(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記縫い針に挿通された上糸を、針板の下側で前進移動する前記ルーパーが捕捉し、後退移動する前記ルーパーに挿通されたルーパー糸を下降する前記縫い針により捕捉して二重環縫いを行うことを特徴とする請求項1記載のミシン。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[縫製システムの全体構成]
以下、本発明の実施の形態である縫製システム100について図面に基づいて説明する。
図1は縫製システム100の全体構成を示す側面図である。
縫製システム100は、被縫製物の縫製を行う二重環縫いミシン10と、二重環縫いミシン10を保持すると共に保持した二重環縫いミシン10を被縫製物に対して位置決めして任意の縫製を行わせるロボットアーム110とを備えている。
【0017】
[ロボットアーム]
ロボットアーム110は、土台となるベース111と、関節113で連結された複数のアーム112と、各関節ごとに設けられた駆動源としてのサーボモーターと、各サーボモーターにより回転又は回動されるアーム角度をそれぞれ検出するエンコーダーとを備える垂直多関節型のロボットアームであり、関節113で連結された複数のアーム112の先端部には二重環縫いミシン10が保持されている。
【0018】
上記各関節113は、アームの一端部を揺動可能として他端部を軸支する揺動関節と、アーム自身をその長手方向を中心に回転可能に軸支する回転関節とのいずれかから構成される。
そして、ロボットアーム110は、六つの関節113を具備しており、六軸によってその先端部の二重環縫いミシン10を任意の位置に位置決めし、任意の姿勢をとらせることができる。
従って、ロボットアーム110は、被縫製物の立体的な曲面上の任意の曲線に沿って縫製を行わせることが可能である。
【0019】
なお、ロボットアーム110は、六軸に限らず、七つの関節を有する七軸のものを採用してもよい。その場合、冗長関節が生じるので、二重環縫いミシン10を任意の位置に位置決めし、任意の姿勢をとらせながら、途中の関節を移動させることができるようになるので、ロボットアーム110の周囲の他の構成物との干渉を回避することができる。従って、二重環縫いミシン10をより広い範囲で任意の位置に位置決めし、任意の姿勢をとらせることができる。
【0020】
また、ロボットアーム110のアームの先端部は、二重環縫いミシン10のミシンフレーム20におけるミシンアーム部23の先端部(針棒側端部)の上を保持しており、これにより、二重環縫いミシン10の針落ち位置近傍とロボットアーム110のアームの先端部との距離を縮めることができ、針落ち位置をより精度良く位置決めすることを可能としている。
【0021】
[ミシン]
図2及び
図3は二重環縫いミシン10の側面図、
図4はミシンフレーム20の内部の構成を示す斜視図である。二重環縫いミシン10は、これらの図に示すように、針板13及び針板13を支持する土台61がミシンフレーム20のミシンベッド部21に対して昇降可能に支持されており、
図2に示す針板13及び土台61の上昇位置において縫製が行われ、
図3に示す下降位置において被縫製物のセッティング等の縫製の準備作業が行われる。
【0022】
上記二重環縫いミシン10は、二本の縫い針11を下端部に保持する針棒12と、針棒12に上下の往復動作を付与する針棒上下動機構30と、ルーパー41により縫い針11に通された上糸にルーパー糸を挿通させるルーパー機構40と、針棒上下動機構30の駆動源であるミシンモーター31のトルクをルーパー機構40に伝達する伝達機構70と、針板13及びルーパー機構40の一部の構成を保持する土台61の昇降動作を行う昇降機構60と、上昇位置にある針板13に対して上方から被縫製物を押さえる布押さえ14と、上記各構成を支持するミシンフレーム20とを備えている。
【0023】
[ミシンフレーム]
ミシンフレーム20は、所定の長手方向に延在するミシンベッド部21と、当該ミシンベッド部21の一端部からその長手方向に直交する方向に向かって立設された立胴部22と、立胴部22の頂部からミシンベッド部21と同方向に向かって延出されたミシンアーム部23とを備えている。
