特許第6762263号(P6762263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6762263
(24)【登録日】2020年9月10日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】車両用情報表示装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 35/00 20060101AFI20200917BHJP
   G02B 27/01 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   B60K35/00 A
   B60K35/00 Z
   G02B27/01
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-93795(P2017-93795)
(22)【出願日】2017年5月10日
(65)【公開番号】特開2018-188049(P2018-188049A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2019年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080768
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100106644
【弁理士】
【氏名又は名称】戸塚 清貴
(72)【発明者】
【氏名】金子 寛彦
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 健二
(72)【発明者】
【氏名】武田 雄策
(72)【発明者】
【氏名】原 利宏
【審査官】 小笠原 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−177143(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103728727(CN,A)
【文献】 特開2007−068917(JP,A)
【文献】 特開平07−055941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 35/00
G02B 27/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転者が視認可能であるように配置された情報表示面と、
前記運転者の前記情報表示面に対する水平方向の眼球角度を推定する眼球角度推定手段と、
前記眼球角度推定手段により推定された眼球角度に基づいて、前記情報表示面の位置を変更する表示面位置変更手段とを備え、
前記情報表示面は、前記運転者のホロプター面に適合するように配置されている車両用情報表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用情報表示装置
前記眼球角度推定手段は、前記運転者の水平方向への頭部回転角度と前記車両の車速のいずれか1つと、前記運転者の視線方向に基づいて、前記運転者の眼球角度を推定する車両用情報表示装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用情報表示装置において、
前記眼球角度推定手段は、前記車両の車速と前記運転者の頭部回転角度との関係を示す特性マップを備えている車両用情報表示装置。
【請求項4】
請求項2に記載の車両用情報表示装置において、
前記運転者の頭部回転角度を直接計測する頭部回転角度計測手段を備えた車両用情報表示装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車両用情報表示装置において、
前記表示面位置変更手段は、前記情報表示面を垂直軸周りで回動可能である車両用情報表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両において各種情報の表示に用いられる車両用情報表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両においては、運転者に対して運転に有用な各種情報を表示する車両用情報表示装置が備えられることがある。近年、このような情報表示装置として、運転者の視界に情報を投影表示するヘッドアップディスプレイが用いられてきている。
【0003】
このような情報表示装置における視認性を向上するための工夫として、例えば特許文献1(特開2004−168230)には、ヘッドアップディスプレイにおいて、車速毎に表示位置(焦点距離)を可変とし、情報の認知時間を短縮した発明が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−168230
