【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年7月5日開催2017 IEEE International Conference on Advanced Intelligent Mechatronics(AIM)にて発表
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1回転モータと前記第2回転モータとは、操作者によって操作された前記操作部が回転する回転面に対して、反対側に設置されていることを特徴とする請求項1に記載の鉗子システム。
前記制御部は、前記操作部の位置に対応する前記第1回転モータの回転角度から取得される加速度と、前記把持部の位置に対応する前記第2回転モータの回転角度から取得される加速度とに基づいて、前記第1回転モータの動作における回転角度及びトルクと、前記第2回転モータの動作における回転角度及びトルクとを対応付けて制御することにより、前記バイラテラル制御を実行することを特徴とする請求項1または2に記載の鉗子システム。
前記制御部は、前記第1回転モータ及び前記第2回転モータにおける電流リファレンスと、前記第1回転モータ及び前記第2回転モータが出力する回転角度とに基づいて外乱を推定し、推定した外乱を補償する制御を実行することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の鉗子システム。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
まず、
図1を参照して本実施の形態にかかる鉗子システムの概略構成について説明する。
図1は、本実施の形態にかかる鉗子システム1の概略構成を示す模式図である。
図1に示すように、鉗子システム1は、軸部(シャフト)2と、把持部(エンドエフェクタ)3と、ヘッド部4と、制御部5と、を備えている。
【0010】
軸部2および軸部2の先端に設けられた把持部3は、患者の体内に挿入される部分で、既存の鉗子と同様のものを用いることができる。
図2は、
図1の破線で示す領域Aにおける軸部2の内部構造を示す図である。
図2に示すように、把持部3は、軸部2内を貫通する操作部材18とリンク機構19を介して接続されている。
図2の上段に示すように、操作部材18を把持部3の方に移動させるとリンク機構19が開いて把持部3が開く。また、
図2の下段に示すように、操作部材18を把持部3とは反対の方に移動させるとリンク機構19が閉じて把持部3が閉じる。
【0011】
図1に戻り、ヘッド部4は、操作部6と、グリップ部7と、第1回転モータ8および第2回転モータ9と、を有する。また、軸部2はヘッド部4に取り付けられている。
【0012】
操作部6は、操作者が鉗子システム1を操作するためのレバーであり、ヘッド部4において、回転軸6aにより回転可能に軸支されている。また、操作部6には、操作者が指を掛けて操作するための穴6bが形成されている。操作部6は、ヘッド部4に収容された動力伝達機構としてのギヤ類を介して第1回転モータ8と連結されている。すなわち、操作部6の回転軸6aに取り付けられたピニオンギヤ13aが、第1回転モータ8の回転軸8aに取り付けられたピニオンギヤ13bに係合している。
【0013】
操作者が操作部6を回動すると、第1回転モータ8には操作部6に及ぼされた操作力が伝達される。反対に、操作者には、操作部6を介して第1回転モータ8のトルクが反力として伝達される。なお、当然のことながら、ピニオンギヤ13aがピニオンギヤ13bと直接係合する場合に限らず、ピニオンギヤ13aが幾つかの他のピニオンギヤを介してピニオンギヤ13bと係合するように構成してもよい。
【0014】
操作部材18は、ヘッド部4に収容された動力伝達機構としてのギヤ類を介して第2回転モータ9と連結されている。すなわち、操作部材18において、把持部3とリンク機構19(
図2参照)を介して連結された一端と反対側の他端に取り付けられたラックギヤ14aが、第2回転モータ9の回転軸9aに取り付けられたピニオンギヤ14bに係合している。ラックギヤ14aおよびピニオンギヤ14bは、第2回転モータ9の回転運動を直線運動に変換する。すなわち、第2回転モータ9が回転すると操作部材18が直線運動し、この直線運動によりリンク機構19が駆動して把持部3を開閉させる。
【0015】
第2回転モータ9は、第1回転モータ8とは機械的に接続されていない。第1回転モータ8および第2回転モータ9は、それぞれ、制御部5に電気的に接続されている。第1回転モータ8と第2回転モータ9とは、制御部5において相互に制御される。制御部5における第1回転モータ8と第2回転モータ9の制御の詳細については後述する。
【0016】
図3は、本実施の形態にかかる鉗子システム1のプロトタイプを示す図である。なお、
