【実施例】
【0056】
本発明を以下の実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は当該実施例によって制限されるものではない。
【0057】
[実施例1]実験手順
以下に本発明に関わる実験手順を説明する。
【0058】
(1)細胞培養
SNU719細胞は、10% FBS及びペニシリン-ストレプトマイシン(PC-SM)を補充したRPMI 1640培地中で培養された。
【0059】
YCCEL1細胞は、10% FBS、非必須アミノ酸及びPC-SMを補充した最少必須培地中で培養された。
【0060】
HEK293細胞は、組換えウイルス産生のために使用されたが、この細胞は、公知の手法(Kanda T, et al. (2015) J Virol 89(5):2684-2697)によって培養された。
【0061】
HDK1-K4DT細胞は、補充成分(Invitrogen 17005-042)を含むケラチノサイトSFM中で培養された。
【0062】
(2)CRISPR/Cas9及びドナープラスミドの構築
野生型EBV(EBV-wt)の134,663ヌクレオチド番号に相当するBssHII部位をCRISPR/Cas9切断部位として選択した(
図4)。この部位は、本発明者らがこれまでEBVゲノム標的の中でトランスジーン標的部位として使用したものである(Kanda T, et al. (2015) J Virol 89(5):2684-2697)。アニール化されたオリゴヌクレオチド(sgEBV top(配列番号1)及びsgEBV bottom(配列番号2))をpX330のBbsI部位にクローン化しpX330-sgEBVを得た。
【0063】
EBV SacI upプライマー(配列番号3)とEBV SacI downプライマー(配列番号4)を用いて標的領域に亘るSNU719 EBV (又は、YCCEL1 EBV)の SacI断片(1088 bp)をPCR増幅した(
図4)。PCR産物をBamHI及びEcoRIによって消化し、pCAG-EGxxFP中にクローン化してレポータープラスミドpCAG-EG-ebv-FPを得た。mBVRF forプライマー(配列番号5)とmBVRF revプライマー(配列番号6)を用いてPCR法による変異導入法(Shimada A, et al. (2009) Genes Dev 23(1):18-23)によりBVRF1コード配列にサイレントミューテーションを導入して pCAG-EG-mebv-FPを得た。
【0064】
PCR増幅されたSacI断片をpBluescript II-SKにクローン化してpBS-SNU719 (EBV上流側をベクターのKpnI側に配置した)を作製した。BssHII inv upプライマー(配列番号7)及びBssHII inv downプライマー(配列番号8)を用いて、単一のPacI部位をCRISPR/Cas9標的部位のところに作製し、pBS-SNU719-PacIを得た。M13-20プライマー(配列番号9)、mBVRF1 revプライマー(配列番号6)、mBVRF1 forプライマー(配列番号5)及びPacI revプライマー(配列番号10)、並びにpBS-SNU719 (鋳型)を用いてBVRF1サイレントミューテーションを有するPCR産物を得た。この後、PCR産物をSpeIとPacIによって消化し、pBS-SNU719-PacIの対応する部位にクローン化してpBS-SNU719-BVRF1(+)-PacIを得た。PacI断片(これは、BACベクター配列、EGFP遺伝子及びハイグロマイシン耐性遺伝子からなる(Kanda T, et al. (2015) J Virol 89(5):2684-2697))をpBS-SNU719-BVRF1(+)-PacIのPacI部位にクローン化してSNU719 EBVを標的とするドナープラスミドを作製した。
【0065】
YCCEL1 EBVの上流相同領域はSNU719 EBVの相同領域と同じであるが、一方、その下流相同領域は同じではない (
図4(配列番号17及び18))。pBS-SNU-PacIの上流相同領域をYCCEL1 EBV DNAと置換するために、pBS-SNU-PacIのTth111I-HpaI断片を、対応するYCCEL1 EBV断片と置換してpBS-YCCEL1-PacIを得た。YCCEL1 EBVを標的とするドナープラスミドを上記の方法に従って構築した。
【0066】
(3)EBVゲノム標的化と大腸菌コロニースクリーニング
