(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6761809
(24)【登録日】2020年9月9日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】巻取りスピンドル
(51)【国際特許分類】
B65H 54/547 20060101AFI20200917BHJP
D01H 13/00 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
B65H54/547
D01H13/00 Z
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-549372(P2017-549372)
(86)(22)【出願日】2016年3月14日
(65)【公表番号】特表2018-512349(P2018-512349A)
(43)【公表日】2018年5月17日
(86)【国際出願番号】EP2016055403
(87)【国際公開番号】WO2016150737
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2018年12月7日
(31)【優先権主張番号】102015003714.5
(32)【優先日】2015年3月20日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】307031976
【氏名又は名称】エーリコン テクスティル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Oerlikon Textile GmbH & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ハインツ ヴァルターマン
(72)【発明者】
【氏名】クラウス シェーファー
【審査官】
大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】
実開平07−024855(JP,U)
【文献】
特開2010−090943(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/171073(WO,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第00363227(EP,A1)
【文献】
特開2003−226467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 54/00−54/553
D01H 1/00−17/02
F16D 3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻取り機において糸を複数のパッケージに巻き取る巻取りスピンドルであって、前記パッケージを収容する、長く突出する少なくとも1つのチャック(3)を有しており、該チャック(3)は、中空支持体(11)内に支持された、前側の軸受軸(7.1)と後ろ側の軸受軸(7.2)とを有する複数部分から成る駆動軸(7)によって駆動可能であり、前記後ろ側の軸受軸(7.2)が、駆動装置に連結可能であり、前記後ろ側の軸受軸(7.2)に結合された前記前側の軸受軸(7.1)が、前記チャック(3)に回動不能に結合されていて、前記前側の軸受軸(7.1)が、前記中空支持体(11)に対して前側のころがり軸受(14.1)と後ろ側のころがり軸受(14.2)とによって回転可能に支持されている、巻取りスピンドルにおいて、前記前側のころがり軸受(14.1)は、支持軸受として構成されていて、前記チャック(3)の重心(19.1)とパッケージ重心(19.2)との間に配置されていることを特徴とする、巻取りスピンドル。
【請求項2】
前記後ろ側のころがり軸受(14.2)は、ガイド軸受として形成されており、該ガイド軸受(14.2)は、前記支持軸受(14.1)に対して軸方向における荷重を加えない、請求項1記載の巻取りスピンドル。
【請求項3】
前記支持軸受(14.1)は、円筒ころ軸受(16)として形成されている、請求項1または2記載の巻取りスピンドル。
【請求項4】
前記円筒ころ軸受(16)の内レース(16.1)が、前記前側の軸受軸(7.1)における拡径された軸段部(18.1)の周囲において保持されている、請求項3記載の巻取りスピンドル。
【請求項5】
前記後ろ側のころがり軸受(14.2)は、互いに並んで配置された2つのスピンドル軸受(17.1,17.2)によって形成されており、該スピンドル軸受(17.1,17.2)は、正面組合せで前記前側の軸受軸(7.1)の周囲に保持されている、請求項2から4までのいずれか1項記載の巻取りスピンドル。