なお、二重環縫いミシン10の各構成における以下の説明では、ミシンベッド部21の長手方向をY軸方向、Y軸方向に直交し、立胴部22が立設された方向をZ軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に直交する方向をX軸方向とする。
また、Y軸方向における一方を前方、他方を後方とし、X軸方向における一方を左方、他方を右方とし、Z軸方向における一方を上方、他方を下方とする。
【0024】
[針棒上下動機構]
針棒上下動機構30は、針棒上下動の駆動源となるミシンモーター31と、ミシンモーター31により回転駆動が行われる上軸32と、上軸32の前端部に固定装備された針棒クランク33と、針棒クランク33と針棒12を連結する図示を省略したクランクロッドとを備えている。即ち、針棒上下動機構30は、クランク機構を構成し、上軸32の全回転を上下の往復動作に変換して針棒12に付与している。
【0025】
上軸32は、ミシンアーム部23内においてY軸方向に沿った状態で回転可能に支持されている。
ミシンモーター31は、上軸32の前端部近傍でその左隣においてその出力軸をY軸方向に向けて配置されている。ミシンモーター31の出力軸と上軸32との間には図示しない歯車機構によりトルクが伝達される。
【0026】
[布押さえ]
布押さえ14は、
図5に示すように、針棒12の左隣に位置するZ軸方向に沿った押さえ棒141の下端部に保持されており、当該押さえ棒141を介して図示しない押さえバネによって下方への押圧力が付与されている。
布押さえ14には、図示しない押さえ上げ機構が併設されており、被縫製時には布押さえ14をより上方となる退避位置に保持することができる。この押さえ上げ機構は、手動操作を行うものでも良いが、アクチュエーターにより制御信号に従って退避位置と縫製位置とに切り替え可能とすることが望ましい。
【0027】
[伝達機構]
ルーパー機構40は、ルーパー41に動力を付与するために上軸32からトルクが入力される下軸42を備えており、伝達機構70は、前述した上軸32から下軸42にトルク伝達を行う。
この伝達機構70は、上軸32の後端部に固定装備された主動プーリ71と、下軸42の後端部に固定装備された従動プーリ72と、主動プーリ71と従動プーリ72との間に掛け渡されたタイミングベルト73とを備えている。
主動プーリ71と従動プーリ72の外径は等しく、伝達機構70は、上軸32から下軸42に対して等速で回転を伝達する。
【0028】
[ルーパー機構]
図6はルーパー41を支持する土台61の図示を省略して、ルーパー41の周辺の構成を示した斜視図である。
図4及び
図6に示すように、ルーパー機構40は、二つのルーパー41と、ミシンモーター31からのトルクが伝達される下軸42と、各ルーパー41に往復揺動動作を付与する溝カム43と、カム従節体としてのコロ44と、当該コロ44を保持するコロ腕45と、コロ腕45とルーパー41に設けられた入力腕46とを連結するルーパー駆動ロッド47とを備えている。
【0029】
各ルーパー41は、Y軸方向に二つ並んだ状態で、尖鋭な先端部411が右側に向けられて針板13の下側に配置されている。各ルーパー41は、その下部が土台61によりY軸回りに揺動可能に支持されており、これにより先端部411は、X軸方向に沿って往復動作を行うことができるようになっている。
ルーパー41の先端部411にはルーパー糸を挿通する挿通孔が形成されており、針板13の下側において縫い針11に形成された上糸のループに対して先端部411を突入させることによって上糸のループを捕捉すると共にルーパー糸を挿通させる。その後、ルーパー41は後退することでルーパー糸のループが形成され、当該ルーパー糸のループに縫い針11が突入してルーパー糸を捕捉する。これらの繰り返しにより、二重環縫いの縫い目の形成が行われるようになっている。
【0030】
各ルーパー41の下端部には、左方に延出された入力腕46が設けられている。この入力腕46は、二つのルーパー41と一体的に連結されており、これらは一体となって揺動動作を行う。従って、入力腕46に対してZ軸方向に沿った往復動作が入力されると、各ルーパー41はX軸方向に沿った往復動作を行う。
