(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  粘度平均分子量が35,000〜60,000のポリカーボネート樹脂(A)18〜75質量%、リン系難燃剤(B)5〜30質量%、繊維状または板状の無機充填剤(C)18〜50質量%、及びフルオロポリマー(D)0.1〜2質量%を含むポリカーボネート樹脂組成物であって、前記ポリカーボネート樹脂組成物の300℃、1.2kgにおけるメルトボリュームレートが2.0〜6.0cm3/10minである、ポリカーボネート樹脂組成物。
 
【発明を実施するための形態】
【0015】
  以下、本発明を詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。また、2015年8月31日に出願し、本願優先権主張の基礎となる特願JP2015-171096号の特許請求の範囲、明細書、図面及び要約書の開示内容は、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。
  本発明の一形態は、粘度平均分子量が28,000〜60,000のポリカーボネート樹脂(A)18〜75質量%、リン系難燃剤(B)5〜30質量%、繊維状または板状の無機充填剤(C)18〜50質量%、及びフルオロポリマー(D)0.1〜2質量%を含むポリカーボネート樹脂組成物である。本形態のポリカーボネート樹脂組成物によれば、優れた耐熱性、優れた機械的強度(特に剛性)、および薄肉とした場合にも優れた難燃性を有するポリカーボネート樹脂製シート、フィルムが得られる。
 
【0016】
  従来、ガラス繊維等の無機充填剤およびリン系難燃剤は樹脂組成物においてそれぞれ機械的物性の向上および難燃性付与の目的で一般的に使用されている。しかし、両者を併用したポリカーボネート樹脂組成物は、成形品が薄くなるほどUL94垂直燃焼試験時に滴下しやすくなり、充分な難燃性が得られないという課題があった。本願発明者らはかかる課題を解決すべく鋭意検討した結果、ガラス繊維等の難燃剤の配合によって組成物の比重が大きくなっていることおよび難燃剤の配合によって樹脂組成物の耐熱性や粘度が低下していることに起因して、成形品が薄くなるほど燃焼時に滴下しやすくなり、難燃性が低下することを見出した。そして、ポリカーボネート樹脂組成物を構成する成分の種類および配合比、特に無機充填剤(C)の種類および配合比、ならびにポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量を調整することにより、優れた耐熱性、優れた機械的強度(特に剛性)、および薄くても優れた難燃性を併せ持つポリカーボネート樹脂製シートおよびフィルムを得ることが可能であることを見出した。
 
【0017】
  以下、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の構成成分について説明する。
 
【0018】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
  本発明で使用されるポリカーボネート樹脂(A)(以下「(A)成分」と称す場合がある。)の種類には、特に制限はないものの、耐熱性、機械的物性、および電気的特性の点で芳香族ポリカーボネート樹脂の使用が特に好ましい。ポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物又はこれと少量の分岐剤とを、ホスゲンもしくはトリホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性重合体又は共重合体である。
  ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができる。また、溶融法を用いた場合には、末端基のOH基量を調整したポリカーボネート樹脂を使用することができる。
 
【0019】
  原料のジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(すなわち「ビスフェノールA」)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。好ましくは耐衝撃性および耐熱性の点でビスフェノールAを主成分として用いることが好ましい。ビスフェノールAが主成分のポリカーボネート樹脂とは、使用するビスフェノールの内、ビスフェノールAを60〜100モル%、好ましくは90〜100モル%使用したものをいう。また、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することもできる。
 
【0020】
  また、上記ジヒドロキシ化合物とシロキサン構造を有する化合物との共重合体等のポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体であってもよい。
 
【0021】
  分岐したポリカーボネート樹脂を得るには、上述したジヒドロキシ化合物の一部を分岐剤で置換すればよい。分岐剤としては、特に限定されないが、例えば、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニルヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物や、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(すなわち「イサチンビスフェノール」)、5−クロルイサチン、5,7−ジクロルイサチン、5−ブロムイサチン等が挙げられる。これら置換する化合物の使用量は、ジヒドロキシ化合物に対して、通常0.01〜10モル%であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
 
【0022】
  ポリカーボネート樹脂(A)としては、上述した中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(すなわち「ビスフェノールA」)から誘導されるポリカーボネート樹脂、又は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(すなわち「ビスフェノールA」)と他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が好ましい。
 
【0023】
  上述したポリカーボネート樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
 
【0024】
  ポリカーボネート樹脂(A)の分子量を調節するには、末端停止剤として一価のヒドロキシ化合物、例えば芳香族ヒドロキシ化合物を用いればよい。この一価の芳香族ヒドロキシ化合物としては、例えば、m−及びp−メチルフェノール、m−及びp−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。
 
【0025】
  本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)の分子量は成形性、成形品の強度等の点から、粘度平均分子量[Mv]で、28,000〜60,000である。ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量が28,000以上であると樹脂組成物が高粘度となり、溶融時の変形が抑制されることによる燃焼試験時の滴下、特に薄膜とした場合における燃焼試験時の滴下を防止することができ、難燃性の観点から好ましい。一方、ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量が60,000以下であることで溶融押出時のスクリュトルクの上昇を抑えることができ、成形加工性容易性の観点からより好ましい。好ましくは焼試験時の滴下防止効果および成形加工容易性の点で30,000〜55,000、より好ましくは35,000〜50,000である。
 
