特許第6762275号(P6762275)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6762275
(24)【登録日】2020年9月10日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】時計ムーブメント用コンポーネント
(51)【国際特許分類】
   G04B 13/02 20060101AFI20200917BHJP
   G04B 15/14 20060101ALI20200917BHJP
   G04B 17/06 20060101ALI20200917BHJP
   G04B 17/32 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   G04B13/02 Z
   G04B15/14 Z
   G04B17/06 Z
   G04B17/32
【請求項の数】16
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-138776(P2017-138776)
(22)【出願日】2017年7月18日
(65)【公開番号】特開2018-13482(P2018-13482A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2017年8月1日
(31)【優先権主張番号】16180226.9
(32)【優先日】2016年7月19日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】16190278.8
(32)【優先日】2016年9月23日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】17157065.8
(32)【優先日】2017年2月21日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス−ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン・シャルボン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンサン・フェイ
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・ヴェラルド
【審査官】 榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−75489(JP,A)
【文献】 特開2014−137376(JP,A)
【文献】 特表2007−531824(JP,A)
【文献】 BrushForm158 Lamineries MATTHEY SA ToughmetTM3,[online],2013年 6月,1/3頁,2019年7月29日検索,URL,https://www.mattey.ch/fileadmin/user_upload/downloads/fichetechnique/EN/BF158_T3._C.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00 − 99/00
G04C 1/00 − 99/00
C22C 9/00 − 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともチップ除去によって加工された1つの部分(3)を備える軸を含む時計コンポーネント(1)であって、磁場に対する感受性を限定するために前記部分は非磁性の銅合金から作製され、前記銅合金は10重量%から20重量%のNi、6重量%から12重量%のSn、X重量%の追加の元素を含有し、Xは0から5であり、残部はCuであり、さらに0.02重量%以下の量の鉛を含むことを特徴とする、時計コンポーネント(1)。
【請求項2】
チップ除去によって加工される少なくとも前記部分(3)は、前記部分(3)の外面に蒸着される硬化層を備えることを特徴とする、請求項1に記載の時計コンポーネント(1)。
【請求項3】
請求項1に記載の時計コンポーネント(1)であって、少なくともチップ除去によって加工された前記部分(3)の外面(5)は、前記時計コンポーネント(1)の中心に対して所定の深さまで深く硬化されることを特徴とする、時計コンポーネント(1)。
【請求項4】
請求項3に記載の時計コンポーネント(1)であって、所定の深さは、チップ除去によって加工された前記部分(3)の全直径(d)の5%から40%を表すことを特徴とする、時計コンポーネント(1)。
【請求項5】
