特許第6761818号(P6761818)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6761818シリコーンゲルでコーティングされた粘着性層構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6761818
(24)【登録日】2020年9月9日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】シリコーンゲルでコーティングされた粘着性層構造体
(51)【国際特許分類】
   A61L 15/00 20060101AFI20200917BHJP
【FI】
   A61L15/00
【請求項の数】20
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-560240(P2017-560240)
(86)(22)【出願日】2016年5月13日
(65)【公表番号】特表2018-515263(P2018-515263A)
(43)【公表日】2018年6月14日
(86)【国際出願番号】EP2016060875
(87)【国際公開番号】WO2016184811
(87)【国際公開日】20161124
【審査請求日】2019年3月18日
(31)【優先権主張番号】102015107743.4
(32)【優先日】2015年5月18日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】516044912
【氏名又は名称】ビーエスエヌ メディカル ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】BSN MEDICAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】カス, ザシャ
(72)【発明者】
【氏名】シューベルト, マルコ ペーター
(72)【発明者】
【氏名】クラウゼ−キョーラ, フェリック
【審査官】 参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−524159(JP,A)
【文献】 特開平10−118174(JP,A)
【文献】 特開2004−123991(JP,A)
【文献】 特表2003−503540(JP,A)
【文献】 特表2015−502988(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0134375(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00
B32B 1/00− 43/00
C09J 1/00− 5/10
C09J 9/00−201/10
C09J 7/00− 7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)多孔質バッキング材からなる第1の層、
b)前記多孔質バッキング材の片側上に、紫外線によって架橋された、アクリル酸コポリマーを含むまたはアクリル酸コポリマーからなる中間層、および
c)前記中間層上に、架橋粘着性シリコーンゲルで作製された層
を含む、シリコーンゲルでコーティングされた粘着性層構造体。
【請求項2】
前記中間層および前記粘着性シリコーンゲルが、前記多孔質バッキング材の片側上のみに存在することを特徴とする、請求項1に記載の粘着性層構造体。
【請求項3】
前記多孔質バッキング材が、不織布材料、布地、編地、発泡材料、およびフィルムからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の粘着性層構造体。
【請求項4】
前記多孔質バッキング材が、天然材料またはプラスチック、特に、ビスコース、レーヨン、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセテート、ポリウレタン、またはそれらの混合物から製造されることを特徴とする、請求項1から3のうちの一項に記載の粘着性層構造体。
【請求項5】
前記架橋された中間層が、10〜500g/m、好ましくは10〜400g/m、より好ましくは10〜300g/m、なおさらに好ましくは10〜200g/m、特に好ましくは10〜100g/m、最も好ましくは33g/mの量で前記多孔質バッキング材上に存在することを特徴とする、請求項1から4のうちの一項に記載の粘着性層構造体。
【請求項6】