【0026】
  ここでポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量〔Mv〕は以下に記載の方法により測定することができる。
<粘度平均分子量(Mv)測定条件>
  粘度平均分子量[Mv]は、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、下記Schnellの粘度式から算出される値(粘度平均分子量:Mv)を意味する。
【数1】
ここで極限粘度[η]とは各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[η
sp]を測定し、下記式により算出した値である。
 
【0028】
[リン系難燃剤(B)]
  本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、難燃性の改善のためにリン系難燃剤(B)を含有する。
 
【0029】
  リン系難燃剤(B)としては、リン酸エステル系難燃剤、ホスファゼン系難燃剤等を用いることができる。リン系難燃剤(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
 
【0030】
<リン酸エステル系難燃剤>
  リン酸エステル系難燃剤は、中でも難燃化効果が高く、流動性向上効果があり、好ましく用いられる。リン酸エステル系難燃剤は限定されないが、特に、このリン酸エステル系難燃剤としては、下記の一般式(IIa)で表されるリン酸エステル系化合物が好ましい。
 
【0031】
【化1】
(式(IIa)中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、各々独立に、炭素数1〜8のアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数1〜8のアルキル基、もしくは炭素数1〜8のアルキル基で置換されていてもよいフェニルで置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を示し、p、q、r及びsは、各々独立に0又は1であり、tは、0〜5の整数であり、Xは、アリーレン基または下記式(IIb)で表される二価の基を示す。)
【化2】
(式(IIb)中、Bは、単結合、−C(CH
3)
2−、−SO
2−、−S−、又は−O−である。)
 
【0032】
  上記一般式(IIa)において、R
1〜R
4のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。また、Xのアリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基が挙げられる。tが0の場合、一般式(IIa)で表される化合物はリン酸エステルであり、tが0より大きい場合は縮合リン酸エステル(混合物を含む)である。本発明には、特に縮合リン酸エステルが好適に用いられる。
 
【0033】
  上記一般式(IIa)で表されるリン酸エステル系難燃剤としては、具体的には、トリメチルフォスフェート、トリエチルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート、トリブトキシエチルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、トリクレジルフェニルフォスフェート、オクチルジフェニルフォスフェート、ジイソプロピルフェニルフォスフェート、ビスフェノールAテトラフェニルジフォスフェート、ビスフェノールAテトラクレジルジフォスフェート、ビスフェノールAテトラキシリルジフォスフェート、ヒドロキノンテトラフェニルジフォスフェート、ヒドロキノンテトラクレジルジフォスフェート、ヒドロキノンテトラキシリルジフォスフェート、レゾルシノールテトラフェニルジフォスフェート、レゾルシノールビスジキシレニルホスフェート等の種々のものが例示される。これらのうち好ましくは、トリフェニルフォスフェート、ビスフェノールAテトラフェニルジフォスフェート、レゾルシノールテトラフェニルジフォスフェート、レゾルシノールビスジ2,6−キシレニルホスフェート等が挙げられる。市販品のリン酸エステル系難燃剤の例として、(株)ADEKA社のFP−600、大八化学工業社製のPX−200等が挙げられる。
 
【0034】
  上述したリン酸エステル系難燃剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
 
【0035】
<ホスファゼン系難燃剤>
  ホスファゼン系難燃剤は、リン酸エステル系難燃剤と比較して難燃剤の添加による樹脂組成物の耐熱性の低下を抑制できるため、効果的なリン系難燃剤として用いられる。ホスファゼン系難燃剤は、分子中に−P=N−結合を有する有機化合物であり、ホスファゼン系難燃剤としては、好ましくは下記一般式(IIIa)で表される環状ホスファゼン化合物、下記一般式(IIIb)で表される鎖状ホスファゼン化合物、下記一般式(IIIa)及び下記一般式(IIIb)からなる群より選択される少なくとも一種のホスファゼン化合物が架橋基によって架橋されてなる架橋ホスファゼン化合物が挙げられる。架橋ホスファゼン化合物としては、下記一般式(IIIc)で表される架橋基によって架橋されてなるものが難燃性の点から好ましい。
 
【0036】
【化3】
(式(IIIa)中、mは3〜25の整数であり、R
5は、同一又は異なっていてもよく、アリール基又はアルキルアリール基を示す。)
 
【0037】
【化4】
(式(IIIb)中、nは3〜10,000の整数であり、Zは、−N=P(OR
5)
3基又は−N=P(O)OR
5基を示し、Yは、−P(OR
5)
4基又は−P(O)(OR
5)
2基を示す。R
5は、同一又は異なっていてもよく、アリール基又はアルキルアリール基を示す。)
 
【0038】
【化5】
(式(IIIc)中、Aは−C(CH
3)
2−、−SO
2−、−S−、又は−O−であり、lは0又は1である。)
 
