特許第6762386号(P6762386)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6762386ボンディング用途のための厚い銅ワイヤを製造するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6762386
(24)【登録日】2020年9月10日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】ボンディング用途のための厚い銅ワイヤを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20200917BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20200917BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20200917BHJP
【FI】
   H01L21/60 301F
   C22F1/08 C
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 614
   !C22F1/00 625
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 686A
【請求項の数】17
【外国語出願】
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-15289(P2019-15289)
(22)【出願日】2019年1月31日
(62)【分割の表示】特願2016-574220(P2016-574220)の分割
【原出願日】2015年4月28日
(65)【公開番号】特開2019-91916(P2019-91916A)
(43)【公開日】2019年6月13日
【審査請求日】2019年1月31日
(31)【優先権主張番号】14176650.1
(32)【優先日】2014年7月11日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515131116
【氏名又は名称】ヘレウス ドイチェラント ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ミルケ オイゲン
(72)【発明者】
【氏名】アイノウズ ラルビ
(72)【発明者】
【氏名】プレノシル ペーター
【審査官】 平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−250750(JP,A)
【文献】 特開2013−076107(JP,A)
【文献】 特開2013−102054(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/111642(WO,A1)
【文献】 特開2013−026475(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/093554(WO,A1)
【文献】 特開2014−112581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
C22F 1/08
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を有するコアを含むボンディングワイヤを製造する方法であって、
前記コアは98.0%以上の銅を含み、かつ12000から(22500×π)μmの範囲の断面積および40から95N/mmの範囲の弾性限界RP0.2(降伏強度)を有し、
前記方法は、
(a)銅コア前駆体を準備する工程と、
(b)ワイヤのコアの最終直径に到達するまで前記前駆体を延伸する工程と、
(c)前記延伸したワイヤを、4.92秒から1時間(但し、30分以上を除く)の範囲の最小のアニーリング時間の間、断面全体にわたって700から1000℃の範囲の最小のアニーリング温度でアニーリングする工程と
を含む、方法。
【請求項2】
表面を有するコアを含むボンディングワイヤを製造する方法であって、
前記コアは98.0%以上の銅を含み、かつ12000から(40000×π)μmの範囲の断面積および40から95N/mmの範囲の弾性限界RP0.2(降伏強度)を有し、
前記方法は、
(a)銅コア前駆体を準備する工程と、
(b)ワイヤのコアの最終直径に到達するまで前記前駆体を延伸する工程と、
(c)前記延伸したワイヤを、9.84秒から1時間(但し、30分以上を除く)の範囲の最小のアニーリング時間の間、断面全体にわたって700から1000℃の範囲の最小のアニーリング温度でアニーリングする工程と
を含む、方法。
【請求項3】
表面を有するコアを含むボンディングワイヤを製造する方法であって、
前記コアは98.0%以上の銅を含み、かつ12000から(62500×π)μmの範囲の断面積および40から95N/mmの範囲の弾性限界RP0.2(降伏強度)を有し、
前記方法は、
(a)銅コア前駆体を準備する工程と、
(b)ワイヤのコアの最終直径に到達するまで前記前駆体を延伸する工程と、
(c)前記延伸したワイヤを、16.4秒から1時間(但し、30分以上を除く)の範囲の最小のアニーリング時間の間、断面全体にわたって700から1000℃の範囲の最小のアニーリング温度でアニーリングする工程と