前記アクリル酸コポリマーが、アクリル酸、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジオクチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸tert−ブチルおよびそれらの混合物からなる群のモノマーから製造されることを特徴とする、請求項1から5のうちの一項に記載の粘着性層構造体。
【請求項7】
前記多孔質バッキング材の片側が、前記中間層材料で、30〜100%、好ましくは40〜100%、より好ましくは50〜100%、なおさらに好ましくは60〜100%、最も好ましくは70〜100%、特に80〜100%被覆されることを特徴とする、請求項1からのうちの一項に記載の粘着性層構造体。
【請求項8】
前記架橋粘着性シリコーンゲルの層が、10〜500g/m、好ましくは50〜200g/m、最も好ましくは80〜120g/m、特に100g/mの量で前記架橋された中間層上に存在することを特徴とする、請求項1からのうちの一項に記載の粘着性層構造体。
【請求項9】
医療製品、好ましくはロール状プラスター剤またはテープ剤であることを特徴とする、請求項1からのうちの一項に記載の粘着性層構造体。
【請求項10】
請求項1からのうちの一項に記載のシリコーンゲルでコーティングされた粘着性層構造体を製造する方法であって、
a)アクリル酸コポリマーを含むまたはアクリル酸コポリマーからなる中間層材料が多孔質バッキング材に塗布されて、それを部分的にまたは完全に被覆し、
b)前記中間層材料が架橋されるかまたは紫外線によってさらに架橋され、
c)シリコーンゲルが前記架橋された中間層材料に塗布され、
d)前記シリコーンゲルが架橋される、方法。
【請求項11】
ステップa)において、前記中間層材料が前記多孔質バッキング材の片側のみに塗布され、ステップc)において、前記シリコーンゲルが前記中間層材料にのみ塗布され、結果的に、前記多孔質バッキング材の片側が中間層材料およびシリコーンゲルを含まない、請求項10に記載のシリコーンゲルでコーティングされた粘着性層構造体を製造する方法。
【請求項12】
ステップa)において、前記中間層材料が、最初に支持材料に塗布され、次いでこの支持材料から転写コーティングによって前記多孔質バッキング材に塗布されることによって、前記多孔質バッキング材に塗布される、請求項10または11に記載のシリコーンゲルでコーティングされた粘着性層構造体を製造する方法。
【請求項13】
前記中間層材料が、
a1)前記支持材料に塗布される前に、溶媒中、好ましくは、水、ベンジン、またはアセトン中に存在し、
a2)前記中間層材料が前記支持材料に塗布され、
a3)次いで、前記溶媒が完全にまたは部分的に蒸発され、そして、
前記支持材料上に存在する前記中間層材料が、ステップa3)の後で、前記多孔質バッキング材に塗布される前に紫外線によって架橋される、
請求項12に記載のシリコーンゲルでコーティングされた粘着性層構造体を製造する方法。
【請求項14】
前記多孔質バッキング材が、不織布材料、布地、編地、発泡材料、およびフィルムからなる群から選択される、請求項10から13のうちの一項に記載の方法。
【請求項15】
前記多孔質バッキング材が、天然材料またはプラスチック、特に、ビスコース、レーヨン、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセテート、ポリウレタン、またはそれらの混合物から製造されることを特徴とする、請求項10から14のうちの一項に記載の方法。
【請求項16】
前記アクリル酸コポリマーが、アクリル酸、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジオクチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸tert−ブチルおよびそれらの混合物からなる群のモノマーから製造される、請求項10から15のうちの一項に記載の方法。
【請求項17】
前記中間層材料が、10〜500g/m、好ましくは10〜400g/m、より好ましくは10〜300g/m、なおさらに好ましくは10〜200g/m、特に好ましくは10〜100g/m、最も好ましくは33g/mの量で前記多孔質バッキング材に塗布される、請求項10から16のうちの一項に記載の方法。
【請求項18】
前記架橋粘着性シリコーンゲルの層が、10〜500g/m、好ましくは50〜200g/m、より好ましくは80〜120g/m、特に100g/mの量で前記架橋された中間層に塗布される、請求項10から17のうちの一項に記載の方法。
【請求項19】
前記多孔質バッキング材の片側の30〜100%、好ましくは40〜100%、より好ましくは50〜100%、なおさらに好ましくは60〜100%、最も好ましくは70〜100%、特に80〜100%が、前記中間層材料で被覆される、請求項10から18のうちの一項に記載の方法。
