特許第6761946号(P6761946)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 愛知県の特許一覧

特許6761946巨大環状ウイルスゲノムDNAの単離方法
<>
  • 特許6761946-巨大環状ウイルスゲノムDNAの単離方法 図000004
  • 特許6761946-巨大環状ウイルスゲノムDNAの単離方法 図000005
  • 特許6761946-巨大環状ウイルスゲノムDNAの単離方法 図000006
  • 特許6761946-巨大環状ウイルスゲノムDNAの単離方法 図000007
  • 特許6761946-巨大環状ウイルスゲノムDNAの単離方法 図000008
  • 特許6761946-巨大環状ウイルスゲノムDNAの単離方法 図000009
  • 特許6761946-巨大環状ウイルスゲノムDNAの単離方法 図000010
  • 特許6761946-巨大環状ウイルスゲノムDNAの単離方法 図000011
  • 特許6761946-巨大環状ウイルスゲノムDNAの単離方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6761946
(24)【登録日】2020年9月10日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】巨大環状ウイルスゲノムDNAの単離方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20200917BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20200917BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20200917BHJP
   C12N 7/00 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   C12N15/10 ZZNA
   C12N15/09 110
   C12N15/63 Z
   C12N7/00
【請求項の数】14
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-17387(P2016-17387)
(22)【出願日】2016年2月1日
(65)【公開番号】特開2017-135992(P2017-135992A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2018年10月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】304031427
【氏名又は名称】愛知県
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(72)【発明者】
【氏名】神田 輝
【審査官】 池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2003/056023(WO,A1)
【文献】 Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., (1994) vol.91, no.13, p.6064-6068
【文献】 日本血栓止血学会誌 (2015) vol.26, no.5, p.534-540
【文献】 Transgenic Res. (2014) vol.23, issue 5, p.707-716
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 − 15/90
C12N 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス感染細胞から、約100kb以上のサイズの環状ウイルスゲノムDNAを単離する方法であって、前記細胞内の前記環状ウイルスゲノムDNAを一か所で切断するCRISPR/Casゲノム編集プラスミドと、前記切断部位両側のそれぞれの200〜1,000塩基対のDNA塩基配列を相同配列として含むターゲティングベクターとを、前記細胞内に導入し、それによって前記細胞内で前記ウイルスゲノムDNAの切断及び相同組換え修復を誘導する工程、並びに、前記修復された組換えウイルスゲノムDNAを回収する工程を含む、上記方法。
【請求項2】
前記ターゲティングベクターが少なくとも1種のレポーター蛋白質をコードする塩基配列を含む、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記ターゲティングベクターが大腸菌人工染色体(BAC)ベクターを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ターゲティングベクターが、前記相同配列のいずれかに、該相同配列内にあるウイルス遺伝子のCRISPR/Cas切断を回避するためのサイレントミューテーション配列を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記CRISPR/CasがCRISPR/Cas9である、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ウイルスが、エプスタイン−バーウイルス、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス、ヘルペスウイルスサイミリ、またはマウスヘルペスウイルス68(MHV−68)である、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ウイルス感染細胞が正常細胞またはがん細胞である、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記回収された組換えウイルスゲノムDNAの塩基配列を決定する工程をさらに含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載の方法によってウイルス感染細胞から組換え環状ウイルスゲノムDNAを単離する工程、前記組換え環状ウイルスゲノムDNAを細胞に導入して感染性ウイルス粒子を再構成する工程を含む、感染性ウイルス粒子再構成のための方法。
【請求項10】
(1)環状ウイルスゲノムDNAのCRISPR/Cas切断部位両側の200〜1,000塩基対の上流相同配列及び200〜1,000塩基対の下流相同配列、並びに少なくとも1種のレポーター蛋白質をコードする塩基配列を含み、かつ大腸菌人工染色体(BAC)ベクターを含むターゲティングベクターと、(2)CRISPR/Casゲノム編集プラスミドとを含む、約100kb以上のサイズの環状ウイルスゲノムDNAを単離するためのキット。
【請求項11】
前記CRISPR/CasがCRISPR/Cas9である、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
前記ウイルスが、エプスタイン−バーウイルス、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス、ヘルペスウイルスサイミリ、またはマウスヘルペスウイルス68(MHV−68)である、請求項10または11に記載のキット。
【請求項13】
前記ターゲッティングベクターが、前記上流相同配列または下流相同配列のいずれかに、該相同配列内にあるウイルス遺伝子のCRISPR/Cas切断を回避するためのサイレントミューテーション配列を含む、請求項10〜12のいずれか1項に記載のキット。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法で使用するための、請求項10〜13のいずれか1項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞に潜伏感染した巨大環状ウイルスゲノムDNAの単離方法、並びに、そのような方法に使用するためのターゲティングベクターに関する。
【0002】
本発明はまた、上記方法によって単離された巨大環状ウイルスゲノムDNAを使って、感染性ウイルス粒子を産生する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒトに病気を起こすウイルスとして大きさ約100キロベースを超える巨大なウイルスゲノムDNAをもつウイルスがある。例えばヒトがんウイルスであるエプスタイン・バー(EB)ウイルス、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスなどがその代表である。このような巨大なウイルスゲノムは細胞の核内において二本鎖環状DNAとして安定に維持されるが、感染細胞からこのような環状ウイルスゲノムDNAを単離することは一般に非常に困難である。