図3における上段には、比較のため、既存の鉗子501についても併せて示す。
図3に示すように、鉗子システム1のプロトタイプでは、2つの回転モータ(第1回転モータ8、第2回転モータ9)を含むヘッド部4の大きさだけ、従来の鉗子よりも外形寸法が大きくなっている。第1回転モータ8および第2回転モータ9は、配線15を介して制御部5(
図1参照)と接続されている。
【0017】
軸部2は、ヘッド部4に接続部12を介して着脱可能に取り付けられている。なお、ヘッド部4に対して軸部2を着脱可能に構成する場合、
図1および
図2に示す操作部材18は継ぎ手を介して分割できるようにする。このように構成すると、鉗子システム1において、形状の異なる把持部3が設けられた軸部2を複数用意すれば、軸部2を付け替えすることにより、状況にあった形状の把持部3を適宜選択することができる。
【0018】
一方、既存の鉗子501は、鉗子システム1と同様に、軸部502と、把持部503と、を備え、さらに、把持部503を開閉操作するための取手部504,505を備えている。把持部503を開閉するための機構は、
図2に示した、鉗子システム1の把持部3を開閉するための機構と同様である。既存の鉗子501では、軸支された取手部505を操作者が動かして軸部502の内部の操作部材を直線運動させることにより把持部503を開閉する。
【0019】
図4は、
図3に示す鉗子システム1のプロトタイプにおけるヘッド部4の内部構造を示す図である。なお、
図4には、
図3の矢印Bの方向から見たヘッド部4の内部構造を示している。
図4に示すように、第1回転モータ8と第2回転モータ9とは、軸部2の長手方向の中心軸を通り、操作部6の回動する平面と平行な仮想面を隔てて対向し、夫々の回転軸が同軸線上になるように配置されているが、機械的には接続されていない。このように、第1回転モータ8と第2回転モータ9を配置することにより、グリップ部7を握る操作者Uに余分なモーメントが加わりにくくなるために操作性が向上して好ましいが、これに限定されず、他の配置とすることも可能である。第1回転モータ8に連結されたピニオンギヤ13aやピニオンギヤ13bなどの動力伝達機構、および、第2回転モータ9に連結されたラックギヤ14aやピニオンギヤ14bなどの動力伝達機構は、部品点数も少なく、ヘッド部4においてコンパクトに収納することができる。
【0020】
図3および
図4に示すように、鉗子システム1のプロトタイプでは、第1回転モータ8および第2回転モータ9が、総重量において大きな割合を占めている。しかしながら、鉗子システム1のプロトタイプの総重量は、約0.625kgで、実際の医療現場において大きな支障なく使用できるレベルに抑えられている。本プロトタイプでは、第1回転モータ8および第2回転モータ9として、Microtech Laboratory製のMDH−4006を用いている。今後、第1回転モータ8および第2回転モータ9の軽量化を進めていくことなどにより、鉗子システム1のさらなる軽量化が可能である。
【0021】
図5は、鉗子システム1のプロトタイプが操作者Uによって保持された状態を示す図である。
図5に示すように、グリップ部7を握り、操作部6に形成された穴に指をかけて操作する。グリップ部7は手のひら全体で握ることができる大きさにする。グリップ部7をこのように構成することで、操作者Uは、鉗子システム1を安定して保持することができるため、鉗子システム1の重量を意識することなく、既存の鉗子501(
図3参照)と同様の感覚で鉗子システム1を使用することができる。
【0022】
次に、
図1に示した制御部5における、第1回転モータ8と第2回転モータ9の制御について説明する。
第1回転モータ8と第2回転モータ9とは、制御部5において、加速度基準のバイラテラル制御方式により相互に制御される。ここで、バイラテラル制御とは、一般的な制御方式の1つであり、対象物の位置と対象物に作用する力を応答性良く制御し、繊細な作業を実現するものである。すなわち、加速度基準のバイラテラル制御では、操作者がマスター(操作側)を動かすことによってスレーブ(作業側)にマスターの動きに対応する動きをさせることができるとともに、スレーブが対象物から受けた反力をマスターの操作者にフィードバックすることができる。本実施の形態にかかる鉗子システム1では、操作者が実際に操作する操作部6と、動力伝達機構を介して操作部6に連結された第1回転モータ8と、がマスターである。また、対象物に作用する把持部3と、動力伝達機構や操作部材18などを介して把持部3に連結された第2回転モータ9と、がスレーブである。また、加速度基準とは、トルクではなく角加速度を制御量として用いることを意味する。
【0023】