【請求項20】
請求項1からのうちの一項に記載のシリコーンゲルでコーティングされた粘着性層構造体であって、医療製品として、医療機器を人間または動物の皮膚に固定するのに使用するための、粘着性層構造体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゲルでコーティングされた粘着性層構造体、それを製造する方法、ならびにその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
シリコーンでコーティングされた粘着性構造体は、それらを医療用途にとって特に興味深いものにする様々な革新的性質を示す。したがって、シリコーンベースの粘着剤(以下、シリコーンゲルと呼ぶ)は、従来のアクリレートの粘着剤よりも皮膚に優しく、快適である。シリコーンゲルは、例えば、容易に取り除くことができ、その際に皮膚細胞および毛髪の剥離が最低限であり、同時に塗布期間全体を通して最適かつ一定の粘着力をもたらすことができる。繰り返し使用することも同様に支障なく可能である。加えて、シリコーンゲルは、構造体中に存在する他の成分、例えばアクリル酸コポリマーに極めて良好な粘着を示す。これによって、皮膚上への移行を減少させるか、または完全に防止することさえ可能であり、それにより粘着剤の残留物を患者の皮膚から取り除くための追加的な清浄ステップを省略することができる。これらの性質によって、シリコーンゲルでコーティングされた粘着性構造体は、薬における使用、中でも皮膚が敏感で弱い患者に対する使用に非常に興味深いものとなる。
【0003】
最適な着用快適性を保証するために、薬に使用される粘着性構造体のバッキング材は、通常、軟性で弾力性のある材料から作られる。粘着性構造体の下にある患者の皮膚に可能な限り良好に酸素または水分を供給するために、多孔質バッキング材は特に有利であり、その理由は、多孔質バッキング材が、粘着性層構造体の下にある患者の皮膚に酸素および/または水分を送ることができるからである。しかし、バッキング材の多孔性によって、シリコーンゲルをベースとする粘着性構造体の製造に問題が生じることが多い。シリコーンゲルは、架橋される前は流動性化合物であり、多孔質バッキング上に直接コーティングされると、それに浸透し、さらには反対側に再び現れることが多く、これは裏抜けと呼ばれている。このことにより、コーティングされた構造体がある程度の粘性を両側に有することとなり、原則的に望ましくない。
【0004】
シリコーンでコーティングされた粘着性構造体は、例えば米国特許出願公開第2006/0154053(A1)号から公知であり、ここでは多孔質バッキング(ストッキング)は、シリコーンまたはアクリレートで作製された粘着性層を有するものとして開示されている。多孔質バッキング(ストッキング)とシリコーンまたはアクリレートで作製された粘着層の間に、シリコーンエラストマーで作製された中間層が追加的に存在する。
【0005】
シリコーンでコーティングされた多孔質バッキングは、同様に米国特許出願公開第2010/0267302(A1)号から公知である。
【0006】
さらに、シリコーンでコーティングされた、中間層を有する支持体が、米国特許出願公開第2007/0128263(A1)号から公知である。しかしながら、支持体の材料および形状は不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0154053(A1)号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2010/0267302(A1)号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/0128263(A1)号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の詳細
本発明の目的は、多孔質バッキング材と、該多孔質バッキング材の片面上のみにシリコーンゲルで作製された粘着性層とを含む粘着性層構造体であって、シリコーンゲルが多孔質バッキング材に浸透または裏抜けしないようにされた粘着性層構造体を提供することである。加えて、望ましくない移行を減少させるか、または理想的には完全に移行しないようにするために、粘着性シリコーンゲル層が層構造体に良好に結合することを保証するものである。さらに、そのような粘着性構造体を製造する方法が提供される。
【0009】
