特許第6762415号(P6762415)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポスコの特許一覧

特許6762415亀裂伝播抵抗性及び延性に優れた熱間成形部材、及びその製造方法
<>
  • 特許6762415-亀裂伝播抵抗性及び延性に優れた熱間成形部材、及びその製造方法 図000006
  • 特許6762415-亀裂伝播抵抗性及び延性に優れた熱間成形部材、及びその製造方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6762415
(24)【登録日】2020年9月10日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】亀裂伝播抵抗性及び延性に優れた熱間成形部材、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20200917BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20200917BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20200917BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20200917BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20200917BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   C22C38/00 302A
   C22C38/00 301Z
   C22C38/06
   C22C38/58
   C21D9/46 P
   C21D9/46 J
   C21D9/46 U
   C21D9/46 Z
   C21D9/00 A
   C21D1/18 C
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-500276(P2019-500276)
(86)(22)【出願日】2017年7月7日
(65)【公表番号】特表2019-524993(P2019-524993A)
(43)【公表日】2019年9月5日
(86)【国際出願番号】KR2017007328
(87)【国際公開番号】WO2018009041
(87)【国際公開日】20180111
【審査請求日】2019年2月25日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0086248
(32)【優先日】2016年7月7日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】オ、 ジン−グン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ソン−ウ
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 ヨル−レ
(72)【発明者】
【氏名】パク、 ウォン−モ
【審査官】 瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/063467(WO,A1)
【文献】 特開2014−156653(JP,A)
【文献】 特開2014−019941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C21D 1/18
C21D 9/00
C21D 9/46
C22C 38/06
C22C 38/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.08〜0.30%、シリコン(Si):0.01〜2.0%、マンガン(Mn):3.1〜8.0%、アルミニウム(Al):0.001〜0.5%、リン(P):0.001〜0.05%、硫黄(S):0.0001〜0.02%、窒素(N):0.02%以下、残部Fe及びその他の不純物からなる素地鋼板、及び前記素地鋼板の少なくとも一面に亜鉛または亜鉛合金めっき層を含む熱間成形部材であって、
前記熱間成形部材は、微細組織として1〜30面積%の残留オーステナイトを含み、前記めっき層の表層から厚さ方向に0.5〜1.2μmの酸化層中のMn(重量%)/Zn(重量%)の含有量比が0.1以上である、亀裂伝播抵抗性及び延性に優れた熱間成形部材。
【請求項2】
前記素地鋼板は、次の(1)から(4)のグループのうち一つ以上のグループをさらに含む、請求項1に記載の亀裂伝播抵抗性及び延性に優れた熱間成形部材。
(1)クロム(Cr)及びモリブデン(Mo)のうち1種以上を含有量の合計で0.001〜2.0%
(2)チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)のうち1種以上を含有量の合計で0.001〜0.2%
(3)銅(Cu)及びニッケル(Ni)のうち1種以上を含有量の合計で0.005〜2.0%
(4)ボロン(B):0.0001〜0.01%
【請求項3】
前記熱間成形部材は、残部微細組織としてマルテンサイト及びベイナイトのうち1種以上を含むか、又は焼戻しマルテンサイト及びベイナイトのうち1種以上を含む、請求項1に記載の亀裂伝播抵抗性及び延性に優れた熱間成形部材。
【請求項4】
前記熱間成形部材は、旧オーステナイト粒径が10μm以下である、請求項1に記載の亀裂伝播抵抗性及び延性に優れた熱間成形部材。
【請求項5】
