(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
互いに同心に配置された一対の軌道輪と、一対の前記軌道輪の間に転動自在に配置された転動体とを備え、一対の前記軌道輪の少なくとも一方に絶縁層が形成された絶縁軸受であって、
前記絶縁層が形成された軌道輪は、その両端面に断面円弧状の環状凹溝が形成され、且つ少なくとも当該軌道輪の非軌道面側周面から前記環状凹溝までの表面が前記絶縁層により覆われており、
前記絶縁層が形成された軌道輪の端面は、非軌道面側端面と、軌道面側端面と、前記非軌道面側周面と前記軌道面側端面との間に形成された前記環状凹溝とにより構成され、
前記非軌道面側端面の軸方向幅が前記軌道面側端面の軸方向幅より大きく、且つ前記環状凹溝と前記非軌道面側端面とが傾斜面により接続されていることを特徴とする絶縁軸受。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の
図18に示す絶縁層415を、
図19に示す方法によって溶射して形成する際、絶縁層415は、終端部415a,415bにおいて非常に薄くなり、場合によっては絶縁層415が殆ど形成されない箇所が生じてしまう。そのため、絶縁層415の終端部415a,415bにおける機械的強度が低下し、沿面放電が発生したり、被膜自体の破壊電圧が低下したりする虞があった。
【0007】
また、絶縁軸受400とハウジング417との間に高い電位差が生じた場合に、外輪405に形成された絶縁層415の表面に沿面放電が生じ、外輪405における絶縁層415が形成されていない部分419とハウジング417との間に電流が流れることがある。軸受内部に電流が流れると軸受は急速に劣化するため、絶縁軸受400は、特に高電圧環境下で使用される場合には、著しく寿命が短くなる虞があるという問題点があった。
【0008】
そこで本発明は、上述した従来の絶縁軸受が有する問題点に着目してなされたものであり、絶縁層の終端部においても必要十分な厚さを持たせ、絶縁層の機械的強度の低下を防ぎ、良好な耐電食性を備えるとともに、高電圧がかかる環境下で使用しても沿面放電が起こりにくく、破壊電圧の低下を防止できる絶縁軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は下記構成からなる。
(1) 互いに同心に配置された一対の軌道輪と、一対の前記軌道輪の間に転動自在に配置された転動体とを備え、一対の前記軌道輪の少なくとも一方に絶縁層が形成された絶縁軸受であって、
前記絶縁層が形成された軌道輪は、その両端面に断面円弧状の環状凹溝が形成され、且つ少なくとも当該軌道輪の非軌道面側周面から前記環状凹溝までの表面が前記絶縁層により覆われて
おり、
前記絶縁層が形成された軌道輪の端面は、非軌道面側端面と、軌道面側端面と、前記非軌道面側周面と前記軌道面側端面との間に形成された前記環状凹溝とにより構成され、
前記非軌道面側端面の軸方向幅が前記軌道面側端面の軸方向幅より大きく、且つ前記環状凹溝と前記非軌道面側端面とが傾斜面により接続されていることを特徴とする絶縁軸受。
上記構成の絶縁軸受によれば、環状凹溝と非軌道面側端面とが傾斜面により接続されるため、絶縁層を溶射により形成する場合に、絶縁層を軌道輪の非軌道面側周面から環状凹溝までの範囲で連続的に形成でき、且つ溶射材が環状凹溝内に蓄積しやすくなるので軌道輪の軌道面側周面へ到達しにくくなる。これにより、軌道輪の軌道面側周面に被膜が形成されることを回避でき、絶縁層を必要十分な厚さに形成できる。更に、当該軌道輪の非軌道面側端面の軸方向幅を前記軌道面側端面の軸方向幅より大きくすることで、ハウジングが当該軌道輪の端面にも嵌め合わされる場合において、沿面放電を抑制することができる。よって、沿面放電による破壊電圧の低下を防止でき、高い電食防止効果が得られる。
(
