(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6761903
(24)【登録日】2020年9月9日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】衣類
(51)【国際特許分類】
A41C 3/08 20060101AFI20200917BHJP
【FI】
A41C3/08
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-521850(P2019-521850)
(86)(22)【出願日】2018年12月27日
(86)【国際出願番号】JP2018048079
【審査請求日】2019年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】398056827
【氏名又は名称】株式会社ファーストリテイリング
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100154759
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100175743
【弁理士】
【氏名又は名称】田渕 周作
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 志津子
(72)【発明者】
【氏名】西 ますみ
(72)【発明者】
【氏名】菊池 裕美
【審査官】
大野 明良
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−316907(JP,A)
【文献】
特開2015−063764(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2018/0220718(US,A1)
【文献】
実開昭54−157709(JP,U)
【文献】
特開平11−172503(JP,A)
【文献】
特開2017−201065(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3207851(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41C 3/00− 3/14
A41B 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前身頃(2)と後身頃(3)とを備える衣類(1)において、
前記前身頃(2)の胸部内側に設けられた裏当て布(6)と、
前記裏当て布(6)に縫い合わされて、袋状の収容部(7a)を形成するカップ布(7)と、
前記収容部(7a)に収容されたパッド(8)とを備え、
前記裏当て布(6)と前記カップ布(7)とは、第1ステッチ(9)により縫着され、
前記第1ステッチ(9)は、前記パッド(8)の上縁部に沿って設けられ、
前記裏当て布(6)と前記カップ布(7)とは、第2ステッチ(10a)により縫着され、
前記第2ステッチ(10a)は、前記パッド(8)よりも前中心側に設けられ、前記パッド(8)の周縁部に沿って前記パッド(8)の上側へ延出する
ことを特徴とする衣類(1)。
【請求項2】
前記第1ステッチ(9)の長さ(Ta)は、半分に折り曲げられた前記パッド(8)の上縁部の長さ(d1)よりも短い
ことを特徴とする請求項1に記載の衣類(1)。
【請求項3】
前記カップ布(7)の下端及び側端が前記裏当て布(6)に縫着されて、前記収容部(7a)の前記パッド(8)の上部に前記パッド(8)を出し入れする開口(11)が設けられ、
前記開口(11)までの前記パッド(8)の通路の幅(Tb)は、半分に折り曲げられた前記パッド(8)の最小長(d2)以上である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の衣類(1)。
【請求項4】
前記裏当て布(6)は、前記前身頃(2)にのみ設けられる
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の衣類(1)。
【請求項5】
前記パッド(8)の形状は、円、楕円又は三角形である
ことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の衣類(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タンクトップやワンピース等の前身頃にパッドを取り付けた衣類が知られている。例えば胸部の全周を囲む胴着部材のバストの位置にモールドカップを設け、この胴着部材を前身頃と後身頃とに取り付けたカップ付き衣料が提案されている(特許文献1参照)。また前身頃の胸部の裏面に袋部材を設け、この袋部材にカップ部材を収容した衣服が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5512222号公報
【特許文献2】特許第5254636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、モールドカップやカップ部材等のパッドを胴着部材に取り付ける衣類の場合、パッドの位置が固定される。よってパッドを自由に取り外すことはできない。またパッドを自由に取り出すことができるように袋部材に収容する衣類の場合、パッドの位置が固定されない。よって着用するたびにパッドの位置を調整しなければならない。着用時にパッドの位置がずれると、着用者が不快感を覚えることがあり、特にバストの下側よりも上側にパッドがずれたときの不快感が強い傾向がある。
【0005】