請求項3または4に記載の時計コンポーネント(1)であって、前記深く硬化される外面(5)は少なくとも1つの化学元素の拡散原子を備えることを特徴とする、時計コンポーネント(1)。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の時計コンポーネント(1)であって、前記コンポーネントはピボット軸からなり、チップ除去によって加工された前記部分は、少なくともピボット、ねじ、巻真、ヒゲ持ちであることを特徴とする、時計コンポーネント(1)。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の時計コンポーネント(1)を備えることを特徴とする、時計ムーブメント。
【請求項8】
時計ムーブメント用の時計コンポーネント(1)を製造する方法であって、
a1)チップ除去によって加工可能な要素を取り、前記要素は非磁性の銅合金から作製され、前記銅合金は10重量%から20重量%のNi、6重量%から12重量%のSn、X重量%の追加の元素を含有し、Xは0から5であり、残部はCuであり、さらに、0.02重量%以下の量の鉛を含むステップと、
b1)前記時計コンポーネント(1)を形成するステップと、
c1)軸を含む前記時計コンポーネントをチップ除去加工して、チップ除去によって加工され、前記非磁性の銅合金からなる前記時計コンポーネント(1)の少なくとも1つの部分(3)を形成するステップと、
を、備える方法。
【請求項9】
時計ムーブメント用の時計コンポーネント(1)を製造する方法であって、
a2)チップ除去によって加工可能な要素を取り、前記要素は非磁性の銅合金から作製され、前記銅合金は10重量%から20重量%のNi、6重量%から12重量%のSn、X重量%の追加の元素を含有し、Xは0から5であり、残部はCuであり、さらに、0.02重量%以下の量の鉛を含むステップと、
b2)前記要素をチップ除去加工して、軸を含む前記時計コンポーネント(1)の少なくとも1つの部分(3)を形成するステップと、
c2)ステップb2)で得た前記部分(3)を備える前記時計コンポーネント(1)を形成するステップと、
を備える、方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の方法であって、前記方法は、少なくともチップ除去によって加工された前記部分(3)の外面(5)に硬化層を蒸着するステップd)を備えることを特徴とする、方法。
【請求項11】
請求項8または9に記載の方法であって、前記方法は、少なくともチップ除去によって加工された前記部分(3)の外面(5)において原子を所定の深さまで拡散し、高強靭性を維持しながら主要応力領域の前記時計コンポーネント(1)を深く硬化するステップe)を備えることを特徴とする、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、前記所定の深さはチップ除去によって加工された前記部分(3)の全直径(d)の5%から40%であることを特徴とする、方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の方法であって、前記拡散ステップは、少なくとも1つの化学元素の原子を拡散することを備えることを特徴とする、方法。
【請求項14】
ステップe)は熱化学拡散処理からなることを特徴とする、請求項11〜13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
請求項11〜13のいずれか1つに記載の方法であって、ステップe)は、イオン注入プロセスからなり、その後に、拡散処理が行われても、行われなくてもよいことを特徴とする、方法。
【請求項16】
請求項8〜15のいずれか1つに記載の方法であって、チップ除去によって加工された前記部分(3)に、ステップc1)もしくはb2)の後、またはステップd)もしくはe)の後に圧延/研磨ステップを行うことを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は時計ムーブメント用コンポーネントに関し、具体的には機械式時計ムーブメント用の非磁性の時計コンポーネントに関し、特に非磁性のテン真、アンクル真およびガンギかなに関する。
【背景技術】
【0002】
時計のピボット軸などの旋削加工した部品の形を取る少なくとも1つの部品を備える時計コンポーネントの製造は、棒材旋削加工などのチップ除去加工作業を硬化可能な鋼製の棒材に実施して、様々な作用面(軸受面、肩部、ピボットなど)を画定することと、次に、加工した時計コンポーネントに熱処理作業を実施することを含む。熱処理作業には、コンポーネントの硬度を改善するための少なくとも1回の硬化作業と、強靭性を改善するための1または複数の焼き戻し作業を含む。ピボット軸の場合は、熱処理作業の次に、軸のピボットに圧延作業を行ってもよく、この圧延作業はピボットを必要な寸法に研磨することからなる。ピボットの硬度および粗度は圧延作業中にさらに改善される。この圧延作業は非常に難しく、低硬度の素材、つまり600HV未満の硬度を有する素材では達成不能でさえあることに留意されたい。
