特許第6762172号(P6762172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6762172
(24)【登録日】2020年9月10日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】車載電装品の電気的接続構造
(51)【国際特許分類】
   B60R 16/02 20060101AFI20200917BHJP
【FI】
   B60R16/02 620A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-171794(P2016-171794)
(22)【出願日】2016年9月2日
(65)【公開番号】特開2018-34748(P2018-34748A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】戸野塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聡
【審査官】 宮地 将斗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−054951(JP,A)
【文献】 特開平07−007810(JP,A)
【文献】 特開2006−069528(JP,A)
【文献】 特開2011−222892(JP,A)
【文献】 特開2016−097850(JP,A)
【文献】 特開2006−027315(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0272576(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/02
H02G 3/00− 3/04
H02G 3/22− 3/40
B61L 1/00− 3/12
B61L 7/00−13/00
B61L 15/00−58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された第1電装品と第2電装品とを電気的に接続するハーネスと、
前記第2電装品から前記第1電装品への帰還電流を流すバスバーとを備え、
前記ハーネスと前記バスバーとを互いに交差させて、電界が互いに逆位相となる少なくとも二つのループを形成した車載電装品の電気的接続構造において、
前記ループは、第1ループと、車両に搭載されたラジオアンテナに対し前記第1ループよりも離れた位置にあり、前記第1ループと電界が逆位相となる第2ループとを有し、
前記第2ループのループ面積は、前記第1ループのループ面積よりも大きいことを特徴とする車載電装品の電気的接続構造。
【請求項2】
車両に搭載された第1電装品と第2電装品とを電気的に接続するハーネスと、
前記第2電装品から前記第1電装品への帰還電流を流すバスバーとを備え、
前記ハーネスと前記バスバーとを互いに交差させて、電界が互いに逆位相となる少なくとも二つのループを形成した車載電装品の電気的接続構造において、
前記バスバーは直線状に延在し、前記ハーネスは前記バスバーと交差する曲線状に延在することを特徴とする車載電装品の電気的接続構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載電装品の電気的接続構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両には、発電機やインバータ、バッテリ等の電装品が多数搭載されており、これらの車載電装品は、ハーネスによって電気的に接続される(例えば、特許文献1)。図3は、従来の車載電装品の電気的接続構造110を示す構成説明図である。この電気的接続構造110では、第1の電装品であるバッテリ120と、第2の電装品である負荷130と、バッテリ120と負荷130とを電気的に接続するハーネス140と、バッテリ120及び負荷130の筐体と車体とを接続するGNDハーネス151,152とが設けられている。
【0003】
上記図3に示す電気的接続構造110では、バッテリ120、ハーネス140、負荷120、GNDハーネス151,152及び車体によって、電流が流れる1つのループが車両に形成される。このループに電流が流れると、ラジオノイズの原因となる電磁ノイズを発生する。電磁ノイズは、一点鎖線で囲まれたループ面積Sが大きいほど大きくなり、車両に搭載されたラジオアンテナとの距離が遠いほど影響が低減される。
【0004】
