特許第6761961号(P6761961)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6761961
(24)【登録日】2020年9月10日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】リチウム一次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/02 20060101AFI20200917BHJP
   H01M 2/04 20060101ALI20200917BHJP
   H01M 2/12 20060101ALI20200917BHJP
   H01M 6/16 20060101ALN20200917BHJP
【FI】
   H01M2/02 F
   H01M2/04 F
   H01M2/12 101
   !H01M6/16 D
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-86530(P2016-86530)
(22)【出願日】2016年4月22日
(65)【公開番号】特開2017-195165(P2017-195165A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2019年4月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 正雄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 忠義
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−169452(JP,A)
【文献】 特開2007−042544(JP,A)
【文献】 特開2016−038991(JP,A)
【文献】 特開2009−266715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/02
H01M 2/04
H01M 2/12
H01M 6/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒形の電池ケースの開口部が、封口板で封口されたリチウム一次電池であって、
前記封口板は、レーザ溶接により、前記電池ケースの開口部に接合されており、
前記電池ケースの底部又は前記封口板は、厚みが0.2〜0.3mmのフェライト系ステンレス鋼板で構成されており、
前記フェライト系ステンレス鋼板で構成された部位に、厚みが30〜80μmの範囲にある防爆用溝部が形成されており、
前記フェライト系ステンレス鋼板の引張強度は、420〜550MPaの範囲に設定されていて、前記防爆用溝部の作動圧が2〜6MPaの範囲にある、リチウム一次電池。
【請求項2】
前記防爆用溝部の作動圧が3.6〜5.8MPaの範囲である、請求項1に記載のリチウム一次電池。
【請求項3】
前記防爆用溝部は、湾曲面を有し、該湾曲面の曲率半径は、0.01〜0.1mmの範囲にある、請求項1または2に記載のリチウム一次電池。
【請求項4】
前記フェライト系ステンレス鋼板は、Cr量が11〜32%、C含有量が0.12%以下である、請求項1〜3の何れかに記載のリチウム一次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防爆弁を備えたリチウム一次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム一次電池は、電池ケース内に、正極と負極とがセパレータを介して配置された発電要素を収容し、電池ケースの開口部を封口板で封口した構造をなしている。リチウム一次電池は、二酸化マンガンや酸化銅などを正極活物質とし、リチウムやリチウム合金を負極活物質としており、電圧が高く、かつ、寿命が長いという特性を生かして、多くの用途に使用されている。しかしながら、近年、より長期に亘って保存可能なリチウム一次電池が要望されている。
【0003】
従来、電池ケースの素材として、安価なニッケルメッキ鋼板が多く用いられていたが、耐腐食性に優れ、かつ、延性に富み、深絞り等の加工性の良いオーステナイト系ステンレス鋼を用いることによって、リチウム一次電池の長寿命化が図られている。
【0004】