【請求項6】
前記支持軸受(14.1)および前記後ろ側のころがり軸受(14.2)は、軸受ブシュ(12.1)の内部に配置されており、該軸受ブシュ(12.1)の周囲に、前記中空支持体(11)に支持された複数の緩衝リング(13)が保持されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の巻取りスピンドル。
【請求項7】
前記複数の緩衝リング(13)はそれぞれ、内側スリーブ(13.2)と、該内側スリーブ(13.2)を間隔をおいて取り囲む外側スリーブ(13.1)とから形成されており、前記内側スリーブ(13.2)と前記外側スリーブ(13.1)とは、ゴムエレメント(13.3)によって互いに弾性的に結合されている、請求項6記載の巻取りスピンドル。
【請求項8】
前記前側の軸受軸(7.1)の前側の軸部分(18.3)において、追加的な緩衝軸受(21)が、前記支持軸受(14.1)に対して前側へ軸方向においてずらされて前記前側の軸受軸(7.1)と前記中空支持体(11)との間に配置されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の巻取りスピンドル。
【請求項9】
前記緩衝軸受(21)は、前記支持軸受(14.1)と、前記前側の軸受軸(7.1)の、前記チャック(3)に結合された端部との間における、拡径された軸段部(18.3)に配置されている、請求項8記載の巻取りスピンドル。
【請求項10】
前記チャック(3)は、該チャックの前記駆動装置に向かう端部において、該端部に形成された環状のカラー(37)に配置されたころがり軸受(36.1)によって支持されている、請求項1から9までのいずれか1項記載の巻取りスピンドル。
【請求項11】
前記ころがり軸受(36.1)は、前記中空支持体(11)の周囲に配置されていて、前記チャック(3)に支持された緩衝リング(36.2)によって取り囲まれている、請求項10記載の巻取りスピンドル。
【請求項12】
前記後ろ側の軸受軸(7.2)を支持する支持部(8.2)が、軸受ブシュ(12.2)の内部に形成されており、該軸受ブシュ(12.2)に、2つの緩衝リング(13)が保持されていて、該緩衝リング(13)はそれぞれ、内レース(13.2)で前記軸受ブシュ(12.2)に支持され、かつ外レース(13.1)で前記中空支持体(11)に支持されている、請求項1から11までのいずれか1項記載の巻取りスピンドル。
【請求項13】
スピンドル支持体(1)に保持された2つの巻取りスピンドル(2.1,2.2)を備えた、複数の糸をパッケージに巻き取る巻取り機であって、前記巻取りスピンドル(2.1,2.2)のうちの少なくとも1つが、請求項1から12に記載のように形成されていることを特徴とする、巻取り機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に記載した、巻取り機において糸を複数のパッケージに巻き取る巻取りスピンドルに関する。
【0002】
溶融紡糸プロセスにおいて合成糸を製造する場合、1つの紡糸位置の複数の糸は一緒に並行にパッケージに巻き取られる。そのために、糸毎にそれぞれ1つの巻成ユニットを有する巻取り機が使用され、この巻取り機は、巻成ユニットに対して平行に、片側において支持された巻取りスピンドルを有している。このような巻取りスピンドルは、スピンドル支持体に突出するように配置されているので、巻取りスピンドルの周囲に巻成されたパッケージは、完成後に、巻取りスピンドルの自由端部から取外し可能である。このような巻取りスピンドルは、例えば独国特許出願公開第19548142号明細書(DE 195 48 142 A1)から公知である。
【0003】
この公知の巻取りスピンドルは、チャックを有しており、このチャックの周囲には、巻管を収容しかつ固定する、クランプ装置を備えた緊締周壁が配置されている。チャックは、中空円筒形に形成されていて、1つの長手方向部分に、駆動軸に結合されたハブを有している。駆動軸は複数部分から形成されていて、後ろ側の軸受軸と前側の軸受軸とによって形成されており、このとき後ろ側の軸受軸は、駆動装置に連結可能であり、前側の軸受軸は、チャックのハブに結合されている。チャックの重量および特に巻成されたパッケージの重量は、前側の軸受軸の支持部を介して受け止められ、この支持部は中空支持体の内部に形成されている。支持部は、前側のころがり軸受と後ろ側のころがり軸受とから成っており、両ころがり軸受は、前側の軸受軸の周囲に互いに間隔をおいて配置されている。
【0004】