【0004】
巨大ウイルスゲノムDNAを細胞から単離する際に使用される方法には相同組換え法がある。具体的には、ターゲティングベクターとウイルスゲノムDNAとの相同組換えによりウイルスゲノムへ外来遺伝子を挿入し、当該外来遺伝子の働きによりウイルスゲノムDNAを大腸菌で増殖可能なクローンとして単離することができる(特許文献1及び非特許文献1)。しかしながら、このような組換えは極めて低効率でしか起こらないため、多くの労力と時間がかかるという難点があった。
【0005】
さらにまた、後述するように、本発明は、環状ウイルスゲノムをCRISPR/Casで切断することを含む。非特許文献2は、EBウイルス潜伏感染細胞において、CRISPR/Cas9による環状ウイルスゲノム切断が可能であることを記載している。また、非特許文献3は、EBウイルス潜伏感染細胞において、CRISPR/Cas9によるウイルスゲノム切断を応用してウイルスゲノムへの選択マーカー遺伝子を挿入可能であることを記載している。しかしながら、これらの文献のいずれもウイルスゲノムの単離を目的としたものではない。
【0006】
CRISPR/Casは、ゲノム編集技術の一つであり、近年、次世代型遺伝子改変技術として注目されており、細胞内の遺伝子のノックアウトやノックインを効率よく行うことが可能である(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US 6,291,246 B1
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Delecluse HJ, Hilsendegen T, Pich D, Zeidler R, Hammerschmidt W. Propagation and recovery of intact, infectious Epstein-Barr virus from prokaryotic to human cells. Proc Natl Acad Sci U S A. 95(14):8245-8250, 1998
【非特許文献2】Wang J, Quake SR. RNA-guided endonuclease provides a therapeutic strategy to cure latent herpesviridae infection. Proc Natl Acad Sci U S A. 111(36):13157-13162, 2014
【非特許文献3】Yuen KS, Chan CP, Wong NH, Ho CH, Ho TH, Lei T, Deng W, Tsao SW, Chen H, Kok KH, Jin DY. CRISPR/Cas9-mediated genome editing of Epstein-Barr virus in human cells. J Gen Virol. 2015 96(Pt 3):626-636, 2015
【非特許文献4】実験医学, Vol.32, No.11 (7月号) 2014(羊土社)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、相同組換え法による外来遺伝子の挿入は極めて低効率であり、これは、標的となる環状ウイルスゲノムDNAとターゲティングベクターとの間の相同組換え効率の低さに起因すると考えられる。
【0010】
本発明者らは、細胞に感染した巨大環状ウイルスゲノムDNAを効率よく単離する新しい方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは今回、ゲノム編集と呼ばれる遺伝子改変技術を応用することによって環状ウイルスゲノムDNAの一か所において二本鎖DNAを切断し、ターゲティングベクターによる当該切断部位の相同組換え修復を誘発し、それによって極めて効率よく環状ウイルスゲノムDNAを単離することができることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
本発明は、以下の特徴を含む。
(1)ウイルス感染細胞から、約100kb以上のサイズの環状ウイルスゲノムDNAを単離する方法であって、前記細胞内の前記環状ウイルスゲノムDNAを一か所で切断するCRISPR/Casゲノム編集プラスミドと、前記切断部位両側のそれぞれのDNA塩基配列を相同配列として含むターゲティングベクターとを、前記細胞内に導入し、それによって前記細胞内で前記ウイルスゲノムDNAの相同組換え修復を誘導する工程、並びに、前記修復された組換えウイルスゲノムDNAを回収する工程を含む、上記方法。
(2)前記切断部位両側のそれぞれのDNA塩基配列が200〜1,000塩基対のサイズである、(1)に記載の方法。
(3)前記ターゲティングベクターが少なくとも1種のレポーター蛋白質をコードする塩基配列を含む、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記ターゲティングベクターがプラスミドと大腸菌人工染色体(BAC)ベクターを組み合わせて含む、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記CRISPR/Cas切断部位がCRISPR/Cas切断に耐性を付与する変異配列を含む、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記CRISPR/Cas切断に耐性を付与する変異配列がウイルス遺伝子配列内に存在する、(5)に記載の方法。
(7)前記CRISPR/CasがCRISPR/Cas9である、(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)前記ウイルスが、エプスタイン-バーウイルス、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス、ヘルペスウイルスサイミリ、またはマウスヘルペスウイルス68(MHV-68)である、(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9)前記ウイルス感染細胞が正常細胞またはがん細胞である、(1)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10)前記回収された組換えウイルスゲノムDNAの塩基配列を決定する工程をさらに含む、(1)〜(9)のいずれかに記載の方法。
(11)(1)〜(10)のいずれかに記載の方法によってウイルス感染細胞から組換え環状ウイルスゲノムDNAを単離する工程、前記組換え環状ウイルスゲノムDNAを細胞に導入して感染性ウイルス粒子を再構成する工程を含む、感染性ウイルス粒子再構成のための方法。
(12)環状ウイルスゲノムDNAのCRISPR/Cas切断部位両側の200〜1,000塩基対上流配列及び200〜1,000塩基対下流配列、並びに少なくとも1種のレポーター蛋白質をコードする塩基配列を含む、ターゲティングベクター。
(13)前記CRISPR/CasがCRISPR/Cas9である、(12)に記載のターゲティングベクター。
(14)前記ターゲティングベクターがプラスミドと大腸菌人工染色体(BAC)ベクターを組み合わせて含む、(12)または(13)に記載のターゲティングベクター。
(15)前記ウイルスが、エプスタイン-バーウイルス、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス、ヘルペスウイルスサイミリ、またはマウスヘルペスウイルス68(MHV-68)である、(12)〜(14)のいずれかに記載のターゲティングベクター。
(16)前記CRISPR/Cas切断部位がCRISPR/Cas切断に耐性を付与する変異導入配列を含む、請求項(12)〜(15)のいずれかに記載のターゲティングベクター。
(17)前記CRISPR/Cas切断に耐性を付与する変異導入配列がウイルス遺伝子配列内に存在する、(16)に記載のターゲティングベクター。
