【文献】
Biochimie,2019年 1月28日,Vol. 158,pp. 246-256
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガンを治療するためにはガン幹細胞の増殖を阻害することが有効である。そこで、抗Nodal抗体又は抗TGF−β受容体抗体が、ガン幹細胞の増殖を阻害するために有効であると考えられる。しかし、Nodal又はTGF−β受容体は、ガン幹細胞以外の生命現象に広く関連する分子であり、これらに結合する抗体が重大な副作用を生じさせる懸念がある。また、Nodal又はTGF−β受容体の調製は困難であるため、抗Nodal抗体又は抗TGF−β受容体抗体を製造するための抗原の入手も困難である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記する課題を検討すべく、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、ヒトCrioto−1に対して優れた親和性を示す、ヒト由来抗ヒトCripto−1抗体を製造した。
【0009】
本発明は、斯かる知見に基づいて完成されたものであり、以下に示す態様の発明を広く包含する。
【0010】
I.抗体
I―1 ヒトCripto−1の細胞外ドメインを特異的に認識する、ヒト由来抗ヒトCripto−1モノクローナル抗体であって、
(A) 配列番号1に示すアミノ酸配列、
(B) (A)のアミノ酸配列において、1〜3個のアミノ酸残基が、置換、欠失、若しくは付加されたアミノ酸配列、
(C) 配列番号2に示すアミノ酸配列、及び
(D) (C)のアミノ酸配列において、1〜3個のアミノ酸残基が、置換、欠失、若しくは付加されたアミノ酸配列、
の何れかに示すアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、
(E) 配列番号3に示すアミノ酸配列、又は
(F) (E)のアミノ酸配列において、1〜3個のアミノ酸残基が、置換、欠失、若しくは付加されたアミノ酸配列
(G) 配列番号4に示すアミノ酸配列、及び
(H) (G)のアミノ酸配列において、1〜3個のアミノ酸残基が、置換、欠失、若しくは付加されたアミノ酸配列、
の何れかに示すアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、
(I) 配列番号7に示すアミノ酸配列、又は
(J) (I)のアミノ酸配列において、1〜3個のアミノ酸残基が、置換、欠失、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、並びに
(K) 配列番号8に示すアミノ酸配列、又は
(L) (K)のアミノ酸配列において、1〜3個のアミノ酸残基が、置換、欠失、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、
からなる群より選択される少なくとも一つのCDRを含有する抗体。
【0011】
I―2 前記重鎖CDR1及び前記重鎖CDR2並びに/又は前記軽鎖CDR1及び前記軽鎖CDR2を含有する、I−1に記載する抗体。
【0012】
I−3 更に、
(M) 配列番号5に示すアミノ酸配列、若しくは
(N) (N)のアミノ酸配列において、1〜3個のアミノ酸残基が、置換、欠失、或いは付加されたアミノ酸配列からなる重鎖CDR3及び/又は
(O) 配列番号9に示すアミノ酸配列、若しくは
(P) (O)のアミノ酸配列において、1〜3個のアミノ酸残基が、置換、欠失、或いは付加されたアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3
を含有する抗体である、I−1又はI−2に記載する抗体。
【0013】
I−4 (Q) 配列番号6に示すアミノ酸配列、若しくは
(R) (Q)のアミノ酸配列において、1〜50個のアミノ酸残基が、置換、欠失、或いは付加されたアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び/又は
(S) 配列番号10に示すアミノ酸配列、若しくは
(T) (S)のアミノ酸配列において、1〜50個のアミノ酸残基が、置換、欠失、或いは付加されたアミノ酸配列からなる
軽鎖可変領域を含有する、I−1〜I−3の何れかに記載する抗体。
【0014】
I−5 Fv、scFv、ディアボディ、トリアボディ、テトラボディ、又はこれらを組み合わせた構造を有する抗体である、I−1〜I−4の何れかに記載する抗体。
【0015】
I−6 定常領域を含む抗体である、I−1〜I−5の何れかに記載する抗体。
【0016】
I−7 イムノグロブリン、Fab、F(ab’)
2、ミニボディ、scFv−Fc、又はこれらを組み合わせた構造を有する抗体である、I−1〜I−6に記載する抗体。
【0017】
I−8 細胞障害活性を有する抗体である、I−1〜I−7の何れかに記載する抗体。
【0018】
I−9 細胞障害活性が、ADCC活性、CDC活性、及びADCPの何れかの活性である、I−8に記載する抗体。
【0019】
I−10 多重特異性抗体である、I−1〜I−9の何れかに記載する抗体。