一方では、静荷重を受け止めるために、かつ他方では駆動軸の案内を保証するために、前側のころがり軸受と後ろ側のころがり軸受とは相互に荷重を加えられている。両ころがり軸受は、チャックの静荷重および駆動軸の案内を保証するために、相互に作用し合う。このような巻取りスピンドルのチャックは、市販の巻管を収容するために外径を制限されているので、構造空間、ひいては支持部の軸受サイズも同様に制限されている。したがってころがり軸受の耐荷重および駆動軸の強度は、制限されている。
【0005】
このとき基本的に、可能な限り、その特性に基づいて比較的高い耐荷重を実現するようなころがり軸受を使用することが公知である。例えば独国特許出願公開第102009021647号明細書(DE 10 2009 021 647 A1)に基づいて公知の巻取りスピンドルでは、軸受軸は、互いに対して荷重を加えられて保持された2つの玉ころ軸受によって支持されている。これによって確かに、ころがり軸受によって高められた耐荷重が可能になるが、しかしながら、これによって駆動軸の強度を高めることはできない。さらに異なった箇所に配置された2つのころがり軸受の軸方向における予荷重は、極めて高い製造精度および相互における極端な嵌合精度を必要とする。
【0006】
ゆえに本発明の課題は、このような形式の巻取りスピンドルにおいて、特に、軸強度を高める、ひいては耐荷重を高める支持部を備えた巻取りスピンドルを形成することである。
【0007】
この課題は、本発明によれば、前側のころがり軸受が、チャックの重心の近くに配置されていて、支持軸受としてほぼチャックの全重量を支持することによって解決される。
【0008】
本発明の好適な発展形態は、それぞれの従属請求項の特徴および特徴の組合せによって定義されている。
【0009】
本発明は、チャックにおけるパッケージから成る重量は、チャックと前側の軸受軸との間における結合箇所を介して支持部に導入されねばならないという認識に基づいている。重量のこのような横方向移動は、力と移動距離との積である曲げモーメントを必然的に生ぜしめる。重量は空間固定に作用し、かつ軸受軸は回転するので、軸受軸に回転振動数を加える回転曲げモーメントが発生する。これによって、重量が例えば多数の太いパッケージによって大きくなればなるほど、かつ支持部と、チャックと軸受軸との間における軸・ハブ結合部との間における間隔によって確定された、移動距離が増大すればするほど、回転曲げモーメントによる軸受軸に対する荷重は大きくなる。この荷重を最小にするために、本発明によれば、前側のころがり軸受は、チャックの重心の近くに配置され、これによって1つの支持軸受として、チャックの総重量をほぼ受け止めることができる。
【0010】
支持軸受の位置において考慮すべきことは、巻成されたパッケージはチャックにおいて、空のチャックの重心とは必ずしも一致しないパッケージ重心を有していることである。したがって、チャックの重心とパッケージ重心との重畳によって、結果として総重心が生じる。パッケージの巻成中に、総重心はチャックの重心からパッケージ重心に向かって移動する。したがって、可能な限り総荷重を受け止めることができるようにするために、支持軸受は、チャックの重心の近くに配置されている。通常、支持軸受の位置は、チャックの重心とパッケージ重心との間の領域に配置されている。チャックの長さおよび巻成されたパッケージの数に関連して、支持軸受の位置が、チャックの重心とパッケージ重心との間における領域の幾分外側に配置されていることも可能である。チャックの重心の近くにおける支持軸受の位置によって、回転曲げモーメントによる駆動軸に対する荷重は、前側の軸受軸の前側の軸部分に制限される。これによって全体として駆動軸の強度は高くなる。
【0011】
前側のころがり軸受を支持軸受として形成することは、チャックのための完全に新しい軸受コンセプトを可能にする。例えば本発明の特に好適な発展形態では、後ろ側のころがり軸受は、ガイド軸受として形成されており、該ガイド軸受は、支持軸受に対して軸方向における荷重を加えない。これによって支持軸受は、軸方向における荷重を受けないままである。荷重を受け止める機能と前側の軸受軸を案内する機能とは、分割される。案内軸受は、可能な限り荷重を受けないままであり、かつ前側の軸受軸を案内する。
【0012】
したがって支持軸受は、本発明の好適な発展形態によれば、高い荷重を受け止めることができるようにするために、好ましくは円筒ころ軸受として形成される。
【0013】