また、従来、電池ケースの開口部は、封口板をガスケットを介してかしめ加工することによって封口していたが、封口板をレーザ溶接により電池ケースの開口部に接合することによって、密閉性をより高めて、電池内部に水分が侵入するのを防止し、これによりリチウム一次電池の長寿命化が図られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−42544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リチウム一次電池は、過放電などが原因で、電池内にガスが発生し、これにより、電池内の圧力が異常に上昇する場合がある。そのため、電池内の圧力上昇によって、電池ケースが破損するのを防止するために、電池ケースの底部等に、電池内の圧力が上昇したときに破断する溝部(防爆弁)を設けている。
【0007】
しかしながら、電池ケースの素材に、オーステナイト系ステンレス鋼を用いた場合、電池ケースに防爆用溝部を形成しても、作動圧が高く、電池内の圧力が上昇しても、溝部が破断しないという問題があった。特に、電池ケースの開口部が、封口板でレーザ溶接により封口されている場合、密閉性が高いため、安全性を確保するために、適正範囲の作動圧で破断する防爆用溝部を備えたリチウム一次電池が要求されている。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたもので、その主な目的は、安全性に優れ、長期に亘って保存可能なリチウム一次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るリチウム一次電池は、有底筒形の電池ケースの開口部が、封口板で封口されたリチウム一次電池であって、封口板は、レーザ溶接により、電池ケースの開口部に接合されており、電池ケース及び/又は前記封口板は、フェライト系ステンレス鋼板で構成されており、フェライト系ステンレス鋼板で構成された部位に、防爆用溝部が形成されており、フェライト系ステンレス鋼板の引張強度は、420〜550MPaの範囲に設定されていることを特徴とする。
【0010】
ある好適な実施形態において、フェライト系ステンレス鋼板の防爆用溝部が形成された部位の厚みは、30〜80μmの範囲にある。
【0011】
ある好適な実施形態において、電池ケースの底部又は側部の何れかが、フェライト系ステンレス鋼板で構成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、安全性に優れ、長期に亘って保存可能なリチウム一次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態におけるリチウム一次電池の構成を模式的に示した断面図である。
図2】防爆用溝部の構成を示した図で、(a)は、電池ケースの底部近傍を拡大した部分断面図で、(b)は、電池ケース底部から見た底面図である。
図3図1に示したリチウム一次電池において、電池ケースの素材に、オーステナイト系ステンレス鋼を用いた場合の防爆用溝部の破断作動圧を測定した結果を示したグラフである。
図4図1に示したリチウム一次電池において、電池ケースの素材に、フェライト系ステンレス鋼を用いた場合の防爆用溝部の破断作動圧を測定した結果を示したグラフである。
図5】(a)、(b)は、防爆用溝部の構成を示した部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本発明の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態におけるリチウム一次電池の構成を模式的に示した断面図である。
【0016】
図1に示すように、本実施形態におけるリチウム一次電池は、有底円筒形の電池ケース9内に、負極1及び正極2がセパレータ3を介して捲回された極板群4が、非水電解液(不図示)とともに収容されている。ここで、負極1は、リチウム金属箔、またはリチウム合金箔からなる。正極2は、ステンレス等の芯材に、正極活物質を含む正極合剤が塗布されている。正極活物質は、例えば、二酸化マンガンや酸化銅などを用いることができる。非水電解液は、リチウム一次電池に用いられる電解液であれば、特に限定されない。
【0017】
電池ケース9の開口部は、封口板10で封口されている。また、封口板10の中央開口部には、ガスケット12を介して、正極端子11がかしめ固定されている。正極端子11には、正極2の芯材に接続された正極リード5が接続され、電池ケース9の底部9aには、負極1に接続された負極リード6が接続されている。ここで、電池ケース9の底部9aは、負極端子を兼ねている。また、極板群4の上部と下部には、内部短絡防止のためにそれぞれ上部絶縁板7及び下部絶縁板8が配置されている。
【0018】
本実施形態において、封口板10の外周縁は、レーザ溶接により、電池ケース9の開口端部に接合されている。また、電池ケース9の底部9aには、防爆用溝部13が形成されている。