【0039】
  一般式(IIIa)及び(IIIb)で表される環状及び/又は鎖状ホスファゼン化合物としては、例えば、R
5が炭素数1〜6のアルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基であるものが好ましく挙げられる。具体的には、R
5がフェニル基などのアリール基である環状又は鎖状のホスファゼン化合物;R
5がトリル基(o−,m−,p−トリルオキシ基)、キシリル基(2,3−、2,6−、3,5−キシリル基)などの、炭素数1〜6、好ましくは1〜3のアルキルで置換された炭素数6〜20のアリール基である環状又は鎖状フェノキシホスファゼン;または当該R
5を組み合わせた環状又は鎖状フェノキシホスファゼン;が挙げられる。より具体的にはフェノキシホスファゼン、(ポリ)トリルオキシホスファゼン(例えば、o−トリルオキシホスファゼン、m−トリルオキシホスファゼン、p−トリルオキシホスファゼン、o,m−トリルオキシホスファゼン、o,p−トリルオキシホスファゼン、m,p−トリルオキシホスファゼン、o,m,p−トリルオキシホスファゼン等)、(ポリ)キシリルオキシホスファゼン等の環状及び/又は鎖状C
1−6アルキルC
6−20アリールオキシホスファゼンや、(ポリ)フェノキシトリルオキシホスファゼン(例えば、フェノキシo−トリルオキシホスファゼン、フェノキシm−トリルオキシホスファゼン、フェノキシp−トリルオキシホスファゼン、フェノキシo,m−トリルオキシホスファゼン、フェノキシo,p−トリルオキシホスファゼン、フェノキシm,p−トリルオキシホスファゼン、フェノキシo,m,p−トリルオキシホスファゼン等)、(ポリ)フェノキシキシリルオキシホスファゼン、(ポリ)フェノキシトリルオキシキシリルオキシホスファゼン等の環状及び/又は鎖状C
6−20アリールC
1−10アルキルC
6−20アリールオキシホスファゼン等が例示でき、好ましくは環状及び/又は鎖状フェノキシホスファゼン、環状及び/又は鎖状C
1−3アルキルC
6−20アリールオキシホスファゼン、C
6−20アリールオキシC
1−3アルキルC
6−20アリールオキシホスファゼン(例えば、環状及び/又は鎖状トリルオキシホスファゼン、環状及び/又は鎖状フェノキシトリルフェノキシホスファゼン等)である。なお、ここで、「C
1−6」の記載は「炭素数1〜6の」を意味し、「C
6−20」「C
1−10」等についても同様である。また、「(ポリ)フェノキシ・・・」の記載は「フェノキシ・・・」と「ポリフェノキシ・・・」の一方、又は両方をさす。
 
【0040】
  一般式(IIIa)で表される環状ホスファゼン化合物としては、R
5がフェニル基である環状フェノキシホスファゼンが特に好ましい。また、該環状フェノキシホスファゼン化合物は、一般式(IIIa)中のmが3〜8の整数である化合物が好ましく、mの異なる化合物の混合物であってもよい。具体的には、ヘキサフェノキシシクロトリホスファゼン(m=3の化合物)、オクタフェノキシシクロテトラホスファゼン(m=4の化合物)、デカフェノキシシクロペンタホスファゼン(m=5の化合物)等の化合物、またはこれらの混合物が挙げられる。なかでも、m=3のものが50質量%以上、m=4のものが10〜40質量%、m=5以上のものが合わせて30質量%以下である化合物の混合物が好ましい。
 
【0041】
  このような環状フェノキシホスファゼン化合物は、例えば、塩化アンモニウムと五塩化リンとを120〜130℃の温度で反応させて得られる環状及び直鎖状のクロロホスファゼン混合物から、ヘキサクロロシクロトリホスファゼン、オクタクロロシクロテトラホスファゼン、デカクロロシクロペンタホスファゼン等の環状のクロルホスファゼンを取り出した後にフェノキシ基で置換することにより製造することができる。
 
【0042】
  一般式(IIIb)で表される鎖状ホスファゼン化合物としては、R
5がフェニル基である鎖状フェノキシホスファゼンが特に好ましい。このような鎖状フェノキシホスファゼン化合物としては、例えば、上記の方法で得られる環状フェノキシホスファゼン化合物の塩化物(例えばヘキサクロロシクロトリホスファゼン)を220〜250℃の温度で開還重合し、得られた重合度3〜10,000の直鎖状ジクロロホスファゼンをフェノキシ基で置換することにより得られる化合物が挙げられる。該直鎖状フェノキシホスファゼン化合物の、一般式(IIIb)中のnは、好ましくは3〜1,000、より好ましくは3〜100、さらに好ましくは3〜25である。
 
【0043】
  架橋フェノキシホスファゼン化合物としては、例えば、4,4’−スルホニルジフェニレン(ビスフェノールS残基)の架橋構造を有する化合物、2,2−(4,4’−ジフェニレン)イソプロピリデン基の架橋構造を有する化合物、4,4’−オキシジフェニレン基の架橋構造を有する化合物、4,4’−チオジフェニレン基の架橋構造を有する化合物等の、4,4’−ジフェニレン基の架橋構造を有する化合物等が挙げられる。
 
【0044】
  また、架橋ホスファゼン化合物としては、一般式(IIIa)においてR
5がフェニル基である環状フェノキシホスファゼン化合物が上記一般式(IIIc)で表される架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物又は、上記一般式(IIIb)においてR
5がフェニル基である鎖状フェノキシホスファゼン化合物が上記一般式(IIIc)で表される架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物が難燃性の点から好ましく、環状フェノキシホスファゼン化合物が上記一般式(IIIc)で表される架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物がより好ましい。
 
【0045】
  また、架橋ホスファゼン化合物中のフェニレン基の含有量は、一般式(IIIa)で表される環状ホスファゼン化合物及び/又は一般式(IIIb)で表される鎖状フェノキシホスファゼン化合物中の全フェニル基及びフェニレン基数を基準として、通常50〜99.9%、好ましくは70〜90%である。また、該架橋フェノキシホスファゼン化合物は、その分子内にフリーの水酸基を有しない化合物であることが特に好ましい。
 
