【実施例】
【0066】
<実験例1>布の製造
原料と製造方法の異なる以下の(1)〜(4)の4種類の布を製造した。具体的には、以下のとおりに製造した。なお、布は、製造したのち、エチレンオキサイドガスで滅菌して使用した。
【0067】
(1)ESD(LA/CL)布:乳酸とカプロラクトンの共重合体(乳酸:50重量%、カプロラクトン:50重量%)から、エレクトロスピニング法で製造した不織布である。その繊維間隔は、平均6μmであり、比較的小さかった。
(2)ESD-B(LA/CL)布:乳酸とカプロラクトンの共重合体(乳酸:75重量%、カプロラクトン:25重量%)から、エレクトロスピニング法で製造した不織布である。その繊維間隔は、中間値が40μm以上であり、比較的大きかった。
(3)ESD(PGA)布:ポリグリコール酸から、エレクトロスピニング法で製造した不織布である。その繊維間隔は、中間値は40μm以上であり、比較的大きかった。
(4)K(PLA)布:ステレオコンプレックスポリ乳酸(L-ポリ乳酸:50重量%、D-ポリ乳酸:50重量%、分子量:約9万)の繊維からなる編布である。その編目は30〜1500μmの各サイズのものと、単一の布に複数の編目サイズを持つものを使用した。
【0068】
<実験例2>細胞浸潤の確認
実験例1で製造した布をラットの皮膚に埋植して、細胞の布への浸潤状況を調べた。具体的には以下のように実験した。
【0069】
(1)実験動物とその馴化
清水実験動物会社から購入した体重150gのWister系メスのラットを、実験動物として使用した。すべてのラットは、標準条件(日夜サイクル12時間、平均気温23℃、平均湿度50%)で飼育し、標準飼料と水は自由に摂取させた。実験前の1週間はこの条件で飼育した。
【0070】
(2)実験方法
以下のすべての外科的処置は、単一の外科医により、無菌条件下で行った。イソフルラン吸入と30mg/kgのペントバルビタール(ソムノペンチル(登録商標)、共立製薬株式会社)腹腔内注射による全身麻酔下に、ラットを腹臥位に固定した。脊中を剃毛した。5%クロルヘキシジンを含む80%エタノール液で皮膚を清浄化し、10%ポビドンヨード液で消毒した。
【0071】
ラットの脊中に10mmの皮膚切開を置き、皮下組織を鈍的に剥離して皮膚ポケットを作成した。「1種類の布/1つの皮膚ポケット」となるように布を皮膚ポケットに入れ、皮膚ポケットを5-0ナイロン単糸の単結節縫合で縫合閉鎖した。
【0072】
手術後14日と21日目に、ラットを100mg/kgのペントバルビタール腹腔内注射により安楽死させた。U字切開を皮膚ポケット周囲に置いて、再生足場の布を含む布を一塊に外科的切除し、切除標本とした。この切除標本を10%中性ホルマリン液中で固定し、標準的手法によりヘマトキシリン・エオジン(以下、HEと省略する。)染色の顕微鏡的薄切標本(4μm)とした。この薄切標本を光学顕微鏡で観察した。
【0073】
(3)実験結果
その結果を
図3に示す。なお、
図3(a)はESD(LA/CL)布を埋植してから21日後に切除した切除標本の顕微鏡写真を示し、
図3(b)はESD-B(LA/CL)布を埋植してから14日後に切除した切除標本の顕微鏡写真を示し、
図3(c)はESD(PGA)布を埋植してから14日後に切除した切除標本の顕微鏡写真を示し、
図3(d)はK(PLA)布を埋植してから14日後に切除した切除標本の顕微鏡写真を示している。
【0074】
図3(a)に示すように、埋植してから21日たっても、細胞はESD(LA/CL)布の内側に浸潤していなかった。これに対して、
図3(b)、
図3(c)及び
図3(d)に示すように、埋植してから14日目にもかかわらず、無数の細胞がESD-B(LA/CL)布、ESD(PGA)布及びK(PLA)布の全層に渡って浸潤していることが分かった
【0075】
<実験例3>補強層形成の確認