重量%で、炭素(C):0.08〜0.30%、シリコン(Si):0.01〜2.0%、マンガン(Mn):3.1〜8.0%、アルミニウム(Al):0.001〜0.5%、リン(P):0.001〜0.05%、硫黄(S):0.0001〜0.02%、窒素(N):0.02%以下、残部Fe及びその他の不純物からなる素地鋼板を準備した後、それに亜鉛または亜鉛合金めっき処理を行ってめっき鋼板を製造する段階と、
前記めっき鋼板を加熱炉に装入して1〜1000℃/sの昇温速度でAc3以上まで加熱した後、5〜10000秒間保持する段階と、
前記加熱及び保持されためっき鋼板を加熱炉から抽出し、50℃/s未満の平均冷却速度で400〜650℃の間の温度まで冷却した後、前記温度で熱間成形する段階と、
前記熱間成形後、1℃/s以上の速度で100℃以下に冷却して熱間成形部材を製造する段階と、を含み、
前記めっき鋼板の加熱の際に最大加熱温度がAc3+10℃超過〜Ac3+200℃未満の温度領域を満たし、
前記100℃以下に冷却した後、1〜20面積%の残留オーステナイトと残部マルテンサイト及びベイナイトのうち1種以上を含む微細組織が形成され、めっき層の表層から厚さ方向に0.5〜1.2μmの酸化層中のMn(重量%)/Zn(重量%)の含有量比が0.1以上である、亀裂伝播抵抗性及び延性に優れた熱間成形部材の製造方法。
【請求項6】
前記素地鋼板は、鋼スラブを1000〜1300℃で再加熱処理する段階と、前記再加熱された鋼スラブをAr3〜1000℃で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板に製造する段階と、前記熱延鋼板をMs点超過〜750℃以下で巻き取る段階とを含んで製造された熱延鋼板である、請求項5に記載の亀裂伝播抵抗性及び延性に優れた熱間成形部材の製造方法。
【請求項7】
前記素地鋼板は、前記熱延鋼板を酸洗した後、10〜80%の圧下率で冷間圧延する段階と、前記冷間圧延後、600〜900℃で1〜1000秒間連続焼鈍する段階とを含んで製造された冷延鋼板である、請求項6に記載の亀裂伝播抵抗性及び延性に優れた熱間成形部材の製造方法。
【請求項8】
前記熱延鋼板または酸洗された熱延鋼板を400〜700℃で1〜100時間バッチ焼鈍する段階をさらに含む、請求項7に記載の亀裂伝播抵抗性及び延性に優れた熱間成形部材の製造方法。
【請求項9】
前記素地鋼板は、次の(1)から(4)のグループのうち一つ以上のグループをさらに含む、請求項5に記載の亀裂伝播抵抗性及び延性に優れた熱間成形部材の製造方法。
(1)クロム(Cr)及びモリブデン(Mo)のうち1種以上を含有量の合計で0.001〜2.0%
(2)チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)のうち1種以上を含有量の合計で0.001〜0.2%
(3)銅(Cu)及びニッケル(Ni)のうち1種以上を含有量の合計で0.005〜2.0%
(4)ボロン(B):0.0001〜0.01%
【請求項10】
前記冷却して得られた熱間成形部材を150〜600℃に加熱した後、1〜100000秒間保持する焼戻し段階をさらに含み、前記焼戻し後、1〜30面積%の残留オーステナイトと残部焼戻しマルテンサイト及びベイナイトのうち1種以上を含む微細組織が形成される、請求項5に記載の亀裂伝播抵抗性及び延性に優れた熱間成形部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用材料として適した熱間成形部材に関するものであり、より詳細には、亀裂伝播抵抗性及び延性に優れた熱間成形部材、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、熱間成形部材(hot press formed member)は、自動車の軽量化及び燃費向上などのために自動車構造部材に広く適用されており、上記目的を達成するための様々な研究が行われている。
【0003】
一例として、特許文献1は、Alめっき鋼板を850℃以上に加熱した後、プレス(press)による熱間成形及び急冷を行うことにより、部材の引張強度を1500MPa以上の超高強度で確保することができる。また、Al−Fe合金化層の生成により、耐食性に優れた鋼板を提供することができる。
【0004】
しかし、特許文献1では、めっき鋼板の主相をAlで形成しているため、Alの犠牲防食効果を得ることが難しく、延性向上に対する考慮がなされていない。
【0005】
そこで、熱間成形部材の犠牲防食を効果的に得るための方案として、特許文献2では、Znめっき鋼材を880〜980℃で6〜15分間加熱した後、素地鋼板とめっき層の界面にバッファ層が形成されることを特徴としている。
【0006】
しかし、この場合、加熱温度が880℃以上となることにより、Znの表面に形成されるZn酸化物によって点溶接性に劣るだけでなく、延性を向上させようとする考慮もなされていない。その上、亀裂伝播抵抗性に劣って微細亀裂深さを10μm以下に抑制することは難しい。
【0007】
熱間成形部材が自動車の耐衝突部材として好適に適用されるためには、超高強度の確保だけではなく、耐食性及び亀裂伝播抵抗性に加え、疲労及び衝突特性を向上させなければならないため、それを達成することができる方案の開発が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6296805号明細書
【特許文献2】韓国公開特許第2014−0035033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一側面は、耐食性及び耐衝突性が求められる自動車構造部材または補強材として好適に適用することができる亀裂伝播抵抗性及び延性に優れた熱間成形部材、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面は、重量%で、炭素(C):0.08〜0.30%、シリコン(Si):0.01〜2.0%、マンガン(Mn):3.1〜8.0%、アルミニウム(Al):0.001〜0.5%、リン(P):0.001〜0.05%、硫黄(S):0.0001〜0.02%、窒素(N):0.02%以下、残部Fe及びその他の不純物を含む素地鋼板、及び上記素地鋼板の少なくとも一面に亜鉛または亜鉛合金めっき層を含む熱間成形部材であって、