(18)請求項(12)〜(17)のいずれかに記載のターゲティングベクターと、CRISPR/Casゲノム編集プラスミドとを含む、約100kb以上のサイズの環状ウイルスゲノムDNAを単離するためのキット。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、巨大環状ウイルスゲノムとして細胞に潜伏感染する様々な環状ウイルスゲノムDNAを従来法に比べてより効率的に単離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この図は、胃がん細胞に由来するEBウイルス(EBV)二本鎖環状ゲノム(エピゾーム)DNAをCRISPR/Cas9の仲介によりクローニングできることを示す。パネルAは、SNU-719(SNU719)細胞及びYCCEL1細胞内のEBVゲノムを、文献(Kanda T et al. (2007) J Cell Sci 120(Pt 9):1529-1539)に記載された蛍光in situハイブリダイゼーション法によって視覚化した図である。パネルBは、EBVゲノム内のCRISPR/Cas9標的部位の概略図、ドナープラスミド、及び相同組換えによるドナープラスミド組込み(ノックイン)の結果を示す。CRISPR/Cas9耐性BVRF1コード配列を含む上流相同アーム(a-b’-c-dとして示す。)及び下流相同アーム(b”-c-d-eとして示す。)を示す。ここで、aはSacI部位、bはBssHII部位、cはBVLF1 stop部位、dはBVRF1 ポリA配列部位、およびeはSacI部位をそれぞれ表し、また、b'およびb''はCRISPR/Cas9切断標的配列に変異導入した、あるいは切断標的配列の一部のみを含む配列からなる。さらにまた、pBSはアンピシリン耐性遺伝子(Ampr)を含むプラスミドpBluescript II-SK(アジレント・テクノロジー社)であり、GFPは緑色蛍光蛋白質であり、Hygrはハイグロマイシン耐性遺伝子であり、CmrはBACベクター配列に含まれるクロラムフェニコール耐性遺伝子を表す。相同組換えによるドナープラスミドノックインは、BVRF1コード配列及びBVLF1コード配列を温存したままEBウイルスエピゾーム内へのBACベクター配列及びマーカー遺伝子の挿入を生じさせる。パネルCは、レポータープラスミド(pCAG-EG-ebv-FP)の概略図であり、当該プラスミドは、CRISPR/Cas9による二本鎖DNAの切断、その後の相同組換え修復によるGFPコード配列の回復を評価するためのものである。HEK293細胞を図に示したプラスミドでトランスフェクションし、その2日後に細胞のGFP発現を調べた。pCAG-EG-mebv-FPは、CRISPR/Cas9耐性配列の挿入を有する。パネルDは、SNU719細胞及びYCCEL1細胞にpX330-sgEBV及びドナープラスミドを同時にトランスフェクションし、ハイグロマイシンによって選択した図であり、トランスフェクション3週間後において増殖するコロニーの位相差像とGFP蛍光像を示す。パネルEは、ハイグロマイシン耐性細胞プール内の相同組換え分子の検出を示す。ドナープラスミドとpX330-sgEBVを同時にトランスフェクションしたときのみPCR産物が出現することがわかる。
図2】この図は、SNU719細胞及びYCCEL1細胞から得られたEBV-BACクローン、ならびにトランスジーンを含まない標準EBVゲノムの推定制限酵素解析を示す。パネルAは、SNU719-BAC及びYCCEL1-BACの制限酵素解析である。DNAをBamHIで消化し、アガロースゲル電気泳動により分析し、その後、臭化エチジウム染色した。BamHI消化バンドを、EBV株B95-8のバンドに従ってアルファベット名で標識した。トランスジーンに由来するバンドを“tg”で表示した。パネルBは、SNU719-BAC及びYCCEL1-BACのDNAを大腸菌から精製し、PlasmidSafe ATP依存性ヌクレアーゼで処理し、臭化エチジウムを含有する0.6%アガロースゲル電気泳動に掛けた結果を示す。パネルCは、SNU719 EBVゲノム及びYCCEL1 EBVゲノム(トランスジーンを含まない)の BamHI消化断片の比較である。EBVゲノムが、EBV-wtのヌクレオチド1に相当する位置で直鎖状化された形で図示されている。YCCEL1 EBVはSNU719 EBVと比べて2つ多いBamHI Wリピートを有しており、そのうち1つが内部欠損を持つ(“w”として示される)。YCCEL1 EBVのBamHI E1断片は、BamHI部位 (*)が余分に存在するために、SNU719 EBVの対応するBamHI E断片より小さい(パネルA)。パネルDは、入手可能な他のEBVゲノムのDNA配列に基づいた系統樹である。この系統樹はスケールとなるように描かれており、枝の長さは部位あたりの塩基置換数に対応している。
図3】この図は、B細胞及び上皮細胞へのSNU719-BACウイルス及びYCCEL1-BACウイルスの感染を示す。パネルAは、EBV陰性Akata細胞にHEK293由来ウイルス産生細胞由来のSNU719-BACウイルス又はYCCEL1-BACウイルスのいずれかを感染させた結果を示す。非感染細胞(左)と感染細胞(中、右)を蛍光発色セルソーターのFL1チャネルとFL2チャネルを用いて分析し、GFP発現細胞を、FL1チャネル中の蛍光強度の右方シフトによって同定した。数字は、感染後のGFP陽性細胞のパーセンテージを表す。パネルBは、SNU719-BACウイルスによって樹立されたリンパ芽球細胞の位相差像(上)と、GFP蛍光像(下)を示す。パネルCは、EBV陽性胃がん細胞、リンパ芽球様細胞株、及びHDK1細胞 (非感染及びEBV感染)中のウイルス潜伏感染遺伝子発現のイムノブロット解析結果を示す。全細胞抽出物を、EBV既感染ヒト血清、抗LMP1抗体S-12、抗LMP2A抗体15F9、抗NDRG1抗体、及び抗GAPDH抗体を用いるイムノブロッティングによって分析した。パネルDは、SNU719-BACウイルスで安定に感染させたHDK1-K4DT細胞を蛍光免疫染色である。DAPIによる核染色 (上)、GFP蛍光 (中)、及びpan-keratin染色 (蛍光抗体法、下)を示す。パネルEは、TaqMan small RNAアッセイを用いて、親株である胃がん細胞、非感染HDK1-K4DT細胞、及びSNU719又はYCCEL1ウイルス感染HDK1-K4DT細胞でのウイルスマイクロRNAの相対発現量を決定した。マイクロRNAの異なる細胞間における相対発現量は、hsa-miR-16発現量の値で補正して決定した。SNU719細胞内のebv-miR-BART1-3pの平均発現量を100とした値を示す。
図4】この図は、SNU719 EBVゲノム及びYCCEL1 EBVゲノムのCRISPR/Cas9切断部位及び周辺配列を示す。標的配列及びPAM配列はそれぞれ塩基番号227-246、塩基番号224-226の部位にボックスによって示されている。SacI部位とBssHII部位は下線で示されている。BVRF1及びBVLF1の読取り枠(ORF)のストップコドンはそれぞれ塩基番号409-411、塩基番号329-331の部位に「TGA」、「AGT」としてボックスによって示されている。SNU719 EBVとYCCEL1 EBVとの間で異なるヌクレオチドは*印のない部位である。
図5】この図は、直鎖状ドナープラスミドではなく、環状ドナープラスミドのみが相同組換えによる外来遺伝子挿入できることを示す。SNU719細胞に対して、pX330-sgEBV、および環状ドナープラスミドもしくはSacIで直鎖状化したドナープラスミドのいずれかを混合してトランスフェクションした。PCR実験を図1Eに準じて行った。
図6A】この図は、SNU719細胞からのEBV-BACクローンの取得を示す。これらの細胞から得た複数のEBV-BACクローンのDNAをBamHI、EcoRI又は NcoIのいずれかで消化し、アガロースゲル電気泳動によって分析した。ナンバーサイン(#)で記したクローンは、他のクローンと比較して僅かに異なる消化パターンを示した。
図6B】この図は、YCCEL1細胞からのEBV-BACクローンの取得を示す。これらの細胞から得た複数のEBV-BACクローンのDNAをBamHI、EcoRI又は NcoIのいずれかで消化し、アガロースゲル電気泳動によって分析した。ナンバーサイン(#)で記したクローンは、他のクローンと比較して僅かに異なる消化パターンを示した。
図7】この図は、SNU719-BAC DNA及びYCCEL1-BAC DNAのPacBioシークエンサーによる塩基配列決定の結果のまとめを示す。
図8】この図は、胃がん由来EBVのFamily of Repeats(FR)反復配列の一次DNA塩基配列を示す。各リピートユニットのパリンドロームコアに沿った配列を整列比較した。各リピートユニットの12bpパリンドロームコアを構成するヌクレオチドを太字で示し、当該パリンドロームコアのコンセンサスモチーフ(TAGCATATGCTA(配列番号19))にミスマッチがあるヌクレオチドを灰色で強調して示した。-7位及び+7位のヌクレオチドG, A, T及びCの濃淡を変えることで各リピートユニットの配向(向き)を強調した。図に示した亜領域IおよびIIの境界には、SNU719株とYCCEL1株の間で完全に保存された205塩基対の配列が存在する(黒線で囲まれた部分)。SNU719 EBV配列(DDBJアクセッションno. AP015015)及びYCCEL1 EBV配列(同AP015016)におけるヌクレオチド番号を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において本発明をさらに詳細に説明する。