実験例1で製造した布の内部に間質細胞が浸潤して補強層(自己組織化した補強層)を形成するか否かを、イヌの腸骨動脈に堅く巻いた布への細胞の浸潤状況を調べることによって、調べた。具体的には以下のように実験した。
【0076】
(1)実験動物とその馴化
清水実験動物社から購入した体重が10kgの妊娠していない1歳のメスのビーグル犬を実験動物として使用した。実験期間中、イヌは個別に飼育し、実験前1週間以上は標準条件で飼育し、標準イヌ飼料と水を自由に摂取させた。
【0077】
(2)実験方法
以下のすべての外科的処置は、単一の外科チームにより無菌的条件で実施した。イヌを34mg/kgのペントバルビタール静脈内麻酔により基礎麻酔した。イヌにS字状の気管内挿管し、40%酸素とセボフルラン又はイソフルランの吸入麻酔で全身麻酔した。この全身麻酔下に、イヌを仰臥位に固定し、腹部体毛を剃毛した。5%クロルヘキシジンを含む80%エタノール液で皮膚を清浄化し、10%ポビドンヨード液で消毒した。
【0078】
腹部正中に15cmの開腹創を置いた。総腸骨動脈上の腹膜を切開し、腸骨動脈を露出した。動脈周囲の結合組織を除いたのち、ESD-B(LA/CL)布、ESD(PGA)布又はK(PLA)布を動脈周囲に堅く巻いた。腹膜切開縁を縫い合わせて、開腹創を2層縫合で閉鎖した。術後3〜7日間、2種類の抗生剤を術創の状態に合せて投与した。
【0079】
手術後4週目に、イヌを100mg/kgのペントバルビタール静脈内注射により安楽死させた。再開腹して、移植した再生足場を腸骨動脈の周囲組織と一塊の状態で外科的切除し、切除標本とした。この切除標本を10%中性ホルマリン液中で固定して、標準的手法によりHE染色し、薄切標本(4μm)とした。この薄切標本を光学顕微鏡で観察した。
【0080】
(3)実験結果
その結果を
図4に示す。なお、
図4(a)はESD-B(LA/CL)布を巻きつけてから4週後に切除した切除標本の顕微鏡写真を示し、
図4(b)はESD(PGA)布を巻きつけてから4週後に切除した切除標本の顕微鏡写真を示している。
図4(c)は、K(PLA)布を巻きつけてから4週後に切除した切除標本の顕微鏡写真を示している。
【0081】
図4(a)に示すように、無数の間質細胞がESD-B(LA/CL)布の全層に渡って浸潤していた。また、
図4(b)に示すように、無数の間質細胞がESD(PGA)布の全層に渡って浸潤していた。さらに、
図4(c)に示すように、無数の間質細胞がK(PLA)布の全層に渡って浸潤していた。
【0082】
この実験の結果から、実験例1で製造した布は、大動脈周囲に巻けばその壁の補強に有用であることが分かった。
【0083】
<実験例4>動脈壁断端縫合部の血管補強効果の確認
実験例1で製造した布によって形成した補強層が動脈壁断端の縫合部の動脈血圧に対する補強効果を有するか否かを、イヌの半周まで切開された大動脈周囲に巻いた布への細胞の浸潤状況を調べることによって、調べた。具体的には以下のように実験した。
【0084】
(1)実験動物とその馴化
実験例3と同様にイヌを馴化して使用した。
【0085】
(2)実験方法
実験例3と同様にしてイヌを開腹し、大動脈上の腹膜を切開した。大動脈は、腎動脈分岐部から総腸骨動脈分岐部までを露出して周囲組織から剥離した。この剥離の間、腰動脈は結紮切離した。
【0086】
低分子へパリン2000単位を静脈内注射したのち、大動脈を2つの鉗子で閉鎖し、その間で大動脈壁の半周を切開した。大動脈内腔をヘパリン生食で洗浄し、大動脈壁切開縁を6-0ポリプロピレンによる3つの単結節縫合で縫合した。
【0087】
縫合した壁を補強する目的で、K(PLA)布をこの縫合線上に沿って大動脈壁周囲に3重に強く巻き付け、止血のために指で5分間圧迫した。腹膜の切開縁を縫い合わせ、開腹創を2層に縫合閉鎖した。術後は、1日当たり2000単位の低分子へパリンと100mgアスピリンあるいは1mgワーファリンの抗凝固療法を行った。