【0020】
I−11 サイトトキシンが結合する抗体である、I−1〜I−10の何れかに記載する抗体。
【0021】
II.ポリヌクレオチド
II−1 上記I−1〜I−11の何れかに記載する抗体をコードするポリヌクレオチド。
【0022】
III.細胞
III−1 上記I−1〜I−11の何れかに記載する抗体を産生する細胞。
【0023】
III−2 上記II−1に記載するポリヌクレオチドを保持する細胞。
【0024】
IV.飲食品組成物
IV―1 上記I―1〜I―11の何れかに記載する抗体を含有する飲食品組成物。
【0025】
IV−2 ガン幹細胞の増殖を阻害するために使用される、上記IV−1に記載する飲食品組成物。
【0026】
IV―3 ガンの予防及び/又は治療のための、上記IV―1又はIV−2に記載する飲食品組成物。
【0027】
V.医薬組成物
V―1 上記I―1〜I―11の何れかに記載する抗体を含有する医薬組成物。
【0028】
V−2 ガン幹細胞の増殖を阻害するために使用される、上記V−1に記載する医薬組成物。
【0029】
V―3 ガンの予防及び/又は治療のための、上記V―1又はV−2に記載する医薬組成物。
【0030】
VI.予防及び/又は治療方法
VI―1 ガンの罹患に対して予防を所望する生体に、上記I−1〜I〜11の何れかに記載する抗体を投与する工程を含む、ガンの予防方法。
【0031】
VI―2 ガンに罹患した生体に、上記I−1〜I〜11の何れかに記載する抗体を投与する工程を含む、ガンの治療方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明の抗体は、ヒトCripto−1の細胞外ドメインを特異的に認識することができる。このため、ガン幹細胞の自己増殖の阻害のために有用である。
【0033】
ガン細胞は、ガン幹細胞から分化するので、ガン幹細胞の自己増殖を阻害することにより、ガンを治療することができる。このような効果は、ガン細胞を分化させる基となるガン幹細胞への誘導を阻害することで奏される効果であることから、ガンの根治も期待できる効果であると言える。また、このようなメカニズムに鑑みると、本発明の抗体は、ガン細胞を発生させない効果、すなわち、ガンの予防効果を発揮する。これらの効果を期待して、本発明の抗体を、飲食品又は医薬の分野に採用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明について、更に詳細に説明する。以下の説明にて使用する用語「含む」又は「含有する」は、「本質的にからなる」及び、「からなる」と意味を包含する。なお、用語「質量」は、「重量」と読み替えることができる。
【0036】
1.抗体
本発明の抗体は、ヒト由来であり、且つ、ヒトCripto−1の細胞外領域を特異的に認識するモノクローナル抗体である。本発明の抗体がヒトCripto−1を特異的に認識することは、ヒトCripto−1のホモログ又はオルソログがヒトCripto−1と同一の系内に存在する状況下において、本発明の抗体が、ヒトCripto−1のホモログ又はオルソログを認識しないこと(ヒトCripto−1を選択的に認識すること)を意味しているのではなく、これらのホモログ又はオルソログより、ヒトCripto−1を、より強く認識すること、または、これらのホモログ又はオルソログに対する親和性より、ヒトCripto−1に対する親和性のほうが高いことを意味する。したがって、本発明にて使用する「特異的」との用語は、「選択的」との意味とは全く異なって理解される。
【0037】
本発明の抗体は、以下に詳述するアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、重鎖CDR2、軽鎖CDR1、及び軽鎖CDR2からなる群より選択される少なくとも1つのCDRを含有する抗体である。
【0038】
・重鎖CDR1
本発明の抗体に含有される重鎖CDR1は、以下の(A)〜(D)の何れかに示すアミノ酸配列からなる。
【0039】
(A)配列番号1に示すアミノ酸配列。
(B) (A)のアミノ酸配列において、1〜3個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列。
(C)配列番号2に示すアミノ酸配列。
(D) (C)のアミノ酸配列において、1〜3個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列。
【0040】
上記する(B)又は(D)の、欠失、置換、又は付加されるアミノ酸残基数は、ヒトCripto−1の細胞外ドメインを特異的に認識する効果を発揮する範囲に限り、特に限定されない。上記する置換とは、保存的な置換であることが好ましい。
【0041】
用語「保存的な置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ−分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0042】
・重鎖CDR2
本発明の抗体に含有される重鎖CDR2は、以下の(E)〜(H)の何れかに示すアミノ酸配列からなる。
