(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記係合凸部は、前記第1保持部材及び前記第2保持部材のうち、いずれか一方において周方向に設けられた溝部と、前記溝部に配置され当該溝部から突出する弾性リングとによって構成されている請求項1に記載の工具用チャック。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に示すような従来の工具用チャックでは、チャック本体の筒部に対するナットのねじ込みは手作業で行われるために、ナットのねじ込みによりコレットを当該筒部の奥側に押し込む際にコレットの軸芯が回転軸芯に対して若干ずれることがある。
あるいは、筒部の雄ネジ又はナットの雌ネジが歪んでいることを原因としてこれらネジの噛み合わせが悪い場合にも、上記のような事態が生じることがある。コレットの軸芯が回転軸芯に対してずれると、コレットに把持された工具のシャンク部の軸芯も回転軸芯に対してずれることになる。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、チャック本体に対してコレットを押し込む際に、コレットによる工具の把持を精度良く行える工具用チャックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本開示に係る工具用チャックの特徴構成は、工具を把持するコレットと、軸芯に沿って前記コレット
を内部に挿入
する受容部を先端に有するチャック本体と、前記コレットを内装し且つ当該コレット
と軸方向で一体的に移動可能に構成された保持部材と、前記チャック本体に対して外装さ
れ且つ前記保持部材
を内装するナットと、を備え、前記保持部材は、前記ナットが前記チャック本体に対して前記軸方向に相対移動する際に、当該保持部材が前記ナットに対して前記軸方向に相対移動するのを許容する移動許容機構を有
し、前記保持部材は、前記ナットに内装される第1保持部材と、前記第1保持部材に内装され且つ前記コレットを内装する第2保持部材と、を含んで構成され、前記第1保持部材と前記第2保持部材とは、前記軸方向で相対移動可能に構成され、前記第1保持部材及び前記第2保持部材は、前記軸芯を中心とする環状に形成され、前記移動許容機構は、前記第1保持部材及び前記第2保持部材のうち、いずれか一方において前記軸芯に対する周方向に設けられた係合凸部と、いずれか他方において前記周方向に設けられ且つ前記係合凸部に係合される被係合凹部と、を備え、前記係合凸部は径方向に弾性変形可能であり、前記被係合凹部は、前記軸方向に沿って併設され且つ前記係合凸部を保持する一対の小凹部と、前記一対の小凹部の間に設けられた突起と、を有する点にある。
【0008】
工具を把持するコレットは、保持部材に内装されている。コレットと保持部材とは、軸方向で一体的に移動可能に構成されている。そして、保持部材はチャック本体を基準とする径方向でナットに内装されているため、ナットがチャック本体に対して軸方向に相対移動するとき、保持部材及びコレットは当該ナットと一体となって軸方向に移動する。このナットの移動により、コレットに把持される工具が、当該コレットと共にチャック本体に取り付けられる。本構成によれば、移動許容機構が、軸方向でのチャック本体に対するナットの移動に際し、このナットに対して保持部材が軸方向に相対移動するのを許容するように構成されている。一般的に、軸方向においてコレットがチャック本体に近づくほど、互いがそれぞれ有するテーパ面の圧接により、チャック本体によるコレットの締め付けが強くなる。そして、チャック本体に締め付けられたコレットが工具を締め付け、チャック本体に対する工具の取り付けが完了する。ここで、コレットの軸芯と保持部材の軸芯とがずれた状態で、チャック本体に対するナットの移動が継続されると、互いの軸芯がずれたままコレットがチャック本体に締め付けられ、その結果、チャック本体に対して取り付けられる工具の軸芯もチャック本体の軸芯とずれることとなる。しかし、本構成では、ナットの移動の継続中に、保持部材が一時的に軸方向においてチャック本体から遠ざかる方向に移動するから、保持部材によるコレットの締め付けが緩み、コレットがチャック本体に軽圧入されただけの状態になる。その結果、コレットの軸芯(工具のシャンク部の軸芯)がチャック本体の軸芯と一致した状態となる。更にナットの移動が継続されると、コレットの軸芯に保持部材の軸芯が一致し、この状態のまま、工具は、コレットと共にチャック本体に取り付けられる。従って、本構成によれば、チャック本体に対してコレットを押し込む際に、コレットによって工具を精度良く把持することができる。