を含む、方法。
【請求項4】
前記アニーリングはストランドアニーリングである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ワイヤは、最大伸びの温度より10から150℃高い温度でアニーリングされる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(d)工程(c)の後、ワイヤを移送し、パッケージする工程をさらに含み、
前記ワイヤは曲率半径Rcで曲げられ、Rcは0.25・Dr/Eに等しく、
式中、Drは曲率半径の方向において測定されたワイヤの直径と定義され、
Eは曲げに起因するワイヤの外側繊維の相対伸びであり、
Eは0.0002から0.006の範囲である、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
(e)前記コアの表面上にコーティング層を重ね合わせるように、工程(b)の前または後のいずれかにコーティング層の材料で前記銅コアをコーティングする工程をさらに含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記コーティング層は20nmから0.5μmの厚さを有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記コーティング層は、主成分として貴金属、Ti、NiまたはCrからなる群の1つを含む、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記コーティング層は中間層として提供され、少なくとも1つの外層が前記中間層の上に重ね合わされる、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記外層は主成分として貴金属を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記中間層は5nmから100nmの範囲の厚さを有する、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
(f)工程(c)の前に前記ワイヤをリボンの形状に圧延する工程をさらに含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ワイヤは円形断面形状を有し、断面積を通る最短経路と最長経路の比率は0.8から1.0である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記断面積を通る最短経路と最長経路の比率は0.02から0.5である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ワイヤの第2の領域(R2)の平均粒径と前記ワイヤの第1の領域(R1)の平均粒径の比率は0.05から0.8であり、
前記ワイヤの第1の領域(R1)は、前記ワイヤの幾何学的中心線から前記ワイヤの最小直径の10%以下の距離を有する全ての点によって画定され、
前記ワイヤの第2の領域(R2)は、前記コアの表面から前記ワイヤの最小直径の10%以下の距離を有する全ての点によって画定される、
請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ワイヤは、アニーリング後に最大伸び値の40から92%の伸び値を有する、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚い銅ボンディングワイヤを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボンディングワイヤは、半導体デバイス製作の際に集積回路とプリント回路基板とを電気的に相互接続するために、半導体デバイスの製造において用いられる。さらに、ボンディングワイヤはパワーエレクトロニクス用途において、トランジスタおよびダイオードなどをハウジングのパッドまたはピンと電気的に接続するために用いられる。最初ボンディングワイヤは金から作られたが、現在は例えば銅などのより安価な材料が用いられる。銅ワイヤは非常に良好な電気伝導性および熱伝導性を提供するが、銅ワイヤのボールボンディングおよびウェッジボンディングは課題を有する。さらに、銅ワイヤは酸化されやすい。
【0003】
ワイヤジオメトリに関して、最も一般的なのは、円形断面のボンディングワイヤおよびほぼ矩形の断面を有するボンディングリボンである。どちらのタイプのワイヤジオメトリも、特定の用途に対して有用となる利点を有する。よって、両タイプのジオメトリが市場での占有率を有する。例えば、ボンディングリボンは所与の断面積に対してより大きな接触面積を有する。しかし、リボンの屈曲は限られており、リボンと、それがボンディングされるエレメントとの許容できる電気的接触に到達するためには、ボンディングのときにリボンの向きを観察する必要がある。次にボンディングワイヤに関しては、これらは屈曲に対してより柔軟である。
【0004】
しかし、ボンディングはボンディングプロセスにおけるワイヤの溶接およびより大きな変形を伴い、それによって、ボンドパッドおよびその下にあるボンディングされるエレメントの電気的構造に損害または破壊すらもたらすおそれがある。