【0043】
(E) 配列番号3に示すアミノ酸配列。
(F) (E)のアミノ酸配列において、1〜3個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列。
(G) 配列番号4に示すアミノ酸配列。
(H) (G)のアミノ酸配列において、1〜3個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列。
【0044】
上記する(F)又は(H)の、欠失、置換、又は付加されるアミノ酸残基数は、ヒトCripto−1の細胞外ドメインを特異的に認識する効果を発揮する範囲に限り、特に限定されない。上記する置換とは、保存的な置換であることが好ましい。
【0045】
・軽鎖CDR1
本発明の抗体に含有される軽鎖CDR1は、以下の(I)又は(J)に示すアミノ酸配列からなる。
【0046】
(I) 配列番号7に示すアミノ酸配列。
(J) (I)のアミノ酸配列において、1〜3個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列。
【0047】
上記する(J)の、欠失、置換、若しくは付加されるアミノ酸残基数は、ヒトCripto−1の細胞外ドメインを特異的に認識する効果を発揮する範囲に限り、特に限定されない。上記する置換とは、保存的な置換であることが好ましい。
【0048】
・軽鎖CDR2
本発明の抗体に含有される軽鎖CDR2は、以下の(K)又は(L)に示すアミノ酸配列からなる。
【0049】
(K) 配列番号8に示すアミノ酸配列。
(L) (L)のアミノ酸配列において、1〜3個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列。
【0050】
上記する(L)の欠失、置換、若しくは付加されるアミノ酸残基数は、ヒトCripto−1の細胞外ドメインを特異的に認識する効果を発揮する範囲に限り、特に限定されない。上記する置換とは、保存的な置換であることが好ましい。
【0051】
本発明の抗体のより好ましい態様として、上記する抗体に、重鎖CDR3、軽鎖CDR3、又は重鎖CDR3及び軽鎖CDR3を含有する態様を挙げることができる。このような重鎖CDR3は、以下の(M)又は(N)に示すアミノ酸配列からなる。
【0052】
(M) 配列番号5に示すアミノ酸配列。
(N) (M)のアミノ酸配列において、1〜3個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列。
【0053】
上記する(N)の欠失、置換、若しくは付加されるアミノ酸残基数は、ヒトCripto−1の細胞外ドメインを特異的に認識する効果を発揮する範囲に限り、特に限定されない。上記する置換とは、保存的な置換であることが好ましい。
【0054】
また、上記する軽鎖CDR3は、以下の(O)又は(P)に示すアミノ酸配列からなる。
【0055】
(O) 配列番号9に示すアミノ酸配列。
(P) (O)のアミノ酸配列において、1〜3個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列。
【0056】
上記する(P)の欠失、置換、若しくは付加されるアミノ酸残基数は、ヒトCripto−1の細胞外ドメインを特異的に認識する効果を発揮する範囲に限り、特に限定されない。また、置換とは、保存的な置換であることが好ましい。
【0057】
本発明の抗体の更に好ましい態様として、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、又は重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含有する態様を挙げることができる。このような重鎖可変領域は、以下の(Q)又は(R)に示すアミノ酸配列からなる。
【0058】
(Q) 配列番号6からなるアミノ酸配列。
(R) (Q)に示すアミノ酸配列において、1〜50個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列。
【0059】
上記する(R)の欠失、置換、若しくは付加されるアミノ酸残基数は、ヒトCripto−1の細胞外ドメインを特異的に認識する効果を発揮する範囲に限り、特に限定されない。例えば、1〜45個が好ましく、より好ましくは1〜40個、1〜35個、1〜30個、1〜25個、1〜20個、1〜19個、1〜18個、1〜17個、1〜16個、1〜15個、1〜14個、1〜13個、1〜12個、1〜11個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個、1〜5個、1〜4個、1〜3個であり、1〜2個が最も好ましい。
【0060】
なお、このように重鎖可変領域において欠失、置換、若しくは付加されるアミノ酸残基は、FRのアミノ酸残基であることが好ましい。上記する置換とは、保存的な置換であることが好ましい。
【0061】
上記する軽鎖可変領域は、以下の(S)又は(T)に示すアミノ酸配列からなる。
【0062】
(S) 配列番号10に示すアミノ酸配列。