これらの目的は、シリコーンゲルでコーティングされた粘着性層構造体であって、多孔質バッキング材からなる第1の層、多孔質バッキング材の片側上のみに架橋または非架橋の中間層、および中間層上に架橋粘着性シリコーンゲルで作製された層を含む、粘着性層構造体によって達成される。さらに、これらの目的は、シリコーンでコーティングされた粘着性層構造体を製造する方法であって、中間層材料が多孔質バッキング材に塗布されて、それを部分的または完全に被覆し、中間層材料が任意選択で架橋され、シリコーンゲルが架橋または非架橋の中間層材料に塗布されて、次いでシリコーンゲルが架橋される、方法によって達成される。中間層は、シリコーンゲルのためのバリア層としての機能を果たし、シリコーンゲルが多孔質バッキング材に浸透または裏抜けしないようにする。加えて、中間層は、シリコーンゲルを層構造体に良好に結合させる。
【0010】
本発明による層構造体は、好ましくは医療製品、特に好ましくはロール状プラスター剤、特に、医療機器を人間または動物の皮膚に固定するためのロール状プラスター剤である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
粘着性層構造体、ならびにそれの製造および使用を、それらの様々な実施形態を参照しながら以下にさらに詳細に説明する。
【0012】
シリコーンでコーティングされた粘着性層構造体
本発明によれば、粘着性層構造体は、多孔質バッキング材からなる第1の層、多孔質バッキング材の片側上に架橋または非架橋の中間層、および中間層上に架橋粘着性シリコーンゲルで作製された層を含む。
【0013】
多孔質バッキング材
可能な限り最良な着用快適性を容易にするために、本発明によれば、バッキング材は、軟性で弾力性のある材料から作られる。
【0014】
バッキング材は、天然材料またはプラスチックから製造することができる。特に、ビスコース、レーヨン、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセテート、ポリウレタン、またはそれらの混合物がここでは考慮に入れられる。バッキング材は、好ましくはポリエステルから作られる。
【0015】
粘着性層構造体を通して酸素および水分を人間または動物の皮膚に可能な限り最良に送ることを保証するために、本発明によるバッキング材は多孔質である。
【0016】
ある実施形態によれば、上記の材料は、不織布材料、布地、編地、発泡材料、またはフィルムの形態で存在する。上記の材料は、好ましくは不織布材料の形態で存在する。
【0017】
中間層材料
粘着性シリコーンゲルが多孔質バッキングに浸透または裏抜けしないようにするために、多孔質バッキングとシリコーンゲル層の間に中間層が存在する。中間層材料は、好ましくは、多孔質バッキング材のシリコーンゲルに面する側面上のみに存在し、多孔質バッキング材の反対側は中間層材料を含まない。中間層は、架橋された状態で存在することも、架橋されていない状態で存在することもできる。
【0018】
ある実施形態によれば、多孔質バッキング材は、架橋または非架橋の中間層で完全に被覆される。
【0019】
さらなる実施形態によれば、多孔質バッキング材は、架橋または非架橋の中間層で部分的に被覆される。部分的とは、本発明の枠組みの中では、中間層による多孔質バッキング材の被覆が、完全ではない任意に均一に分布した被覆であることを意味する。
【0020】
中間層材料で被覆された多孔質バッキング材の側面は、中間層材料で、30〜100%、好ましくは40〜100%、より好ましくは50〜100%、なおさらに好ましくは60〜100%、最も好ましくは70〜100%、特に80〜100%の範囲内で被覆される。
【0021】
本発明によれば、架橋または非架橋の中間層は、10〜500g/m、好ましくは10〜400g/m、より好ましくは10〜300g/m、なおさらに好ましくは10〜200g/m、特に好ましくは10〜100g/m、最も好ましくは33g/mの量で多孔質バッキング材上に存在する。
【0022】
本発明による中間層が存在すると、中間層材料が多孔質バッキング材を部分的にのみ被覆するときであっても、シリコーンゲルが多孔質バッキング材の被覆されていない領域内に流動して多孔質バッキング材に至ることが可能になる前に、架橋によってシリコーンゲルの流動性が止まるために、粘着性シリコーンゲルが浸透または裏抜けしないようにすることができる。
【0023】
ある実施形態によれば、中間層材料はアクリル酸コポリマーを含む。好ましい実施形態によれば、中間層はアクリル酸コポリマーからなる。より好ましい実施形態によれば、アクリル酸コポリマーは、アクリル酸、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジオクチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸tert−ブチル、およびそれらの混合物からなる群のモノマーから製造される。