【0005】
本発明に対するボンディングワイヤという用語は、全ての形状の断面を含む。本発明の方法によって作製されたボンディングワイヤの寸法は厚いボンディングワイヤに関する。本発明のボンディングワイヤの意味では、厚いワイヤは、7500から600000μmまたは12000から600000μmの範囲の断面積を有するワイヤとみなす。円形断面を有するワイヤの例では、このようなワイヤは98から510μmまたは125から510μmの範囲の直径を有することができる。十分なスループットおよび信頼性を達成するために、厚いボンディングワイヤの機械的特性およびボンディング作用は、薄いボンディングワイヤと比較して特定の要求を含む。
【0006】
いくつかの最近の開発は、銅コアを有するボンディングワイヤに向けられていた。コア材料として、銅は、高い電気伝導性のために選択される。銅材料と異なるドーパントが、ボンディング特性を最適化するために調べられている。例えば、特許文献1は、多数の異なるドーパントおよび濃度を有するいくつかの異なる銅ベースの試験ワイヤを記載している。それにもかかわらず、ボンディングワイヤ自体およびボンディングプロセスに関して、ボンディングワイヤ技術をさらに改良する必要性が継続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7,952,028B2号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、改良されたボンディングワイヤを製造する方法を提供することである。
【0009】
さらに、本発明の別の目的は、良好な処理特性を有し、相互接続するときに特定の必要性を有さず、それによりコストを節約する、ボンディングワイヤを製造するための方法を提供することである。
【0010】
また、本発明の目的は、優れた電気伝導性および熱伝導性を有するボンディングワイヤを製造する方法を提供することである。
【0011】
本発明のさらなる目的は、改良された信頼性を示すボンディングワイヤを製造する方法を提供することである。
【0012】
本発明のさらなる目的は、優れたボンディング特性を示すボンディングワイヤを製造する方法を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、ウェッジボンディングに関して改良されたボンディング特性を示すボンディングワイヤを製造する方法を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、ボンディング前にワイヤコアの増加した柔軟性を示すボンディングワイヤを製造する方法を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、腐食および/または酸化に対して改良された耐性を有するボンディングワイヤを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
驚くべきことに、本発明の方法によって作製されたワイヤは、上述の目的の少なくとも1つを解決することが見出された。さらに、本発明の方法によって作製されたワイヤを含むシステムおよびモジュールは、ワイヤと他の電気素子、例えばプリント回路基板、パッド/ピンなどとの間のインターフェースにおいて、より信頼性があることが見出された。
【0017】
本発明は、表面を有するコアを含むボンディングワイヤを製造する方法であって、コアは98.0%以上の銅を含み、7500から600000μmの範囲の断面積および40から95N/mmの範囲の弾性限界RP0.2(降伏強度)を有し、前記方法は、
(a)銅コア前駆体を準備する工程と、
(b)ワイヤコアの最終直径に到達するまで前駆体を延伸する工程と、
(c)延伸したワイヤを、4秒から2時間、好ましくは4秒から1時間の範囲の最小のアニーリング時間の間、断面全体にわたって650から1000℃の範囲の最小のアニーリング温度でアニーリングする工程と
を含む、方法に関する。
【0018】
一実施形態において、アニーリングは固定または静的アニーリングプロセスとして実施されてもよく、そして4秒から2時間、好ましくは4秒から1時間の範囲の最小のアニーリング時間であってもよく、一方で、アニーリングが動的(すなわちワイヤが動いている)に実施される場合、4から30秒の範囲の最小のアニーリング時間であってもよい。
【0019】
もし他に特定の定義が提供されなければ、現在全ての成分の含有量または占有率は重量による占有率として与えられている。特に、パーセントで与えられる占有率は重量%であると理解され、ppm(百万分率(parts per million))で与えられる占有率は重量ppmであると理解される。
【0020】
本発明の方法によって作製されたこのようなワイヤは、その機械的およびボンディング特性に関して最適化される。本発明のより好ましい実施形態において、ワイヤコアまたはワイヤの弾性限界RP0.2は、90N/mm以下であり、最も好ましくは85N/mm以下である。弾性限界RP0.2の下限は、好ましくは40N/mm以上であり、最も好ましくは50N/mm以上である。このことは特に、本発明の方法によって作製されたボンディングワイヤの降伏強度に関して、好ましく、有益な範囲を生じる。本発明の方法によって作製されたボンディングワイヤは、好ましくは、40〜95N/mm、50〜95N/mm、40〜90N/mm、または50〜90N/mmの範囲の1つ以上の弾性限界RP0.2を有する。非常に好ましい実施形態において、コアまたはワイヤの弾性限界RP0.2は65〜90N/mmまたは65〜85N/mmの範囲である。
