【0014】
本発明の実施形態に係るフラーレン誘導体中のフラーレン骨格としては、例えば、C
60、C
70、C
76、C
78、さらに高次のフラーレンが挙げられるが、潤滑油への溶解性の高さの点から、C
60及びC
70が好ましく、純度の高いものを工業的に容易に得る点と、潤滑油への着色が少ない点から、C
60がより好ましい。また、フラーレン誘導体のコストを低減するため、フラーレン誘導体の合成工程において、C
60とその他のフラーレンとの混合物であるミックスフラーレンを用いることもできる。ミックスフラーレンを使用する場合、C
60の質量割合が全体の50%以上であることが好ましい。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
(NMR分析)
1H−NMRは下記の条件にて測定した。
装置:日本電子製 JNM−EX270
試料調製:試料(約10mg〜30mg)をCDCl
3/ヘキサフルオロベンゼン混合溶媒(約0.5mL)に溶解させた後、直径5mmのNMR試料管に入れた。
測定温度:室温
基準物質:溶媒に添加されたテトラメチルシランのシグナルを基準とした。
(耐摩耗性の評価)
ボールオンディスクトライボメーター(Antonparr製)試験により、潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。ボールとして、径6mm(SUJ2)、ディスクとして、径13mm、厚さ5mm(SUJ2)をそれぞれ用い、荷重25N、回転速度10rpm、回転数1000回の条件で摩耗痕径(mm)を測定して評価した。本評価においては、摩耗痕径が小さいほど、摩耗特性に優れることを意味する
(ラメラ長の測定)
潤滑油組成物のラメラ長は、du Nouy法(JIS K2241)により,自動表面張力測定装置DY−300(協和界面科学株式会社製)を用いて、測定した。潤滑油組成物20gを専用のシャーレに入れ、下記の測定条件で、引き上げ張力(表面張力)のピークから液膜が切れるまでの長さ(ラメラ長)を測定した。
<測定条件>
白金リング直径:14.40mm
線材直径:0.4mm
白金リング引下げ速度:12mm/min
接液感度:3mN/m
ステージ下降速度:0.2mm/s
ステージ上昇速度:0.2mm/s
プリウェット下降速度:0.7mm/s
プリウェット上昇速度:0.7mm/s
プリウェット浸漬距離:2.5mm
プリウェット時間:1s
検体調整用容器(シャーレ):50mlガラス瓶
繰り返し測定数:n=10回の平均値を1セットとし、2セットの平均値を採用した。
(長径1μm以上の固体粒子数の測定)
潤滑油組成物を30℃で3日間放置後、潤滑油組成物10mlを0.1μmのメンブランフィルターで濾過し、この濾過面を走査型電子顕微鏡で観察し、長径1μm以上の固体粒子を数えた。この濾過〜走査型電子顕微鏡観察までを10回繰り返し、固体粒子数の平均値を得た。
(フラーレン誘導体Aの合成)
フッ素化トリエチレングリコールモノブチルエーテル(化学式:CF
3CF
2CF
2CF
2(OCF
2CF
2)
2OCF
2CH
2OH、Exfluor社製、13g、24mmol)、ピリジン(2.3g、29mmol)をジクロロメタン(120mL)に加え、得られた溶液にトリフルオロメタンスルホン酸無水物(8.2g、29mmol)のジクロロメタン(120mL)溶液を滴下した。室温で16時間攪拌した後、反応混合物を純水(100mL)と飽和炭酸ナトリウム水溶液(100mL)で一度ずつ洗浄した。得られた有機層を濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮することで、下記の式(3)の構造を有する化合物1(15g、22mmol、収率92%)を淡黄色油状物質として得た。
【0027】
【化5】
上記で得た化合物1(6.5g、10mmol)、2,4,6−トリヒドロキシベンズアルデヒド(0.47g、3.0mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド(60mL)に加え、得られた溶液に炭酸セシウム(4.4g、14mmol)を加えた。70℃で2時間攪拌した後、反応混合物を室温まで冷やし、ロータリーエバポレーターで濃縮した。得られた混合物を純水(30mL)とAK―225(30mL)を用いて分液し、さらに水層をAK―225(20mL)で二度抽出した。得られた有機層を水洗し、硫酸マグネシウムにより乾燥した。濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮することで、赤褐色油状の粗生成物(5.2g)を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン―酢酸エチル(9:1))で精製することで、下記の式(4)の構造を有する化合物2を淡黄色油状物質(4.4g、2.5mmol、収率83%)として得た。