(T) (O)のアミノ酸配列において、1〜50個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列。
【0063】
上記する(P)の欠失、置換、若しくは付加されるアミノ酸残基数は、ヒトCripto−1の細胞外ドメインを特異的に認識する効果を発揮する範囲に限り、特に限定されない。例えば、1〜45個が好ましく、より好ましくは1〜40個、1〜35個、1〜30個、1〜25個、1〜20個、1〜19個、1〜18個、1〜17個、1〜16個、1〜15個、1〜14個、1〜13個、1〜12個、1〜11個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個、1〜5個、1〜4個、1〜3個であり、1〜2個が最も好ましい。
【0064】
なお、このように軽鎖可変領域において欠失、置換、若しくは付加されるアミノ酸残基は、FRのアミノ酸残基であることが好ましい。上記する置換とは、保存的な置換であることが好ましい。
【0065】
本発明の抗体の構造は、上記するアミノ酸配列を含有し、且つ、ヒトCripto−1の細胞外領域を特異的に認識する範囲において、特に限定されない。例えば、Fv、scFv、ディアボディ、トリアボディ、又はテトラボディ等の構造を挙げることができる。また、これらを適宜組み合わせた構造を有していてもよい。このような構造を有する抗体は、抗体断片と呼ばれることもある。
【0066】
本発明の抗体には、定常領域を含有させることもできる。定常領域の由来は、ヒトCripto−1の細胞外領域を特異的に認識する範囲において、特に限定されない。例えば、大量生産が可能な動物種、ヒトに近縁する動物種、ヒトに投与しても、免疫原性を生じさせにくい動物種を挙げることができ、具体的に、ヒト由来、マウス由来、ラット由来、ウサギ由来、ロバ由来、サル由来、チンパンジーを挙げることができる。
【0067】
このような定常領域を含有する抗体の構造は、ヒトCripto−1の細胞外領域を特異的に認識する範囲において、特に限定されない。例えば、イムノグロブリン、Fab、F(ab’)
2、ミニボディ、scFv−Fc等を挙げることができる。また、これらを適宜組み合わせた構造を有していてもよい。このような構造を有する抗体も、抗体断片と呼ばれることもある。
【0068】
上記するイムノグロブリンのサブタイプは、本発明の効果を発揮する範囲において、特に限定されない。例えば、IgM、IgD、IgG、IgA、IgE等を挙げることができる。中でも、本発明の効果をより発揮することに鑑みて、IgGであることが好ましい。
【0069】
上記するIgGのサブクラスは、本発明の効果を発揮する範囲において、特に限定されない。例えば、IgG
1、IgG
2、IgG
3、IgG
4等を挙げることができる。本発明の効果をより発揮することに鑑みて、IgG
1であることが好ましい。
【0070】
本発明の抗体には、細胞障害活性を有する抗体も包含される。細胞障害活性とは、目的とする細胞(例えば、ガン幹細胞等)に対して毒性を及ぼす活性であればよく、具体的に該細胞を死に至らしめる効果もこれに包含され得る。このような細胞障害活性は、本発明の効果を奏する範囲において、特に限定されない。具体的には、ADCC活性、CDC活性、及びADCP等を挙げることができる。
【0071】
上記するADCC活性とは、抗体依存性細胞傷害活性とも呼ばれる活性である。この活性は、抗体がマクロファージ、NK細胞、好中球、又は好酸球等のエフェクター細胞を、その近傍にリクルートし、斯かるエフェクター細胞を介して、その抗体の近傍に存在する細胞に障害を与える活性であると当業者に理解される。このようなADCC活性の程度を測定する方法は、公知の方法を採用することができる。具体的には、Kimura MらのCancer Sci|August 2007 vol.98 no.8 1275−1280.等の公知の文献に記載の方法を適宜改変して測定することができる。
【0072】
また、ADCC Reporter Bioassay(Promega)を用いて、ADCC活性を測定することも可能である。その他の測定方法として、例えば、血液の白血球画分等を標的細胞と混合させることによって生じる細胞障害を、LDH漏れ出し量の測定又はWST−8等を用いた細胞の生存活性等に数値化することにより測定することもできる。
【0073】
上記するCDC活性とは、補体依存性細胞傷害活性とも呼ばれる活性である。この活性は、抗体がその近傍に補体をリクルートし、斯かる補体を介して、その抗体の近傍に存在する細胞に障害を与える活性であると当業者に理解される。このようなCDC活性の程度を測定する方法は、公知の方法を採用することができる。具体的には、ADCC活性の測定にて上記した文献等に記載する公知の方法を適宜改変して測定することができる。具体的には、血清を細胞に添加し、血清中の補体による細胞障害の程度を測定することにより測定可能である。
【0074】
上記するADCP活性とは、抗体依存性細胞貪食活性とも呼ばれる活性である。この活性は、抗体がその近傍にマクロファージをリクルートし、その抗体の近傍に存在する細胞を、リクルートされたマクロファージにより貪食する活性であると当業者に理解される。このようなADCP活性の程度を測定する方法は、公知の方法を採用することができる。
