特許第6761768号(P6761768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6761768
(24)【登録日】2020年9月9日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】車両用シートクッション芯材
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/90 20180101AFI20200917BHJP
   A47C 27/14 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   B60N2/90
   A47C27/14 A
   A47C27/14 C
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-35718(P2017-35718)
(22)【出願日】2017年2月28日
(65)【公開番号】特開2018-140701(P2018-140701A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2020年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100094547
【弁理士】
【氏名又は名称】岩根 正敏
(72)【発明者】
【氏名】高山 敦夫
(72)【発明者】
【氏名】松本 貴光
【審査官】 西堀 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/042759(WO,A1)
【文献】 特開2016−60064(JP,A)
【文献】 特開2015−136851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00− 2/90
A47C 7/00− 7/74
A47C 27/00−27/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方と両側方に厚肉部を有する上面視略矩形状の熱可塑性樹脂発泡粒子成形体と、その周縁部にインサート成形された環状の補強部材とからなる車両用シートクッション芯材であって、上記発泡粒子成形体には、乗員着座部の前方及び外側方に埋め込まれた上記補強部材の内方位置に、該補強部材に沿って略L状のスリットが形成されているとともに、上記厚肉部であって上記補強部材が埋め込まれている位置に、該補強部材に交差するスリットが形成されていることを特徴とする、車両用シートクッション芯材。
【請求項2】
上記補強部材に沿って形成された略L状のスリットが、連結部を有することを特徴とする、請求項1に記載の車両用シートクッション芯材。
【請求項3】
上記連結部が、略L状のスリットの屈曲点付近に設けられていることを特徴とする、請求項2に記載の車両用シートクッション芯材。
【請求項4】
上記補強部材に沿って形成された略L状のスリットが、発泡粒子成形体の厚み方向に貫通したスリットであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の車両用シートクッション芯材。
【請求項5】
上記補強部材に交差して形成されたスリットが、発泡粒子成形体の上面、又は上面及び下面から、厚み方向に凹欠したスリットであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の車両用シートクッション芯材。
【請求項6】
上記補強部材に交差して形成されたスリットが、上記補強部材に沿って形成された略L状のスリットにも交差して形成されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の車両用シートクッション芯材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強部材が埋め込まれた熱可塑性樹脂発泡粒子成形体からなる、車両用シートクッション芯材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両用シートクッション芯材として、熱可塑性樹脂発泡粒子成形体(以下、単に「発泡粒子成形体」という場合もある。)の内部に金属等からなる補強部材を埋め込み、一体化させた車両用シートクッション芯材が用いられている。この場合、発泡粒子成形体に埋め込まれた補強部材は、車体への取り付けや、シートアレンジのための構造体フレーム、また衝突時の補強材などとして機能する。