【0088】
手術後4週目に、イヌを100mg/kgのペントバルビタール静脈内注射により安楽死させた。再開腹して、移植した再生足場を大動脈の周囲組織と一塊の状態で外科的に切除し、切除標本とした。この切除標本を肉眼で評価したのち、10%中性ホルマリン液中で固定して、標準的手法によりHE染色し、薄切標本(4μm)とした。この薄切標本を光学顕微鏡で観察した。
【0089】
(3)実験結果
肉眼観察による結果、大動脈の切開創の周囲からは出血は確認できなかった。すなわち、大動脈壁を半周まで切開し、3つの単結紮で縫い合わせたのち、K(PLA)布をその切開創周囲に巻いた場合には、4週間の間にK(PLA)布は切開創部分を補強して、切開縁を良好に修復し、血圧に抗して大動脈からの出血を防止できることが確認できた。なお、3つの単結紮で縫い合わせただけで、血圧に抗して切開創部分からの大量出血を防止できないことは以前から分かっている。
【0090】
また、顕微鏡観察の結果を
図5に示す。なお、
図5(a)はK(PLA)布を巻きつけてから4週後に切除した切除標本の切開創縁部分の顕微鏡写真を示し、
図5(b)はその部分拡大図を示している。
【0091】
図5(a)と
図5(b)に示すように、内膜と中膜は再生され、切開創縁は平坦で動脈瘤は見られないことから、大動脈壁切開創縁は良好に修復されていた。
【0092】
これらの結果から、実験例1で製造したK(PLA)布を大動脈壁切開創縁の周囲に巻くことによって、大動脈の血圧に抗して4週間の間に大動脈切開創縁を補強し、良好に修復できることが分かった。
【0093】
<実験例5>再生足場への利用可能性の確認
実験例1で製造した布が、イヌの大動脈の再生足場として使用できるか否かを、イヌの大動脈周囲壁全周に沿って完全に切離された部分に布を巻き、布への細胞の浸潤状況を調べることによって、調べた。具体的には以下のように実験した。
【0094】
(1)実験動物とその馴化
実験例3と同様にイヌを馴化して使用した。
【0095】
(2)実験方法
実験例4と同様に大動脈を周囲組織から剥離し、大動脈を2つの鉗子で把持した。この2つの鉗子の間で大動脈の壁全周に沿って完全に切離した。大動脈の2つの断端をヘパリン生食で洗浄し、長さ4cm、径8mmのESD(LA/CL)布のチューブ(内層)を大動脈の2つの断端の間に間置し、大動脈とチューブを端々に吻合した。すなわち、チューブ断端と大動脈壁断端を6-0ポリプロピレン単糸縫合糸の12針縫合で縫い合わせた。
【0096】
チューブ上と吻合部分上を幅6cmで長さ5〜15cmのK(PLA)布の筒状体(外層)で巻いて補強した。さらに、吻合部を幅3cmのESD(PGA)布で2重に巻いて保護した(保護層)。最後に、腹膜切開縁を縫い合わせて、開腹創を2層縫合で閉鎖した。術後は、1日当たり2000単位の低分子へパリンと100mgアスピリン又は1mgワーファリンの抗凝固療法を行った。
【0097】
イヌは手術後10ヶ月後に100mg/kgのペントバルビタール静脈内注射により安楽死させた。再開腹して、移植した再生足場を大動脈の周囲組織と一塊となる状態で外科的切除し、肉眼的、顕微鏡的に検査する切除標本とした。
【0098】
肉眼的評価の後、この切除標本を10%中性ホルマリン液中で固定して、標準的手法によりHE染色又はエラスチカ・ワンギーソン(Elastica-van Gieson、以下、EGと省略する。)染色し、顕微鏡的薄切標本(4μm)とした。この薄切標本を光学顕微鏡で観察した。
【0099】
(3)実験結果
肉眼観察による結果、再生された大動脈は大動脈の機能を果たしていること、すなわち、再生大動脈は、大動脈血が流れ、血栓のない内腔を持っていることが確認できた。
【0100】
