(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6762331
(24)【登録日】2020年9月10日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】金属成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 4/18 20060101AFI20200917BHJP
B22F 3/16 20060101ALI20200917BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20200917BHJP
C23C 4/10 20160101ALI20200917BHJP
C23C 24/10 20060101ALI20200917BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20200917BHJP
C23C 4/134 20160101ALN20200917BHJP
【FI】
C23C4/18
B22F3/16
B22F3/105
C23C4/10
C23C24/10 C
B33Y10/00
!C23C4/134
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-42458(P2018-42458)
(22)【出願日】2018年3月9日
(65)【公開番号】特開2019-157169(P2019-157169A)
(43)【公開日】2019年9月19日
【審査請求日】2019年2月28日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】谷川 秀次
(72)【発明者】
【氏名】北村 仁
(72)【発明者】
【氏名】藤原 宏介
(72)【発明者】
【氏名】大原 利信
(72)【発明者】
【氏名】種池 正樹
(72)【発明者】
【氏名】福田 高弘
【審査官】
菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−199825(JP,A)
【文献】
特開2007−270265(JP,A)
【文献】
特開2018−123366(JP,A)
【文献】
機械工学便覧 材料学・工業材料,日本機械学会,1984年,pp. 174-175
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C4/00−6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材を3次元積層造形により造形するステップと、
前記金属部材にセラミックコーティングを塗布するステップと、
前記セラミックコーティングが塗布された金属部材を熱処理するステップと
を含み、
前記熱処理ステップの温度T1[℃]は、前記金属部材の組成の固相線温度をTs[℃]とすると、(Ts−70)≦T1≦Ts+30である、金属成型品の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理するステップの温度T1[℃]は、前記金属部材の組成の固相線温度をTs[℃]とすると、(Ts−30)≦T1≦Ts+20である、請求項1に記載の金属成型品の製造方法。
【請求項3】
前記金属部材は、Ni基合金、Co基合金、又はFe基合金のいずれかである、請求項1または2に記載の金属成型品の製造方法。
【請求項4】
前記塗布するステップでは、溶射によって前記金属部材に前記セラミックコーティングを塗布する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属成型品の製造方法。
【請求項5】
前記溶射に用いられる溶射材はイットリア安定化ジルコニアである、請求項4に記載の金属成型品の製造方法。
【請求項6】
前記セラミックコーティングは2つ以上の層を含む、請求項4または5に記載の金属成型品の製造方法。
【請求項7】
前記セラミックコーティングは5μmから1000μmの厚さを有する、請求項4〜6のいずれか一項に記載の金属成型品の製造方法。
【請求項8】
前記塗布するステップでは、スラリー塗布によって前記金属部材に前記セラミックコーティングを塗布する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属成型品の製造方法。
【請求項9】