1.巨大環状ウイルスゲノムDNAの単離方法
本発明は、第1の態様により、ウイルス感染細胞から、約100kb以上のサイズの環状ウイルスゲノムDNAを単離する方法であって、前記細胞内の前記環状ウイルスゲノムDNAを一か所で切断するCRISPR/Casゲノム編集プラスミドと、前記切断部位両側のそれぞれのDNA塩基配列を相同配列として含むターゲティングベクターとを前記細胞に導入し、それによって前記細胞内で前記ウイルスゲノムDNAの相同組換え修復を誘導する工程、並びに、前記修復された組換えウイルスゲノムDNAを回収する工程を含む、上記方法を提供する。
【0016】
環状ウイルスゲノムDNAの改変法としては、従来、Cre/loxPの部位特異的組換え系、トランスポゾン法などのゲノムのランダムな位置での置換、欠失、挿入などの改変を行う方法が使用されてきたが、上記のとおり、標的となる環状ウイルスゲノムDNAとターゲティングベクターとの間の相同組換え効率の低さに問題があった。これに対して、本発明の方法は、ウイルスゲノムの特定の位置でゲノム編集を可能にするCRISPR/Casシステムを利用する。その意味では、本発明は、CRISPR/Casシステムの新しい応用の一つを提案する。
【0017】
本明細書で使用する「巨大環状ウイルスゲノムDNA」は、約100kb以上300kb以下のサイズ、或いは、場合により300kbを超すサイズを有する二本鎖DNAである。
【0018】
DNAウイルスには、ウイルス粒子内では直鎖状二本鎖DNAゲノムをもちながら、細胞核内においてウイルスゲノムが環状化して二本鎖環状DNA(エピゾーム)として安定に維持されるものがある。本発明で対象とするのはこのようなウイルスのうち大きさ100kb以上の巨大な二本鎖環状DNAとして細胞内に維持されるウイルスである。このようなウイルスには、例えばヒトを自然宿主とするエプスタイン-バー(EB)ウイルス、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス、サルを自然宿主とするヘルペスウイルスサイミリ、マウスを自然宿主とするマウスヘルペスウイルス68(MHV-68)など、すなわち腫瘍ウイルスを含むウイルス、が包含される。
【0019】
本発明の方法では、環状ウイルスゲノムDNAを該ウイルスが感染した細胞から単離する。このような細胞としては、上記のようなウイルスが特異的に感染する細胞が好ましく、正常細胞又は腫瘍細胞などの疾患細胞が含まれる。
【0020】
EBウイルスが感染する細胞、とりわけ腫瘍原性に関与する細胞の例は、B細胞(Burkittリンパ腫、移植後リンパ球増殖性疾患、Hodgkinリンパ腫など)、T細胞あるいはNK細胞(鼻性T/NKリンパ腫など)、上皮由来細胞(咽頭癌、胃癌など)などである。本発明を適用可能な細胞株として、胃癌由来細胞株であるSNU719細胞、YCCEL1細胞(以上は実施例として後述)、バーキットリンパ腫由来Akata細胞、P3HR-1細胞、Daudi細胞、NKリンパ腫由来のSNK6細胞、SNK1株、SNT8、上咽頭癌由来細胞であるC666-1、さらに様々な個人由来のリンパ芽球様細胞株などがある。
【0021】
カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスが感染する細胞の例は、原発性体液性リンパ腫細胞、血管内皮細胞、B細胞などである。本発明を適用可能な細胞株として、原発性体液性リンパ腫細胞株であるBC-1, BC-2, BC-3, BC-5, BCP-1, BCBL-1, BCS-6, JCS-1, PEL-5などがある。
【0022】
ヘルペスウイルスサイミリが感染した細胞の例は、リスザル(squirrel monkey)のT細胞である。本発明を適用可能な細胞株として、ヒト肺癌細胞株A549にヘルペスウイルスサイミリを潜伏感染させた細胞株が樹立されている。
【0023】
マウスヘルペスウイルス68が感染した細胞の例は、モリアカネズミの上皮細胞やB細胞である。
【0024】
本発明の環状ウイルスゲノムDNAの単離方法では、2種類のベクター(好ましくはプラスミド)を使用する。具体的には、一方のベクターは、ウイルス感染細胞内の環状ウイルスゲノムDNAを一か所で切断するCRISPR/Casゲノム編集プラスミドであり、他方のベクターは、前記切断部位両側のそれぞれのDNA塩基配列を相同配列として含むターゲティングベクターである。
【0025】
もし上記ターゲティングベクターがCRISPR/Cas切断部位を含まざるを得ない場合は、該CRISPR/Cas切断部位に変異を導入してCRISPR/Cas切断に耐性となった変異配列を含むことが可能である。当該CRISPR/Cas切断に耐性を付与する変異配列は、好ましくは上記ウイルス遺伝子配列内に存在する。本発明の方法では環状ウイルスゲノムDNAを単離し、その後感染性ウイルス粒子の産生を行うため、ウイルス遺伝子の機能を破壊することは望ましくないからである。
【0026】
本明細書で使用する「ターゲティングベクター」なる用語は、相同組換え法において、標的遺伝子との間で組換えを起こすために使われる遺伝子の運び屋(ベクター)のことであり、ドナーベクター(あるいはドナープラスミド)とも称される。このベクターは、外来遺伝子部分と、その両側に配置される標的遺伝子の相同配列とを含む。
【0027】
本明細書で使用する「相同組換え」なる用語は、相同な塩基配列(すなわち、相同配列)を介して起こる遺伝子組換えを指し、遺伝子の修復に使用されるメカニズムの一つとして知られている。相同組換えによる遺伝子修復を「相同組換え修復」という。
【0028】
CRISPR/Casゲノム編集プラスミドは、公知のプラスミドであり、好ましくはCRISPR/Cas9ゲノム編集プラスミドである。
【0029】
「CRISPR」は「Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats」の略であり、細菌類がファージに対する獲得免疫機構として防御的に機能するために本来的にもつDNA領域である。CRISPRはリピート配列とスペーサー配列という2種類のDNA配列の繰り返しによって構成され、CRISPRの上流にはATに富む領域(リーダー配列)が存在し、さらに上流にはCRISPR関連遺伝子(Cas遺伝子群)が存在する。CRISPR領域は一連のpre-crRNAとして転写された後、Cas蛋白質複合体によってリピート配列が切断されてcrRNAとなり、このcrRNAは別のCas蛋白質と複合体を形成し、スペーサー配列と相補的な配列を認識し切断する。
【0030】
CRISPR/Casゲノム編集プラスミドは、CRISPR-Casシステムとも呼ばれ、ゲノムDNAの二本鎖を平滑末端となるように切断してゲノム配列の特定の場所を欠失、置換又は挿入することを可能にする新しい遺伝子改変技術である(Cong L et al., Science 2013; 339: 819-823; Mali P et al., Science 2013; 339: 823-826)。
【0031】
CRISPR-Casゲノム編集プラスミドは、DNAに二本鎖切断を導入するために、CRISPR RNA (crRNA)部分とトランス活性化crRNA(tracrRNA; trans-activating crRNA)部分の融合体であるキメラsgRNA(guide RNAもしくはgRNA)の塩基配列、並びにCas蛋白質(好ましくは、Cas9)をコードする塩基配列を含むことができる。例えばEBウイルスなどのウイルスゲノムDNAを切断標的とする場合は、公知のCRISPRdirect(東京大学、http://crispr.dbcls.jp/)、CRISPR design web site(MIT、http://crispr.mit.edu/、Hsu PD et al., Nat. Biotechnol. 31: 827-832, 2013)などを用いて標的DNA配列(例えば図4に示される配列)内に存在するPAMモチーフおよびその上流20塩基対を検索、同定することができる。
【0032】