また、顕微鏡観察の結果を
図6に示す。なお、
図6(a)〜(c)は再生大動脈壁の顕微鏡写真であり、
図6(a)はHE染色したもの、
図6(b)はEG染色したもの、
図6(c)は
図6(b)の部分拡大図である。また、
図6(d)〜(f)は、自然の大動脈壁の顕微鏡写真であり、
図6(d)はHE染色したもの、
図6(e)はEG染色したもの、
図6(f)は
図6(e)の部分拡大図である。さらに、
図6(c)及び(f)の矢印は、大動脈の中膜層を示している。加えて、
図6(g)は、同じ再生大動脈壁の他の部分の拡大図(HE染色)である。
【0101】
図6(a)に示すように、再生大動脈は内膜、中膜、外膜から構成されており、
図6(d)に示す自然の大動脈の構造と非常に類似していた。また、
図6(b)及び
図6(c)に示すように、再生された中膜は、自然の中膜と同様に、弾性繊維や平滑筋細胞に富んでいた。さらに、
図6(g)に示すように、少量のポリマーが残存していても、動脈壁の再生は良好であった。
【0102】
これらの結果から、実験例1で製造したESD(LA/CL)布を内層とし、K(PLA)布を外層とする大動脈が全管状の形態で再生できることが分かった。なお、実験例2及び実験例3の結果から、外層を構成するK(PLA)布が数週間以内に自己生体組織化した補強層となり、この自己組織化した補強層が劣化するまでの長期に渡って内層であるESD(LA/CL)布を大動脈血圧に対して補強し、補強層が補強しているうちに、大動脈血圧に対して十分な強度を持つ中膜(これは再生に非常に長期を要する。)が再生されたと考えられる。
【0103】
<実験例6>性能比較
医療用基材の外層を構成する材料の違いがその性能に与える影響を、人工血管を作製してイヌの動脈に移植することによって、調べた。具体的には以下のように実験した。
【0104】
(1)実験動物とその馴化
清水実験動物社から購入したビーグル犬(体重7kg〜14kgの成犬)を実験動物として使用した。実験期間中、イヌは個別に飼育し、実験前1週間以上は標準条件で飼育し、標準イヌ飼料と水を自由に摂取させた。
【0105】
(2)人工血管の作製
外層にステレオコンプレックスポリ乳酸を使用した実施例1〜実施例5と、ステレオコンプレックスポリ乳酸以外のポリ乳酸を使用した比較例とを作製し、その性能を比較した。なお、作製した人工血管はエチレンオキサイドガスで滅菌して実験に使用した。以下に、その詳細を説明する。
【0106】
1)実施例1
内層、中間層、外層となる布をそれぞれ筒状に丸めて、その端部を6-0ポリプロピレン単糸縫合糸の12針縫合で縫い合わせてチューブを作製した。これらチューブを手で嵌め合わせて、人工血管サンプル(長さ30mm、内径7.5mm)を作製した。
【0107】
外層:
ステレオコンプレックスポリ乳酸繊維の編布
ステレオコンプレックスポリ乳酸の分子量:約20万、
ステレオコンプレックスポリ乳酸の結晶融点:200〜230℃
モノフィラメントの直径:18〜22μm(22μmが多い)
モノフィラメント数/撚糸:60本
撚糸の繊維間隔:50〜2000μm
布の巻数:3回
【0108】
中間層:
PLA/CL(75%/25%)共重合体繊維のエレクトロスピニング不織布
繊維間隔:55μm(繊維間隔を拡張するポリマー=スペーサーを使用)
布の厚さ:180μm
布の巻数:2回
【0109】
内層:
PLA/CL(75%/25%)繊維50重量%とコラーゲン繊維50重量%とのエレクトロスピニング不織布
繊維径:0.7μm
繊維間隔:11μm
布の厚さ:480μm
【0110】
2)実施例2
実施例1と同様にして、人工血管サンプル(長さ35mm、内径5.5mm)を作製した。
【0111】
外層:
ステレオコンプレックスポリ乳酸繊維の編布
ステレオコンプレックスポリ乳酸の分子量:約20万
ステレオコンプレックスポリ乳酸の結晶融点:200〜230℃
