動するが、回転する環状部材Rにおける支持ローラ31,32,33での接点が変化することで、合力P0の向きや大きさが変わることになる。
例えば、
図4(A)の状態から
図4(B)の状態になる。
図4(B)に示される通り、環状部材Rには、支持ローラ31,32,33と接する点において、駆動ベクトルQ1,Q2,Q3が生じる。
駆動ベクトルQ1,Q2,Q3は、支持ローラ31,32,33の軸芯とは直交する方向に向いており、環状部材Rの径方向の分力Q11,Q21,Q31と、周方向の分力Q12,Q22,Q32とに分けられる。
ここで、分力Q12,Q22,Q32は、環状部材Rを周方向に回転させるためのものである。分力Q11,Q21,Q31は、環状部材Rを調芯させるものであり、これらの合力Q0は仮想円Sの円中心Oに向かっている。なお、合力Q0の大きさは合力P0の大きさより小さくなっている。
【0023】
最終的には、環状部材Rは、その円中心ORが仮想円Sの円中心Oと一致して調芯されることになる。この状態が
図4(C)に示される。
図4(C)において、環状部材Rが調芯された後で、支持ローラ31,32,33により環状部材Rを回転し続けると、環状部材Rには、支持ローラ31,32,33との接点において、駆動ベクトルT1,T2,T3が生じる。駆動ベクトルT1,T2,T3は、支持ローラ31,32,33の軸芯とは直交する方向に向いており、環状部材Rの径方向の分力T11,T21,T31と、周方向の分力T12,T22,T32とに分けられる。
ここで、環状部材Rは調芯されているため、分力T11,T21,T31は、その大きさが同じである。分力T11,T21,T31は、その方向が円中心Oを中心として120°ずつ異なるので、釣り合って合力が0となる。
そのため、調芯された状態で、環状部材Rが回転し続けることになる。
【0024】
従って、本実施形態の調芯装置1では、次の効果を奏することができる。
(1)環状部材Rを支持する支持ローラ31,32,33と、支持ローラ31,32,33を回転駆動する駆動機構4とを備え、支持ローラ31,32,33を、仮想円Sの周方向に沿って複数を配置し、支持ローラ31,32,33の軸芯Cと仮想円Sの径方向SRとを交差させたから、支持ローラ31,32,33を回転駆動させるだけで、環状部材Rを仮想円Sに調芯できる。そのため、環状部材R自体を径方向の内外に移動させるための特別な機構が不要となり、調芯のための構造が簡易となる。
【0025】
(2)軸芯Cと径方向SRとのなす角度θは、複数の支持ローラ31,32,33の全てで同じであるから、支持ローラ31,32,33のベース2への設置作業が容易となる。
【0026】
(3)3本の支持ローラ31,32,33は、互いに仮想円Sの周方向に等間隔に配置されているから、環状部材が3本の支持ローラにより均等に支持されることになる。そのため、支持ローラ31,32,33を回転させた場合に、環状部材Rが安定した状態で回転することになり、調芯を確実に実施することができる。
【0027】
(4)支持ローラ31,32,33は、それぞれ端部に摩擦部30Bを備え、駆動機構4は、摩擦部30Bの周面に当接する駆動板部44を備えているから、駆動板部44を回転させることで、その回転力が3本の支持ローラ31,32,33に同時に伝達される。そのため、支持ローラ31,32,33に同じ回転力を簡易な構造で付与することができる。
【0028】
[熱処理装置]
次に、本発明の熱処理装置の実施形態を
図5及び
図6に基づいて説明する。
熱処理装置5は、ワークとしての環状部材Rを加熱及び冷却して焼入れするための旋回型焼入装置であり、
図1から
図4で示される調芯装置1の基本的な構成を備えている。なお、本実施形態では、調芯装置1と同一の構成要素は同一符号を付して説明を省略する。
熱処理装置5は、環状部材Rを熱処理する熱処理本体部6と、環状部材Rをその周方向に回転させる回転機構7とを備えている。
環状部材Rは、鋼材のような焼入可能な材料であって、その軸方向に沿う断面形状が全周で略一定に形成されている。
環状部材Rは、表面側のみが加熱されるものであっても、内部まで加熱されるものであってもよいが、軸方向の一方側と他方側とで形状が異なる非対称形状でもよい。
【0029】
回転機構7は、3本の支持ローラ31,32,33と、支持ローラ31,32,33を回転駆動する駆動機構8とを有する。
駆動機構8は、ベース2の中心部に設けられた柱部41と、柱部41の頂部に設けられた取付板部42と、取付板部42の中心に回動自在に設けられた回動部材43と、回動部材43に設けられた駆動板部44と、回動部材43及び駆動板部44を回転させるモータ81とを備えている。
モータ81は、取付板部42の上面に固定されたケース82と、ケース82の内部に収納されたモータ本体83とを有する。