【0009】
【0010】
また、本構成では、第1保持部材とナットとが一体的に移動する場合に、第2保持部材が当該第1保持部材に対して軸方向で相対移動するときは、当該第2保持部材は、ナットに対しても軸方向で相対移動することになる。すなわち、本構成では、第2保持部材をナットに対して軸方向で相対移動可能とするが、第1保持部材はナットと軸方向で一体的に移動するように構成される。この構成により、第1保持部材と第2保持部材を軸方向で相対移動可能とすることで、構成が簡単になる。
【0011】
また、本構成では、第1保持部材及び第2保持部材が、互いに軸芯を同一とする環状に形成されており、互いに係合し合う係合凸部と被係合凹部とを、それぞれの周方向において備えている。本構成によれば、第2保持部材が第1保持部材に対して一時的に軸方向で相対移動可能であるが、係合凸部と被係合凹部とが係合している状態では、第1保持部材と第2保持部材とを軸方向で一体的に移動させることができる。すなわち、ナットの移動に伴う軸方向の力を第1保持部材を介して第2保持部材に確実に伝達でき、その結果、第2保持部材に内装されるコレット及びコレットに把持される工具を軸方向で確実に移動させることができる。
【0012】
また、本構成では、被係合凹部は、第1保持部材及び第2保持部材のうちのいずれか一方に設けられており、軸方向に沿って併設される一対の小凹部を有している。小凹部は、第1保持部材及び第2保持部材のうちいずれか他方に設けられた係合凸部を保持する。小凹部が係合凸部を保持している状態では、第1保持部材と第2保持部材とは、軸方向の相対移動が規制された状態となる。本構成では、第1保持部材と第2保持部材とが、互いに軸方向における反対方向の力を作用させ合うとき、一対の小凹部のうちの一方の小凹部が係合凸部を保持している状態から小突起が係合凸部を径方向に弾性変形させる。係合凸部が径方向に弾性変形すると、当該一方の小凹部による係合凸部の保持が解除されるから、第1保持部材と第2保持部材とは軸方向で相対移動することになる。そして、係合凸部が他方の小凹部に移動すると、係合凸部は弾性変形前の状態に戻り、当該他方の小凹部に保持される状態となる。従って、本実施形態では、小凹部による係合凸部の保持と、小突起による係合凸部の弾性変形と、を利用して、第1保持部材及び第2保持部材の軸方向における相対移動の規制と許容とを図ることで、移動許容機構を機能させることができる。
【0013】
また、前記係合凸部は、前記第1保持部材及び前記第2保持部材のうち、いずれか一方において周方向に設けられた溝部と、前記溝部に配置され当該溝部から一部が突出する弾性リングとによって構成されていると好適である。
【0014】
本構成によれば、係合凸部の一部である弾性リングと被係合凹部とが係合している状態で第1保持部材と第2保持部材とに軸方向における反対方向の力が作用し合うことで、弾性リングに軸方向の負荷が掛かった場合に、当該軸方向の負荷を径方向に分散させることができる。そして、径方向の負荷を受けた弾性リングを径方向に収縮させて溝部に入り込ませることにより係合凸部と被係合凹部との係合を解除でき、第1保持部材と第2保持部材とを軸方向に相対移動させることができる。
【0015】
【0016】
【0017】
また、前記被係合凹部は、前記一対の小凹部のうちの前記チャック本体から遠い方に位置する小凹部と前記突起との間に傾斜面を有すると好適である。
【0018】