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本出願人による新たな知見として、運転者の水平方向(左右方向)の眼球の回動(頭部が正対した方向に対する眼球の角度)によって、視認効率の高い周辺視の位置(ホロプター面)が異なってくるという知見が得られている。したがって、車両用情報表示装置においては、運転者の眼球角度も考慮した視認性の向上が必要になると考えられる。
【0006】
本発明は、以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、運転者の頭部や眼球が水平方向に回動した場合でも、良好な視認性を確保し得る車両用情報表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明にあっては、次のような解決方法を採択している。すなわち、請求項1に記載のように、車両の運転者が視認可能であるように配置された情報表示面と、前記運転者の前記情報表示面に対する水平方向の眼球角度を推定する眼球角度推定手段と、前記眼球角度推定手段により推定された眼球角度に基づいて、前記情報表示面の位置を変更する表示面位置変更手段とを備え、前記情報表示面は、前記運転者のホロプター面に適合するように配置されている
【0008】
上記解決手法によれば、運転者の眼球が水平方向に回動した場合に、その眼球角度に応じて、情報表示面が視認性の高い位置に配置されるので、運転者による情報の認識効率を高めることができる。また、情報表示面は、運転者のホロプター面に適合して配置されるので、視認効率が高められる。
【0009】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2以下に記載の通りである。すなわち、前記眼球角度推定手段は、前記運転者の水平方向への頭部回転角度と前記車両の車速のいずれか1つと、前記運転者の視線方向に基づいて、前記運転者の眼球角度を推定する(請求項2対応)。この場合、運転者の頭部回転角度を考慮して眼球角度が推定されるので、眼球角度の推定精度が高められる。
【0010】
前記眼球角度推定手段は、前記車両の車速と前記運転者の頭部回転角度との関係を示す特性マップを備えている(請求項3対応)。この場合、特性マップに基づいて、車両の車速から運転者の頭部回転角度を推定できるので、眼球角度の推定を効率的に行える。
【0011】
前記運転者の頭部回転角度を直接計測する頭部回転角度計測手段を備えている(請求項4対応)。この場合、運転者の頭部回転角度は直接、正確に計測されるので、眼球角度の推定精度が高められる。
【0012】
前記表示面位置変更手段は、前記情報表示面を垂直軸周りで回動可能である(請求項5対応)。この場合、水平方向に眼球が回転すると周辺視の視認効率の高い面(ホロプター面)も水平方向に回動するのに対して、水平方向の眼球角度に応じて、情報表示面の水平方向の角度が適切に調整されるので、情報表示面の視認性が高められる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、車両用情報表示装置において、運転者の眼球が水平方向に回動したときでも、情報表示面の高い視認性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の制御系の一例を示すブロック構成図。
図2】運転者の眼球角度とホロプター面の関係について示す図であり、眼球角度が0度の状態を示す図。
図3】運転者の眼球角度とホロプター面の関係について示す図であり、眼球角度がα度の状態を示す図。
図4】車速と運転者の頭部の回動の関係についての実験結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。
【0017】
図1には、本実施形態の情報表示装置を備えた車両(例えば自動車)の制御系をブロック構成図で示す。図示されるように、制御系は、マイクロコンピュータを利用して構成されたコントローラ(制御ユニット)Uを備えている。コントローラUには、車両の速度を検出する車速センサ1と、車内カメラ2からの信号が入力される。車内カメラ2は、車両を運転中の運転者の状態(運転者の視線の方向、運転者の頭部の角度)を撮影(検出)可能となっている。
【0018】
また、コントローラUには、情報表示手段3が接続されている。情報表示手段3は、例えばヘッドアップディスプレイから構成されるもので、運転者に対して運転に必要な各種情報を画像表示する情報表示面4を備えている。ヘッドアップディスプレイを用いた場合、情報表示面4は、運転者前方に投影表示される虚像となる。
【0019】
情報表示面4は、運転者のホロプター面に沿って配置されるように、側面視において所定角度で前上がりに傾斜した状態で配置されている。また、情報表示面4は、垂直軸の周りで水平方向(左右方向)に回転可能となっており、詳しくは後述するように、運転者の水平方向の眼球角度(眼球の左右への回動角度)に応じて回転角度が変更可能となっている。
【0020】