【0003】
機械式時計ムーブメントにおいて従来用いられるピボット軸、たとえばテン真は、一般にはマルテンサイト炭素鋼である棒材旋削可能な鋼種からなり、加工性を高めるために硫化鉛および硫化マンガンを含む。20APと呼ばれるこの種類で既知の鋼が、このような用途のために一般に用いられる。
【0004】
この種類の素材は加工しやすいという有利点を有し、特に、棒材旋削に適しているという有利点を有し、硬化および焼き戻し後は、時計のピボット軸を作製するのに非常に有利な優れた機械的性質を有する。これらの鋼は特に、熱処理後に優れた摩耗抵抗および硬度を有する。一般に、20AP鋼製の軸ピボットの硬度は、熱処理および圧延後に700HVを超えることもある。
【0005】
この種類の素材は、前述の時計としての用途に十分な機械的性質を提供するが、この素材は磁性であり、特に強磁性素材製のヒゲゼンマイと協働するテン真を作製するためにこの素材を使用すると、磁場にさらされた後で腕時計の動作が中断され得るという欠点を有する。この現象は当業者には周知である。これらのマルテンサイト鋼はまた、腐食しやすいことにも留意されたい。
【0006】
これらの欠点を克服するために、非磁性、つまり常磁性または反磁性または反強磁性であるという特性を有するオーステナイトステンレス鋼を用いる試みが行われてきた。ただし、これらのオーステナイト鋼は結晶構造を有するため、オーステナイト鋼を硬化することはできず、時計のピボット軸を作製するために必要な要件を満たすレベルの硬度ひいては摩耗抵抗レベルを実現することができない。これらの鋼の硬度を上げる1つの手段は冷間加工であるが、この硬化作業では500HVを超える硬度を実現することはできない。その結果として、摩擦による摩耗に対する高い抵抗を必要とする部品、および変形の恐れが非常に少ない、または変形する恐れがないピボットを必要とする部品では、この種の鋼の使用は依然として限定されている。
【0007】
このような欠点を克服することを目的とする別の手法は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)などの素材の硬層をピボット軸に蒸着することからなる。ただし、硬層が層間剥離して破片が形成され、その破片が時計ムーブメント内で移動し、時計ムーブメントの動作を妨害するという重大なリスクもあるため、この手法は満足のいくものではない。
【0008】
同様の手法として、特許文献1に、少なくとも主要な部品が一定の非磁性の素材からなるテン真を作製することが提示されている。ピボットは同じ素材または鋼から作製されてもよい。ガルバニックまたは化学的手段または(たとえばCr(クロム)、Rh(ロジウム)などの)気相によって適用された追加層の蒸着を行うことも可能である。この追加層は層間剥離の重大なリスクを有する。同文献はまた、全体的に硬化可能な青銅から作製されたテン真も記載している。ただし、ピボットの製造方法については何も情報は提供されていない。さらに、硬化可能な青銅から作製されるコンポーネントは450HV未満の硬度を有する。このような硬度は圧延処理を実施するには不十分であると当業者には感じられる。
【0009】
また、特許文献2から、コバルトまたはニッケルのオーステナイト合金からなり、一定の深さまで外面硬化されたピボット軸が既知である。ただし、このような合金は、チップ除去による加工が困難であると証明されることもある。さらに、ニッケルおよびコバルトが高価であるため、このような合金は比較的高価である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】仏国特許第2015873号
【特許文献2】欧州特許出願第2757423号
【発明の概要】
【0011】
本発明の目的は、磁場に対する感受性を限定することと、時計産業で必要とされる摩耗抵抗および衝撃抵抗に対する要求を満たすことが可能である、改善された硬度を実現することとを両立する時計コンポーネントを提供することによって、前述の欠点のすべてまたは一部を克服することである。
【0012】
本発明の目的はまた、改善された耐腐食性を有する非磁性の時計コンポーネントを提供することである。
【0013】
本発明のさらに別の目的は、簡単および経済的に製造可能な非磁性の時計コンポーネントを提供することである。
【0014】
そのために、本発明は、チップ除去によって加工した少なくとも1つの部分を備える時計ムーブメント用時計コンポーネントに関する。
【0015】