上記熱間成形部材は、微細組織として1〜30面積%の残留オーステナイトを含み、上記めっき層の表層から厚さ方向に0.5〜1.2μmの酸化層中のMn(重量%)/Zn(重量%)の含有量比が0.1以上である、亀裂伝播抵抗性及び延性に優れた熱間成形部材を提供する。
【0011】
本発明の他の一側面は、上述の成分組成を有する素地鋼板を準備した後、それに亜鉛または亜鉛合金めっき処理を行ってめっき鋼板を製造する段階と、上記めっき鋼板を加熱炉に装入して1〜1000℃/sの昇温速度でAc3以上まで加熱した後、5〜10000秒間保持する段階と、上記加熱及び保持されためっき鋼板を加熱炉から抽出し、50℃/s未満の平均冷却速度で400〜650℃の間の温度まで冷却した後、上記温度で熱間成形する段階と、上記熱間成形後、1℃/s以上の速度で100℃以下に冷却して熱間成形部材を製造する段階と、を含み、
上記めっき鋼板の加熱の際に最大加熱温度がAc3+10℃超過〜Ac3+200℃未満の温度領域を満たし、上記100℃以下に冷却した後、1〜20面積%の残留オーステナイトと残部マルテンサイト及びベイナイトのうち1種以上を含む微細組織が形成される、亀裂伝播抵抗性及び延性に優れた熱間成形部材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、引張強度が1300MPa以上でありながら、延性及び亀裂伝播抵抗性に優れた熱間成形部材を提供することができる。
【0013】
また、本発明の熱間成形部材は、耐食性及び耐衝突性が求められる自動車構造部材または補強材として好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態によるハット(HAT)状の熱間成形部材の断面図を示した図である。
図2】本発明の一実施形態による発明例と比較例のめっき層の断面を測定した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、めっき鋼板を用いて熱間成形部材を製造するに当たって、強度だけでなく、延性及び亀裂伝播抵抗性を向上させるために鋭意研究した。
【0016】
その結果、上記めっき鋼板の成分組成に加え、熱間成形のための加熱及び成形温度、後熱処理条件などを最適化する場合、目標とする物性を有する熱間成形部材を提供することができることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0017】
通常の亜鉛または亜鉛合金めっき材を用いた熱間成形方法は、上記めっき材を高温で熱処理した後、その温度で成形を行う。しかし、上記高温加熱の際にめっき材の表層に軟質のZn酸化物が多量に形成され、成形のときに微細亀裂を起こすことにより、熱間成形部材の疲労特性及び曲げ特性に劣るという問題がある。また、粗大な旧オーステナイトが形成され、且つ最終熱間成形部材の微細組織として残留オーステナイトを十分に確保することが難しいため、耐衝突及び衝突吸収部材としての使用に適さないという問題がある。
【0018】
これに対し、本発明では、亜鉛または亜鉛合金めっき材を用いて熱間成形部材を製造するに当たって、上記めっき材内の合金成分のうちマンガン(Mn)の含有量を高めて、熱間成形のための高温加熱の際に、表面にZn酸化物の代わりに硬質のMn酸化物が相対的に多く形成されるようにすることで、成形のときにせん断変形が加わる壁部めっき層(例えば、図1の観察面)に微細亀裂の個数を増加させて、せん断変形応力を分散させる。その上、熱間成形温度を従来に比べて低い温度領域にすることにより、微細亀裂伝播抵抗性を向上させるという技術的意義がある。また、旧オーステナイト粒径を微細化させ、且つ残留オーステナイト相を十分に確保することにより、耐衝突特性を向上させることができる。さらに、後熱処理工程(本発明の焼戻し工程を意味する)を介して上記残留オーステナイト相をさらに安定化させ、降伏強度をより向上させることができる上、マルテンサイト内の転位密度を減少させて耐衝突特性をさらに向上させることができる。
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
本発明の一側面は、亀裂伝播抵抗性及び延性に優れた熱間成形部材が素地鋼板及び上記素地鋼板の少なくとも一面に亜鉛または亜鉛合金めっき層を含む熱間成形部材を提供することを目的とする。
【0021】
上記素地鋼板は、一定量のマンガン(Mn)を含有する熱延鋼板または冷延鋼板であることができ、より具体的には、上記素地鋼板は、重量%で、炭素(C):0.08〜0.30%、シリコン(Si):0.01〜2.0%、マンガン(Mn):3.1〜8.0%、アルミニウム(Al):0.001〜0.5%、リン(P):0.001〜0.05%、硫黄(S):0.0001〜0.02%、窒素(N):0.02%以下を含むことが好ましい。
【0022】
以下では、上記素地鋼板の合金組成を限定した理由について詳細に説明する。この際、特別な記載がない限り、各成分の含有量は重量%を意味する。
【0023】
C:0.08〜0.30%
炭素(C)は、熱間成形部材の強度を向上させるための必須元素である上、本発明では、優れた延性の確保のために形成されなければならない残留オーステナイトを確保するのに有利な元素であるため、適正範囲で添加される必要がある。
【0024】