2) 前記環状凹溝と前記傾斜面との断面形状は、2つの単一円弧により複合された複合円弧であり、且つ前記単一円弧同士は滑らかに接続していることを特徴とする(
1)の絶縁軸受。
上記構成の絶縁軸受によれば、絶縁層を溶射により形成する場合に、環状凹溝と傾斜面に滑らかに連続する絶縁層を確実に形成できる。
(
3) 前記複合円弧は、前記単一円弧同士の接合点において、それぞれの前記単一円弧の接線が共通していることを特徴とする(
2)の絶縁軸受。
上記構成の絶縁軸受によれば、環状凹溝と傾斜面との断面形状がより滑らかに接続された複合円弧となる。
(
4) 前記絶縁層は、セラミック溶射層であることを特徴とする(1)乃至(
3)のいずれか一つの絶縁軸受。
上記構成の絶縁軸受によれば、比較的電気抵抗値が大きく、膜厚が薄くても優れた絶縁性を得ることができる。また、割れ、欠け等の損傷が発生しにくくなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、軌道輪の非軌道面側周面から、軌道輪両端面に形成された環状凹溝までの範囲に、絶縁層を連続的に形成でき、絶縁層の終端部においても必要十分な絶縁層の厚さを持たせることができるため、絶縁層の機械的強度の低下を防止できる。また、沿面放電による破壊電圧の低下を防止でき、高い電食防止効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。ここで説明する絶縁軸受は、一般産業用電動機、鉄道車両トラクション用電動機、風車用増速機等に搭載される軸受のように、軸受内部に電流が流れる可能性のある環境に好適に適用可能である。
<第1実施例>
図1は第1実施例の絶縁軸受100における軸方向断面の一部を示す一部断面図である。
絶縁軸受100は、互いに同心に配置された一対の軌道輪である内輪11及び外輪13と、転動体(玉)15と、保持器17とを有する。転動体15は、保持器17のポケットに収容され、軌道輪の間、すなわち、内輪11の内輪軌道面19と外輪13の外輪軌道面21との間に転動自在に配置される。
【0013】
外輪13は、詳細を後述する絶縁層27が形成される。外輪13は、この絶縁層27を介してハウジング(又は軸)29に固定される。これら内輪11,外輪13,転動体15は、鋼材等の金属製の導電体材料からなる。
【0014】
図2は
図1に示す外輪13の拡大断面図である。
外輪13の両端面である一対の軸方向端面25A,25Bは、外輪外周面(非軌道面側周面)23に接続された外輪外周側端面(非軌道面側端面)31と、外輪内周面33に接続された外輪内周側端面(軌道面側端面)35と、外輪外周側端面31と外輪内周側端面35との間に円周方向全周にわたって形成された断面円弧状の外輪環状凹溝37とにより構成される。
【0015】
一対の外輪内周側端面35の軸方向幅B2は、一対の外輪外周側端面31の軸方向幅B1より狭い。また、一対の外輪環状凹溝37における溝底部同士の軸方向幅B3は、一対の外輪内周側端面35の軸方向幅B2よりも狭い。つまり、外輪環状凹溝37は、外輪内周側端面35よりも軸方向内側に凹んで形成される。外輪内周側端面35は軸方向に対して傾斜していてもよく、その場合には、一対の外輪内周側端面35の軸方向幅B2より、一対の外輪環状凹溝37の軸方向幅B3が狭くなるようにする。これにより、絶縁層27を形成するための溶射材が、外輪環状凹溝37内に蓄積されやすくなり、絶縁層27が十分な厚さで形成されやすくなると同時に、溶射材が外輪内周面33にまで流れ込まない。
【0016】
絶縁層27は、外輪外周面23の全周と、軸方向端面25A,25Bのうち、一対の外輪外周側端面31と一対の外輪環状凹溝37とに、十分な厚さtを有して形成される。本実施形態では、この絶縁層27は、セラミック溶射層である。セラミックは、絶縁効果が高いため、膜厚が薄くても優れた絶縁性を有する。また、割れ、欠け等の損傷が発生しにくい特性を有する。この絶縁層27は、好ましくは、セラミックを溶射材として溶射により形成される被膜とされるが、同等の機能を有する層であれば、他の材料で形成されていてもよい。