【0003】
このような発泡粒子成形体と補強部材とを一体化させてなる部材としては、これまでに、基体発泡樹脂層と、該基体発泡樹脂層の内部に配設される補強部材とから構成され、補強部材を被覆した発泡性樹脂の発泡層と、基体発泡樹脂層とが係合又は係合・融着した複合発泡粒子成形体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような複合発泡粒子成形体の製造は、例えば、金型内の所定の位置に補強部材を配設し、次いで基体を構成する発泡粒子を充填し、加熱、融着させる、所謂インサート成形によって製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−154929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、発泡粒子成形体は、一般的に金型による型内成形後に成形収縮を起こす。このような特性を有する発泡粒子成形体と、補強部材とを一体化した複合発泡粒子成形体にあっては、発泡粒子成形体と補強部材との収縮率の相違等から、型内成形後に反りが発生する場合があった。このような反りが残存した複合発泡粒子成形体を、車両用シートクッション芯材とする場合には、車体への取り付け精度が悪くなったり、所定の性能が確保できないなどの問題が生じるおそれがあった。
【0007】
これらの問題を解決するための対策としては、発泡粒子成形体の成形後の収縮率を予め予測して、発泡粒子成形体や補強部材を予め逆方向に反らせて成形しておき、収縮後に反りのない形状とする方法が考えられる。
しかしながら、成形後の発泡粒子成形体の収縮率は、使用する熱可塑性樹脂発泡粒子の種類、製造条件、補強部材の材質などによっても異なり、また発泡粒子成形体の形状、インサートされた補強部材の配置状態などにも影響されるため、発泡粒子成形体の反りの大きさをその都度精度よく予測することは困難であった。かかる問題は、特に乗員の滑り出し防止などのために前方と両側方に厚肉部を形成したような、形状の複雑な複合発泡粒子成形体を製造する場合には顕著に現れていた。
【0008】
本発明は、上述した背景技術が有する実情に鑑みなされたものであって、反りが少なく寸法精度の優れた、インサート成形により補強部材が一体化された熱可塑性樹脂発泡粒子成形体からなる、車両用シートクッション芯材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するため、本発明は、次の〔1〕〜〔6〕に記載した車両用シートクッション芯材とした。
〔1〕前方と両側方に厚肉部を有する上面視略矩形状の熱可塑性樹脂発泡粒子成形体と、その周縁部にインサート成形された環状の補強部材とからなる車両用シートクッション芯材であって、上記発泡粒子成形体には、乗員着座部の前方及び外側方に埋め込まれた上記補強部材の内方位置に、該補強部材に沿って略L状のスリットが形成されているとともに、上記厚肉部であって上記補強部材が埋め込まれている位置に、該補強部材に交差するスリットが形成されていることを特徴とする、車両用シートクッション芯材。
〔2〕上記補強部材に沿って形成された略L状のスリットが、連結部を有することを特徴とする、上記〔1〕に記載の車両用シートクッション芯材。
〔3〕上記連結部が、略L状のスリットの屈曲点付近に設けられていることを特徴とする、上記〔2〕に記載の車両用シートクッション芯材。
〔4〕上記補強部材に沿って形成された略L状のスリットが、発泡粒子成形体の厚み方向に貫通したスリットであることを特徴とする、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の車両用シートクッション芯材。
〔5〕上記補強部材に交差して形成されたスリットが、発泡粒子成形体の上面、又は上面及び下面から、厚み方向に凹欠したスリットであることを特徴とする、上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の車両用シートクッション芯材。
〔6〕上記補強部材に交差して形成されたスリットが、上記補強部材に沿って形成された略L状のスリットにも交差して形成されていることを特徴とする、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の車両用シートクッション芯材。
【発明の効果】
【0010】