6ウエルディッシュのウエル内でSNU719細胞(又は、YCCEL1細胞)を平板培養し、Viafect(登録商標)試薬(Promega)を用いて、0.4μgのドナープラスミドと4μgのpX330-sgRNA(+) (YCCEL1細胞については各2μg)でトランスフェクションした。トランスフェクション後2日目に、得られた細胞を10cmディッシュ上にまきなおし、その後、ハイグロマイシン(SNU719細胞の場合30μg/ml、YCCEL1細胞の場合50μg/ml)による選択を行った。トランスフェクションして3週間後にハイグロマイシン耐性細胞を集めて、その細胞から既に報告した方法により(Kanda T et al. (2004) J Virol 78(13):7004-7015)エピゾームDNAを調製した。
【0067】
エピゾームDNAの一部をPCR分析に供した。上流領域を増幅するためにrt recom forプライマー(配列番号11)及びBAC vec downプライマー(配列番号12)を用いた。一方、下流領域を増幅するために、lt recom forプライマー(配列番号13)及びlt recom downプライマー(配列番号14)を用いた。エピソームDNAの残りの一部を用いてDH10B ElectroMaxコンピテント細胞 (Invitrogen)を形質転換してクロラムフェニコール耐性大腸菌コロニーを得た。このコロニーを、BamW upプライマー(配列番号15)及びBamW downプライマー(配列番号16)を用いたコロニーダイレクトPCR法によってスクリーニングし、EBV BamHI W断片の存在を調べた。PCR産物が得られた大腸菌コロニーを増殖し、BACmid DNAをミニプレパレーション法によって抽出した(Kanda T et al. (2004) J Virol 78(13):7004-7015))。
【0068】
(4)EBV-BAC DNAの配列決定
EBV-BACクローンDNAをNucleobond BAC100 kit (Macherey-Nagel,ドイツ)を用いて調製した。混在している大腸菌ゲノムDNAは、Plasmid-Safe ATP-dependent DNase (Epicentre)を用いて説明書に従って酵素消化して除去した。PacBio配列決定法によって得られたコンティグ配列をトリミングして重複配列とトランスジーン配列を除去し、SNU719 EBVゲノム及びYCCEL1 EBVゲノムの配列を得た。EBV-wtのオープンリーディングフレーム(ORF)に相当するほぼすべてのORFが決定された。2個のORFにおいて配列決定エラーによると推定される内部終止コドンが認められたが、Sanger配列決定の結果を参照することによって修復された。
【0069】
(5)系統学的解析
EBVゲノム配列は、GenBank: GD1 (accession number AY961628.3), Akata (KC207813.1), wt (NC_007605.1), M81 (KF373730), Mutu (KC207814.1)から取得した。ゲノムDNAの整列比較を行う際は、EBVゲノム上の反復配列(すなわち、Family of Repeats配列、インターナルリピート1-4、及びターミナルリピート)は除外した。系統樹は、Tamura-Neiモデル(Tamura K & Nei M (1993) Mol Biol Evol 10(3):512-526)をベースにしたMaximum Likelihood法とGamma distribution法(部位間の進化率の差をモデル化するために使用される。)により作製した。
【0070】
(6)不死化ケラチノサイトへのEBV感染
文献記載の方法に従ってHDK1-K4DT細胞にEBVレセプターであるCR2をレトロウイルスベクターで発現させた(Kanda T et al. (2015) J Virol 89(5):2684-2697)。次いで、得られたHDK1-CR2細胞にSNU719-BACウイルス又はYCCEL1-BACウイルスを感染させた。EBVの安定感染したHDK1-CR2細胞集団をハイグロマイシン選択 (5μg/ml)によって得た。
【0071】
[実施例2]CRISPR/Cas9によるウイルスエピゾームの切断
この実施例では、CRISPR/Cas9によるウイルスエピソームDNAの切断によってその切断部位に高効率でトランスジーンを挿入できることを示す。
【0072】
SNU719及びYCCEL1は、韓国胃がん患者から樹立されたEBV陽性胃がん細胞株である(Oh ST, et al. (2004) Virology 320(2):330-336、Kim do N, et al. (2013) J Gen Virol 94(Pt 3):497-506)。蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH)により、 EBVゲノム由来のシグナルが間期核内に点在すること、またシグナルが細胞分裂期染色体に付着していることから(
