特許第6761982号(P6761982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6761982-大腸腫瘍の有無の予測を補助する方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6761982
(24)【登録日】2020年9月10日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】大腸腫瘍の有無の予測を補助する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20200917BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   C12Q1/686 ZZNA
   C12N15/11 Z
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-24772(P2016-24772)
(22)【出願日】2016年2月12日
(65)【公開番号】特開2017-140005(P2017-140005A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2018年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】末廣 寛
【審査官】 池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0024036(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0107092(US,A1)
【文献】 日本臨床検査自動化学会会誌 (2015) vol.40, no.2, p.135-137
【文献】 Expert Rev. Mol. Diagn. (2014) vol.14, issue 4, p.501-507
【文献】 PLoS ONE (2014) vol.9, issue 10, e110351
【文献】 J. Clin. Microbiol. (2002) vol.40, no.5, p.1698-1704
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 − 15/90
C12Q 1/686
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(a)〜(c)を備えたことを特徴とする、被検対象における大腸腫瘍の有無の判定を補助する方法。
(a)被検対象から得た便検体からゲノムDNAを抽出する工程;
(b)工程(a)で得られたゲノムDNAを鋳型として、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)に特異的配列を、該特異的配列を増幅可能なプライマー対を用いてデジタルPCRにより増幅して、ゲノムDNAあたりのコピー数を算出する工程;
(c)工程(b)で求めたゲノムDNAあたりのコピー数が所定の閾値以上の場合に、被検対象において大腸腫瘍を有するとの判定を補助する工程;
【請求項2】
所定の閾値が、以下の(d)及び(e)より算出したゲノムDNAあたりのコピー数の中央値、平均値、又は、所定のパーセンタイル値であることを特徴とする請求項1記載の方法。
(d)健常者から得た便検体からゲノムDNAを抽出する工程;
(e)工程(d)で得られたゲノムDNAを鋳型として、フソバクテリウム・ヌクレアタムに特異的配列を、該特異的配列を増幅可能なプライマー対を用いてデジタルPCRにより増幅して、ゲノムDNAあたりのコピー数を算出する工程;
【請求項3】
フソバクテリウム・ヌクレアタムに特異的配列が、配列番号1記載の塩基配列、又は該塩基配列と95%以上同一性を有する塩基配列であることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被検対象における大腸腫瘍の有無の判定を補助する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2012年に、新たな大腸癌患者数は世界中で1,400万人にのぼり、およそ70万人もが大腸癌に関連して死亡している。大腸癌の95%以上の患者は、癌の初期段階と診断された場合に治療可能な手術を受けうるため、初期段階で大腸癌を高感度・高特異度、非侵襲的、低コスト、簡易に検出することが重要である。
【0003】
大腸癌診断の主なアプローチは便潜血検査である。しかしながら、大腸癌の診断に対する便潜血検査の感度は、上皮癌で26%、進行腺腫で12%にすぎないことが報告されている(非特許文献1参照)。さらに、便潜血検査は、痔、潰瘍、又は炎症性腸疾患の患者において疑陽性と判定されるという問題があった。
【0004】
そこで、本発明者らは、便潜血検査によらずに大腸がんの予後予測をする方法として、Twist homolog 1(Drosophila)遺伝子及び/又はEnhancer of zeste homolog2(Drosophila)遺伝子の発現上昇を検出する、大腸癌の予後予測方法(特許文献1参照)を開示した。しかしながら、上記方法は患者の組織を切除する必要があり、侵襲性が高いという問題があった。