本発明によれば、この部分は磁場に対する感受性を限定するために非磁性の銅合金からなる。銅合金は10重量%から20重量%のNi(ニッケル)、6重量%から12重量%のSn(スズ)、X重量%の追加の元素を含有し、Xは0から5であり、残部はCu(銅)である。
【0016】
このような時計コンポーネントによって、優れた全体的な強靭性を維持しながら、磁場に対する低感受性、硬度および優れた耐腐食性などの有利点を組み合わせることが可能となる。さらに、上記で画定した非磁性の銅合金を用いることは、加工可能性が高いため有利である。
【0017】
少なくともチップ除去によって加工した部分の硬度を改善することは可能である。このような事例では、第1の変形実施形態によれば、少なくともチップ除去によって加工した部分は、この部分の外面上に蒸着した硬化層を備える。
【0018】
硬度を改善するための別の変形実施形態によれば、少なくともチップ除去によって加工した部分の外面は、時計コンポーネントの中心に対して所定の深さまで深く硬化される。
【0019】
その結果として、時計コンポーネントの表面領域または全面が硬化される。つまり、コンポーネントの中心は、ほとんど変化されないか、まったく変化されないままである。このような時計コンポーネントの部分の選択的硬化によって、時計コンポーネントは、前述の有利点に加えて、主要応力領域において改善された硬度を示すことが可能となる。
【0020】
さらに、本発明は、前述のいずれかの変形による時計コンポーネントを備える時計ムーブメントに関する。この時計コンポーネントは、たとえば、ピボット軸であり、チップ除去によって加工した部分は少なくとも1つのピボットである。具体的には、時計コンポーネントは、テン真、アンクル真および/またはガンギかな、またはねじ、巻真、ヒゲ持ちなどであってもよい。
【0021】
最後に、本発明は、以下のステップを備える時計ムーブメント用の時計コンポーネントを製造する方法に関する。
a1)チップ除去によって加工可能な要素を取り、要素は非磁性の銅合金から作製され、銅合金は10重量%から20重量%のNi、6重量%から12重量%のSn、X重量%の追加の元素を含有し、Xは0から5であり、残部はCuであるステップと、
b1)時計コンポーネントを形成するステップと、
c1)時計コンポーネントをチップ除去加工して、チップ除去によって加工され、非磁性の銅合金からなる時計コンポーネントの少なくとも1つの部分を形成するステップ。
【0022】
本発明はまた、以下のステップを備える時計ムーブメント用の時計コンポーネントを製造する方法に関する。
a2)チップ除去によって加工可能な要素を取り、要素は非磁性の銅合金から作製され、銅合金は10重量%から20重量%のNi、6重量%から12重量%のSn、X重量%の追加の元素を含有し、Xは0から5であり、残部はCuであるステップと、
b2)要素をチップ除去加工して、時計コンポーネントの少なくとも1つの部分を形成するステップと、
c2)ステップb2)で得た部分を備える時計コンポーネントを形成するステップ。
【0023】
少なくともチップ除去によって加工した部分の硬度を改善するために、本発明の方法は、第1の変形によれば、少なくともチップ除去によって加工された部分の外面に硬化層を蒸着するステップd)を備えていてもよい。
【0024】
硬度を改善するための別の変形によれば、本発明の方法は、少なくともチップ除去によって加工された部分の外面において原子を所定の深さまで拡散し、高強靭性を維持しながら主要応力領域の時計コンポーネントを深く硬化するためのステップe)を備えていてもよい。
【0025】
その結果として、本発明で用いられる銅合金に原子を拡散することによって、チップ除去によって加工した部分の表面領域または全面は、第2の素材をその部分に蒸着せずに硬化される。実際に、硬化は、時計コンポーネントの素材内で起こるため、本発明によって有利には時計コンポーネント上に、硬層が蒸着される場合に発生し得る層間剥離が後で起こることを防ぐ。
【0026】
その他の特徴および有利点は、非限定的例示として示される以下の説明から、添付図を参照して明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明による時計コンポーネントの描写である。
図2】本発明の変形による時計コンポーネントの部分であって、拡散処理作業後および圧延または研磨作業後のチップ除去加工した部分の一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書において、「非磁性」という用語は、透磁率が1.01以下である常磁性または反磁性または反強磁性素材を意味する。
【0029】