本発明は、パッドを自由に取り外すことができる衣類において、上側へのパッドのずれを簡易な構成により抑制し、着用時の快適性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、前身頃(2)と後身頃(3)を備える衣類(1)において、前記前身頃(2)の胸部内側に設けられた裏当て布(6)と、前記裏当て布(6)に縫い合わされて、袋状の収容部(7a)を形成するカップ布(7)と、前記収容部(7a)に収容されたパッド(8)とを備え、前記裏当て布(6)と前記カップ布(7)とは、第1ステッチ(9)により縫着され、前記第1ステッチ(9)は、前記パッド(8)の上縁部に沿って設けられることを特徴とする衣類(1)が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、パッドを自由に取り外すことができる衣類において、上側へのパッドのずれを簡易な構成により抑制し、着用時の快適性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態の衣類の胸部内側を示す展開図である。
【
図2】
図1に示す裏当て布のカップ布が設けられた面を表す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の衣類の実施の形態について、図面を参照して説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は以下の実施形態に限られない。なお上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくこととする。また図面の寸法比率は、図示の比率に限定されない。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態の衣類1の胸部内側を示す展開図である。
図1に示すように、衣類1は、例えばTシャツ、ワンピース等であり、前身頃2、後身頃3、袖4及び襟5を備える。前身頃2と後身頃3とは、互いの肩及び脇が縫着され、連結される。袖4は、前身頃2と後身頃3の袖ぐりに縫着され、襟5は襟ぐりに縫着される。
【0011】
また衣類1は、前身頃2の胸部内側に設けられた、裏当て布6、カップ布7及び1対のパッド8を備える。カップ布7は、裏当て布6に縫い合わされて、袋状の収容部7aを形成する。具体的には、カップ布7の下端と側端が裏当て布6に縫着されて、上部が開口する袋状の収容部7aが形成される。1対のパッド8は円形状であり、袋状の収容部7a内に収容されて着用者のバストを覆う。
【0012】
裏当て布6は、前身頃2の襟ぐり、肩、袖ぐり及び脇と縫着される。裏当て布6の下端は、パッド8よりも下側において一方の脇から他方の脇へ直線状に延びている。裏当て布6の下端は、カップ布7の下端とともに前身頃2側に折り返して縫着され、内部にゴム6aが通される。肌触りが良い点では、このように折り返しにゴム6aを収容することが好ましい。
【0013】
裏当て布6は、前身頃2にのみ設けられ、後身頃3には設けられない。胸部の全周を囲むように前身頃及び後身頃に裏当て布6を設ける場合に比べて、裏当て布6又はゴム6aによる締め付けを減らすことができ、リラックスできる快適な衣類1を提供することができる。
【0014】
裏当て布6は、カップ布7が設けられた面が前身頃2側に位置するように前身頃2に重ねられている。すなわちカップ布7は裏当て布6と前身頃2との間に設けられ、裏当て布6は衣類1の最も内側に設けられて衣類1の着用者の肌と接する。
【0015】
図2は、裏当て布6をカップ布7側から表す正面図である。
図2に示すように、カップ布7の上端は、前中心Zから襟ぐりに沿って肩へと延び、途中で襟ぐりから袖ぐりに向かって斜め下方に延びる略山形の形状を有している。この上端は左右方向においてパッド8の脇側の端部の位置に至ると、下方へ向かう。カップ布7の襟ぐりに沿う上端部分は、裏当て布6及び前身頃2とともに襟5に縫着されている。カップ布7の縫着によって、衣類1の着用時、バストの重みでパッド8を収容するカップ布7が垂れ下がり、衣類1が型崩れすることを抑えることができる。
【0016】
一方、カップ布7の襟ぐりから斜め下方へ向かう上端部分は縫着されず、開口する。この開口は収容部7a内に連通し、収容部7aへパッド8を出し入れする取出口11として機能する。取出口11が設けられたカップ布7の端部は、通常、ほつれを抑えるためにかがり縫い等の端処理が施される。端処理部分が肌に触れると不快感が生じることがあるが、上述のように、カップ布7は裏当て布6と前身頃2との間に位置し、カップ布7が着用者の肌に触れることはないため、快適な衣類1を提供できる。
【0017】
カップ布7の側端は、カップ布7の上端から下方に延び、パッド8の脇側の周縁部に沿ってパッド8の下側へ向かう形状を有する。このような形状のカップ布7の側端が第4ステッチ12により裏当て布6に縫着されることにより、パッド8の脇側への動きを制限することができる。
【0018】
(第1ステッチ)
図1に示すように、裏当て布6とカップ布7とは第1ステッチ9により縫着される。第1ステッチ9は、パッド8の上縁部に沿って設けられている。第1ステッチ9によりパッド8の上側への動きを制限し、上側へのパッド8のずれを防止することができる。パッド8を収容部7aの底に突き当てて第1ステッチ9を設ければ、パッド8の上下方向における位置の固定が可能である。またパッド8上部の取出口11へ連通する通路の一部が第1ステッチ9により閉じられるため、取出口11からのパッド8の脱落を抑えることができる。
【0019】
第1ステッチ9は、点P1から点P2まで設けられる。点P1は、パッド8より前中心Z側であって、パッド8を上下対称に折り曲げたときの中心線8xの上側に位置する。点P2は、パッド8を左右対称に折り曲げたときの中心線8yの上端の上側に位置する。点P1を始点、点P2を終点として第1ステッチ9が設けられてもよいし、その逆であってもよい。
【0020】