【0024】
シリコーンゲル
粘着性層構造体は、架橋または非架橋の中間層に塗布された粘着性シリコーンゲルをさらに含む。中間層材料および粘着性シリコーンゲルは、好ましくは多孔質バッキング材の片側上のみに存在し、多孔質バッキング材の反対側は中間層材料および粘着性シリコーンゲルを含まない。
【0025】
シリコーンゲルとは、本発明の枠組みの中で、少なくとも1種のシリコーン母材と触媒とから構成されているシリコーン材料を意味する。シリコーン母材とは、本発明の枠組みの中で、架橋されていないまたはわずかに架橋された状態のシリコーン材料であって、少なくとも1種の触媒との混合物としてシリコーンゲルを生じる材料を意味する。シリコーン母材は、モノマーまたはポリマーの形態で存在することができる。触媒は、シリコーン母材を架橋する役割を果たす。
【0026】
本発明によるシリコーン母材は、例えば、ビニル官能性ポリジメチルシロキサンまたは水素官能性シロキサン、例えばヒドロメチルシロキサンである。触媒は、シリコーンゲルを架橋するために使用される、当業者に公知の通常の触媒から選択される。触媒は、好ましくは貴金属を含む。触媒は、特に好ましくは、白金、パラジウム、またはニッケルを含み、特に白金を含む。特に、いわゆるKarstedt触媒が使用される。シリコーン母材と触媒とを含む市販のシリコーン系であって、シリコーン母材および触媒が空間的に互いに別々に存在し、結果的に望ましくない架橋が始まらないようにしたものを使用することが好ましい。シリコーンゲルが中間層に塗布される直前まで、成分は互いに混合されない。本発明によって使用されるシリコーン系は、例えば、NuSil Technology LLCのMED 6342シリコーン系、またはWacker Chemie AGのSilpuran 2110 A/Bシリコーン系である。
【0027】
ある実施形態によれば、粘着性シリコーンゲルは、10〜500g/m、好ましくは50〜200g/m、最も好ましくは80〜120g/m、特に100g/mの量で、架橋または非架橋の中間層上に存在する。
【0028】
本発明による、シリコーンでコーティングされた粘着性層構造体は、好ましくは医療製品、例えばロール状プラスター剤またはテープ剤などである。
【0029】
本発明による、シリコーンでコーティングされた粘着性層構造体は、特に好ましくは人間または動物の皮膚に固定するために使用される。それは、例えば、医療機器を人間または動物の皮膚に固定する役割を果たすことができる。
【0030】
方法
本発明はさらに、本発明による粘着性層構造体を製造する方法に関する。
【0031】
本発明によれば、最初に中間層材料が多孔質バッキング材に塗布される。中間層材料は、好ましくは多孔質バッキング材の片側のみに塗布され、ここでは、多孔質バッキング材の反対側は中間層材料を含まない。
【0032】
ある実施形態によれば、中間層材料が多孔質バッキング材に塗布されて、それを完全に被覆する。別の実施形態によれば、中間層材料が多孔質バッキング材に塗布されて、それを部分的に被覆する。任意選択で、中間層材料は、多孔質バッキング材に塗布された後で架橋される。次いで、シリコーンゲルが架橋または非架橋の中間層材料に塗布される。シリコーンゲルは、中間層材料を含まない多孔質バッキング材の反対側には塗布されずに中間層材料のみに塗布され、結果的に多孔質バッキング材の片側が中間層材料およびシリコーンゲルを含まないことが好ましい。最後に、シリコーンゲルが架橋される。
【0033】
中間層の塗布
ある実施形態によれば、架橋または非架橋形態の中間層材料が多孔質バッキング材に直接的に塗布されて、それを完全にまたは部分的に被覆し、次いで任意選択で(さらに)架橋される。
【0034】
好ましい実施形態によれば、中間層材料は多孔質バッキングに直ちに塗布されず、最初に支持材料、例えばシリコン処理した剥離ライナーに塗布される。次いで、中間層材料は、転写コーティング、例えばラミネート加工によって、この支持材料から多孔質バッキングに塗布されて、それを完全にまたは部分的に被覆する。
【0035】
任意選択で、中間層材料は、多孔質バッキング材に塗布された後で、シリコーンゲルが中間層に塗布される前に架橋される。
【0036】
ある実施形態によれば、中間層材料は、熱的に架橋される。本発明によれば、これは、必要とされるエネルギーが熱によって(熱的に)供給される任意の架橋を含む。したがって、本発明の枠組みの中の熱架橋は、周囲温度、例えば室温での架橋も含む。架橋期間は、供給される熱エネルギー(よって温度)に相反的に依存する。架橋温度が高くなるほど架橋期間が短くなり、逆もまた同様である。