Cas9は、CRISPR系によって産生されるエンドヌクレアーゼ酵素であり、crRNAとtracrRNAに導かれて配列特異的にゲノムDNAに結合し、DNAを切断する(Deltcheva, E et al., Nature 2011; 471(7340):602-607)。tracrRNA-crRNAのヘアピン構造を模倣したガイドRNA(sgRNA)を使用することにより、一分子のsgRNAでCas9によるDNA切断を誘起する(Jinek, M M et al., Science 2012; 337:816-821)。Cas9によるDNA切断の特異性はsgRNAによって規定されており、sgRNAはPAMモチーフを必要とする(Marraffini, L A and Sontheimer, E J, Nature 2010; 463: 568)。
【0033】
CRISPR/Cas9ゲノム編集プラスミドは、sgRNAの5'側の20塩基で標的配列を認識し、標的配列の直下に存在するPAM配列の上流3つ目と4つ目の間をCas9が切断し平滑末端が生じることが知られている。
【0034】
CRISPR/Cas9ゲノム編集プラスミドは、例えばCas9 SmartNucleaseTM All-in-one Vector (System Biosciences)、pCas-GuideTM (OriGene)、pLV-U6g-EPCG(Sigma-Aldrich)、pGuide-it(TAKARA)などの製品を、切断される標的に適したsgRNAをCRISPR/Cas9システムに挿入するために利用することができる。また、CRISPR/Cas9システムについては、特許文献、例えばEP2764103A2、WO2014/093661A3などにも記載されている。
【0035】
次に、もう一つのベクターである、すなわち、切断部位両側のそれぞれのDNA塩基配列を相同配列として含むターゲティングベクターは、環状ウイルスゲノムDNAの単離のための後述の実施例1(2)及び図1B(ドナープラスミド)に記載した方法に従って作製可能である。
【0036】
先ず、上記例示のような環状ウイルスゲノムDNAの(特定の遺伝子の)CRISPR/Cas(好ましくは、CRISPR/Cas9)切断部位を特定する。次いで、当該切断部位を含むDNA断片を好ましくはPCR(polymerase chain reaction)により増幅する。その際、切断部位の両側が好ましくは200〜1,000、さらに好ましくは200〜900塩基対となるようにプライマー(オリゴヌクレオチド)を合成する。当該切断部位を含むDNA断片のサイズは、1,000塩基対を超えてもよい。このとき、プライマー内にあらかじめ制限酵素部位をデザインしておくことで、このDNA断片を各種プラスミドベクターにクローン化することができる。クローン化したDNA断片の塩基配列は公知の塩基配列決定法(例えばSanger法など)を用いて決定することができる。
【0037】
ドナープラスミド内にCRISPR/Cas切断部位を持つ特定ウイルス遺伝子を持つ場合には、この切断部位のDNA塩基配列内にCRISPR/Cas切断に耐性を付与する変異配列を導入することでドナープラスミドのCRISPR/Casによる切断を回避できる。前記切断部位を含む配列の好ましい変異は、例えばサイレントミューテーションであり、これはコドン内のヌクレオチドを変更するが、コードするアミノ酸を変えないようにする変異である。
【0038】
本発明のターゲティングベクターは、プラスミドおよび大腸菌人工染色体(BAC)ベクター(大サイズのDNA配列を挿入可能なベクター)を組み合わせて含むものを基本とする。
【0039】
ターゲティングベクターにはさらに、少なくとも1種のレポーター蛋白質(又は選択マーカー)をコードする塩基配列を含有させることができる。レポーター蛋白質(又は選択マーカー)は、例えば、蛍光蛋白質(例えばGFP、EGFPなど)、抗生物質耐性遺伝子(例えばアンピシリン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子など)によりコードされる蛋白質などであるが、これらに限定されない。
【0040】
ターゲティングベクターの例は、図1Bに示されるドナープラスミドである。このプラスミドは、EBウイルスの環状ゲノムDNA(約175kb)のBVRF1遺伝子およびBVLF1遺伝子にわたる領域内、とりわけBVRF1遺伝子内、のCRISPR/Cas9切断部位の両側の塩基配列と相同である230bp相同配列(BVRF1側)と850bp相同配列(BVLF1側)をpBSベクター(Amprを含む)に挿入し、両者の間にBACベクター配列(Cmrを含む)、Hygr, GFPの各レポーター蛋白質/選択マーカーをコードするDNAを図に示すような配向で挿入して作製したものである。(図1B、および図1の説明参照)。
【0041】
本発明の方法では、上記のCRISPR/Casゲノム編集プラスミドと、上記のターゲティングベクターとを上記細胞に導入し、それによって上記細胞内で上記ウイルスゲノムDNAの相同組換え修復を誘導し、その後、相同組換え修復により生じた組換えウイルスゲノムDNAを回収する。
【0042】
細胞内への2つのベクターの導入は、トランスフェクションによって行うことができる。このとき、例えばリポフェクション法、エレクトロポレーションなどの公知の手法を用いて当該ベクターを細胞内に容易に導入することができる(Green and Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 4th edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press)。
【0043】
組換えウイルスゲノムDNAの回収は、細胞からエピゾーム分画を濃縮して回収する方法を用いる。すなわち界面活性剤を含むアルカリ溶液で処理した後、強く攪拌することでゲノムDNAを機械的に切断し、その後蛋白質を除去してエタノール沈殿することで、エピゾーム分画を濃縮できる。取得したエピゾーム分画の一部を用いて、エレクトロポレーションにより大腸菌に導入し、クロラムフェニコール耐性のコロニーを取得する。得られたクロラムフェニコール耐性コロニーについて、EBウイルスゲノムDNAの有無をコロニーダイレクトPCR法により調べることで、目的とする組換えウイルスゲノムDNAを保持するコロニーを選別する。その後、該大腸菌からウイルスゲノムDNAを回収し、制限酵素解析を行い、ウイルスゲノムDNAがクローン化されていることを確認する。必要に応じて、さらに組換えウイルスゲノムDNAの塩基配列を決定する。塩基配列を決定するための方法として、例えば次世代シークエンス法(例えばPacBioシークエンサー(Pacific Biosciences社))を挙げることができる。
【0044】
本発明はさらに、上記1.で説明した方法によってウイルス感染細胞から組換え環状ウイルスゲノムDNAを単離する工程、前記組換え環状ウイルスゲノムDNAを細胞に導入して感染性ウイルス粒子を再構成する工程を含む、感染性ウイルス粒子再構成のための方法を提供する。
【0045】
具体的には、本発明は、上記1.で説明した方法によってウイルス感染細胞から組換え環状ウイルスゲノムDNAを単離する工程、該組換え環状ウイルスゲノムDNAを細胞に導入し該環状ウイルスゲノムDNAを安定に維持する細胞を樹立する工程、並びに、樹立した細胞においてウイルス産生誘導をかけて感染性ウイルス粒子を産生し、培養上清中に放出された感染性ウイルス粒子を回収する工程を含む、感染性ウイルス粒子を再構成する方法を提供する。
【0046】
上記細胞は、ウイルス粒子を産生可能であるならばいずれの細胞も使用できる、好ましい細胞は、HEK293細胞、EBウイルス陰性Akata細胞、AGS細胞などである。
【0047】
2.ターゲティングベクター
本発明はさらに、環状ウイルスゲノムDNAのCRISPR/Cas切断部位両側の200〜1,000塩基対上流配列及び200〜1,000塩基対下流配列、並びに少なくとも1種のレポーター蛋白質をコードする塩基配列を含む、ターゲティングベクターを提供する。
上記CRISPR/Casは、上記のとおり、好ましくはCRISPR/Cas9である。
【0048】
本発明のターゲティングベクターは、好ましくは大腸菌人工染色体(BAC)ベクターを含み、さらに好ましくはプラスミドと大腸菌人工染色体(BAC)ベクターを組み合わせて含む。
【0049】
上記ウイルスとして、上で説明したようなエプスタイン-バーウイルス、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス、ヘルペスウイルスサイミリ、またはマウスヘルペスウイルス68(MHV-68)を例示できる。
【0050】