柱部41とベース2との間には、柱部41を昇降する昇降機構84が設けられている。昇降機構84は、柱部41を介して回動部材43及び駆動板部44を昇降させるものであり、例えば、油圧シリンダから構成されている。
【0030】
支持ローラ31,32,33は、ローラ本体30A及び摩擦部30Bを有する。
ローラ本体30Aの両端を回動自在に支持する支持金具38は、それぞれ支持板85に取り付けられている。
支持板85とベース2との間には、支持ローラ31,32,33を昇降させるための昇降機構86が設けられ、昇降機構86は、油圧シリンダ等からなる。
【0031】
熱処理本体部6は、環状部材Rを加熱する加熱コイル61と、図示しない冷却部とを備えている。
加熱コイル61は、隣合う支持ローラ31,32,33の各間隙であって、環状部材Rの内周領域に配置されている。加熱コイル61は、仮想円Sの円中心Oに対して周方向に略均等に配設されるのが好適である。
加熱コイル61は、図示しない変位手段により進退可能となっており、支持ローラ31,32,33が所定位置に配置された状態で、環状部材Rの被加熱領域に対向近接するように構成されている。
冷却部は、熱処理本体部6の下方に配置されており、環状部材Rに冷却媒体を吐出する構成である。
【0032】
次に、本実施形態の熱処理装置5を用いて環状部材Rを焼入処理する方法について説明する。
まず、昇降機構84,86で駆動機構8及び支持ローラ31,32,33を高い位置(
図5の実線の位置)にし、支持ローラ31,32,33にワークとして環状部材Rを配置する。
この状態で、駆動機構8を作動させて支持ローラ31,32,33を回転駆動させ、環状部材Rを周方向に回転させる。環状部材Rを回転させつつ、加熱コイル61に給電して誘導加熱する。
【0033】
ここで、支持ローラ31,32,33に環状部材Rを配置するにあたり、環状部材Rが仮想円Sに対して偏心している場合があるが、この場合には、前述と同等に、支持ローラ31,32,33の回転駆動に伴って調芯される。
加熱終了後、昇降機構84,86で駆動機構8及び支持ローラ31,32,33を低い位置(
図5の想像線位置)まで下降させる。そして、冷却部により、支持ローラ31,32,33に支持された環状部材Rを冷却する。
冷却する工程においても、駆動機構8によって支持ローラ31,32,33が回転し、環状部材Rは周方向に回転する。
冷却後、環状部材Rを搬出することで、焼入処理を終了する。
【0034】
従って、熱処理装置の実施形態では、調芯装置1の(1)〜(4)と同様の効果を奏することができる他、次の効果を奏することができる。
(5)環状部材Rを熱処理する熱処理本体部6と、環状部材Rを周方向に回転させる回転機構7と、を備え、回転機構7を、仮想円Sの円周上に配置される3本の支持ローラ31,32,33と、支持ローラ31,32,33を回転駆動する駆動機構8とを有し、支持ローラ31,32,33を、その軸芯Cが仮想円Sの径方向と交差して配置した。そのため、支持ローラ31,32,33から環状部材Rに伝達する力の合力が仮想円Sの円中心Oに向かうことになり、環状部材が支持ローラ上を回転しながら調芯される。従って、環状部材Rを調芯するための特別な機構が不要となるだけでなく、ワークとしての環状部材Rを仮想円Sに調芯できるから、環状部材Rと熱処理本体部6との距離が一定となり、環状部材Rの熱処理を効率的に行える。
【0035】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態を
図7及び
図8に基づいて説明する。
第2実施形態は支持ロールの数が第1実施形態と異なるもので、他の構成は第1実施形態と同じである。
図7には
図1に対応する図であって、要部のみが示されている。
図7において、環状部材Rは、5本の支持ローラ31,32,33,34,35に支持されている。
図7では、環状部材Rは、調芯された後、つまり、仮想円Sと同芯上に配置された状態が示されている。
支持ローラ31,32,33,34,35は、仮想円Sの周方向に沿って互いに等間隔に配置されており、かつ、支持ローラ31,32,33,34,35の軸芯Cと仮想円Sの径方向SRとが交差している。軸芯Cと径方向SRとのなす角度θは、5本の支持ローラ31,32,33,34,35で同じである。
なお、第2実施形態においても、支持ローラ31,32,33,34,35は駆動機構4で回転駆動されるが、
図7では駆動板部44のみが想像線で示されている。
【0036】
図8は
図4に対応する図である。
図8(A)において、仮想円Sに対して環状部材Rが偏心して配置されている。環状部材Rには、支持ローラ31,32,33,34,35との接点において、駆動ベクトルP1,P2,P3,P4,P5が生じる。