【0037】
別の実施形態によれば、中間層材料は、紫外線によって架橋される。本発明によれば、これは、必要とされるエネルギーが紫外線によって提供される任意の架橋を含む。
【0038】
熱架橋と紫外線架橋との混合も同様に本発明の枠組みの範囲内である。よって、例えば、架橋を上昇した温度で実施すること、および中間層を紫外線で追加的に照射することが可能である。
【0039】
中間層材料は、好ましくは、紫外線によって多孔質バッキング材を通して架橋される。よって、紫外線は中間層材料に直接付与されるのではなく、多孔質バッキング材に付与される。このようにすると、多孔質バッキング材と中間層の間に特に良好な結合が保証される。
【0040】
転写コーティングの場合、中間層材料は、支持材料に塗布される前に、好ましくは溶媒に、好ましくは、水、ベンジン、またはアセトンに溶解されて存在する。この場合、溶媒に溶解させた中間層材料は支持材料に塗布され、次いで溶媒が除去され、好ましくは蒸発される。これは、例えば180℃の循環式エアーフローテーションドライヤー内で実施され得る。
【0041】
好ましい実施形態によれば、支持材料上に存在する中間層材料は、架橋された後で、転写コーティングによって多孔質バッキング材に塗布されて、それを完全にまたは部分的に被覆する。架橋は、熱的にまたは紫外線によって実施される。熱架橋と紫外線架橋の混合も同様に本発明の枠組みの範囲内である。
【0042】
中間層材料は一般に、10〜500g/m、好ましくは10〜400g/m、より好ましくは10〜300g/m、なおさらに好ましくは10〜200g/m、特に好ましくは10〜100g/m、最も好ましくは33g/mの量で多孔質バッキング材に塗布される。ここでは、多孔質バッキング材の片側の30〜100%、好ましくは40〜100%、より好ましくは50〜100%、なおさらに好ましくは60〜100%、最も好ましくは70〜100%、特に80〜100%が、中間層材料で被覆される。
【0043】
シリコーンゲル層の架橋または非架橋の中間層への塗布
中間層は多孔質バッキング材に塗布され、任意選択で架橋された後、粘着性シリコーンゲルが架橋または非架橋の中間層材料に塗布される。シリコーンゲルは、例えばフィルムアプリケーターを用いて塗布され得る。シリコーンゲルは、中間層材料を含まない多孔質バッキング材の反対側には塗布されずに中間層材料のみに塗布され、結果的に多孔質バッキング材の片側が中間層材料およびシリコーンゲルを含まないことが好ましい。
【0044】
粘着性シリコーンゲルは、10〜500g/m、好ましくは50〜200g/m、最も好ましくは80〜120g/m、特に100g/mの量で、架橋または非架橋の中間層に塗布される。
【0045】
シリコーンゲルは、塗布後に架橋される。好ましい実施形態によれば、シリコーンゲルは、熱的に架橋される。これは、例えば、層構造体を誘導してトンネル乾燥機を通すことによって行うことができる。当業者は、それぞれのシリコーンゲルに応じた的確な架橋温度および期間を設定する。
【0046】
シリコーンゲルは、層構造体が患者の皮膚に良好に粘着し、皮膚から容易に取り除くことができ、その際に皮膚細胞および毛髪の剥離が最低限であり、塗布期間全体を通して最適かつ一定の粘着力を示すと同時に、皮膚に優しく快適であるように設計されることが好ましい。さらに、技術的パラメーターは、シリコーンゲルで作製された層がその下にある中間層に極めて良好に固着し、結果的に皮膚上への移行が減少され得るように、理想的には完全に排除され得るように選択される。
【0047】
シリコーンゲルは、好ましくは中間層に塗布されるほんの少し前に、シリコーン母材を触媒と混合することによって形成され、次いで所望の量で中間層に塗布され、続いて好ましくは熱的に、架橋される。成分の混合比はそれぞれのシリコーン母材および触媒に応じて決まり、その使用に応じて個々に設定され得る。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