【0017】
絶縁層27を形成する溶射方法としては、例えば、プラズマをエネルギ源として、絶縁層27となるセラミック材料を溶融状態に加熱し、高速で環状部材に吹き付けるプラズマ溶射方法が利用できる。この溶射方法の他にも、アーク溶射、フレーム溶射、レーザ溶射等、種々の方式を採用して絶縁層27を形成することができる。一例として、
図19に示すように、日本国特開2006−77944に記載された溶射方法により絶縁層27(
図19における絶縁層415)を形成することが挙げられる。
【0018】
本構成の絶縁軸受100の絶縁層27は、最も薄い所でも10μm以上の厚さを有する。外輪外周面23における絶縁層27の厚さ(好ましくは、50〜250μm)を設計基準値とすると、外輪環状凹溝37における絶縁層の厚さは、最も薄い所でも設計基準値の20%以上(すなわち、10μm以上)の厚さを有する。
【0019】
なお、絶縁層27の厚さtは、絶縁層27を含む外輪13の幅Bが、内輪11の幅に等しくなるように設定される。
【0020】
図3に示すように、軸方向端面25A(25Bも同様)に外輪環状凹溝37が存在すると、溶射の際に、ノズルから噴射された溶射材の溶滴が外輪環状凹溝37の溝内で溜まりやすくなる。つまり、外輪環状凹溝37の外輪内周面33側の溝壁面37a、及び外輪外周面23側の溝壁面37b(傾斜面)を含む溝内部の全体に溶射材の溶滴が付着して、絶縁層27が溝壁面37a,37bと、外輪環状凹溝37とにおいて連続的に形成される。その場合、溶射材の溶滴は、外輪環状凹溝37内に溜まりやすくなるため、外輪内周面33へ到達しにくくなる。これにより、外輪内周面33に被膜が形成されることを回避できる。また、外輪内周面33に絶縁層が形成されないので、外輪内周面33から絶縁層を除去する作業が不要となる。外輪内周面33に被膜があると、軸受の回転中に保持器外径の接触や潤滑材の摺動抵抗により被膜が欠落する可能性があり、欠落した被膜が軸受の軌道面に侵入した場合に、軸受に損傷をもたらす事になる。
【0021】
更に、溝壁面37bは、なだらかな傾斜面とすることが好ましい。その理由は、溝壁面37bが急勾配な傾斜面になると、溶射の際に溶射材の溶滴が傾斜面に留まらず、溝壁面37bにおける絶縁層27が薄くなってしまう可能性があるからである。より好ましくは、外輪環状凹溝37と溝壁面37bは2つの単一円弧R1,R2により複合された複合円弧の形状とする。外輪環状凹溝37と溝壁面37bとの断面形状における、2つの単一円弧R1,R2同士の接合点Sにおいては、それぞれの単一円弧R1,R2の接線TLが共通している。また、単一円弧R1,R2同士の接合点Sは、外輪内周面33の側面である外輪内周側端面35よりも軸受の軸方向内側に設けることが好ましい。
【0022】
上記のように複合円弧位置を設定すると、溝壁面37bが滑らかになり、溝壁面37bにおける絶縁層27が薄くなる事を防止でき、適切な被膜厚さを確保できる。また、外輪内周面33の絶縁層を除去する作業も不要となる。
【0023】
以上より、本構成の絶縁軸受100によれば、絶縁層27が、外輪外周面23から軸方向端面25A,25Bの外輪環状凹溝37までの範囲で、必要十分な厚さに形成されて必要な絶縁抵抗が得られる。これにより、絶縁層27の沿面放電を防止できるだけでなく、被膜破壊による破壊電圧の低下を防止できる。
【0024】
更に、
図2に示す一対の外輪内周側端面35の軸方向幅B2を、一対の外輪外周側端面31の軸方向幅B1より狭くすることで、ハウジング(又は軸)29(
図1参照)と、絶縁層27の被膜端部との距離が長くなり、沿面放電による破壊電圧を更に大きくすることができる。
【0025】