【0005】
一方、大腸癌に至らなくても、非進行腺腫又は進行腺腫を有している状態が把握できれば、その後の経過を注意深く観察することで、たとえその後大腸癌になった場合でも初期段階での治療が可能となり、予後が良好となる可能性が高まる。
【0006】
そこで、本発明者らは、Twist homolog 1の所定領域内の1又は2以上のCpG配列のメチル化の頻度を測定することで大腸腫瘍の有無を判定する方法(特許文献2参照)を開示した。
【0007】
ところで、大腸腫瘍は粘膜上皮細胞の突然変異によって生じるといわれており、その主な原因として遺伝、ウイルス感染などが考えられているが、近年、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)が大腸癌組織に関与していることが分かり、注目を浴びている。こうしたなか、フソバクテリウム・ヌクレアタム量を簡易に検出することで大腸腫瘍の有無の判断が可能となることが期待される。しかしながら、フソバクテリウム・ヌクレアタムは大腸粘膜細胞に接着後、粘膜細胞内に進入すること、及び便中の存在量が少ないことから、便からDNAを抽出し、PCR等によってフソバクテリウム・ヌクレアタムに特異的なDNAを検出することは難しいと考えられていた(非特許文献2、3参照)。
【0008】
また、便中のフソバクテリウム・ヌクレアタムのDNA量をPCRにより測定し、大腸癌を診断する方法(特許文献3参照)が開示されているが、あくまで大腸癌を診断しているのみであった。また、かかる特許文献3においては、便中のDNAをPCRで増幅する際に、45サイクルが上限と推奨されているPCR用試薬を用いて、60サイクルも行っていた。このような方法は疑陽性を生じる可能性が極めて高いだけでなく、データの信頼性も乏しくなるため実際の臨床現場では利用できないが、わずかなDNAを検出するためにこのような手法をとらざるを得ないのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−067130号公報
【特許文献2】国際公開第2010/113529号パンフレット
【特許文献3】米国特許出願公開第2014/0024036号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ahlquiest DA et al., Clin ChimActa 315:157-168(2002)
【非特許文献2】Rubinstein MR et al., Cell HostMicrobe 14:195-206(2013)
【非特許文献3】Chen W, et al., PLoS One7:e39743(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、被検対象から得た便検体からゲノムDNAを抽出し、所定の配列をPCRで増幅することで、被検対象における大腸腫瘍の有無の判定を補助する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述のように、フソバクテリウム・ヌクレアタムが大腸癌組織に関与していることがわかってきたことから、フソバクテリウム・ヌクレアタム量を簡易に検出することができれば、大腸癌の有無の判断が可能となることが期待される。しかしながら、フソバクテリウム・ヌクレアタム検出のための検体については、組織検体では大腸内視鏡及び生検が必要となるために侵襲性が高く、大腸癌の診断としては不向きである。そこで、便検体であれば侵襲性が全くないため臨床検査として大いに利用できると考え、便検体のDNA量の測定によってソバクテリウム・ヌクレアタム量を検出することを試みた。しかしながら、フソバクテリウム・ヌクレアタムは便中に存在しているとしても極めて少ないため、従来のPCR法では便検体のソバクテリウム・ヌクレアタム特異的DNAの測定が非常に困難であった。
【0013】
そこで本発明者らは、デジタルPCRを用いることで便中に含有するわずかなフソバクテリウム・ヌクレアタム特異的DNAを検出可能とした。その結果、フソバクテリウム・ヌクレアタム特異的DNA量と大腸腫瘍との間に有意な相関があることが明らかとなり、便検体中のフソバクテリウム・ヌクレアタム特異的DNA量をデジタルPCRによって調べることで大腸腫瘍を診断できることが可能であることを見出した。さらに、かかる方法によれば、大腸癌ではなく、大腸における良性腫瘍や前癌病変の「大腸腺腫」も診断できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は、以下に示すとおりのものである。
(1)以下の工程(a)〜(c)を備えたことを特徴とする、被検対象における大腸腫瘍の有無の判定を補助する方法。
(a)被検対象から得た便検体からゲノムDNAを抽出する工程;
(b)工程(a)で得られたゲノムDNAを鋳型として、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)に特異的配列を、該特異的配列を増幅可能なプライマー対を用いてデジタルPCRにより増幅してコピー数を算出する工程;
(c)工程(b)で求めたコピー数が所定の閾値以上の場合に、被検対象において大腸腫瘍を有するとの判定を補助する工程;