弾力性のある多孔質ポリエステル不織布材料(DuPontのSontara(登録商標))をバッキング材として選択する。バッキング材を、転写コーティングによって、アクリル酸コポリマーで作製された感圧性粘着剤(HenkelのDuro Tak 1154)でコーティングする。転写コーティングのために、最初に、シリコン処理した剥離ライナー(MondiのG−ライナーシリコーン)にフィルムアプリケーターを用いて33g/mのアクリレート粘着剤をコーティングする。コーティングされた剥離ライナーを180℃の循環式エアーフローテーションドライヤー内で乾燥させ、次いで強度3.3mJ/cmの紫外線を照射し、それによって架橋する。ここでは、粘着剤側に直接照射する。次いで、アクリレート化合物を剥離ライナーから転写コーティングによってポリエステル不織布材料に塗布する。このように形成した、コーティングされたポリエステル不織布材料を、再び搬送して照射室を通し、強度265mJ/cmの紫外光を照射する。ここでは、バッキング側を照射し、よって粘着剤はバッキングを通して架橋される。次いで、コーティングされた不織布材料を、二成分シリコーンゲル(Wacker Chemie AGのSilpuran 2110 A/B)でコーティングする。ここでは、シリコーンゲルを、既に存在する架橋アクリレート層に塗布する。シリコーンゲルは、フィルムアプリケーターを用いて、塗布重量100g/mで塗布する。コーティングされた不織布材料を、5m/分で誘導して150℃のトンネル乾燥機を通し、それによってシリコーンゲルを架橋する。最後にコーティングされた不織布材料をシリコン処理した剥離ライナーで被覆する。
【0049】
(実施例2)
粘着性層構造体を製造するために、弾力性のある多孔質ポリエステル不織布材料(DuPontのSontara(登録商標))をバッキング材として選択する。バッキング材を、アクリル酸コポリマーで作製された感圧性粘着剤(BASF AGのacResin A 260 UV)で直接コーティングする。この粘着剤は、熱溶融型粘着剤である。これを最初にドラムメルター内で130℃の温度で液化し、スロットダイを活用して塗布量33g/mでポリエステル不織布材料に直接塗布する。その後の乾燥は省略した。粘着剤を架橋するために、実施例1に述べたようにコーティングされた不織布材料に紫外光を照射する。次いで、コーティングされた不織布材料を、二成分シリコーンゲル(Wacker Chemie AGのSilpuran 2110 A/B)でコーティングする。ここでは、シリコーンゲルは、既に存在するアクリレート層に塗布する。シリコーンゲルは、フィルムアプリケーターを用いて100g/mの塗布重量で塗布する。コーティングされた不織布材料を、5m/分で誘導して150℃のトンネル乾燥機を通し、それによってシリコーンゲルを架橋する。最後に、コーティングされた不織布材料をシリコン処理した剥離ライナーで被覆する。
一実施形態において、例えば、以下の項目が提供される。
(項目1)
a)多孔質バッキング材からなる第1の層、
b)前記多孔質バッキング材の片側上に、架橋または非架橋の中間層、および
c)前記中間層上に、架橋粘着性シリコーンゲルで作製された層
を含む、シリコーンゲルでコーティングされた粘着性層構造体。
(項目2)
前記中間層および前記粘着性シリコーンゲルが、前記多孔質バッキング材の片側上のみに存在することを特徴とする、項目1に記載の粘着性層構造体。
(項目3)
前記多孔質バッキング材が、不織布材料、布地、編地、発泡材料、およびフィルムからなる群から選択されることを特徴とする、先行する項目の一項に記載の粘着性層構造体。
(項目4)
前記多孔質バッキング材が、天然材料またはプラスチック、特に、ビスコース、レーヨン、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセテート、ポリウレタン、またはそれらの混合物から製造されることを特徴とする、先行する項目の一項に記載の粘着性層構造体。
(項目5)
前記架橋または非架橋の中間層が、10〜500g/m、好ましくは10〜400g/m、より好ましくは10〜300g/m、なおさらに好ましくは10〜200g/m、特に好ましくは10〜100g/m、最も好ましくは33g/mの量で前記多孔質バッキング材上に存在することを特徴とする、先行する項目の一項に記載の粘着性層構造体。
(項目6)
前記架橋または非架橋の中間層が、アクリル酸コポリマーを含むまたはアクリル酸コポリマーからなることを特徴とする、先行する項目の一項に記載の粘着性層構造体。
(項目7)
前記アクリル酸コポリマーが、アクリル酸、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジオクチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸tert−ブチルおよびそれらの混合物からなる群のモノマーから製造されることを特徴とする、項目6に記載の粘着性層構造体。
(項目8)
前記多孔質バッキング材の片側が、前記中間層材料で、30〜100%、好ましくは40〜100%、より好ましくは50〜100%、なおさらに好ましくは60〜100%、最も好ましくは70〜100%、特に80〜100%被覆されることを特徴とする、先行する項目の一項に記載の粘着性層構造体。
