(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記信号検出部が検出した電気信号の大きさに基づいて、前記線状圧電素子に印加された応力の大きさを計算する応力計算部をさらに備える、請求項1に記載の圧電センサ。
前記信号検出部が検出した電気信号の大きさに基づいて、前記線状圧電素子に印加された応力の大きさを計算する応力計算部をさらに備える、請求項4に記載の圧電センサ。
前記信号検出ステップにおいて検出した電気信号の大きさに基づいて、前記線状圧電素子に印加された応力の大きさを計算する応力計算ステップをさらに備える、請求項7に記載の衝突検知方法。
前記信号検出ステップにおいて検出した電気信号の大きさに基づいて、前記線状圧電素子に印加された応力の大きさを計算する応力計算ステップをさらに備える、請求項10に記載の衝突検知方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下図面を参照して、圧電センサ及び衝突検知方法について説明する。各図面において、同様の部材には同様の参照符号が付けられている。また、異なる図面において同じ参照符号が付されたものは同じ機能を有する構成要素であることを意味するものとする。なお、理解を容易にするために、これらの図面は縮尺を適宜変更している。
【0018】
(圧電センサの基本構成)
図1は、一実施形態に係る圧電センサの基本構成を示す模式図である。圧電センサ1000は、線状圧電素子101と、信号検出部102と、超過判定部103と、タイミング記録部104と、領域特定部105と、を備える。また、オプションとして、圧電センサ1000は、信号検出部102が検出した電気信号の大きさに基づいて、線状圧電素子101に印加された応力の大きさを計算する応力計算部106を備える。
【0019】
線状圧電素子101は、印加された応力に応じて電気信号が発生するものである。被測定体に応力(衝撃)が印加されると(線状圧電素子101に応力が直接に印加される場合も含む)と、線状圧電素子101に伸長による変形が生じる。この伸長変形により、線状圧電素子101に電気信号が発生する。衝突の測定対象である被測定体の近傍に、少なくとも2本の線状圧電素子101が配置される。これら少なくとも2本の線状圧電素子101は、どのように配置してもよく、例えば略十字状に交差するように配置してもよく、互いに間隔を置いて配置してもよい。線状圧電素子101を構成する素材および配置の具体例については後述する。圧電センサのセンサ部分を構成する線状圧電素子は柔軟性に富むので、被測定体の形状に合わせて設置することが容易であり、様々な被測定体に対する衝突センサや応力検知センサとして利用可能である。
【0020】
ここでは、本実施形態による圧電センサで用いられる、伸長により電気信号が発生する線状圧電素子101の電気的特性について
図2及び
図3を参照して説明する。
図2は、本実施形態で用いられる線状圧電素子の変形速度を説明する図である。本実施形態では、線状圧電素子101として、その長さや伸長が発生する位置にかかわらず、伸長による変形速度が一定のものを用いる。
図2に示すように、本実施形態で用いられる線状圧電素子101を長短2本用意し、それぞれについて、一定距離間をチャックにて把持し、コネクタ121を介して信号検出部102に接続し、被測定体を線方向に伸長を加えてそのときに発生する信号強度(電流値)を測定する実験を行った。
図3は、
図2に示す線状圧電素子の伸長による変形と信号強度との関係を示す図であり、(A)は変形速度と信号強度(電流値)との関係を示し、(B)は変形部分の位置と信号強度(電流値)との関係を示す。本実施形態で用いられる線状圧電素子101は、
図3(A)に示すように線状圧電素子101の伸び変形速度と信号強度(電流値)とは比例し、
図3(B)に示すように伸長変形が発生する位置(コネクタ21からの距離で表す)に関わらず信号強度(電流値)はほぼ一定である。このように、本実施形態では、線状圧電素子101として、その長さや伸長が発生する位置にかかわらず、伸長による変形速度に対する信号強度が一定のものを用いるのが好ましい。なお、線状圧電素子101の伸長時に発生する電気信号と線状圧電素子101の圧縮時に発生する電気信号とでは極性(正負)が反転する。また、線状圧電素子101を、伸長による変形速度に対する信号強度が一定のものではないもので実現してもよく、この場合は、当該線状圧電素子についての伸長に応じた変形速度と信号強度との関係を予め測定しておき、この測定結果に基づき各位置における伸長の具合に応じた変形速度を一定の信号強度に換算して出力する事前補正演算部を、超過演算部103の前段に設ければよい。
【0021】
説明を
図1に戻すと、信号検出部102は、各線状圧電素子101で発生した電気信号を検出するものである。信号検出部102は、各線状圧電素子で発生した電気信号の大きさとして、例えば電流値や電圧値などを検出する。なお、線状圧電素子101と信号検出部102とは直接に接続してもよいが、信号強度を増幅するアンプやフィルタなど(図示せず)を介して接続してもよい。また例えば、各線状圧電素子で発生した電気信号の大きさとして、電流値や電圧値などのような信号強度そのものでなく、これらの値の微分値やその他演算値を用いてもよい。例えば微分値であれば急激な電気信号の変化を精度よく取得することができたり、積分値であれば変形の大きさに基づく解析ができる。さらには、周波数解析によって各線状圧電素子101または各線状圧電素子101が組み込まれた被測定体および/または被測定体の固定された物体の損傷あるいは劣化の状態に関する情報を得ることも可能である。例えば、被測定体の一部が欠損した場合には固有周波数が変化したり、被測定体の内部剥離や損傷が生じた場合には正常時にはみられない周波数成分がみられたりする場合がある。もちろん、機械学習のような手法により各線状圧電素子101または各線状圧電素子101が組み込まれた被測定体事象や状態などと各線状圧電素子101の出力波形との関係性を見つけ出してもよい。
【0022】
超過判定部103は、信号検出部102が検出した電気信号の大きさが所定の閾値を超過したか否かを線状圧電素子101ごとに判定し、タイミング記録部104は、超過判定部103により電気信号の大きさが所定の閾値を超過したと判定されたときの線状圧電素子101の超過のタイミングを記録する。タイミング記録部104により記録される線状圧電素子101の超過のタイミングは、メモリ(図示せず)に格納される。
【0023】
例えば信号検出部102を各線状圧電素子101で発生した電気信号の大きさとして電流値を検出するものとした場合、超過判定部103は、信号検出部が検出した電流値が所定の閾値を超過したか否かを、線状圧電素子ごとに判定し、タイミング記録部104は、超過判定部103により電気信号の大きさが所定の閾値を超過したと判定されたときの線状圧電素子101のタイミングを記録する。
【0024】
なお、タイミング記録部104は、超過判定部103により電気信号の大きさが所定の閾値を超過したと判定されたときに記録する線状圧電素子101のタイミングとして、各線状圧電素子101の超過順を記録してもよい。またあるいは、タイミング記録部104が記録する線状圧電素子101のタイミングとして、超過判定部103により電気信号の大きさが所定の閾値を超過したと判定される線状圧電素子101の時間差を記録してもよい。
【0025】
ここで、タイミング記録部104が記録する各線状圧電素子101の超過のタイミングとして超過順を記録するものの例について、より具体的に説明する。
【0026】
図4は、本実施形態におけるタイミング記録部による超過のタイミングの記録について説明する図である。
図4において、横軸は時間[s]を示し、縦軸は信号検出部102により検出される線状圧電素子101で発生する電気信号の大きさを示す。4本の線状圧電素子101(
図4において、CH1、CH2、CH3及びCH4で表す。)が配置された被測定体に、時刻t
1のときに応力を印加した場合を考える。
図4では、応力の印加された位置と線状圧電素子101との間の距離が、CH1、CH2、CH3、CH4の順に長くなると仮定する。応力の印加された位置と各線状圧電素子101の間の距離はそれぞれ相違するが、その相違は、線状圧電素子101で発生する電気信号の波形に現れる。応力の印加された位置と各線状圧電素子101の間の距離が遠いほど、変形が伝搬するのに時間がかかり、また変形の最大値も小さくなる傾向がある。
図4に示す例では、時刻t
1で応力を印加したとき、時刻t
2でCH1の線状圧電素子101の電気信号が所定の閾値を超過し、時刻t
3でCH2の線状圧電素子101の電気信号が所定の閾値を超過し、時刻t
4でCH3の線状圧電素子101の電気信号が所定の閾値を超過し、時刻t
5でCH4の線状圧電素子101の電気信号が所定の閾値を超過する。よって、タイミング記録部104は線状圧電素子101の超過順として、「CH1、CH2、CH3、CH4」を記録する。
図4での説明においては所定の閾値を4本の線状圧電素子からの信号で同じ閾値としたが、各線状圧電素子101毎に閾値を個別に設定してもよいし、あるいは、時間や状態に依存して閾値を変化させてもよい。
【0027】
再び説明を
図1に戻すと、領域特定部105は、タイミング記録部104に記録された線状圧電素子の超過のタイミングに基づいて、被測定体上における応力が印加された領域を特定する。
【0028】
タイミング記録部104が記録する各線状圧電素子101の超過のタイミングとして超過順を記録する場合、領域特定部105は、タイミング記録部104に記録された線状圧電素子101の超過順に基づいて、被測定体上における応力が印加された領域を特定する。この場合、領域特定部105は、例えばその内部に、境界線規定部111及び領域確定部112を有する。この変形例として、境界線規定部111を領域特定部105内に設けずに、事前に決まった境界線が外部から領域特定部105に与えられていてもよい。また、伝搬速度が均一でないものやセンサの配置が複雑な場合は、その使い方の位置精度の必要性から適宜決めてもよい。
【0029】
境界線規定部111は、タイミング記録部104に記録された線状圧電素子101の超過順に基づき、超過したと判定された線状圧電素子101と、当該線状圧電素子101の超過の次に超過したと判定された線状圧電素子101と、から等距離にある点の集合を境界線として規定する。
【0030】
領域確定部112は、境界線規定部111によって規定された境界線を有しかつ一番最初に超過したと判定された線状圧電素子101を含む領域を、応力が印加された領域として確定する。境界線規定部111及び領域確定部112による領域確定の具体例については後述する。
【0031】
図5は、
図1の圧電センサによる衝突検知方法の動作フローを示すフローチャートである。まず、ステップS201において、信号検出部102は、被測定体近傍において互いに間隔を置いて配置された少なくとも2本の線状圧電素子101に対して応力が印加されることで発生した電気信号を、線状圧電素子101ごとに検出する。次いで、ステップS202において、超過判定部103は、信号検出部102が検出した電気信号の大きさが所定の閾値を超過したか否かを、線状圧電素子101ごとに判定する。次いで、ステップS203において、タイミング記録部104は、電気信号の大きさが所定の閾値を超過したと判定されたときの線状圧電素子のタイミングを記録する。次いで、ステップS204において、タイミング記録部104において記録された線状圧電素子101のタイミングに基づいて、被測定体上における応力が印加された領域を特定する。なお、オプションとして、圧電センサ1000が応力計算部106を備える場合は、信号検出部102が検出した電気信号の大きさに基づいて線状圧電素子101に印加された応力の大きさを計算する応力計算処理が、ステップS204における領域特定部による領域特定処理が完了した段階で、被測定体上における応力が印加された領域に対して実行される。
【0032】