上記Cの含有量が0.08%未満であると、十分な強度及び延性を確保することが難しくなるため、0.08%以上添加することが好ましい。しかし、その含有量が0.30%を超えて過剰になると、熱延材の冷間圧延時に上記熱延材の強度が高すぎて、冷間圧延性に著しく劣るだけではなく、点溶接性を大きく低下させるという問題がある。
【0025】
したがって、本発明では、上記Cの含有量を0.08〜0.30%に制限することが好ましい。
【0026】
Si:0.01〜2.0%
シリコン(Si)は、製鋼において脱酸剤として添加される。また、熱間成形部材の強度に最も大きく影響を及ぼす炭化物の生成を抑制し、且つ熱間成形のとき、マルテンサイトの生成後にマルテンサイトのラス(lath)粒界に炭素を濃化させて残留オーステナイトを確保するのに有利な元素である。
【0027】
かかるSiの含有量が0.01%未満であると、上述の効果を期待することが難しいだけでなく、鋼の清浄度を確保することができず、且つ含有量を制御するのに多くのコストを要するという問題がある。一方、その含有量が2.0%を超えると、亜鉛または亜鉛合金めっきの際にめっき性を大きく低下させるという問題があるため、好ましくない。
【0028】
したがって、本発明では、上記Siの含有量を0.01〜2.0%に制限することが好ましく、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは0.7%以下添加することができる。
【0029】
Mn:3.1〜8.0%
マンガン(Mn)は、本発明において非常に重要な元素であって、上記Mnは固溶強化効果を得ることができる上、Ac3温度(昇温のときにオーステナイトに100%変態する温度)を下げ、Ms温度(マルテンサイトの変態開始温度)を下げる役割を果たす。特に、本発明の場合、相対的に低い温度領域で熱間成形を行うが、加熱炉で加熱された材料を抽出した後に上記熱間成形のための温度で冷却する際に、Mnは強度低下の原因となるフェライトの形成を抑制するため、十分な量で添加する必要がある。
【0030】
上記Mnの含有量が3.1%未満であると、上述の効果を十分に得ることが難しくなる。一方、その含有量が8.0%を超えると、熱間成形を行う前に鋼板の強度が上昇しすぎて作業性に劣り、材料の温度をさらに高めても熱間成形性が低下するだけではなく、合金成分の原価上昇を招いて製造競争力に劣るという欠点がある。
【0031】
したがって、本発明では、上記Mnの含有量を3.1〜8.0%に制限することが好ましく、より有利には3.5〜8.0%含有することが好ましい。
【0032】
Al:0.001〜0.5%
アルミニウム(Al)は、上記Siと共に製鋼において脱酸作用を行って鋼の清浄度を高めるのに有効な元素である。
【0033】
かかるAlの含有量が0.001%未満であると、上述の効果を得ることが難しくなる。一方、その含有量が0.5%を超えると、Ac3温度が上昇しすぎて熱間成形のための加熱温度をさらに高めなければならないという問題がある。
【0034】
したがって、本発明では、上記Alの含有量を0.001〜0.5%に制限することが好ましい。
【0035】
P:0.001〜0.05%
リン(P)は、鋼中に不純物として存在し、かかるPの含有量を0.001%未満にするためには、多くの製造コストを要するという問題がある。また、その含有量が0.05%を超えると、熱間成形部材の溶接性を大きく脆化させるという問題があるため、好ましくない。
【0036】
したがって、本発明において上記Pの含有量は0.001〜0.05%に制限することが好ましく、より有利には0.02%以下に制限することができる。
【0037】
S:0.0001〜0.02%
硫黄(S)は、鋼中に不純物として存在し、熱間成形部材の延性、衝撃特性及び溶接性を阻害する元素であるため、その含有量を0.02%以下に制限することが好ましい。但し、その含有量を0.0001%未満とするには製造コストが大きく上昇するという問題があるため、Sの下限を0.0001%に制限することが好ましい。
【0038】
したがって、本発明において、上記Sの含有量を0.0001〜0.02%に制限することが好ましく、より有利には0.01%以下に制限することができる。
【0039】
N:0.02%以下
窒素(N)は、鋼中に不純物として含まれる元素であり、その含有量が0.02%を超えると、スラブ連鋳の際のクラック発生に敏感になるだけではなく、衝撃特性に劣るという問題がある。
【0040】
したがって、本発明では、上記Nの含有量を0.02%以下に制限することが好ましい。但し、上記Nの含有量を0.0001%未満に制御する場合、製造コストが大きく上昇するという問題があるため、上記Nの下限を0.0001%に制限することが好ましい。
【0041】
一方、本発明の素地鋼板は、上述の合金成分の他に、後述の元素をさらに含むことができる。具体的には、次の(1)から(4)のグループのうち一つ以上のグループをさらに含むことが好ましく、以下では各グループごとに合金組成を限定した理由について詳細に説明する。
(1)クロム(Cr)及びモリブデン(Mo)のうち1種以上を含有量の合計で0.001〜2.0%
(2)チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)のうち1種以上を含有量の合計で0.001〜0.2%
(3)銅(Cu)及びニッケル(Ni)のうち1種以上を含有量の合計で0.005〜2.0%
(4)ボロン(B):0.0001〜0.01%
【0042】
Cr及びMoのうち選択された1種以上の合計:0.001〜2.0%
クロム(Cr)及びモリブデン(Mo)は、硬化能向上及び析出強化効果によって強度及び結晶粒微細化を確保するのに有利な元素である。かかるCr及びMoのうち1種以上の含有量の合計が0.001%未満であると、上述の効果を得ることが難しくなる。一方、2.0%を超えると、その効果が飽和するだけではなく、むしろ溶接性の低下及びコストの上昇を招くという問題があるため、好ましくない。