【0046】
  本発明においては、ホスファゼン系難燃剤は、上記一般式(IIIa)で表される環状フェノキシホスファゼン化合物、及び、上記一般式(IIIa)で表される環状フェノキシホスファゼン化合物が架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物よる成る群から選択される少なくとも1種であることが、難燃性及び機械的特性の点から好ましい。市販品のホスファゼン系難燃剤としては、例えば、環状フェノキシホスファゼンである伏見製薬所社製の「ラビトルFP−110」、「ラビトルFP−110T」及び大塚化学社製の「SPS100」等が挙げられる。
 
【0047】
  上述したホスファゼン系難燃剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
 
【0048】
[繊維状または板状の無機充填剤(C)]
  本発明のポリカーボネート樹脂組成物は繊維状または板状の無機充填剤を含む。無機充填剤は一般に、その形状から繊維状無機充填剤、板状無機充填剤、球状無機充填剤(ビーズ)に分類される。繊維状無機充填剤、板状無機充填剤は、球状無機充填剤に比べて、樹脂組成物の補強効果、特に成形品の曲げ弾性率、曲げ強度等の剛性に優れる。
 
【0049】
  本発明で用いる繊維状または板状の無機充填剤としては、ポリカーボネート樹脂組成物の補強効果、特に成形品の曲げ弾性率、曲げ強度等の剛性に優れることから、ガラス系強化材、炭素系強化材、および珪酸塩系強化材から選択される少なくとも一種を用いることができる。その中でも特にガラス系強化材を用いることが好ましい。繊維状または板状の無機充填剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
 
【0050】
<ガラス系強化材>
  ガラス系強化剤の種類は特に制限されず、繊維状または板状であればよい。
 
【0051】
  繊維状のガラス系強化剤、すなわち、ガラス繊維としては、チョップドストランド、ロービングガラス等が挙げられ、公知のいかなる形態のガラス繊維も使用可能であるが、生産性の観点よりチョップドストランド(チョップドガラス繊維)が好ましい。ガラス繊維チョップドストランドとは、ガラス単繊維(フィラメント)を数十本から数千本束ねたガラス繊維(ストランド)を所定の長さに切断したものである。なお、かかるガラス繊維は、ポリカーボネート樹脂やガラス繊維(長繊維)のマスターバッチ等への配合時のガラス繊維の形態を問わない。すなわち、ガラス繊維が高い割合で混練された樹脂(マスターバッチ)と、ガラス繊維が混練されていない樹脂とを混合して混練し、所定量のガラス繊維が配合された樹脂組成物を製造することができる。
 
【0052】
  板状のガラス系強化剤としては、例えば、ガラスフレークが挙げられる。ガラスフレークとは、通常、平均粒径が10〜4000μm、平均厚みが0.1〜10μmで、アスペクト比(平均最大径/平均厚みの比)が2〜1000程度の鱗片状のガラス粉末である。
 
【0053】
  繊維状または板状のガラス系強化材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。例えば、平均繊維径や平均長さなどの異なるガラス繊維(ミルドファイバーを含む)の2種以上を併用してもよく、平均粒径や、平均厚さ、アスペクト比の異なるガラスフレークの2種以上を併用してもよく、1種又は2種以上のガラス繊維(ミルドファイバーを含む)を組み合わせて用いたり、1種又は2種以上のフレークと、1種又は2種以上のガラス繊維(ミルドファイバーを含む)とを組み合わせて用いてもよい。
 
【0054】
  また寸法安定化を目的に粒径ガラスビーズを併用することができる。
 
【0055】
<炭素系強化材>
  炭素系強化材としては、繊維状の充填剤として炭素繊維、カーボンナノチューブ等、板状充填剤として黒鉛が挙げられ、これらのうち、炭素繊維、黒鉛が好ましく用いられる。
 
【0056】
  炭素系強化材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。例えば、材質、平均粒径や形状の異なる炭素系強化材の2種以上を併用してもよい。
 
【0057】
<珪酸塩系強化材>
  本発明においては、珪酸塩系強化材も用いることができる。繊維状充填剤としてワラストナイト等、板状充填剤としてタルク、マイカ等を用いることができる。珪酸塩系強化材は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
 
【0058】
<その他の無機充填剤>
  その他繊維状充填剤として、金属繊維;チタン酸カリウムウイスカー、炭酸カルシウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、酸化チタンウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー、硫酸マグネシウムウイスカーなどのウイスカーを用いることもできる。その他板状充填剤としては、金属フレーク、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム等を用いることもできる。これらのその他の無機充填剤についても、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
 
【0059】
  これらの繊維状または板状の無機充填剤は、表面処理剤により表面処理されたものであってもよく、このような表面処理により、樹脂成分と繊維状または板状の無機充填剤との接着性が向上し、高い機械的強度を達成することができるようになる。
 
【0060】
[フルオロポリマー(D)]
  本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、滴下防止剤としてフルオロポリマー(D)を含有する。また、フルオロポリマーは、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
 
【0061】
  具体的なフルオロポリマーとしては、例えば、ポリフルオロエチレンなどのフッ素化ポリオレフィンが挙げられる。フッ素化ポリオレフィンは、フルオロエチレン構造を含む重合体または共重合体である。フルオロエチレン構造を含む重合体または共重合体は、フルオロエチレン構造(構成単位)を主成分とするポリマーであり、具体的には、フルオロエチレン構造(フルオロエチレンの構成単位)はフッ素化ポリオレフィンを構成するモノマー単位全体の好ましくは40〜100質量%であり、より好ましくは50〜100質量%であり、さらに好ましくは60〜100質量%である。
 