さらにまた、本発明のターゲティングベクターにおいて、上記CRISPR/Cas切断部位がCRISPR/Cas切断に耐性を付与する変異導入配列を含むことができる。そのような変異導入配列は、ウイルス遺伝子配列内に存在することが好ましい。
【0051】
具体的には、本発明のターゲティングベクターは、EBウイルスの環状ゲノムDNAのBVRF1遺伝子-BVLF1遺伝子内にあるCRISPR/Cas9切断部位の上流約200塩基対配列及び下流約850塩基対配列、少なくとも1種のレポーター蛋白質好ましくはGFP蛋白質をコードする塩基配列を含み、少なくとも1種の薬剤耐性遺伝子好ましくはハイグロマイシン耐性遺伝子あるいはピューロマイシン耐性遺伝子を含み、さらに大腸菌人工染色体(BAC)ベクター配列を含むターゲティングベクターを提供する。
【0052】
ターゲティングベクターの具体的な例は、非限定的に、図1Bに示されるドナープラスミドである。
【0053】
このターゲティングベクターは、環状EBVゲノムDNA上において、上記BVRF1遺伝子部位以外の部位をCRISPR/Casの標的とするように構築することもできる。該部位への外来遺伝子の挿入によりウイルス遺伝子の本来の機能を妨げないような部位を選択することが望ましい。こうした候補部位は、ウイルスゲノム上に多数存在し、例えばウイルス遺伝子のコーディング配列以外の部位である。あるいは、上記のとおり、ウイルス遺伝子の本来の機能を妨げないようにするために、上記のCRISPR/Cas切断に耐性を付与する変異をウイルス遺伝子配列に導入することができる。
【0054】
本発明はさらに、上記のターゲティングベクターと、上記のCRISPR/Casゲノム編集プラスミドとを含む、約100kb以上のサイズの環状ウイルスゲノムDNAを単離するためのキットを包含する。
【0055】
ターゲティングベクターおよびCRISPR/Casゲノム編集プラスミドについては上で説明したものをキットに含めることができる。キットにはさらに、環状ウイルスゲノムDNAを単離するための使用説明書などを含めることできる。
【実施例】
【0056】
本発明を以下の実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は当該実施例によって制限されるものではない。
【0057】
[実施例1]実験手順
以下に本発明に関わる実験手順を説明する。
【0058】
(1)細胞培養
SNU719細胞は、10% FBS及びペニシリン-ストレプトマイシン(PC-SM)を補充したRPMI 1640培地中で培養された。
【0059】
YCCEL1細胞は、10% FBS、非必須アミノ酸及びPC-SMを補充した最少必須培地中で培養された。
【0060】
HEK293細胞は、組換えウイルス産生のために使用されたが、この細胞は、公知の手法(Kanda T, et al. (2015) J Virol 89(5):2684-2697)によって培養された。
【0061】
HDK1-K4DT細胞は、補充成分(Invitrogen 17005-042)を含むケラチノサイトSFM中で培養された。
【0062】
(2)CRISPR/Cas9及びドナープラスミドの構築
野生型EBV(EBV-wt)の134,663ヌクレオチド番号に相当するBssHII部位をCRISPR/Cas9切断部位として選択した(図4)。この部位は、本発明者らがこれまでEBVゲノム標的の中でトランスジーン標的部位として使用したものである(Kanda T, et al. (2015) J Virol 89(5):2684-2697)。アニール化されたオリゴヌクレオチド(sgEBV top(配列番号1)及びsgEBV bottom(配列番号2))をpX330のBbsI部位にクローン化しpX330-sgEBVを得た。
【0063】
EBV SacI upプライマー(配列番号3)とEBV SacI downプライマー(配列番号4)を用いて標的領域に亘るSNU719 EBV (又は、YCCEL1 EBV)の SacI断片(1088 bp)をPCR増幅した(図4)。PCR産物をBamHI及びEcoRIによって消化し、pCAG-EGxxFP中にクローン化してレポータープラスミドpCAG-EG-ebv-FPを得た。mBVRF forプライマー(配列番号5)とmBVRF revプライマー(配列番号6)を用いてPCR法による変異導入法(Shimada A, et al. (2009) Genes Dev 23(1):18-23)によりBVRF1コード配列にサイレントミューテーションを導入して pCAG-EG-mebv-FPを得た。
【0064】
PCR増幅されたSacI断片をpBluescript II-SKにクローン化してpBS-SNU719 (EBV上流側をベクターのKpnI側に配置した)を作製した。BssHII inv upプライマー(配列番号7)及びBssHII inv downプライマー(配列番号8)を用いて、単一のPacI部位をCRISPR/Cas9標的部位のところに作製し、pBS-SNU719-PacIを得た。M13-20プライマー(配列番号9)、mBVRF1 revプライマー(配列番号6)、mBVRF1 forプライマー(配列番号5)及びPacI revプライマー(配列番号10)、並びにpBS-SNU719 (鋳型)を用いてBVRF1サイレントミューテーションを有するPCR産物を得た。この後、PCR産物をSpeIとPacIによって消化し、pBS-SNU719-PacIの対応する部位にクローン化してpBS-SNU719-BVRF1(+)-PacIを得た。PacI断片(これは、BACベクター配列、EGFP遺伝子及びハイグロマイシン耐性遺伝子からなる(Kanda T, et al. (2015) J Virol 89(5):2684-2697))をpBS-SNU719-BVRF1(+)-PacIのPacI部位にクローン化してSNU719 EBVを標的とするドナープラスミドを作製した。
【0065】
YCCEL1 EBVの上流相同領域はSNU719 EBVの相同領域と同じであるが、一方、その下流相同領域は同じではない (図4(配列番号17及び18))。pBS-SNU-PacIの上流相同領域をYCCEL1 EBV DNAと置換するために、pBS-SNU-PacIのTth111I-HpaI断片を、対応するYCCEL1 EBV断片と置換してpBS-YCCEL1-PacIを得た。YCCEL1 EBVを標的とするドナープラスミドを上記の方法に従って構築した。
【0066】
(3)EBVゲノム標的化と大腸菌コロニースクリーニング
6ウエルディッシュのウエル内でSNU719細胞(又は、YCCEL1細胞)を平板培養し、Viafect(登録商標)試薬(Promega)を用いて、0.4μgのドナープラスミドと4μgのpX330-sgRNA(+) (YCCEL1細胞については各2μg)でトランスフェクションした。トランスフェクション後2日目に、得られた細胞を10cmディッシュ上にまきなおし、その後、ハイグロマイシン(SNU719細胞の場合30μg/ml、YCCEL1細胞の場合50μg/ml)による選択を行った。トランスフェクションして3週間後にハイグロマイシン耐性細胞を集めて、その細胞から既に報告した方法により(Kanda T et al. (2004) J Virol 78(13):7004-7015)エピゾームDNAを調製した。
【0067】
エピゾームDNAの一部をPCR分析に供した。上流領域を増幅するためにrt recom forプライマー(配列番号11)及びBAC vec downプライマー(配列番号12)を用いた。一方、下流領域を増幅するために、lt recom forプライマー(配列番号13)及びlt recom downプライマー(配列番号14)を用いた。エピソームDNAの残りの一部を用いてDH10B ElectroMaxコンピテント細胞 (Invitrogen)を形質転換してクロラムフェニコール耐性大腸菌コロニーを得た。このコロニーを、BamW upプライマー(配列番号15)及びBamW downプライマー(配列番号16)を用いたコロニーダイレクトPCR法によってスクリーニングし、EBV BamHI W断片の存在を調べた。PCR産物が得られた大腸菌コロニーを増殖し、BACmid DNAをミニプレパレーション法によって抽出した(Kanda T et al. (2004) J Virol 78(13):7004-7015))。
【0068】
(4)EBV-BAC DNAの配列決定