上記した本発明に係る車両用シートクッション芯材によれば、特定位置に補強部材に沿って略L状のスリットを形成するとともに、特定位置に補強部材に交差してスリットを形成したため、これらのスリットの存在により、発泡粒子成形体と補強部材との収縮率の相違等に起因する反りが緩和され、反りが少なく寸法精度の優れた車両用シートクッション芯材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る車両用シートクッション芯材の一実施形態を示した概念的な斜視図である。
図2図1に示した車両用シートクッション芯材の発泡粒子成形体への補強部材の埋設状態を現した概念的な平面図である。
図3図2のX−X線に沿う部分の断面図である。
図4】実施例の反りの測定位置を示した概念的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の車両用シートクッション芯材について、詳細に説明する。
【0013】
本発明に係る車両用シートクッション芯材は、前方と両側方に厚肉部を有する上面視略矩形状の熱可塑性樹脂発泡粒子成形体と、その周縁部にインサート成形された環状の補強部材とからなる車両用シートクッション芯材であって、上記発泡粒子成形体には、乗員着座部の前方及び外側方に埋め込まれた上記補強部材の内方位置に、該補強部材に沿って略L状のスリットが形成されているとともに、上記厚肉部であって上記補強部材が埋め込まれている位置に、該補強部材に交差するスリットが形成されている車両用シートクッション芯材である。
【0014】
上記した発泡粒子成形体を構成する熱可塑性樹脂は、適宜選択可能であるが、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル系樹脂、その他、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂との複合樹脂などを用いる場合に、本発明を好適に適用することができる。中でも、結晶性樹脂であることから収縮し易い、ポリオレフィン系樹脂を含む樹脂を用いた場合に、特に本発明の反り防止の効果が顕著に発揮できることから、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂との複合樹脂を用いることがより好ましく、ポリプロピレン系樹脂を用いることが更に好ましい。
【0015】
また、インサート成形により補強部材が一体化された熱可塑性樹脂発泡粒子成形体は、公知の方法により製造することができる。
例えば、オートクレーブ等の加圧可能な密閉容器内に分散媒体(通常は水)と、所望により界面活性剤を添加し、その中に上記した熱可塑性樹脂粒子を分散させ、発泡剤を圧入して加熱下において撹拌して発泡剤を樹脂粒子に含浸させる。次いで、発泡剤を含浸させた樹脂粒子を、高温高圧条件下の容器内から分散媒体とともに低圧域(通常大気圧下)に放出させるなどして、所定倍率に発泡した発泡粒子を製造する。次に、この発泡粒子を、予め補強部材を所定の位置に配設した金型内に充填し、スチームを導入することにより型内成形を行って発泡粒子を融着させ、補強部材と発泡粒子が一体化され、補強部材が埋め込まれている発泡粒子成形体を一体成形体として製造することができる。
【0016】
本発明で用いる補強部材としては、通常、車両用シートクッション芯材の補強部材として用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、鉄、アルミニウム、銅などからなる金属製補強部材や、エンジニアリングプラスチック、ガラス繊維強化樹脂などからなる樹脂製補強部材を挙げることができ、また、これらを適宜組み合わせたものであっても良い。また、補強部材の形状は、車両本体への取り付けや、衝突時の補強として機能する形状であれば特に制限はないが、少なくとも、熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の周縁部に配置できる環状のものとする。環状の補強部材であれば、剛性の異なる補強部材を接続したもの、例えば、最も強度が要求される前方は剛性の高い線状の補強部材で構成し、両側方及び後方は前方側よりも細い線状の補強部材で構成したものとしても良く、また一部に異種の材料を介在させたものであっても良い。また、上面視略四角形の環状の補強部材である場合、前方側半分の形状と後方側半分の形状が異なっていても良い。これらのように材質や形状が前後で非対称の補強部材が発泡粒子成形体中に埋設されていると、芯材に発生する反りの程度や方向を予想することがさらに難しくなる。
【0017】