具体的には、ループに電流が流れることにより生じる、電磁ノイズとなる電界Eのスカラー量は、以下の数式1により算出される。なお、数式1において、iはループの電流、fは電流の周波数成分、Sはループ面積、rはループ中心からノイズを受ける対象物までの距離を表す。
【0005】
【数1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−27315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ラジオノイズに対し、特許文献1では、電装品の駆動回路にノイズを低減するノイズフィルタ回路を別途設けることでラジオノイズを低減しているが、ハーネス及び車体を含む車両に形成されたノイズループにより生じるラジオノイズについては考慮されていない。
【0008】
また、ラジオノイズを低減するために、多数のノイズフィルタやノイズフィルタ回路を追加すると電装品の大型化やコストの増大に繋がってしまう。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、ノイズフィルタを設けることなく、車両に形成されるノイズループにより発生するラジオノイズを低減できる車載電装品の電気的接続構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の車輪構造は、車両に搭載された第1電装品と第2電装品とを電気的に接続するハーネスと、前記第2電装品から前記第1電装品への帰還電流を流すバスバーとを備え、前記ハーネスと前記バスバーとを互いに交差させて、電界が互いに逆位相となる少なくとも二つのループを形成した車載電装品の電気的接続構造において、前記ループは、第1ループと、車両に搭載されたラジオアンテナに対し前記第1ループよりも離れた位置にあり、前記第1ループと電界が逆位相となる第2ループとを有し、前記第2ループのループ面積は、前記第1ループのループ面積よりも大きいことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、第1電装品、ハーネス、第2電装品及びバスバーの順に電流が流れると、ハーネスとバスバーとを交差させることにより形成された二つのループにそれぞれ電磁ノイズ(すなわち、電界E)が生じる。この二つのループは、電界Eが逆位相となっているため、ラジオアンテナに対しノイズを互いに打ち消し合う関係となる。これにより、車両全体に形成されるノイズループによるラジオノイズを低減することができる。
【0013】
この構成によれば、既述の数式1のとおり、電磁ノイズとなる電界の大きさは、ループ面積Sに比例し、ループとラジオアンテナとの距離rに反比例するため、ラジオアンテナに対して離れた位置にある第2ループのループ面積を大きくすることで、第1ループによる電界の大きさと、これと逆位相となる第2ループによる電界の大きさを近似させることができる。これにより、第1ループと第2ループとによるノイズの打ち消し効果を高めることができる。
【0014】
また、本発明の車輪構造は、車両に搭載された第1電装品と第2電装品とを電気的に接続するハーネスと、前記第2電装品から前記第1電装品への帰還電流を流すバスバーとを備え、前記ハーネスと前記バスバーとを互いに交差させて、電界が互いに逆位相となる少なくとも二つのループを形成した車載電装品の電気的接続構造において、前記バスバーは直線状に延在し、前記ハーネスは前記バスバーと交差する曲線状に延在することを特徴とする。

【0015】
この構成によれば、バスバーに比して自由度の高いハーネスを曲線状にしているので設置が容易である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る車載電装品の電気的接続構造によれば、ノイズフィルタを設けることなく、車両に形成されるノイズループにより発生するラジオノイズを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態である車載電装品の電気的接続構造を示す斜視図。
図2】車載電装品の電気的接続構造の変更例を示す斜視図。
図3】従来の車載電装品の電気的接続構造を示す構成説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の一実施形態である車載電装品の電気的接続構造10を示す斜視図であり、車体70と、これに配置される電気的接続構造10とを示している。なお、図示例では、車体70の一部を破断して記載している。電気的接続構造10は、第1電装品である発電機20と、第2電装品であるバッテリ30と、ハーネス40と、バスバー50と、ラジオアンテナ60とを備えて構成される。本発明に係る車載電装品の電気的接続構造10は、特に、ハイブリッド自動車や電気自動車等の電動車両に好適に用いることができ、本実施形態ではハイブリッド自動車の車両に用いている。