また、前記ナット、前記保持部材、及び、前記コレットを前記チャック本体に取り付ける際に、前記コレットを前記受容部の奥側に向けて押圧する第1工程と、前記第1工程の押圧による反力を受けて、前記移動許容機構により前記チャック本体に対して前記保持部材を前記受容部の先端側に相対移動させる第2工程と、前記第2工程の後に前記コレットを前記受容部の奥側に向けて再度押圧して前記工具を前記チャック本体に固定する第3工程と、を備える工具保持方法により、工具をチャック本体に固定すると好適である。
【0019】
本方法によれば、第1工程によりコレットをチャック本体の受容部に挿入でき、保持部材を、第2工程により挿入方向の反対方向に向けて、チャック本体に対して僅かに相対移動させることができる。第1工程における受容部へのコレットの挿入時に、当該コレットの軸芯がチャック本体の軸芯に対してずれている場合には、第2工程によって保持部材を上記反対方向、すなわち、チャック本体から遠ざかる方向に向けて移動させることで、コレットに対する押圧を一旦解除し、コレットの軸芯をチャック本体の軸芯に一致させることができる。その後は、第3工程によりコレットをチャック本体の受容部の奥側に向けて押圧することで、コレットの軸芯とチャック本体の軸芯とが一致した状態で、受容部に対してコレットが挿入され、コレットに内装された工具をチャック本体に対して固定できる。従って、本方法によれば、工具のシャンク部の軸芯とチャック本体の軸芯とを一致させて、工具をチャック本体に対して固定することができる。
【0020】
また、前記係合凸部を前記傾斜面に接触させた状態で前記ナットを前記チャック本体から遠ざかる方向に移動させる第1取り外し工程と、前記係合凸部と前記小凹部とを係合させる第2取り外し工程と、前記保持部材と前記コレットとを、前記チャック本体から遠ざかる方向に一体的に移動させることにより前記工具を前記チャック本体から取り外す第3取り外し工程と、を備える工具取り外し方法により工具をチャック本体から取り外すと好適である。
【0021】
本方法によれば、第1取り外し工程により、第1保持部材及び第2保持部材のうち係合凸部を有する一方と、傾斜面を有する他方とが、軸方向に沿って緩やかに相対移動できる。そして、第2取り外し工程により、ナット、第1保持部材及び第2保持部材が軸方向に沿って一体的に移動できる。更に、第3取り外し工程により、第1保持部及び第2保持部材とコレットとを軸方向に沿ってチャック本体から遠ざかる方向に移動させることで、コレットに把持された工具をチャック本体から取り外すことができる。
【0022】
本開示に係る技術のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本実施形態に係る工具用チャック1について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、工具用チャック1は、工具5を把持するコレット4と、軸芯AXに沿ってコレット4を内部に挿入する受容部25を先端に有するチャック本体2と、コレット4を内装し且つ当該コレット4と軸芯AXを基準とする軸方向Xに沿って一体的に移動可能に構成された保持部材3と、軸芯AXを基準とする径方向Rでチャック本体2に対して外装され且つ保持部材3を径方向Rで内装するナットNと、を備えている。なお、チャック本体2の軸芯AXは、工具用チャック1の回転軸芯に相当する。以下では、軸芯AXに沿う方向を、軸方向Xとする。軸方向Xにおいて、コレット4がチャック本体2の受容部25に挿入される側を、軸方向基端側X2とし、その反対側を軸方向先端側X1とする。また、軸芯AXに直交する方向を径方向Rとする。径方向Rにおける軸芯AX側を径方向内側R2とし、その反対側を径方向外側R1とする。
【0025】
チャック本体2の外周には、雄ネジP1が形成されている。チャック本体2の雄ネジP1は、ナットNの内周面に形成された雌ネジP2と噛み合うようになっている。従って、チャック本体2に外装されるナットNは、雄ネジP1及び雌ネジP2の噛み合いにより、チャック本体2に対して直接的に取り付けられるように構成されている。
【0026】
先端部23の外周には、保持部材3の内周面と当接する先端外周面23aが形成されている。中間部22と先端部23とによって筒部24が構成されている。筒部24は、コレット4を内部に挿入可能な受容部25を有している。そして、受容部25の内周面には、軸方向先端側X1に向かって拡径となるテーパ内周面26が形成されている。