<第1実施例の変形例>
次に、上記の第1実施例の絶縁軸受の変形例を説明する。なお、以下の説明においては、同一の部材、同一の部位に対しては、同一の符号を付与することで、その説明を省略又は簡略化する。
【0026】
(変形例1)
図4は第1実施例の絶縁軸受の変形例1を示す一部断面図である。本変形例の絶縁軸受110は、内輪41と、外輪43と、転動体(玉)15と、保持器17とを有する。内輪41には、後述のような絶縁層49が形成される。内輪41は、この絶縁層49を介してハウジング(又は軸)29に固定される。
【0027】
図5は
図4に示す内輪41の拡大断面図である。
内輪41の一対の軸方向端面45A,45Bは、内輪内周面(非軌道面側周面)47に接続された内輪内周側端面(非軌道面側端面)51と、内輪外周面53に接続された内輪外周側端面(軌道面側端面)55と、内輪内周側端面51と内輪外周側端面55との間に、円周方向全周にわたって形成された内輪環状凹溝57と、をそれぞれ有する。
【0028】
つまり、本変形例1の絶縁軸受110は、前述の外輪に絶縁層が形成される構成に代えて、内輪41の内輪内周面47、内輪内周側端面51,51、及び内輪環状凹溝57に絶縁層49が形成され、外輪43には絶縁層が形成されない構成となっている。本変形例1の絶縁軸受110の溶射工程においては、内輪内周面47と、内輪内周側端面51,51と、内輪環状凹溝57とに向けて絶縁材料を溶射して絶縁層49を形成する。
【0029】
この場合も、一対の内輪外周側端面55の軸方向幅B2は、一対の内輪内周側端面51の軸方向幅B1より狭い。また、一対の内輪環状凹溝57の溝底部の軸方向幅B3は、一対の内輪外周側端面55の軸方向幅(軸方向最小幅)B2よりも狭い。つまり、内輪環状凹溝57は、内輪外周側端面55よりも軸方向内側に凹んで形成される。
【0030】
本変形例1の絶縁軸受110によれば、絶縁層49が、内輪内周面47から軸方向端面45A,45Bの内輪環状凹溝57までの範囲で、必要十分な厚さに形成される。これにより、絶縁層49の機械的強度の低下と、沿面放電による破壊電圧の低下とを防止できる。
【0031】
また、
図5に示す一対の内輪外周側端面55の軸方向幅B2を、一対の内輪内周側端面51の軸方向幅B1より狭くすることで、ハウジング(又は軸)29(
図4参照)と、絶縁層49の被膜端部との距離が長くなり、沿面放電による破壊電圧を更に大きくすることができる。
【0032】
以上のように、内輪11,41と外輪13,43の少なくとも一方に絶縁層が形成されることで、電食の発生を防止できる。
【0033】
(変形例2)
図6は第1実施例の絶縁軸受の変形例2を示す一部断面図である。
本変形例の絶縁軸受120は、前述した変形例1の内輪41と、前述した第1実施例の外輪13と、転動体(玉)15と、保持器17とを有する。
【0034】
内輪41には内輪環状凹溝57が形成され、外輪13には外輪環状凹溝37が形成される。そして、内輪41には、内輪内周面47と、一対の軸方向端面45A,45Bの内輪内周面47に接続される側の一部(
図5に示す内輪内周側端面51及び内輪環状凹溝57)とに、周方向全周にわたって絶縁層49が形成される。また、外輪13には、外輪外周面23と、一対の軸方向端面25A,25Bの外輪外周面23に接続される側の一部(
図2に示す外輪外周側端面31及び外輪環状凹溝37)とに、周方向全周にわたって絶縁層27が形成される。
【0035】
内輪41は、絶縁層49を介して図示しないハウジング(又は軸)に固定され、外輪13は、絶縁層27を介して図示しない軸(又はハウジング)に固定される。
【0036】
上記構成の絶縁軸受120によれば、絶縁軸受120が、内輪41と外輪13の双方に形成された絶縁層49,27を介してハウジングや軸に支持される。このため、絶縁軸受120の絶縁性能が高められ、電食の発生や沿面放電による破壊電圧の低下を、より確実に防止できる。