(2)所定の閾値が、以下の(d)及び(e)により求めたコピー数の中央値、平均値、又は、所定のパーセンタイル値であることを特徴とする上記(1)記載の方法。
(d)健常者から得た便検体からゲノムDNAを抽出する工程;
(e)工程(d)で得られたゲノムDNAを鋳型として、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)に特異的配列を、該特異的配列を増幅可能なプライマー対を用いてデジタルPCRにより増幅してコピー数を算出する工程;
(3)フソバクテリウム・ヌクレアタムに特異的配列が、配列番号1記載の塩基配列、又は該塩基配列と90%以上同一性を有する塩基配列であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、便検体を用いてフソバクテリウム・ヌクレアタム量を測定することが可能となり、その結果、大腸腫瘍の有無の判定の補助を非侵襲的かつ簡易に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】コントロール、非進行腺腫、進行腺腫、大腸癌におけるデジタルPCRの結果を示す図である。図中、縦線は中央値の位置、灰色ボックスの右端が75パーセンタイル、左端が25パーセンタイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の大腸腫瘍の有無の判定を補助する方法としては、
(a)被検対象から得た便検体からゲノムDNAを抽出する工程;
(b)工程(a)で得られたゲノムDNAを鋳型として、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)に特異的配列を、該特異的配列を増幅可能なプライマー対を用いてデジタルPCRにより増幅してコピー数を算出する工程;
(c)工程(b)で求めたコピー数が所定の閾値以上の場合に、被検対象において大腸腫瘍を有するとの判定を補助する工程;
の工程(a)〜(c)を備えたことを特徴とする、被検対象における大腸腫瘍の有無の判定を補助する方法であれば特に制限されず、ここで、フソバクテリウム・ヌクレアタムは無芽胞性細菌で嫌気性グラム陰性細菌であり、ヒトマイクロバイオームにおいて口腔内細菌グループに属する細菌である。
【0018】
本発明における大腸腫瘍は、組織の正常細胞の形質転換により生じる大腸癌又は大腸腺腫を含む概念であり、ここで、大腸癌には、転移性を有する悪性腫瘍が含まれる。一方、大腸腺腫には、前癌状態の「進行腺腫」や、良性腫瘍のうち上記進行腺腫に該当せず、転移性のない「非進行腺腫」が含まれる。上記「進行腺腫」としては、径1cm以上の腺腫、villous components(絨毛状成分)(tubulovillous(管状絨毛状)又はvillous(絨毛状))を合併する腺腫、又はhigh-grade or severe dysplasia(高度異型性)を合併する腺腫を挙げることができる。
【0019】
上記大腸腫瘍の発生する組織としては、盲腸、結腸、直腸、肛門等を挙げることができる。
【0020】
被検対象から得た便検体からゲノムDNAを抽出する方法としては特に制限されず、公知の遺伝子工学的手法を用いることができ、市販のゲノムDNA抽出キットを用いることもできる。
【0021】
本発明において、フソバクテリウム・ヌクレアタムに特異的配列としては、フソバクテリウム・ヌクレアタムのゲノムに特異的に存在する配列であれば特に制限されず、フソバクテリウム・ヌクレアタムの16S rDNAの保存領域の配列、nusG遺伝子、又はFadA遺伝子を挙げることができる。16S rDNAの保存領域の配列としては、配列番号1に示すフソバクテリウム・ヌクレアタムATCC25586株(アクセッションNo. NC_003454)の配列、又は該塩基配列と95%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上同一性を有する塩基配列等を挙げることができる。
【0022】
本発明において、フソバクテリウム・ヌクレアタムに特異的配列を増幅可能なプライマー対としては、上記フソバクテリウム・ヌクレアタムに特異的配列、又は該特異的配列の上流若しくは下流の配列とハイブリダイズし、該特異的配列を増幅可能なフォワードプライマー及びリバースプライマーの対であればよく、該フォワードプライマー及びリバースプライマーの長さとしては特に制限されず、5〜50merが好ましく、10〜30merがより好ましい。具体的には、フォワードプライマーとしては、配列番号2に示す塩基配列、又は配列番号2記載の塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上同一性を有する塩基配列からなるプライマーを挙げることができ、リバースプライマーとしては配列番号3に示す塩基配列、又は配列番号3記載の塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上同一性を有する塩基配列からなるプライマーを挙げることができる。
【0023】
本発明において、デジタルPCRとは、サンプルDNAを所定の小部屋に分けて格納して個別にPCR増幅し、各小部屋におけるターゲットDNAの有無を判断し、ターゲットDNAを有する小部屋の数をターゲットのコピー数としてカウントすることで、サンプル中の濃度を絶対的な数値として算出する方法を意味する。かかるデジタルPCRは、市販のドロップレットデジタルPCR装置を用いることができる。