特に、タイミング記録部104が記録する線状圧電素子101のタイミングを超過順にした場合、領域を特定するステップS204は、ステップS204−1及びステップS204−2を有する。ステップS204−1では、境界線規定部111は、タイミング記録部104に記録された線状圧電素子101の超過順に基づき、超過したと判定された線状圧電素子101と、当該線状圧電素子101の超過の次に超過したと判定された線状圧電素子101と、から等距離にある点の集合を境界線として規定する。ステップS204−2では、領域確定部112は、境界線規定部111によって規定された境界線を有しかつ一番最初に超過したと判定された線状圧電素子101を含む領域を、応力が印加された領域として確定する。
【0033】
続いて、タイミング記録部104が記録する線状圧電素子101のタイミングを超過順にした場合、境界線規定部111及び領域確定部112による領域確定の具体例について説明する。
【0034】
図6は、本実施形態において、縦横それぞれ5本の線状圧電素子を等間隔に配置した場合における、応力が印加された領域の特定について説明する図である。
図6において、横方向に5本の線状圧電素子101(CH1、CH2、CH3、CH4及びCH5で表す。)が間隔aで並んで配置され、これに直交して、縦方向に5本の線状圧電素子101(CH6、CH7、CH8、CH9及びCH10で表す。)が間隔aで並んで配置される。このように間隔aで線状圧電素子101を配置した場合、単位面積当たりの線状圧電素子101の本数は「2/a」である。
図6において、応力が印加された位置(例えば物体が衝突した被測定体上の位置)を星印「☆」で表し、等間隔に直交する合計10本の線状圧電素子101にてこの位置「☆」を含む領域を特定する場合について説明する。応力の印加による変形の伝搬速度はほぼ均一であるとする。
【0035】
星印「☆」の位置に応力が印加されると、この位置から変形が徐々に伝搬していき、
図6(A)に示すように星印「☆」に1番目に近い位置にあるCH8の線状圧電素子101について、その電気信号(CH8の線状圧電素子101にて発生した電気信号)が所定の閾値を超過したと判定される。以下、説明を簡明なものとするために、「線状圧電素子101にて発生した電気信号が所定の閾値を超過したと判定される」ことを、「線状圧電素子101が変形を検知した」と言い換える。
【0036】
図6(A)に示すように、CH6、CH7、CH8、CH9、CH10の5本の線状圧電素子101のうちCH8の線状圧電素子101が1番目に変形を検知することにより、CH8の線状圧電素子101から等距離にある点の集合を境界線H
11及びH
12とし、境界線H
11と境界線H
12とで囲まれかつ1番目に変形を検知したCH8の線状圧電素子101を含む領域内に、応力が印加された位置「☆」が含まれることが分かる。CH8の線状圧電素子101に変形検知に続き、CH1、CH2、CH3、CH4、CH5の5本の線状圧電素子101のうち星印「☆」に1番目に近い位置にあるCH3の線状圧電素子101が変形を検知する。これにより、CH3の線状圧電素子101から等距離にある点の集合を境界線H
21及びH
22とし、境界線H
21と境界線H
22とで囲まれかつ2番目に変形を検知したCH3の線状圧電素子101を含む領域内に、応力が印加された位置「☆」が含まれることが分かる。よって、
図6(A)に示すように、1番目に変形を検知したCH8の線状圧電素子101により特定された領域(境界線H
11と境界線H
12とで囲まれかつ1番目に変形を検知したCH8の線状圧電素子101を含む領域)と2番目に変形を検知したCH3の線状圧電素子101により特定された領域(境界線H
21と境界線H
22とで囲まれかつ2番目に変形を検知したCH3の線状圧電素子101を含む領域)とが重なる領域である「境界線H
11と境界線H
12と境界線H
21と境界線H
22とで囲まれる領域」が、応力が印加された位置「☆」を含む領域であると特定される。よって、CH8の線状圧電素子101とCH3の線状圧電素子101とで、検知順を考慮しないで位置特定できる領域の面積は「a
2」である。
【0037】
また、CH8の線状圧電素子101の方がCH3の線状圧電素子101よりも先に変形を検知しているが、この線状圧電素子101の変形の検知順(換言すれば、所定の閾値を超過した順)は、応力が印加された位置「☆」は、「領域CH8の線状圧電素子101の方がCH3の線状圧電素子101よりも近い」ということを意味している。したがって、この線状圧電素子101の変形の検知順(すなわち、所定の閾値を超過した順)を考慮すると、応力が印加された位置「☆」をさらに特定(限定)することができる。すなわち、
図6(B)に示すように、「境界線H
11と境界線H
12と境界線H
21と境界線H
22とで囲まれる領域」のうち、1番目に変形を検知したCH8の線状圧電素子101と2番目に変形を検知したCH3の線状圧電素子101とから等距離にある点の集合を境界線(H
31及びH
32で表す。)としかつ1番目に変形を検知したCH8の線状圧電素子101を含む領域が、応力が印加された位置「☆」を含む領域(
図6(B)において濃く色付けされた領域)であると特定される。よって、1番目に変形を検知したCH8の線状圧電素子101と2番目に変形を検知したCH3の線状圧電素子101とで位置特定できる領域の面積は「0.5×a
2」である。
【0038】
星印「☆」の位置に応力が印加されてからさらに時間が経過すると、
図6(C)に示すように、CH3の線状圧電素子101に変形検知に続き、星印「☆」に3番目に近い位置にあるCH4の線状圧電素子101が変形を検知する。これにより、
図6(B)において特定された領域のうち、3番目に変形を検知したCH4の線状圧電素子101に近い側の領域(
図6(C)において同心円が描かれている側の領域)内に、応力が印加された位置「☆」が含まれることが特定される。よって、1番目に変形を検知したCH8の線状圧電素子101と2番目に変形を検知したCH3の線状圧電素子101と3番目に変形を検知したCH4の線状圧電素子101とで位置特定できる領域の面積は「0.25×a
2」である。
【0039】
図6(C)の状態からさらに時間が経過すると、
図6(D)に示すように、CH4の線状圧電素子101に変形検知に続き、星印「☆」に4番目に近い位置にあるCH7の線状圧電素子101が変形を検知する。これにより、
図6(C)において特定された領域のうち、4番目に変形を検知したCH7の線状圧電素子101に近い側の領域(
図6(D)において同心円が描かれている側の領域)内に、応力が印加された位置「☆」が含まれることが特定される。よって、1番目に変形を検知したCH8の線状圧電素子101と2番目に変形を検知したCH3の線状圧電素子101と3番目に変形を検知したCH4の線状圧電素子101と4番目に変形を検知したCH7の線状圧電素子101とで位置特定できる領域の面積は「0.125×a
2」である。
【0040】
図6(D)の状態以降も、線状圧電素子101が変形を検知し得る限りにおいて、応力が印加された位置「☆」が含まれる領域を徐々に狭めていくことができる。線状圧電素子101の配置間隔が短いほど、あるいは線状圧電素子101の本数が多いほど、応力が印加された位置「☆」の特定精度が向上する。
【0041】
続いて、本実施形態の圧電センサと従来の点センサとの配置個数について比較検討する。ここでいう点センサとは、当該点の振動を検知するセンサを意味し、線に平行な位置を変形検知領域とする線状センサ(ラインセンサ)とは異なるものである。
【0042】
図7は、従来の点センサを等間隔に格子状に配置し、応力が印加された領域を特定する例について説明する図である。
図7において点センサは「黒い円」で表しており、点センサは間隔aで格子状に等間隔で配置されている。このような配置の場合、単位面積当たりの点センサの個数は「1/a
2」である。
【0043】
図7(A)に示すように、星印「☆」の位置に応力が印加されたとき、
図7(B)に示すように、星印「☆」に1番目に近い位置にある点センサA
1が変形を検知する。よって、1番目に変形を検知した点センサA
1で位置特定できる領域の面積は「a
2」である。さらに時間が経過すると、
図7(C)に示すように、星印「☆」に2番目に近い位置にある点センサA
2が振動を検知する。よって、1番目に振動を検知した点センサA
1と2番目に近い位置にある点センサA
2とで位置特定できる領域の面積は「0.25×a
2」である。さらに時間が経過すると、
図7(D)に示すように、星印「☆」に3番目に近い位置にある点センサA
3が振動を検知する。よって、1番目に振動を検知した点センサA
1と2番目に近い位置にある点センサA
2と3番目に近い位置にある点センサA
3とで位置特定できる領域の面積は「0.125×a
2」である。
【0044】
図8は、従来の点センサを、
図7の場合よりもさらに密(最密)に等間隔に格子状に配置し、応力が印加された領域を特定する例について説明する図である。
図8において点センサは「黒い円」で表しており、点センサは間隔aで格子状に等間隔で配置されている。このような配置の場合、単位面積当たりの線状圧電素子101の本数は「(2/√3)×a
2」の「約1.15×a
2」である。
【0045】
図8(A)に示すように、星印「☆」の位置に応力が印加されたとき、
図8(B)に示すように、星印「☆」に1番目に近い位置にある点センサB
1が振動を検知する。よって、1番目に振動を検知した点センサB
1で位置特定できる領域の面積は「(√3/2)×a
2」の「約0.87×a
2」である。さらに時間が経過すると、
図8(C)に示すように、星印「☆」に2番目に近い位置にある点センサB
2が振動を検知する。よって、1番目に振動を検知した点センサB
1と2番目に近い位置にある点センサB
2とで位置特定できる領域の面積は「(√3/12)×a
2」の「約0.14×a
2」である。さらに時間が経過すると、
図8(D)に示すように、星印「☆」に3番目に近い位置にある点センサB
3が振動を検知する。よって、1番目に振動を検知した点センサB
1と2番目に近い位置にある点センサB
2と3番目に近い位置にある点センサB
3とで位置特定できる領域の面積は「(√3/24)×a
2」の「約0.07×a
2」である。
【0046】
図9は、
図6〜
図8を用いて説明した本実施形態の圧電センサと従来の点センサとの配置個数を比較した図である。
図9において、横軸はセンサ間隔に対する測定幅の割合を示し、縦軸は位置特定に必要なセンサの個数を示す。また、
図10は、
図6〜
図8を用いて説明した本実施形態の圧電センサと従来の点センサとについて配置個数及び特定可能面積を比較した図である。
図9及び
図10から分かるように、本実施形態の圧電センサは、従来の点センサの場よりも、単位面積当たりのセンサの配置個数を低減することができ、応力が印加された位置を少ないセンサの個数で特定することができることが分かる。
【0047】
続いて、本実施形態において、縦横それぞれ4本の線状圧電素子を等間隔に配置した場合における、応力が印加された領域の特定の実験結果について、
図11〜
図18を参照して説明する。
図11〜
図14は縦横それぞれ4本の線状圧電素子を格子状に等間隔に配置した実験に関するものであり、
図15〜
図18は7本の線状圧電素子のうち2本をコの字形に配置した実験に関するものである。被測定体は炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とし、そのサイズを1000mm×1000mm×5mmとした。また、被測定体を固定する台の枠内サイズを910mm×910mmとした。また、被測定体と線状圧電素子101との固定には粘着テープを用いた。
【0048】
図11は、本実施形態において、縦横それぞれ4本の線状圧電素子を格子状に等間隔に配置した圧電センサの実際の写真を示す図であり、(A)は被測定体の外観(表面)を示し、(B)は被測定体の裏面を示す。炭素繊維強化プラスチックからなる被測定体の、
図11(A)において太い点線で示される位置の裏側に、
図11(B)に示すようにCH1〜CH8の線状圧電素子101が長さ880mmの粘着テープにより固定される。各線状圧電素子101は長さ880mmであり、線状圧電素子101の配置間隔は180mmとした。