運転時において総重心の位置は変化するので、支持軸受の箇所における回転曲げモーメントを、完全に消滅させることはできない。したがって本発明の特に好適な発展形態では、円筒ころ軸受の内レースが、前側の軸受軸における増大された軸段部の周囲において保持されている。前側の軸受軸における増大された軸段部によって、前側の軸受軸の設計強度(Gestaltfestigkeit)を、好適に大幅に高めることができる。特に、これによって、いわゆる擦過腐食(Passungsrost)のおそれを大幅に小さくすることができる。外径部および移行半径部における軸段部の相応の設計によって、高い切欠き応力を好適に回避することができるので、前側の軸受軸の改善された強度が得られる。
【0014】
軸受軸の案内をガイド軸受の構成によって好適に行うことができる、本発明の好適な発展形態では、ガイド軸受は、互いに並んで配置された2つのスピンドル軸受によって形成されており、該スピンドル軸受は、正面組合せで前側の軸受軸の周囲に保持されている。このように構成されていると、軸方向力と半径方向力とを共に受け止めることができるので、軸受軸は確実に案内される。さらにこれによって、ダブル軸受における内部のモーメント荷重の形成を、回避することができる。
【0015】
支持軸受およびガイド軸受は、本発明の好適な発展形態によれば、軸受ブシュの内部に配置されており、このとき軸受ブシュの周囲には、中空支持体に支持された複数の緩衝リングが保持されている。このように構成されていると、特に、支持軸受における外レースの傾倒が回避される。支持部は、緩衝リングを介して中空支持体に対して弾性的に支持されているので、軸受軸は中空支持体に対して、緩衝を目的とする相対運動を実施することができる。
【0016】
取付け後に、支持部と中空支持体との間においてほぼ予め確定された弾性を、製造誤差とは無関係に得るために、緩衝リングは、好ましくは内側スリーブと、該内側スリーブを取り囲む外側スリーブとによって形成されており、このときゴムエレメントが、内側スリーブと外側スリーブとの間に囲まれて配置されている。このようにして、内側スリーブと外側スリーブとの間におけるゴムエレメントのばね特性は、既に取付け前に、予め確定された緩衝特性をもって形成することができる。
【0017】
特に、長く突出するチャックにおいて、臨界巻取り速度の通過時に発生する振動を強力に緩衝できるようにするために、さらに追加的な緩衝軸受が設けられており、この緩衝軸受は、前側の軸受軸の前側の軸部分において、支持軸受に対して軸方向においてずらされて前側の軸受軸と中空支持体との間に配置されている。このとき緩衝軸受は、特に軟らかく形成されてよく、これによって、回転する軸受軸と位置固定の中空支持体との間における、共振の通過時に発生する振動を緩衝することができる。
【0018】
このとき緩衝軸受は、支持軸受と、前側の軸受軸の、チャックに結合された端部との間における、軸受軸の増大された別の軸段部に、好適に配置されている。
【0019】
緩衝軸受は、好ましくはころがり軸受と、ころがり軸受の外レースに直に支持されている緩衝リングとによって形成される。したがってころがり軸受は、回転する軸受軸を起点として延びる、緩衝リング内に相対運動を導入するための枢着点を形成する。軸受軸の回転は、ほぼ影響を受けないままである。
【0020】
安定性を高めるために、ころがり軸受は、互いに並んで配置された2つのスピンドル軸受によって形成されていてよく、両スピンドル軸受は、背面組合せで前側の軸受軸の周囲に保持されている。このように構成されていると、比較的高い傾倒モーメントを受け止めることができる。
【0021】
一方ではチャックの安定性を改善するため、かつ他方では、パッケージへの巻成中に可能な限り平行な案内を達成するために、本発明の特に好適な発展形態では、チャックは、その開放した端部において鍔軸受によって支持されており、中空支持体における支持軸受の位置は、チャックの一端部に向かって移動されている。鍔軸受によって、チャックにおける追加的な力成分が作用し、この力成分はチャックにおける荷重分布に影響を及ぼす。支持軸受における主荷重をそのままにしておくために、チャックの自由端部に向かっての、支持軸受の位置の移動が実施されている。
【0022】
緩衝作用を高めるために、鍔軸受は、好ましくは、チャックと中空支持体との間において作用する、ころがり軸受と緩衝リングとによって形成されている。緩衝リングは、好ましくは、全パッケージ荷重時における、中空支持体に対するチャックの移動を可能にするような、ばね強さと緩衝体強さとを備えて形成することができる。
【0023】
さらに、後ろ側の軸受軸の支持部を、軸受ブシュの内部に形成するようになっており、このとき軸受ブシュは、複数の緩衝リングを用いて、中空支持体に対して弾性的に支持されている。このように構成されていると、駆動側からおよび被動側から好適に発生する振動荷重を、緩衝することができる。
【0024】