【0075】
本発明の抗体は、ヒトCripto−1以外の1以上の抗原を特異的に認識する部位を有していてもよい。即ち、本発明の抗体は、多重特異性抗体とすることもできる。このような抗原とは、本発明の効果を奏する範囲において、特に限定されない。
【0076】
本発明の抗体は、サイトトキシンが結合した複合体として使用することもできる。このようなサイトトキシンは、特に限定されない。例えば、本発明の効果を奏する範囲において、抗体に結合する公知のサイトトキシンから適宜選択することができる。具体的には、エムタンシン(DM1)、オゾガマイシン(カリケアミシン類)、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、ピロロベンゾジアゼピン(PBD)、デュオカルマイシン類、アマニチン(AAMT)、アドゼルシン、ビゼルシン、カルゼルシン(U−80244)、PNU159682(ネモルビシン類)等を挙げることができる。 本発明の抗体は、後記する本発明のポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを慣用の遺伝子工学的な手段を用いて構築し、斯かる発現ベクターを抗体の産生に適した宿主細胞又は無細胞発現系に導入する手段により、当業者であれば容易に製造することができる。製造した抗体は適宜、慣用の精製工程に供することで純度の高い状態として得ることも可能である。
【0077】
本発明のヒトに由来する抗体は、ヒトCripto−1を特異的に認識することができる。また、本発明の抗体は、ガン幹細胞の増殖を阻害する効果を発揮する。ガン細胞は、ガン幹細胞から分化するので、本発明の抗体は、ガンの予防及び/又は治療効果を発揮する。このような効果を発揮することを期待して、本発明の組成物を、例えば、飲食品又は医薬の分野で用いることができる。
【0078】
2.ポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドは、上記する本発明の抗体をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドである。このようなポリヌクレオチドは、特に限定されない。例えば、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、核酸ペプチド、又はこれらの公知の修飾物であってもい。このようなポリヌクレオチドは、一本鎖の形状であっても、二本鎖の形状であってもよい。
【0079】
上記するポリヌクレオチドの塩基配列は、当業者であれば、例えば上記する抗体のアミノ酸配列を基に、インシリコで適宜決定することができる。このような塩基配列を決定するのに使用されるコドンの種類は問わない。ポリヌクレオチドを使用する宿主のコドン頻度を勘案して、塩基配列を決定することが好ましい。
【0080】
なお、本発明のポリヌクレオチドは、種々のベクター内に含有されることもできる。このようなベクターは、特に限定されない。例えば、発現ベクター、クローニングベクター等が挙げられる。
【0081】
3.細胞
本発明の細胞は、上記する本発明の抗体を産生する細胞である。このような抗体の産生は、細胞内での産生であってもよいし、細胞外の産生(分泌産生)であってもよい。
【0082】
本発明の細胞は、上記する本発明のポリヌクレオチドを保持している事が好ましい。用語「保持している」とは、細胞内に本発明のポリヌクレオチドが存在する状態を維持することをいい、該細胞が、積極的か受動的かどうかに関わらず、上記ポリヌクレオチドを細胞外に排出しない状態であることを意味する。
【0083】
本発明の細胞は、抗体産生に適した公知の細胞から適宜選択することができ、特に限定されない。例えば、大腸菌、放線菌等の原核細胞、酵母細胞、昆虫細胞、哺乳類細胞等の真核細胞等が挙げられる。
【0084】
4.飲食品組成物
本発明の飲食品組成物に含有される有効成分は、上記するヒトCripto−1の細胞外領域を特異的に認識する、ヒト由来抗ヒトCripto−1モノクローナル抗体である。
【0085】
本発明の飲食品組成物に含有される有効成分の量は、本発明の効果を奏する範囲において、特に限定されない。具体的に、100質量%の飲食品組成物に対する有効成分の含有量を、0.001〜100質量%程度とすることができる。
【0086】
本発明の飲食品組成物には、特定保健用食品、機能性表示食品、及び栄養機能食品等の保健機能食品(飲料を含む);栄養補助食品、健康補助食品、及び栄養調整食品等;並びに一般食品(飲料を含む)の何れもが包含されるものとすることができる。また、本発明の飲食品組成物には、家畜用飼料、養魚用飼料、及びペットフード等の愛玩動物用飼料等の飼料も包含することができる。これらの飲食品組成物は、慣用の飲食物の形状を有していればよく、例えば、一般の食品、飲料の形態(明らか食品)のほか、幹細胞からガン幹細胞への誘導を抑制する効果を奏することを、飲食品の機能として謳うことのできる特定保健用食品、又は機能性表示食品とすることができる。具体的に、本発明の飲食品組成物は、がん細胞の減少に役立つ、がん幹細胞の減少に役立つ、がん細胞の進行抑制に役立つがん幹細胞の進行抑制に役立つ、及びがん幹細胞を減少させてがんの進行抑制に役立つ等と謳うことができる。