【0049】
図12は、
図11に示す圧電センサが固定された被測定体に対し鉄球を落下させたときの各線状圧電素子で発生する電気信号の電圧値の一例を示す図である。
図12において、横軸は時間[s]を示し、縦軸は各線状圧電素子101で発生する電気信号の電圧値を示す。
【0050】
図13は、
図11に示す圧電センサが固定された被測定体に対し、様々な位置に鉄球を落下させたときの領域の特定結果示す図である。
図13において、応力が印加された位置を黒丸で表す。また、
図13において、太い実線は縦方向に並んで配置されたCH1〜CH4の線状圧電素子101の反応時間(すなわち鉄球が落下してから線状圧電素子101が変形を検知するまでの時間)を模式的に示したものであり、この太い実線が横軸に対して上側にあるほど反応時間が短いことを示している。これと同様に、太い破線にて、横方向に並んで配置されたCH5〜CH8の線状圧電素子101の反応時間(すなわち鉄球が落下してから線状圧電素子101が変形を検知するまでの時間)を模式的に示しており、この太い破線が縦軸に対して右側にあるほど反応時間が短いことを示している。
図13(A)〜
図13(E)に示すように、本実施形態において、被測定体に対してどのような位置に鉄球が落下して応力が印加されても、鉄球の落下位置と、鉄球が落下してから線状圧電素子101が変形を検知するまでの時間とに相関関係があることが分かる。このことは、鉄球が落下してから線状圧電素子101が変形を検知するまでの時間を、CH1〜CH8の線状圧電素子101ごとに検出し、その検知順(換言すれば、所定の閾値を超過した順))に基づいて、応力が印加された領域を特定する本実施形態の有効性が示すものである。CH1〜CH8の線状圧電素子101の変形の検知順に代えて、応力が印加されてから電気信号の大きさが所定の閾値を超過したと判定される線状圧電素子101の時間差の短い順に基づいても、同様に応力が印加された領域を特定することができる。
【0051】
図14は、
図11に示す圧電センサが固定された被測定体に対し、様々な位置に鉄球を落下させたときの領域で検知される応力の大きさの測定結果を示す図であり、
図14(A)は縦方向に並んで配置されたCH1〜CH4の線状圧電素子にて検出される衝突エネルギーを示し、
図14(B)は横方向に並んで配置されたCH5〜CH8の線状圧電素子にて検出される衝突エネルギーを示す。これら衝突エネルギーについては、鉄球の重量と衝突時の鉄球速度とに基づいて算出した。
図14(A)及び
図14(B)から分かるように、応力の印加により発生する線状圧電素子101の電気信号の大きさは、各線状圧電素子101で変形を検知できる領域で検知される衝突エネルギーに比例することが分かる。よって、本実施形態によれば、応力計算部106にて、電気信号の大きさに基づいて線状圧電素子101に印加された応力の大きさを計算することができる。
【0052】
図15は、本実施形態において、7本の線状圧電素子のうち2本をコの字形に配置した圧電センサの実際の写真を示す図であり、
図15(A)は被測定体の外観(表面)を示し、
図15(B)は被測定体の裏面を示す。また、
図16は、
図15の被測定体上における圧電センサの配置位置を示す図である。炭素繊維強化プラスチックからなる被測定体の、
図15(A)において太い点線で示される位置の裏側に、
図15(B)に示すようにCH1〜CH8の線状圧電素子101が粘着テープにより固定される。各線状圧電素子101は長さ880mmであり、線状圧電素子101の配置間隔は180mmとした。
図15(A)及び
図15(B)に示すように、領域Mの部分についてより正確に領域特定できるようにすることを意図して、CH2及びCH3の線状圧電素子101をコの字形に配置した。
【0053】
図17は、
図15に示す圧電センサが固定された被測定体に対し鉄球を落下させたときの各線状圧電素子で発生する電気信号の電圧値の一例を示す図である。
図17において、横軸は時間[s]を示し、縦軸は各線状圧電素子101で発生する電気信号の電圧値を示す。
【0054】
図18は、
図15に示す圧電センサが固定された被測定体に対し、様々な位置に鉄球を落下させたときの領域の特定結果を示す図である。
図18において、応力が印加された位置を黒丸で表す。また、
図18において、太い実線は1番目に変形を検知した線状圧電素子101を示し、太い破線は2番目に変形を検知した線状圧電素子101を示し、太い1点鎖線は3番目に変形を検知した線状圧電素子101を示し、太い2点鎖線は4番目に変形を検知した線状圧電素子101を示した。
図18(A)及び
図18(B)に示すように、本実施形態において、線状圧電素子101を折り曲げて配置しても、鉄球が落下した位置から近い順に、線状圧電素子101は変形を検知できていることが分かる。このことは、線状圧電素子101をどのような形状に配置しても、変形の検知順(換言すれば、所定の閾値を超過した順))に基づいて、応力が印加された領域を特定することができることを示している。
【0055】
本実施形態に係る圧電センサ1000により検出できる被測定体の形態は限定されない。被測定体の平面状に線状圧電素子を配置し、応力が印加される領域を特定する例について説明したが、本実施形態に係る圧電センサ1000は、非平面(例えば曲面)における応力の印加領域についても特定することができる。
図19は、被測定体の非平面上における線状圧電素子の配置例を示す図である。図示の例では、被測定体が円筒形状を有し、この被測定体の曲面上にCH4〜CH6の3本の線状圧電素子101が配置されている。線状圧電素子101には
図1等を用いて参照した信号検出部102、超過判定部103、タイミング記録部104及び領域特定部105が接続され(これらについては
図19では図示を省略している)、既に説明した動作原理にて応力が印加される領域を特定することができる。また、オプションとして応力計算部106を接続してもよく(
図19では図示を省略している)、電気信号の大きさに基づいて線状圧電素子101に印加された応力の大きさを計算することもできる。
【0056】
上述の実施形態では、被測定体近傍上において応力が印加される領域を特定するために、被測定体近傍に少なくとも2本の線状圧電素子を配置し、各線状圧電素子についての電気信号が閾値を超過するタイミングに基づいて、被測定体上における応力が印加された領域を特定したが、この変形例として、電気信号の大きさ(信号強度)の大小によって被測定体上における応力が印加された領域を特定してもよい。
【0057】
またさらに、各線状圧電素子から出力される電気信号を入力した機械学習技術(人工知能技術:AI)を用いて、学習済みモデルを作成し、この学習済モデルに基づき被測定体の状態を観測、予測してもよい。また、本態様の圧電センサはいわゆるIoTデバイスとして利用できるので、例えば店舗や施設に設置し、これから得られる経時データと例えば気温、湿度、天候、天気予報等の気象データとの関係性に関する学習済みモデルを機械学習により作成し、この学習済みモデルに基づいて最新の気象予測から、店舗、施設の混雑度合を予測、適正な人員配置計画をたてる、といったことも可能である。また例えば、輸送分野においても、例えば複数の車両に本態様の圧電センサを設置し、これら得られる経時データと例えば車両の走行経路データとの関係性に関する学習済みモデルを機械学習により作成しておき、この学習済みモデルに基づいて、例えば実際の走行前にカーナビゲーションでの経路設定時に圧力検知が少ないルート、すなわち衝突の可能性が低く、道路も滑らかで走行しやすい経路として優先的に提示する、といったことも可能である。
【0058】
また、上述の実施形態では、被測定体近傍上において応力が印加される領域を特定するために、被測定体近傍に少なくとも2本の線状圧電素子を配置したが、単に被測定体に応力が印加されたこと自体を検知したり、あるいは単に被測定体に印加される応力の大きさを検知するのみであれば、被測定体近傍に少なくとも1本の線状圧電素子を配置することで足りる。
図20は、さらなる実施形態に係る圧電センサの基本構成を示す模式図である。
【0059】
図20に示すさらなる実施形態では、圧力センサ1000を、被測定体に応力が印加されたこと自体を検知するもの、あるいは単に被測定体に印加される応力の大きさを検知するものとして構成する。圧電センサ1000は、線状圧電素子101と、信号検出部102と、印加判定部107と、応力計算部106と、を備える。
【0060】
線状圧電素子101は、既に説明した通り、印加された応力に応じて電気信号が発生するものである。被測定体に応力(衝撃)が印加されると(線状圧電素子101に応力が直接に印加される場合も含む)と、線状圧電素子101に伸長による変形が生じる。この伸長変形により、線状圧電素子101に電気信号が発生する。衝突の測定対象である被測定体の近傍に、少なくとも1本の線状圧電素子101が配置される。
図20に示す例では、線状圧電素子101を1本としている。線状圧電素子101は、被測定体の近傍であればどのように配置してもよい。線状圧電素子101を構成する素材および配置の具体例については前述及び後述の通りである。圧電センサのセンサ部分を構成する線状圧電素子は柔軟性に富むので、被測定体の形状に合わせて設置することが容易であり、様々な被測定体に対する衝突センサや応力検知センサとして利用可能である。
【0061】
信号検出部102は、線状圧電素子101で発生した電気信号を検出するものである。信号検出部102は、線状圧電素子で発生した電気信号の大きさとして、例えば電流値や電圧値などを検出する。なお、線状圧電素子101と信号検出部102とは直接に接続してもよいが、信号強度を増幅するアンプやフィルタなど(図示せず)を介して接続してもよい。また例えば、線状圧電素子で発生した電気信号の大きさとして、電流値や電圧値などのような信号強度そのものでなく、これらの値の微分値やその他演算値を用いてもよい。例えば微分値であれば急激な電気信号の変化を精度よく取得することができたり、積分値であれば変形の大きさに基づく解析ができる。
【0062】
超過判定部103は、信号検出部102が検出した電気信号の大きさが所定の閾値を超過したか否かを判定する。超過判定部103による判定結果は印加判定部107に送られる。例えば信号検出部102を線状圧電素子101で発生した電気信号の大きさとして電流値を検出するものとした場合、超過判定部103は、信号検出部が検出した電流値が所定の閾値を超過したか否かを判定する。
【0063】
印加判定部107は、超過判定部103により電気信号の大きさが閾値を超過したと判定されたとき、線状圧電素子101が近傍に配置された被測定体に対して、応力が印加されたと判定する。このとき、印加判定部107は、線状圧電素子101が近傍に配置された被測定体に対して応力が印加された時刻を、メモリ(図示せず)に記録してもよい。また、印加判定部107は、超過判定部103により電気信号の大きさが閾値を超過していないと判定されたとき(超過判定部103により電気信号の大きさが閾値を超過したと判定されなかったとき)、線状圧電素子101が近傍に配置された被測定体に対して、応力は印加されていないと判定する。
【0064】
応力計算部106は、信号検出部102が検出した電気信号の大きさに基づいて、線状圧電素子101に印加された応力の大きさを計算する。
【0065】
図21は、
図20の圧電センサによる衝突検知方法の動作フローを示すフローチャートである。まず、ステップS301において、信号検出部102は、被測定体近傍において線状圧電素子101に対して応力が印加されることで発生した電気信号を検出する。次いで、ステップS302において、超過判定部103は、信号検出部102が検出した電気信号の大きさが所定の閾値を超過したか否かを判定する。ステップS302において電気信号の大きさが所定の閾値を超過したと判定された場合、ステップS303−1において、印加判定部107は、線状圧電素子101が近傍に配置された被測定体に対して、応力が印加されたと判定する。このとき、印加判定部107は、線状圧電素子101が近傍に配置された被測定体に対して応力が印加された時刻をメモリに記録してもよい。またさらに、