【0043】
したがって、本発明において、上記Cr及びMoのうち1種以上を添加する際に、その含有量を合計で0.001〜2.0%に制限することが好ましい。
【0044】
Ti、Nb及びVのうち選択された1種以上の合計:0.001〜0.2%
チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)は、微細析出物を形成して熱間成形部材の強度向上と共に結晶粒微細化によって残留オーステナイトの安定化及び衝撃靭性を向上させるという効果がある。かかるTi、Nb及びVのうち1種以上の含有量の合計が0.001%未満であると、上述の効果を期待することが難しくなる。一方、0.2%を超えると、その効果が飽和するだけではなく、むしろ合金鉄のコスト上昇を招くため、好ましくない。
【0045】
したがって、本発明では、上記Ti、Nb及びVのうち1種以上を添加する際に、その含有量を合計で0.001〜0.2%に制限することが好ましい。
【0046】
Cu及びNiのうち選択された1種以上の合計:0.005〜2.0%
銅(Cu)は、微細析出物を形成して強度を向上させる元素として添加されることができ、ニッケル(Ni)は、上記Cuの単独添加の際に熱間脆性を引き起こすことがあるため、必要に応じて添加される。上記Cu及びNiのうち1種以上の含有量の合計が0.005%未満であると、上述の効果を得ることが難しくなり、一方、2.0%を超えると、コストが上昇しすぎるという問題がある。
【0047】
したがって、本発明において、上記Cu及びNiのうち1種以上を添加する際に、その含有量を合計で0.005〜2.0%に制限することが好ましい。
【0048】
B:0.0001〜0.01%
ボロン(B)は、少量の添加でも硬化能を向上させることができる上、旧オーステナイト結晶粒界に偏析して、P及び/またはSの粒界偏析による熱間成形部材の脆性発生を抑制することができる元素である。かかるBの含有量が0.0001%未満では、上述の効果を得ることが難しくなる。一方、Bの含有量が0.01%を超えると、その効果が飽和するだけではなく、むしろ熱間圧延の際に脆性を引き起こすという問題がある。
【0049】
したがって、本発明において上記Bを添加する際に0.0001〜0.01%に制限することが好ましく、より有利には0.005%以下に制限することができる。
【0050】
上述の合金成分を除いた残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料または周囲の環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるため、それを排除することは難しい。これら不純物は、通常の製造過程の技術者であれば誰でも分かるものであるため、そのすべての内容を具体的に本明細書に記載しない。
【0051】
本発明の熱間成形部材は、上述の成分組成を有する素地鋼板の少なくとも一面にめっき層を含む。この際、めっき層は亜鉛または亜鉛合金めっき層であり、一例として、亜鉛(Zn)めっき層、亜鉛(Zn)−鉄(Fe)めっき層、亜鉛(Zn)−アルミニウム(Al)合金めっき層、亜鉛(Zn)−アルミニウム(Al)−マグネシウム(Mg)合金めっき層であることができる。但し、これに限定されるものではない。
【0052】
本発明の熱間成形部材は、微細組織中に残留オーステナイトを1〜30面積%含むことが好ましい。
【0053】
もし、上記残留オーステナイトの相分率が1%未満であると、目標とするレベルの延性を確保することが難しい。一方、上記残留オーステナイトの相分率が30%を超えると、より優れた延性の確保は可能であるが、そのためには合金成分のうち炭素(C)またはマンガン(Mn)をより高い含有量で添加しなければならない。このような場合、熱間成形部材の点溶接性及び衝撃特性を著しく低下させるという問題があるため、好ましくない。
【0054】
一方、上記残留オーステナイトの相分率は、後述の通り、熱間成形条件によって制御することができる。本発明で提案する条件で熱間成形した後に冷却まで行う場合には、1〜20面積%の残留オーステナイト相を形成することができ、上記冷却後に焼戻し工程をさらに行う場合には、1〜30面積%の残留オーステナイト相を確保することができる。
【0055】
上記残留オーステナイトの相分率は、X線−回折分析試験を用いてオーステナイトピークの面積を計算することで導出することができる。
【0056】
上記残留オーステナイト相を除いた残部は、マルテンサイト及びベイナイトのうち1種以上であるか、焼戻しマルテンサイト及びベイナイトのうち1種以上であることが好ましい。
【0057】
また、本発明の熱間成形部材は、旧オーステナイト粒径(PAGS、Austenite Grain Size)が10μm以下であることが好ましい。もし、旧オーステナイト粒径が10μmを超えると、熱処理中にPまたはSのような不純物が粒界に偏析(segregation)する単位面積当たりの量が増加するだけでなく、微細亀裂の伝播を抑制することが難しいため、衝突特性に劣るという問題がある。
【0058】
したがって、上記旧オーステナイト粒径は10μm以下であることが好ましく、より好ましくは7μm以下、さらに好ましくは5μm以下であることが有利である。
【0059】
上記旧オーステナイト粒径は、小さければ小さいほど不純物が粒界に偏析する量を減らすことができ、且つ微細亀裂の伝播を抑制するのに有利である。しかし、その大きさを0.1μm未満とするには製造コストが急激に上昇するという問題があるため、その下限を0.1μmに制限することが好ましい。
【0060】
さらに、本発明の熱間成形部材は、めっき層の表層から厚さ方向に0.5〜1.2μmの酸化層中のMnとZnの含有量比(Mn(重量%)/Zn(重量%))が0.1以上であることが好ましい。