モノフィラメントの直径:16.5μm
モノフィラメント数/撚糸:48本
撚糸の間隔:240μm
布の巻数:3回
【0112】
中間層:
PLA/CL(75%/25%)のエレクトロスピニング不織布
繊維間隔:55μm(スペーサーを使用)
布の厚さ:180μm
布の巻数:2回
【0113】
内層:
PLA/CL(75%/25%)繊維50重量%+コラーゲン繊維50重量%のエレクトロスピニング混合不織布
繊維径:0.7μm
繊維間隔:11μm
布の厚さ:330μm
【0114】
3)実施例3
実施例1と同様にして、人工血管サンプル(長さ40mm、内径7.0mm)を作製した。
【0115】
外層:
ステレオコンプレックスポリ乳酸繊維の編布
ステレオコンプレックスポリ乳酸の分子量:約20万
ステレオコンプレックスポリ乳酸の結晶融点:200〜230℃
モノフィラメント直径:12.5μm
モノフィラメント数/撚糸:12本
撚糸の繊維間隔:1500μm
布の巻数:3回
【0116】
中間層:
PLA/CL(75%/25%)共重合体繊維のエレクトロスピニング不織布
繊維間隔:55μm(スペーサーを使用)
布の厚さ:180μm
布の巻数:2回
【0117】
内層:
PLA/CL(75%/25%)繊維50重量%+コラーゲン繊維50重量%のエレクトロスピニング混合不織布
繊維径:0.8μm
繊維間隔:6.5μm
布の厚さ:240μm
【0118】
4)実施例4
実施例1と同様にして、人工血管サンプル(長さ30mm、内径5.0mm)を作製した。
【0119】
外層:
ステレオコンプレックスポリ乳酸繊維の編布
ステレオコンプレックスポリ乳酸の分子量:約20万
ステレオコンプレックスポリ乳酸の結晶融点:200〜230℃
モノフィラメント直径:12.5μm
モノフィラメント数/撚糸:12本
撚糸の間隔:360μm
布の巻数:3回
【0120】
中間層:
PLA/CL(75%/25%)共重合体繊維のエレクトロスピニング不織布
繊維間隔:42μm(繊維間隔を拡張するポリマー=スペーサーを使用)
布の厚さ:170μm
布の巻数:3回
【0121】
内層:
PLA/CL(75%/25%)繊維50重量%+コラーゲン繊維50重量%のエレクトロスピニング不織布
繊維径:4.7μm
繊維間隔:35μm(スペーサーを使用)
布の厚さ:120μm
【0122】
5)実施例5
実施例1と同様にして、人工血管サンプル(長さ30mm、内径5.0mm)を作製した。
【0123】
外層:
ステレオコンプレックスポリ乳酸繊維の編布
ステレオコンプレックスポリ乳酸の分子量:約15万
ステレオコンプレックスポリ乳酸の結晶融点:200〜230℃
モノフィラメント直径:16.5μm
モノフィラメント数/撚糸:36本
撚糸の繊維間隔:240μm
布の巻数:1回
【0124】
中間層:
なし
【0125】
内層:
PLA/CL(50%/50%)溶液を真空乾燥して作製した多孔体
孔の直径:90%が直径250μm以下
布の厚さ:580μm(外層を含む。)
【0126】
6)比較例
実施例1と同様にして、人工血管サンプル(長さ30mm、内径6.0mm)を作製した。
【0127】
外層:
L-ポリ乳酸繊維の編布
L-ポリ乳酸繊維の分子量:約20万
L-ポリ乳酸繊維の結晶融点:約170〜180℃
モノフィラメント直径:16.5μm
モノフィラメント数/撚糸:12本
撚糸の繊維間隔:360μm
布の巻数:3回
【0128】
中間層:
PLA/CL(75%/25%)共重合体繊維のエレクトロスピニング不織布
繊維間隔:42μm(繊維間隔を拡張するポリマー=スペーサーを使用)
布の厚さ:170μm
布の巻数:3回
【0129】
内層:
PLA/CL(75%/25%)共重合体繊維のエレクトロスピニング不織布
繊維径:4.7μm
繊維間隔:35μm(スペーサーを使用)