【0021】
ワイヤまたはコアの弾性限界は降伏強度と同じである。弾性限界または降伏強度の定義について、参照が一般的な理解に対してなされる。材料の「降伏強度」は、材料が塑性変形し始める応力として工学および材料科学において定義されている。塑性変形を開始する前に、材料は弾性変形し、加えられた応力が取り除かれると元の形に戻る。好ましくは、弾性限界または降伏強度は、塑性変形の0.2%オフセット降伏点(RP0.2)を使用することによって定義される。
【0022】
弾性限界は、最終製品およびパッケージされた製品として提供されるボンディングワイヤの特性と理解される。さらに、ワイヤに課される過度の保存時間、環境への影響がないことなどが理解される。ボンディングワイヤの弾性限界はボンディングツールに供給される前のその状態で与えられる。
【0023】
機械的応力、屈曲、加熱、長時間の保存などは、ワイヤおよびその弾性限界の微細構造に影響を与え得ることが指摘される。例えば、通常、アニーリングオーブンから出した直後のワイヤの弾性限界と、パッケージされた段階の最終製品としてのワイヤの弾性限界との間に有意差が存在する。
【0024】
ワイヤの弾性限界は特に、アニーリング手段のパラメーターをそれに応じて選択することによって調節され得ることは理解される。本発明によれば、このことは、従来技術において一般的であるように、伸び値の最大までワイヤをアニーリングすることを意味するわけではない。代わりに、アニーリング手段およびワイヤのさらなるパラメーター(銅純度、添加剤など)は本発明による弾性限界値を達成するように選択される。
【0025】
ワイヤのコアは表面下のバルク材料の均質な領域と定義される。任意のバルク材料は基本的に、ある程度異なる特性を有する表面領域を有するので、ワイヤのコアの特性はこのバルク材料領域の特性と理解される。バルク材料領域の表面は、形態、組成(例えば酸素含有量)または他の特徴に関して異なってもよい。表面は、好ましい実施形態において、ワイヤの外面であってもよい。さらなる実施形態において、ワイヤコアの表面は、ワイヤコアとワイヤコアに重ね合わされたコーティング層との間のインターフェース領域として提供されてもよい。
【0026】
ワイヤは、特にマイクロエレクトロニクスにおける結合のためのボンディングワイヤである。ワイヤは好ましくは一体(ワンピース)物体である。
【0027】
ある成分の占有率が参照材料のさらなる成分の全てを超えているとき、この成分は「主成分」である。好ましくは、主成分は材料の総重量の少なくとも50%を含む。
【0028】
コアの銅含有量は98.0%以上である。さらにより好ましくは、銅の含有量は99%以上である。さらに好ましくは、ワイヤコアは99.9%以上の純度を有する銅(3N銅)からなる。最も好ましくは、ワイヤコアは99.99%以上の純度を有する銅(4N銅)からなる。純粋な銅ワイヤは一般に良好な導電性および良好な結合特性を示す。代替の実施形態において、少量のさらなる元素がワイヤコアに提供されてもよい。このような元素についての例としては、Pd、AgまたはBが挙げられる。
【0029】
本発明の一般的な好ましい態様において、アニーリング後のワイヤの伸び値は最大伸び値の40〜92%の範囲である。より好ましくは、伸び値は最大の伸び値の45〜85%の範囲、最も好ましくは50〜80%の範囲である。
【0030】
なおさらに好ましい場合、ワイヤは、最大伸び値がアニーリングによって達成される温度より少なくとも10℃高い温度でアニーリングされる。より好ましくは、温度は最大伸びの温度よりも少なくとも50℃高く、最も好ましくは、温度は最大伸びの温度よりも少なくとも80℃高い。しばしば、温度は、最大伸びの温度より150℃以下である。したがって、ワイヤは、最大伸びの温度よりも10〜150℃または50〜150℃または80〜150℃高い温度でアニーリングされ得る。
【0031】
最大伸び値は次のとおりに定義される。銅ベースのボンディングワイヤの一般的な場合において、ワイヤの伸びは最終アニーリング工程によって調整され得る。これに関する「最終」とは、その後にワイヤの形態に大きな影響を有する製造工程が確立されないことを意味する。アニーリングパラメーターを選択するとき、通常はパラメーターの組が選択される。ワイヤをアニーリングする簡単な場合においては、所与の長さのオーブン内で一定の温度が調整され、ワイヤは一定の速度でそのオーブンを通過する。これによって、ワイヤの全ての箇所が所与の時間だけその温度に露出され、この温度およびこのアニーリング時間がアニーリング手順の2つの関連パラメーターとなる。他の場合には、オーブンの特定の温度プロファイルが使用されて、システムにさらなるパラメーターを追加してもよい。
【0032】
いずれの場合にも、パラメーターの1つが変数として選択され得る。次いで、この変数に依存するワイヤの伸び値を受取ることによって、一般的に極大値を有するグラフが得られる。この極大値が本発明の意味でのワイヤの最大伸び値として定義される。変数がアニーリング温度である場合には、こうしたグラフは通常「アニーリング曲線」と呼ばれる。