【0061】
このように、めっき層の表層部内の酸化層中のMn酸化物の量を増加させることにより、熱間成形中に主にせん断変形の影響を受ける側面部(例えば、図1の観察面)で発生する微細亀裂を効果的に抑制することができる。
【0062】
上記酸化層中のMn及びZnの含有量比(Mn/Zn)の上限は特に限定しないが、その値が2.0を超えるためには、Mnの含有量が8%を超えなければならない。その場合、製造コストが上昇し、操業性に劣る恐れがある。したがって、上記MnとZnの含有量比の上限を2.0に制限することが好ましい。
【0063】
以下、本発明の他の一側面である、亀裂伝播抵抗性及び延性に優れた熱間成形部材の製造方法について詳細に説明する。
【0064】
まず、上述の合金成分を満たす素地鋼板を準備した後、それに亜鉛または亜鉛合金めっき処理を行ってめっき鋼板を製造することが好ましい。
【0065】
上記素地鋼板は、上述のように、熱延鋼板または冷延鋼板であることができ、これは、後述の方法により製造されることができる。
【0066】
上記熱延鋼板は、上述の合金成分を有する鋼スラブを再加熱した後、仕上げ熱間圧延及び巻取り工程を経て製造することが好ましい。
【0067】
この際、上記再加熱工程は、上記鋼スラブを1000〜1300℃に加熱することが好ましい。しかし、上記加熱温度が1000℃未満であると、スラブの組織及び成分を均一化することが難しくなるという問題がある。一方、上記加熱温度が1300℃を超えると、過剰な酸化及び設備の劣化を引き起こす恐れがあるため、好ましくない。
【0068】
その後、上記再加熱されたスラブを仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造する。この際、Ar3以上〜1000℃以下で仕上げ熱間圧延を行うことが好ましい。しかし、上記仕上げ熱間圧延温度がAr3未満であると、二相域で圧延が行われ、表層の混粒組織と鋼板の形状を制御することが難しくなる。一方、上記仕上げ熱間圧延温度が1000℃を超えると、熱延材の結晶粒が粗大化するという問題がある。
【0069】
次に、上記に従って製造された熱延鋼板をMs超過〜750℃以下でコイル状に巻き取ることが好ましい。この際、巻取温度がMs以下であると、熱延材の強度が高くなりすぎて、後続して冷間圧延を行う場合、負荷が大きくなるという問題がある。一方、巻取温度が750℃を超えると、熱延材の粒界酸化が過剰となって、酸洗性に劣るという問題がある。
【0070】
上記冷延鋼板は、上記に従って製造された熱延鋼板を酸洗及び冷間圧延した後、焼鈍熱処理を行って製造することが好ましい。
【0071】
この際、冷間圧延は、目標とする厚さを有する冷延鋼板を製造するために行われるものであり、10〜80%の冷間圧下率で行うことが好ましい。
【0072】
上記によって得られた冷延鋼板の強度を下げるために、連続焼鈍炉で焼鈍熱処理を行うことが好ましい。この際、600〜900℃で1〜1000秒間連続焼鈍を行うことにより、鋼板の強度を効果的に下げることができる。
【0073】
一方、上記酸洗処理前または酸洗処理後、冷間圧延を行う前の熱延鋼板に対して、バッチ焼鈍(batch annealing)工程を経ることができる。これは熱延材の強度を下げるために行われるものであり、具体的には、400〜700℃で1〜100時間の間行うことが好ましい。
【0074】
上記に従って製造された熱延鋼板または冷延鋼板に対して、めっき処理を行ってめっき鋼板を製造することが好ましい。
【0075】
上記めっき工程については特に限定しないが、亜鉛または亜鉛合金めっきであることができる。具体的に、素地鋼板が熱延鋼板である場合には、溶融亜鉛めっき、溶融亜鉛合金めっき、または電気亜鉛めっきのいずれかを行ってもよいが、上記素地鋼板が冷延鋼板である場合には、電気亜鉛めっきを行うことが好ましい。一例として、上記溶融亜鉛合金めっきとしては、亜鉛−アルミニウム合金めっき、亜鉛−アルミニウム−マンガン合金めっきなどであることができる。上記それぞれのめっき工程は、通常の条件で行うことができるため、その条件については特に限定しない。
【0076】
さらに、めっき密着性を向上させるために、めっき処理前に鉄(Fe)またはニッケル(Ni)などの金属コーティングを行うことができる。
【0077】
このように、本発明の一実施形態によって得られためっき鋼板に対して、熱間成形を行って熱間成形部材を得ることができる。
【0078】
まず、上記めっき鋼板を一定温度以上に加熱した後に保持することが好ましい。この際、上記めっき鋼板を加熱炉に装入した後、1〜1000℃/sの昇温速度でオーステナイト単相域以上であるAc3以上に加熱し、5〜10000秒間保持することが好ましい。
【0079】
より好ましくは、上述の昇温速度で加熱する際に最大加熱温度はAc3+10℃超過〜Ac3+200℃未満の温度領域を満たすことが好ましい。上記最大加熱温度がAc3+10℃以下であると、温度をAc3以上に加熱しても、C及び/またはMnが偏析していない局部領域で完全オーステナイト化が進行せず、旧フェライトが残存するようになる。これにより、降伏強度を十分に向上させることが難しいという問題がある。また、熱間成形部材のスプリングバック(springback)が過剰となって形状凍結性の確保が難しくなるという問題がある。一方、上記最大加熱温度がAc3+200℃以上であると、十分な強度及び形状凍結性の確保は簡単であるが、めっき層の表面に酸化物が過剰に生成されて点溶接性を阻害するという問題がある。
【0080】
したがって、上述の温度領域でめっき鋼板を保持することが好ましい。この際、保持時間が5秒未満であると、完全オーステナイト化が進行しないだけでなく、表層酸化物中においてMn/Znの含有量比を0.1以上確保することが難しくなる。一方、保持時間が10000秒を超えると、表層に酸化物が過剰に生成されて点溶接性を低下させる恐れがある。