なお、通常、車両用座席として用いられる場合には、図2に示すように、車両用シートクッション芯材1を上から見た場合の各辺及び四隅を補強し得るよう、発泡粒子成形体2の外周形状に併せて略矩形に形成した環状の補強部材3とすることが望ましい。また、環状の補強部材3の全周が発泡粒子成形体に埋設されている必要はなく、例えば、車体に取り付けるため、また、車両用シートクッション芯材に他の部材を取り付けるために、補強部材3の一部が発泡粒子成形体2から露出していても構わない。
図示した実施形態に係るものにあっては、太さ4.5mm程度の直線状のワイヤー部材3aと、太さ4.5mm程度の上面視コ字状のワイヤー部材3bとを、プレート部3cにより互いに連結され、略四角形の環状であり、さらに前方側半分と後方側半分とで形状が異なる前後非対称の補強部材3に構成されている。また、各プレート部3cには、車両に取り付けるための金属製のフック3dがそれぞれ結合されており、コ字状のワイヤー部材3bには、バックシートと連結するための金属製のフック3eが二個結合されている。なお、これらのフックの数は特に限定されるものではない。
【0018】
熱可塑性樹脂発泡粒子成形体2は、前方2aと両側方2b,2bに厚肉部4a,4bを有する上面視略矩形状に形成されている。該発泡粒子成形体2の大きさは、搭載する車両に応じて適宜設計されるが、概ね、長手方向の長さは1000〜1400mm、短手方向の長さは400〜600mm程度に形成されている。そして、図示した実施形態に係るものにあっては、長手方向に並んで2個の乗員着座部となる凹み部6,6が形成されている。乗員着座部となる凹み部6の厚みは、15〜40mmであることが好ましく、20〜35mmであることがより好ましい。また、上記乗員着座部となる凹み部6の厚みと前方2aの厚肉部4aの厚みの差は、乗員の滑り出し防止のために60〜165mmであることが好ましく、85〜140mmであることがより好ましい。また、同様な観点から、前方2aと両側方2b,2bに存在する厚肉部4a,4bの厚みは100〜180mmであることが好ましく、120〜160mmであることがより好ましい。なお、「厚み」とは、車両に本発明に係る車両用シートクッション芯材を取り付けた状態における発泡粒子成形体の上下方向の長さを意味する。
【0019】
乗員着座部となる凹み部6の前方及び外側方に埋め込まれた上記補強部材3の内方位置には、該補強部材3に沿って略L状のスリット7が形成されている。本発明においては、この補強部材に沿って略L状のスリット7を形成することにより、発泡粒子成形体2と補強部材3の収縮量の差等に起因する反りを効果的に防止することができる。これは、形成した略L状のスリット7が、乗員着座部とその周縁の補強部材が埋め込まれた厚肉部とを切り離し、それぞれの部分の収縮率の相違によって生じる引張力を緩和することができるためと考えられる。さらに、スリット7により補強部材3を露出させることがないので、発泡粒子成形体2と補強部材3との一体感を損なうこともない。かかる作用を生じさせる観点から、略L状のスリット7は、補強部材3から10〜70mm離れた内方位置に形成することが好ましく、30〜50mm離れた内方位置に形成することがより好ましい。また、略L状のスリット7の長さは、発泡粒子成形体2の長手方向の長さを100%としたとき、略L状のスリット7の長手方向の片7aは20〜40%にわたる範囲で形成されていることが好ましく、25〜35%にわたる範囲で形成されていることがより好ましい。また、発泡粒子成形体2の短手方向の長さを100%としたとき、略L状のスリット7の短手方向の片7bは30〜60%にわたる範囲で形成されていることが好ましく、35〜55%にわたる範囲で形成されていることがより好ましい。また、略L状のスリット7の幅は、50mm以下であることが好ましく、20mm以下であることがより好ましく、15mm以下であることがさらに好ましい。その下限は0.1mm程度である。また、略L状のスリット7を型内成形時に形成する場合には、該スリット7の幅は5mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがより好ましい。
【0020】