EBV-BACクローンDNAをNucleobond BAC100 kit (Macherey-Nagel,ドイツ)を用いて調製した。混在している大腸菌ゲノムDNAは、Plasmid-Safe ATP-dependent DNase (Epicentre)を用いて説明書に従って酵素消化して除去した。PacBio配列決定法によって得られたコンティグ配列をトリミングして重複配列とトランスジーン配列を除去し、SNU719 EBVゲノム及びYCCEL1 EBVゲノムの配列を得た。EBV-wtのオープンリーディングフレーム(ORF)に相当するほぼすべてのORFが決定された。2個のORFにおいて配列決定エラーによると推定される内部終止コドンが認められたが、Sanger配列決定の結果を参照することによって修復された。
【0069】
(5)系統学的解析
EBVゲノム配列は、GenBank: GD1 (accession number AY961628.3), Akata (KC207813.1), wt (NC_007605.1), M81 (KF373730), Mutu (KC207814.1)から取得した。ゲノムDNAの整列比較を行う際は、EBVゲノム上の反復配列(すなわち、Family of Repeats配列、インターナルリピート1-4、及びターミナルリピート)は除外した。系統樹は、Tamura-Neiモデル(Tamura K & Nei M (1993) Mol Biol Evol 10(3):512-526)をベースにしたMaximum Likelihood法とGamma distribution法(部位間の進化率の差をモデル化するために使用される。)により作製した。
【0070】
(6)不死化ケラチノサイトへのEBV感染
文献記載の方法に従ってHDK1-K4DT細胞にEBVレセプターであるCR2をレトロウイルスベクターで発現させた(Kanda T et al. (2015) J Virol 89(5):2684-2697)。次いで、得られたHDK1-CR2細胞にSNU719-BACウイルス又はYCCEL1-BACウイルスを感染させた。EBVの安定感染したHDK1-CR2細胞集団をハイグロマイシン選択 (5μg/ml)によって得た。
【0071】
[実施例2]CRISPR/Cas9によるウイルスエピゾームの切断
この実施例では、CRISPR/Cas9によるウイルスエピソームDNAの切断によってその切断部位に高効率でトランスジーンを挿入できることを示す。
【0072】
SNU719及びYCCEL1は、韓国胃がん患者から樹立されたEBV陽性胃がん細胞株である(Oh ST, et al. (2004) Virology 320(2):330-336、Kim do N, et al. (2013) J Gen Virol 94(Pt 3):497-506)。蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH)により、 EBVゲノム由来のシグナルが間期核内に点在すること、またシグナルが細胞分裂期染色体に付着していることから(図1A)、EBVゲノムが二本鎖環状DNAすなわちエピゾームとして維持されていることが考えられた。SNU719細胞のEBVエピゾームを従来の相同組換え法によりBACベクターにクローン化することを試みたが、不成功に終わった(データ示さず)。これは相同組換えの効率が低すぎたためと考えられた。
【0073】
従って、本発明者らは、CRISPR/Cas9によるゲノム編集技術を使用して相同組換えの効率の向上を図った。BVRF1のORF内のDNA配列を標的部位として選択した (図1B及び図6)。まずhCas9発現カセット、及びEBV DNAを標的とするガイドRNAとを組み込んだプラスミド(pX330-sgEBV)を構築した。最初にpX330-sgEBV がEBVゲノム内の標的配列を切断する効率を、標的EBV配列をGFP ORF間に組み込んだGFPレポータープラスミド(Mashiko D et al. (2013) Sci Rep 3:3355)(図1C)を用いて確認した。レポータープラスミドとpX330-sgEBVとをHEK293細胞内にトランスフェクションすると、48時間後に強いEGFP発現が観察された。このことは、EBV標的配列の切断が、相同組換え修復によるGFPコーディング配列の再構成を惹起したことを示す(図1C)。同じレポーター遺伝子系を用いて、CRISPR/Cas9系がSNU719細胞及びYCCEL1細胞内でも同様に機能することが実証された(データ示さず)。
【0074】
本発明者らは、次いでBACベクター配列、ハイグロマイシン耐性遺伝子、並びにGFP遺伝子をEBVゲノム切断部位に挿入するためのドナープラスミドを構築した(図1B)。短い上流及び下流相同領域(図1B中の230bp及び850bp DNA断片)をドナープラスミド中に組み込んだ。EBV DNA切断部位はBVRF1遺伝子(ウイルス産生において必須である小カプシド蛋白質をコードする。)の内部に位置する(図1B)ため、本発明者らは、サイレントミューテーションを導入することによってCRISPR/Cas9耐性BVRF1遺伝子を構築し、当該遺伝子をドナープラスミドの上流相同領域に組み込んだ。この変異導入されたDNA断片は実際にCRISPR/Cas9によるDNA切断に対し耐性になることが証明された(図1C)。
【0075】
上記のドナープラスミドとpX330 (sgRNAを含まない。)又はpX330-sgEBVのいずれかを SNU719細胞内に同時にトランスフェクションし、得られた細胞を3週間ハイグロマイシン選択した。細胞に上記ドナープラスミドとpX330-sgEBV の両者をトランスフェクションすると、ハイグロマイシン耐性、かつGFP陽性である細胞コロニーが現れた(図1D)が、一方、pX330とトランスフェクションした時にはGFP陽性細胞はほとんど出現しなかった。ディッシュ上に出現したハイグロマイシン耐性細胞コロニーを集めて、エピゾームDNAを調製した。エピゾームDNAサンプルをPCRで解析した結果、ドナープラスミドとpX330-sgEBVの両者をトランスフェクションした時のみ相同組換え修復が起きることが確認され、pX330を用いた場合には修復が起きないことが判明した(図1E)。また、直鎖状ドナープラスミドでなく、環状ドナープラスミドのみが相同組換え修復を誘導することが判明した(図5)。エピゾームDNAの一部を用いて大腸菌を形質転換し、得られたクロラムフェニコール耐性大腸菌コロニーを、EBVインターナルリピート1(IR1)配列の存在についてPCRにより選抜した。その結果、SNU719由来のEBV-BACクローンが容易に同定された(図6A)。全クロラムフェニコール耐性コロニーの中からEBV-BACクローンを得る頻度は8.8%(3/34)から47.8%(22/46)であった。得られたEBV-BACクローンのほとんどが同じBamHI及びEcoRI消化パターンを示したが、一方、異なる消化パターンのクローンも少し例外的に存在した(図6A,B)。これらの例外的なクローンは人工的に再構成されたものであるのか、或いは生物学的な意味のあるマイナーなEBV集団を表すのかは、今のところ不明である。
【0076】
同様の実験手法によりYCCEL1由来のEBV-BACクローンを得た(図1D図1E及び図6B)。このことは、当該実験方法の汎用性の高さを示している。
【0077】
[実施例3]胃がん由来EBVゲノムのPacBio単一分子リアルタイム配列決定法による全塩基配列決定
本発明者らは、代表的な制限酵素消化パターンを示すEBV-BAC クローンをそれぞれSNU719 EBV-BAC (SNU719-BAC)及びYCCEL1 EBV-BAC (YCCEL1-BAC)として選択し、各クローンをさらに詳細に解析した(図2A)。BamHI及びEcoRI消化バンドをサザンブロットにより分析し(データ示さず)、各バンドがEBV B95-8株DNAから得られるBamHI及びEcoRI消化バンドのどのバンドに対応するのか確定した(図2A及び図6A,B)。SNU719-BAC及びYCCEL1-BACは有意に異なる制限酵素消化パターンを示すことが分かった。精製されたEBV-BACクローンのDNAをDNA配列決定に供した(図2B)。EBV株YCCEL1のゲノム配列はこれまでハイブリッド捕捉法によって決定されている(GenBankアクセッションno. LN827561.1)が、このゲノム内に存在する数多くの反復領域の塩基配列は依然決定されていない。そこで本発明者らは、従来採用されていたシークエンス法とは異なる方法としてPacBio単一分子リアルタイム配列決定法を採用した(Eid J et al. (2009) Science 323(5910):133-138;Tombacz D et al. (2014) Genome Announc 2(4))。その結果、平均長13 kbの長いリード(read、塩基配列情報)が得られ(図7)、SNU719 EBV-BACクローン及びYCCEL1 EBV-BACクローンの両方について全長180kb以上のコンティグ(contig)を構築することができた。EBV-BAC クローンのBamHI及びEcoRI消化DNA断片の実際のサイズは、得られたコンティグ配列と非常によく対応していた(図2A及び図6A,6B)。