前記スラリー塗布は、高圧スプレーでスラリーを吹き付けることによって行われ、
前記スラリー塗布の前に前記金属部材にブラストを行い、前記スラリー塗布の後に乾燥を行う、請求項8に記載の金属成型品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属成形品の特性を変化させるために、金属成形品に対して熱処理が行われる場合がある。例えば特許文献1には、3次元積層造形(金属積層造形)によって成形された金属成形品に関し、水平方向と上下方向との異方性特性を低減することを目的として、金属材料の再結晶化温度以上の温度で金属成形品を熱処理する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5901585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、金属成形品の特性を変化させるために、金属成形品の組成の固相線温度付近の温度又はそれ以上の高温による熱処理を金属成形品に施すことがある。このような熱処理を金属成形品に施す場合、融点の低い粒界が部分的に溶融することがある。
図4に示されるように、融点の低い粒界の部分的な溶融が生じると、溶融液102が金属部材100の表面101から浸み出すことで、金属部材100の内部に欠陥103が発生してしまうといった問題点があった。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、金属部材の熱処理によって生じ得る溶融液が金属部材から浸み出すのを抑制できる金属成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の少なくとも1つの実施形態に係る金属成形品の製造方法は、
金属部材を
3次元積層造形により造形するステップと、
前記金属部材にセラミックコーティングを塗布するステップと、
前記セラミックコーティングが塗布された金属部材を熱処理するステップと
を含み、
前記熱処理ステップの温度T1[℃]は、前記金属部材の組成の固相線温度をTs[℃]とすると、(Ts−70)≦T1≦Ts+30である。
【発明の効果】
【0008】
3次元積層造形により造形された金属部材は、鋳造や鍛造で形成された金属部材に比べて強度が低い場合、融点近傍の温度での熱処理を行い、強度を向上させる必要があるが、金属部材からの溶融液の浸み出しが発生しやすいので、本開示の上記少なくとも1つの実施形態に係る製造方法のように、熱処理前に3次元積層造形した金属部材にセラミックコーティングを塗布することによって、金属部材から溶融液が浸み出すのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施形態1に係る金属成形品の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】温度(℃)と液相の割合(mol%)との関係を示す図である。
【
図3】本開示の実施形態1に係る金属成形品の製造方法において金属部材を熱処理している状態を示す模式図である。
【
図4】溶融液が金属部材の表面から浸み出す様子を模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明のいくつかの実施形態について説明する。ただし、本発明の範囲は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、本発明の範囲をそれにのみ限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0012】
(実施形態1)
本開示の実施形態1に係る金属成形品の製造方法を、
図1のフローチャートに基づいて説明する。
まず、ステップS1において、金属部材を準備する(準備ステップ)。この準備ステップには例えば、鋳造、鍛造、及び3次元積層造形等によって金属部材を製造することや、本製造方法を行う場所以外の場所から金属部材を入手すること等が含まれる。尚、金属部材は、例えば、Ni基耐熱合金、Co基耐熱合金、Fe基耐熱合金、又はその他の金属で製造される。
【0013】
