(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6762024
(24)【登録日】2020年9月10日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/38 20140101AFI20200917BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20200917BHJP
【FI】
B23K26/38 Z
B23K26/00 N
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-148327(P2016-148327)
(22)【出願日】2016年7月28日
(65)【公開番号】特開2018-15783(P2018-15783A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】池田 剛史
(72)【発明者】
【氏名】荒川 美紀
(72)【発明者】
【氏名】橋本 百加
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸司
【審査官】
石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】
特表2013−500869(JP,A)
【文献】
特開2012−143814(JP,A)
【文献】
特開2012−061480(JP,A)
【文献】
特開平08−070186(JP,A)
【文献】
特開2012−045567(JP,A)
【文献】
特開2006−247665(JP,A)
【文献】
特開2014−121734(JP,A)
【文献】
特開2012−118344(JP,A)
【文献】
特開2019−098400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/38
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側から第1樹脂層と第2樹脂層とを有する複層樹脂基板を切断するためのレーザ加工装置であって、
前記第1樹脂層を切断するための第1レーザ光を発生する装置であって、前記第1レーザ光は前記第1樹脂層に対するよりも前記第2樹脂層に対して吸収率が低い、第1レーザ装置と、
前記第2樹脂層を切断するための第2レーザ光を発生する装置であって、前記第2レーザ光は第1樹脂層に対するよりも前記第2樹脂層に対して吸収率が高い、第2レーザ装置と、
を備え、
前記第1樹脂層はPETを含み、
前記第2樹脂層はPIを含み、
前記第1レーザ装置はCO2レーザであり、
前記第2レーザ装置はUVレーザである、
レーザ加工装置。
【請求項2】
表面側から第1樹脂層と第2樹脂層とを有する複層樹脂基板を切断するレーザ加工方法であって、
前記第1樹脂層に対するよりも前記第2樹脂層に対して吸収率が低い第1レーザ光を発生することで、前記第1樹脂層を切断する第1切断ステップと、
前記第1切断ステップの後に、前記第1樹脂層に対するよりも前記第2樹脂層に対して吸収率が高い第2レーザ光を発生して前記第1樹脂層の切断部分に照射することで、前記第2樹脂層を切断する第2切断ステップと、
を備え、
前記第1樹脂層はPETを含み、
前記第2樹脂層はPIを含み、
前記第1レーザ装置はCO2レーザであり、
前記第2レーザ装置はUVレーザである、
レーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置及びレーザ加工方法、特に、レーザ光を照射することで樹脂基板を切断する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂基板の種類は、単層樹脂基板と、複層樹脂基板とに分かれる。複層樹脂基板は、異なる材料の複数の樹脂層を含む。また、製品によって機能性膜(無機・金属・有機)を積層することがある。
複層樹脂基板を切断する装置として、レーザ加工装置が用いられる(例えば、特許文献1を参照)。複層樹脂基板は、レーザ加工装置によって、上側の層だけが切断されたり(ハーフカット加工)、全ての層が切断されたりする(フルカット加工)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−8511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複層樹脂基板をフルカット加工するときに、表面層より下側の層(例えば、中間層)がレーザ光に対して吸収率の高い材料からなる場合は、表面層より先に中間層が加工されることがある。この場合は、表面層の内側で発生したデブリが表面層によって排出を妨げられる。そのため、デブリが、樹脂層の境界に進入したり、内部に堆積したり、発熱して周辺部分を変質したりする。
【0005】
本発明の目的は、レーザ加工装置によって複層樹脂基板をフルカット加工する際に、表面側の層の加工時に内側の樹脂層が加工されにくくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
【0007】