また、上記補強部材に沿って形成する略L状のスリット7は、切り離し部を安定化させる観点等から連結部を有するものであることが好ましく、図示した実施形態に係るものにあっては、略L状のスリット7の屈曲点付近に連結部8が設けられている。屈曲点付近に連結部8を設ける場合には、10〜70mmの長さの連結部を設けることが好ましく、20〜40mmの長さの連結部を設けることがより好ましい。なお、該連結部の長さとは、L状スリットの各辺の屈曲点側の端部間の距離を意味する。また、略L状のスリット7は、発泡粒子成形体2の厚み方向に貫通したスリットであることが、上記した切り離し効果の観点から好ましいが、連結部として上面側或いは下面側の少なくとも一部に底部を有するスリットとしても良い。この場合には、底部の厚みを25mm以下とすることが好ましく、15mm以下とすることがより好ましい。型内成形時に該スリット7を形成する場合には、その下限を3mm程度にすることが好ましく、5mm程度にすることがより好ましい。
【0021】
なお、本発明において上記した「前方」とは、車両に本発明に係る車両用シートクッション芯材を取り付けた状態において、車両の前方向に当たる車両用シートクッション芯材の方向を意味し、「側方」とは、車両の幅方向に当たる車両用シートクッション芯材の方向を意味する。また「上面」とは、車両用シートクッション芯材における座面側の面を意味し、「下面」とは、その反対側の面を意味する。
【0022】
また、本発明に係る車両用シートクッション芯材1にあっては、上記熱可塑性樹脂発泡粒子成形体2の厚肉部4であって補強部材3が埋め込まれている位置に、該補強部材に交差するスリット9が形成されている。本発明においては、補強部材3が埋設されていることに起因する発泡粒子成形体2の特定箇所における収縮量のばらつきを小さくするために、収縮量の差が大きいと考えられる厚肉部4であって補強部材3が埋め込まれた箇所に、スリット9を形成することにより、変形を緩和するものである。
【0023】
上記スリット9は、発泡粒子成形体2を上下方向に貫通するように形成されていても良いが、芯材としての一体感を損なわずに、反りの発生を抑制するために、厚肉部4における発泡粒子成形体2の上面、又は上面及び下面から、厚み方向に、凹欠した少なくとも1本の有底スリット9が、該補強部材3が埋め込まれた箇所に、該補強部材3に交差して形成されることが好ましい。
【0024】
車両用シートクッション芯材1においては、図3に示したように、補強部材3が発泡粒子成形体2の厚み方向の下面側に位置することが多いので、スリット9が少なくとも補強部材3の上面側の発泡粒子成形体2の上面に形成されることが好ましい。また、本発明で発泡粒子成形体2に形成するスリット9の深さは、発泡粒子成形体2の上面に形成したスリット9の底部から補強部材3までの厚み方向の長さ(α)と、下面から補強部材3までの厚み方向の長さ(β)が略等しくなる深さのものとすることが好ましく、前記(α)と(β)の長さの差が±60mm以内のものとする深さのスリットであることが好ましく、±40mm以内のものとする深さのスリットであることがより好ましい。また、発泡粒子成形体2の上面及び下面から補強部材3に向けてスリット9をそれぞれ形成したものとしても良く、この場合には、発泡粒子成形体2の上面に形成したスリットの底部から補強部材までの厚み方向の長さと、下面に形成したスリットの底部から補強部材までの厚み方向の長さが略等しくなる深さのものとすることが好ましく、この場合の上記長さの差は同様に±60mm以内のものとする深さのスリットがそれぞれ形成されていることが好ましく、±40mm以内のものとする深さのスリットがそれぞれ形成されていることがより好ましい。
【0025】
なお、発泡粒子成形体2の上面及び下面から補強部材3に向けてスリット9を形成する場合には、上面と下面のスリットが一対の対向する位置に形成させることもできるが、例えば、上面に形成された2本のスリット9に対する中間に下面のスリットが形成されても良い。
【0026】
上記スリット9を形成する方向は、上記補強部材3と交差するように、製造する車両用シートクッション芯材1の形状や大きさに応じて適宜設定する。ここで交差とは、車両用シートクッション芯材1を上面から観察する二次元平面において、補強部材3がスリット9と交わって観察される状態のことを意味する。但し、補強部材3とスリット9との交差する角度は特に限定されるものではないが、好ましくは、補強部材3に対して略垂直方向に交わるようにスリット9を形成する。また、スリット9を形成する位置は、車両用シートクッション芯材1の長手方向の長さ或いは短手方向の長さを等分する位置に形成するのが好ましく、図示した実施形態においては、芯材1の長手方向を略3等分する2カ所の位置、及び短手方向を略2分割する1カ所の位置にそれぞれスリット9a,9bが形成されている。
【0027】