本発明に係る巻取り機は、特に、突出する巻取りスピンドルに複数の巻成ユニットを形成できることによって傑出している。駆動軸の軸強度と支持部の高い耐荷重とを高めることによって、同時に巻成されるパッケージの数を増やすことができ、かつ巻取りスピンドルにおけるチャックの突出する長さを伸ばすことができる。
【0025】
次に添付の図面を参照しながら、幾つかの実施形態について、本発明に係る巻取りスピンドルを詳説する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明に係る巻取りスピンドルの第1実施形態を概略的に示す断面図である。
【
図2】
図1に示した実施形態の前側の支持部を概略的に示す断面図である。
【
図3】本発明に係る巻取りスピンドルの別の実施形態を概略的に示す断面図である。
【
図4】本発明に係る巻取りスピンドルのさらに別の実施形態を概略的に示す断面図である。
【
図5】本発明に係る巻取り機を概略的に示す図である。
【0027】
図1には、巻取りスピンドルの第1実施形態の一部が概略的に断面図で示されている。巻取りスピンドル2は、中空支持体11によってスピンドル支持体1に保持されている。スピンドル支持体1において巻取りスピンドル2は、長く突出するチャック3を有しており、このチャック3は両端部において中空円筒形に形成されている。チャック3の自由端部は、そこには本発明にとって重要な部材が存在しないので、
図1には示されていない。通常、チャック3の自由端部は、カバーによって閉鎖されている。
【0028】
チャック3の、スピンドル支持体1に向けられた反対側に位置する開放した端部は、駆動軸7を収容するために働き、この駆動軸7は、軸・ハブ結合部15によってチャック3のハブ6に結合されている。
【0029】
製造技術的な理由から、駆動軸7は、2つの軸部分に分割されていて、前側の軸受軸7.1と後ろ側の軸受軸7.2とによって形成されている。両方の軸受軸7.1,7.2は、収縮ブシュ35を介して互いに不動に結合されている。
【0030】
前側の軸受軸7.1は、前側の支持部8.1を介して中空支持体11内において回転可能に支持されている。中空支持体11は、そのために自由端部がチャック3の内部に進入している。チャック3の、スピンドル支持体1に向けられた開放した端部は、突出する中空支持体11を、間隔をおいて取り囲んでいるので、チャック3は、位置固定の中空支持体11に対して相対的に回転することができる。
【0031】
中空円筒形の中空支持体11の内部には、前側の軸受軸7.1の前側の支持部8.1が配置されている。前側の支持部8.1について説明するために、追加的に
図2を参照する。
図2において前側の支持部8.1は、
図1に示した実施形態の一部が拡大されて示されている。図面のうちの1つを特に参照するのでない限り、以下に記載の説明は両方の図面に対するものである。
【0032】
前側の支持部8.1は、前側のころがり軸受14.1と、軸方向間隔をおいて配置された後ろ側のころがり軸受14.2とによって形成されている。前側のころがり軸受14.1は、チャック3の重心19.1の近くに配置されていて、かつ純然たる支持軸受である。重心19.1は、巻成されたパッケージを有しない空のチャック3に関するものである。チャック3における巻成されたパッケージの収容によって、パッケージ重心19.2が生じ、このパッケージ重心19.2の位置は、空のチャック3の重心19.1の位置と一致していない。したがって、重心19.1とパッケージ重心19.2との重畳によって生じる総重心(Gesammtschwerpunkt)を考慮することが必要である。例えば総重心は、パッケージ巻成の開始時に空のチャック3の重心19.1に位置しており、次いで巻成の進行時にパッケージ重心19.2に向かって移動することができる。
【0033】
チャック3の自重と巻成されたパッケージのパッケージ質量とから成る総荷重が、支持軸受14.1に対して作用し得るようにするために、支持軸受14.1は、チャック3の重心19.1とパッケージ重心19.2との間に位置する軸受平面34に配置されている。したがって支持軸受14.1は、チャック3の重心19.1の直ぐ近くに配置されている。
【0034】
支持軸受14.1は、円筒ころ軸受16として形成されている。この円筒ころ軸受16は、内レース16.1で、前側の軸受軸7.1の増大された軸段部18.1に配置されている。このとき軸段部18.1は、円筒ころ軸受16の全幅にわたって延びている。前側の軸受軸7.1の軸ステム(Wellenschaft)33への軸段部18.1の移行部は、円筒ころ軸受16の両側において丸く形成されている。円筒ころ軸受16の外レース16.2は、前側の軸受軸7.1に対して平行に延びる軸受ブシュ12.1に支持されている。
【0035】