【0033】
先行技術においては、極大が存在することによって特に安定な製造条件が提供されるために、変数パラメーターに関するこうした最大伸び値に対して任意のワイヤをアニーリングすることが普通であった。
【0034】
本発明に関しては、驚くべきことに、最大伸び値未満の異なる値に対するアニーリングによって、ワイヤ形態が有益な態様で影響され得るために、有益なワイヤ特性がもたらされ得ることが明らかになった。変数パラメーターとしてアニーリング温度が選択され、かつアニーリング時間を定数として設定するとき、最大伸びのアニーリング温度よりも高い値のアニーリング温度を選択するときが特に有益である。特にこの製造原理は、ワイヤの平均粒度を例えばもっと大きな粒度に調整するために用いられ得る。この調整によって、例えばワイヤの軟らかさ、ウェッジボンディング挙動などのその他の特性が、有益な態様で影響され得る。
【0035】
良好なスループットおよび効果的なアニーリングを提供するために、コアは、アニーリング工程(c)の間、その断面全体にわたって少なくとも650℃の最小アニーリング温度に加熱される。さらにより好ましくは、この温度は少なくとも680℃である。コアは、アニーリング工程(c)の間、その断面全体にわたって1000℃以下のアニーリング温度に加熱される。したがって、コアは、アニーリング工程(c)の間、その断面全体にわたって650〜1000℃または680〜1000℃の範囲の温度に加熱される。
【0036】
特に好ましい実施形態において、アニーリングはストランドアニーリングによって行われることにより、高い再現性を伴うワイヤの高速製造を可能にする。ストランドアニーリングとは、ワイヤがアニーリングオーブンを通過して、オーブンから出た後にリールに巻かれている間に、アニーリングが動的に行われることを意味する。
【0037】
好ましい実施形態において、ワイヤはパッケージされた形態で提供され、方法は、(d)工程(c)の後にワイヤを移送し、パッケージする工程であって、ワイヤは曲率半径Rcで屈曲され、ここでRcは0.25・(1/E−1)・Drに等しく、または簡略化された0.25・Dr/Eに等しく、ここでDrは曲率半径の方向において測定したワイヤの直径として定義され、Eは屈曲に起因するワイヤの外側繊維の相対伸びであり、Eは0.006以下である、工程をさらに含む。より好ましい実施形態において、Eは0.005以下または0.004以下であり、最も好ましくは、Eは0.003以下である。通常、Eは0.0002以上である。このような手段により、ワイヤの最適化された微細構造およびそれによるその機械的特性が、最終的な移送、巻きおよびパッケージングプロセスの影響によって劣化されないことが確実にされる。これらの手段によって、アニーリング工程(c)によってその微細構造を調整した後、ワイヤが好ましくない機械的応力を受けることが回避される。特に、アニーリング後のワイヤの強力な屈曲または他の強力な変形は、その結晶のサイズおよび分布に対して悪影響を与える可能性がある。これはワイヤの外部だけ影響を受ける作用を含み、ワイヤの全体の機械的特性は本発明による範囲内のままであり得る。
【0038】
ワイヤの繊維は、ワイヤの幾何学的中心線に平行に延び、ワイヤの幾何学的中心線から一定の距離がある非常に小さな直径の理論的繊維と定義される。したがって、上記の意味において外側繊維は、最大曲率半径を有する位置においてワイヤコアの表面に沿って延びる繊維である。
【0039】
ワイヤ屈曲の制限は、特にワイヤがリール上で提供されるパッケージング形態に向けられる。ワイヤ直径に依存して、パッケージングリールの最小直径が上記の所与のパラメーターに従って提供される必要がある。さらに、ワイヤを取り扱うとき、このような最小曲げ半径を超えないように注意すべきである。そのような取り扱いは、ワイヤを製造する手段およびワイヤをボンディングツールに供給し、移送する手段を含む。
【0040】
さらに好ましい実施形態において、本発明の方法によって作製されたワイヤは、アニーリング工程(c)の後、パッケージングリール上に直接巻かれる。このことは、ワイヤが、最終的なパッケージングリール上に巻かれる前に中間のリール上で巻かれないことを意味する。ワイヤを巻く任意の手段は、そのような手段のいずれかがワイヤを機械的応力下に置くために、その微細構造および機械的特性に影響を与えることが判明している。これは、大きな直径を有する中間のリールが使用される場合でさえもある程度当てはまる。
【0041】
パッケージングスプールの直径は上記に説明した意味においてワイヤの最小曲率半径を定義するので、本発明はまた、本発明によって製造され、スプール上でパッケージされたワイヤを提供することに関し、パッケージングスプールは曲率半径についての上記の所与のパラメーターを満たす。
【0042】