【0031】
下軸42は、ミシンベッド部21内において、Y軸方向に沿った状態で回転可能に支持されている。
さらに、下軸42は、同一直線上に配置された入力軸421と伝達軸422とから構成され、これらは連結部材50により一体的に回転可能に連結されている。
入力軸421は、ミシンベッド部21内で前方に配置され、溝カム43が固定装備されている。
また、伝達軸422は、ミシンベッド部21内で後方に配置され、伝達機構70の従動プーリ72が固定装備されている。
【0032】
溝カム43は円板状であって、その中心を貫通する下軸42の入力軸421に固定装備されている。入力軸421はY軸方向に向けられると共に、土台61に対して二つの軸受け48により回転可能に支持されている。
溝カム43は、後面側にカム溝431が形成されている。このカム溝431は、略円形であって、回転中心である入力軸421からの距離が変化する形状となっている。
【0033】
溝カム43のカム溝431には、コロ44が挿入されている。
コロ44はコロ腕45の揺動端部に保持されており、コロ腕45は土台61によりY軸回りに揺動可能に支持されている。また、コロ腕45の揺動端部には、ルーパー駆動ロッド47の下端部が連結され、当該ルーパー駆動ロッド47の上端部は入力腕46に連結されている。
【0034】
従って、溝カム43のカム溝431における入力軸421からの距離が離れた部分にコロ44が位置する時には、コロ腕45の揺動端部が上方に揺動し、ルーパー駆動ロッド47を介して入力腕46を上方に回動させ、ルーパー41の先端部411を右方に向かって移動させることができる。
また、溝カム43のカム溝431における入力軸421からの距離が短い部分にコロ44が位置する時には、コロ腕45の揺動端部が下方に揺動し、ルーパー駆動ロッド47を介して入力腕46を下方に回動させ、ルーパー41の先端部411を左方に向かって移動させることができる。
このように、溝カム43は、下軸42の全回転の動作を左右への往復の揺動動作に変換して各ルーパー41に伝えることができるようになっている。
【0035】
[連結部材]
図7及び
図8は連結部材50の斜視図、
図9は分解斜視図である。
後述するが、ルーパー機構40における下軸42の伝達軸422を除く各構成は、土台61に支持されており、当該土台61は、ミシンベッド部21に対してZ軸方向に沿って往復移動可能に支持されている。
このため、連結部材50が、伝達軸422と入力軸421とが同一直線上に並んで伝達軸422から入力軸421にトルク伝達が行われる状態(
図7の状態。「トルク伝達状態」とする)と、土台61の下降と共に入力軸421のみが伝達軸422に対して下降移動を行う状態(
図8の状態。「分離状態」とする)とを切り替えることを可能としている。
【0036】
即ち、連結部材50は、入力軸421側に設けられた第一の継手部材51と、伝達軸422側に設けられた第二の継手部材52と、第一の継手部材51と第二の継手部材52の間に設けられた中継部材53とを備えている。
これらの継手部材51,52及び中継部材53は、いずれも、外径の等しい円板状の部材であり、トルク伝達状態では、同心で並び、一体的な円柱状となる。
【0037】
第一の継手部材51は、その中心に入力軸421の後端部が挿入される貫通孔が形成されており、頭無しネジによって入力軸421に締結固定されている。
また、第一の継手部材51の中継部材53との対向面には、入力軸421と直交する方向(第一の継手部材51の直径方向)に沿った凸条のキー511が形成されている。
【0038】
第二の継手部材52は、その中心に伝達軸422の前端部が挿入される貫通孔が形成されており、頭無しネジによって伝達軸422に締結固定されている。
また、第二の継手部材52の中継部材53との対向面には、伝達軸422と直交する方向(第二の継手部材52の直径方向)に沿った凸条のキー521が形成されている。
【0039】
中継部材53は、その中心に貫通孔が形成されており、第一の継手部材51との対向面にはキー511が滑動可能に嵌合する第一のキー溝531が、中継部材53の中心軸に対して直交する方向(中継部材53の直径方向)に沿って形成されている。