【0019】
車両は、板金製の車体70を有し、車体12は、車幅方向の両側において前後方向へ延在する左右一対のサイドシル71,72と、サイドシル71,72間に架設されるフロアパネル74とを含む。
【0020】
フロアパネル74は、車体70の床面を構成する板状部材であり、車体70の前方に位置するフロントフロアパネル75と、車体の後方に位置するリヤフロアパネル76とを有する。フロントフロアパネル75は、幅方向の中央部において車体の内方(室内側)へ突出し、車両の前後方向へ延在するトンネル構造部75aを有する。
【0021】
車体70の前部にはエンジンルーム12が形成される。エンジンルーム12には、図示していないエンジンと、エンジンにより駆動される発電機20とが設置されている。図示例では、発電機20を筐体内に収容した状態を示している。本実施形態において発電機20は、エンジンの出力軸に連結されて動力の補助や発電を担う発電機兼用のモータジェネレータにより構成される。
【0022】
バッテリ40は、車両の後方であって、リヤシート(図示せず)の後方に形成された車両空間14に搭載される。図示例では、内部にバッテリ収容空間が形成された筐体(バッテリケース)内にバッテリ40を収容した状態を示している。バッテリ40は、発電機20とハーネス50を介して電気的に接続されており、バッテリ40の残存容量が不足するときには、エンジンにより発電機20を駆動し、バッテリ40を充電することが可能である。
【0023】
本実施形態においてハーネス50は、高電圧の電装品を接続する高電圧のワイヤハーネスであり、発電機20が配設されたエンジンルーム12内からフロントフロアパネル75を床下へ延在し、さらに、リヤフロアパネル76の床上及び/又は床下を通って、バッテリ40まで延在する。なお、図示例では、ハーネス50とバスバー60との位置関係を理解しやすくするために、ハーネス50及びバスバー60をフロアパネル75の床上に実線で記載している。
【0024】
ハーネス40は、車体70の車幅方向中央部を跨いで左右に湾曲するように曲線状に延在している。本実施形態では、ハーネス40の一部である前方部分が、発電機20から車両の一方のサイドシル72の近傍まで延在し、さらに、このサイドシル72に沿って前後方向へ延在している。ハーネス40の後方部分は、一方のサイドシル72側から車幅方向中央部を跨いで他方のサイドシル71の近傍まで延在し、このサイドシル71に沿って前後方向へ延在しており、ハーネス40の後端部はバッテリ40に接続されている。
【0025】
バスバー50は、帰還電流の経路を形成するものであり、バッテリ40と発電機20との間に配設される。バスバー50は、車体70よりも抵抗の低い銅製であり、本実施形態では棒状に形成され、車幅方向の中央部に略直線状に延在している。本実施形態では、バスバー50をフロアパネル70の床下であって、ハーネス50よりも下方に配設している。なお、バスバー50は、帰還電流の経路として機能するように配置されていればよく、例えば、両端部がバッテリ30と発電機20とに直接的に接続されていないものであってもよく、バスバー50とバッテリ30及び発電機20の筐体とをGNDハーネスによって接続する構成であってもよい。
【0026】
図1に示すように、ハーネス40とバスバー50とは、設置状態の平面視において互いに交差している。これにより、ハーネス40及びバスバー50によって発電機20とバッテリ40とを接続する電気回路上に2つのループ、すなわち第1ループ80aと、第2ループ80bとを形成している。第1ループ80aと第2ループ80bとは、電気回路に電流が流れた際に、互いのループに流れる電流の向きが逆方向になるように形成される。
【0027】
第1ループ80aは、ラジオアンテナ60に近接した位置、第2ループ80bは、ラジオアンテナ60に対し、第1ループ80aよりも離れた位置にあり、第2ループ80bのループ中心とラジオアンテナ60との距離rが、第1ループ80aのループ中心とラジオアンテナ60との距離rよりも大きくなっている。また、図1において一点鎖線で囲まれた第2ループ80bのループ面積Sは、第1ループ80aのループ面積Sよりも大きくなっている。
【0028】
ラジオアンテナ60は車室外に配置され、AM/FM信号を受信する。図示例において、ラジオアンテナ60は、車両後方に配置されているが、配置位置はこれに限られず、例えば車両前方に配置されていてもよい。
【0029】