図21では図示していないが、ステップS303−1の後に、応力計算部106により、信号検出部102が検出した電気信号の大きさに基づいて線状圧電素子101に印加された応力の大きさを計算する応力計算処理が実行される。一方、ステップS302において電気信号の大きさが閾値を超過していないと判定されたとき(電気信号の大きさが閾値を超過したと判定されなかったとき)、印加判定部107は、線状圧電素子101が近傍に配置された被測定体に対して、応力は印加されていないと判定する。本変形例では閾値として1つの値が設定される場合を説明をしたが、閾値を複数設定し、電気信号で検出された信号の大きさから変形量を多段的に判定してもよい。
【0066】
(被測定体)
被測定体としては、その近傍に線状圧電素子を配置して、応力印加時に当該線状圧電素子から電気信号を取り出すことができる任意のあらゆる形状及び材質のものを使用することができる。例えば、平面だけでなく、非平面または一部に非平面部分を有する任意の形状のものを被測定体として使用することが可能である。なお、本発明の線状圧電素子を被測定体近傍に固定する方法としては、被測定体に印加された応力(衝撃)により線状圧電素子に変形が生じれば特に限定されるものではない。例えば、粘着テープや接着剤を介して直接固定する方法が挙げられ、固定する長さは適宜決められる。信号検出したい部分のすべてが固定されていてもよいし、その両端のみが固定されていてもよい。また、圧電センサは、線状圧電素子を用いた織物、編物であってもよい。また、圧電センサは、柔軟な平面状の被測定体に対して、線状圧電素子が刺繍によるか又は接着、貼り付けされて形成されてもよい。さらには、組紐を含む中空のチューブ状の圧電センサや袋状テープなどに内包させた圧電センサを被測定体に固定させてもよい。もちろんこれらの場合も固定する長さあるいは面積は適宜決めることができる。また、圧電センサを被測定体の表面に固定するだけではなく、本発明の目的を奏するならば被測定体の内部に圧電センサを固定してもよい。例えば、圧電センサを、熱硬化性樹脂、あるは成形温度が圧電素子を構成する材料の融解温度未満である熱可塑性樹脂内に埋め込んで被測定体と一体成型してもよい。この時、被測定体との接着性を向上させるために、組紐状圧電素子の最表層にもう一層鞘部を設けたり、コーティングする等した圧電センサを用いてもよい。
【0067】
(線状圧電素子)
本発明における線状圧電素子としては、印加された応力に応じて電気信号が発生する公知のあらゆるものを使用することができる。例えば、線状圧電素子としては、導電性繊維を芯糸としてその周りに圧電性繊維を配置した芯鞘構造を有する圧電素子を使用することができる。より具体的には、線状圧電素子としては、導電性繊維の周りに圧電性フィルムまたは圧電性繊維を単に巻きつけた圧電素子や、あるいは導電性繊維の周りに圧電性繊維を組紐状に巻きつけた組紐状圧電素子を使用することができる。中でも、本発明における線状圧電素子としては、伸長変形に対してより大きな電気信号を出力する圧電素子が好ましく、このような観点から、組紐状圧電素子がより好ましい。そこで、組紐状圧電素子について以下で詳しく説明する。
【0068】
(組紐状圧電素子)
図22は実施形態に係る組紐状圧電素子の構成例を示す模式図である。
組紐状圧電素子1は、導電性繊維Bで形成された芯部3と、芯部3を被覆するように組紐状の圧電性繊維Aで形成された鞘部2と、を備えている。
【0069】
組紐状圧電素子1では、少なくとも一本の導電性繊維Bの外周面を多数の圧電性繊維Aが緻密に取り巻いている。組紐状圧電素子1に変形が生じると、多数の圧電性繊維Aそれぞれに変形による応力が生じ、それにより多数の圧電性繊維Aそれぞれに電場が生じ(圧電効果)、その結果、導電性繊維Bを取り巻く多数の圧電性繊維Aの電場を重畳した電圧変化が導電性繊維Bに生じる。すなわち圧電性繊維Aの組紐状の鞘部2を用いない場合と比較して導電性繊維Bからの電気信号が増大する。それにより、組紐状圧電素子1では、比較的小さな変形で生じる応力によっても、大きな電気信号を取り出すことが可能となる。なお、導電性繊維Bは複数本であってもよい。
【0070】
組紐状圧電素子1は、その中心軸(
図22中のCL)方向への伸長変形に対して選択的に大きな電気信号を出力するものが好ましい。
【0071】
(伸長変形に対して選択的に大きな電気信号を出力する組紐状圧電素子)
中心軸方向への伸長変形に対して選択的に大きな電気信号を出力する組紐状圧電素子1としては、例えば、圧電性繊維Aとして、一軸配向した高分子の成型体であり、配向軸を3軸とした時の圧電定数d14の絶対値が0.1pC/N以上1000pC/N以下の値を有する結晶性高分子を主成分として含む圧電性高分子を使用することができる。本発明において「主成分として含む」とは、構成成分の50質量%以上を占めることを指す。また、本発明において結晶性高分子とは、1質量%以上の結晶部と、結晶部以外の非晶部とからなる高分子であり、結晶性高分子の質量とは結晶部と非晶部とを合計した質量である。なお、d14の値は成型条件や純度および測定雰囲気によって異なる値を示すが、本発明においては、実際に使用される圧電性高分子中の結晶性高分子の結晶化度および結晶配向度を測定し、それと同等の結晶化度および結晶配向度を有する1軸延伸フィルムを当該結晶性高分子を用いて作成し、そのフィルムのd14の絶対値が、実際に使用される温度において0.1pC/N以上1000pC/N以下の値を示せばよく、本実施形態の圧電性高分子に含まれる結晶性高分子としては、後述されるような特定の結晶性高分子には限定されない。フィルムサンプルのd14の測定は公知の様々な方法を取ることができるが、例えばフィルムサンプルの両面に金属を蒸着して電極としたサンプルを、延伸方向から45度傾いた方向に4辺を有する長方形に切り出し、その長尺方向に引張荷重をかけた時に両面の電極に発生する電荷を測定することで、d14の値を測定することができる。
【0072】
また、中心軸方向への伸長変形に対して選択的に大きな電気信号を出力する組紐状圧電素子1においては、中心軸の方向と圧電性高分子の配向方向とがなす角度(配向角度θ)は15°以上75°以下であることが好ましい。この条件を満たす時、組紐状圧電素子1に対し中心軸方向の伸長変形(引張応力および圧縮応力)を与えることで、圧電性高分子に含まれる結晶性高分子の圧電定数d14に対応する圧電効果を効率よく利用し、組紐状圧電素子1の中心軸側と外側とに効率的に逆極性(逆符号)の電荷を発生させることができる。かかる観点から、配向角度θは25°以上65°以下であることが好ましく、35°以上55°以下であることがより好ましく、40°以上50°以下であることがさらに好ましい。このように圧電性高分子を配置すると、圧電性高分子の配向方向はらせんを描くことになる。
【0073】
また、このように圧電性高分子を配置することで、組紐状圧電素子1の表面を擦るようなせん断変形や、中心軸を曲げるような曲げ変形や、中心軸を軸としたねじり変形に対しては組紐状圧電素子1の中心軸側と外側とには大きな電荷を発生させないようにする、即ち中心軸方向の伸長に対して選択的に大きな電荷を発生させる組紐状圧電素子1とすることができる。
【0074】
配向角度θは、可能な限り下記の方法で測定する。組紐状圧電素子1の側面写真を撮影し、圧電性高分子A’のらせんピッチHPを測定する。らせんピッチHPは
図23の通り、1本の圧電性高分子A’が表面から裏面を回って再び表面に来るまでに要した、中心軸方向の直線距離である。また、必要に応じて接着剤で構造を固定後に、組紐状圧電素子1の中心軸に垂直な断面を切り出して写真を撮影し、鞘部2が占める部分の外側半径Roおよび内側半径Riを測定する。断面の外縁および内縁が楕円形や扁平な円形の場合は、長径と短径の平均値をRoおよびRiとする。下記式から中心軸の方向に対する圧電性高分子の配向角度θを計算する。
θ = arctan(2πRm/HP) (0°≦θ≦90°)
ただしRm=2(Ro
3−Ri
3)/3(Ro
2−Ri
2)、即ち断面積で加重平均した組紐状圧電素子1の半径である。
【0075】
組紐状圧電素子1の側面写真において圧電性高分子が均一な表面を有しており、圧電性高分子のらせんピッチが判別できない場合は、接着剤等で固定した組紐状圧電素子1を中心軸を通る平面で割断し、割断面に垂直な方向に、中心軸を通るよう十分に狭い範囲でX線を透過するよう広角X線回折分析を行い、配向方向を決定して中心軸との角度をとり、θとする。
【0076】
本発明に係る組紐状圧電素子1では、圧電性高分子の配向方向に沿って描かれるらせんについて、らせん方向(S撚り方向またはZ撚り方向)やらせんピッチを異にする2つ以上のらせんが同時に存在する場合があるが、それぞれのらせん方向およびらせんピッチの圧電性高分子についてそれぞれ上記測定を行い、いずれか一つのらせん方向およびらせんピッチの圧電性高分子が前述の条件を満たすことが必要である。
【0077】
中心軸方向の伸長変形に対して中心軸側と外側とに発生する電荷の極性は、圧電性高分子の配向方向をS撚りのらせんに沿って配置した場合と、同じ圧電性高分子の配向方向をZ撚りのらせんに沿って配置した場合とでは、互いに逆の極性になる。このため、圧電性高分子の配向方向をS撚りのらせんに沿って配置すると同時にZ撚りのらせんに沿って配置した場合は、伸長変形に対する発生電荷がS撚り方向とZ撚り方向とで互いに打消し合って効率的に利用できないため、好ましくない。したがって、上記の圧電性高分子は、圧電定数d14の値が正の結晶性高分子を主成分として含むP体と、負の結晶性高分子を主成分として含むN体とを含み、組紐状圧電素子1の中心軸が1cmの長さを持つ部分について、配向軸がZ撚り方向にらせんを巻いて配置されたP体の質量をZP、配向軸がS撚り方向にらせんを巻いて配置されたP体の質量をSP、配向軸がZ撚り方向にらせんを巻いて配置されたN体の質量をZN、配向軸がS撚り方向にらせんを巻いて配置されたN体の質量をSNとし、(ZP+SN)と(SP+ZN)とのうち小さい方をT1、大きい方をT2としたとき、T1/T2の値が0以上0.8以下であることが好ましく、さらに0以上0.5以下であることが好ましい。
【0078】
本発明の圧電性繊維として主成分としてポリ乳酸が含まれる繊維を用いる場合、ポリ乳酸中の乳酸ユニットは90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましく、98モル%以上がさらに好ましい。
【0079】
なお、組紐状圧電素子1では、本発明の目的を達成する限り、鞘部2では圧電性繊維A以外の他の繊維と組み合わせて混繊等を行ってもよいし、芯部3では導電性繊維B以外の他の繊維と組み合わせて混繊等を行ってもよい。
【0080】
導電性繊維Bの芯部3と組紐状の圧電性繊維Aの鞘部2とで構成される組紐状圧電素子の長さは特に限定はなく、被測定体上の測定領域の大きさや形状等に応じて適宜決定すればよい。例えば、組紐状圧電素子は製造において連続的に製造され、その後に必要な長さに切断して利用してもよい。組紐状圧電素子の長さは1mm〜20m、好ましくは、1cm〜10m、より好ましくは10cm〜5mである。長さが短過ぎると従来の点センサと比較した本発明の上記効果、すなわち単位面積当たりのセンサの配置個数を低減でき、応力が印加された位置を少ないセンサの個数で特定できるという効果が十分に達成できない場合があり、また、長さが長過ぎると導電性繊維Bの抵抗値を考慮する必要が出てくるであろう。ただし、例えば、抵抗値については、電流値を計測することで抵抗値を考慮する必要がなくなる場合があり、ノイズについては信号を増幅することでノイズを抑制(もしくは除去)できる場合があり、特に電流増幅タイプのアンプを用いることが好ましい。
【0081】
以下、各構成について詳細に説明する。
【0082】
(導電性繊維)