【0019】
図2は、本実施形態における防爆用溝部13の構成を示した図で、図2(a)は、電池ケース9の底部9a近傍を拡大した部分断面図で、図2(b)は、電池ケース9の底部9aから見た底面図である。防爆用溝部13は、電池ケース9の底部9aに、底部9aの中心と同心円となる円形に形成されている。防爆用溝部13は、例えば、電池ケース9の底部9をプレス加工(刻印)によって形成することができる。
【0020】
図3は、図1に示したリチウム一次電池において、電池ケース9の素材に、オーステナイト系ステンレス鋼を用いた場合に、電池ケース9の底部9aに形成した防爆用溝部13の破断作動圧を測定した結果を示したグラフである。グラフの横軸は、電池ケース9の防爆用溝部13が形成された部位における残厚を示し、縦軸は、防爆用溝部13が破壊されたときの電池内の圧力(作動圧)を示す。なお、比較のために、電池ケース9の素材に、鉄鋼を用いたときの破断作動圧も併せ測定した。図3のグラフ中、一次関数として近似した直線Aが、オーステナイト系ステンレス鋼を用いた場合の測定結果を示し、同じく、一次関数として近似した直線Bが、鉄鋼を用いたときの測定結果を示す。また、電池ケース9の底部9aの厚みは、0.3mmで、防爆用溝部13は、電池ケース9の底部9aに円形に形成した。
【0021】
図3に示すように、電池ケース9の素材に、鉄鋼を用いた場合には、作動圧は、防爆用溝部13の残厚が約40〜100μmの範囲で、約2〜6MPaの範囲に入っていた。この範囲は、リチウム一次電池の安全性を確保する上で、適正な範囲になっている。すなわち、作動圧が2MPaより低くなると、電池内の圧力の異常上昇とは別の要因、例えば、外部から電池ケース9に衝撃が加わったときに、防爆用溝部13が破断するおそれがあるので好ましくない。また、作動圧が6MPaを超えると、電池ケース9、ガスケット12、若しくはレーザ溶接部が先に破断してしまう恐れがあるので好ましくない。
【0022】
これに対して、電池ケース9の素材に、オーステナイト系ステンレス鋼を用いた場合、鉄鋼を用いた場合に比べて、同じ残厚に対して、作動圧が3倍以上高くなっていた。また、作動圧を、安全性の確保に必要な適正範囲(約2〜6MPa)にするためには、防爆用溝部13の残厚を約10〜30μmの範囲まで薄くする必要がある。
【0023】
しかしながら、防爆用溝部13を、このように薄く、かつ、バラツキ範囲を少なくするために精度良く加工すると、生産性が落ちてコストがかかる。また、残厚の変化に対する作動圧の変化が大きい(直線Aの傾きが大きい)ため、作動圧を適正範囲に設定するための残厚の設定範囲が狭くなるとともに、残厚の変動による作動圧のバラツキが大きくなるという問題がある。
【0024】
このように、電池ケース9の素材に、オーステナイト系ステンレス鋼を用いた場合、適正範囲の作動圧で破断する防爆用溝部を形成するのが困難なのは、オーステナイト系ステンレス鋼の引張強度が、鉄鋼に比べて大きいことに起因していると考えられる。
【0025】
そこで、本願発明者等は、引張強度が、オーステナイト系ステンレス鋼よりも小さい、フェライト系ステンレス鋼板に着目し、電池ケース9の素材に、フェライト系ステンレス鋼板を用いることによって、防爆用溝部13の作動圧を適正範囲に、かつ、安定して設定できると考え、本発明を想到するに至った。
【0026】
図4は、図1に示したリチウム一次電池において、電池ケース9の素材に、フェライト系ステンレス鋼を用いた場合に、電池ケース9の底部9aに形成した防爆用溝部13の破断作動圧を測定した結果を示したグラフである。図4のグラフ中、一次関数として近似した直線C1、及びC2が、フェライト系ステンレス鋼を用いた場合の測定結果を示し。ここで、電池ケース9の底部9aの厚みは、直線C1が0.3mmで、C2が0.2mmとしている。また、比較のため、図3に示した、電池ケース9の素材に、オーステナイト系ステンレス鋼を用いた場合の測定結果(直線A)も示している。なお、防爆用溝部13は、電池ケース9の底部9aに円形に形成した。
【0027】
図4に示すように、電池ケース9の素材に、フェライト系ステンレス鋼を用いた場合には、作動圧は、電池ケース9の底部9aの厚みによって多少の差はあるものの、防爆用溝部13の残厚が約30〜80μmの範囲で、約2〜6MPaの範囲に入っていた。これは、図3で示した、電池ケース9の素材に鉄鋼を用いた場合(直線B)と、ほぼ同等レベルである。
【0028】
ここで、フェライト系ステンレス鋼は、フェライト相から成るステンレス鋼で、JIS鋼種は、Cr量が11〜32%、C含有量が0.12%以下のもので、代表的な鋼種としては、SUS430、SUS436、SUS444などが挙げられる。