【0027】
コレット4は、工具5のシャンク部51を径方向外側R1から収縮して把持するように筒状に構成されている。コレット4は、シャンク部51を把持した状態で、工具5と一体回転する。コレット4の外周には、受容部25のテーパ内周面26と当接するテーパ外周面41が形成されている。テーパ外周面41は、軸方向先端側X1に向かって拡径となるように構成されている。従って、テーパ外周面41と同様に、テーパ内周面26も軸方向先端側X1に向かって拡径となるように構成されている。
【0028】
保持部材3は、ナットNの径方向内側R2において、ナットNに対して軸芯AXまわりに回転自在に内装されている。保持部材3は、ナットNとチャック本体2との螺合によってナットNがチャック本体2に対して軸方向Xに沿って相対移動するのに伴って、軸方向Xに沿ってナットNと一体的に移動するように構成されている。保持部材3は、チャック本体2の先端部23の径方向外側R1において、先端部23に対して軸方向Xに沿って相対移動自在且つ軸芯AXまわりに相対回転不能に外装されている。また、保持部材3は、径方向外側R1からコレット4を保持して、軸方向Xに沿ってコレット4と一体的に移動可能に構成されている。このような保持部材3は、ナットNに内装される第1保持部材31と、第1保持部材31に内装され且つコレット4を内装する第2保持部材32と、を含んで構成されている。第1保持部材31及び第2保持部材32は、軸芯AXを中心とする環状に形成されている。第1保持部材31は、第2保持部材32に対して径方向外側R1に配置されている。従って、第2保持部材32は、第1保持部材31に対して径方向内側R2に配置されている。
【0029】
工具用チャック1は、チャック本体2に対する保持部材3の相対回転を規制する回り止め機構6を備えている。回り止め機構6は、ボール嵌合穴61に入れられるスラストボール62と、スラストボール62を軸方向Xに沿って案内するガイド凹部63と、ガイド凹部63の軸方向基端側X2に形成された拡幅部64と、スラストボール62に対して軸芯AXを中心とする周方向の両側で当接する一対の周方向当接面(図示省略)と、を備えている。なお、以下では、軸芯AXを中心とする周方向を、単に周方向という。
【0030】
ボール嵌合穴61は、先端部23の先端外周面23aにおける周方向の一部に設けられている。スラストボール62は、ボール嵌合穴61によって保持された状態となっている。ガイド凹部63は、第1保持部材31の内周面における周方向の一部に設けられている。ガイド凹部63は、第1保持部材31の内周面から径方向外側R1に向かって凹むように、且つ、軸方向Xに沿って延在する溝状に形成されている。ナットNと共に保持部材3がチャック本体2に取り付けられる際に、ボール嵌合穴61に保持されたスラストボール62がガイド凹部63の軸方向基端側X2の端部から当該ガイド凹部63に入り込むように構成されている。拡幅部64は、ガイド凹部63の軸方向基端側X2の端部において、径方向外側R1に切り欠かれた形状となっている。拡幅部64によって、ガイド凹部63の軸方向基端側X2の端部からスラストボール62が入り込み易いようになっている。図示しないが、ボール嵌合穴61及びガイド凹部63の周方向の両側には、一対の周方向当接面が形成されている。周方向当接面は、周方向においてスラストボール62と当接するように構成されている。この当接により、ガイド凹部63を有する第1保持部材31と、ボール嵌合穴61を有するチャック本体2と、が軸芯AXを中心として相対回転できないようになっている。一方で、スラストボール62が案内されるガイド凹部63は軸方向Xに沿って延在しているから、第1保持部材31は、チャック本体2に対して軸方向基端側X2に相対移動可能である。従って、回り止め機構6により、保持部材3とチャック本体2との軸芯AXを中心とする相対回転が規制されかつ、これらの軸方向Xに沿う相対移動が可能となっている。
【0031】