後ろ側のころがり軸受14.2は、前側の軸受軸7.1を案内するために案内軸受として形成されている。案内軸受14.2は、本実施形態では互いに対して荷重を加えられた2つのスピンドル軸受17.1,17.2によって形成される。スピンドル軸受17.1,17.2は、正面組合せ(X-Anodrnung)で互いに対して荷重を加えられている。このときスピンドル軸受17.1,17.2は、直に並んで配置されていて、増大された軸段部18.2に保持されている。軸受軸7.1を太くする軸段部18.2は、両スピンドル軸受17.1,17.2の幅にわたって延びている。このとき同様に軸ステム33への移行領域には、それぞれ1つの丸み部が設けられている。スピンドル軸受17.1,17.2はその外レースで軸受ブシュ12.1に支持されている。
【0036】
臨界巻取り速度の通過時に発生する振動を緩衝するため、および特に中空支持体11の周囲におけるチャック3の当接を回避するために、軸受ブシュ12.1の周囲には複数の緩衝リングが設けられている。本実施形態では2つの緩衝リング13が設けられており、両緩衝リング13はそれぞれ軸受ブシュ12.1に配置されていて、軸受ブシュ12.1を中空支持体11に対して弾性的に支持する。このとき特に緩衝リング13のうちの1つは、軸・ハブ結合部15の近くに位置決めされている。そのために軸受ブシュ12.1は支持軸受14.1を越えて突出しているので、緩衝リング13は軸方向において支持軸受14.1に対してずらされて配置されている。
【0037】
緩衝リング13は、同一に構成されていて、内側スリーブ13.2と、この内側スリーブ13.2を間隔をおいて取り囲む外側スリーブ13.1とを有している。内側スリーブ13.2と外側スリーブ13.1との間には、ゴムエレメント13.3が配置されている。ゴムエレメント13.3は、内側スリーブ13.2および外側スリーブ13.1に不動に結合されていて、ゴムばねを形成している。これによって内側スリーブ13.2と外側スリーブ13.1とは互いに相対的に運動することができる。内側スリーブ13.2および外側スリーブ13.1は、好ましくは金属から形成されているので、ゴムエレメント13.3は、加硫によって内側スリーブ13.2と外側スリーブ13.1との間において固定されている。ゴムばねとして作用するゴムエレメント13.3は、材料およびばね特性に関して取付け箇所に合わせることができる。さらに、外側スリーブ13.1および内側スリーブ13.2は、狭い製造誤差範囲で正確に製造することができるので、緩衝リング13の取付け時に許容不能な変形は、好適に回避される。これとは逆に、取付け空間の内部における僅かな製造誤差は、ゴムエレメント13.3のばね緩衝特性に不都合な影響を及ぼすことなしに、外側スリーブ13.1および内側スリーブ13.2の可動性によってある程度の範囲において補償することができる。
【0038】
図1の図示から分かるように、後ろ側の軸受軸7.2の後ろ側の支持部8.2を中空支持体11から遮断するためにも、緩衝リング13は使用される。後ろ側の支持部8.2は、本実施形態では2つのころがり軸受20.1,20.2によって形成されており、両ころがり軸受20.1,20.2は、後ろ側の軸受軸7.2と軸受ブシュ12.2との間に保持されている。軸受ブシュ12.2の周囲には、2つの緩衝リング13が配置されている。これらの緩衝リング13は、中空支持体11の、スピンドル支持体1に直に保持されている中空円筒形の部分内において支持されている。このとき後ろ側の支持部8.2は、中空支持体11の端部に形成されている。後ろ側の軸受軸7.2は、駆動端部で中空支持体11の外側に突出しており、このとき駆動端部はカップリング端部10として形成されている。従ってスピンドル駆動装置は、カップリング端部10を介して駆動軸7に直に連結することができる。
【0039】
巻管を収容および固定するために、チャック3は周囲にクランプ装置4および緊締周壁5を有している。クランプ装置4および緊締周壁5は、従来技術において一般的であるので、ここではさらなる説明は省く。クランプ装置4および緊締周壁5は、例えば国際公開第2011/086142号(WO 2011/086142 A1)に記載の実施形態におけるように構成されていてよい。したがってここでは、引用した刊行物を参照するものとする。
【0040】
運転時において、緊締周壁5の周囲には複数の巻管が相前後して押し嵌められ、かつクランプ装置4によって固定されている。巻管のそれぞれにおいて、糸はパッケージに巻き取られる。そのためにチャック3は、糸を巻き取るためにほぼ一定の周速度が得られるように、駆動軸7を介して駆動される。糸が巻き取られる巻取り速度は、製造プロセスに応じて2000m/分〜6000m/分までの範囲である。パッケージのその都度の直径に関連して、チャックは約2000rpm〜22000rpmの回転数範囲を実行しなくてはならない。巻取り中にチャックにおいて発生する荷重は、ほぼ支持軸受14.1によって受け止められる。荷重は、クランプ装置4および緊締周壁5を備えたチャック3の自重と、緊締周壁5の周囲に保持されたパッケージとによって生ぜしめられる。このとき重心19.1は、チャック3の軸受平面の近くに位置しており、この軸受平面は、