また、中継部材53の第二の継手部材52との対向面にはキー521が滑動可能に嵌合する第二のキー溝532が、中継部材53の中心軸に対して直交する方向(中継部材53の直径方向)に沿って形成されている。
そして、中継部材53の第一のキー溝531と第二のキー溝532とは、その中心軸方向から見て非平行、即ち、互いに交差する方向、より望ましくは、互いに直交する方向に沿って形成されている。
【0040】
連結部材50は、上記第一と第二の継手部材51,52及び中継部材53により、オルダム継手を構成している。
これにより、入力軸421と伝達軸422とが同一直線上に並んだ状態では、第一の継手部材51のキー511と中継部材53の第一のキー溝531とがこれら相互間のトルクを伝達し、中継部材53の第二のキー溝532と第二の継手部材52のキー521とがこれら相互間のトルクを伝達するので、伝達軸422から入力軸421へのトルク伝達が可能である。
【0041】
さらに、伝達軸422に対して入力軸421が上方又は下方に移動した場合には、第一の継手部材51のキー511と第二の継手部材52のキー521のそれぞれに沿って中継部材53が滑動するので、伝達軸422に対する入力軸421の上方又は下方の移動を許容することができる。
なお、伝達軸422に対して入力軸421の下降移動は、最大で連結部材50の直径未満の範囲まで移動可能である。
【0042】
なお、中継部材53の両面には、それぞれ交差(直交)する方向に第一のキー溝531と第二のキー溝532とが形成されているので、伝達軸422に対して入力軸421は上下方向に限らず、第一のキー溝531と第二のキー溝532のいずれの合成方向(X−Z平面に沿ったいずれの方向)にも移動させることが可能である。
但し、入力軸421は土台61の移動方向にしか移動しないので、上下方向以外の移動は予定していない。
また、オルダム継手は、入力軸421と伝達軸422とが同一直線上に並んでいない場合でも相互間のトルク伝達を行うことが可能であるが、二重環縫いミシン10では、土台61の位置が図示しないセンサにより検出され、入力軸421と伝達軸422とが同一直線上に並んでいるときにしかミシンモーター31の駆動が行われないよう制御装置90により制御される。
【0043】
また、
図8では、第一の継手部材51のキー511及び中継部材53の第一のキー溝531が上下方向(Z軸方向)に沿った状態にあり、下方に土台61及び入力軸421と共に第一の継手部材51のみが移動した状態を図示しているが、土台61及び入力軸421の移動の際には、キー511及びキー溝531を上下方向に向けることは必須ではない。
例えば、キー511及び第一のキー溝531が上下方向に対して傾斜した方向を向いている場合でも、中継部材53がキー511とキー521とに対して滑動するので、伝達軸422に対する入力軸421の移動を円滑に行うことができる。
但し、この二重環縫いミシン10では、キー511及びキー溝531が上下方向に平行な場合にのみ土台61の昇降動作を行うよう制御装置90により制御される。
【0044】
また、第一の継手部材51と中継部材53との間では、中継部材53にキーを設け、第一の継手部材51にキー溝を設けてもよい。同様に、第二の継手部材52と中継部材53との間では、中継部材53にキーを設け、第二の継手部材52にキー溝を設けてもよい。
【0045】
[昇降機構]
図10は昇降機構60における土台61が上位置にある状態の斜視図、
図11は昇降機構60における土台61が下位置にある状態の斜視図を示す。
昇降機構60は、
図10及び
図11に示すように、針板13及びルーパー機構40の主要な構成を支持する土台61と、土台61に装備されたカム従節体としての第一と第二のカムフォロア62,63と、第一のカムフォロア62を介して土台61に昇降動作を付与するカム主節体としてのカム板64と、カム板64を土台61の移動方向に交差する方向であるY軸方向に沿って往復移動させる駆動源としてのカム駆動エアシリンダー65とを備えている。
【0046】