【0087】
本発明の飲食品組成物の形状は、本発明の効果を奏する範囲において、特に限定されない。例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料;アイスクリーム、かき氷等の冷菓;ガム、チョコレート、飴、錠菓、スナック菓子、ゼリー、ジャム、クリーム、グミ等の菓子;そば、うどん、即席麺、中華麺等の麺;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産又は畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、マヨネーズ、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂、又は油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;スープ、サラダ、惣菜、漬物、パン、又はシリアル等を挙げることができる。
【0088】
本発明の飲食品組成物は、例えば、粉末、顆粒、カプセル、トローチ、又は錠剤(タブレット)等の固形製剤;シロップ又はドリンク等の液体製剤等、一般にサプリメントとして提供される製剤形態とすることもできる。
【0089】
本発明の飲食品組成物の摂取させる対象は、ガン幹細胞に誘導し得る幹細胞を保持する生体であって、幹細胞からガン幹細胞への誘導を抑制することを所望する生体である限り、特に限定されない。
【0090】
例えば、ヒトの他、ウシ、ブタ、イノシシ、ヒツジ、ウマ、ヤギ、ロバ、クマ、トナカイ、ウサギ、トナカイ、及びカエル等の家畜;ニワトリ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウ、バリケン、ウズラ、ダチョウ、ハト、キジ、カモ、及びウ等の家禽;魚類、甲殻類、軟体動物等の養殖海産物;ハチ及びカイコ等の飼育昆虫;イヌ、ネコ、げっ歯類、ウサギ、サル、ブタ等、オウム、インコ、ヘビ、ワニ、カメ、サンショウウオ、観賞魚(金魚及び熱帯魚等)、カブトムシ、クワガタムシ、クモ、サソリ等の愛玩動物を挙げることができる。
【0091】
本発明の飲食品組成物の摂取量は、適用対象の性別、年齢、当該飲食品組成物の適用形態、所望する効果の程度等に基づいて適宜設定することができ、特に限定されない。例えば、体重50gのマウスであれば、本発明の飲食品組成物の有効成分を、一日当たり、1pmol〜1μmol程度となる量で摂取させることができる。なお、マウス以外の対象に対する摂取量は、上記する数値範囲を基に、その対象の体重等を勘案して、適宜設定することができる。
【0092】
本発明の飲食品組成物を摂取させる間隔も、適用対象の性別、年齢、当該飲食品組成物の適用形態、所望する効果の程度等に基づいて適宜設定することができ、特に限定されない。例えば、上記する本発明の飲食品組成物を、一日一回で摂取させてもよいし、2〜3回の複数回の間隔に分けて摂取させてもよい。また、数日〜数週間に一回の間隔で摂取させることもできる。
【0093】
5.医薬組成物
本発明の医薬組成物に含有される有効成分は、上記するヒトCripto−1の細胞外ドメインを特異的に認識する、ヒト由来抗ヒトCripto−1モノクローナル抗体である。
【0094】
本発明の医薬組成物に含有される有効成分の量は、本発明の効果を奏する範囲において、特に限定されない。具体的に、100質量%の医薬組成物に対する有効成分の含有量を、0.001〜100質量%程度とすることができる。
【0095】
本発明の医薬組成物は、上記有効成分と、薬学分野の組成物を製造する際に使用される、薬学的に許容可能な公知の担体又は添加物とを配合することによって、製造することができる。斯かる担体又は添加物は、本発明の効果を奏する範囲において、特に限定されない。例えば、任意の担体、希釈剤、賦形剤、懸濁剤、潤滑剤、アジュバント、媒体、送達システム、乳化剤、錠剤分解物質、吸収剤、保存剤、界面活性剤、着色剤、香料、又は甘味料等を挙げることができる。
【0096】
本発明の医薬組成物は、上記する担体又は添加物を適宜組み合わせた、種々の剤形とすることができる。よって、本発明の医薬組成物の剤形は、本発明の効果を奏する範囲において、特に限定されない。具体的には、輸液剤、埋め込み注射剤、マイクロニードル、又は持続性注射剤等の注射剤;腹膜透析用剤又は血液透析用剤等の透析用剤;硬カプセル錠又は軟カプセル錠等のカプセル剤;シロップ剤、経口ゼリー剤、トローチ剤、舌下錠、バッカル錠、付着錠、又はガム剤等の口腔用錠剤;口腔用スプレー剤、口腔用半固形剤、含嗽剤、吸入粉末剤、吸入液剤、又は吸入エアゾール剤等の吸入剤;眼軟膏剤等の点眼剤;点耳剤;点鼻粉末剤又は点鼻液剤等の点鼻剤等を挙げることができる。
【0097】
本発明の医薬組成物の投与方法は、上記する各剤形に最適化される公知の投与方法である限り、特に限定されない。具体的には、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、蜘蛛膜下腔内投与、皮内投与、腹腔内投与、鼻腔内投与、肺内投与、眼内投与、腟内投与、頸部内投与、直腸内投与、又は皮下投与等を挙げることができる。