本発明の方法によって作製された円形断面を有するワイヤに関して、微細構造の独特な特性が観察されている。これらの構造は良好な結合特性と相関する可能性が高い。したがって、好ましいワイヤに関して、ワイヤの第2の領域(R2)の平均粒径とワイヤの第1の領域(R1)の平均粒径の比率は、0.05〜0.8、好ましくは0.05〜0.7、より好ましくは0.1〜0.6である。ワイヤの第1の領域(R1)は、ワイヤの幾何学的中心線からワイヤの最小直径の10%以下の距離を有する全ての点によって画定され、ワイヤの第2の領域(R2)は、コアの表面からワイヤの最小直径の10%以下の距離を有する全ての点によって画定される。ワイヤの最小直径は、その幾何学的中心線に垂直で、その幾何学的中心線を通ってワイヤを横切る可能な最短の直径と定義される。
【0043】
平均粒径の測定は、Electron Backscattering Dif−fractometry(EBSD)を用いて実施されている。ワイヤの一部は樹脂に埋め込まれ、その中心線の方向においてワイヤを通る縦断面を研削した。ワイヤの断面を研磨し、イオンミリングによってさらに調製した。ワイヤのマイクロテクスチャに関するいくつかの測定を行った。これらの測定によって、ワイヤの結晶粒のサイズおよび分布を決定した。
【0044】
驚くべきことに、結晶粒の平均サイズは、ワイヤの中心線の付近の中心領域よりも、ワイヤの表面付近の境界領域において顕著に小さくなることが判明した。平均粒径はワイヤの中心から開始して半径方向外側に急速に減少するようである。以前に知られている粒径
分布は、均質な分布またはワイヤの中心からの距離が増加するにつれて平均粒径の増加のいずれかを示す。
【0045】
方法のさらなる可能な発展において、前駆体を延伸する工程(b)の前または後のいずれかにコーティング層の材料で銅コアをコーティングする工程(e)が提供される。コーティング法の例は、電気めっき、物理蒸着および化学蒸着である。本発明のこのようなさらなる発展において、コーティング層はコアの表面上に重ね合わされる。このようなコーティング層が可能であるが、本発明の方法によって作製されるワイヤに必ずしも必要な特徴ではないことが理解される。ボンディングプロセスに対するこのようなコーティング層の材料の影響を最小化するために、コーティング層の厚さは0.5μm以下、より好ましくは0.2μm以下である。通常、コーティング層の厚さは20nm以上である。
【0046】
コーティング層を設ける場合、層は、主成分として貴金属、Ti、NiまたはCrの群の1つを含む。コーティング目的のための貴金属の特に好ましい例は、Pd、Au、PtおよびAgである。
【0047】
本発明の意味において「重ね合わされる」という用語は、例えばコーティング層などの第2の品目に関する、例えば銅コアなどの第1の品目の相対位置を説明するために用いられる。場合によっては、第1および第2の品目の間に、例えば中間層などのさらなる品目が配置されてもよい。好ましくは、第2の品目は第1の品目の上に、例えば第1の品目の合計表面に関して少なくとも30%、50%、70%または少なくとも90%など、少なくとも部分的に重ね合わされる。最も好ましくは、第2の品目は第1の品目の上に完全に重ね合わされる。本発明の状況における「中間層」という用語は、銅コアとコーティング層との間のワイヤの領域のことである。この領域においては、コアと同様の材料およびコーティング層と同様の材料が組み合わされて存在する。
【0048】
本発明の可能な実施形態において、コーティング層は中間層として提供され、少なくとも1つの外層が中間層の上に重ね合わされる。このような場合、外層は好ましくは主成分として少なくとも1種の貴金属を含む。そのような貴金属は特にAuまたはPdであり得る。最も好ましい組み合わせにおいて、それぞれ主成分として中間層はPdを含み、外層はAuを含む。
【0049】
外層が設けられる場合、中間層は、5nm〜100nmの範囲の厚さが好ましい。
【0050】
1つの好ましい実施形態において、ワイヤは円形断面形状を有し、断面領域を通る最短経路と最長経路の比率は0.8から1.0である。このようなワイヤは円形断面を有するワイヤと称される。
【0051】
別の好ましい実施形態において、ワイヤはリボンのように成形され、断面領域を通る最短経路と最長経路の比率は0.02から0.5である。
【0052】
要求によれば、本発明の方法は、工程(c)の前にワイヤをリボンの形状に圧延する工程(f)をさらに含んでもよい。これにより、円形ワイヤのリボンへの成形が最終ワイヤの微細構造に影響を与えないことが確実になる。
【0053】
本発明の主題は図面で説明される。しかしながら、図面は本発明の範囲または特許請求の範囲を決して限定するものではないことが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】ワイヤ1が記載される。
図2】ワイヤ1の断面図を示す。断面図において、銅コア2は断面図の中央にある。銅コア2はコーティング層3に囲まれている。銅ワイヤ2の境界に銅コアの表面15が位置する。ワイヤ1の中心23を通る線L上に、銅コア2の直径が、線Lと表面15の交点間の両端距離として示される。ワイヤ1の直径は、中心23を通る線Lとワイヤ1の外端との交点間の両端距離である。さらに、コーティング層3の厚さが示される。コーティング層3の厚さは図2において誇張されている。コーティング層3が設けられる場合、その典型的な厚さはコアの直径と比較して非常に小さく、例えばコアの直径の1%以下である。ワイヤ1のコーティング層3は任意であることが理解される。最も好ましい実施形態に関して、コーティング層はワイヤコアに提供されない。