形成するスリット9の長さは、補強部材3を跨いで50mm以上形成することが好ましく、100mm以上形成することがさらに好ましい。また、形成されるスリット9の幅は、スリット7と同様に50mm以下であることが好ましく、20mm以下であることがより好ましく、15mm以下であることがさらに好ましい。その下限は0.1mm程度である。また、略スリット9を型内成形時に成形型により形成する場合には、該スリット7の幅は5mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがより好ましい。
【0028】
また、上記補強部材3に交差して形成されたスリット9が、上記補強部材3に沿って形成された略L状のスリット7にも連通して形成されていることが好ましく、交差して形成されていることはより好ましい。これにより、さらに芯材の反りを抑制することができる。なお、交差とは、上記と同様に、車両用シートクッション芯材1を上面から観察する二次元平面において、スリット9がスリット7と交わって観察される状態のことを意味する。図示した実施形態に係るものにあっては、芯材1の長手方向を略3等分する2カ所の位置に形成されたスリット9aは、それぞれ補強部材に沿って形成された略L状のスリット7の長手方向の片7aに十字状に交差して形成され、芯材1の短手方向を略2分割する1カ所の位置に形成されたスリット9bは、補強部材に沿って形成された略L状のスリット7の短手方向の片7bに丁字状に連通して形成されている。
【0029】
本発明の車両用シートクッション芯材1の上記した補強部材3に沿って形成される略L状のスリット7、及び厚肉部4において補強部材3に交差して形成されるスリット9は、予め成形金型にスリット7,9を成形する突起部を設けておき、発泡粒子成形体2の成形と同時に形成するものとすることが生産性の観点から好ましいが、成形装置により成形した車両用シートクッション芯材1に、カッター、熱線などを利用して切り込みを入れることにより形成することとしても良い。但し、成形後にスリット7,9を形成する場合にあっては、金型から取り出してから芯材に反りが発生するまでに、できる限り速やかに形成する必要がある。
【0030】
以上、説明した本発明の車両用シートクッション芯材は、車体に取り付けられるものであるが、該車両用シートクッション芯材の上面や側面には、ウレタンフォームなどの軟質合成樹脂発泡体が積層される。さらに、その積層体の前面、側面及び上部などの外周面を、織編物、ビニールレザー、皮革などの表皮材で被覆されることで車両用座席が形成される。
【0031】
なお、上記軟質合成樹脂発泡体とは、シートクッションの材質として主に使用されている軟質発泡ウレタン、又は軟質発泡ウレタンとは異なる樹脂材料で発泡率を高くして発泡させて軟質にした樹脂発泡体を意味する。本発明の車両用シートクッション芯材を用いることによって、前記軟質合成樹脂発泡体の使用量を削減することもでき、軽量性に優れる車両用座席を形成することができる。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例により本発明の車両用シートクッション芯材についてさらに詳しく説明するが、本発明は、この実施例に何ら限定されるものではない。
【0033】
成形装置を使用し、発泡粒子成形体と補強部材とを一体化させてなる車両用後部シート用シートクッション芯材を6個製造した。
発泡粒子としては、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子(発泡倍率:30倍、発泡粒子径:約3.5mm)を用い、該発泡粒子を、予め補強部材(太さ4.5mmの金属性の略直線状のワイヤー部材と、太さ4.5mmの金属製の上面視コ字状で、側面視では1箇所の屈曲部を有し上下方向に30mmの段差を有するワイヤー部材とを、プレート部により互いに連結し、長手方向(幅方向)の長さ1040mm、短手方向(前後方向)の長さ400mm、上下方向の段差30mmの、上面視略四角形で前後で非対称形状に形成した、図2及び図3に示す環状の補強部材)を配設した成形金型内に充填し、スチーム加熱による型内成形を行った。加熱方法は、両方の型のドレン弁を開放した状態で0.3MPa(G)のスチームを8秒間供給して予備加熱(排気工程)を行った後、0.22MPa(G)のスチームを一方の型から15秒間供給して一方加熱を行い、さらに0.26MPa(G)のスチームを逆方向の型から20秒間供給して逆一方加熱を行った後、0.30MPa(G)のスチームを両方の型からから4秒間供給して本加熱を行った。加熱終了後、放圧し、10秒間空冷し、110秒間水冷して、発泡粒子成形体と補強部材とを一体化させてなる車両用シートクッション芯材を得た。