【0062】
  具体例としてはポリジフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルアルキルビニルエーテル共重合体等が挙げられる。なかでも好ましくは難燃性の点でポリテトラフルオロエチレン樹脂が挙げられ、特に好ましくはフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。これは、重合体中に容易に分散し、且つ、重合体同士を結合して繊維状材料を作る傾向を示すものである。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンはASTM規格でタイプ3に分類される。ポリテトラフルオロエチレンは、固体形状の他、水性分散液形態のものも使用可能である。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンとしては、例えば三井・デュポンフロロケミカル(株)より、テフロン(登録商標)6J又はテフロン(登録商標)30Jとして、又はダイキン工業(株)よりポリフロン(商品名)、例えばポリフロンFA−500Hとして市販されている。ポリテトラフルオロエチレンの数平均分子量は特に制限されないが、300万〜数千万(例えば、3,000,000〜90,000,000)が好ましい。
 
【0063】
[ポリカーボネート樹脂組成物]
  本発明のポリカーボネート樹脂組成物(100質量%)は、粘度平均分子量が28,000〜60,000の上記ポリカーボネート樹脂(A)18〜75質量%、リン系難燃剤(B)5〜30質量%、繊維状または板状の無機充填剤(C)18〜50質量%、及びフルオロポリマー(D)0.1〜2質量%含有する。
 
【0064】
  ポリカーボネート樹脂(A)の含有量が18質量%未満であれば樹脂組成物の靱性低下の可能性があり、75質量%を超えると機械的強度および難燃性が不十分となる可能性がある。ポリカーボネート樹脂(A)の好ましい含有量は、靱性、機械的強度、難燃性の点で27〜71質量%であり、より好ましくは34〜68質量%である。
 
【0065】
  ポリカーボネート樹脂組成物におけるリン系難燃剤(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂組成物のメルトボリュームレート(MVR)(300℃、1.2kg)が2.0〜10cm
3/10minになるようにコントロールすることが好ましい。一般にリン系難燃剤(B)、特にリン酸エステル系難燃剤、は流動性向上効果を有するため、リン系難燃剤(B)の含有量が大きいほど組成物のメルトボリュームレートは大きくなる傾向がある。リン系難燃剤(B)の含有量が5質量%未満であると、燃焼時の滴下は抑制されるが、燃焼時間が長くなるおそれがある。一方、リン系難燃剤(B)の添加量が30質量%を超えると、燃焼時の滴下、耐熱性の低下、マトリックス樹脂の靱性が低下する可能性がある。
 
【0066】
  さらにリン系難燃剤(B)の添加量としては、難燃性及び耐熱性の点から6〜25質量%が好ましく、さらに7〜20質量%、10〜20質量%が好ましく用いられる。特に、優れた難燃性と耐熱性とを両立するためには、リン系難燃剤(B)としてホスファゼン化合物を上記の添加量の範囲で用いることが好ましい。
 
【0067】
  繊維状または板状の無機充填剤(C)の好ましい含有量は、22.5〜50質量%であり、より好ましくは22.5〜47.5質量%であり、より一層好ましくは25〜45質量%である。含有量が上記下限より少ないと、強化充填材(B)を配合したことによる強度向上効果(特に、曲げ特性の向上効果)を十分に得ることができず、上記上限より多いと表面平滑性が損なわれる傾向にある。
 
【0068】
  フルオロポリマー(D)の含有量が0.1質量%未満である場合にはフルオロポリマーによる難燃性改良の効果が不十分となる可能性がある。また、フルオロポリマーの含有量が2質量%を超える場合は、ポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品の外観不良や機械的強度の低下が生じる可能性がある。フルオロポリマー(D)含有量は、難燃性の一層の改善と成形品の外観・機械的強度の確保の観点から、好ましくは0.1〜1.0質量%であり、より好ましくは0.15〜0.75質量%である。フルオロポリマーの含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、フルオロポリマーによる難燃性改良の効果が不十分となる可能性があり、フルオロポリマーの含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、ポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品の外観不良や機械的強度の低下が生じる可能性がある。
 
【0069】
  [その他の成分]
(その他の樹脂成分)
  本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない限りにおいて、樹脂成分として、ポリカーボネート樹脂(A)やフルオロポリマー(D)以外の他の樹脂成分を含有していてもよい。配合し得る他の樹脂成分としては、例えば、ポリスチレン樹脂、ハイインパクトポリスチレン樹脂、水添ポリスチレン樹脂、ポリアクリルスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、SMA樹脂、ポリアルキルメタクリレート樹脂、ポリメタクリルメタクリレート樹脂、ポリフェニルエーテル樹脂、(A)成分以外のポリカーボネート樹脂、非晶性ポリアルキレンテレフタレート樹脂、ポリエステル樹脂、非晶性ポリアミド樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1、環状ポリオレフィン樹脂、非晶性ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルフォンなどが挙げられる。これらは1種または2種以上を組み合わせて使用されうる。
 
【0070】
(その他添加剤)
  本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、更に種々の添加剤を含有していても良い。このような添加剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料、帯電防止剤、難燃剤、滴下防止剤、衝撃強度改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。これらの添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
 
【0071】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
  本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用することができる。
 