導電性繊維Bとしては、導電性を示すものであればよく、公知のあらゆるものが用いられる。導電性繊維Bとしては、例えば、金属繊維、導電性高分子からなる繊維、炭素繊維、繊維状あるいは粒状の導電性フィラーを分散させた高分子からなる繊維、あるいは繊維状物の表面に導電性を有する層を設けた繊維が挙げられる。繊維状物の表面に導電性を有する層を設ける方法としては、金属コート、導電性高分子コート、導電性繊維の巻付けなどが挙げられる。なかでも金属コートが導電性、耐久性、柔軟性などの観点から好ましい。金属をコートする具体的な方法としては、蒸着、スパッタ、電解メッキ、無電解メッキなどが挙げられるが生産性などの観点からメッキが好ましい。このような金属をメッキされた繊維は金属メッキ繊維ということができる。
【0083】
金属をコートされるベースの繊維として、導電性の有無によらず公知の繊維を用いることができ、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、塩化ビニル繊維、アラミド繊維、ポリスルホン繊維、ポリエーテル繊維、ポリウレタン繊維等の合成繊維の他、綿、麻、絹等の天然繊維、アセテート等の半合成繊維、レーヨン、キュプラ等の再生繊維を用いることができる。ベースの繊維はこれらに限定されるものではなく、公知の繊維を任意に用いることができ、これらの繊維を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
ベースの繊維にコートされる金属は導電性を示し、本発明の効果を奏する限り、いずれを用いてもよい。例えば、金、銀、白金、銅、ニッケル、スズ、亜鉛、パラジウム、酸化インジウム錫、硫化銅など、およびこれらの混合物や合金などを用いることができる。
【0085】
導電性繊維Bに屈曲耐性のある金属コートした有機繊維を使用すると、導電性繊維が折れることが非常に少なく、圧電素子を用いたセンサとしての耐久性や安全性に優れる。
【0086】
導電性繊維Bはフィラメントを複数本束ねたマルチフィラメントであっても、また、フィラメント一本からなるモノフィラメントであってもよい。マルチフィラメントの方が電気特性の長尺安定性の観点で好ましい。モノフィラメント(紡績糸を含む)の場合、その単糸径は1μm〜5000μmであり、好ましくは2μm〜100μmである。さらに好ましくは3μm〜50μmである。マルチフィラメントの場合、フィラメント数としては、1本〜100000本が好ましく、より好ましくは5本〜500本、さらに好ましくは10本〜100本である。ただし、導電性繊維Bの繊度・本数とは、組紐を作製する際に用いる芯部3の繊度・本数であり、複数本の単糸(モノフィラメント)で形成されるマルチフィラメントも一本の導電性繊維Bと数えるものとする。ここで芯部3とは、導電性繊維以外の繊維を用いた場合であっても、それを含めた全体の量とする。
【0087】
繊維の直径が小さいと強度が低下しハンドリングが困難となり、また、直径が大きい場合にはフレキシブル性が犠牲になる。導電性繊維Bの断面形状としては円または楕円であることが、圧電素子の設計および製造の観点で好ましいが、これに限定されない。
【0088】
また、圧電性高分子からの電気出力を効率よく取り出すため、電気抵抗は低いことが好ましく、体積抵抗率としては10
-1Ω・cm以下であることが好ましく、より好ましくは10
-2Ω・cm以下、さらに好ましくは10
-3Ω・cm以下である。ただし、電気信号の検出で十分な強度が得られるのであれば導電性繊維Bの抵抗率はこの限りではない。
【0089】
導電性繊維Bは、本発明の用途から、繰り返しの曲げやねじりといった動きに対して耐性がなければならない。その指標としては、結節強さが、より大きいものが好まれる。結節強さはJIS L1013 8.6の方法で測定することができる。本発明に適当な結節強さの程度としては、0.5cN/dtex以上であることが好ましく、1.0cN/dtex以上であることがより好ましく、1.5cN/dtex以上であることがさらに好ましく、2.0cN/dtex以上であることが最も好ましい。また、別の指標としては、曲げ剛性が、より小さいものが好まれる。曲げ剛性は、カトーテック(株)製KES―FB2純曲げ試験機などの測定装置で測定されるのが一般的である。本発明に適当な曲げ剛性の程度としては、東邦テナックス(株)製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)HTS40−3Kよりも小さいほうが好ましい。具体的には、導電性繊維の曲げ剛性が0.05×10
-4N・m
2/m以下であることが好ましく、0.02×10
-4N・m
2/m以下であることがより好ましく、0.01×10
-4N・m
2/m以下であることがさらに好ましい。
【0090】
(圧電性繊維)
圧電性繊維Aの材料である圧電性高分子としてはポリフッ化ビニリデンやポリ乳酸のような圧電性を示す高分子を利用できるが、本実施形態では上記のように圧電性繊維Aは主成分として配向軸を3軸とした時の圧電定数d14の絶対値が高い結晶性高分子、とりわけポリ乳酸を含むことが好適である。ポリ乳酸は、例えば溶融紡糸後に延伸によって容易に配向して圧電性を示し、ポリフッ化ビニリデンなどで必要となる電界配向処理が不要な点で生産性に優れている。しかしこのことは、本発明を実施するに際してポリフッ化ビニリデンその他の圧電性材料の使用を排除することを意図するものではない。
【0091】
ポリ乳酸としては、その結晶構造によって、L−乳酸、L−ラクチドを重合してなるポリ−L−乳酸、D−乳酸、D−ラクチドを重合してなるポリ−D−乳酸、さらに、それらのハイブリッド構造からなるステレオコンプレックスポリ乳酸などがあるが、圧電性を示すものであればいずれも利用できる。圧電率の高さの観点で好ましくは、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸である。ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸はそれぞれ、同じ応力に対して分極が逆になるために、目的に応じてこれらを組み合わせて使用することも可能である。
【0092】
ポリ乳酸の光学純度は99%以上であることが好ましく、99.3%以上であることがより好ましく、99.5%以上であることがさらに好ましい。光学純度が99%未満であると著しく圧電率が低下する場合があり、圧電性繊維Aの形状変化によって十分な電気信号を得ることが難しくなる場合がある。特に、圧電性繊維Aは、主成分としてポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を含み、これらの光学純度が99%以上であることが好ましい。
【0093】
ポリ乳酸を主成分とする圧電性繊維Aは、製造時に延伸されて、その繊維軸方向に一軸配向している。さらに、圧電性繊維Aは、その繊維軸方向に一軸配向しているだけでなく、ポリ乳酸の結晶を含むものであることが好ましく、一軸配向したポリ乳酸の結晶を含むものであることがより好ましい。なぜなら、ポリ乳酸はその結晶性が高いことおよび一軸配向していることでより大きな圧電性を示し、d14の絶対値が高くなるためである。
【0094】
結晶性および一軸配向性はホモPLA結晶化度X
homo(%)および結晶配向度Ao(%)で求められる。本発明の圧電性繊維Aとしては、ホモPLA結晶化度X
homo(%)および結晶配向度Ao(%)が下記式(1)を満たすことが好ましい。
X
homo×Ao×Ao÷10
6≧0.26 (1)
上記式(1)を満たさない場合、結晶性および/または一軸配向性が十分でなく、動作に対する電気信号の出力値が低下したり、特定方向の動作に対する信号の感度が低下したりするおそれがある。上記式(1)の左辺の値は、0.28以上がより好ましく、0.3以上がさらに好ましい。ここで、各々の値は下記に従って求める。
【0095】
ホモポリ乳酸結晶化度X
homo:
ホモポリ乳酸結晶化度X
homoについては、広角X線回折分析(WAXD)による結晶構造解析から求める。広角X線回折分析(WAXD)では、(株)リガク製ultrax18型X線回折装置を用いて透過法により、以下条件でサンプルのX線回折図形をイメージングプレートに記録する。
X線源: Cu−Kα線(コンフォーカル ミラー)
出力: 45kV×60mA
スリット: 1st:1mmΦ,2nd:0.8mmΦ
カメラ長: 120mm
積算時間: 10分
サンプル: 35mgのポリ乳酸繊維を引き揃え3cmの繊維束とする。
得られるX線回折図形において方位角にわたって全散乱強度I
totalを求め、ここで2θ=16.5°,18.5°,24.3°付近に現れるホモポリ乳酸結晶に由来する各回折ピークの積分強度の総和ΣI
HMiを求める。これらの値から下式(2)に従い、ホモポリ乳酸結晶化度X
homoを求める。
ホモポリ乳酸結晶化度X
homo(%)=ΣI
HMi/I
total×100 (2)
なお、ΣI
HMiは、全散乱強度においてバックグランドや非晶による散漫散乱を差し引くことによって算出する。
【0096】
(2)結晶配向度Ao:
結晶配向度Aoについては、上記の広角X線回折分析(WAXD)により得られるX線回折図形において、動径方向の2θ=16.5°付近に現れるホモポリ乳酸結晶に由来する回折ピークについて、方位角(°)に対する強度分布をとり、得られた分布プロファイルの半値幅の総計Σ
Wi(°)から次式(3)より算出する。
結晶配向度Ao(%)=(360−ΣW
i)÷360×100 (3)
【0097】
なお、ポリ乳酸は加水分解が比較的速いポリエステルであるから、耐湿熱性が問題となる場合においては、公知の、イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物などの加水分解防止剤を添加してもよい。また、必要に応じてリン酸系化合物などの酸化防止剤、可塑剤、光劣化防止剤などを添加して物性改良してもよい。
【0098】
圧電性繊維Aはフィラメントを複数本束ねたマルチフィラメントであっても、また、フィラメント一本からなるモノフィラメントであってもよい。モノフィラメント(紡績糸を含む)の場合、その単糸径は1μm〜5mmであり、好ましくは5μm〜2mm、さらに好ましくは10μm〜1mmである。マルチフィラメントの場合、その単糸径は0.1μm〜5mmであり、好ましくは2μm〜100μm、さらに好ましくは3μm〜50μmである。マルチフィラメントのフィラメント数としては、1本〜100000本が好ましく、より好ましくは50本〜50000本、さらに好ましくは100本〜20000本である。ただし、圧電性繊維Aの繊度や本数については、組紐を作製する際のキャリア1つあたりの繊度、本数であり、複数本の単糸(モノフィラメント)で形成されるマルチフィラメントも一本の圧電性繊維Aと数えるものとする。ここで、キャリア1つの中に、圧電性繊維以外の繊維を用いた場合であっても、それを含めた全体の量とする。
【0099】
このような圧電性高分子を圧電性繊維Aとするためには、高分子から繊維化するための公知の手法を、本発明の効果を奏する限りいずれも採用することができる。例えば、圧電性高分子を押し出し成型して繊維化する手法、圧電性高分子を溶融紡糸して繊維化する手法、圧電性高分子を乾式あるいは湿式紡糸により繊維化する手法、圧電性高分子を静電紡糸により繊維化する手法、フィルムを形成した後に細くカットする手法、などを採用することができる。これらの紡糸条件は、採用する圧電性高分子に応じて公知の手法を適用すればよく、通常は工業的に生産の容易な溶融紡糸法を採用すればよい。さらに、繊維を形成後には形成された繊維を延伸する。それにより一軸延伸配向しかつ結晶を含む大きな圧電性を示す圧電性繊維Aが形成される。
【0100】
また、圧電性繊維Aは、上記のように作製されたものを組紐とする前に、染色、撚糸、合糸、熱処理などの処理をすることができる。
【0101】