【0034】
得られた車両用シートクッション芯材は、前方と両側方に厚肉部を有する上面視略矩形状のもので、その長手方向に並んで2個の乗員着座部となる凹み部が形成されているものであった。
【0035】
次いで、3個の車両用シートクッション芯材に対し、該芯材を金型から取り出した直後(180秒以内)に、カッターナイフを用いて、図1図3に示したように、上記乗員着座部の前方及び外側方に埋め込まれた補強部材の内方位置に、該補強部材に沿って略L状のスリット7を形成するとともに、上記厚肉部であって補強部材が埋め込まれている位置に、該補強部材に交差するスリット9を形成した。上記略L状のスリット7は、補強部材から40mm離れた内方位置に厚み方向に貫通して形成し、その長さは、発泡粒子成形体の長手方向の長さを100%としたとき、略L状のスリットの長手方向の片7aはその29%にわたる範囲で形成し、発泡粒子成形体の短手方向の長さを100%としたとき、略L状のスリットの短手方向の片7bはその44%にわたる範囲で形成した。また、略L状のスリット7の幅は12mmに形成した。また、略L状のスリット7の屈曲点付近に連結部を残し、連結部の長さは30mmとした。上記補強部材に交差するスリット9は、発泡粒子成形体の上面から厚み方向に凹欠したスリットを、発泡粒子成形体の長手方向を略3等分する2カ所の位置、及び短手方向を略2分割する1カ所の位置にそれぞれ形成した。また、スリット9の深さは、スリットの底部から補強部材までの厚み方向の長さ(α)と、下面から補強部材までの厚み方向の長さ(β)の差(α−β)が−60mmとする深さで形成し、スリット9の長さは、補強部材を跨いで200mmの長さで形成し、幅は、12mmに形成した。
【0036】
スリットを形成した上記3個の車両用シートクッション芯材(実施例)及びスリットを形成していない残りの3個の車両用シートクッション芯材(比較例)をともに、60℃の雰囲気下で12時間放置して養生した後、実施例及び比較例の車両用シートクッション芯材の反りを以下の方法により測定を行い、評価を行った。
なお、実施例及び比較例の芯材は、その長手方向の長さが1210mm、短手方向の長さが500mmのものであり、乗員着座部となる上記凹み部の厚みは20〜25mmに形成され、前方と両側方に存在する上記厚肉部の厚みは130〜140mmに形成されていた。
【0037】
(反りの測定方法)
車両用シートクッション芯材の座面側を上にして検査治具上に載置し、図4に示したA〜Fの位置において、基準位置からの変位量(mm)を測定した。
なお、基準位置よりも高くなっている場合を「+」、低くなっている場合を「−」とした。
実施例3個、比較例3個のそれぞれの測定結果の算術平均値を、表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1より、スリットを形成した実施例は、スリットが存在しない比較例に比べて製品の変形量が小さく、発泡粒子成形体の反りが低減されており、製品価値に優れていることが分かる。
上記の結果から、本発明の車両用シートクッション芯材は、特定の条件でスリットを形成することにより、軽量で、反りが少なく商品価値の極めて優れた車両用シートクッション芯材を提供できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、反りが少なく寸法精度の優れた、補強部材が一体化された熱可塑性樹脂発泡粒子成形体からなる車両用シートクッション芯材を提供できるため、該車両用シートクッション芯材にウレタンフォームなどの軟質合成樹脂発泡体を積層し、さらにその積層体の外周面を、織編物、ビニールレザー、皮革などの表皮材で被覆することで車両用座席として広く使用することができるものとなる。
【符号の説明】
【0041】
1 車両用シートクッション芯材
2 熱可塑性樹脂発泡粒子成形体(発泡粒子成形体)
2a 発泡粒子成形体の前方
2b 発泡粒子成形体の側方
3 環状の補強部材
3a 直線状のワイヤー部材
3b コ字状のワイヤー部材
3c プレート部
3d 車両に取り付けるための金属製のフック
3e バックシートと連結するための金属製のフック
4,4a,4b 厚肉部
6 乗員着座部となる凹み部
7 補強部材に沿って形成された略L状のスリット
7a 略L状のスリットの長手方向の片
7b 略L状のスリットの短手方向の片
8 略L状のスリットの連結部
9,9a,9b 補強部材に交差して形成されたスリット
図1
図2
図3
図4