布の厚さ:360μm
【0130】
(3)実験方法
実験例4と同様に、腹部大動脈(以下、大動脈と省略する。)を周囲組織から剥離し、大動脈を2つの鉗子で把持した。この2つの鉗子の間で大動脈の壁全周に沿って完全に切離した。大動脈の2つの断端をヘパリン生食で洗浄し、人工血管を大動脈の2つの断端の間に間置し、大動脈と人工血管を端々に吻合した。すなわち、人工血管断端と大動脈壁断端を6-0ポリプロピレン単糸縫合糸の12針縫合で縫い合わせた。最後に、腹膜切開縁を縫い合わせて、開腹創を2層縫合で閉鎖した。術後は、1日当たり2000単位の低分子へパリンと100mgアスピリン又は1mgワーファリンの抗凝固療法を行った。
【0131】
手術10ヶ月後に、イヌを100mg/kgのペントバルビタール静脈内注射により安楽死させた。安楽死させたイヌを再開腹して、移植した人工血管をその周囲組織と一塊となる状態で外科的に切除し顕微鏡的に検査する切除標本とした。
【0132】
切除標本を10%中性ホルマリン液中で固定して、標準的手法によりHE染色又はエラスチカ・ワンギーソン(Elastica-van Gieson、以下、EGと省略する。)染色し、顕微鏡的薄切標本(4μm)とした。この薄切標本を光学顕微鏡で観察した。
【0133】
(4)実験結果
イヌから採取した実施例1〜実施例5及び比較例の人工血管を移植した部分を、肉眼観察した結果、及び切除標本を顕微鏡で観察した結果を以下に略記する。
【0134】
1)実施例1の結果
肉眼観察では、動脈瘤や狭窄などの異常所見は認められなかった。また、顕微鏡観察の結果(HE染色)を
図7に示す。
図7に示すように、顕微鏡観察では、外層を構成するステレオコンプレックスポリ乳酸繊維はその多くが残存した。一方、内層や中間層を構成するPLA/CL繊維はほとんど残存しなかった。
【0135】
外層は、繊維間隔が広く、編糸(モノフィラメントを60本集めた撚糸)が太いからか、内腔面の凹凸がやや大きかった。そのため、血管壁に血栓が出来るリスクが高いはずだが、通常の人工血管の蛇腹よりはよかった。内層は適切な厚さで、比較的縫い易かった。全体評価はよかった。
【0136】
2)実施例2の結果
肉眼観察では、動脈瘤や狭窄などの異常所見は認められなかった。また、顕微鏡観察の結果(HE染色)を
図8に示す。
図8に示すように、顕微鏡観察では、外層を構成するステレオコンプレックスポリ乳酸繊維はその多くが残存した。一方、内層や中間層を構成するPLA/CL繊維はほとんど残存しなかった。
【0137】
外層は、その重なり具合により斑ができ、栄養血管が外側から侵入し易い部分とし難い部分に分かれた。内層は比較的縫い易かった。全体評価はよかった。
【0138】
3)実施例3の結果
肉眼観察では、動脈瘤や狭窄などの異常所見は認められなかった。また、顕微鏡観察の結果(HE染色)を
図9示す。
図9に示すように、顕微鏡観察では、外層を構成するステレオコンプレックスポリ乳酸繊維はその多くが残存した。一方、内層や中間層を構成するPLA/CL繊維はほとんど残存しなかった。
【0139】
外層を構成する布の繊維間隔が十分に広かったため、栄養血管の外側からの侵入もよかった。一部層の重なり具合による斑が認められたが、無視できる範囲であった。全体評価はよかった。
【0140】
4)実施例4の結果
肉眼観察では、動脈瘤や狭窄などの異常所見は認められなかった。顕微鏡観察(図示せず。)では、外層を構成するステレオコンプレックスポリ乳酸繊維はその多くが残存した。一方、内層や中間層を構成するPLA/CL繊維はほとんど残存しなかった。
【0141】
外層を構成する布の繊維間隔が十分に広かったため、栄養血管の外側からの侵入もよかった。一部層の重なり具合による斑が認められたが、無視できる範囲であった。内層の繊維間隔や太さはよかった。また、内層の厚さも適切な範囲に収まっていた。全体評価はよかった。