制御部5に適用される加速度基準のバイラテラル制御において、スケーリング機能を有していてもよい。ここで、スケーリング機能とは、入力された位置や力に対して、出力される位置や力のスケールを拡大または縮小する機能である。制御部5に適用されるバイラテラル制御において、トルクおよび角度の少なくとも一方にスケーリングゲインを導入し、第1回転モータ8と第2回転モータ9との間において、トルクおよび角度の少なくとも一方にスケーリングを生じさせる。例えば、繊細な作業を行う場合には、操作者がマスターから入力したトルクや力に対し、スレーブで出力されるトルクや力のスケールを縮小する。このようにすることで、操作性をより向上させることができる。
【0024】
図6は、鉗子システム1の制御部5における制御の概略を示すブロック図である。ここで、αは角度応答のスケーリングゲイン、βはトルク応答のスケーリングゲイン、C
pは位置制御器、C
fは力制御器を表す。マスター、スレーブにおける角度応答を、それぞれ、θ
Mres、θ
Sresで表す。また、マスター、スレーブにおける反作用トルクを、
【数1】
で表す。
【0025】
図6に示すように、マスターとしての第1回転モータ8およびスレーブとしての第2回転モータ9における角度、トルクは、外乱オブザーバ(DOB:Disturbance Observer)、および、反力トルク推定オブザーバ(RTOB:Reaction Torque Observer)を用いて制御される。
【0026】
図7は、DOBおよびRTOBの制御の概略を示すブロック図である。ここで、θ
resは角度応答、I
refは電流リファレンス、T
reacは反作用トルク、T
disは外乱トルク、K
tnはトルク定数、g
disは外乱トルクに対するローパスフィルタのカットオフ周波数、g
reacは反作用トルクに対するローパスフィルタのカットオフ周波数、Dは粘性、J
nは慣性、F
cはクーロン摩擦を表す。
【0027】
DOBは、外乱を、迅速に推定し補償を行うように設計されている。ロバストな加速度制御は、DOBによって、外乱トルクの総和を推定し、推定された外乱トルクを用いた補償を行うことにより達成される。
図7に示すように、推定される外乱トルクの総和は、電流リファレンスおよび角加速度応答によって得られる。また、角加速度応答は、通常、エンコーダによって得られた角度応答の二次微分によって計算される。すなわち、外乱トルクの総和は以下の式で表される。
【0029】
RTOBは、トルクセンサを用いないで反作用トルクを推定するために適用される。RTOBは、DOBに基づいて対象物から各回転モータ(第1回転モータ8、第2回転モータ9)に加えられる反作用トルクを推定する。すなわち、RTOBでは、DOBにより推定された外乱トルクの総和から、予め推定できる内部摩擦などの他の力を差し引くことにより反作用トルクを推定する。
【0030】
図6に示したバイラテラル制御では、鮮明な触覚を伝達するために2つの目標を同時に満たす必要がある。一つは、マスターとスレーブの位置応答を互いに追跡することである。もう一つは、マスターとスレーブとの間における作用反作用の法則を人工的に達成することである。これらの目標は、以下の式で表される。
θ
Mres−θ
Sres=0・・・(式2)
T
Mreac+T
Sreac=0・・・(式3)
すなわち、第1回転モータ8と第2回転モータ9の角度偏差に応じて、第1回転モータ8と第2回転モータ9の角度応答を制御する。また、第1回転モータ8と第2回転モータ9のトルク偏差に応じて第1回転モータ8と第2回転モータ9のトルク応答を制御する。モードの概念に基づく加速度基準のバイラテラル制御によれば、(式2)および(式3)を同時に実現することができる。
【0031】
さらに、加速度基準のバイラテラル制御により動きのスケーリングが実現される。バイラテラル制御のスケーリングの目標は次のように表される。
θ
Mres−αθ
Sres=0・・・(式4)
T
Mreac+βT
Sreac=0・・・(式5)
これらの目標は、斜交座標で記述することができる。バイラテラル制御は、斜交座標制御によって実現される。環境インピーダンスの再現性は、スケーリングゲインα、βを変更することにより任意に設定することができる。
【0032】
次に、本実施の形態にかかる鉗子システム1の力覚伝達の機能を評価する実験について以下に説明する。なお、以下の説明では、鉗子システム1の構成については
図1を、鉗子システム1の制御については
図6および
図7を適宜参照する。
【0033】
図3に示した鉗子システム1のプロトタイプを用いて、力覚伝達の機能を評価するために2つの実験(実験1、実験2)を行った。バイラテラル制御の位置制御器Cp(s)=Kp+Kvs、力制御器Cf=Kfにおいて、各パラメータは、Kp=2500、Kvs=100.0、Kf=0.8000、g
dis=472.1、g
reac=472.1にそれぞれ設定した。