【0081】
上記に従って加熱及び保持されためっき鋼板を加熱炉から抽出した後、熱間成形のための温度まで冷却することが好ましい。この際、冷却速度は50℃/s未満に制御することが好ましい。但し、冷却速度を50℃/s以上にするためには、別途の冷却設備が必要とされ、これは製造コストの上昇を招くため、好ましくない。より好ましくは30℃/s未満、さらに好ましくは15℃/s未満で冷却を行うことが好ましい。
【0082】
一方、上記冷却速度が1℃/s未満であると、冷却途中にフェライトが生成されて熱間成形部材の強度が低下することがあるため、好ましくない。したがって、上記冷却の際の冷却速度の下限は1℃/sに制限することが好ましい。
【0083】
上記に従って冷却を完了した後、熱間成形を行うことが好ましい。本発明では、微細亀裂の生成を抑制し、且つ亀裂伝播抵抗性を向上させるために、上記熱間成形のときにその温度を400〜650℃に制御する。
【0084】
通常、熱間成形のための温度は、加工性及びプレス(press)負荷を低減するために、できるだけ高めることが好ましい。しかし、亜鉛または亜鉛合金めっき鋼板を高温で熱処理する場合、亜鉛が結晶粒界に拡散して入ることにより、素地鉄の結晶粒界強度が低下し、熱間成形部材における微細亀裂の生成及び上記亀裂の伝播がしやすくなるという問題がある。
【0085】
これに対し、本発明では、熱間成形のときにその温度を通常の温度ではなく、650℃以下で行うことが好ましい。上記熱間成形温度が650℃以下であると、熱処理温度、素地鉄成分などによって変わることはあるが、結晶粒界の強度が素地鉄の強度よりも高くなって、熱間成形部材において微細亀裂の生成を抑制し、且つ亀裂伝播抵抗性を向上させることができるようになる。但し、上記熱間成形温度が400℃未満と低くなりすぎると、熱間成形前にマルテンサイトまたはベイナイト変態が生じて熱間成形性が低下するという問題がある。
【0086】
したがって、本発明において、上記熱間成形は400〜650℃で行うことが好ましい。
【0087】
上述の温度範囲で熱間成形を行った直後に、1℃/s以上の冷却速度で100℃以下に冷却することにより、最終熱間成形部材を製造することが好ましい。
【0088】
この際、冷却速度が1℃/s未満であると、最終微細組織としてフェライトが生成され、意図する超高強度の確保が難しくなるという問題がある。
【0089】
通常、22MnB5鋼材の場合、臨界冷却速度が25℃/s以上であるが、本発明の場合は、鋼成分組成のうちMnを3.1%以上添加するため、1℃/s以上の遅い冷却速度でもフェライトが生成されない。但し、生産性を考慮して、好ましくは5℃/s以上、より好ましくは10℃/s以上の冷却速度で冷却を行うことが好ましい。上記冷却速度の上限については特に限定しないが、設備投資の観点から、1000℃/sに限定することが好ましい。
【0090】
上記冷却が完了すると、微細組織として1〜20面積%の残留オーステナイトと残部マルテンサイト及びベイナイトのうち1種以上を含む熱間成形部材を得ることができる。
【0091】
一方、上記に従って冷却された熱間成形部材を150〜600℃に加熱した後、1〜100000秒間保持する焼戻し段階をさらに含むことができる。これは、熱間成形部材の微細組織のうち残留オーステナイトの安定度を高めるために行われるものであり、このように焼戻し処理した後に冷却を完了すると、微細組織として1〜30面積%の残留オーステナイトと残部焼戻しマルテンサイト及びベイナイトのうち1種以上を含む熱間成形部材を得ることができる。
【0092】
上記焼戻しの際に、その温度が150℃未満であるか、保持時間が1秒未満であると、残留オーステナイト相の安定度を十分に確保することが難しくなるという問題がある。一方、温度が600℃を超えると、熱間成形部材の強度が急激に低下するという問題が発生するだけではなく、旧オーステナイト粒径が粗大に成長して衝撃靭性を低下させ、且つ熱による歪みが発生して、部材の形状精度を低下させるという問題がある。また、保持時間が100000秒を超えると、熱間成形部材の強度を急激に低下させるだけでなく、時間が過度に必要となり、部材の生産性が低下するという問題がある
【実施例】
【0093】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものであって、本発明の権利範囲を限定するためのものではないという点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項とそれから合理的に類推される事項によって決定されるものである。
【0094】
(実施例)
下記表1の合金組成を有する厚さ40mmのインゴットを真空溶解した後、1200℃の加熱炉で1時間加熱した。その後、900℃で仕上げ熱間圧延してから680℃で巻き取り、最終厚さ3mmの熱延鋼板を製造した。炉冷温度は680℃とした。
【0095】
以後、上記熱延鋼板を酸洗した後、50%の冷間圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造した。この際、上記熱延鋼板の引張強度が1500MPa以上である場合に限り、上記冷間圧延前にバッチ焼鈍を行った。上記バッチ焼鈍は30℃/h(時間)の速度で600℃まで昇温した後、10時間保持してから30℃/h(時間)の冷却速度で室温まで冷却した。次に、冷延鋼板に対して780℃で連続焼鈍を行った後、溶融亜鉛めっき(GI)または合金化溶融亜鉛めっき(GA)を行ってめっき鋼板を製造した。一部冷延鋼板に対しては、電気亜鉛めっき(EG)を行ってめっき鋼板を製造した。この際、上記GI、GA及びEGは通常の条件下で行った。
【0096】