【0142】
5)実施例5の結果
肉眼観察では、動脈瘤や狭窄などの異常所見は認められなかった。また、顕微鏡観察の結果(EG染色)を
図10に示す。
図10に示すように、顕微鏡観察では、弾性繊維と平滑筋細胞が再生され、動脈壁の再生は良好であることが分かった。なお、手術的に縫合する場合は自然の動脈に近かった。外層を構成する布の繊維間隔が十分に広かったためか、栄養血管の外側からの侵入もよかった。総合評価は、実施例の中で最もよかった。
【0143】
6)比較例の結果
肉眼観察では、全体に動脈瘤の形成が認められ、血管壁には血栓が認められた。また、顕微鏡観察の結果を
図11に示す。なお、
図11(a)はHE染色の結果であり、
図11(b)EG染色の結果である。
図11に示すように、顕微鏡観察では、血管壁に新旧の血栓、瘢痕化と一部に炎症が認められた。そのため、全体評価は悪かった。その原因として、外層強度の早期劣化が考えられる。
【0144】
なお、実施例1〜実施例5、比較例のほか、表1に記載の外層の布、表2に記載の中間層の布、表3に記載の内層の易生体親和性布を組み合わせて様々な構成のサンプルを作製して、イヌに移植し、6ヶ月以上(最長は18ヶ月後)に渡って超音波診断装置により経時変化を観察した。そして、その観察結果を表4にまとめて示した。表1にある実施例の欄にはその内の成功例の外層の構成、モノフィラメント直径、モノフィラメント数/撚糸、作製方法、各撚糸の間隔、厚さ、巻き数を示した。
【0145】
【表1】
【0146】
【表2】
【0147】
【表3】
【0148】
【表4】
【0149】
表4に示すように、ステレオコンプレックスポリ乳酸を外層に使用した人工血管(合計26個)は、観察期間である6〜16ヶ月の間に、動脈硬化、狭窄・閉塞、破裂、動脈瘤化などの異常な経過の動脈再生が全く認められなかった。反対に、ステレオコンプレックスポリ乳酸以外のポリ乳酸を使用した人工血管(合計24個)は、いずれも観察期間内に異常が認められた(このうち、22匹は6ヶ月以内に異常が認められた。)。
【0150】
このように、ステレオコンプレックスポリ乳酸からなる外層を有する人工血管を移植することによって、大動脈を完全に再生することができた。これに対して、同じ乳酸を原料とする他のポリ乳酸からなる外層を有する人工血管は、大動脈をほとんど再生できなかった。すなわち、外層を構成するポリ乳酸の違いが、大動脈の再生と関係していることが分かった。
【0151】
なお、本発明の医療用基材は、上記実施の形態に限定されない。例えば、
図1及び
図2に示す管形状のほか、例えば、シート状のものであってもよい。シート状の医療用基材は、例えば、患部に巻きつけて、その再生に使用する。この医療用基材の場合、最も患部の内側に配置された内層(最内層)は、内皮細胞等が生着することによって、患部の再生を促進する。一方、最内層の外側の層、すなわち循環器系の外膜側に配置される層は、患部が再生するまで医療用基材の強度を維持するとともに、栄養血管を最内層に達する又は最内層近傍まで入り込むように多孔質形状に形成されているため、栄養血管の成長と生着した内皮細胞等の生育を助け、患部の再生を促進する。
【0152】
また、本発明の医療用基材は、
図1及び
図2に示す外層、内層及び中間層を備えたもののほか、必要に応じて他の層を備えていてもよい。例えば、医療用基材を大動脈に吻合した際に、吻合部を保護するための保護層を設けてもよい。また、内層の周りに外層を複数回重ね合せてもよい。
【0153】
さらに、外層、内層、中間層は布以外の薄い多孔体であってもよく、多孔体である場合には、特に限定することなく、公知の方法により製造できる。
【0154】
上記の実施の形態では、布を縫製して筒状にしていたが、エレクトロスピニング等の製造方法や横編機等により、予め筒状に製造してもよい。