【0028】
【化6】
上記で得た化合物2(4.4g、2.5mmol)とN−メチルグリシン(2.0g、23mmol)をヘキサフルオロテトラクロロブタン(20mL)に加え、得られた混合物にC
60(0.95g、1.3mmol)のオルトジクロロベンゼン(40mL)溶液を速やかに加えた。ジムロート冷却管を取り付け、160℃に設定した湯浴で加熱し、4時間攪拌しながら還流した。室温まで冷やした反応混合物をロータリーエバポレーターで濃縮した後に、適量のAK―225に溶解させ濾過した。得られた溶液を純水(50mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムにより乾燥した。濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮することで、黒色油状の粗生成物(4.1g)を得た。
【0029】
次に、入口および出口をもつ肉厚のステンレス容器(内径20mm×深さ200mm)に、粗生成物を入れ、容器内の温度を60℃に保ちながら、超臨界二酸化炭素送液ポンプ(日本分光製、PU2086−CO2)を用いて、超臨界二酸化炭素を液化二酸化炭素換算流量5mL/分を容器に送った。容器内の圧力を15〜20MPaの範囲で変化させ、黒色油状のフラーレン誘導体Aを3.0g抽出した。下記の式に示したNMRの分析結果より、フラーレン誘導体Aは以下式(5)の構造を有することが確認された。
【0030】
1H−NMR δ(ppm):2.79(brs、6H)、4.39(br、18H)、6.22(brs、4H)。
【0031】
【化7】
(フラーレン誘導体Bの合成)
フラーレン誘導体Aの合成と同様に化合物1を作製した。得た化合物1(8.2g、12mmol)と、2',4',6'−トリヒドロキシアセトフェノン一水和物(0.57g、3.0mmol)とをN,N−ジメチルホルムアミド(80mL)に加え、得られた溶液に炭酸セシウム(5.9g、18mmol)を加えた。70℃で2時間攪拌した後、反応混合物を室温まで冷やし、ロータリーエバポレーターで濃縮した。得られた混合物を純水(30mL)とAK―225(30mL)を用いて分液し、さらに水層をAK―225(20mL)で二度抽出した。得られた有機層を水洗し、硫酸マグネシウムにより乾燥した。濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮することで、赤褐色油状の粗生成物(4.7g)を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン―酢酸エチル(9:1))で精製することで、下記の式(6)の構造を有する化合物3を黄褐色油状物質(3.7g、2.1mmol、収率69%)として得た。
【0032】
【化8】
上記で得た化合物3(3.7g、2.1mmol)とp−トルエンスルホニルヒドラジド(1.9g、10mmol)とをエタノール(50mL)とAK―225(30mL)に加え、得られた溶液に少量の塩酸を加えた。室温で4日攪拌した後、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去した。得られた混合物を純水(30mL)とAK―225(30mL)を用いて分液し、さらに水層をAK―225(20mL)で二度抽出した。得られた有機層を水洗し、硫酸マグネシウムにより乾燥した。濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮することで、黄褐色油状の粗生成物(4.5g)を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン―酢酸エチル(17:3))で精製することで、下記の式(7)の構造を有する化合物4を黄褐色油状物質(3.6g、1.9mmol、収率90%)として得た。
【0033】
【化9】