次に、ステップS2において、金属部材の表面にセラミックコーティングを塗布する(塗布ステップ)。セラミックコーティングは、溶射法、例えば大気プラズマ溶射法で金属部材の表面に塗布することができる。溶射法は、他の方法と比べて、成膜を早めることができ、熱の影響による金属部材の変形や歪みを抑制することができる。ステップS2に続いてステップS3において、金属部材の組成の融点近傍で金属部材を熱処理する(熱処理ステップ)。金属部材の表面に塗布されたセラミックコーティングは、熱処理時に高温に晒されることから、(a)高温環境で使用可能でなければならないという観点からのいくつかの特性と、(b)熱処理時に生じ得る溶融液が金属部材から浸み出すのを抑制するための緻密性という観点からのいくつかの特性を有することが好ましい。
【0014】
上記(a)の特性に関しては、セラミックコーティング及び金属部材の組成のそれぞれの線膨張係数に大きな差が存在すると、熱処理時の熱による両者の変形量の差が大きくなってしまい、セラミックコーティングが金属部材から剥がれてしまうおそれがある。そこで、両者の線膨張係数差を小さくするために、線膨張係数の大きい溶射材を使用してステップS2においてセラミックコーティングを塗布することが好ましい。両者の線膨張係数の差が小さいほど、熱処理時における金属部材の変形量とセラミックコーティングの変形量との差が小さくなるので、熱処理時にセラミックコーティングの剥がれを抑制できる。そのような溶射材として例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を使用することができる。
【0015】
また、セラミックコーティングは、緻密縦割れ(Dense Vertical Crack:DVC)膜であることが好ましい。セラミックコーティングがDVC膜であると、金属部材が伸縮するときの線膨張係数差に起因する熱変形をセラミックコーティングが吸収できるので、塗布されたセラミックコーティングの剥がれを抑制することができる。
【0016】
さらに、セラミックコーティングの厚さは、5〜1000μmの範囲であることが好ましい。セラミックコーティングの厚さをこの範囲内にすることにより、セラミックコーティング内の応力を緩和することができる。厚さの下限に関しては、造形物の表面粗さがRa5μm以上あることから、5μm以上の厚さが好ましい。一方、厚さの上限に関しては、溶射成膜やスラリー塗布で調整可能な膜厚が大きくなると、溶射成膜時の残留応力や線膨張係数の違いによる熱応力の影響が大きくなり、セラミックコーティングの耐剥離性が低下する。そのため、厚さは、耐浸み出し性と耐剥離性の両方の特性を満足する範囲で管理することが望ましい。厚さが1000μmまでは耐剥離性の低下は許容範囲内であるが、成膜コストを考えると厚さは150μm以下であることが望ましい。
【0017】
上記(b)の特性に関しては、溶射粒子の粒子径は、金属部材の組成の粒界のサイズ以上である必要があり、そのような粒子径の範囲は10〜125μmである。また、セラミックコーティングの気孔率は3%以下であることが好ましい。3%以下の気孔率を実現するためには例えば、金属部材の表面に対して70mm以下の距離から、完全溶融した溶射粒子を溶射してセラミックコーティングを金属部材に塗布すればよい。
【0018】
溶射粒子の粒子径が粒界のサイズ以上であれば、基本的にはセラミックコーティングが溶融液の浸み出しを抑制できる。しかし、セラミックコーティングを塗布したときに、粒子同士の境目に粒界が存在する状態になっていると、セラミックコーティングによる溶融液の浸み出しを抑制する効果が低下する。これに対し、セラミックコーティングを2層以上の多層コーティング(重ね塗り)にすることにより、1層目がそのような状態になっていても、1層目の上にセラミックコーティングをさらに塗布することで、セラミックコーティングによる溶融液の浸み出しを抑制する効果を維持することができる。尚、1層目以外の少なくとも1つの層の材料や厚さ、気孔率等については、1層目と同じにしてもよいし、異なるようにしてもよい。例えば、1層目を緻密縦割れ膜とし、2層目を縦割れの無い緻密膜にしてもよい。膜応力がかかるのは、基材と1層目の界面であるので、その部分は緻密縦割れ膜を適用して耐剥離性を確保することができる。2層目は膜応力が小さいので、縦割れのない緻密膜を適用して耐浸み出し性を向上させることができる。
【0019】
上述したようにステップS3において金属部材を熱処理するが、この熱処理の温度T1[℃]は、金属部材の組成の固相線温度をTs[℃]とすると、(Ts−70)≦T1≦Ts+30であり、好ましくは(Ts−30)≦T1≦Ts+20である。熱処理の間、このような範囲内で温度T1を時間的に変化させてもよいし、第1温度T1を時間によらず一定値に固定してもよい。尚、固相線とは、多成分系の温度─組成図において、固体と液体が平衡である領域と,固体が安定して存在する領域との境界を示す線であり、固相線温度Tsとは、