図1A)、EBVゲノムが二本鎖環状DNAすなわちエピゾームとして維持されていることが考えられた。SNU719細胞のEBVエピゾームを従来の相同組換え法によりBACベクターにクローン化することを試みたが、不成功に終わった(データ示さず)。これは相同組換えの効率が低すぎたためと考えられた。
【0073】
従って、本発明者らは、CRISPR/Cas9によるゲノム編集技術を使用して相同組換えの効率の向上を図った。BVRF1のORF内のDNA配列を標的部位として選択した (
図1B及び
図6)。まずhCas9発現カセット、及びEBV DNAを標的とするガイドRNAとを組み込んだプラスミド(pX330-sgEBV)を構築した。最初にpX330-sgEBV がEBVゲノム内の標的配列を切断する効率を、標的EBV配列をGFP ORF間に組み込んだGFPレポータープラスミド(Mashiko D et al. (2013) Sci Rep 3:3355)(
図1C)を用いて確認した。レポータープラスミドとpX330-sgEBVとをHEK293細胞内にトランスフェクションすると、48時間後に強いEGFP発現が観察された。このことは、EBV標的配列の切断が、相同組換え修復によるGFPコーディング配列の再構成を惹起したことを示す(
図1C)。同じレポーター遺伝子系を用いて、CRISPR/Cas9系がSNU719細胞及びYCCEL1細胞内でも同様に機能することが実証された(データ示さず)。
【0074】
本発明者らは、次いでBACベクター配列、ハイグロマイシン耐性遺伝子、並びにGFP遺伝子をEBVゲノム切断部位に挿入するためのドナープラスミドを構築した(
図1B)。短い上流及び下流相同領域(
図1B中の230bp及び850bp DNA断片)をドナープラスミド中に組み込んだ。EBV DNA切断部位はBVRF1遺伝子(ウイルス産生において必須である小カプシド蛋白質をコードする。)の内部に位置する(
図1B)ため、本発明者らは、サイレントミューテーションを導入することによってCRISPR/Cas9耐性BVRF1遺伝子を構築し、当該遺伝子をドナープラスミドの上流相同領域に組み込んだ。この変異導入されたDNA断片は実際にCRISPR/Cas9によるDNA切断に対し耐性になることが証明された(
図1C)。
【0075】
上記のドナープラスミドとpX330 (sgRNAを含まない。)又はpX330-sgEBVのいずれかを SNU719細胞内に同時にトランスフェクションし、得られた細胞を3週間ハイグロマイシン選択した。細胞に上記ドナープラスミドとpX330-sgEBV の両者をトランスフェクションすると、ハイグロマイシン耐性、かつGFP陽性である細胞コロニーが現れた(
図1D)が、一方、pX330とトランスフェクションした時にはGFP陽性細胞はほとんど出現しなかった。ディッシュ上に出現したハイグロマイシン耐性細胞コロニーを集めて、エピゾームDNAを調製した。エピゾームDNAサンプルをPCRで解析した結果、ドナープラスミドとpX330-sgEBVの両者をトランスフェクションした時のみ相同組換え修復が起きることが確認され、pX330を用いた場合には修復が起きないことが判明した(
図1E)。また、直鎖状ドナープラスミドでなく、環状ドナープラスミドのみが相同組換え修復を誘導することが判明した(
図5)。エピゾームDNAの一部を用いて大腸菌を形質転換し、得られたクロラムフェニコール耐性大腸菌コロニーを、EBVインターナルリピート1(IR1)配列の存在についてPCRにより選抜した。その結果、SNU719由来のEBV-BACクローンが容易に同定された(
図6A)。全クロラムフェニコール耐性コロニーの中からEBV-BACクローンを得る頻度は8.8%(3/34)から47.8%(22/46)であった。得られたEBV-BACクローンのほとんどが同じBamHI及びEcoRI消化パターンを示したが、一方、異なる消化パターンのクローンも少し例外的に存在した(
図6A,B)。これらの例外的なクローンは人工的に再構成されたものであるのか、或いは生物学的な意味のあるマイナーなEBV集団を表すのかは、今のところ不明である。
【0076】
同様の実験手法によりYCCEL1由来のEBV-BACクローンを得た(
図1D、
図1E及び
図6B)。このことは、当該実験方法の汎用性の高さを示している。
【0077】
[実施例3]胃がん由来EBVゲノムのPacBio単一分子リアルタイム配列決定法による全塩基配列決定