【0078】
その後、トランスジーン配列をEBV-BAC配列から除き、SNU719及びYCCEL1 EBVゲノムの配列を得た(アクセッションno. AP015015及び AP015016)。SNU719 EBV及び YCCEL1 EBVのゲノムサイズはそれぞれ169425 bp、177320 bpであった。このサイズの違いは、主にWリピート(インターナルリピート1, IR1)及びターミナルリピートのコピー数の違い(すなわちSNU719 EBV及び YCCEL1 EBV についてそれぞれ6コピー対7.6コピーのWリピート、5コピー対12コピーのターミナルリピート)に起因している(図2C)。また30 bpのパリンドロームリピートの集積配列であるFamily of repeatsは、サンガー法で配列決定することが困難であることが知られている(Kanda T et al. (2011) PLoS One 6(11):e27758)が、PacBio配列決定法によりFamily of repeatsの一次塩基配列も決定することができた。この結果により、SNU719株及びYCCEL1株EBVのFamily of repeats領域も、30 bpユニットが反対方向に並ぶ亜領域に分割できることを示した(図8)。
【0079】
SNU719 EBV及びYCCEL1 EBVのDNA配列を系統分類分析に供した。GenBankに寄託された5つの代表的EBVゲノム配列 [EBV-wt(de Jesus O, et al. (2003) J Gen Virol 84(Pt 6):1443-1450)、GD1(Zeng MS et al. (2005) J Virol 79(24):15323-15330)、M81(Tsai MH et al. (2013) Cell Rep 5(2):458-470)、Akata and Mutu(Lin Z, et al. (2013) J Virol 87(2):1172-1182)] を参照配列として使用した。SNU719 EBV及びYCCEL1 EBV(ともに韓国の胃がん患者に由来する。)は、GD1, M81(ともに中国のNPC患者に由来する。)及びAkata (日本のバーキットリンパ腫患者に由来する。)に近縁であるが、EBV-wt[B95.8 (US起源)及びRaji(アフリカのバーキットリンパ腫患者に由来する。)の配列の組み合せ]及びMutu (アフリカのバーキットリンパ腫患者に由来する。)と異なる(図2D)。これらの結果は、異なるEBV株が地理的に異なる地域 (東アジア、アフリカ諸国、及び西側諸国) に分布しているというこれまでの見方と一致する(Palser AL et al. (2015) J Virol 89(10):5222-5237;Tsai MH et al. (2013) Cell Rep 5(2):458-470;Feederle R et al. (2015) Curr Top Microbiol Immunol 390:119-148)。
【0080】
ウイルスゲノムDNAの蛋白質読み取り枠の解析(アノテーション解析)により、SNU719 EBV及び YCCEL1 EBVによってコードされるウイルス後期蛋白質のアミノ酸(a.a.)数がEBV-wtによってコードされるものとかなり異なることが示された(表1)。SNU719 EBV及びYCCEL1 EBV間のアミノ酸配列の比較により、LMP1 a.a.配列(100%同一)とEBNA2 a.a.配列(N末端のプロリンに富むドメインを除くと100%同一)が高度に保存されていることが示された。LMP2A a.a.配列(99.7%同一)及びEBNA1 a.a配列(インターナルグリシン-アラニンリピートを除くと99.7%同一)もまた株間で非常によく保存されているが、EBNA3類のa.a.配列は非常に異なっている。LF3読取り枠は、これまでの研究で指摘されてきたように保存されていなかった(Lin Z, et al. (2013) J. Virol. 87(2): 1172-1182)。
【0081】
これらの結果は、EBVエピゾームのBACクローニングと、その後のPacBio単一分子配列決定法が、種々のEBV株の完全配列を得るための強力なツールであることを示している。
【0082】
【表1】
【0083】
[実施例4]再構成されたウイルスによる細胞感染
本実施例では、上記の再構成ウイルスをB細胞及び上皮細胞に感染させることを示す。
親株である胃がん細胞SNU719及び YCCEL1細胞はウイルス産生できない。これに対して、本発明者らは、SNU719由来の、又は、YCCEL1由来のEBV-BACクローンのいずれかで安定的にトランスフェクションされたHEK293細胞が、感染性子孫ウイルスを産生できることを見出した(図3A)。初代Bリンパ球を上記組換えウイルスに感染させて、GFPを発現するリンパ芽球細胞系を樹立した(図3B)。50%形質転換濃度は、SNU719ウイルスの場合およそ104.5 TD50/ml、YCCEL1ウイルスの場合およそ104.3 TD50/mlであった。SNU719及びYCCEL1細胞は、EBNA1蛋白質のみを発現する1型潜伏感染状態(Oh ST et al. (2004) Virology 320(2):330-336;Kim do N et al. (2013) J Gen Virol 94(Pt 3):497-506)にあったが、樹立されたリンパ芽球様細胞株は3型潜伏感染状態となり、この細胞株はEBNA1, EBNA2, EBNA3A, EBNA3C, LMP1及びLMP2Aを発現した(図3C)。異なるウイルス株のウイルス潜伏感染蛋白質は電気泳動上異なるバンド移動度を示し、またこの結果は塩基配列から推定された蛋白質のサイズと非常によく対応していた(図3C及び表1)。
【0084】
本発明者らは、さらに組換えウイルスSNU719-BAC及びYCCEL1-BACが上皮細胞への安定な感染を達成できるかどうかを試験した。初代上皮細胞又はその不死化細胞にCR2を強制発現し、被感染細胞として使用した。初代上皮細胞は、上記ウイルスに一時的に感染してGFP蛋白質を発現したが、GFP陽性細胞は増殖しなかった(データ示さず)。これに対して、不死化したヒト皮膚ケラチノサイトHDK1-K4DT細胞(Egawa N, et al. (2012) J Virol 86(6):3276-3283)を被感染細胞として使用した場合は、GFP陽性細胞がハイグロマイシン選択下で増殖し、その結果として100% GFP陽性の細胞集団が樹立された(図3D)。感染したHDK1細胞は微量のEBNA1蛋白質のみを発現し、他のウイルス潜伏感染蛋白質を発現しなかった。このことは、当該細胞が1型潜伏感染状態にあることを示している(図3C)。この細胞はまたBARTマイクロRNA群を発現したが、それらの発現量は、親株である胃がん細胞株と比べてかなり低レベルであった(図3E)。しかしながらBARTマイクロRNAの標的遺伝子として同定されているNDRG1(N-myc downstream regulated gene 1)(Kanda T et al. (2015) J Virol 89(5):2684-2697)遺伝子の発現抑制がEBV感染細胞で観察されたことから(図3C)、発現されたマイクロRNAは機能していることが証明された。また完全なBACクローンがEBV感染ケラチノサイト細胞から回収されたことから、SNU719-BACウイルス及びYCCEL1-BACウイルスがエピゾームとして保持されていることが判明した(データ示さず)。
上記の実施例で使用したプライマーをまとめて以下の表2に示す。
【0085】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明により、巨大環状ウイルスゲノムとして細胞に潜伏感染する様々なウイルスゲノムDNAを従来法に比べてより効率的に単離することができる。その結果、単離されたウイルスゲノムDNAの塩基配列を決定し、組換えウイルス粒子を再構成することによって、ウイルス感染能力、細胞形質転換能など様々な性質について解析できるようになる。また、例えばEBウイルスによる発がんメカニズムの解明に応用できるし、さらにまた、特殊な性質をもつウイルス株を単離し、ワクチン株として使用することによってウイルス感染防御に役立てることが可能である。
【配列表フリーテキスト】
【0087】
配列番号1〜16:プライマー
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]