土台61は、その内部においてルーパー機構40の伝達軸422以外の構成を支持し、その上端部において針板13を保持している。針板13は、アーチ状を呈しており、その上部に平坦面を有すると共に当該平坦面に二つの針落ち穴131が形成されている(
図5参照)。これらの針落ち穴に縫い針11による針落ちが行われ、針板13の上部の平坦面の下側に配置された二つのルーパー41により上糸のループにルーパー糸が挿通される。
【0047】
また、土台61の右側外壁には、Z軸方向に沿って二本のスライドレール611が固定装備されており、当該各スライドレール611にはその長手方向に沿って相対的に滑動可能なスライドブロック612が上下に二つずつ取り付けられている(
図7及び
図8参照)。そして、これらのスライドブロック612は、いずれもミシンベッド部21の内壁に固定装備されている。
従って、土台61はミシンベッド部21に対して上下動可能となっている。
【0048】
また、土台61の左側外壁の後端部と前端部とに、第一と第二のカムフォロア62,63がそれぞれ取り付けられている。
これらのカムフォロア62,63は、いずれも、コロであり、Y軸回りに回転可能に土台61に支持されている。
【0049】
カム板64は、Y−Z平面に沿った平板状を呈しており、その下縁部にY軸方向に沿ってスライドレール66が固定装備されており、当該各スライドレール66にはその長手方向に沿って相対的に滑動可能なスライドブロック67が二つ取り付けられている。そして、これらのスライドブロック67は、いずれもミシンベッド部21の内壁に固定装備されている。
従って、カム板64はミシンベッド部21に対してY軸方向に沿って往復移動が可能となっている。
【0050】
さらに、カム板64は、その後端部がカム駆動エアシリンダー65のプランジャーに連結されている。
カム駆動エアシリンダー65は、プランジャーを前方に向けると共にY軸方向に進退移動を行うようにミシンベッド部21内に装備されており、これにより、カム板64をY軸方向に進退移動させることを可能としている。
【0051】
図12はカム板64の側面図である。
図示のように、カム板64には、カム部としてのカム溝68と当接部641とが形成されている。
カム溝68は、内部に第一のカムフォロア62が配置され、当該第一のカムフォロア62の直径とほぼ等しい幅の溝状に形成されている。従って、カム溝68内を当該カム溝68に沿って相対的に第一のカムフォロア62が滑動を行うことができる。
このカム溝68は、前斜め下に向かって傾斜した変化区間681と、当該変化区間681の両端部においてY軸方向に平行な傾斜のない第一と第二の無変化区間682,683が形成されている。
【0052】
カム溝68の第一の無変化区間682は、カム溝68内で最も上に位置しており、
図10に示すように、当該第一の無変化区間682に第一のカムフォロア62が位置している時には、土台61を上位置に保持した状態となる。
土台61が上位置にあるときに、前述した布押さえ14は、針板13に押さえ圧を付与した状態で当接し、被縫製物に対する縫製を行うことが可能な縫製状態となる。
縫製の際には、針板13を介して土台61には、布押さえ14の下方への押さえ圧や針落ち時の縫い針と被縫製物との摩擦よる下方への加圧力が付与される。
しかしながら、第一の無変化区間682はY軸方向に平行なので、カム溝68内の水平部分が第一のカムフォロア62を下方から支承し、また、上方からも支えるので、針板13を安定的に支えることができ、良好な縫製を行うことが可能である。
【0053】
また、当接部641は、第一のカムフォロア62が第一の無変化区間682に位置する時に、第二のカムフォロア63がその上に載置された状態となる位置に形成されている。この当接部641は、溝状ではなく、第二のカムフォロア63の下部に対して下側からのみ当接する構造となっているが、第一の無変化区間682と同様にY軸方向に平行となっているので、第一の無変化区間682と同様に、縫製時に当接部641が第一のカムフォロア62を下方から支承し、針板13を安定的に支えることができ、良好な縫製を行うことが可能である。
また、第一の無変化区間682と当接部641との協働により、土台61を前端部と後端部とで支承するので、針板13をより効果的に支え、より良好な縫製を行うことが可能である。