工具用チャック1は、ナットNとチャック本体2の中間部22との螺合に伴うナットNの軸方向Xに沿う移動によって、チャック本体2の基端部21側に保持部材3を引き込む保持部材引込機構7を備えている。保持部材引込機構7は、周方向に沿って形成される環状空間71と、環状空間71に入れられる複数のラジアルボール72で構成されている。
【0032】
ナットNが軸芯AXを中心に回転すると、それに合わせてラジアルボール72が回転するように構成されている。そのため、回り止め機構6によって軸芯AXを中心とした回転が規制されている保持部材3に対して、ナットNが軸芯AXを中心として回転可能となっている。また、環状空間71、すなわち、径方向RにおけるナットNと保持部材3との間に配置されているラジアルボール72は、軸方向Xの両側にて軸方向当接面FXと当接している。そのため、ナットNとチャック本体2の螺合に伴うナットNの軸方向Xに沿う移動によって、ラジアルボール72が軸方向当接面FXに押され、当該ラジアルボール72を介してナットNと保持部材3とが軸方向Xに沿って一体的に移動するようになっている。従って、保持部材引込機構7により、ナットNと保持部材3との相対回転が許容されつつ、ナットNと保持部材3とが軸方向Xに沿って一体的に移動可能となっている。
【0033】
工具用チャック1は、保持部材3の軸方向基端側X2への移動によって、チャック本体2の受容部25の奥側にコレット4を押し込むコレット押圧機構8を備えている。コレット押圧機構8は、コレット4の外周に形成された第1外側当接面8aと、保持部材3の内周に形成されると共に第1外側当接面8aと当接する第1内側当接面8bと、を備えている。本実施形態では、第1内側当接面8bは、第2保持部材32の内周に形成されている。第1外側当接面8aは、コレット4の外周における、径方向Rから見て第2保持部材32と重複する領域に形成されている。第1外側当接面8a及び第1内側当接面8bは、径方向Rに起伏した形状となっており、互いに当接するように構成されている。そのため、第1外側当接面8a及び第1内側当接面8bは、少なくとも軸方向Xに作用する力を互いに伝達可能となっている。これにより、コレット押圧機構8は、第2保持部材32の軸方向基端側X2に沿う移動に伴って、コレット4をチャック本体2の受容部25の奥側(軸方向基端側X2)に押し込むことが可能となっている。更に、工具用チャック1は、保持部材3の軸方向先端側X1への移動によって、チャック本体2に対して軸方向先端側X1にコレット4を引っ張るコレット引張機構10を備えている。コレット引張機構10は、コレット4の外周に形成された第2外側当接面10aと、保持部材3の内周に形成されると共に第2外側当接面10aと当接する第2内側当接面10bと、を備えている。第2外側当接面10a及び第2内側当接面10bは、軸方向先端側X1に向かって拡径となるように傾斜している。これら第2外側当接面10aと第2内側当接面10bとが当接することで、軸方向Xに沿う力を伝達可能になっている。
【0034】
保持部材3は、ナットNがチャック本体2に対して軸方向Xに沿って相対移動する際に、保持部材3がナットNに対して軸方向Xに沿って相対移動するのを許容する移動許容機構9を有している。また、第1保持部材31と第2保持部材32とは、軸方向Xに沿って相対移動可能に構成されている。本実施形態では、移動許容機構9は、ナットNがチャック本体2に対して軸方向Xに沿って相対移動する際に、第2保持部材32がナットNに対して軸方向Xに沿って相対移動するのを許容するように構成されている。
【0035】
図2に示すように、移動許容機構9は、第1保持部材31及び第2保持部材32のうち、いずれか一方において軸芯AXに対する周方向に設けられた係合凸部92と、いずれか他方において周方向に設けられ且つ係合凸部92に係合される被係合凹部91と、を備えている。また、移動許容機構9は、第1保持部材31と第2保持部材32との径方向Rの間に隙間Sを有している。この隙間Sによって、第2保持部材32は、径方向Rでの移動が許容された状態となっている。そのため、第2保持部材32は、コレット4が受容部25に押圧されている際には、径方向Rにおいてコレット4に追従する。すなわち、コレット4の第1外側当接面8aが径方向Rに動くと、第2保持部材32の第1内側当接面8bが第1外側当接面8aに追従する。また、第2保持部材32は、コレット4が受容部25に押圧されていないときは、第2保持部材32の軸芯が軸芯AXに一致するように移動して、コレット4が径方向Rにおいて第2保持部材32に追従する。すなわち、第2保持部材32の径方向Rに沿う移動によりコレット4の軸芯が軸芯AXに一致し易くなる。