【0029】
表1は、図1に示したリチウム一次電池において、電池ケース9の素材に、引張強度が異なるフェライト系ステンレス鋼のサンプルA〜Eを用いた場合に、電池ケース9の底部9aに形成した防爆用溝部13の破断作動圧を測定した結果を示した表である。また、比較のため、電池ケース9の素材に、オーステナイト系ステンレス鋼を用いた場合の測定結果(サンプルF〜H)も示している。ここで、防爆用溝部13は、電池ケース9の底部9aに円形に形成し、電池ケース9の底部9aの厚みは0.2mm、防爆用溝部13の残厚は、全て50μmとした。
【0030】
【表1】
【0031】
表1に示すように、フェライト系ステンレス鋼の引張強度が、420〜550MPaの範囲にあれば、作動圧は、2.5〜5.8MPaの適正範囲に入ることが分かる。これに対して、引張強度が600〜750MPaのオーステナイト系ステンレス鋼の場合には、作動圧は、6.4MPa以上となり、適正範囲に入らないことが分かる。
【0032】
ここで、引張強度の異なるフェライト系ステンレス鋼は、例えば、構成元素の組成比率や、加工時の熱処理条件等を変えることで得られる。また、引張強度は、JISZ2241に準拠して測定された値である。
【0033】
以上、説明したように、本実施形態によれば、電池ケース9の開口部が、封口板10でレーザ溶接により封口され、電池ケース9の底部9aに防爆用溝部13が形成されたリチウム一次電池において、電池ケース9を、引張強度が420〜550MPaの範囲にあるフェライト系ステンレス鋼板で構成することによって、防爆用溝部13の作動圧を適正範囲に設定することができる。これにより、安全性に優れ、長期に亘って保存可能なリチウム一次電池を提供することができる。
【0034】
また、電池ケース9の防爆用溝部13が形成された部位の厚みを、30〜80μmの範囲にすることによって、安定した作動圧を設定することができる。
【0035】
また、本実施形態において、防爆用溝部13は、図5(a)、(b)に示すように、湾曲面Pを有するが、この湾曲面Pの曲率半径は、0.01〜0.1mmの範囲にあることが好ましい。湾曲面Pの曲率半径が0.1mmより大きいと、局所部分A(残厚が薄い部分)が横に広がり、内圧がかかったとき、局所部分Aの全体が伸びて切断しにくくなるため好ましくない。なお、湾曲面Pの曲率半径が0.01mmより小さいと、防爆用溝部13を刻印により形成する際、局所部分Aに亀裂が入りやすくなり好ましくない。湾曲面Pの曲率半径を、0.01〜0.1mmの範囲にすることによって、防爆用溝部13に圧力がかかった場合、局所部分Aで変形が生じて、低く、かつ、バラツキが少ない圧力で作動することができる。
【0036】
また、本実施形態では、電池ケース9を構成するフェライト系ステンレス鋼は、磁性の有するため、電池の組み立て工程において、磁石を用いて搬送等のハンドリングができる。そのため、電池の組み立て工程が容易になり、コスト低減を図ることができる。
【0037】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちろん、種々の改変が可能である。
【0038】
例えば、上記実施形態では、電池ケース9をフェライト系ステンレス鋼板で構成したが、封口板10をフェライト系ステンレス鋼板で構成してもよい。この場合、防爆用溝部13は、封口板10に形成される。また、電池ケース9の一部を、フェライト系ステンレス鋼板で構成してもよい。例えば、電池ケース9の底部9a又は側部の何れかを、フェライト系ステンレス鋼板で構成してもよい。この場合、フェライト系ステンレス鋼板で構成された部位に、防爆用溝部13が形成される。また、防爆用溝部13が形成されない部位は、オーステナイト系ステンレス鋼で構成してもよい。
【0039】
また、上記実施形態では、防爆用溝部13を、電池ケース9の底部9aの中心と同心円となる円形に形成したが、中心角が180〜360°の範囲に、円弧状に形成してもよい。
【0040】
また、上記実施形態では、円筒形の電池ケース9を用いたが、これに限定されず、有底筒状の電池ケース9であればよく、例えば、角形筒状のものでもよい。
【0041】
また、本発明において、リチウム一次電池を構成する部材(極板群、セパレータ、電解液等)の材料、形状等は特に限定されない。
【符号の説明】
【0042】
1 負極
2 正極
3 セパレータ
4 極板群
5 正極リード
6 負極リード
7 上部絶縁板
8 下部絶縁板
9 電池ケース
9a 底部
10 封口板
11 正極端子
12 ガスケット
13 防爆用溝部
図1
図2
図3
図4
図5