【0054】
なお、第二のカムフォロア63は、溝カムに嵌合する構造ではないので、第一のカムフォロア62のようにコロであることは必須ではない。例えば、第二のカムフォロア63は、当接部641に摺接する摺接面を備える角コマのような部材から構成してもよい。
【0055】
カム溝68の変化区間681は、前述したように、前斜め下に傾斜して形成されているので、カム駆動エアシリンダー65によりカム板64を後方に移動させると、カム溝68内で第一のカムフォロア62が下方に導かれ、土台61を下位置に向かって下降させることができる。
なお、カム板64が後方に移動すると、当接部641の上に位置していた第二のカムフォロア63は当接部641から外れ、それ以降は、土台61の動作に寄与しない。
【0056】
カム溝68の第二の無変化区間683は、カム溝68内で最も下に位置しており、
図11に示すように、当該第二の無変化区間683に第一のカムフォロア62が位置している時には、土台61を下位置に保持した状態となる。
土台61が下位置にあるときに、前述した布押さえ14は、下死点位置にある縫い針11の下端部よりもかなり下方まで下降し、縫い針11と針板13との間を広く空けることが可能となる。従って、被縫製物が立体的な曲面形状であって、上下に変化を生じた形状であっても、縫い針11と針板13との間に容易にセットすることが可能となる。
なお、第二の無変化区間683もY軸方向に平行なので、カム溝68内の水平部分が第一のカムフォロア62を上下から支え、針板13を安定的に支えることができる。
【0057】
[縫製システムの制御系]
縫製システム100の制御装置90は、
図13に示すように、縫製に関する各種の動作制御を行うためのプログラムが格納されたROM(Read Only Memory)92と、演算処理の作業領域地となるRAM(Random Access Memory)93と、各種設定データなどを記憶する記憶手段としての書き換え可能な不揮発性のデータメモリ94と、ROM92内のプログラムを実行するCPU91(Central Processing Unit)とを備えている。
【0058】
また、CPU91は、モーター駆動回路114a,31aを介してロボットアーム110のサーボモーター114,ミシン10のミシンモーター31の駆動を制御する。
また、サーボモーター114とミシンモーター31には、それぞれの出力軸角度を検出するエンコーダー115,34が併設されており、CPU91は、それぞれの検出回路115a,34aを介して接続されている。
なお、ロボットアーム110は、サーボモーター114及びエンコーダー115を六つの関節113ごとに備えているが、
図13では一つのみを図示して、他の図示は省略している。
さらに、CPU91は、ミシン10の土台61の昇降を行うカム駆動エアシリンダー65を作動させる電磁弁65bを制御するための駆動回路65aと接続されている。
【0059】
[縫製動作制御]
上記構成からなる縫製システム100において、制御装置90は、縫い始めの上糸端部が被縫製物の上側に残らないようにするために、以下に示す縫製動作制御を実行する。
図14は縫製動作制御のフローチャート、
図15は縫製動作制御の動作説明図である。
なお、この縫製システム100では、定形性を有し、縫い針11により貫通可能な軟質材料(例えば、樹脂製のカバー等)を被縫製物としており、当該被縫製物は、治具により規定の目標位置に保持されている。
【0060】
まず、縫製時において、制御装置90のCPU91は、ロボットアーム110の各サーボモーター114を制御して、治具に保持された被縫製物の縫い開始位置に二重環縫いミシン10を搬送する(ステップS1)。
なお、昇降機構60の土台61は、当初、下降した状態にあり、縫い針11と針板13の間が大きく開かれた状態に維持され、ロボットアーム110により被縫製物の縫い開始位置に針落ち位置が位置決めされた時に、土台61が上昇して被縫製物が針板13上にセットされた状態となるようにカム駆動エアシリンダー65の電磁弁65bが制御される。
【0061】
そして、ミシンモーター31の駆動を開始して、一針目の針落ちを実行する(ステップS3)。