【0037】
<第2実施例>
図7は第2実施例の絶縁軸受200における軸方向断面の一部を示す一部断面図、
図8は
図7に示す外輪13の一部拡大断面図である。
本構成の絶縁軸受200は、外輪13の絶縁層27が
図8に示す軸方向端面25A(25Bも同様)の外輪内周側端面35にも形成されたこと以外は、前述した第1実施例の絶縁軸受100と同様の構成である。
【0038】
上記構成の絶縁軸受200によれば、絶縁層27が外輪外周面23を含む軸方向端面25A,25Bの全面を覆って形成されるため、第1実施例と比べて絶縁層27の終端部からハウジングや軸までの沿面距離が長くなる。これにより、沿面放電が起こりにくくなり、前述した第1実施例の絶縁軸受100と比較して、沿面放電の防止効果が一層高められる。
【0039】
(変形例1)
図9は第2実施例の絶縁軸受の変形例1を示す一部断面図である。本変形例の絶縁軸受210は、内輪41の絶縁層49が軸方向端面45A,45Bの内輪外周側端面55にも形成されたこと以外は、前述した第1実施例の変形例1の絶縁軸受110と同様の構成である。つまり、絶縁層49が、内輪外周側端面55を含む軸方向端面45A,45Bの全面に形成される。
【0040】
上記構成の絶縁軸受210によっても、第1実施例と比べて、絶縁層49の終端部からハウジングや軸までの沿面距離が長くなり、沿面放電の防止効果が高められる。
【0041】
(変形例2)
図10は第2実施例の絶縁軸受の変形例2を示す一部断面図である。本変形例の絶縁軸受220は、内輪41の絶縁層49が軸方向端面45A,45Bの内輪外周側端面55にも形成され、外輪13の絶縁層27が軸方向端面25A,25Bの外輪内周側端面35にも形成されたこと以外は、前述した第1実施例の変形例2の絶縁軸受120と同様の構成である。
【0042】
上記構成の絶縁軸受220によれば、絶縁層27,49の終端部からハウジングや軸までの沿面距離が長くなり、しかも、絶縁軸受220が、内輪41の絶縁層49と、外輪13の絶縁層27とを介してハウジングや軸に支持される。このため、絶縁軸受220の絶縁性能が一層高められ、電食の発生や沿面放電よる破壊電圧の低下を、より確実に防止できる。
【0043】
<第3実施例>
図11は第3実施例の絶縁軸受300における軸方向断面の一部を示す一部断面図、
図12は
図11に示す外輪13の一部拡大断面図である。
本構成の絶縁軸受300は、外輪13の軸方向端面25A,25Bの一対の外輪内周側端面61が、
図12に示すように、一対の外輪外周側端面31の軸方向幅B1と同じ軸方向幅B2を有する。また、一対の外輪環状凹溝37の溝底部の軸方向幅B3は、一対の外輪内周側端面61の軸方向幅B2よりも狭い。つまり、外輪環状凹溝37は、外輪内周側端面61よりも軸方向内側に凹んで形成される。その他の構成は、前述した
図1に示す第1実施例の絶縁軸受100と同様である。
【0044】
上記構成の絶縁軸受300によれば、外輪内周側端面61の軸方向幅B2が外輪外周側端面31の軸方向幅B1と等しいため、外輪13の軸方向端面25A,25Bの段差が小さくなり、絶縁層27が剥がれにくくなる。また、絶縁層27が外輪13の少なくとも外輪外周面23、外輪外周側端面31、及び外輪環状凹溝37を覆って形成されるため、外輪外周面23の外側に存在する図示しないハウジングや軸に対し、沿面放電による破壊電圧の低下を防止できる。
【実施例】
【0045】
次に、外輪環状凹溝が軸方向端面に形成された上述の第1実施例の外輪に、絶縁層を溶射して形成した結果と、比較のため、外輪環状凹溝のない外輪に、絶縁層を溶射して形成した結果について説明する。ここでは、上記2種類の外輪のサンプルをマイクロスコープで拡大観察した。
【0046】