図1において一点鎖線で示され、かつ符号34で示されている。支持軸受14.1は、軸受平面34に配置されている。全重量の導入は、チャック3と前側の軸受軸7.1との間における軸・ハブ結合部15を介して行われる。軸受軸7.1の前側の軸部分の強度を高めるために、駆動軸を太くする別の軸段部18.3が設けられている。この軸段部18.3は、軸・ハブ結合部15に到るまで延びている。
【0041】
チャック3の荷重および振動は、軸・ハブ結合部15を介して前側の軸受軸7.1の自由端部に導入される。このような巻取りスピンドルは、その複雑な構造に基づいて複数の臨界固有振動数を有していて、これらの臨界固有振動数は、励起振動数と重なった場合に共振を惹起することがあるので、支持部8.1は緩衝リング13を介して中空支持体11に対して緩衝されている。このようないわゆる臨界巻取り速度は、許容可能な共振過剰上昇(Resonanzueberhoehung)に関連して、巻取りスピンドルの運転範囲の終端を決定することができる。したがって運転範囲に影響を及ぼすためおよび運転範囲を拡大するために、前側の軸受軸の緩衝作用を強化する必要がある。そのために
図3には、本発明に係る巻取りスピンドルの別の実施形態が概略的に断面図で示されている。
【0042】
図3における巻取りスピンドルの実施形態は、その構造において、
図1に示した上に述べた実施形態とほぼ同一であるので、ここでは相違についてだけ述べ、その他の点については上に述べた記載を参照するものとする。
【0043】
パッケージ重量の増大に連れて高まる、チャック3の静荷重、および同時に増大する、パッケージのアンバランスに起因する動荷重に基づいて、チャック3の確実な駆動を保証するために、駆動軸7は、本実施形態においても前側の軸受軸7.1と後ろ側の軸受軸7.2とによって形成されている。前側の軸受軸7.1は、カップリング9を介して後ろ側の軸受軸7.2に結合されている。カップリング9は、好ましくは緩衝手段を有しており、これによって、ねじりモーメントだけを伝達するが曲げモーメントは伝達しないこと、およびねじり振動を緩衝することができる。
【0044】
本発明に係る巻取りスピンドル2の本実施形態では、駆動軸7に、緩衝軸受21として形成された追加的な緩衝手段が対応配置されている。緩衝軸受21は、前側の軸受軸7.1の、前側の支持部8.1の外側における軸部分に、支持軸受14.1に対して軸方向にずらされて配置されている。緩衝軸受21は、前側の軸受軸7.1の軸端部に対応配置されており、軸・ハブ結合部15の近くに保持されている。このとき緩衝軸受21は、前側の軸受軸7.1と中空支持体11の突出する自由端部との間において延びている。緩衝軸受21は、本実施形態ではころがり軸受21.1と緩衝リング21.2とを有している。ころがり軸受21.1は、ダブルのスピンドル軸受22.1,22.2によって形成されている。スピンドル軸受22.1,22.2は、いわゆる背面組合せ(O-Anordnung)で互いに対して荷重を加えられている。これによって、スピンドル軸受22.1,22.2の間において予荷重を生ぜしめることができ、この予荷重によって、軸受耐用寿命は大幅に延びる。スピンドル軸受22.1,22.2の周囲には、緩衝リング21.2が保持されている。緩衝リング21.2は、その構造において、
図1に示した実施形態の緩衝リング13と同一である。したがって上に述べた記載を参照するものとする。
【0045】
緩衝リング13に比べて緩衝リング21.2は、大幅に小さな半径方向強さを有しており、これによって中空支持体11への緩衝軸受21の軟らかい結合を得ることができる。これにより緩衝軸受21は、軸受軸7.1の周囲における共振の発生時にのみ有効である。
【0046】
緩衝軸受21のスピンドル軸受22.1,22.2は、軸受軸7.1の周囲において別の増大された軸段部18.3に配置されている。軸受軸7.1を太くする軸段部18.3は、軸・ハブ結合部15に到るまで延びている。このとき軸・ハブ結合部15において最大の回転曲げモーメントが生じるので、軸・ハブ結合部15に到るまで軸受軸7.1を太くすることが望まれている。
【0047】