さらに、圧電性繊維Aは、組紐を形成する際に繊維同士が擦れて断糸したり、毛羽が出たりする場合があるため、その強度と耐摩耗性は高い方が好ましく、強度は1.5cN/dtex以上であることが好ましく、2.0cN/dtex以上であることがより好ましく、2.5cN/dtex以上であることがさらに好ましく、3.0cN/dtex以上であることが最も好ましい。耐摩耗性は、JIS L1095 9.10.2 B法などで評価することができ、摩擦回数は100回以上が好ましく、1000回以上であることがより好ましく、5000回以上であることがさらに好ましく、10000回以上であることが最も好ましい。耐摩耗性を向上させるための方法は特に限定されるものではなく、公知のあらゆる方法を用いることができ、例えば、結晶化度を向上させたり、微粒子を添加したり、表面加工したりすることができる。また、組紐に加工する際に、繊維に潤滑剤を塗布して摩擦を低減させることもできる。
【0102】
また、圧電性繊維の収縮率は、前述した導電性繊維の収縮率との差が小さいことが好ましい。収縮率差が大きいと、組紐作製後の後処理工程や実使用時に熱がかかった時や経時変化により組紐が曲がったり、圧電信号が弱くなってしまう場合がある。収縮率を後述の沸水収縮率で定量化した場合、圧電性繊維の沸水収縮率S(p)および導電性繊維の沸水収縮率S(c)が下記式(4)を満たすことが好適である。
|S(p)−S(c)|≦10 (4)
上記式(4)の左辺は5以下であることがより好ましく、3以下であればさらに好ましい。
【0103】
また、圧電性繊維の収縮率は、導電性繊維以外の繊維、例えば絶縁性繊維の収縮率との差も小さいことが好ましい。収縮率差が大きいと、組紐作製後の後処理工程や実使用時に熱がかかった時や経時変化により組紐が曲がったり、圧電信号が弱くなってしまう場合がある。収縮率を沸水収縮率で定量化した場合、圧電性繊維の沸水収縮率S(p)および絶縁性繊維の沸水収縮率S(i)が下記式(5)を満たすことが好適である。
|S(p)−S(i)|≦10 (5)
上記式(5)の左辺は5以下であることがより好ましく、3以下であればさらに好ましい。
【0104】
また、圧電性繊維の収縮率は小さい方が好ましい。例えば収縮率を沸水収縮率で定量化した場合、圧電性繊維の収縮率は15%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、最も好ましくは3%以下である。収縮率を下げる手段としては、公知のあらゆる方法を適用することができ、例えば、熱処理により非晶部の配向緩和や結晶化度を上げることにより収縮率を低減することができ、熱処理を実施するタイミングは特に限定されず、延伸後、撚糸後、組紐化後などが挙げられる。なお、上述の沸水収縮率は以下の方法で測定するものとする。枠周1.125mの検尺機で捲数20回のカセを作り、0.022cN/dtexの荷重を掛けて、スケール板に吊るして初期のカセ長L0を測定した。その後、このカセを100℃の沸騰水浴中で30分間処理後、放冷し再び上記荷重を掛けてスケール板に吊るし収縮後のカセ長Lを測定した。測定されたL0およびLを用いて下記式(6)により沸水収縮率を計算する。
沸水収縮率=(L0−L)/L0×100(%) (6)
【0105】
(被覆)
導電性繊維B、すなわち芯部3は、圧電性繊維A、すなわち組紐状の鞘部2で表面が被覆されている。導電性繊維Bを被覆する鞘部2の厚みは1μm〜10mmであることが好ましく、5μm〜5mmであることがより好ましく、10μm〜3mmであることがさらに好ましい、20μm〜1mmであることが最も好ましい。薄すぎると強度の点で問題となる場合があり、また、厚すぎると組紐状圧電素子1が硬くなり変形し難くなる場合がある。なお、ここで言う鞘部2とは芯部3に隣接する層のことを指す。
【0106】
組紐状圧電素子1において、鞘部2の圧電性繊維Aの総繊度は、芯部3の導電性繊維Bの総繊度の1/2倍以上、20倍以下であることが好ましく、1倍以上、15倍以下であることがより好ましく、2倍以上、10倍以下であることがさらに好ましい。圧電性繊維Aの総繊度が導電性繊維Bの総繊度に対して小さ過ぎると、導電性繊維Bを囲む圧電性繊維Aが少な過ぎて導電性繊維Bが十分な電気信号を出力できず、さらに導電性繊維Bが近接する他の導電性繊維に接触するおそれがある。圧電性繊維Aの総繊度が導電性繊維Bの総繊度に対して大き過ぎると、導電性繊維Bを囲む圧電性繊維Aが多過ぎて組紐状圧電素子1が硬くなり変形し難くなる。すなわち、いずれの場合にも組紐状圧電素子1がセンサとして十分に機能しなくなる。
ここでいう総繊度とは、鞘部2を構成する圧電性繊維A全ての繊度の和であり、例えば、一般的な8打組紐の場合には、8本の繊維の繊度の総和となる。
【0107】
また、組紐状圧電素子1において、鞘部2の圧電性繊維Aの一本あたりの繊度は、導電性繊維Bの総繊度の1/20倍以上、2倍以下であることが好ましく、1/15倍以上、1.5倍以下であることがより好ましく、1/10倍以上、1倍以下であることがさらに好ましい。圧電性繊維A一本あたりの繊度が導電性繊維Bの総繊度に対して小さ過ぎると、圧電性繊維Aが少な過ぎて導電性繊維Bが十分な電気信号を出力できず、さらに圧電性繊維Aが切断するおそれがある。圧電性繊維A一本あたりの繊度が導電性繊維Bの総繊度に対して大き過ぎると、圧電性繊維Aが太過ぎて組紐状圧電素子1が硬くなり変形し難くなる。すなわち、いずれの場合にも組紐状圧電素子1がセンサとして十分に機能しなくなる。
【0108】
なお、導電性繊維Bに金属繊維を用いた場合や、金属繊維を導電性繊維Bあるいは圧電性繊維Aに混繊した場合は、繊度の比率は上記の限りではない。本発明において、上記比率は、接触面積や被覆率、すなわち、面積および体積の観点で重要であるからである。例えば、それぞれの繊維の比重が2を超えるような場合には、繊維の平均断面積の比率が上記繊度の比率であることが好ましい。
【0109】
圧電性繊維Aと導電性繊維Bとはできるだけ密着していることが好ましいが、密着性を改良するために、導電性繊維Bと圧電性繊維Aとの間にアンカー層や接着層などを設けてもよい。
【0110】
被覆の方法は導電性繊維Bを芯糸として、その周りに圧電性繊維Aを組紐状に巻きつける方法が取られる。一方、圧電性繊維Aの組紐の形状は、印加された荷重で生じる応力に対して電気信号を出力することが出来れば特に限定されるものではないが、芯部3を有する8打組紐や16打組紐が好ましい。
【0111】
導電性繊維Bと圧電性繊維Aの形状としては特に限定されるものではないが、できるだけ同心円状に近いことが好ましい。なお、導電性繊維Bとしてマルチフィラメントを用いる場合、圧電性繊維Aは、導電性繊維Bのマルチフィラメントの表面(繊維周面)の少なくとも一部が接触しているように被覆していればよく、マルチフィラメントを構成するすべてのフィラメント表面(繊維周面)に圧電性繊維Aが被覆していてもよいし、被覆していなくともよい。導電性繊維Bのマルチフィラメントを構成する内部の各フィラメントへの圧電性繊維Aの被覆状態は、圧電性素子としての性能、取扱い性等を考慮して、適宜設定すればよい。
【0112】
本発明における組紐状圧電素子1は、その表面に電極を存在させる必要が無いため、組紐状圧電素子1自体をさらに被覆する必要がなく、また、誤動作しにくいという利点がある。
【0113】
(絶縁性繊維)
組紐状圧電素子1では、鞘部2は圧電性繊維Aのみによって形成してもよいし、または圧電性繊維Aと絶縁性繊維の組み合わせによって形成してもよい。
【0114】
このような絶縁性繊維としては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、塩化ビニル繊維、アラミド繊維、ポリスルホン繊維、ポリエーテル繊維、ポリウレタン繊維等の合成繊維他、綿、麻、絹等の天然繊維、アセテート等の半合成繊維、レーヨン、キュプラ等の再生繊維を用いることができる。これらに限定されるものではなく、公知の絶縁性繊維を任意に用いることができる。さらに、これらの絶縁性繊維を組み合わせて用いてもよく、絶縁性を有しない繊維と組み合わせ、全体として絶縁性を有する繊維としてもよい。
また、公知のあらゆる断面形状の繊維も用いることができる。
【0115】
(製造方法)
本発明における組紐状圧電素子1は少なくとも1本の導電性繊維Bの表面を組紐状の圧電性繊維Aで被覆しているが、その製造方法としては例えば以下の方法が挙げられる。すなわち、導電性繊維Bと圧電性繊維Aを別々の工程で作製し、導電性繊維Bに圧電性繊維Aを組紐状に巻きつけて被覆する方法である。この場合には、できるだけ同心円状に近くなるように被覆することが好ましい。
【0116】
この場合、圧電性繊維Aを形成する圧電性高分子としてポリ乳酸を用いる場合の好ましい紡糸、延伸条件として、溶融紡糸温度は150℃〜250℃が好ましく、延伸温度は40℃〜150℃が好ましく、延伸倍率は1.1倍から5.0倍が好ましく、結晶化温度は80℃〜170℃が好ましい。
【0117】
導電性繊維Bに巻きつける圧電性繊維Aとしては、複数のフィラメントを束ねたマルチフィラメントを用いてもよく、また、モノフィラメント(紡績糸を含む)を用いても良い。また、圧電性繊維Aを巻きつけられる導電性繊維Bとしては、複数のフィラメントを束ねたマルチフィラメントを用いてもよく、また、モノフィラメント(紡績糸を含む)を用いても良い。
【0118】
被覆の好ましい形態としては、導電性繊維Bを芯糸とし、その周囲に圧電性繊維Aを組紐状に製紐して、丸打組物(Tubular Braid)を作製することで被覆することができる。より具体的には芯部3を有する8打組紐や16打組紐が挙げられる。ただし、例えば、圧電性繊維Aを編組チューブのような形態とし、導電性繊維Bを芯として当該編組チューブに挿入することで被覆してもよい。
【0119】
以上のような製造方法により、導電性繊維Bの表面を組紐状の圧電性繊維Aで被覆した組紐状圧電素子1を得ることができる。
【0120】
本発明における組紐状圧電素子1は、表面に電気信号を検出するための電極の形成を必要としないため、比較的簡単に製造することができる。
【0121】
(保護層)
本発明における組紐状圧電素子1の最表面には保護層を設けてもよい。この保護層は絶縁性であることが好ましく、フレキシブル性などの観点から高分子からなるものがより好ましい。保護層に絶縁性を持たせる場合には、もちろん、この場合には保護層ごと変形させたり、保護層上を擦ったりすることになるが、これらの外力が圧電性繊維Aまで到達し、その分極を誘起できるものであれば特に限定はない。保護層としては、高分子などのコーティングによって形成されるものに限定されず、フィルム、布帛、繊維などを巻付けてもよく、あるいは、それらが組み合わされたものであってもよい。
【0122】
保護層の厚みとしては出来るだけ薄い方が、せん断応力を圧電性繊維Aに伝えやすいが、薄すぎると保護層自体が破壊される等の問題が発生しやすくなるため、好ましくは10nm〜200μm、より好ましくは50nm〜50μm、さらに好ましくは70nm〜30μm、最も好ましくは100nm〜10μmである。この保護層により圧電素子の形状を形成することもできる。
【0123】
また、ノイズ低減を目的として電磁波シールド層を組紐構造に取り入れることも可能である。電磁波シールド層は特に限定されるものではないが、導電性の物質をコーティングしてもよいし、導電性を有するフィルム、布帛、繊維などを巻付けてもよい。電磁波シールド層の体積抵抗率としては10
-1Ω・cm以下であることが好ましく、より好ましくは10
-2Ω・cm以下、さらに好ましくは10
-3Ω・cm以下である。ただし、電磁波シールド層の効果が得られるのであれば抵抗率はこの限りではない。この電磁波シールド層は、鞘の圧電性繊維Aの表面に設けてもよく、前述の保護層の外側に設けてもよい。もちろん、電磁波シールド層と保護層が複数層積層されていてもよく、その順番も目的に応じて適宜決められる。
【0124】
さらには、圧電性繊維からなる層を複数層設けたり、信号を取り出すための導電性繊維からなる層を複数層設けたりすることもできる。もちろん、これらの保護層、電磁波シールド層、圧電性繊維からなる層、導電性繊維からなる層は、その目的に応じて、その順番および層数は適宜決められる。なお、巻付ける方法としては、鞘部2のさらに外層に組紐構造を形成したり、カバーリングしたりする方法が挙げられる。
【0125】