【0036】
係合凸部92は、第1保持部材31及び第2保持部材32のうち、いずれか一方において周方向に設けられた溝部92bと、溝部92bに配置され当該溝部92bから一部が突出する弾性リング92aとによって構成されている。本実施形態では、溝部92bは、第2保持部材32の外周において周方向の全体に亘って設けられている。弾性リング92aの軸方向Xに沿う断面は、円形となっている。本実施形態では、弾性リング92aと溝部92bとを含んで構成される係合凸部92は、第2保持部材32の外周における周方向の全体に亘って設けられている。係合凸部92は、弾性リング92aの弾性力により径方向Rに弾性変形可能に構成されて溝部92bに案内するようになっている。
【0037】
本実施形態では、被係合凹部91は、第1保持部材31の内周における周方向の全体に亘って設けられている。被係合凹部91は、第2保持部材32に設けられた係合凸部92に係合されることが可能に構成されている。被係合凹部91は、軸方向Xに沿って併設され且つ係合凸部92を保持する一対の小凹部91a,91cと、一対の小凹部91a,91cの間に設けられ且つ係合凸部92を径方向Rに弾性変形させる小突起91bと、を有している。本実施形態では、一対の小凹部91a,91cは、軸方向基端側X2に配置される基端側小凹部91aと、軸方向先端側X1に配置される先端側小凹部91cと、から構成されている。基端側小凹部91aと先端側小凹部91cとは、略同一形状である。以下、基端側小凹部91aと先端側小凹部91cとをまとめて、一対の小凹部91a,91cという場合がある。一対の小凹部91a,91cそれぞれの軸方向Xの長さは、係合凸部92の軸方向Xの長さよりも長く形成されている。従って、一対の小凹部91a,91cのそれぞれは、係合凸部92を保持可能となっている。本実施形態では、一対の小凹部91a,91cのそれぞれは、弾性リング92aを保持可能となっており、深さは弾性リング92aの約半分である。小突起91bは、径方向内側R2に突き出して形成されている。本実施形態では、小突起91bは、軸方向Xにおける基端側小凹部91aと先端側小凹部91cとの間に配置されている。
【0038】
次に、工具用チャック1を用いた工具5の保持方法について説明する。
工具5の保持方法は、ナットN、保持部材3、及び、コレット4をチャック本体2に取り付ける際に、コレット4を受容部25の奥側に向けて押圧する第1工程と、第1工程の押圧による反力を受けて、移動許容機構9によりチャック本体2に対して第2保持部材32(保持部材3)を受容部25の先端側に相対移動させる第2工程と、第2工程の後にコレット4を受容部25の奥側に向けて再度押圧して工具5をチャック本体2に固定する第3工程と、を備えている。第1工程、第2工程及び第3工程は、ナットNのチャック本体2への螺合を継続する過程で一連的に行われる。説明の便宜上、以下では、これら3つの工程を分けて説明する。
【0039】
まず、
図3に示すように、ナットNと、第1保持部材31及び第2保持部材32と、コレット4と、工具5と、が組み付けられた状態で、コレット4をチャック本体2の受容部25の奥側(軸方向基端側X2)に向けて挿入していく。
図3に示す状態は、チャック本体2の中間部22の雄ネジP1とナットNの雌ネジP2とがまだ噛み合っていない状態である。受容部25へコレット4を挿入する際には、チャック本体2の先端部23のボール嵌合穴61にて保持されたスラストボール62の周方向の配置位置に、第1保持部材31に形成されたガイド凹部63の周方向の配置位置を合わせながらコレット4を受容部25へ挿入する。ガイド凹部63の軸方向基端側X2の端部には、径方向Rに広がる拡幅部64が形成されているので、スラストボール62がガイド凹部63の内部に案内され易くなっている。