【0098】
なお、本発明の医薬組成物の投与対象は、ガン幹細胞に誘導し得る幹細胞を保持する生体(ガンに罹患する可能性がある生体)であって、幹細胞からガン幹細胞への誘導を抑制することを所望する生体(ガンの予防及び/又は治療されることを所望する生体)である限り、特に限定されない。具体的には、上記する飲食品組成物を摂取させる対象と同様にすることができる。
【0099】
本発明の医薬組成物の投与量は、本発明の効果を奏する範囲において、特に限定されない。具体的には、適用対象の性別や年齢、当該医薬組成物の適用形態、所望する効果の程度などに基づいて、適宜設定することができる。例えば、体重50gのマウスであれば、本発明の医薬組成物の有効成分を、一日当たり、1pmol〜1μmol程度となる量で投与することができる。なお、マウス以外の対象に対する投与量は、上記する数値範囲を基に、その対象の体重等を勘案して、適宜設定することができる。
【0100】
本発明の飲食品組成物の投与間隔も、適用対象の性別、年齢、当該飲食品組成物の適用形態、所望する効果の程度等に基づいて適宜設定することができ、特に限定されない。例えば、上記する本発明の飲食品組成物を、一日一回の投与としてもよいし、2〜3回の複数回の間隔に分けて投与してもよい。また、数日〜数週間に一回の間隔の投与とすることもできる。
【0101】
6.予防及び/又は治療方法
本発明の予防方法は、ガンの罹患に対して予防を所望する生体に、ヒトCripto−1の細胞外領域を特異的に認識する、ヒト由来抗ヒトモノクローナル抗体を投与する工程を含む、ガンの予防方法である。
【0102】
本発明の治療方法は、ガンに罹患した生体に、ヒトCripto−1の細胞外領域を特異的に認識するヒト由来抗ヒトモノクローナル抗体を投与する工程を含む、ガンの治療方法である。
【0103】
ヒトCripto−1の細胞外領域を特異的に認識するヒト由来抗ヒトモノクローナル抗体は、上記する
1.抗体の記載を参考にすることができる。
【0104】
本発明の具体的な予防及び治療方法は、上記する
1.抗体、
4.飲食品組成物、及び
5.医薬組成物の記載を参考にすることができる。
【実施例】
【0105】
以下に、本発明をより詳細に説明するための実施例を示す。なお、本発明が以下の実施例に記載する発明に限定されないのは言うまでもない。
【0106】
実施例1 抗ヒトCripto−1抗体のスクリーニング
ヒトCripto−1の細胞外ドメインを特異的に認識する抗体を、ファージ提示型ヒト抗体ライブラリーから、スクリーニングした。このようなヒトCripto−1の細胞外ドメインは、配列番号11に示すアミノ酸配列からなり、そのN末端側に、配列番号12に示すアミノ酸配列からなるHisタグ配列が設けられている。Alam.et.al.Int J Mol Sci.2018,26;19(11)に記載の方法に従って、可溶化型として調製した。スクリーニング対象として使用した抗体ライブラリーは、(Sakai,K.,et.al.Biochemistry46(1):253-62)に記載された抗体ライブラリーであり、斯かる抗体のサブクラスはIgGである。
【0107】
その結果、精製ヒトCripto−1の細胞外ドメインを特異的に認識する抗体として、#35クローンのファージ株を得ることができた。このクローンから抗体をコードする塩基配列を解析し、その結果を基にして、抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域等のアミノ配列を、IgBlast(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/)及びVbase2(http://www.vbase2.org)によって解析した。これらの結果を以下の表1に示す。なお、VH−CDR1又は2において、二つのアミノ酸配列が記載されている箇所は、そのどちらのアミノ酸配列であってもよいことを示している。
【0108】
【表1】
【0109】
この抗体を得るために、上記する#35クローンの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域をコードする塩基配列を、抗体発現用ベクターに組み込むことにより、pHIgH5zeoベクター、pHIgL5hyg、及びpTX7z−HigG1L−#35、を作製した(
図1及び2)。これらのベクターを一過性にCHO細胞に導入し、#35クローン抗体を分泌産生させた。最後に、定法によりCHO細胞の培養上清からProtein Aカラムを用いて抗体を精製し、ダルベッコ生理的リン酸緩衝液に溶媒を置換した。
【0110】
実施例2 ELISAによる抗原認識能の評価
上記する#35クローン抗体の培養上清を採取し、これをリン酸緩衝液で25倍に希釈し、さらに2倍毎の連続希釈を行った。これを96ウェルプレートに添加し、各ウェルに吸着したIgG分子(ヒト由来抗ヒトCripto−1抗体)を、HRP標識抗ヒトIgGヤギ抗体(Abcam社製)によって検出した。その結果を