組紐状圧電素子1に変形が生じると、圧電性繊維Aは変形して分極が発生する。圧電性繊維Aの分極により発生した正負各電荷の配列につられて、組紐状圧電素子1の芯部3を形成する導電性繊維Bの出力端子からの引出し線上において電荷の移動が発生する。導電性繊維Bからの引出し線上における電荷の移動は微小な電気信号(すなわち電流または電位差)として現れる。つまり、組紐状圧電素子1に変形が与えられた時に発生する電荷に応じて、出力端子から電気信号が出力されることになる。したがって、組紐状圧電素子1は、本発明に係る圧電センサ及び衝突検知方法において有効に機能させることができる。
【0126】
なお、上で説明した
図11〜18に示す実験では、本発明に係る圧電センサにおける線状圧電素子として、以下で説明する組紐状圧電素子1−2が使用されており、それは以下の方法で製造した。
【0127】
組紐状圧電素子において使用された圧電性繊維の特性は、以下の方法によって決定した。
(1)ポリ−L−乳酸結晶化度X
homo:
ポリ−L−乳酸結晶化度X
homoについては、広角X線回折分析(WAXD)による結晶構造解析から求めた。広角X線回折分析(WAXD)では、(株)リガク製ultrax18型X線回折装置を用いて透過法により、以下条件でサンプルのX線回折図形をイメージングプレートに記録した。
X線源: Cu−Kα線(コンフォーカル ミラー)
出力: 45kV×60mA
スリット: 1st:1mmΦ,2nd:0.8mmΦ
カメラ長: 120mm
積算時間: 10分
サンプル: 35mgのポリ乳酸繊維を引き揃え3cmの繊維束とする
得られたX線回折図形において方位角にわたって全散乱強度I
totalを求め、ここで2θ=16.5°,18.5°,24.3°付近に現れるポリ−L−乳酸結晶に由来する各回折ピークの積分強度の総和ΣI
HMiを求めた。これらの値から下式(3)に従い、ポリ−L−乳酸結晶化度X
homoを求めた。
[数3]
ポリ−L−乳酸結晶化度X
homo(%)=ΣI
HMi/I
total×100 (3)
なお、ΣI
HMiは、全散乱強度においてバックグランドや非晶による散漫散乱を差し引くことによって算出した。
【0128】
(2)ポリ−L−乳酸結晶配向度A:
ポリ−L−乳酸結晶配向度Aについては、上記の広角X線回折分析(WAXD)により得られたX線回折図形において、動径方向の2θ=16.5°付近に現れるポリ−L−乳酸結晶に由来する回折ピークについて、方位角(°)に対する強度分布をとり、得られた分布プロファイルの半値幅の総計ΣW
i(°)から次式(4)より算出した。
[数4]
ポリ−L−乳酸結晶配向度A(%)=(360−ΣW
i)÷360×100 (4)
【0129】
(3)ポリ乳酸の光学純度:
組紐状圧電素子を構成する1本(マルチフィラメントの場合は1束)のポリ乳酸繊維0.1gを採取し、5モル/リットル濃度の水酸化ナトリウム水溶液1.0mLとメタノール1.0mLを加え、65℃に設定した水浴振とう器にセットして、ポリ乳酸が均一溶液になるまで30分程度加水分解を行い、さらに加水分解が完了した溶液に0.25モル/リットルの硫酸を加えpH7まで中和し、その分解溶液を0.1mL採取して高速液体クロマトグラフィー(HPLC)移動相溶液3mLにより希釈し、メンブレンフィルター(0.45μm)によりろ過した。この調整溶液のHPLC測定を行い、L−乳酸モノマーとD−乳酸モノマーの比率を定量した。1本のポリ乳酸繊維が0.1gに満たない場合は、採取可能な量に合わせ他の溶液の使用量を調整し、HPLC測定に供するサンプル溶液のポリ乳酸濃度が上記と同等から100分の1の範囲になるようにした。
<HPLC測定条件>
カラム:(株)住化分析センター社製「スミキラル(登録商標)」OA−5000(4.6mmφ×150mm)、
移動相:1.0ミリモル/リットルの硫酸銅水溶液
移動相流量:1.0ミリリットル/分
検出器:UV検出器(波長254nm)
注入量:100マイクロリットル
L乳酸モノマーに由来するピーク面積をS
LLAとし、D−乳酸モノマーに由来するピーク面積をS
DLAとすると、S
LLAおよびS
DLAはL−乳酸モノマーのモル濃度M
LLAおよびD−乳酸モノマーのモル濃度M
DLAにそれぞれ比例するため、S
LLAとS
DLAのうち大きい方の値をS
MLAとし、光学純度は下記式(5)で計算した。
[数5]
光学純度(%)=S
MLA÷(S
LLA+S
DLA)×100 (5)
【0130】
(ポリ乳酸の製造)
ポリ乳酸は以下の方法で製造した。
L−ラクチド((株)武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100質量部に対し、オクチル酸スズを0.005質量部加え、窒素雰囲気下、撹拌翼のついた反応機にて180℃で2時間反応させ、オクチル酸スズに対し1.2倍当量のリン酸を添加しその後、13.3Paで残存するラクチドを減圧除去し、チップ化し、ポリ−L−乳酸(PLLA1)を得た。得られたPLLA1の質量平均分子量は15.2万、ガラス転移点(Tg)は55℃、融点は175℃であった。
【0131】
(圧電性繊維)
240℃にて溶融させたPLLA1を24ホールのキャップから20g/minで吐出し、887m/minにて引き取った。この未延伸マルチフィラメント糸を80℃、2.3倍に延伸し、100℃で熱固定処理することにより84dTex/24フィラメントのマルチフィラメント一軸延伸糸PF1を得た。また、240℃にて溶融させたPLLA1を12ホールのキャップから8g/minで吐出し、1050m/minにて引き取った。この未延伸マルチフィラメント糸を80℃、2.3倍に延伸し、150℃で熱固定処理することにより33dtex/12フィラメントのマルチフィラメント一軸延伸糸PF2を得た。これらの圧電性繊維PF1およびPF2を圧電性高分子として用いた。PF1およびPF2のポリ−L−乳酸結晶化度、ポリ−L−乳酸結晶配向度および光学純度は上記の方法で測定し、表1の通りであった。
【0133】
(導電性繊維)
ミツフジ(株)製の銀メッキナイロン、品名『AGposs』100d34f(CF1)を導電性繊維Bとして使用した。CF1の抵抗率は250Ω/mであった。
また、ミツフジ(株)製の銀メッキナイロン、品名『AGposs』30d10f(CF2)を導電性繊維Bとして使用した。CF2の導電性は950Ω/mであった。
【0134】
(絶縁性繊維)
ポリエチレンテレフタレートを溶融紡糸後に延伸することで製造した84dTex/24フィラメントの延伸糸IF1、および33dTex/12フィラメントの延伸糸IF2をそれぞれ絶縁性繊維とした。
【0135】
(組紐状圧電素子)
図22に示すように、導電性繊維CF1を芯糸とし、8打ち丸組紐製紐機の8本のキャリアのうち、Z撚り方向に組まれる4本のキャリアに上記の圧電性繊維PF1をセットし、S撚り方向に組まれる4本のキャリアに上記の絶縁性繊維IF1をセットして組むことで、芯糸の周りにZ撚り方向に圧電性繊維PF1がらせん状に巻かれた組紐状圧電素子1−1を作製した。ここで、導電性繊維の繊維軸CLに対する圧電性繊維の巻きつけ角度(配向角度θ)は45°とした。さらに、組紐状圧電素子1−1を芯糸とし、製紐機の8本のキャリアのうち、Z撚り方向に組まれる4本のキャリアおよびS撚り方向に組まれる4本のキャリア全てに上記の導電性繊維CF2をセットして組むことで、組紐状圧電素子1−1の周りを導電性繊維で覆ったものを作製し、組紐状圧電素子1−2とした。当該組紐状圧電素子1−2を、上記のとおり、
図11〜18に示す実験において使用した。
【0136】
次に、本発明の圧電センサにおいて用いられる圧電素子に関し、圧電性高分子の配向角度θおよびT1/T2の値が伸長変形に対する電気信号に及ぼす影響について調べた。
【0137】
圧電素子の特性は、以下の方法によって決定した。
(1)中心軸の方向に対する圧電性高分子の配向角度θ
中心軸の方向に対する圧電性高分子の配向角度θは、下記式から計算した。
θ = arctan(2πRm/HP) (0°≦θ≦90°)
ただしRm=2(Ro
3−Ri
3)/3(Ro
2−Ri
2)、即ち断面積で加重平均した組紐状圧電素子(または他の構造体)の半径である。らせんピッチHP、組紐状圧電素子(または他の構造体)が占める部分の外側半径Roおよび内側半径Riは以下の通り測定した。
(1−1)組紐状圧電素子の場合は、(組紐状圧電素子の圧電性高分子以外による被覆がなされている場合は必要に応じて被覆を除去して側面から圧電性高分子が観察できる状態としてから)側面写真を撮影し、任意の5カ所で
図23のように圧電性高分子のらせんピッチHP(μm)を測定し、平均値を取った。また、組紐状圧電素子に低粘性の瞬間接着剤「アロンアルファEXTRA2000」(東亞合成(株)製)を染み込ませて固化させた後、組紐の長軸に垂直な断面を切り出して断面写真を撮影し、1枚の断面写真について後述の通り組紐状圧電素子が占める部分の外側半径Ro(μm)および内側半径Ri(μm)を測定し、同様の測定を別の任意の断面5カ所について測定し、平均値を取った。圧電性高分子と絶縁性高分子とが同時に組まれている場合、例えば圧電性繊維と絶縁性繊維を合糸したものを用いている場合や、8打ち組紐の4本の繊維が圧電性高分子であり、残る4本の繊維が絶縁性高分子である場合は、様々な場所で断面を取った時、圧電性高分子が存在する領域と絶縁性高分子が存在する領域とが互いに入れ替わるため、圧電性高分子が存在する領域と絶縁性高分子が存在する領域とを合せて組紐状圧電素子が占める部分とみなす。ただし、絶縁性高分子が圧電性高分子と同時に組まれていない部分については、組紐状圧電素子の一部とはみなさない。
外側半径Roと内側半径Riについては、以下の通り測定した。
図24(a)の断面写真の通り、圧電性構造体(圧電性繊維Aで形成された鞘部2)が占める領域(以後PSAと記載する)と、PSAの中央部にありPSAではない領域(以後CAと記載する)を定義する。PSAの外側にあり、PSAに重ならない最小の真円の直径と、PSAの外側を通らない(CAは通ってもよい)最大の真円の直径との平均値をRoとする(
図24(b))。また、CAの外側にあり、CAに重ならない最小の真円の直径と、CAの外側を通らない最大の真円の直径との平均値をRiとする(
図24(c))。
(1−2)カバリング糸状圧電素子の場合は、圧電性高分子をカバリングする時の巻き速度がT回/m(カバリング糸の長さあたりの圧電性高分子の回転数)のとき、らせんピッチHP(μm)=1000000/Tとした。また、カバリング糸状圧電素子に低粘性の瞬間接着剤「アロンアルファEXTRA2000」(東亞合成(株)製)を染み込ませて固化させた後、組紐の長軸に垂直な断面を切り出して断面写真を撮影し、1枚の断面写真について組紐状圧電素子の場合と同様にカバリング糸状圧電素子が占める部分の外側半径Ro(μm)および内側半径Ri(μm)を測定し、同様の測定を別の任意の断面5カ所について測定し、平均値を取った。圧電性高分子と絶縁性高分子とが同時にカバリングされている場合、例えば圧電性繊維と絶縁性繊維を合糸したものをカバリングしてある場合や、圧電性繊維と絶縁性繊維とが重ならないように同時にカバリングしてある場合は、様々な場所で断面を取った時、圧電性高分子が存在する領域と絶縁性高分子が存在する領域とが互いに入れ替わるため、圧電性高分子が存在する領域と絶縁性高分子が存在する領域とを合せてカバリング糸状圧電素子が占める部分とみなす。ただし、絶縁性高分子が圧電性高分子と同時にカバリングされてない、即ちどの断面を取っても絶縁性高分子が常に圧電性高分子の内側または外側にある部分については、カバリング糸状圧電素子の一部とはみなさない。
【0138】
(2)電気信号測定
エレクトロメータ(Keysight Technologies Inc.製 B2987A)を、同軸ケーブル(芯:Hi極、シールド:Lo極)を介して圧電素子の導電体に接続した状態で、圧電素子に対し下記2−1〜5のいずれかの動作試験をしながら50m秒の間隔で電流値を計測した。
(2−1)引張試験
(株)オリエンテック製万能試験機「テンシロンRTC−1225A」を用い、圧電素子の長尺方向に12cmの間隔を空けて圧電素子をチャックで掴み、素子が弛んだ状態を0.0Nとし、0.5Nの張力まで引っ張った状態で変位を0mmとし、100mm/minの動作速度で1.2mmまで引っ張った後、0mmまで−100mm/minの動作速度で戻す動作を10回繰り返した。