これにより、縫い針11が下降し、下死点を通過して上昇に転じると、上糸のループが形成され、そこに進出移動するルーパー41の先端部が突入する。
【0062】
この時、CPU91は、ミシンモーター31のエンコーダー34の出力を監視して、ミシンモーター31の出力軸が、縫い針11の上死点の直前の所定の軸角度に達したか否かを判定する(ステップS5)。そして、達していない場合には、ミシンモーター31の駆動を継続し、達した場合には、ミシンモーター31を一時的に停止させる(ステップS7)。なお、ミシンモーター31の停止指令から実際に停止するまでに惰性による回転が生じるので、CPU91は、惰性を考慮して、エンコーダー34は上死点の手前となる所定の軸角度を検出し、ミシンモーター31の停止制御を開始し、惰性による回転により、丁度、上死点で停止するように制御する。
【0063】
縫い針11の上死点位置では、
図15(A)に示すように、上糸のループに対して最大限にルーパー41の先端部が突入した状態にある。なお、この
図15では、縫い針11とルーパー41と被縫製物Cのみを図示しており、その他の構成の図示は省略している。
また、縫い針11が上死点位置となるミシンモーター31の軸角度において、第一の継手部材51のキー511及び中継部材53の第一のキー溝531が上下方向(Z軸方向)に沿った状態となる(
図8参照)。
【0064】
次に、CPU91は、昇降機構60のカム駆動エアシリンダー65を作動させて土台61を下降させる(ステップS9)。これにより、
図15(B)に示すように、土台61と共にルーパー41が下降移動する。ルーパー41は、前述したように、上糸のループに対して最大限に突入した状態にあるので、下降移動により上糸を下方に引っ張ることができる。その結果、一針目の針落ち位置において、被縫製物Cの上面から上方に突出している上糸の縫い開始端部が被縫製物Cの下面側に引き込まれ、被縫製物上面側の上糸の縫い開始端部の糸残り状態が緩和解消される。
【0065】
そして、CPU91は、昇降機構60のカム駆動エアシリンダー65を作動させて土台61を上昇させる(ステップS11)。これにより、針板13が被縫製物Cに接した状態となり、縫製可能な状態に戻される。
さらに、ミシンモーター31の駆動を再開して、二針目以降の縫製を実行する(ステップS13)。
【0066】
その後、CPU91は、縫製終了を判定し(ステップS15)、終了でなければ縫製を継続し、終了であればミシンモーター31の駆動を停止させ、カム駆動エアシリンダー65を作動させて土台61を下降させて縫製制御を終了する。
なお、縫製終了か否かの判定は、縫製終了とする指令が入力されたり、予め決められた針数に達したことが検出されたり、その他の終了条件を満たした場合に、縫製が終了される。
【0067】
[実施形態の効果]
上記縫製システム100の二重環縫いミシン10は、土台61が上下動可能に支持されているので、針板13を縫い針11から離間又は接近させることができ、立体的な形状の被縫製物を容易にセットすることが可能となる。
【0068】
そして、制御装置90は、縫い開始の一針目の針落ち後、縫い針11の上糸をルーパー41が捕捉した状態で、土台61が縫い針11から離間する方向に移動させるように昇降機構60のカム駆動エアシリンダー65の電磁弁65bを制御するので、被縫製物Cの一針目の針落ち位置において、その上面から上方に突出している上糸の縫い開始端部を被縫製物Cの下面側に引き込むことができる。従って、被縫製物上面側に上糸の縫い開始端部の糸残りが生じ易い二重環縫いミシン10において、当該糸残りを緩和又は解消することが可能となる。
また、二重環縫いミシン10において、被縫製物Cのセッティングを容易に行うための昇降機構60の構成を利用して上糸の縫い開始端部の引き込みを実現しているので、被縫製物上面側の上糸の縫い開始端部の糸残り状態を解消、緩和するための専用の構成を用意する必要がなく、部品点数の低減や二重環縫いミシン10の小型化を実現することが可能となる。
【0069】
また、二重環縫いミシン10は、縫い針11及びルーパー41を二つ備え、二条の二重環縫いを行うことができ、且つ、それぞれの縫い目について、被縫製物上面側における上糸の縫い開始端部の糸残りを緩和又は解消することが可能である。なお、縫い針11及びルーパー41を一つまたは三つ以上備える構成としても良い。