第1ステッチ9の長さTaは、半分に折り曲げられたパッド8の上縁部の長さd1より短いことが好ましい。長さTaが長さd1より短いと、取出口11へのパッド8の通路を形成でき、収容部7aからのパッド8の出し入れが容易となる。円状のパッド8の半径がrである場合、半分に折り曲げられたときの上縁部の長さd1は、円周の1/4の長さ1/2πrであるので、第1ステッチ9の長さTaを1/2πrより短くすればよい。
【0021】
取出口11までのパッド8の通路の幅Tbは、半分に折り曲げられたパッド8の最小長d2以上であることが好ましい。これにより、パッド8を折り曲げて取出口11から取り出すことが容易になる。円状のパッド8を半分に折り曲げたときの最小長d2はパッド8の半径rであるので、通路の幅Tbをr以上とすればよい。通路の幅Tbは、例えば第1ステッチ9の長さTa、カップ布7の上端の形状等により調整することができる。
【0022】
図1に示すように、長さTaが約1/2πrであって前中心Z側に設けられた第1ステッチ9は、パッド8の周縁部に沿う第4ステッチ12とパッド8を介して反対側に位置する。第1ステッチ9及び第4ステッチ12によりパッド8を挟み、パッド8の上下方向及び左右方向の動きを制限するとともに、取出口11への十分な通路の幅Tbを設けることができる。後述する第3ステッチ10bが設けられる場合は、第1ステッチ9を脇側に位置させても、第1ステッチ9と第3ステッチ10bとでパッド8を挟むことができ、同様にパッド8の動きを制限することができる。
【0023】
第1ステッチ9の長さTa及び位置は
図1の例に限定されない。例えば、第1ステッチ9の位置は、パッド8の中心位置(
図1の中心線8yの位置)に近いほど、上側へのパッド8の動きを効果的に制限することができる。よって第1ステッチ9の一端である点P1の左右方向の位置が前中心Z又は脇に近いほど、第1ステッチ9の他端である点P2の左右方向の位置がパッド8の中心線8yの位置に近づくように、第1ステッチ9の長さTaを長くすればよい。またパッド8の上縁部に沿って複数の第1ステッチ9が設けられてもよい。
【0024】
(第2ステッチ)
裏当て布6及びカップ布7は、さらに第2ステッチ10aにより縫着されている。第2ステッチ10aは、パッド8より前中心Z側に設けられ、点P1からパッド8の周縁部に沿ってパッド8の上側へ延出し、取出口11に到る。第2ステッチ10aにより、第1ステッチ9から襟ぐりまでの間の裏当て布6とカップ布7のだぶつきを抑えることができ、着用時の衣類1の型崩れを減らすことができる。
【0025】
(第3ステッチ)
また裏当て布6及びカップ布7は、第3ステッチ10bにより縫着されている。第3ステッチ10bは、点P1からパッド8の前中心Z側の周縁部に沿ってパッド8の下側へ向かい、裏当て布6の下端に到る。第3ステッチ10bにより前中心Z側へのパッド8の動きを制限することができる。パッド8を収容部7aの脇側の端部に突き当てて第3ステッチ10bを設けることにより、パッド8の左右方向における位置を固定することができる。
【0026】
なお各ステッチの縫製を連続させることにより、第1ステッチ9と第3ステッチ10bが1つのステッチとして設けられてもよいし、第2ステッチ10aと第3ステッチ10bが1つのステッチとして設けられてもよい。
【0027】
(衣類1の製造方法)
上記衣類1は、例えば次のようにして製造することができる。まず、裏当て布6にカップ布7を重ねてカップ布7の側端を縫着し、第4ステッチ12を設ける。次に、裏当て布6とカップ布7の下端を折り返して縫着し、袋状の収容部7aを形成する。折り返した下端の内部にはゴム6aを通す。そして、裏当て布6とカップ布7を縫着し、第1ステッチ9、第2ステッチ10a及び第3ステッチ10bを設ける。次に、裏当て布6を前身頃2に重ねて、後身頃3、袖4及び襟5とともに、脇、襟ぐり、袖ぐり及び肩を縫着する。取出口11からパッド8を挿入して、第1ステッチ9より下側の収容部7a内にパッド8を収容することで、パッド付の衣類1が得られる。
【0028】
以上のように、本実施形態の衣類1によれば、パッド8の上縁部に沿って第1ステッチ9が設けられる。第1ステッチ9よりも上側へのパッド8の動きを簡易に制限することができ、上側へのパッド8のずれを防止することができる。これにより、ずれによる不快感を解消して、着心地のよい快適な衣類1を提供することができる。また着用時の位置調整が不要で、洗濯によるパッド8の脱落が少ない衣類1を提供することができる。
【0029】
なお本実施の形態における衣類1は、袖4を備えるとしたが、必ずしもこれに限らず、上衣であれば袖4がないタンクトップ等の衣類であってもよい。
【0030】
また本実施形態におけるパッド8は、1対の円形状としたが、必ずしもこれに限らず、バスト全体を覆う1つのパッドであってもよいし、パッド8の形状は楕円又は三角形であってもよい。この場合であっても、パッド8の上縁部に沿う第1ステッチ9を設けることにより、円状のパッド8の場合と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0031】
1・・・衣類、2・・・前身頃、3・・・後身頃、6・・・裏当て布、7・・・カップ布、7a・・・収容部、8・・・パッド、9・・・第1ステッチ、10a・・・第2ステッチ、10b・・・第3ステッチ、12・・・第4ステッチ
【要約】
パッドを自由に取り外すことができる衣類において、上側へのパッドのずれを簡易な構成により抑制し、着用時の快適性を向上する。
前身頃(2)と後身頃(3)を備える衣類(1)において、前記前身頃(2)の胸部内側に設けられた裏当て布(6)と、前記裏当て布(6)に縫い合わされて、袋状の収容部(7a)を形成するカップ布(7)と、前記収容部(7a)に収容されたパッド(8)とを備え、前記裏当て布(6)と前記カップ布(7)とは、第1ステッチ(9)により縫着され、前記第1ステッチ(9)は、前記パッド(8)の上縁部に沿って設けられることを特徴とする衣類(1)。