【0024】
本発明において、被検対象において大腸腫瘍を有するとの判定を補助する際の所定の閾値としては特に制限されないが、例えば、(d)健常者から得た便検体からゲノムDNAを抽出する工程;(e)工程(d)で得られたゲノムDNAを鋳型として、フソバクテリウム・ヌクレアタムに特異的配列を、該特異的配列を増幅可能なプライマー対を用いてデジタルPCRにより増幅してコピー数を算出する工程;の(d)及び(e)により求めたコピー数の中央値、平均値、又は、所定のパーセンタイル値を挙げることができる。所定のパーセンタイル値としては、50パーセンタイル、好ましくは60パーセンタイル、より好ましくは75パーセンタイル、さらに好ましくは80パーセンタイル、最も好ましくは90パーセンタイルを挙げることができる。
【0025】
上記工程(b)によって得られたコピー数が上記所定の閾値以上であれば、被検対象において大腸腫瘍を有する可能性が高いとの判定を補助することができる。また、大腸癌は下部消化管内視鏡検査によって容易に判別が可能であるため、大腸腫瘍を有する可能性が高いと判定された患者については、さらに大腸癌か否かを内視鏡検査等で調べることで、大腸腫瘍が大腸癌か大腸腺腫(非進行腺腫又は進行腺腫)かを判別し、その後の治療や検診の方針の参考とすることが可能となる。
【0026】
また、閾値として工程(e)で算出したコピー数を用いる場合には、工程(b)で算出したコピー数との間で、同量のゲノムDNAに基づくコピー数に換算して用いることが好ましい。
【実施例】
【0027】
(便検体ゲノムDNAの抽出)
便検体中のフソバクテリウム・ヌクレアタム量の指標として、便検体中のフソバクテリウム・ヌクレアタムに特異的DNAをデジタルPCRにより測定して得られたコピー数を用いることとした。そこで、まずは便検体中のゲノムDNAの抽出を行った。
【0028】
日本人の健常者(コントロール:平均年齢32才)の便60検体、非進行腺腫患者(Non-advanced adenoma:平均年齢65才)の便11検体、進行腺腫/粘膜内癌患者(Advanced adenoma/Tis:平均年齢69才)の便19検体、大腸癌(ステージI 49、ステージII 29、ステージIII 54、ステージIV 21、ステージ不明 5)患者(CRC:平均年齢69才)の便158検体それぞれから、下記の要領でDNAの抽出を行った。それぞれの便は、採取後にDNAの抽出まで−20℃で保存した。
【0029】
なお、大腸腺腫のうち、「Advanced adenoma(進行腺腫)」は、径1cm以上の腺腫、villous components(絨毛状成分)(tubulovillous(管状絨毛状)又はvillous(絨毛状))を合併する腺腫、又はhigh-grade or severe dysplasia(高度異型性)を合併する腺腫で、大腸の前癌病変であり、「Non-advanced adenoma(非進行腺腫)」は、良性腫瘍のうち上記Advanced adenoma(進行腺腫)でないものを意味する。また、Tisとは、癌が粘膜内にとどまり、粘膜下層に及んでいない、ごく初期(ステージ0)の大腸癌で、別名Carcinoma in situ(粘膜内癌)ともいう。
【0030】
前癌状態であるAdvanced adenoma(進行腺腫)や、ごく初期の癌であるTis(粘膜内癌)は、早期発見は難しいが、発見できれば、完全に治療できる可能性が大きいことから、本実施態様では、Advanced adenoma(進行腺腫)又はTis(粘膜内癌)と診断された患者を1つの解析群としてまとめて、「Advanced adenoma(進行腺腫)/Tis(粘膜内癌)」とした。なお、コントロール群とは、内視鏡検査で、大腸組織や大腸粘膜に大腸腫瘍のないものの群を意味する。
【0031】
便サンプル及び量:上記合計158人のヒト糞便検体 各 0.2g
使用するキット:QIAamp Fast DNA Stool Mini Kit(キアゲン社)
方法:製品添付のプロトコール(Human DNA analysis)に従って以下に示す方法にて行った。
1.糞便検体0.2gを2mLチューブに入れる。
2.1mLのInhibitEXバッファー(キットに添付)を便検体に加え、ボルテックス撹拌を1分間あるいは便検体が完全に懸濁するまで行った。
3.25μLのProteinase K(キットに添付)を新しい1.5mLチューブに入れた。
4.ステップ2後の液600μLをステップ3の1.5mLチューブに入れた。
5.600μLのALバッファ(キットに添付)を加え、15秒間ボルテックス撹拌を行った。
6.70℃で10分間加温した。
7.600μLのエタノール(96−100%)を溶解液に加え、ボルテックスル撹拌により混合した。
8.ステップ7の溶解液600μLをQIAamp スピンカラム(キットに添付)に入れた。ふたを閉めて1分間20,000gで遠心を行った。QIAamp スピンカラムを新しい2mLコレクションチューブに設置し、濾過液は捨てた。すべての溶解液をカラム処理するまでステップ10を繰り返した。