本発明者らは、代表的な制限酵素消化パターンを示すEBV-BAC クローンをそれぞれSNU719 EBV-BAC (SNU719-BAC)及びYCCEL1 EBV-BAC (YCCEL1-BAC)として選択し、各クローンをさらに詳細に解析した(
図2A)。BamHI及びEcoRI消化バンドをサザンブロットにより分析し(データ示さず)、各バンドがEBV B95-8株DNAから得られるBamHI及びEcoRI消化バンドのどのバンドに対応するのか確定した(
図2A及び
図6A,B)。SNU719-BAC及びYCCEL1-BACは有意に異なる制限酵素消化パターンを示すことが分かった。精製されたEBV-BACクローンのDNAをDNA配列決定に供した(
図2B)。EBV株YCCEL1のゲノム配列はこれまでハイブリッド捕捉法によって決定されている(GenBankアクセッションno. LN827561.1)が、このゲノム内に存在する数多くの反復領域の塩基配列は依然決定されていない。そこで本発明者らは、従来採用されていたシークエンス法とは異なる方法としてPacBio単一分子リアルタイム配列決定法を採用した(Eid J et al. (2009) Science 323(5910):133-138;Tombacz D et al. (2014) Genome Announc 2(4))。その結果、平均長13 kbの長いリード(read、塩基配列情報)が得られ(
図7)、SNU719 EBV-BACクローン及びYCCEL1 EBV-BACクローンの両方について全長180kb以上のコンティグ(contig)を構築することができた。EBV-BAC クローンのBamHI及びEcoRI消化DNA断片の実際のサイズは、得られたコンティグ配列と非常によく対応していた(
図2A及び
図6A,6B)。
【0078】
その後、トランスジーン配列をEBV-BAC配列から除き、SNU719及びYCCEL1 EBVゲノムの配列を得た(アクセッションno. AP015015及び AP015016)。SNU719 EBV及び YCCEL1 EBVのゲノムサイズはそれぞれ169425 bp、177320 bpであった。このサイズの違いは、主にWリピート(インターナルリピート1, IR1)及びターミナルリピートのコピー数の違い(すなわちSNU719 EBV及び YCCEL1 EBV についてそれぞれ6コピー対7.6コピーのWリピート、5コピー対12コピーのターミナルリピート)に起因している(
図2C)。また30 bpのパリンドロームリピートの集積配列であるFamily of repeatsは、サンガー法で配列決定することが困難であることが知られている(Kanda T et al. (2011) PLoS One 6(11):e27758)が、PacBio配列決定法によりFamily of repeatsの一次塩基配列も決定することができた。この結果により、SNU719株及びYCCEL1株EBVのFamily of repeats領域も、30 bpユニットが反対方向に並ぶ亜領域に分割できることを示した(
図8)。
【0079】
SNU719 EBV及びYCCEL1 EBVのDNA配列を系統分類分析に供した。GenBankに寄託された5つの代表的EBVゲノム配列 [EBV-wt(de Jesus O, et al. (2003) J Gen Virol 84(Pt 6):1443-1450)、GD1(Zeng MS et al. (2005) J Virol 79(24):15323-15330)、M81(Tsai MH et al. (2013) Cell Rep 5(2):458-470)、Akata and Mutu(Lin Z, et al. (2013) J Virol 87(2):1172-1182)] を参照配列として使用した。SNU719 EBV及びYCCEL1 EBV(ともに韓国の胃がん患者に由来する。)は、GD1, M81(ともに中国のNPC患者に由来する。)及びAkata (日本のバーキットリンパ腫患者に由来する。)に近縁であるが、EBV-wt[B95.8 (US起源)及びRaji(アフリカのバーキットリンパ腫患者に由来する。)の配列の組み合せ]及びMutu (アフリカのバーキットリンパ腫患者に由来する。)と異なる(
図2D)。これらの結果は、異なるEBV株が地理的に異なる地域 (東アジア、アフリカ諸国、及び西側諸国) に分布しているというこれまでの見方と一致する(Palser AL et al. (2015) J Virol 89(10):5222-5237;Tsai MH et al. (2013) Cell Rep 5(2):458-470;Feederle R et al. (2015) Curr Top Microbiol Immunol 390:119-148)。