上記に従って製造されたそれぞれのめっき鋼板を、図1のようなハット(HAT)状の熱間成形部材に製造した。この際、大気雰囲気に保持される加熱炉に上記めっき鋼板を装入し、最大目標温度まで加熱してから目標時間の間保持した後に、加熱炉から抽出した。以後、熱間成形温度まで冷却した後、その温度で熱間成形及び急冷を行ってハット(HAT)状の熱間成形部材を製造した。上記加熱、冷却、熱間成形のときの条件は、下記表2に示した。
【0097】
それぞれの熱間成形部材の試験片を用いて、引張試験、微細組織観察、XRD及びGDS分析を行った。引張試験はJIS 5号試験片を用いて、毎分10mmの試験速度で行った。微細組織の相分率は、Cuターゲット(target)X線回折分析試験から得られた残留オーステナイト(γ)とマルテンサイトピークの積分強度から下記式を用いて計算し、その結果を下記表2に示した。
【数1】
【0098】
そして、旧オーステナイト結晶粒サイズ(PAGS)は、フッ酸が添加されたエッチング法を用いて旧オーステナイト結晶粒界を現出させた後、平均結晶粒サイズを、画像分析プログラムを用いて、素地鉄の厚さの1/4の地点で5箇所測定してその平均値を求め、その結果を下記表2に示した。
【0099】
また、ハット(HAT)状の熱間成形部材において、下端R=4mmの曲面部から30mmの地点までのめっき層の断面を光学顕微鏡で観察した後、素地鉄とめっき層の界面から素地鉄を貫通した最大亀裂の深さを光学画像分析を用いて測定した。この際、最大亀裂深さが10μm超えた試験片は、顧客社の要求に基づいて不良と判定した。また、表層酸化物中のMn/Znの含有量比を測定するために、GDS(Glow Discharge Spectrometer)を用いて、表層から1μmの地点で平均Mn/Znの含有量比の値を求めて、その結果を下記表2に示した。
【0100】
一部がハット(HAT)状の熱間成形部材に対しては、目標とする温度に予め加熱された加熱炉に装入して焼戻しを行った後に空冷した。この際、焼戻し条件は表3に示した通りである。
【0101】
このように、焼戻し処理された熱間成形部材の試験片を用いて、上記と同様の方法で引張試験及びXRD分析を行い、機械的性質と微細組織の相(残留オーステナイト)分率を測定し、その結果を下記表3に示した。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
(上記表1において、TSは引張強度(Tensile Strength)、Elは伸び(Elongation)を意味する。また、上記表1において、残留オーステナイトの相分率を除いた残りは、ベイナイト及びマルテンサイトのうち1種以上である。)
【0104】
【表3】
(上記表1において、YSは降伏強度(Yield Strength)、TSは引張強度(Tensile Strength)、Elは伸び(Elongation)を意味する。また、上記表1において、残留オーステナイトの相分率を除いた残りは、ベイナイト及び焼戻しマルテンサイトのうち1種以上である。)
【0105】
表1の鋼Gは、22MnB5鋼の合金組成として、Mnの含有量が1.2%と低い。一方、鋼AからFは、Mnの含有量が3.8〜7.5%と、本発明の合金組成をすべて満たす。
【0106】
表2に示されているように、鋼種A−1からA−5は、本発明で提案する熱間成形条件を満たす発明例であって、これらはいずれも、残留オーステナイトの相分率が1%以上であり、PAGSは10μm以下、Mn/Znの含有量比が0.1以上であって、最大亀裂深さが10μm以下に形成された。また、超高強度が確保され、且つ優れた伸びが確保された。
【0107】
一方、鋼種A−6及びA−7は、熱間成形温度が710℃と高い場合であって、残留オーステナイト相が1%以上形成されたにも関わらず、最大亀裂深さが10μmを超えたことが確認できる。また、鋼種A−8は、加熱後の保持の際における保持時間が短すぎる場合であって、Mn/Znの含有量比を0.1以上確保することができず、最大亀裂深さが10μmを超えた。
【0108】
また、鋼種B−1、C−1、D−1、E−1及びF−1はいずれも、本発明で提案する熱間成形条件を満たすことにより、残留オーステナイトの相分率が1%以上であり、PAGSは10μm以下、Mn/Znの含有量比が0.1以上確保され、且つ微細亀裂が観察されなかった。そして、超高強度が確保され、且つ優れた伸びが確保された。
【0109】
一方、鋼種G−1は、合金組成だけではなく熱間成形温度が高く、残留オーステナイト相が十分に形成されなかった。その上、PAGSが粗大で、Mn/Zn含有量比が0.1未満に形成されて、最大亀裂深さが28.5μmと非常に深く形成された。鋼種G−2の場合には、熱間成形温度が本発明を満たしたにも関わらず、PAGSが粗大で、Mn/Zn含有量比が0.1未満に形成された。これにより、最大亀裂深さが10μmを超え、引張強度が631MPaと、超高強度の確保が不可能であった。
【0110】
図2は鋼種B−1(発明例6)と鋼種A−6(比較例1)の熱間成形部材の微細亀裂を観察した結果を示したものである。
【0111】
発明例6の場合には、素地鉄を貫通した微細亀裂がほとんど観察されないのに対し、比較例1の場合には、めっき層から素地鉄を貫通した亀裂の深さが10μmを超えることが確認できる。
【0112】
表3に示されているように、製造された熱間成形部材に焼戻しを行った場合、発明例11から26(A−3−1からF−1−1)は、焼戻し後に残留オーステナイトが十分に確保されて伸びがさらに向上し、且つ降伏強度が高いことが確認できる。
【0113】
一方、比較例6から9(G−1−1からG−1−4)は、焼戻し後にも残留オーステナイト相が十分に形成できなくて伸びに劣り、比較例10(G−1−5)の場合には超高強度の確保が不可能であった。
図1
図2