駆動ベクトルP1,P2,P3,P4,P5は、環状部材Rの径方向の分力P11,P21,P31,P41,P51と、周方向の分力P12,P22,P32、P42,P52と、に分けられる。分力P11,P21,P31,P41,P51は、それぞれ方向と大きさが相違する。分力P11,P21,P31,P41,P51は、環状部材Rを調芯させるものであり、これらの合力P0は仮想円Sの円中心Oに向かっている。
【0037】
第1実施形態と同様に、回転する環状部材Rにおける支持ローラ31,32,33,34,35での接点が変化することで、合力P0の向きや大きさが変わることになる。例えば、
図8(A)の状態から
図8(B)の状態になる。
図8(B)に示される通り、環状部材Rには、支持ローラ31,32,33,34,35との接点において、駆動ベクトルQ1,Q2,Q3,Q4,Q5が生じる。
駆動ベクトルQ1,Q2,Q3,Q4,Q5は、分力Q11,Q21,Q31,Q41,Q51と、分力Q12,Q22,Q32,Q42,Q52と、に分けられる。これらのうち、分力Q11,Q21,Q31,Q41,Q51は、環状部材Rを調芯させるものであり、これらの合力Q0は仮想円Sの円中心Oに向かっている。なお、合力Q0の大きさは合力P0の大きさより小さくなっている。
【0038】
図8(C)において、環状部材Rが調芯された後で、支持ローラ31,32,33.34.35により環状部材Rを回転し続けると、環状部材Rには、支持ローラ31,32,33、34,35との接点において、駆動ベクトルT1,T2,T3,T4,T5が生じる。駆動ベクトルT1,T2,T3,T4,T5の大きさは等しく、かつ、駆動ベクトルP1,P2,P3,P4,P5とも等しい。駆動ベクトルT1,T2,T3,T4,T5は、分力T11,T21,T31,T41,T51と、分力T12,T22,T32,T42,T52と、に分けられる。ここで、分力T11,T21,T31,T41,T51は、その大きさが同じであり、その方向が円中心Oを中心として72°ずつ異なるので、釣り合って合力が0となる。そのため、調芯された状態で、環状部材Rが回転し続けることになる。
従って、第2実施形態では、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0039】
なお、本発明は前述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、第1実施形態では、3本の支持ローラ31,32,33を用い、第2実施形態では、5本の支持ローラ31,32,33,34,35を用いたが、本発明では、支持ローラが環状部材Rにそれぞれ接触するのであれば、複数本であればよく、その具体的な数は限定されない。
つまり、本発明では、支持ローラを7本以上の奇数本としてもよく、4本以上の偶数本としてもよい。
【0040】
例えば、
図9に示される通り、支持ローラを4本としてもよく、
図10に示される通り、支持ローラを6本としてもよい。
図9において、環状部材Rは、4本の支持ローラ31,32,33,34に支持されている。
図10では、環状部材Rは、調芯された後の状態が示されている。
支持ローラ31,32,33,34は、仮想円Sの周方向に沿って互いに等間隔に配置されており、かつ、支持ローラ31,32,33,34の軸芯Cと仮想円Sの径方向SRとが交差している。軸芯Cと径方向SRとのなす角度θは、4本の支持ローラ31,32,33,34で同じである。
【0041】
図10において、環状部材Rは、6本の支持ローラ31,32,33,34,35,36に支持されている。
図10では、環状部材Rは、調芯された後の状態が示されている。
支持ローラ31,32,33,34,35,36は、仮想円Sの周方向に沿って互いに等間隔に配置されており、かつ、支持ローラ31,32,33,34,35,36の軸芯Cと仮想円Sの径方向SRとが交差している。軸芯Cと径方向SRとのなす角度θは、4本の支持ローラ31,32,33,34,35,36で同じである。
偶数数の支持ローラを仮想円Sの周方向に沿って等間隔に配置すると、環状部材Rを支持する2箇所が仮想円の円中心を挟んで対向し、支持ローラから環状部材Rに伝達される力が相殺されることもある。これに対して、支持ローラが奇数本では、環状部材Rを支持する2箇所が仮想円の円中心を挟んで対向しないため、支持ローラから環状部材Rに伝達される力が相殺されることがなく、効率的に調芯が行える。
【0042】
さらに、本発明では、熱処理する環状部材Rによっては、熱処理本体部6として冷却部を必ずしも設けることを要せず、加熱コイル61のみとしてもよい。
また、加熱部は加熱コイル61に限定されるものではなく、他の加熱手段、例えば、ヒータでもよい。
さらに、本発明の調芯装置1を適用する装置は、前記実施形態の熱処理装置5に限定されるものではなく、環状部材Rを回転させる構成であれば、限定されない。