図2に示すように、固体が溶け始める温度(液相の割合が0から上昇し始める点の温度)を意味する。
図2は、温度(℃)と液相の割合(mol%)との関係を示す図である。
【0020】
熱処理が金属部材の組成の融点近傍で行われることから、融点の低い粒界が部分的に溶融して溶融液が生じ得る。金属部材から溶融液が浸み出すと、金属部材の内部に欠陥が発生しやすい。この欠陥は、金属部材の表面から繋がる開口欠陥であるため、後述する後処理ステップでもつぶすことができず、金属部材の強度が低下してしまう。しかし、実施形態1では、ステップS2において、熱処理時に溶融したり剥がれたりしにくいセラミックコーティングを金属部材の表面に塗布しているので、熱処理時に溶融液が生じたとしても、金属部材から溶融液が浸み出すのを抑制することができる。その結果、金属部材に発生する欠陥を低減し、強度低下を低減することができる。
【0021】
図1に示されるように、ステップS3に続いてステップS4において、金属部材の後熱処理を行う(後熱処理ステップ)。金属部材の後熱処理として、金属部材の真空熱処理を行ってもよいし、金属部材を加圧しながら熱処理を行う熱間等方加圧(HIP:hot isostatic pressing)処理を行ってもよいし、これら二つの両方を行ってもよい。
【0022】
次に、ステップS5において、セラミックコーティングの除去が必要か否かに基づき、金属部材の表面加工を行うか否かを判断する。ステップS5において表面加工が必要と判断されれば、ステップS6において、ブラスト等によるセラミックコーティングの除去を含む金属部材の表面加工を行う(表面加工ステップ)ことで金属成形品が完成する。ステップS5において表面加工が不要と判断されれば表面加工を行うことなく金属成形品が完成する。尚、セラミックスは衝撃に弱いので、ブラスト等により容易にセラミックコーティングを除去することができる。
【0023】
このように、熱処理時の温度で溶融したり剥がれたりしにくいセラミックコーティングを金属部材に塗布して金属部材を熱処理することにより、金属部材内に溶融液が生じたとしても、セラミックコーティングによって金属部材から溶融液が浸み出すのを抑制することができる。その結果、金属部材に発生する欠陥を低減し、強度低下を低減することができる。
【0024】
(実施形態2)
次に、実施形態2に係る金属成形品の製造方法について説明する。実施形態2に係る金属成形品の製造方法は、実施形態1に対して、セラミックコーティングの塗布方法を変更したものである。尚、実施形態2において、実施形態1の構成要件と同じものの詳細な説明は省略する。
【0025】
本開示の実施形態2に係る金属成形品の製造方法は、ステップS1の後のステップS2(
図1参照)において、スラリー塗布によって金属部材にセラミックコーティングを塗布する。その他のステップは実施形態1と同じである。したがって、以下では、ステップS2におけるスラリー塗布について詳細に説明する。
【0026】
スラリー塗布の一例として、セラミックコーティングの原材料となるセラミック粒子のスラリーに、ステップS1で準備した金属部材をどぶ漬けすることができる。これにより、金属部材の表面にセラミックコーティングを塗布することができる。
【0027】
このようなどぶ漬けを含むスラリー塗布は、内部構造を有するような金属部材の複雑な表面にセラミックコーティングを塗布する際に効果的な方法である。溶射法は溶射材の噴射に指向性があるため、内部構造の内面に成膜できない場合がある。しかしながら、スラリー塗布では、スラリーが内部構造内部に侵入できるので、内部構造の内面にもセラミックコーティングを塗布することが可能になる。
【0028】
また、スラリー塗布では一般に、溶射法で必要となるブラスト作業が不要であるので、作業性を向上することもできる。さらに、溶射法を例えばどぶ漬けと比較すると、前者では溶射成膜装置が必要となり、大がかりな作業となるが、後者では簡単な備品で容易に作業を行うことができる。
【0029】
ただし、スラリー塗布は溶射法に比べて、密着性が弱いために熱処理プロセスにおけるワークの管理が厳しいといったいくつかのデメリットも存在する。密着性を向上するためには、塗布後の乾燥を比較的高い温度で行うことや、塗布前に金属部材にブラストを行うことや、どぶ漬けではなく高圧スプレーでセラミック粒子のスラリーを吹き付ける等の対策を行うこともできる。