「チップ除去加工」という用語は、コンポーネントの寸法を決め、表面状態を所定の許容範囲内にするために、素材を除去することによって行われる任意の成形作業をいう。このような作業は、たとえば、棒材旋削、フライス削りまたは当業者には既知の任意の他の技術である。
【0030】
本発明は、時計ムーブメント用コンポーネント、特にピボット軸などの機械式時計ムーブメント用の非磁性の時計コンポーネントに関する。
【0031】
本発明を非磁性のテン真1に対する適用を参照して以下に説明する。もちろん、たとえば、時計のホイールセットの軸、一般にガンギかなまたはアンクル真などのその他の種類の時計のピボット軸を考察してもよい。この種類のコンポーネントは、数ミクロンの精度で、好ましくは2mm未満の直径を持つ本体と、好ましくは0.2mm未満の直径を有するピボットとを有する。考案可能なその他の時計コンポーネントはねじ、巻芯、ヒゲ持ちなどであり、軸に関して前述したものと同様の寸法を有していてもよい。
【0032】
図1を参照すると、本発明によるテン真1が示される。テン真1は異なる直径の複数の区分2を備える。区分2は、好ましくは棒材旋削または任意の別のチップ除去加工技法によって形成され、従来の方法で、2つのピボット3を画定する2つの端部部分の間に配置される、軸受面2aおよび肩部2bを画定する。これらのピボットはそれぞれ、一般に石またはルビーの穴内の軸受内で旋回することを目的とする。
【0033】
日常的に接触する物品が誘発する磁気に関して、テン真1の感受性を限定し、テン真1が組み込まれる時計の動作に悪影響を与えることを回避することが重要である。
【0034】
意外なことに、本発明は両方の問題を、妥協することなく同時に克服しながら、追加の有利点も提供する。このように、チップ除去加工によって形成される、少なくとも時計コンポーネント1の部分3は、非磁性の銅合金から作製され、それによって有利には磁場に対する感受性を限定する。銅合金は10重量%から20重量%のNi、6重量%から12重量%のSn、X重量%の追加の元素を備え、Xは0から5であり、残部はCuである。
【0035】
好ましくは、非磁性の銅合金は、11重量%から18重量%のNi、7重量%から10重量%のSn、X重量%の追加の元素を含有し、Xは0から5であり、残部はCuである。
【0036】
特に好ましい方法では、非磁性の銅合金は12重量%から17重量%のNi、7重量%から9重量%のSn、X重量%の追加の元素を備え、Xは0から5であり、残部は銅である。
【0037】
特に好ましい方法では、非磁性の銅合金は14.5重量%から15.5重量%のNi、7.5重量%から8.5重量%のSn、X重量%の追加の元素を備え、Xは0から5であり、残部は銅である。
【0038】
合金が非磁性の特性および優れた加工性の両方を持つように、様々な合金化元素の比率を選択する。
【0039】
有利には、本発明で用いられる非磁性の銅合金は無鉛であってもよく、または0.02重量%以下の量の鉛を含有していてもよい。
【0040】
有利には、非磁性の銅合金は、14.5%から15.5%のNi、7.5%から8.5%のSn、多くても0.02%のPb(鉛)の重量成分パーセントを有し、残部がCuである合金であってもよい。このような合金はMaterion社からToughMet(登録商標)という商標で市販されている。
【0041】
もちろん、構成物質の割合が非磁性の特性および優れた加工性の両方をもたらすことを条件として、本発明の定義に合う別の非磁性の銅合金を考案してもよい。
【0042】
少なくとも時計コンポーネント1の部分3は350HVを超える硬度を有する。
【0043】
意外かつ予想外の方法で、上記で画定した銅合金からなる部分3は、600HV未満の硬度を有していても圧延することができる。
【0044】
少なくともチップ除去加工した部分3の硬度を改善するために、本発明の第1の変形によると、少なくとも部分3の外面に蒸着した硬化層を提供することが可能である。このような追加層は、PVC、CVD(化学気相蒸着)、ALD(原子層蒸着)またはガルバニック方法または任意の別の適切な方法で蒸着したTiN、ダイヤモンド、DLC、Al23(酸化アルミニウム)、Cr、Ni、NiP(ニッケル−リン)または任意の別の適切な素材の層であってもよい。
【0045】
本発明の別の変形によると、少なくともチップ除去加工した部分3の硬度は、時計コンポーネントの残りの部分に対して所定の深さまで深く硬化されるように、部分3の外面5を構成する(図2)ことによって改善することができる。それによって、本発明によって、有利には、高強靭性を保ちながら優れた硬度を外面に提供することができる。所定の深さは、部分3の全直径dの5%から40%であり、一般に5から35ミクロンである。
【0046】
このように処理された部分3の深く硬化された外面は、600HVを超える硬度を有していてもよい。