本発明に係る巻取りスピンドルは、特にチャックの公称直径が変わらない状態で、極めて長く突出するチャックが実現できることによって傑出している。前側の支持部の高められた耐荷重によっておよび駆動軸の高められた強度によって、チャック長さが等しい場合には、より大径のパッケージを、またはパッケージ重量が等しい場合にはより多くのパッケージを、チャックの周囲において巻成することができる。したがって本発明に係る巻取りスピンドルは、1つの糸群を平行に複数のパッケージに巻き取るのに特に適している。
【0048】
図4には、本発明に係る巻取りスピンドルの別の実施形態が、概略的に断面図で示されている。
図4に示した巻取りスピンドルの実施形態は、その構造において、
図3に示した実施形態とほぼ同一であるので、ここでは相違点についてだけ説明し、その他の点については、上に述べた記載を参照するものとする。
【0049】
本発明に係る巻取りスピンドルの、
図4に示した実施形態では、チャックの、スピンドル支持体1に対応配置された開放した端部に、追加的な鍔軸受36が形成されている。そのためにチャック3は、開放した端部に、直径拡大部である環状のカラー37を有している。このとき鍔軸受36は、ころがり軸受36.1と緩衝リング36.2とによって形成されている。ころがり軸受36.1は、中空支持体11の周囲に配置されている。ころがり軸受36.1は、チャック3の環状のカラー37に支持された緩衝リング36.2によって取り囲まれている。この緩衝リング36.2は、本実施形態においても同様に、ゴムエレメントを間に挟む2つの金属スリーブによって形成される。
【0050】
鍔軸受36によって、特にパッケージの巻成時におけるチャック3の安定性が改善される。さらに緩衝リング36.2は、巻成されたパッケージによってチャック3に荷重が加えられた場合でも、中空支持体11に対する下降を可能にするという特性、および他方では緩衝作用を保証するという特性を有している。鍔軸受36によって、チャック3における荷重分布に影響を及ぼす追加的な力成分が、チャック3において作用する。これには、前側の軸受軸7.1における支持軸受14.1の位置に影響を及ぼす荷重移動(Lastverschiebung)が関連している。主荷重を支持軸受14.1に残しておくために、チャック3の自由端部に向かって支持軸受14.1の位置をずらすことが必要である。そこで
図4に示した実施形態では、支持軸受14.1は軸受ブシュ12.1の端部に対応配置されている。巻取りスピンドルの、
図3に示した実施形態との直接的な比較から、鍔軸受36に基づく支持軸受14.1の位置変化を認識することができる。その他のすべての部材は、巻取りスピンドルの、
図3および
図4に示した実施形態において、同一に形成されている。
【0051】
図5には、本発明に係る巻取り機の別の実施形態が、概略的に示されている。巻取り機は、長く突出する2つの巻取りスピンドル2.1,2.2を有しており、両巻取りスピンドル2.1,2.2は、スピンドル支持体1に保持されていて、各1つの突出するチャック3を有している。スピンドル支持体1は、機械フレーム24に回転可能に支持された巻取りタレットとして形成されている。巻取りスピンドル2.1,2.2は、
図1または
図3に示した実施形態のうちの1つの実施形態のように構成されている。
【0052】
巻取りスピンドル2.1,2.2に沿って、本実施形態では4つの巻成ユニット25.1〜25.4が延びており、これらの巻成ユニット25.1〜25.4において4つのパッケージ27が互いに並行に巻成される。巻取りスピンドル2.1,2.2には、2つのスピンドルモータ26.1,26.2が対応配置されている。巻成ユニットの数は、織編用糸を巻き取るのかまたは工業用糸を巻き取るのか、製造プロセスに従って決定される。巻成ユニットの数は、本実施形態において一例であり、図示の変化形態では、工業用糸またはカーペット糸の巻取り時に使用することができる。
【0053】
巻成ユニット25.1〜25.4には、圧着ローラ30および綾振り装置29が対応配置されており、このとき綾振り装置29は、各巻成ユニット25.1〜25.4に対して、複数の糸のうちの1つの糸を往復動させる糸ガイド手段をそれぞれ有している。圧着ローラ30は、可動のローラ支持体32に保持されている。糸の走入は、巻成ユニット25.1〜25.4の走入部を形成する各1つのヘッド糸ガイド31を介して案内される。
【0054】
本発明に係る巻取り機は、すべての通常の溶融紡糸プロセスのために、押し出されたばかりの複数の糸を1つの糸群として並行にパッケージに巻き取るのに適している。例えばPOY溶融紡糸プロセス、FDY溶融紡糸プロセスまたはIDY溶融紡糸プロセスにおいて生ぜしめられた合成糸を、複数の糸を備えた1つの糸群において同時にパッケージに巻き取ることができる。しかしながらまた巻取り機は、BCFプロセスのためにも、巻縮された複数の糸をパッケージに巻き取るのに適している。