【0030】
スラリー塗布の塗布剤として、ジルコニア系塗布剤(例えば、ジルコートY−11,Y−12(大阪ジルコン工業社)やシリカ系塗布剤(例えば、スノーテックス(登録商標)30又はスノーテックス(登録商標)40、スノーテックス(登録商標)及びジルコン、スノーテックス(登録商標)及びアルミナ、MP−4540M、ナノユース(登録商標)ZR−40BL(日産化学社))等が使用可能である。
【0031】
ステップS2においてスラリー塗布によって金属部材の表面にセラミックコーティングを塗布した後、実施形態1と同様にステップS3〜ステップS5(必要であればステップS6)を行うことにより、金属成形品が完成する。実施形態2でも、実施形態1と同様に、金属部材の表面に塗布されたセラミックコーティングによって、熱処理時に溶融液が生じたとしても、金属部材から溶融液が浸み出すのを抑制することができる。その結果、金属部材に発生する欠陥を低減し、強度低下を低減することができる。
【0032】
実施形態1及び2のそれぞれでは、ステップS3の熱処理は、
図3に示されるように、金属部材10をセッタ20の表面20a上に載置して行う。表面20a上にセラミックコーティング21を塗布しておけば、金属部材10の表面のうち表面20a上のセラミックコーティング21に接する部分10aにセラミックコーティングが塗布されていなくても、セラミックコーティング21によって、金属部材10からの溶融液の浸み出しを抑制することができる。尚、金属部材10の表面の一部分10aにセラミックコーティングを塗布していても、表面20a上にさらにセラミックコーティング21を塗布することで、金属部材10からの溶融液の浸み出しをさらに抑制することもできる。
【0033】
実施形態1及び2のそれぞれのステップS1(準備ステップ)において、金属部材を製造する方法として、鋳造、鍛造、及び3次元積層造形を例示したが、本開示の製造方法は、金属部材を3次元積層造形した場合に特に効果的である。一般に、3次元積層造形により造形された金属部材は強度が低く、融点近傍の温度での熱処理が必要である。このため、金属部材からの溶融液の浸み出しが発生しやくなるので、金属部材の表面のセラミックコーティングを塗布することによって、溶融液の浸み出しを抑制することができる。
【0034】
実施形態1及び2のそれぞれのステップS2おいて、セラミックコーティングは、溶射法のみ又はスラリー塗布のみで行っていたが、溶射法及びスラリー塗布を組み合わせて行ってもよい。例えば、セラミックコーティングを2層構造にする場合に、1層目は溶射法で塗布し、2層目はスラリー塗布で行ってもよい。当然にこの逆であってもよく、セラミックコーティングを3層以上の構造にする場合には、各層を溶射法又はスラリー塗布のいずれかの方法で塗布することができる。
【0035】
(1)本開示の少なくとも1つの実施形態に係る金属成形品の製造方法は、
金属部材を準備するステップと、
前記金属部材にセラミックコーティングを塗布するステップと、
前記セラミックコーティングが塗布された金属部材を熱処理するステップと
を含み、
前記熱処理ステップの温度T1[℃]は、前記金属部材の組成の固相線温度をTs[℃]とすると、(Ts−70)≦T1≦Ts+30である。
【0036】
上記(1)の製造方法によると、熱処理時の温度で溶融したり剥がれたりしにくいセラミックコーティングを金属部材に塗布して金属部材を熱処理することにより、金属部材内に溶融液が生じたとしても、セラミックコーティングによって金属部材から溶融液が浸み出すのを抑制することができる。
【0037】
(2)いくつかの実施形態では、上記(1)の製造方法において、
前記熱処理するステップの温度T1[℃]は、前記金属部材の組成の固相線温度をTs[℃]とすると、(Ts−30)≦T1≦Ts+20である。
【0038】
金属部材の組成の融点近傍で金属部材を熱処理すると、金属部材内に溶融液が生じやすい。上記(2)の製造方法によると、セラミックコーティングによって金属部材から溶融液が浸み出すのを抑制することができる。
【0039】
(3)いくつかの実施形態では、上記(1)または(2)の製造方法において、
前記金属部材は、Ni基合金、Co基合金、又はFe基合金のいずれかである。
上記(3)の構成によれば、セラミックコーティングによって金属部材から溶融液が浸み出すのを抑制することができる。
【0040】