【0080】
ウイルスゲノムDNAの蛋白質読み取り枠の解析(アノテーション解析)により、SNU719 EBV及び YCCEL1 EBVによってコードされるウイルス後期蛋白質のアミノ酸(a.a.)数がEBV-wtによってコードされるものとかなり異なることが示された(表1)。SNU719 EBV及びYCCEL1 EBV間のアミノ酸配列の比較により、LMP1 a.a.配列(100%同一)とEBNA2 a.a.配列(N末端のプロリンに富むドメインを除くと100%同一)が高度に保存されていることが示された。LMP2A a.a.配列(99.7%同一)及びEBNA1 a.a配列(インターナルグリシン-アラニンリピートを除くと99.7%同一)もまた株間で非常によく保存されているが、EBNA3類のa.a.配列は非常に異なっている。LF3読取り枠は、これまでの研究で指摘されてきたように保存されていなかった(Lin Z, et al. (2013) J. Virol. 87(2): 1172-1182)。
【0081】
これらの結果は、EBVエピゾームのBACクローニングと、その後のPacBio単一分子配列決定法が、種々のEBV株の完全配列を得るための強力なツールであることを示している。
【0082】
【表1】
【0083】
[実施例4]再構成されたウイルスによる細胞感染
本実施例では、上記の再構成ウイルスをB細胞及び上皮細胞に感染させることを示す。
親株である胃がん細胞SNU719及び YCCEL1細胞はウイルス産生できない。これに対して、本発明者らは、SNU719由来の、又は、YCCEL1由来のEBV-BACクローンのいずれかで安定的にトランスフェクションされたHEK293細胞が、感染性子孫ウイルスを産生できることを見出した(
図3A)。初代Bリンパ球を上記組換えウイルスに感染させて、GFPを発現するリンパ芽球細胞系を樹立した(
図3B)。50%形質転換濃度は、SNU719ウイルスの場合およそ10
4.5 TD
50/ml、YCCEL1ウイルスの場合およそ10
4.3 TD
50/mlであった。SNU719及びYCCEL1細胞は、EBNA1蛋白質のみを発現する1型潜伏感染状態(Oh ST et al. (2004) Virology 320(2):330-336;Kim do N et al. (2013) J Gen Virol 94(Pt 3):497-506)にあったが、樹立されたリンパ芽球様細胞株は3型潜伏感染状態となり、この細胞株はEBNA1, EBNA2, EBNA3A, EBNA3C, LMP1及びLMP2Aを発現した(
図3C)。異なるウイルス株のウイルス潜伏感染蛋白質は電気泳動上異なるバンド移動度を示し、またこの結果は塩基配列から推定された蛋白質のサイズと非常によく対応していた(
図3C及び表1)。
【0084】
本発明者らは、さらに組換えウイルスSNU719-BAC及びYCCEL1-BACが上皮細胞への安定な感染を達成できるかどうかを試験した。初代上皮細胞又はその不死化細胞にCR2を強制発現し、被感染細胞として使用した。初代上皮細胞は、上記ウイルスに一時的に感染してGFP蛋白質を発現したが、GFP陽性細胞は増殖しなかった(データ示さず)。これに対して、不死化したヒト皮膚ケラチノサイトHDK1-K4DT細胞(Egawa N, et al. (2012) J Virol 86(6):3276-3283)を被感染細胞として使用した場合は、GFP陽性細胞がハイグロマイシン選択下で増殖し、その結果として100% GFP陽性の細胞集団が樹立された(
図3D)。感染したHDK1細胞は微量のEBNA1蛋白質のみを発現し、他のウイルス潜伏感染蛋白質を発現しなかった。このことは、当該細胞が1型潜伏感染状態にあることを示している(
図3C)。この細胞はまたBARTマイクロRNA群を発現したが、それらの発現量は、親株である胃がん細胞株と比べてかなり低レベルであった(
図3E)。しかしながらBARTマイクロRNAの標的遺伝子として同定されているNDRG1(N-myc downstream regulated gene 1)(Kanda T et al. (2015) J Virol 89(5):2684-2697)遺伝子の発現抑制がEBV感染細胞で観察されたことから(
図3C)、発現されたマイクロRNAは機能していることが証明された。また完全なBACクローンがEBV感染ケラチノサイト細胞から回収されたことから、SNU719-BACウイルス及びYCCEL1-BACウイルスがエピゾームとして保持されていることが判明した(データ示さず)。
上記の実施例で使用したプライマーをまとめて以下の表2に示す。
【0085】
【表2】