図3】本発明によるワイヤを製造する方法を示す。
図4】2つの要素11およびワイヤ1を備える、電気デバイス10の形態のモジュールを示す。ワイヤ1は2つの要素11に電気的に接続する。破線は、要素11を、要素11周囲のパッケージングデバイスの外部配線と接続するさらなる接続または電気回路を意味する。要素11は、結合パッド、リードフィンガ、集積回路、LEDなどを含んでもよい。
図5】コーティングを有さない4N銅コアからなる厚いワイヤについてのアニーリング曲線を示す。従来技術による1つのアニーリングウインドウおよび本発明の例による1つのアニーリングウインドウがマークされている。
図6】本発明によって作製されたワイヤの縦断面でのEBSD測定を示す。ワイヤは300μm直径を有する円形断面を有する。
【発明を実施するための形態】
【0055】
試験方法
全ての試験および測定は、T=20℃および相対湿度50%にて行った。
【0056】
結晶粒の平均粒径を測定するとき、本明細書においてElectron Backscattering Diffractometry(EBSD)を使用する。EBSDは異なる結晶粒の方向を決定することができる方法であるが、本発明の目的のために、この方法は単に粒径を測定するために使用する。
【0057】
ウェッジボンディングプロセスの測定は標準的な手段によって行う。ボンディングワイヤについてのプロセスパラメーターウインドウの定義は当該分野において公知であり、異なるワイヤを比較するために広範に使用される。本明細書以下に記載されている本発明の方法によって作製されたワイヤの実施形態の全ては、優れたボンディング特性を示す。
【実施例】
【0058】
本発明は実施例によってさらに例示する。これらの実施例は本発明の例示的な解釈のために役立ち、本発明または特許請求の範囲を限定することを決して意図していない。
【0059】
実施例1
99.99%以上の純度のある量の銅材料(「4N銅」)をるつぼ中で溶融した。さらなる物質は溶融物に添加しなかった。次いでワイヤコア前駆体を溶融物から鋳造した。
【0060】
Cuワイヤの化学組成は、誘導結合プラズマ(ICP)機器(Perkin Elmer ICP−OES 7100DV)を使用して制御した。Cuワイヤを濃硝酸に溶解し、その溶液をICP分析のために使用した。高度に純粋なCuワイヤを試験するための方法を、バルクCuに採用される周知の技術に従って機器製造業者によって確立した。
【0061】
次いでワイヤコア前駆体をいくつかの延伸工程において延伸して、指定の直径を有するワイヤコア2を形成した。このワイヤは主に円形断面を有し、最長の直径と最短の直径の比率は0.8から1.0であった。
【0062】
異なる直径についての本発明の有益な効果を確認するために、異なる直径を有するワイヤの選択を行った。以下の表1は、製造プロセスの異なる工程において異なるワイヤ直径について測定したデータのリストを示す。
【0063】
【表1】
【0064】
データの説明
TS1:アニーリングオーブン直後のワイヤの引張強度;
EL1:アニーリングオーブン直後のワイヤの伸び;
YS1:アニーリングオーブン直後のワイヤの降伏強度;
TS2:パッケージングリール上に巻いた後のワイヤの引張強度;
EL2:パッケージングリール上に巻いた後のワイヤの伸び;
YS2:パッケージングリール上に巻いた後のワイヤの降伏強度。
【0065】
本発明の意味においてワイヤの降伏強度は、上記のデータの「YS2」であることに留意されたい。これは完成品を指す。YS1とYS2の結果の間の有意差は移送および巻きの間のワイヤに対するさらなる機械的衝撃により説明される。アニーリング手段後のこのワイヤの処理の最適化は、ここで見られる高い降伏強度を低下させ得る。
【0066】
ワイヤを製造するこの手段において、ワイヤはアニーリングオーブンから出された後、最初に中間リール上に巻かれる。次いで、ワイヤはパッケージングリール上に再び巻かれる。これはさらに値YS1とYS2との差に加えられる。製造手段の好ましい改変において、ワイヤはパッケージングリール上に直接巻かれる。
【0067】
巻くことによって引き起こされる機械的応力を最小化するために、使用されたリールおよび全ての誘導ロールは、最小値を上回るワイヤに生じる曲げ半径を維持するために最小直径を有する。好ましい最小曲げ半径または曲率半径はワイヤ直径と共に増加する。
【0068】
この曲率半径Rcは0.25・(1/E−1)・Drに等しく、式中、
Drは、曲率半径の方向において測定されたワイヤの直径と定義され、
Eは、曲げに起因するワイヤの外側繊維の相対伸びであり、
Eは、0.006以下である。
【0069】
この例において、Eはできるだけ少ない0.002として選択された。このことは、例えば、300μmワイヤ(サンプル番号1)についてのリールの直径を10cm(=5cmの曲率半径)として選択したことを意味する。これはパラメーターE=0.0015に関連する:
5cm=0.250.03cm/0.0015
【0070】
製造アレンジメントにおいて、最小の曲げ半径を有する品目(リール、誘導ロールなど)は主に、アニーリング後、ワイヤの機械的応力を規定する。ここで、全てのリールおよびロールが同じ半径を有し、可能な限りそれらの数を最小化することが好ましい。
【0071】