図13は外輪環状凹溝が軸方向端面に形成された外輪に、絶縁層を溶着した本発明品を実際に撮影した写真を示す模式図である。外輪13の表面には、下記L1〜L6で示す十分な厚さの絶縁層27が形成されている。特に外輪環状凹溝37に形成される絶縁層27の厚さL1は、径方向に略平坦な外輪外周側端面31に形成される絶縁層27の厚さL6よりも厚く、最小の厚さL3でも240μm以上の厚さを有している。
【0047】
L1=599.29μm
L2=256.38μm
L3=246.73μm
L4=369.50μm
L5=479.07μm
L6=407.72μm
【0048】
図14は外輪環状凹溝がないが、段差がある端面を有する外輪に絶縁層を溶着した参考例の概略断面図である。この場合の外輪13の表面には、絶縁層27が十分に施されていない。各部P1〜P4の状態は下記の通りである。また、絶縁層27の厚さは、外輪外周側端面31に比べ、図中左側の内径側の膜厚が薄くなっている。軸受外輪両端面(概ねP1〜P3の領域)における絶縁層の厚さは概ね5μm以下であり、最も薄い所では0μmに近い極薄い被膜しか形成されなかった。
【0049】
P1:極薄い皮膜
P2:被膜が見られない
P3:薄い皮膜
P4:被膜形成あり
【0050】
図13と
図14に示す外輪のサンプルに対して、電圧破壊試験を行った。その結果、
図14に示す外輪のサンプルは、
図13に示す外輪のサンプルの70%程度で、沿面放電により放電を起こし、絶縁層の機能を十分に発揮していないことが分かった。
【0051】
次に、絶縁層の被膜の薄い箇所が、被膜の厚い箇所より被膜が破壊しやすく、絶縁性能が低くなることを試験により検証した。
<試験方法>
・形状とサイズが同じで、且つ同じ溶射条件で被膜された2つの軸受を用意する。
・一方の軸受を縦断して、軸受に絶縁層が被膜された状態を観察し、被膜が最も薄い場所を特定する。
・他方の軸受をハウジングに入れ、直流電圧を印加する。そして、被膜の破壊が始まるまで印加電圧を徐々に増加させる。被膜の破壊により絶縁破壊した部位及び絶縁破壊した電圧値を確認する。
【0052】
<試験結果>
印加電圧を、DC1.54kVまで増加させると、他方の軸受がハウジングからの放電により破壊したことを確認した。
この破壊した部位の被膜状態を、一方の軸受を利用して検証した。その結果、破壊した部位は、被膜が最も薄い部位であることが分かった。
破壊部以外の部位(被膜の比較的厚い箇所)においては、印加電圧がDC1.54kVにおいても被膜の破損は確認されなかった。
【0053】
このときの一方の軸受の縦断面を拡大した顕微鏡写真を
図15、他方の軸受の対応する箇所を示す顕微鏡写真を
図16Aに示す。
【0054】
図15、
図16Aにおいては、溶射方向に垂直な方向を180°として示している。
図15に示すように、180°の傾斜面の膜厚を100%とすると、溝壁面の140°の傾斜面では78%、120°の傾斜面では50%、105°の傾斜面では33%の膜厚となっていた。
図16A,
図16Bに示すように、絶縁破壊が生じた場所Paは、最も膜厚の薄い105°の傾斜面であった。
【0055】
よって、傾斜角度の小さい(なだらかな)傾斜面の膜厚は厚くなり、絶縁性が良好となる。一方、傾斜角度の大きい(急勾配な)傾斜面の膜厚は薄くなり、絶縁破壊強度が低下することが検証できた。
【0056】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0057】
例えば、上述した各構成の絶縁軸受は、深溝玉軸受として説明しているが、これに限らず、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受、アンギュラ玉軸受等の種々の軸受に広く適用することができる。
【0058】
本出願は2016年4月12日出願の日本国特許出願(特願2016−79592)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。