(2−2)ねじり試験
圧電素子を掴む2か所のチャックのうち、片方のチャックはねじり動作を行わず圧電素子の長軸方向に自由に動くようなレール上に設置されて圧電素子に0.5Nの張力が常にかかる状態とし、他方のチャックは圧電素子の長軸方向には動かずねじり動作を行うよう設計されたねじり試験装置を用い、圧電素子の長尺方向に72mmの間隔を空けて圧電素子をこれらのチャックで掴み、素子の中央からチャックを見て時計回りにねじるように100°/sの速度で0°から45°まで回転した後、−100/sの速度で45°から0°まで回転する往復ねじり動作を10回繰り返した。
(2−3)曲げ試験
上部と下部との2つのチャックを備え、下部のチャックは固定され、上部のチャックは下部のチャックの72mm上方に位置し、2つのチャックを結ぶ線分を直径とする仮想の円周上を上部のチャックが移動する試験装置を用い、圧電素子をチャックに把持して固定し、該円周上にて上部のチャックを12時の位置、下部のチャックを6時の位置としたとき、圧電素子を9時方向に凸に僅かに撓ませた状態とした後、上部のチャックを12時の位置から該円周上の1時、2時の位置を経由して3時の位置に一定速度で0.9秒かけて移動させた後、12時の位置まで0.9秒かけて移動させる往復曲げ動作を10回繰り返した。
(2−4)せん断試験
50番手の綿糸で織られた平織布を表面に貼り付けた2枚の剛直な金属板によって、圧電素子の中央部64mmの長さの部分を上下から水平に挟み(下部の金属板は台に固定されている)、上から3.2Nの垂直荷重をかけ、金属板表面の綿布と圧電素子との間が滑らないようにした状態のまま、上の金属板を0Nから1Nの荷重まで1秒かけて圧電素子の長尺方向に引っ張った後、引張荷重を0Nまで1秒かけて戻すせん断動作を10回繰り返した。
(2−5)押圧試験
(株)オリエンテック製万能試験機「テンシロンRTC−1225A」を用い、水平で剛直な金属台上に静置した圧電素子の中央部64mmの長さの部分を、上部のクロスヘッドに設置された剛直な金属板により水平に圧電素子を挟み、圧電素子から上部の金属板への反力が0.01Nから20Nとなるまで0.6秒かけて上部のクロスヘッドを下げて押圧し、反力が0.01Nとなるまで0.6秒かけて除圧する動作を10回繰り返した。
【0139】
(例A)
例Aの試料として、
図22に示すように、導電性繊維CF1を芯糸とし、8打ち丸組紐製紐機の8本のキャリアのうち、Z撚り方向に組まれる4本のキャリアに上記の圧電性繊維PF1をセットし、S撚り方向に組まれる4本のキャリアに上記の絶縁性繊維IF1をセットして組むことで、芯糸の周りにZ撚り方向に圧電性繊維PF1がらせん状に巻かれた組紐状圧電素子1−Aを作成した。
【0140】
(例B)
組紐状圧電素子1−Aを芯糸とし、製紐機の8本のキャリアのうち、Z撚り方向に組まれる4本のキャリアおよびS撚り方向に組まれる4本のキャリア全てに上記の導電性繊維CF2をセットして組むことで、組紐状圧電素子1−Aの周りを導電性繊維で覆ったものを作製し、組紐状圧電素子1−Bとした。
【0141】
(例C、D)
PF1の巻付け速度を変更した以外は組紐状圧電素子1−Aと同様にして、2本の組紐状圧電素子を作成し、これらの組紐状圧電素子を芯糸とし、組紐状圧電素子1−Bと同様に導電性繊維で覆ったものを作製し、組紐状圧電素子1−Cおよび1−Dとした。
【0142】
(例E〜H)
製紐機の8本のキャリアのうち、表2の通りZ撚り方向およびS撚り方向に組まれるキャリアにそれぞれPF1あるいはIF1をセットして組むことで、芯糸の周りにZ撚り方向およびS撚り方向のそれぞれに所定の割合で圧電性繊維PF1がらせん状に巻かれた組紐状圧電素子を作成し、これらの組紐状圧電素子を芯糸とし、組紐状圧電素子1−Bと同様に導電性繊維で覆ったものを作製し、組紐状圧電素子1−E〜1−Hとした。
【0143】
(例I)
PF1の代わりにPF2を使用し、IF1の代わりにIF2を使用し、巻付け速度を調整した以外は組紐状圧電素子1−Aと同様にして組紐状圧電素子を作成し、この組紐状圧電素子を芯糸とし、組紐状圧電素子1−Bと同様に導電性繊維で覆ったものを作製し、組紐状圧電素子1−Iとした。
【0144】
(例J)
PF2の代わりにIF2を使用し、IF2の代わりにPF2を使用した以外は組紐状圧電素子1−Aと同様にして組紐状圧電素子を作成し、この組紐状圧電素子を芯糸とし、組紐状圧電素子1−Bと同様に導電性繊維で覆ったものを作製し、組紐状圧電素子1−Jとした。
【0145】
(例K)
CF1を芯糸とし、PF1を芯糸の周りにS撚り方向に3000回/mのカバリング回数で巻きつけ、その外側にさらにIF1をZ撚り方向に3000回/mのカバリング回数で巻きつけ、その外側にさらにCF2をS撚り方向に3000回/mのカバリング回数で巻きつけ、その外側にさらにCF2をZ撚り方向に3000回/mのカバリング回数で巻きつけ、芯糸の周りにS撚り方向に圧電性繊維PF1がらせん状に巻かれ、さらに外側を導電性繊維で覆ったカバリング糸状圧電素子1−Kを作成した。
【0146】
(例L)
PF1の代わりにIF1を使用した以外は組紐状圧電素子1−Aと同様にして組紐状圧電素子を作成し、この組紐状素子を芯糸とし、組紐状圧電素子1−Bと同様に導電性繊維で覆ったものを作製し、組紐状素子1−Lとした。
【0147】
(例M)
PF1の代わりにIF1を使用した以外はカバリング糸状圧電素子1−Kと同様にしてカバリング糸状素子を作成し、カバリング糸状素子1−Mとした。
【0148】
(例N)
IF1の代わりにPF1を使用した以外は組紐状圧電素子1−Bと同様にして組紐状圧電素子1−Nを作成した。
【0149】
(例O)
IF2の代わりにPF2を使用した以外は組紐状圧電素子1−Iと同様にして組紐状圧電素子1−Oを作成した。
【0150】
(例P)
導電性繊維CF1を芯糸とし、16打ち丸組紐製紐機の16本のキャリアのうち、Z撚り方向に組まれる8本のキャリアに上記の圧電性繊維PF1をセットし、S撚り方向に組まれる8本のキャリアに上記の絶縁性繊維IF1をセットして組むことで、芯糸の周りにZ撚り方向に圧電性繊維PF1がらせん状に巻かれた組紐状圧電素子を作成し、この組紐状圧電素子を芯糸とし、組紐状圧電素子1−Bと同様に導電性繊維で覆ったものを作製し、組紐状圧電素子1−Pとした。
【0151】
(例Q)
CF1を芯糸とし、PF1を芯糸の周りにS撚り方向に6000回/mのカバリング回数で巻きつけ、その外側にさらにIF1をZ撚り方向に6000回/mのカバリング回数で巻きつけ、その外側にさらにCF2をS撚り方向に3000回/mのカバリング回数で巻きつけ、その外側にさらにCF2をZ撚り方向に3000回/mのカバリング回数で巻きつけ、芯糸の周りにS撚り方向に圧電性繊維PF1がらせん状に巻かれ、さらに外側を導電性繊維で覆ったカバリング糸状圧電素子1−Qを作成した。
【0152】
各圧電素子のRi、Ro、HPを測定し、計算された中心軸の方向に対する圧電性高分子の配向角度θの値、およびT1/T2の値を表2に示す。組紐状圧電素子については、RiおよびRoは、断面において圧電性繊維と絶縁性繊維が存在する領域を合わせて圧電素子の占める領域として測定した。カバリング糸状圧電素子については、RiおよびRoは、断面において圧電性繊維が存在する領域を圧電素子の占める領域として測定した。また、各圧電素子を15cmの長さに切断し、芯の導電性繊維をHi極とし、周辺をシールドする金網または鞘の導電性繊維をLo極としてエレクトロメータ(Keysight Technologies Inc.製 B2987A)に接続し、電流値をモニタした。引張試験、ねじり試験、曲げ試験、せん断試験および押圧試験時の電流値を表2に示す。なお、例L、Mは圧電性高分子を含まないため、θおよびT1/T2の値は測定できない。
【0154】
表2の結果から、中心軸の方向に対する圧電性高分子の配向角度θが15°以上75°以下であり、T1/T2の値が0以上0.8以下であるとき、引張動作(伸長変形)に対し大きな信号を発生し、引張以外の動作には大きな信号を発生せず、引張動作に選択的に応答する素子であることが分かる。また例IとJとを比べると、Z撚り方向に多く圧電性繊維を巻いた場合と、S撚り方向に多く圧電性繊維を巻いた場合とを比べると、引張試験時の信号の極性が逆となっており、巻き方向が信号の極性に対応していることが分かる。
【0155】
さらに、表には示していないが、例A〜Kの素子は引張荷重を与えた時の信号と、引張荷重を除いた時の信号とを比べると、極性が互いに逆で絶対値が概ね同じ信号を発生したため、これらの素子は引張荷重や変位の定量に適していることが分かる。一方、例NおよびOの素子は引張荷重を与えた時の信号と、引張荷重を除いた時の信号とを比べると、極性が互いに逆である場合も同じである場合もあったため、これらの素子は引張荷重や変位の定量に適していないことが分かる。また、表には示していないが、例Bの引張試験時のノイズレベルは、例Aの引張試験時のノイズレベルより低く、組紐状圧電素子の外側に導電性繊維を配置してシールドとした素子ではノイズを低減できることが分かる。
【0156】
図25は、
図20及び
図21の実施形態に係る線状圧電素子に振動を与えた際に発生する電気信号を例示する図である。組紐状圧電素子1−Aを芯糸とし、製紐機の8本のキャリアのうち、Z撚り方向に組まれる4本のキャリアおよびS撚り方向に組まれる4本のキャリア全てに上記の導電性繊維CF2をセットして組むことで、組紐状圧電素子1−Aの周りを導電性繊維で覆ったものを作製し、上述の例Bの組紐状圧電素子1−Bとした。200mmの長さの組紐状圧電素子1−Bを140mm×40mm×3mmのアラミド繊維不織布で挟み、三菱ケミカル(株)社製のエポキシ樹脂「jER(登録商標)」828を100重量部に日本化薬(株)社製「カヤハード(登録商標)」AAを0.337重量部を混合した熱硬化性樹脂を含浸させた。この樹脂を含浸させた不織布を130℃3時間の熱処理をすることで組紐状圧電素子を内蔵した樹脂板を得た。そして、DIGILENT社製のANALOG DISCOVERYに同軸ケーブル(芯:Hi極、シールド:Lo極)を介して、それぞれ組紐状圧電素子の芯の導電繊維および鞘の導電繊維に接続した。実験では、上記樹脂板の端部40mmを万力で固定した状態で樹脂板の反対の端部を20mm曲げてから手を放し、樹脂板を振動させた。振動に応じて
図25に示す通り組紐状圧電素子から信号を検出することができ、樹脂板の振動状態を把握することができることが分かった。
【0157】
図26は、
図20及び
図21の実施形態に係る線状圧電素子に振動を与えた際に発生する電気信号の極性を例示する図である。3K平織カーボンクロスを用いたプリプレグを8枚積層し、その2層目と3層目の間に組紐状圧電素子1−Bを挟んだ状態で、0.1MPaの圧力をかけながら130℃3時間の熱処理することにより組紐状圧電素子を内蔵したCFRP板を得た。そして、電気信号測定エレクトロメータ(Keysight Technologies Inc.製 B2987A)を、同軸ケーブル(芯:Hi極、シールド:Lo極)を介して、それぞれ組紐状圧電素子の芯の導電繊維および鞘の導電繊維に接続した。実験では、上記CFRP板を(株)オリエンテック製万能試験機「テンシロンRTC−1225A」を用い、組紐状圧電素子が上側になるような配置で支点間距離100mm、変位2mm、速度120mm/minで三点曲げ試験中の電気信号を計測した。変形に応じて
図26に示す通り、±300pA程度の矩形波を生じることが分かった。また、速度を2倍の240mm/minにすると約600pAの電流を生じ、変形速度に対応した信号強度を生じることが分かった。また、信号強度の時間積分することにより変形量も分かるので、板の変形状態を電気信号から把握することができる。
【0158】
なお、CFRPを裏返して組紐状圧電素子が下側になるような配置(上側配置の場合の伸長と圧縮とが入れ替わる)とした場合でも、表裏で伸長と圧縮とが入れ替わることから電気信号の極性(符号)が逆転するのみで、電気信号から変形の速度および方向が明らかとなることを確認した(結果は図示せず。)。