さらに、ワイヤの引張強度TS1、TS2は、本明細書に記載されている手段によって大きく影響を受けないことに留意されたい。本発明による特有のアニーリングまたはアニーリング後のパッケージング手段に起因する機械的応力のいずれも、このワイヤ特性を顕著に変化させない。
【0072】
以下の表2は、表1のワイヤのストランドアニーリングのために使用されるアニーリングパラメーターについての十分な詳細を示す。
【0073】
【表2】
【0074】
アニーリング時間は、ストランドアニーリングを使用してワイヤの移送速度を変化させることによって変化することは表2から明確である。
【0075】
アニーリング時間に加えて、アニーリング温度も変化される。
【0076】
以下の表3は、本発明を表していない比較例を示す。これらの例において、ワイヤの同じ基材が異なるアニーリングパラメーターによりアニーリングされる。各場合、アニーリングパラメーターは、アニーリングオーブン直後に測定して、最大伸び値EL1maxに達成するまで変化する。これらのワイヤについて、アニーリングオーブン直後に測定して、値TS1およびYS1(表1についての上記の説明を参照のこと)が与えられる。
【0077】
【表3】
【0078】
完成品についての降伏強度値YS2は本発明の方法によって作製されたワイヤについてより有意に高い。比較ワイヤのいずれについても、降伏強度値は完成品について100N/mm未満であった。
【0079】
本発明の方法によって作製されたワイヤのアニーリング手段に関して、参照が図5になされる。この図は、300μmのワイヤについてのアニーリング曲線を示す。この曲線において、アニーリングは異なる温度で実施されるのに対して、アニーリング時間は一定に維持される。アニーリングオーブン直後の伸び値EL1は、アニーリング温度に対して測定され、提示される。
【0080】
ストランドアニーリングのこの方法において、アニーリング時間はワイヤ速度およびオーブンの長さの値から算出される。本発明の方法によって作製されるワイヤはストランドアニーリングに限定されないことは理解される。
【0081】
通常の場合、アニーリング曲線は、ここでは約600℃の位置である極大を示す。最大伸び値のアニーリング温度もまた、アニーリング時間に依存することは理解される。
【0082】
2つのアニーリングウインドウAおよびBを図5に提示する。第1のウインドウAは極大付近で対称的に配置され、従来技術によるボンディングワイヤのアニーリングを指す。極大におけるまたは極大近くのこの種のアニーリングは、良好なプロセス安定性および再現性を与えるため、従来的に使用される。
【0083】
本発明の方法によって作製されたワイヤは第2のアニーリングウインドウBからのパラメーターによりアニーリングされる。このウインドウは、アニーリング曲線の上限テール(high end tail)付近に配置される。ウインドウBの低い温度境界は、伸びが最大伸び値EL1maxの92%以下まで低下したときに規定される。ウインドウBの高い温度境界は、得られる降伏強度の下限によってのみ規定される。このような高い温度境界は、ワイヤが降伏強度の増加に起因して、アニーリング手段後に受ける機械的応力に応じて異なり得ることが指摘される。
【0084】
さらなる実験において、本発明の方法によって作製されたワイヤの結晶微細構造を測定し、評価した。図6は、上記のサンプル番号3のワイヤ(300μm直径)の粒状構造を示す。ワイヤサンプルはその中心線に沿って断面化した。2つの異なる領域R1およびR2を提示し、第1の領域R1は中心線に沿って配置される。
【0085】
第2の領域R2はワイヤの表面の下に配置される。領域の各々の半径幅はワイヤ直径の10%である。
【0086】
中心領域R1における平均粒が表面付近の領域R2における平均粒よりも有意に大きいことは、提示された粒状構造から明らかである。測定の評価は中心領域R1において25μmの平均粒径を与える。表面領域R2における平均粒径は11μmである。異なる領域におけるこれらの平均粒径の比率は11μm/25μm=0.44である。
【0087】
ボンディング試験により、本発明の方法によって作製されたワイヤは優れたボンディング特性を表すことが示された。さらに、ボンディングツールにおけるワイヤの処理およびボンディングプロセス安定性はワイヤの高い柔軟性に起因して増加する。
【0088】
実施例2
本発明の第2の実施例として、リボンの形態のボンディングワイヤが製造される。全ての製造工程は、アニーリング工程の前にワイヤコアを平らにする追加の工程を除いて、上記の第1の実施例に従って実施される。ワイヤを平らにする工程はワイヤを圧延することによって達成される。得られたリボンは、その最長直径に対する最短直径の比率が0.1である。その最短直径は100μmであり、その最長直径は1000μmであり、断面積はおおよそ100,000μmである。
【0089】
パッケージされた製品についてのアニーリング手段およびYS2の調節された値は上記の円形ワイヤに関するリボンと同様であることに留意されたい。最小の曲率半径に従うことに関して、リボンは規則的にその最短直径の周囲で巻かれ、したがってこの直径はリールおよび誘導ロールの直径の選択についての関連パラメーターである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6