ここで、ホロプター面とは、中心視と周辺視において左右眼の視線方向が一致する地点を結んで形成される面であり、情報がホロプター面上に配置されたとき、視認者の認知効率が最大となる。したがって、情報表示面4が運転者のホロプター面に適合して配置されることにより、情報表示面3Aに表示された画像表示の運転者による視認性が高められ、運転者が情報表示面3Aに表示された情報を瞬時に把握することが可能となる。
【0021】
コントローラUは、車速センサ1及び車内カメラ2からの検出情報に基づいて運転者の眼球角度を推定する眼球角度推定手段5と、眼球角度推定手段5により推定された眼球角度に基づいて情報表示面4の位置(回転角度)を制御する表示面制御手段6とを備えている。これにより、運転者の眼球角度に応じて、情報表示面4をホロプター面に適合するように配置することができる。
【0022】
図2及び図3には、運転者の眼球角度とホロプター面の関係について、本発明者により得られた知見を示している。図2に示すように、運転者が頭部11の正対している方向Lと眼球12が向いている方向S(視線の方向)が一致しているとき、すなわち、頭部11に対する眼球角度が0度であるときには、ホロプター面Hの周辺視部分は、運転者の視線方向S(中心視方向)に対して左右対称に配置されており、垂直軸Oの周りでホロプター面の回転角度は0度となっている。
【0023】
これに対して、図3に示すように、運転者の眼球角度(頭部が正対している方向Lと眼球が向いている方向Sの間の角度)が、時計回転方向にα度であるときには、ホロプター面Hは、中心視位置を上下方向(図面を垂直に貫く方向)に延びる垂直軸Oの周りで回動して、視線の方向(中心視方向)Sに対して回転角度βだけ傾いた状態となる。すなわち、ホロプター面Hは、図3に示す正対時におけるホロプター面を眼球角度分だけそのまま回動させた面H´(図に破線で示す)に対して、回転角度βだけ反時計回転方向に垂直軸Oの周りで回転した状態となる。
【0024】
このように、運転者のホロプター面Hは、運転者の眼球角度に応じて垂直軸Oの周りで回転する。したがって、運転者の眼球12が回転したときには(運転者が頭部11の正対方向Lからずれた方向を見ているときには)、この回転角度αに応じて、情報表示面4をホロプター面Hに適合するように回動することにより、情報表示面4に表示された情報の運転者による視認性を高めることができることになる。
【0025】
眼球角度推定手段5による眼球角度の推定値は、運転者の頭部の回動角度と運転者の視線の角度に基づいて、運転者の頭部の回動角度から視線の角度を差し引くことにより求められる。この場合、運転者の視線の方向は、車内カメラ2により直接検出される一方、運転者の頭部の回動角度は、車内カメラ2により直接検出してもよいし、車速と運転者の頭部回転角度との関係を示す特性マップを用いることにより車速センサ1で検出された車速に基づいて推定するようにしてもよい。
【0026】
図4には、車両運転中における車速と運転者の頭部回転角度との関係についての本出願人による知見(実験結果)を示す。本図には、車両走行時のオプティカルフローの中で運転者(被験者)に対して所定の視標を様々な呈示角で表示した場合に、視標を視認するために被験者が頭部を回転させた回転角度(頭部角)を、オプティカルフロー刺激の大きさ(車速に相当)毎に計測した実験結果が示されている。実験結果から分かるように、オプティカルフロー刺激が車両速度0km/hの停車状態から車両速度360km/hの高速状態まで増大していくほど、同じ呈示角に対する頭部角は小さくなっていく。つまり、車速が高速になるにしたがって、運転者は、頭部を大きく動かすことなく、視線のみを動かして視標を視認するようになる。すなわち、車速が高速になるほど、視線方向(視標位置)における頭部回転角度の寄与が小さくなる一方、眼球角度の寄与が大きくなる。そのため、同じ視線方向を見ていても、眼球角度αが大きくなるよう推定され、結果、情報表示面4の基準となるホロプター面Hの回転角度βも大きくなる。車速と運転者頭部の回動角度との関係を示す特性マップは、このような車速が大きくなるほど頭部の回動角度が小さくなる関係を反映したものとされる。
【0027】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲において適宜の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、情報表示手段としてヘッドアップディスプレイを用いたが、本発明はこのような形態に限られるものではなく、情報表示手段として、垂直軸周りで回動可能な液晶画面を有する液晶表示装置を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、自動車等の車両において運転者に有用な情報を表示する車両用情報表示装置において、情報表示の視認性を高めるために利用できる。
【符号の説明】
【0029】
U コントローラ
1 車速センサ
2 車内カメラ
3 情報表示手段
4 情報表示面
5 眼球角度推定手段
6 表示面制御手段
11 運転者の頭部
12 運転者の眼球
L 頭部の正対方向
S 視線方向
O 垂直軸
H ホロプター面
図1
図2
図3
図4