【0034】
<実験1>
まず、本実施の形態にかかる鉗子システム1の環境の剛性を認識する能力を検証するために行った実験について説明する。
実験1では、鉗子システム1を用いて、何も把持しない開閉動作、柔らかい対象物(低剛性の環境)の把持、硬い対象物(高剛性の環境)の把持の順に操作される。柔らかい対象物としてスポンジを、硬い対象物としてアルミニウム製ブロックを使用した。
【0035】
把持部3で何も把持しない場合に対し、把持部3で対象物を把持する場合には、対象物から受ける反力によってトルク応答が大きくなるはずである。また、対象物としてのスポンジを把持部3でつかんだ場合には、対象物がつぶれるのに対し、対象物としてのアルミニウムブロックを把持部3でつかんだ場合には、対象物が非常に硬くほとんどつぶれない。このため、把持部3により、硬い対象物であるアルミニウムブロックをつかんだ場合には、柔らかい対象物であるスポンジをつかんだ場合よりも角度応答は小さくなるはずである。
【0036】
図8は、バイラテラル制御でスケーリングをせず(α=1、β=1)に実験1を行ったときの、マスターとしての第1回転モータ8およびスレーブとしての第2回転モータ9における、トルク応答と角度応答についての測定結果を示すグラフである。ここで、
図8(a)では、横軸は経過時間[s]、縦軸はトルク応答[Nm]を表す。
図8(b)では、横軸は経過時間[s]、縦軸は角度応答[rad]を表す。また、
図8(a)において、実線はマスター(Master)におけるトルク応答を、破線はスレーブ(Slave)におけるトルク応答を示す。同様に、
図8(b)において、実線はマスター(Master)における角度応答を、破線はスレーブ(Slave)における角度応答を示す。
【0037】
図8に示すように、経過時間が0秒から5秒の間においては、把持部3で何も把持しない開閉動作が行われる。マスターとしての第1回転モータ8、スレーブとしての第2回転モータ9は、マスターに作用する操作力に応じて回転する。このため、経過時間が0秒から5秒の間は、把持部3で何も把持していないためトルク応答は小さい。経過時間が5秒から10秒の間においては、把持部3でスポンジをつかむ。スポンジからの反力のため、何も把持しない開閉動作の場合よりもトルク応力が大きくなっている。経過時間が12秒から18秒の間においては、把持部3でアルミニウムブロックをつかむ。トルク応答はスポンジをつかんだ場合とほぼ同じだが、角度応答はスポンジをつかんだ場合よりも小さくなっている。
【0038】
図9は、バイラテラル制御でスケーリングをして(α=2、β=2)実験1を行ったときの、マスターとしての第1回転モータ8およびスレーブとしての第2回転モータ9における、トルク応答と角度応答についての測定結果を示すグラフである。ここで、
図9(a)では、横軸は経過時間[s]、縦軸はトルク応答[Nm]を表す。
図9(b)では、横軸は経過時間[s]、縦軸は角度応答[rad]を表す。また、
図9(a)において、実線はマスター(Master)におけるトルク応答を、破線はスレーブ(Slave)におけるトルク応答を示す。同様に、
図9(b)において、実線はマスター(Master)における角度応答を、破線はスレーブ(Slave)における角度応答を示す。
【0039】
図9(a)に示すように、角度応答のスケーリングゲインα、トルク応答のスケーリングゲインβをともに2に設定したので、マスターのトルク応答、角度応答は、それぞれ、スレーブのトルク応答、角度応答の約2倍になっている。すなわち、鉗子システム1において、力覚伝達のスケーリングが正しく実現されていることが確認できた。また、
図9に示したスケーリングを行った場合のトルク応答、角度応答の挙動は、
図8に示したスケーリングをしなかった場合のトルク応答、角度応答の挙動とほぼ同じである。
【0040】
以上より、スケーリングをした場合、スケーリングをしなかった場合のいずれについても、鉗子システム1を介して、環境の剛性の違いを操作者が認識できることが確認できた。
【0041】
<実験2>
次に、本実施の形態にかかる鉗子システム1が既存の鉗子と同じように使用できるかどうかを確認するための実験2について説明する。実験2では、実際のMISを模擬するために、器官を模擬したパッドに糸のついた針を挿入し、結び目を作る動作を行った。
【0042】
図10から
図13は、実験2における実験手順について説明する図である。実験2では、
図10から
図13に示すように、右手(
図10では左側)で本実施の形態にかかる鉗子システム1を使用し、左手(
図10では右側)で既存の鉗子501を使用した。糸32と針33は、実際の手術で使用されるものと同じものを用いた。また、パッド31は、患者の器官を模擬したもので、適度な柔らかさを有する部材である。
【0043】