【0072】
  その具体例を挙げると、本発明に係るポリカーボネート樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、繊維状または板状の無機充填剤(C)と、フルオロポリマー(D)と、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサー、スーパーミキサーなどの各種混合機を用いて予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
 
【0073】
  また、例えば、各成分を予め混合せずに、又は、一部の成分のみを予め混合し、サイドフィーダを用い押出機に供給、溶融混練して、本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造することもできる。特に無機充填剤(C)は破砕を抑制するため、樹脂成分とは別に押出機下流側に設置したサイドフィーダから供給して混合することが好ましい。
 
【0074】
[ポリカーボネート樹脂組成物の流動性]
  本発明のポリカーボネート樹脂組成物はメルトインデクサを使用し、ISO  1133に準拠して加熱温度300℃、重り1.2kg、予熱時間500秒におけるメルトボリュームレート(MVR)(cm
3/10min)が2.0〜10cm
3/10minであることが好ましい。メルトボリュームレート2.0cm
3/10min以上であれば、シート・フィルム溶融押出時のトルクの上昇による生産性の低下を防止できるメルトボリュームレート10cm
3/10min以下であれば、燃焼時の滴下を抑制できる。メルトボリュームレートはより好ましくは2.0〜9.0cm
3/10min、さらに好ましくは2.0〜8.0cm
3/10min、特に好ましくは2.0〜6.0cm
3/10minである。メルトボリュームレートをこのような範囲とすることで、燃焼時の滴下を防止し、良好な難燃性のシートが得られる。
 
【0075】
[樹脂成分のガラス転移温度]
  本発明の樹脂成分のガラス転移温度は75〜170℃であることが好ましく、85〜160℃がより好ましく、95〜150℃が特に好ましい。ガラス転移温度が75℃以上であると耐熱性が優れたものとなり、170℃以下であると成形加工性が良好となる。なお、ここでいう樹脂成分とは(A)成分、(B)成分および(D)成分を含み、本発明のポリカーボネート樹脂組成物から(C)成分等の無機充填剤を除いた成分のことである。
 
【0076】
[シートおよびフィルムの製造方法]
  本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、様々な形態の成形体にすることができる。特に、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用いることで従来のポリカーボネート樹脂組成物では困難であった薄肉での難燃性に優れた成形品の提供が可能となる。本発明の成形品の適用例を挙げると、電気電子機器、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器等の部品が挙げられる。これらの中でも、本発明の成形品は、その優れた難燃性から、特に電気電子機器、OA機器、情報端末機器、家電製品、照明機器等の部品及び銘板へ用いて好適であり、電気電子機器、照明機器の部品、シート部材に用いて特に好適である。なかでも本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、シート及びフィルムへの成形に好適に用いられ、耐熱性、機械的強度(特に剛性)、および薄肉難燃性に優れたシート及びフィルムが得られる。
 
【0077】
  本発明におけるポリカーボネート樹脂シートおよびフィルムを作製する方法としては、溶融押出法(例えば、Tダイ成形法)が好適に用いられる。すなわち、本発明の一形態によれば、上記ポリカーボネート樹脂組成物を押出成形する工程を含む、シートまたはフィルムの製造方法が提供される。
 
【0078】
  本発明におけるポリカーボネート樹脂製シートおよびフィルムは、表層の片面または両面に非強化の熱可塑性樹脂層を積層していても良い。すなわち、本発明の一形態によれば、ポリカーボネート樹脂層の少なくとも一面に熱可塑性樹脂層を有する積層シートまたはフィルムが提供される。このようにすることにより、良好な表面平滑性、光沢感、耐衝撃性が得られ、非強化層の裏面に印刷を施した場合には深みのある外観が得られる。
 
【0079】
  また、積層する熱可塑性樹脂は種々の添加剤を含有していても良い。このような添加剤としては、安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料、帯電防止剤、難燃剤、衝撃強度改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。これらの樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
 
【0080】
  なお、「シート」とは、一般に、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいい、「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう。しかし、本明細書では「シート」と「フィルム」とは明確に区別されるものではなく、双方とも同じ意味として用いられる。
 
【0081】
[フィルム・シートの厚み]
  本発明のポリカーボネート樹脂組成物から得られるフィルムまたはシート(積層体の場合にはポリカーボネート樹脂層)の厚みは、400〜1200μmの範囲であることが好ましく、400〜1000μmの範囲がより好ましく、500〜1000μmの範囲がより一層好ましく、500〜800μmの範囲がさらに好ましい。400μm以上とすることで高い剛性を得ることができ、1200μm以下とすることにより薄肉化が必要な電気電子機器の筐体等に好適に用いることができる。
 
【0082】
[フィルム・シートの曲げ特性]
  本発明のポリカーボネート樹脂組成物から得られるフィルムまたはシートの曲げ弾性率は、好ましくは5GPa以上であり、より好ましくは6GPa以上であり、さらに好ましくは8GPa以上である。上限は高いほどよいが、通常15GPa以下である。なお、本発明において、フィルムまたはシートの曲げ弾性率とは、0.6mmに成形したシートをダンベル試験片形状に打ち抜き、オートグラフ(島津製作所社製 AGS-X)を用いて、幅10mm、支点間距離40mm、試験速度2mm/minでシート押出方向(流れ方向)の曲げ試験を行うことにより測定することができる。
 