【0070】
また、二重環縫いミシン10は、入力軸421と伝達軸422との間に連結部材50が装備され、連結部材50を、オルダム継手から構成したので、入力軸421を伝達軸422に対して上下動させても、オルダム継手を構成する第一及び第二の継手部材51,52と中継部材53とが離間した状態とならずに連結状態を維持することができるので、入力軸421と伝達軸422のトルク伝達状態と分離状態との切り替えにおいて、人為的な作業を不要とし、二状態の相互間の切り替えを円滑に行うことが可能である。
【0071】
また、二重環縫いミシン10は、土台61の昇降により縫い針11と針板13の間隔を開くことを可能としているので、ミシンアーム部23側に可動構造を設ける必要がなく、ロボットアーム110はミシンアーム部23の針棒側端部を支持することが可能である。
このため、ロボットアーム110の先端部から近い位置に二重環縫いミシン10の針落ち位置を配置することができ、当該針落ち位置の位置決め精度を向上させることができ、縫い品質の向上を図ることが可能となる。
【0072】
[連結部材の他の例]
なお、連結部材50はオルダム継手に限らず、入力軸421の平行移動を許容しつつも部材同士が完全に分離せずにすぐに元の同一直線上に並んだ状態に戻すことが可能な他の構造を適用してもよい。
例えば、入力軸421側には前述した第一の継手部材51と同じものを固定装備し、伝達軸422側には、第一の継手部材51との対向面にキー511が滑動可能に嵌合するキー溝がその中心軸に対して直交する方向に沿って形成された第二の継手部材を固定装備して、これら二部材により連結部材を構成しても良い。
これにより、入力軸421の平行移動を許容しつつも部材同士が完全に分離せずにすぐに元の同一直線上に並んだ状態に戻すことが可能であり、土台61の昇降動作を許容することができる。
但し、伝達軸422に対して入力軸421をキー511に沿った方向にしか移動させることができないので、下軸42、上軸32又はミシンモーター31の出力軸等に軸角度を検出する検出手段を設け、キー511がZ軸方向に沿った向きとなるようにミシンモーター31を制御した上で、土台61を昇降させる必要がある。
【0073】
また、連結部材50は、オルダム継手と同様に機能するシュミット継手を利用しても良い。シュミット継手50Aは、
図16に示すように、その中心で入力軸421に固定装備された円板状の第一の継手部材51Aと、その中心で伝達軸422に固定装備された第二の継手部材52Aと、これらの間に配置された中継部材53Aと、第一の継手部材51Aと中継部材53Aとの間でこれらを連結する二以上の長さが等しいリンク部材54Aと、第二の継手部材52Aと中継部材53Aとの間でこれらを連結する二以上の長さが等しいリンク部材55Aとを備え、各リンク部材54A,55Aは、一端部と他端部とがそれぞれ入力軸421と同じ方向の軸回りに回動可能に第一若しくは第二の継手部材51A,52A又は中継部材53Aに連結されており、複数のリンク部材54A同士が平行に配置され、複数のリンク部材55A同士も平行に配置されている。
かかる構成のシュミット継手50Aも、入力軸421の平行移動を許容しつつも部材同士が完全に分離せずにすぐに元の同一直線上に並んだ状態に戻すことが可能である。
【0074】
[その他]
なお、
図14に示す縫製動作制御は、縫製システムに限らず、ロボットを備えないミシン単独に対しても適用可能である。
また、被縫製物上面側に上糸の縫い開始端部の糸残りは二重環縫いに生じ易いが、他の縫いでも生じ得る。例えば、本縫いの場合も生じる場合があるので、本縫いミシン又は本縫いミシンとロボットアーム110とからなる縫製システムについても、
図14に示す縫製動作制御を適用しても良い。
【0075】
二重環縫いミシン10は、伝達機構70によりミシンモーター31のトルクをルーパー機構40に伝達しているが、ミシンモーター31とは別にルーパー駆動用モーターを設けても良い。また、この場合には土台61にルーパー駆動用モーターを設けることで連結部材50を省略しても良い。