まず、
図10に示すように、鉗子システム1における把持部3で針33を保持し、針33の先端をパッド31に挿入する。続いて、
図11に示すように、鉗子システム1における把持部3によりパッド31から針33を引き出す。続いて、
図12に示すように、鉗子システム1の把持部3で糸32を保持し、既存の鉗子501で針33を保持し、既存の鉗子501を動かして、糸32で作ったループを作り、そのループに針33を通す。最後に、
図13に示すように、鉗子システム1の把持部3に保持された糸32と、既存の鉗子501に保持された針33を互いに反対方向に引っ張って結び目を作る。
【0044】
本実施の形態にかかる鉗子システム1で結び目を作る動作を行ったときの操作者の使用感は、既存の鉗子501で当該動作を行ったときのものとほぼ同様であった。すなわち、本実施の形態にかかる鉗子システム1をMISなどの実際の医療行為に使用可能であることが確認できた。
【0045】
図14は、実験2を行っている間の、マスターおよびスレーブにおける、トルク応答と角度についての測定結果を示すグラフである。
図14(a)では、横軸は経過時間[s]、縦軸はトルク応答[Nm]を表す。
図14(b)では、横軸は経過時間[s]、縦軸は角度応答[rad]を表す。また、
図14(a)において、実線はマスター(Master)におけるトルク応答を、破線はスレーブ(Slave)におけるトルク応答を示す。同様に、
図14(b)において、実線はマスター(Master)における角度応答を、破線はスレーブ(Slave)における角度応答を示す。なお、実験2では、鉗子システム1のバイラテラル制御におけるスケーリングゲインα、βを1とした。すなわち、マスターとスレーブとで、トルク応答および角度応答はほぼ等しくなる。さらに、グラフ中において(i)、(ii)、(iii)、(iV)で示された期間は、それぞれ、
図10、
図11、
図12、
図13に示す手順を行っている期間に対応する。
【0046】
図14に示すように、期間(i)(
図10の手順の期間)では、経過時間8秒においてトルク応答が増加している。これは、操作者がパッド31に針33を挿入する瞬間に針33を強く把持したためである。期間(ii)(
図11の手順の期間)では、経過時間22秒において約0.2Nmの大きなトルク応答になっている。これは、パッド31から針33を引き出すために強い把持力が必要とされたことを示している。
【0047】
期間(iii)(
図12の手順の期間)では、鉗子システム1では糸32を保持しているだけであり、既存の鉗子501の方を動かして糸32でループを作り、そのループに針33を通した。このため、鉗子システム1におけるトルク応答および角度応答は一定となっている。期間(iV)(
図13の手順の期間)では、経過時間64秒においてトルク応答が約0.1Nmに増加している。これは、作業者が、鉗子システム1の把持部3にて保持された糸32を引っ張って結び目を作ったためである。このように、実験2において鉗子システム1により取得したデータは、一連の挙動と一致していることが確認できた。
【0048】
実験1および実験2の間に鉗子システム1によって測定された結果は、メモリなどの記憶媒体に保存することができる。記憶媒体は、鉗子システム1に設けられていても、鉗子システム1とは別体の外部解析装置に設けられていてもよい。外部解析装置は、例えば、パーソナルコンピュータ、iPhone(登録商標)やiPad(登録商標)などの携帯端末である。記憶媒体が鉗子システム1とは別体として設けられている場合、鉗子システム1は、送信手段をさらに備え、送信手段が、制御部5から、第1回転モータ8および第2回転モータ9のそれぞれにおける、トルクおよび角度のデータを取得し、当該データを携帯端末に送信する。送信手段は、電線及び光ファイバ等の有線通信を行うものであっても、無線通信を行うものであってもよい。
【0049】
図15は、鉗子システム1によって測定されたデータを外部解析装置において表示させた画面の一例を示す図である。図中の表示について、Motor0は第1回転モータ8(
図1参照)を、Motor1は第2回転モータ9(
図1参照)を表している。
図15に示すように、鉗子システム1の操作中に、第1回転モータ8および第2回転モータ9における、位置(Posisition)、速度(Velocity)、操作力(Force)をリアルタイムで確認することができる。また、Start Recordボタンを押して測定データを記録すれば、測定データを別途解析することもできる。これにより、例えば、手術中の外科医の鉗子操作における繊細な力加減を定量化することなどが可能になり、外科医のスキルを向上させることができる。
【0050】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。