上記で得た化合物4(3.6g、1.9mmol)とナトリウムメトキシド(0.11g、2.1mmol)とをヘキサフルオロテトラクロロブタン(10mL)とピリジン(10mL)に加えた。得られた混合物を室温で30分攪拌した後、C
60(0.7g、0.97mmol)のオルトジクロロベンゼン(100mL)溶液を速やかに加えた。ジムロート冷却管を取り付け、180℃に設定した湯浴で加熱し、18時間攪拌しながら還流した。室温まで冷やした反応混合物をロータリーエバポレーターで濃縮し、反応溶媒を可能な限り取り除いた後に適量のAK―225に溶解させ濾過し、未反応のフラーレンを除去した。得られた溶液を純水(50mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムにより乾燥した。濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮することで、黒色油状の粗生成物(2.0g)を得た。
【0034】
次に、入口および出口をもつ肉厚のステンレス容器(内径20mm×深さ200mm)に、粗生成物を入れ、容器内の温度を60℃に保ちながら、超臨界二酸化炭素送液ポンプ(日本分光製、PU2086−CO2)を用いて、超臨界二酸化炭素を液化二酸化炭素換算流量5mL/分を容器に送った。容器内の圧力を12〜18MPaの範囲で変化させ、黒色油状のフラーレン誘導体Bを1.0g抽出した。下記に示したNMRの分析結果より、フラーレン誘導体Bは下記式(8)の構造を有することが確認された。
【0035】
1H−NMR δ(ppm):2.63(s、3H)、4.46(t、4H)、4.63(t、2H)、6.32(s、2H)。
【0036】
【化10】
(パーフルオロポリエーテル油)
パーフルオロポリエーテル油として、ダイキン工業(株)製 DEMNUM S−20(F(CF
2CF
2CF
2O)
jCF
2CF
3、平均分子量2700)、およびNOK(株)製:BRAAIERTA J−25(C
3F
7O〔CF(CF
3)CF
2O〕
kC
2F
5、kは2〜100の整数である)を用いる。
(実施例1)
基油としてBRAAIERTA J−25 100gに、フラーレン誘導体Aを0.001g添加し、室温でスターラーを用いて36時間撹拌して溶解し、潤滑油組成物を得た。得た潤滑油組成物のフラーレン誘導体の含有量は、基油100質量部に対して、0.0010質量部である。前記の測定方法で、潤滑油組成物の耐摩耗性評価、及びラメラ長と長径1μm以上の固体粒子数の測定を実施し、結果を表1に纏めた。なお、潤滑油組成物において、フラーレン誘導体の含有量は、基油100質量部に対して、フラーレン誘導体の仕込み量より算出した。
(実施例2〜9、比較例1〜4)
基油と、フラーレン誘導体と、その含有量を除き、実施例1と同様に潤滑油組成物を調製し、各測定を実施した。なお、基油と、フラーレン誘導体と、その含有量は、表1に記載の組成を有する潤滑油組成物となるようにそれぞれ調整した。
【0037】
【表1】
表1から、明らかなとおり、フラーレン誘導体を添加していない比較例1、2と比べて、実施例1〜9の摩耗痕径はいずれも小さくなり、ラメラ長が長くなって、優れた耐摩耗性、及び成膜性を有することを示した。また、実施例1〜3には、フラーレン誘導体の含有量の増加とともに、摩耗痕径の縮小とラメラ長の延長が観察された。しかしながら、実施例4のフラーレン誘導体の含有量は、実施例3のフラーレン誘導体の含有量の2倍であることにも拘わらず、摩耗痕径がほぼ同じであることにより、フラーレン誘導体の含有量が一定値を超えると、フラーレン誘導体の含有量が上がっても、さらなる耐摩耗性の改善効果が少ないことが分かった。さらに、比較例3,4から、フラーレン誘導体含有量が0.5000質量部を超えると、摩耗痕径が大きくなったり、焼付きが発生して、測定ができなくなったりすることが分かった。その原因は、測定過程中において、圧力によるフラーレン誘導体の分解が起こり、フラーレンの凝集粒子が形成したと考えられる。したがって、フラーレン誘導体の含有量は、基油100質量部に対して、0.0001〜0.2000質量部、好ましくは0.0010〜0.1000質量部のフッ素系潤滑油組成物が好適に用いることができることが分かった。
【0038】
本出願は2018年12月21日に出願した日本国特許出願第2018−240098号に基づくものであり、その全内容は参照することによりここに組み込まれる。