【0083】
[フィルム・シートの難燃性]
  本発明の樹脂組成物から得られるフィルムまたはシートは、優れた難燃性を有する。具体的には、UL94V試験に準拠した方法で評価した場合に、好ましくはV−1またはV−0であり、より好ましくはV−0である。なお、UL94V試験は下記の実施例に記載の方法で行うことができる。
 
【実施例】
【0084】
  以下、実施例および比較例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限りにおいて任意に変更して実施することができる。
  以下の実施例および比較例で用いた測定・評価法は、以下の通りである。
【0085】
[測定・評価方法]
<ペレット流動性>
  樹脂組成物ペレットについて、東洋精機社製G−01を使用し、ISO  1133に準拠して加熱温度300℃、重り1.2kg、予熱時間500秒におけるメルトボリュームレート(cm
3/10min)を測定した。
<難燃性>
  樹脂シートを長さ125mm、幅13mmに切断し、難燃性試験用試験片を作製した。この試験片を温度23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間調湿し、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めているUL94V試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠して燃焼性試験を行った。UL94Vとは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間やドリップ性から難燃性を評価する方法であり、V−0、V−1及びV−2の難燃性を有するためには、以下の表1に示す基準を満たすことが必要となる。
【0086】
【表1】
【0087】
  ここで残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の、試験片の有炎燃焼を続ける時間の長さである。また、ドリップによる綿着火とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。さらに、5試料のうち、1つでも上記基準を満たさないものがある場合、V−2を満足しないとしてNR(NotRated)と評価した。
【0088】
  結果を表2、3に示す。なお、表中、「UL難燃性」と表記する。
【0089】
<曲げ特性>
  成形したシートをダンベル試験片形状に打ち抜き、オートグラフ(島津製作所社製 AGS-X)を用いて、幅10mm、支点間距離40mm、試験速度2mm/minでシート押出方向(流れ方向)の曲げ試験を行い、曲げ弾性率を測定した。
  5GPa未満のものを不良、5GPa以上8GPa未満のものを良好、8GPa以上のものを最良と評価することができる。
<耐熱性>
  樹脂成分のガラス転移温度を示差熱走査熱量分析計セイコー電子工業(株)製のSSC−5200(DSC)により昇温速度10℃/minで測定した。測定は樹脂成分が溶融する温度(260℃)に20℃/minで昇温し、−30℃まで急冷した後、再度10℃/minで昇温(2nd  run)した。ガラス転移温度は2nd  runのプロファイルで算出した値とした。
  75℃未満であるものを不良、75℃以上であるものを良好と評価できる。
<外観>
  前記方法で製造したシートを目視にて観察し、以下の基準に従って外観評価の判定を行った。
  ○:白点異物等が観察されず、良好な外観である。
  ×:白点異物が観察される。
【0090】
<実施例1>
  ポリカーボネート紛体(粘度平均分子量(Mv):40,000(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製K−4000F:ビスフェノールAおよび塩化カルボニルから界面重合法で製造したポリカーボネート)53.42質量%に、リン系酸化防止剤((株)ADEKA製PEP36)を0.03質量%、および熱安定剤((株)ADEKA製AO−60)を0.05質量%、フェノキシホスファゼン系難燃剤(伏見製薬(株)製ラビトルFP−110T;上記式(IIIa)においてm≧3(主構造:環状3量体)、R
5=フェニル基である化合物)を15質量%、PTFE(フィブリル形性能を有するポリテトラフルオロエチレン;ダイキン工業(株)製ポリフロンFA−500H)を0.5質量%、着色用に染顔料としてカーボンブラック(エボニックデグサ社製  商品名「Color  Black  FW18」)を1.0質量%添加して、タンブラーで混合した(以下の実施例および比較例においても同様である)。
【0091】
  上記で得られたポリカーボネートと添加剤の混合紛体を二軸押出機(TEX30α)の材料投入口(ホッパー)に投入し300℃での溶融押出によりペレットを作製した。ここで、二軸押出機TEX30αの吐出量は20kg/hr、スクリュー回転数は200rpmであった。繊維状または板状の無機充填剤としてガラス繊維(日本電気硝子(株)製T−571:ガラスチョップドストランド(平均繊維径13μm、平均繊維長さ3mm、アミノシラン処理、耐熱ウレタン集束、断面形状:円形))はサイドフィーダを用い30質量%となるように押出機下流側から供給した。
【0092】
  得られたポリカーボネート樹脂組成物のペレットを、押出成形機にて成形しフィルム成形品(シート)を得た。ここでの押出成形条件は、以下の通りであった。
    押出成形機:(株)日本製鋼所製二軸押出成形機
    成形品寸法:幅400mm×厚み0.6mm×長さ10m
    シリンダー温度:290℃
    ダイス温度:290℃
    ロール温度:110℃
    吐出量:23kg/h
    ロール速度:1.1m/min
  以下の実施例、比較例においても押出成形機と押出成形条件は同様である。
【0093】
<実施例2>