(4)いくつかの実施形態では、上記(1)〜(3)のいずれかの製造方法において、
前記塗布するステップでは、溶射によって前記金属部材に前記セラミックコーティングを塗布する。
【0041】
上記(4)の製造方法によると、溶射によって金属部材にセラミックコーティングが塗布されるので、他の方法を用いた場合と比べて、成膜を早めることができ、熱の影響による金属部材の変形や歪みを抑制することができる。
【0042】
(5)いくつかの実施形態では、上記(4)の製造方法において、
前記溶射に用いられる溶射材はイットリア安定化ジルコニアである。
【0043】
上記(5)の製造方法によると、イットリア安定化ジルコニアは線膨張係数が大きいことから金属部材との線膨張係数差が小さくなるので、熱処理時における金属部材の変形量とセラミックコーティングの変形量との差が小さくなる。その結果、塗布されたセラミックコーティングの剥がれを抑制できる。
【0044】
(6)いくつかの実施形態では、上記(4)または(5)の製造方法において、
前記セラミックコーティングは緻密縦割れ膜である。
【0045】
緻密縦割れ膜は、金属部材が伸縮するときの線膨張係数差に起因する熱変形を吸収できるので、上記(6)の製造方法によると、塗布されたセラミックコーティングの剥がれを抑制できる。
【0046】
(7)いくつかの実施形態では、上記(4)〜(6)のいずれかの製造方法において、
前記セラミックコーティングは2つ以上の層を含む。
【0047】
セラミックコーティングを塗布したときに、セラミック粒子同士の境目に粒界が存在する状態になっていると、セラミックコーティングが溶融液の浸み出しを抑制する効果が低下する。しかし、上記(7)の製造方法によれば、セラミックコーティングを2層以上に多層コーティング(重ね塗り)することにより、1層目がそのような状態になっていても、1層目の上に塗布されたセラミックコーティングによって溶融液の浸み出しを抑制することができる。
【0048】
(8)いくつかの実施形態では、上記(7)の製造方法において、
前記セラミックコーティングは、緻密縦割れ膜の1層目と、縦割れの無い膜の2層目とを含む。
上記(8)の構成によれば、上記(6)及び(7)の両方の作用効果を得ることができる。
【0049】
(9)いくつかの実施形態では、上記(4)〜(8)のいずれかの製造方法において、
前記セラミックコーティングは5μmから1000μmの厚さを有する。
【0050】
上記(9)の製造方法によれば、セラミックコーティング内の応力を緩和することができる。
【0051】
(10)いくつかの実施形態では、上記(1)〜(3)のいずれかの製造方法において、
前記塗布するステップでは、スラリー塗布によって前記金属部材に前記セラミックコーティングを塗布する。
【0052】
上記(10)の製造方法によれば、スラリー塗布によって金属部材にセラミックコーティングを塗布することにより、内部構造を有するような金属部材の複雑な表面にもセラミックコーティングを塗布することが可能になる。また、スラリー塗布では、溶射に必要なブラスト作業が不要であるので、作業性を向上できる。
【0053】
(11)いくつかの実施形態では、上記(10)の製造方法において、
前記スラリー塗布は、高圧スプレーでスラリーを吹き付けることによって行われ、
前記スラリー塗布の前に前記金属部材にブラストを行い、前記スラリー塗布の後に乾燥を行う。
スラリー塗布は溶射法に比べて、密着性が弱いために熱処理プロセスにおけるワークの管理が厳しいといったいくつかのデメリットも存在する。しかし、上記(11)の製造方法によれば、密着性を向上することができる。
【0054】
(12)いくつかの実施形態では、上記(1)〜(11)のいずれかの製造方法において、
前記準備するステップは、3次元積層造形により前記金属部材を造形することを含む。
【0055】
3次元積層造形により造形された金属部材は、鋳造や鍛造で形成された金属部材に比べて強度が低い場合、融点近傍の温度での熱処理を行い、強度を向上させる必要があるが、金属部材からの溶融液の浸み出しが発生しやすいので、上記(12)の製造方法のように、熱処理前に3次元積層造形した金属部材にセラミックコーティングを塗布することによって、金属部材から溶融液が浸み出すのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0056】
10 金属部材
10a (金属部材の)表面
20 セッタ
20a (セッタの)表面
21 セラミックコーティング