本発明の一見地に係るレーザ加工装置は、表面側から第1樹脂層と第2樹脂層とを有する複層樹脂基板を切断するための装置であって、第1レーザ装置と、第2レーザ装置とを備えている。
第1レーザ装置は、第1樹脂層を切断するための第1レーザ光を発生する装置である。第1レーザ光は、第1樹脂層に対するよりも第2樹脂層に対して吸収率が低い。
第2レーザ装置は、第2樹脂層を切断するための第2レーザ光を発生する装置である。第2レーザ光は、第1樹脂層に対するよりも第2樹脂層に対して吸収率が高い。
【0008】
この装置では、第1レーザ光によって第1樹脂層が切断されるときに、第2樹脂層は加工されない条件(レーザパワー等)が選定される。なぜなら、第1レーザ光は第1樹脂層に対するよりも第2樹脂層に対して吸収率が低いからである。その結果、第1樹脂層の切断時に、第2樹脂層が加工されにくい。
第1樹脂層が切断された後に、第2レーザ光によって第2樹脂層が切断される。このときに発生するデブリは、第1樹脂層の切断部分から外部に出ていく。したがって、第2樹脂層加工時に発生するデブリが第1樹脂層内に止まることがない。
【0009】
第1レーザ光の第2樹脂層に対する吸収率は30%以下、好ましくは20%以下であってもよい。
【0010】
第2レーザ光の第2樹脂層に対する吸収率は70%以上、好ましくは80%以上であってもよい。
【0011】
第2樹脂層はPIを含み、第1レーザ装置はCO
2レーザであり、第2レーザ装置はUVレーザであってもよい。
【0012】
本発明の他の見地に係るレーザ加工方法は、表面側から第1樹脂層と第2樹脂層とを有する複層樹脂基板を切断する方法であって、下記のステップを備えている。
◎第1樹脂層に対するよりも第2樹脂層に対して吸収率が低い第1レーザ光を発生することで、第1樹脂層を切断する第1切断ステップ
◎第1切断ステップの後に、第1樹脂層に対するよりも第2樹脂層に対して吸収率が高い第2レーザ光を発生して第1樹脂層の切断部分に照射することで、第2樹脂層を切断する第2切断ステップ
【0013】
この方法では、第1レーザ光によって第1樹脂層が切断されるときに、第2樹脂層は加工されない。なぜなら、第1レーザ光は第1樹脂層に対するよりも第2樹脂層に対して吸収率が低いからである。その結果、第1樹脂層の切断時に、第2樹脂層の加工に起因する不具合が生じにくい。
第1樹脂層が切断された後に、第2レーザ光によって第2樹脂層が切断される。このときに発生するデブリは、第1樹脂層の切断部分から外部に出ていく。したがって、第2樹脂層加工時に発生するデブリが第1樹脂層内に止まることがない。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るレーザ加工装置及びレーザ加工方法では、複層樹脂基板をフルカット加工する際に、表面側の樹脂層の加工時に内側の樹脂層が加工されにくい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態のレーザ加工装置の模式図。
【
図2】フルカット加工の制御動作を示すフローチャート。
【
図5】本発明の実施例における切断部分の状態を示した平面図。
【
図6】比較例における切断部分の状態を示した平面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.第1実施形態
(1)全体構成
図1に、本発明の一実施形態による樹脂基板切断用のレーザ加工装置1の全体構成を示す。
図1は、本発明の第1実施形態のレーザ加工装置の模式図である。
レーザ加工装置1は、樹脂基板Pをフルカット加工する装置である。樹脂基板とは、樹脂シート、樹脂フィルムともいわれるものである。
【0017】
レーザ加工装置1は、レーザ装置3を備えている。レーザ装置3は、樹脂基板Pにレーザ光を照射するための第1レーザ発振器9Aを有している。第1レーザ発振器9Aは、例えば、CO
2レーザである。レーザ装置3は、樹脂基板Pにレーザ光を照射するための第2レーザ発振器9Bを有している。第2レーザ発振器9Bは、例えば、UVレーザである。
レーザ装置3は、レーザ光を後述する機械駆動系に伝送する伝送光学系11を有している。伝送光学系11は、例えば、図示しないが、集光レンズ、複数のミラー、プリズム、ビームエキスパンダ等を有する。また、伝送光学系11は、例えば、第1レーザ発振器9A、第2レーザ発振器9B及び他の光学系が組み込まれたレーザ照射ヘッド(図示せず)をX軸方向に移動させるためのX軸方向移動機構(図示せず)を有している。
伝送光学系11は、第1レーザ発振器9Aと第2レーザ発振器9Bでそれぞれ別の光学機構を有していてもよいし、共有の光学機構を切り換えて使用可能であってもよい。
【0018】
レーザ加工装置1は、機械駆動系5を備えている。機械駆動系5は、ベッド13と、樹脂基板Pが載置される加工テーブル15と、加工テーブル15をベッド13に対して水平方向に移動させる移動装置17とを有している。移動装置17は、ガイドレール、移動テーブル、モータ等を有する公知の機構である。
【0019】