  ポリカーボネート紛体の粘度平均分子量(Mv)を28,000(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製E−2000F:ビスフェノールAおよび塩化カルボニルから界面重合法で製造したポリカーボネート)とした以外は実施例1と同様である。
【0094】
<実施例3>
  難燃剤(伏見製薬(株)製ラビトルFP−110T)を5質量%とした以外は実施例2と同様である。
【0095】
<実施例4>
  難燃剤(伏見製薬(株)製ラビトルFP−110T)を30質量%とした以外は実施例1と同様である。
【0096】
<実施例5>
  難燃剤を縮合リン酸エステル(大八化学工業(株)製PX−200)12.5質量%とした以外は実施例1と同様である。
【0097】
<実施例6>
  ガラス繊維(日本電気硝子製T−571)を20質量%とした以外は実施例1と同様である。
【0098】
<実施例7>
  ガラス繊維(日本電気硝子製T−571)を40質量%とした以外は実施例1と同様である。
【0099】
<実施例8>
  ガラス繊維(日本電気硝子製T−571)を50質量%とした以外は実施例1と同様である。
【0100】
<実施例9>
  PTFE(ダイキン工業(株)製ポリフロンFA−500H)を0.1質量%とした以外は実施例1と同様である。
【0101】
<実施例10>
  PTFE(ダイキン工業(株)製ポリフロンFA−500H)を2.0質量%とした以外は実施例1と同様である。
【0102】
<実施例11>
  難燃剤(伏見製薬(株)製ラビトルFP−110T)を10質量%とし、PTFE(ダイキン工業(株)製ポリフロンFA−500H)を0.4質量%とし、フィルム成形品(シート)の厚みを0.8mmとした以外は実施例2と同様である。
【0103】
<実施例12>
  難燃剤を縮合リン酸エステル(大八化学工業(株)製PX−200)17.5質量%とした以外は実施例1と同様である。
【0104】
<比較例1>
  ポリカーボネート紛体の粘度平均分子量(Mv)を23,000(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製S−3000F)とした以外は実施例1と同様である。
【0105】
<比較例2>
  ポリカーボネート紛体の粘度平均分子量(Mv)を80,000(ビスフェノールAおよび塩化カルボニルから界面重合法で製造したポリカーボネートとした以外は実施例1と同様である。
【0106】
<比較例3>
  難燃剤(伏見製薬(株)製ラビトルFP−110T)を2質量%とした以外は実施例1と同様である。
【0107】
<比較例4>
  難燃剤(伏見製薬(株)製ラビトルFP−110T)を32質量%とした以外は実施例1と同様である。
【0108】
<比較例5>
  ガラス繊維(日本電気硝子製T−571)は15質量%とした以外は実施例1と同様である。
【0109】
<比較例6>
  ガラス繊維(日本電気硝子製T−571)は52質量%とした以外は実施例1と同様である。
【0110】
<比較例7>
  PTFE(ダイキン工業(株)製ポリフロンFA−500H)を0.05質量%とした以外は実施例1と同様である。
【0111】
<比較例8>
  PTFE(ダイキン工業(株)製ポリフロンFA−500H)を2.5質量%とした以外は実施例1と同様である。
<比較例9>
  ガラス繊維に代えてガラスビーズ(ポッターズバロディーニ社製「EGB731B」、平均粒径18μm、アミノシラン処理)とした以外は実施例1と同様である。
【0112】
【表2】
【0113】
【表3】
【0114】
  表2〜表3より次のことがわかる。
【0115】
  実施例1〜12はいずれも粘度平均分子量が28,0000〜60,000であるポリカーボネート樹脂とリン系難燃剤、繊維状または板状の無機充填剤、及びフルオロポリマーを所定の配合で含有し、樹脂組成物ペレットのメルトボリュームレートが2.0〜10cm
3/10minであることによって、曲げ弾性率5.8GPa以上の優れた機械的物性と成形品厚み0.8mm以下における良好な難燃性、ガラス転移温度75℃以上の耐熱性を併せ持つ。
  さらに、リン系難燃剤としてホスファゼン化合物を用いた場合には、リン酸エステル化合物を用いた場合に比べて、良好な耐熱性が達成できることが確認される。  
【0116】
  これに対して、ポリカーボネート紛体の粘度平均分子量(Mv)が23,000である比較例1は、メルトボリュームレートが10cm
3/10minを超えるため接炎時に滴下綿着火し、UL94垂直燃焼試験規格においてV−2相当であった。
【0117】
  ポリカーボネート紛体の粘度平均分子量(Mv)が80,000である比較例2は、樹脂組成物の粘度が非常に高いため、混練時のトルクが上限を超え、ペレットが作製できなかった。
【0118】
  難燃剤量が2質量%である比較例3は、燃焼時間が長くなり、UL94垂直燃焼試験規格に不合格である。
【0119】
  難燃剤量が32質量%である比較例4は、ガラス転移温度が低く、耐熱性が不十分である。
【0120】
  ガラス繊維量が15質量%である比較例5は、曲げ弾性率が低く、機械的物性が不十分である。
【0121】
  ガラス繊維量が52質量%である比較例6は、比重が大きいため滴下しやくなり、UL94垂直燃焼試験規格に不合格である。
【0122】
  PTFEが0.05質量%である比較例7は、滴下防止効果が得られず、難燃性が不十分である。
【0123】
  PTFEが2.5質量%である比較例8は、シート表面に白点異物が観察され、外観が不十分である。
【0124】
  無機充填剤がガラスビーズである比較例9は、繊維状無機充填剤ではないため曲げ弾性率が低く、剛性が不十分である。
【0125】
  以上より、特定の粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂(A)、リン系難燃剤(B)、繊維状または板状の無機充填剤(C)およびフルオロポリマー(D)を所定の範囲でそれぞれ含有するポリカーボネート樹脂組成物によれば、優れた耐熱性、優れた機械的強度、および薄くても優れた難燃性を併せ持つ薄肉難燃性に優れたフィルム・シートを製造できることが確認された。