【0040】
次に、コレット4を受容部25の奥側に向けて押圧する第1工程を行う。
図4に示すように、ナットNをチャック本体2に対してねじ込んでいく。スラストボール62がガイド凹部63に案内されると、スラストボール62は、ガイド凹部63及びボール嵌合穴61に形成された不図示の周方向当接面に当接するため、チャック本体2に対して第1保持部材31(保持部材3)は相対回転不能の状態となる。一方で、スラストボール62が案内されるガイド凹部63は軸方向Xに沿って延在しているから、第1保持部材31は、チャック本体2に対して軸方向基端側X2に相対移動可能である。
【0041】
第1保持部材31が軸芯AXまわりに回転不能の状態であるのに対し、第1保持部材31と径方向外側R1で連結するナットNは、保持部材引込機構7を構成するラジアルボール72の転動により軸芯AXまわりに回転可能な状態である。ラジアルボール72は、軸方向当接面FXと軸方向Xで当接しているから、ナットNのチャック本体2への螺合により当該ナットNが軸方向基端側X2に移動すると、ナットN及び第1保持部材31は、軸方向基端側X2に向かって一体的に移動する。
【0042】
図4に示す状態は、ナットNのチャック本体2への螺合を継続する過程である。
図2の仮想線にも示すように、基端側小凹部91aに弾性リング92aが係合しており、且つ、弾性リング92aが小突起91bに軸方向基端側X2から接触している状態である。弾性リング92aが小突起91bに接触しているため、第2保持部材32の軸方向先端側X1への移動は一時的に規制される。第2保持部材32は、コレット4の軸方向先端側X1の端部近傍に設けられた第1外側当接面8a及び第2保持部材32の内周に設けられた第1内側当接面8bを介してコレット4を軸方向基端側X2に押圧する。受容部25に形成されたテーパ内周面26とコレット4に形成されたテーパ外周面41とが当接している状態である。テーパ内周面26及びテーパ外周面41は、軸方向先端側X1に向かって拡径となっているため、これらの当接により、コレット4は、受容部25を軸方向基端側X2に押圧する力を作用させる。また、ナットNのチャック本体2への螺合を更に継続させることにより、コレット4による受容部25を押圧する力が強まり、この力の反力として、受容部25は、コレット4を軸方向先端側X1に押圧する力を作用させる。
【0043】
次に、移動許容機構9によりチャック本体2に対して第2保持部材32を受容部25の先端側に相対移動させる第2工程を行う。
図2の仮想線及び
図5に示すように、弾性リング92aと小突起91bとが軸方向Xで当接しており、弾性リング92aは断面視円形であるから、押圧する力が規制する力以上になると、弾性リング92aは、小突起91bから径方向内側R2に向かう力を受け、径方向内側R2に向かって弾性変形(縮径)して、小突起91bを乗り越える。これにより、第2保持部材32は軸方向先端側X1に移動自在の状態となり、第2保持部材32が軸方向先端側X1に移動する。第2保持部材32は、第1保持部材31の第1規制面93aと第2保持部材32の第2規制面93bとが当接することにより、これ以上軸方向先端側X1へ移動できなくなる(
図2参照)。第2保持部材32が軸方向先端側X1に移動することによって、テーパ内周面26とテーパ外周面41との圧接状態が軽減される。すなわち、軽圧入による軸芯に対する取付精度が良い状態を維持することができ、またコレット4を受容部25に挿入した際にコレット4の軸芯が軸芯AXに対して傾いていた場合でも、コレット4が軸芯AXに沿う姿勢となり易くなる。従って、コレット4の軸芯が軸芯AXに一致し易くなる。更に、本実施形態では、第1保持部材31と第2保持部材32との径方向Rの間に隙間Sが形成されているから、第2保持部材32は、径方向Rに移動して、この第2保持部材32に把持されるコレット4の軸芯と軸芯AXとが更に一致し易くなる。
【0044】
次に、第2工程の後にコレット4を受容部25の奥側に向けて再度押圧して工具5をチャック本体2に固定する第3工程を行う。