【0047】
部分3の全直径dの5%から40%の硬化深さは、たとえばテン真に適用するために十分であることは経験的に実証されており、この事例では、部分3はピボットである。一例として、半径d/2が50μmである場合、硬化深さは好ましくは、ピボットなどの部分3すべてにわたって約15μmである。明らかに、適用によって、全直径dの5%から80%の異なる硬化深さが可能である。
【0048】
好ましくは、部分3の深く硬化される外面5は、少なくとも1つの化学元素の拡散原子を備える。この化学元素は、たとえば、窒素、アルゴンおよび/またはホウ素などの非金属化学元素である。実際に、以下で説明するように、非磁性の銅合金4の原子の格子間過飽和によって、表面領域5は深く硬化され、第2の素材を部分3上に蒸着する必要はない。実際に、硬化は部分3の素材4内で起こり、有利には、その後の使用中に起こる層間剥離を防ぐ。その結果として、本発明の本変形によると、部分3の外面5は硬い表層を備えるが、外面5上に直接蒸着される追加の硬化層は有さない。
【0049】
その結果として、少なくとも部分3の表面領域は硬化される。つまり、部分3の中心および/または時計コンポーネント1の残りの部分はほとんど変化されないか、または時計コンポーネント1の機械的性質を大きく変えずに変化されないままであってもよい。チップ除去加工した時計コンポーネント1の部分3に対するこの選択的硬化によって、優れた耐腐食性および疲労に対する耐性を提供しながら、磁場に対する低感受性、主要応力領域における硬度および高強靭性などの有利点を組み合わせることが可能となる。
【0050】
硬化層以外の層、たとえば潤滑層を蒸着してもよいことは明らかである。
【0051】
本発明はまた、前述の時計コンポーネント1を製造するための第1の方法に関する。本発明の方法は、有利には以下のステップを備える。
a1)棒材などのチップ除去によって加工可能な要素を取り、要素は非磁性の銅合金から作製され、銅合金は10重量%から20重量%のNi、6重量%から12重量%のSn、X重量%の追加の元素を含有し、Xは0から5であり、残部はCuであるステップと、
b1)時計コンポーネント1を形成するステップと、
c1)時計コンポーネントをチップ除去加工して、チップ除去によって加工され、非磁性の銅合金からなる時計コンポーネント1の少なくとも1つの部分3を形成するステップ。
【0052】
本発明はまた、前述の時計コンポーネント1を製造するための第2の方法に関する。本発明によれば、本方法は、有利には以下のステップを備える。
a2)棒材などのチップ除去によって加工可能な要素を取り、要素は非磁性の銅合金から作製され、銅合金は10重量%から20重量%のNi、6重量%から12重量%のSn、X重量%の追加の元素を含有し、Xは0から5であり、残部はCuであるステップと、
b2)要素をチップ除去加工して、時計コンポーネント1の少なくとも1つの部分3を形成するステップと、
c2)ステップb2)で得た部分3を備える時計コンポーネント1を形成するステップ。
【0053】
本発明で用いられる合金はスピノーダル分解として既知の熱処理によって硬化可能である。これを実現するために、チップ除去加工可能な要素に以下のステップを実施しなければならない。
−溶解
−冷間加工
−スピノーダル分解による硬化熱処理(360℃〜370℃を2から4時間)
【0054】
その結果として、第1の可能性によれば、本発明で用いられるチップ除去加工可能要素を、ステップa1)またはステップa2)で、溶解および冷間加工ステップしか受けていない中間形として用いてもよい。その場合には、チップ除去加工のステップc1)またはb2)は、比較的柔らかいチップ除去加工可能要素に実施される。次に、加工した要素にスピノーダル分解による硬化熱処理を実施する。
【0055】
第2の可能性によれば、本発明で用いられるチップ除去加工可能要素を、ステップa1)またはa2)で、3つの処理ステップ、つまり溶解、冷間加工およびスピノーダル分解による硬化熱処理を受けた最終形として用いてもよい。次に、チップ除去加工のステップc1)またはc2)を、スピノーダル分解による硬化熱処理を後で必要としない、硬いチップ除去加工可能要素に直接実施する。
【0056】
少なくとも部分3の硬度を改善するために、本発明の方法は、有利には、第1の変形によれば、少なくとも上記チップ除去加工した部分3の外面5に硬化層を蒸着するステップd)を備えていてもよい。好ましくは、ステップd)は、PVD、CVD、ALDまたはガルバニック方法または任意の別の適切な方法によって、TiN、ダイヤモンド、DLC、Al23、Cr、Ni、NiPまたは任意の別の適切な素材の層を蒸着することからなっていてもよい。
【0057】