9.QIAampスピンカラムを注意深く開け、500μLのAW1バッファ(キットに添付)を加えた。1分間20,000gで遠心を行った。QIAampスピンカラムを新しい2mLコレクションチューブに設置し、濾過物を含むコレクションチューブは捨てた。
10.QIAampスピンカラムを注意深く開け、500μLのAW2バッファ(キットに添付)を加えた。3分間20,000gで遠心を行った。濾過物を含むコレクションチューブは捨てた。
11.QIAampスピンカラムを新しい2mLコレクションチューブに設置し、濾過物を含む古いコレクションチューブを捨てた。3分間20,000gで遠心を行った。
12.QIAampスピンカラムを新しい1.5mLチューブに移し、200μLのATEバッファ(キットに添付)を直接QIAampメンブレン上にピペットで滴下した。1分間室温に置いた後、1分間20,000gで遠心し、ゲノムDNAを溶出した。
【0032】
(デジタルPCR処理)
フソバクテリウム・ヌクレアタムに特異的配列の絶対コピー数をカウントするために、ドロップレットデジタルPCRを以下の方法によって行った。
【0033】
1.PCR反応液の作製
便から抽出したゲノムDNA40ngにddPCR Supermix for probes (#186-3010, BioRad社)、配列番号2に示すフォワードプライマー(0.25μM)、配列番号3に示すリバースプライマー(0.25μM)、及び配列番号4に示す配列の5’末端に蛍光物質(FAM)、3’末端にクエンチャー物質(TAMRA)で修飾したTaqManプローブ(0.125μM)を各濃度となるように加えてPCR反応液を調整した。各プライマー及びプローブの配列を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
2.ドロップレット作製
PCR反応液をAutoDGシステム(BioRad社)にセットし、ドロップレットを作製した。
【0036】
3.PCR反応(サーマルサイクラー)
PCR反応は以下の条件で行った。
・95℃、10分
・40サイクル(変性94℃30秒、アニーリング60℃60秒、ランプ速度2℃/秒)
・98℃10分
【0037】
4.コピー数カウント
QX100 Droplet Digital PCRシステムのDroplet Reader(BioRad社)にPCR反応済み検体をセットし、各液滴内のTaqManプローブ由来の蛍光色素を検出することで、フソバクテリウム・ヌクレアタムに特異的な配列(配列番号1)のコピー数をカウントした。その後、StatFlex Ver.6(Artec社)を用いて統計解析を行った。
【0038】
(結果)
デジタルPCRの結果を図1に示す。中央値は、健常者便60検体(コントロール)が17.5、Non-advanced adenoma(非進行腺腫)が311、Advanced adenoma(進行腺腫)/Tis(粘膜内癌)が122、CRC(大腸癌)患者便317であった。コントロール群(健常者)に比べて、非進行腺腫群、進行腺腫(前癌病変)群、大腸癌群で便中フソバクテリウム・ヌクレアタムに特異的配列の量が多い、すなわち、便中フソバクテリウム・ヌクレアタム量が多いことが明らかとなった。
【0039】
これまで、便中のフソバクテリウム・ヌクレアタムのDNAはPCRによる測定が極めて困難であったが、本発明の方法を用いることで便中のフソバクテリウム・ヌクレアタムに特異的なDNAをPCRで容易に測定可能であることが明らかとなった。さらに、便中のフソバクテリウム・ヌクレアタムに特異的なDNAを測定することで、大腸癌だけでなく前癌状態の非進行腺腫群又は進行腺腫群までも判別できることが明らかとなった。
【0040】
また、上記特許文献3記載の技術では相対定量であり、また基準サンプルについては不明であるため、臨床検査として利用する際に必要な閾値をどのように定めるか推定できない。一方で、本発明は絶対定量であり、さらには基準サンプルを必要としないため、所定の閾値に基づき大腸腫瘍の有無の判定を容易に補助することが可能となる。
【0041】
さらに、大腸癌ではなく、大腸における良性腫瘍や前癌病変、すなわち「大腸腺腫」を見つけることができるため、仮に大腸腺腫を見つけた場合に、さらなる詳細な検診を実施することや検診頻度を短くすることによって、大腸癌の早期発見につながることも可能であり、臨床検査の場面において大変有用である。
【0042】
なお、今回の実施例においてはコントロールと披検対象について同時に行ったが、あらかじめコントロールのコピー数の中央値、平均値、又は、所定のパーセンタイル値を算出して閾値とし、披検対象におけるコピー数と比較することでも、被検対象における大腸腫瘍の有無の判定を補助することができる。具体的には、コントロール(健常者)の便検体からのゲノムDNA40ngに基づくコピー数の中央値、平均値、又は、所定のパーセンタイル値をあらかじめ算出して閾値とし、披検対象における便検体からのゲノムDNA40ngに基づくコピー数と比較することで、被検対象における大腸腫瘍の有無の判定を補助することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、大腸腫瘍の有無の判定分野において利用可能である。
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]