図2に示すように、第1保持部材31の第1規制面93aと第2保持部材32の第2規制面93bとが当接した状態で、ナットN、第1保持部材31、第2保持部材32及びコレット4は、軸方向基端側X2に向かって一体的に移動可能な状態となる。この状態から、チャック本体2に対するナットNの螺合を継続させることで、ナットN、第1保持部材31、第2保持部材32及びコレット4を軸方向基端側X2に向かって一体的に移動させる(
図6参照)。これにより、チャック本体2によってコレット4が強く押圧されていき、工具5の保持が完了する。
【0045】
次に、工具用チャック1を用いた工具5の取り外し方法について説明する。
工具5の取り外し方法は、係合凸部92を傾斜面91dに接触させた状態でナットNをチャック本体2から遠ざかる方向に移動させる第1取り外し工程と、係合凸部92と小凹部91aとを係合させる第2取り外し工程と、保持部材3とコレット4とを、チャック本体2から遠ざかる方向に一体的に移動させることにより工具5をチャック本体2から取り外す第3取り外し工程と、を備えている。
【0046】
図6に示すように、弾性リング92aを傾斜面91dに接触させた状態のまま(
図2も参照)、ナットNを軸方向先端側X1に移動させる(第1取り外し工程)。このとき、弾性リング92aと傾斜面91dとの接触により、第1保持部材31及びナットNは、第2保持部材32に対して軸方向先端側X1に抵抗少なく緩やかに相対移動する。そして、ナットNの軸方向先端側X1への移動を継続させることで、小突起91bを乗り越え、基端側小凹部91aと弾性リング92aとを係合させる(第2取り外し工程)。この係合によって、第1保持部材31及びナットNが第2保持部材32に対して軸方向先端側X1に相対的に移動することが規制される。従って、この状態からナットNを軸方向先端側X1に移動させることにより、ナットN、第1保持部材31、第2保持部材32が軸方向先端側X1に一体的に移動する。
図7に示すように、更にナットNを軸方向先端側X1に移動させることで、第2保持部材32が軸方向先端側X1に移動し、第1外側当接面8aと第1内側当接面8bとが離間すると共に第2外側当接面10aと第2内側当接面10bとが当接する。これにより、ナットN、第1保持部材31及び第2保持部材32に加えて、コレット4も軸方向先端側X1に沿って一体的に移動可能な状態となる。そして、第2保持部材とコレット4とを、軸方向先端側X1に一体的に移動させることによりコレット4を引っ張り、コレット4に把持された工具5をチャック本体2から取り外す(第3取り外し工程)。このように、第1〜第3取り外し工程を行うことにより、工具5をチャック本体2から取り外すことができる。
【0047】
次に、本発明の別実施形態について説明する。
(1)上記の実施形態では、係合凸部92が弾性リング92aと溝部92bとによって構成されている例について説明した。しかし、本発明はこのような構成に限定されない。すなわち、係合凸部は、径方向に突き出すように形成された一体物であっても良い。
【0048】
(2)上記の実施形態では、係合凸部92が第2保持部材32に設けられ、被係合凹部91が第1保持部材31に設けられている例について説明した。しかし、本発明はこのような構成に限定されない。すなわち、係合凸部は第1保持部材に設けられ、被係合凹部は第2保持部材に設けられていても良い。更に、この場合であっても、係合凸部は、弾性リングと溝部とから構成されるものであっても良い。
【0049】
(3)上記の実施形態では、弾性リング92aの断面が円形である例について説明した。
しかし、本発明はこのような構成に限定されない。すなわち、小突起及び弾性リングのいずれかが、小突起と弾性リングとが軸方向で接触することにより径方向成分の力が発生するような形状であれば良い。例えば、小突起の先端が球状であっても良い。また、小突起と弾性リングとの接触面がテーパ面であっても良い。
【0050】
(4)本発明は上記の各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。上記の各実施形態は、矛盾の生じない範囲で組み合わすことができる。