少なくとも部分3の硬度を改善するために、本発明の方法は、有利には、第2の変形によれば、少なくともチップ除去によって加工された部分3の外面5において、原子を所定の深さまで拡散し、高強靭性を維持しながら主要応力領域の時計コンポーネント1を深く硬化するステップe)を備えていてもよい。所定の深さは、好ましくはチップ除去加工した部分3の全直径dの5%から40%を表す。
【0058】
本発明によれば有利には、どの実施形態を選択しても、本方法は大量に適用することができる。このように、ステップe)は、複数の時計コンポーネントおよび/または複数の未使用の時計コンポーネントをホウ化処理するなどの、熱化学拡散処理からなっていてもよい。ステップe)は、少なくとも1つの化学元素、たとえば窒素、アルゴンおよび/またはホウ素などの非金属の原子の非磁性の銅合金4における格子間拡散からなっていてもよいことを理解されたい。最後に、有利には、本方法の圧縮応力は疲労および衝撃抵抗を改善する。
【0059】
ステップe)はまた、イオン注入プロセスからなることもあり、その後に拡散熱処理を行っても行わなくてもよい。この変形は、拡散原子の種類を限定せず、格子間および置換拡散の両方が可能になるという有利点を有する。
【0060】
ステップe)で実施される処理がイオン注入プロセスである場合は、外面5の硬化の深さは、有利には、イオン注入処理ステップb)の実施中または実施後に実施される熱処理の助けを得て増加してもよい。
【0061】
本発明の方法はまた、硬化層以外の層を蒸着する別のステップを備えていてもよい。たとえば、本発明の方法は、潤滑層を蒸着するステップを備えていてもよい。
【0062】
有利には、少なくともチップ除去加工した部分3に圧延/研磨作業を、補完的硬化処理がない場合にはステップc1)またはb2)の後に実施するか、または補完的硬化処理がある場合にはステップd)またはe)の後に実施することができる。その結果として、少なくとも本発明の部分3の外面5は圧延されて見えてもよい。この圧延/研磨作業によって、特にピボットの場合、部分3を所望する寸法および表面状態にすることが可能になる。この後処理である圧延作業によって、チップ除去加工した部分が硬化作業を受けただけである時計コンポーネントに比較して、摩耗および衝撃に対する抵抗が改善された時計コンポーネントを得ることが可能となる。
【0063】
本発明による時計コンポーネントは、本発明により処理された部分であって、時計コンポーネントの本体に取り付けられたチップ除去加工した部分を備えていてもよい。または本発明による時計コンポーネントは完全に、本発明の方法の1つにより上記で画定した非磁性の銅合金からなっていてもよい。さらに、ステップd)またはe)の硬化処理をチップ除去加工した部分の表面または時計コンポーネントの全面に実施してもよい。
【0064】
本発明による時計コンポーネントは、有利には棒材旋削、または上記で画定した非磁性の銅合金からなる棒材を用いる任意の別のチップ除去加工技法から作製されてもよい。棒材は、好ましくは3mm未満の直径、好ましくは2mm未満の直径を有する。このような棒材は現在市販されておらず、特別に準備する必要があるため、上記で画定した非磁性の銅合金を用いて、時計コンポーネントを棒材旋削または任意の別のチップ除去加工技法、さらに場合によっては圧延をその後に行って形成することを当業者はためらうであろう。銅合金は、柔らかすぎるため圧延できず、使用中の摩耗抵抗に対しても柔らかすぎることは当業者には既知である。ただし、意外かつ予測できない方法で、このような素材を本発明によって用いることによって、圧延を受けられるピボット軸を作製すること、十分な使用寿命を実現することができる。本発明を実現するために、棒材旋削(または任意の別のチップ除去加工方法)のステップおよび場合によっては圧延ステップを含む方法によって、非常に小さい寸法の時計コンポーネントを作るために非磁性の銅合金を用いることに対する偏見を当業者は克服しなくてはならない。
【0065】
すべての予想に反して、本発明の方法によって、少なくとも棒材旋削(または任意の別のチップ除去加工技法)および場合によっては圧延によって形成される部分が、上記で画定した非磁性の銅合金を用いて作製される時計コンポーネントを得ることができる。
【0066】
もちろん、本発明は例示実施例に限定されず、当業者には明白な様々な変形および変化が可能である。具体的には、部分3のすべて、または実質的にすべての処理、つまり部分3の直径dの80%超を処理することを考察することが可能である。ただし、これは時計のテン真などの時計コンポーネントに対する適用には必須ではない。
【符号の説明】
【0067】
1 :テン真
2 :区分
2a :軸受面
2b :肩部
3 :部分
4 :銅合金
5 :表面領域
d :直径
図1
図2