レーザ加工装置1は、制御部7を備えている。制御部7は、プロセッサ(例えば、CPU)と、記憶装置(例えば、ROM、RAM、HDD、SSDなど)と、各種インターフェース(例えば、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、通信インターフェースなど)を有するコンピュータシステムである。制御部7は、記憶部(記憶装置の記憶領域の一部又は全部に対応)に保存されたプログラムを実行することで、各種制御動作を行う。
制御部7は、単一のプロセッサで構成されていてもよいが、各制御のために独立した複数のプロセッサから構成されていてもよい。
【0020】
制御部7には、図示しないが、樹脂基板Pの大きさ、形状及び位置を検出するセンサ、各装置の状態を検出するためのセンサ及びスイッチ、並びに情報入力装置が接続されている。
この実施形態では、制御部7は、第1レーザ発振器9A及び第2レーザ発振器9Bを制御できる。また、制御部7は、移動装置17を制御できる。さらに、制御部7は、伝送光学系11を制御できる。
【0021】
樹脂基板Pは、
図3に示すように、複層の樹脂からなる複層樹脂基板である。
図3は、樹脂基板の構造を示す模式的断面図である。具体的には、樹脂基板Pは、三層構造であり、表側から、第1樹脂層L1と、第2樹脂層L2と、第3樹脂層L3とを有している。
一例として、第1樹脂層L1は、PETを含む。第2樹脂層L2は、PIを含む。第3樹脂層L3は、PETを含む。
一例として、各樹脂層は接着層により互いに接着されている。
一例として、第2樹脂層L2の上面には、回路が形成されている。
【0022】
(2)動作
図2〜
図4を用いて、レーザ光による樹脂基板Pの加工動作を説明する。
図2は、フルカット加工の制御動作を示すフローチャートである。
図4は、樹脂基板の加工状態を示す模式的断面図である。
制御部7が、レーザ発振器9を駆動して、樹脂基板Pの切断を実行する。以下、切断動作を具体的に説明する。
【0023】
ステップS1では、第1樹脂層L1を切断する。具体的には、制御部7は、第1レーザ発振器9Aを駆動することで、レーザ光を切断ラインCに沿って移動させる。
図3に示すように、第1レーザ光R1によって、第1樹脂層L1が切断される。レーザ光の走査回数は1回でもよいし、複数回でもよい。
第1レーザ光R1によって第1樹脂層L1が切断されるときに、第2樹脂層L2は加工されない。なぜなら、第1レーザ光R1は、第1樹脂層L1に対するよりも第2樹脂層L2に対して吸収率が低いからである。その結果、第1樹脂層L1の切断時に、第2樹脂層L2の加工による不具合が生じにくい。
具体例として、CO
2レーザのPIに対する吸収率は、9.4μ波長帯の場合は30%程度である。
【0024】
ステップS2では、第2樹脂層L2を切断する。具体的には、制御部7は、第2レーザ発振器9Bを駆動することで、レーザ光を切断ラインCに沿って移動させる。レーザ光の走査回数は1回でもよいし、複数回でもよい。
図4に示すように、第2レーザ光R2によって、第2樹脂層L2が切断される。このときに発生するデブリは、第1樹脂層L1の切断部19から外部に出ていく。なお、第2レーザ光R2は第1樹脂層L1に対するよりも第2樹脂層L2に対して吸収率が高いので、第2樹脂層L2は効果的に切断される。
【0025】
具体例として、UVレーザのPIに対する吸収率は、90%程度である。
ステップS3では、第3樹脂層L3を切断する。このとき、第2レーザ発振器9BつまりUVレーザが用いられる。
【0026】
次に、
図5及び
図6を用いて、実施例と比較例を説明する。
図5は、本発明の実施例における切断部分の状態を示した平面図である。
図6は、比較例における切断部分の状態を示した平面図である。
実施例:第1樹脂層がPET、第2樹脂層がPI、レーザ装置はCO
2レーザである。
比較例:第1樹脂層がPET、第2樹脂層がPI、レーザ装置はUVレーザである。
いずれの場合も、第1樹脂層のみを切断して、その状態で観察を行った。
【0027】
図5に示すように、実施例では、切断部19に対して、デブリが広がっている領域の幅Zはわずかである。
図6に示すように、比較例(例えば、第1層を切断するためにUVレーザを用いた場合)では、切断部19に対してデブリが広がっているよう領域の幅Zが極端に長くなっている。
【0028】
2.他の実施形態
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0029】
前記樹脂基板は樹脂層が3層であったが、樹脂層は、2層であってもよいし、4層以上であってもよい。
前記基板は全て樹脂層で構成されていたが、2層の樹脂層の下に他の層(例えば、金属層、セラミック層)が設けられていてもよい。
レーザ装置、機械駆動系の具体的な構成は、前記実施形態に限定されない。
樹脂基板の形状、切断部の形状は特に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、レーザ光を照射することで樹脂基板を切断するレーザ加工装置及びレーザ加工方法に広く適用できる。
【符号の説明】
【0031】
1 :レーザ加工装置
3 :レーザ装置
5 :機械駆動系
7 :制御部
9 :レーザ発振器
9A :第1レーザ発振器
9B :第2レーザ発振器
11 :伝送光学系
13 :ベッド
15 :加工テーブル
17 :移動装置
19 :切断部
L1 :第1樹脂層
L2 :第2樹脂層
L3 :第3樹脂層
P :樹脂基板