上述した電気的接続構造10では、ハーネス40を伝わる電流(雑音電流)と、バスバー50を流れる帰還電流とによるループ電流により、電磁ノイズが発生する。
【0030】
具体的には、発電機20、ハーネス40、バッテリ50及びバスバー50の順に流れ、発電機20に戻る電流が流れると、第1ループ80aには、図1の反時計回り方向に電流が流れる。一方、このとき第2ループ80bでは、図1の時計回り方向に電流が流れる。このように、第1ループ80aと第2ループ80bとに流れる電流の向きが逆向きとなることで、第1ループ80aにより発生する電界(以下、電界Eという)と第2ループ80bにより発生する電界(以下、電界Eという)とは、電界の向きが逆となる逆位相になる。
【0031】
ラジオアンテナ60が電磁ノイズを受信するとラジオ放送にノイズ音が混在してしまうが、ラジオアンテナ60の近傍では、第1ループ80aの電界Eと第2ループ80bの電界Eが逆位相となることで電磁ノイズを互いに打ち消し合う関係になり、その結果、ノイズ音を低減することができる。なお、ここで逆位相とは、電界の向きが完全に逆向きとなるものに限られず、電界を打ち消し合うことが可能な程度に位相がずれているものを含む意味である。
【0032】
また、この際、各ループ80a,80bにおける電磁ノイズの大きさは、既述の数式1により算出できる。第1ループ80aと第2ループ80bとにおいて、電流iと周波数成分fが共通の値となることから、電界E,Eの比は、(S/r):(S/r)となる。本実施形態では、ラジオアンテナ60に対してより離れた位置にある第2ループ80b(つまり、r>r)のループ面積Sを第1ループ80aのループ面積Sよりも大きくしており、電界E,Eの値を近似させることができる。これにより、第1ループ80a及び第2ループ80bによる電磁ノイズの打ち消し効果を高めることができる。
【0033】
ハイブリッド自動車では、内燃機関のみの自動車に比して雑音電流が大きくなりラジオノイズが大きくなる傾向があるが、高電圧電線を構成するハーネス40に対し、本発明に係る電気的接続構造10を用いることで、ラジオノイズを適切に低減させることができる。
【0034】
また、各ループ80a,80bを形成するバスバー50は、車両に対して追加接続や取り外しが容易であり、設置コストも比較的安価であるため、コストを抑えながら帰還電流の経路を容易に形成することができる。また、バスバー50に比して自由度の高いハーネス40を曲線状にしているので設置が容易であり、ハーネス40により、各ループ80a,80bのループ面積S,Sを簡易に調整することができる。
【0035】
次に、図2を参照して電気的接続構造10の変形例を説明する。変形例では、ハーネス40とバスバー50とを交差させて配置することにより、3つのループ、すなわち、第1ループ80a、第2ループ80b及び第3ループ80cを形成している。
【0036】
この電気的接続構造10では、回路に電流が流れると、第3ループ80cでは図2の反時計回り方向へ電流が流れることから、第1ループ80a及び第3ループ80cにほぼ同位相の電磁ノイズが発生し、第2ループ80bにこれらと逆位相の電磁ノイズが発生する。ラジオアンテナ60の近傍では、第1ループ80aの電界E及び第3ループ80cの電界Eと、第2ループ80bの電界Eとが打ち消し合うことで、ラジオノイズが低減される。なお、電界E及び電界Eの和と、電界Eの値とが近似するように各ループを設定することが好ましい。
【0037】
変更例に示すように、本発明に係る電気的接続構造10は、ハーネス40とバスバー50とにより3つ以上のループを形成したものであってもよい。ループが3つ以上の場合には、ラジオアンテナ60の近傍において、電界がほぼ同位相になるループの電界Eの和と、これと電界が逆位相になるループの電界Eの和とが近似するように、各ループにおけるループ面積S及びラジオアンテナ60との距離rを設定することが好ましい。
【0038】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施形態では、直線状に延在するバスバー50を用いているが、バスバー50を曲線状に延在させてもよい。また、本実施形態では、車載電装品として発電機20とバッテリ30とを挙げているが、これに限られず、ハーネスやバスバーを用いて電気回路を構成可能な車載電装品であればよく、さらに、電気回路上に3つ以上の車載電装品が配置される構成であってもよい。
【符号の説明】
【0039】
10 電気的接続構造
20 発電機(第1電装品)
30 バッテリ(第2電装品)
40 ハーネス
50 バスバー
60 ラジオアンテナ
70 車体
80a 第1ループ
80b 第2ループ
図1
図2
図3