(項目9)
前記架橋粘着性シリコーンゲルの層が、10〜500g/m、好ましくは50〜200g/m、最も好ましくは80〜120g/m、特に100g/mの量で前記架橋または非架橋の中間層上に存在することを特徴とする、先行する項目の一項に記載の粘着性層構造体。
(項目10)
医療製品、好ましくはロール状プラスター剤またはテープ剤であることを特徴とする、先行する項目の一項に記載の粘着性層構造体。
(項目11)
先行する項目の一項に記載のシリコーンゲルでコーティングされた粘着性層構造体を製造する方法であって、
a)中間層材料が多孔質バッキング材に塗布されて、それを部分的にまたは完全に被覆し、
b)前記中間層材料が任意選択で架橋され、
c)シリコーンゲルが前記架橋または非架橋の中間層材料に塗布され、
d)前記シリコーンゲルが架橋される、方法。
(項目12)
ステップa)において、前記中間層材料が前記多孔質バッキング材の片側のみに塗布され、ステップc)において、前記シリコーンゲルが前記中間層材料にのみ塗布され、結果的に、前記多孔質バッキング材の片側が中間層材料およびシリコーンゲルを含まない、項目11に記載のシリコーンゲルでコーティングされた粘着性層構造体を製造する方法。
(項目13)
ステップa)において、前記中間層材料が、最初に支持材料に塗布され、次いでこの支持材料から転写コーティングによって前記多孔質バッキング材に塗布されることによって、前記多孔質バッキング材に塗布される、項目11または12に記載のシリコーンゲルでコーティングされた粘着性層構造体を製造する方法。
(項目14)
前記中間層材料が、
a1)前記支持材料に塗布される前に、溶媒中、好ましくは、水、ベンジン、またはアセトン中に存在し、
a2)前記中間層材料が前記支持材料に塗布され、
a3)次いで、前記溶媒が完全にまたは部分的に蒸発される、
項目13に記載のシリコーンゲルでコーティングされた粘着性層構造体を製造する方法。
(項目15)
前記支持材料上に存在する前記中間層材料が、ステップa3)の後で、前記多孔質バッキング材に塗布される前に架橋される、項目14に記載のシリコーンゲルでコーティングされた粘着性層構造体を製造する方法。
(項目16)
前記多孔質バッキング材が、不織布材料、布地、編地、発泡材料、およびフィルムからなる群から選択される、項目11から15までの一項に記載の方法。
(項目17)
前記多孔質バッキング材が、天然材料またはプラスチック、特に、ビスコース、レーヨン、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセテート、ポリウレタン、またはそれらの混合物から製造されることを特徴とする、項目11から16までの一項に記載の方法。
(項目18)
前記中間層材料が、アクリル酸コポリマーを含むまたはアクリル酸コポリマーからなる、項目11から17までの一項に記載の方法。
(項目19)
前記アクリル酸コポリマーが、アクリル酸、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジオクチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸tert−ブチルおよびそれらの混合物からなる群のモノマーから製造される、項目18に記載の方法。
(項目20)
前記中間層材料が、10〜500g/m、好ましくは10〜400g/m、より好ましくは10〜300g/m、なおさらに好ましくは10〜200g/m、特に好ましくは10〜100g/m、最も好ましくは33g/mの量で前記多孔質バッキング材に塗布される、項目11から19までの一項に記載の方法。
(項目21)
前記架橋粘着性シリコーンゲルの層が、10〜500g/m、好ましくは50〜200g/m、より好ましくは80〜120g/m、特に100g/mの量で前記架橋または非架橋の中間層に塗布される、項目11から20までの一項に記載の方法。
(項目22)
前記多孔質バッキング材の片側の30〜100%、好ましくは40〜100%、より好ましくは50〜100%、なおさらに好ましくは60〜100%、最も好ましくは70〜100%、特に80〜100%が、前記中間層材料で被覆される、項目11から21までの一項に記載の方法。
(項目23)
項目1から10までの一項に記載のシリコーンゲルでコーティングされた粘着性層構造体の医療製品としての使用であって、好ましくは人間または動物の皮膚に固定するための、特に好ましくは医療機器を人間または動物の皮膚に固定するための、医療製品としての使用。