図2に示す。
【0111】
図1に示すように、HRPに起因する発色が、#35クローン抗体を含有する培養上清の希釈の程度に従って低下することが見て取れるので、#35クローン抗体が、その抗原であるヒトCripto−1に特異的に吸着していることが確認できた。
【0112】
実施例3 組織アレイを用いたガン組織(ヒト)に対する特異性評価
ヒト癌組織アレイ(US Bioma社製BCN801)に対して、免疫染色を行った。一次抗体として、上記する#35クローンを用いた。2次抗体として、ALEXA568標識抗ヒトIgGヤギ抗体(Invitrogen社製)を用いて、各ガン組織(膵臓ガン組織、甲状腺ガン組織、前立腺ガン組織、胃ガン組織、子宮頸ガン組織、大腸ガン組織、及び乳ガン組織)におけるヒトCripto−1の検出を行った。これらのガン組織には、ガン細胞と共にガン幹細胞も含まれ、斯かるガン幹細胞の細胞膜表面上に、Cripto−1がGPIアンカーで結合していると考えられる。陰性対照実験として、上記2次抗体のみを用いてシグナルのバックグラウンドの確認を行った。これらの結果を、
図3〜5に示す。
【0113】
図3〜5に示すように、上記する全てのガン組織に対して、#35クローン抗体による染色像が確認された。
【0114】
実施例4 ガン幹細胞に対する抗体による効果
ガン幹細胞の増殖に対する効果は、3−(4,5−dimethylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyltetrazolium bromide(MTT)を用いて評価した。ここでガン幹細胞として使用したU251MG SC1細胞は、以下に示す方法によって作製した。
【0115】
欧州のECACC(European Collection of Authenticated Cell Cultures)から入手した脳腫瘍細胞であるU251MG細胞を、ヌードマウス(BALB/c−nu/nu,メス)に皮下移植して腫瘍を形成させた。次いで、この腫瘍を採取し、常法に従って培養し、この腫瘍細胞からヒアルロン酸依存的に増殖する細胞を指標にスクリーニングすることで、U251MG SC1細胞を得た。
【0116】
このような方法で得たU251MG SC1細胞株のガン幹細胞性を確認するために、SOX2、c−Myc、OCT3/4、KLF4、及びNANOG遺伝子の発現を確認する実験を、各遺伝子を認識するプローブを用いた定量PCR法により、常法に従って行った。ここで、定量PCR法にて使用した各遺伝子を認識するプローブの塩基配列は、以下の表2に示す通りである。なお、内部標準として、GAPDHを使用した。この結果を
図7に示す。
【0117】
【表2】
【0118】
図7に示すように、スクリーニング前のU251MG細胞は、OCT3/4及びNANOGの発現が検出できなかったのに対して、スクリーニング後のU251MG SC1細胞は、SOX2、c−Myc、OCT3/4、KLF4、及びNANOG遺伝子の全ての発現を確認することができた。従って、U251MG細胞からスクリーニングにより得られたU251MG SC1細胞は、ガン幹細胞性を有する細胞株であることが明らかとなった。
【0119】
次いで、このようにスクリーニングにより得られたU251MG SC1細胞に対する、#35クローン抗体による自己複製能(増殖)阻害効果を確認するMTTアッセイを行った。
【0120】
まず、10%ウシ胎児血清を含むDMEM又はRPMI1640に懸濁した細胞を96−wellプレートに、5×10
3cells/wellで播種した。5%CO
2、37℃の条件下で24時間培養後、系列希釈を行った上記#35クローン抗体の溶液を各ウエルに添加して、さらに72時間培養を継続した。その後、5mg/mLでPBSに溶かしたMTTを終濃度1mg/mlとなるように添加して4時間培養後に形成されたフォルマザンを0.02NのHClに溶解した10%w/vSDSを加えて37℃で一昼夜かけて溶解した。この溶液の540nmの吸収を測定して細胞の生存度を評価した。この結果を
図8に示す。
【0121】
図8に示すように、ガン幹細胞としてU251MGからスクリーニングにより得られたU251MG SC1細胞株は、#35クローン抗体の存在下で増殖が阻害され、その濃度が高くなるにつれて、より阻害されることが明らかとなった。従って、#35クローン抗体は、ガン幹細胞の増殖を阻害する効果を発揮することが明らかとなった。
【0122】
ガン幹細胞は、例えば、低吸着ディッシュのような非接着環境下で培養すると、スフィア形成する特徴を有することが知られている。そこで、#35クローン抗体による、ガン幹細胞の増殖を阻害する効果を確認するための実験として、ガン幹細胞のスフィア形成数を測定する実験を、非特許文献4の
図4Aに記載する方法を参考にして行った。具体的に使用したガン幹細胞は、NTERA2 clone D1(EACC株番号:01071221)であり、この細胞を使用したスフィア形成数を測定する実験によっても、上記する
図8に示すように、#35クローン抗体が、ガン幹細胞の増殖を阻害する効果を発揮することが明らかとなった(データ示さず)。