(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6762655
(24)【登録日】2020年9月11日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】表面加工樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
B29C 33/42 20060101AFI20200917BHJP
B29C 45/37 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
B29C33/42
B29C45/37
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-37357(P2016-37357)
(22)【出願日】2016年2月29日
(65)【公開番号】特開2017-154289(P2017-154289A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2019年2月25日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154782
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 知二
(72)【発明者】
【氏名】上垣 大和
(72)【発明者】
【氏名】石川 千恵
(72)【発明者】
【氏名】新田 隆次
【審査官】
北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−028152(JP,A)
【文献】
特開平04−191022(JP,A)
【文献】
特開平11−179816(JP,A)
【文献】
特開2008−274521(JP,A)
【文献】
特開2013−210620(JP,A)
【文献】
特開2014−029366(JP,A)
【文献】
特開2014−029389(JP,A)
【文献】
特開2014−209230(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/173258(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/42
B29C 45/00−45/84
B29C 59/00−59/18
B60R 3/00− 7/14
D06N 1/00− 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に配置される第1の凹部、及び、第1の凸部からなる表面加工を有する表面加工樹脂成形品であって、
前記第1の凹部は網目状に配置され、
前記第1の凸部は前記第1の凹部によって取り囲まれた領域上の平滑面として形成され、
少なくとも前記第1の凸部は、
表面に(25±3μm)の高さを有する微細な第2の凸部、
を有し、
前記第2の凸部は、
前記第1の凸部の表面において(160±10μm)のピッチでランダムに配置されること、
を特徴とする表面加工樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面加工樹脂成形品に関し、特に、微細凸部を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の表面加工樹脂成形品について、
図4に示す内装品1を用いて説明する。内装品1は、例えば車両である自動車のコンソールボックスの表面やドアの内装面あるいはインストルメントパネルの表面に使用する。
【0003】
このような内装品1は、材質がPVCもしくはTPU,TPOなどの樹脂であり、
図4(a)に示すように表面に凸曲面2を複数有し、この各凸曲面2の表面に、
図4(b)に示すように微細な突起3を複数均一に形成してある。そして、この突起3は、以下に示す(1)〜(3)の条件を満たしている。
【0004】
(1) 突起3の高さHが5μm以上、32μm以下
(2) 突起3の高さHと突起3相互の間隔Pとの比H/Pが1/5から1/2の範囲、または突起3の高さHと突起3相互間に形成される凹部5相互の間隔Wとの比H/Wが1/5から1/2の範囲
(3) 突起3相互の間隔Pと凹部5相互の間隔Wとが同一(P=W)
【0005】
なお、上記した突起3は、球体をほぼ半分にした半球状を呈している。
【0006】
このような突起3を内装品1の表面に複数均一に形成することで、人が触ったときの触感が、しっとりとしたもの、つまり、つるつるとしたプラスチックや金属のような触感ではなく、またシボ模様のようなざらざらとした触感でもなく、多少の水分を含んでいるようで適度な摩擦感が得られるようなものである。
【0007】
内装品1を成形する際に使用する型の製造工程について、説明する。ただし、以下の説明において、符号は後述する特許文献1の記載に基づき、当該文献が参照される。まず、加工用工具11を用いNC加工によって内装品1の表面形状と同形状の表面形状を備える木型13を製作する。続いて、この製作した木型13の表面に、PVCやレザーからなる表皮15を貼付する。
【0008】
なお、この表皮15の表面には、あらかじめ粒径30μm程度のPPもしくはアクリルなどからなる粒子17を接着剤にて貼り付けておく。この粒子17の表皮15への接着方法としては、接着剤を塗布した表皮15上に多量の粒子17を振り掛け、それら粒子17の接着剤上に積層された余分な粒子17を刷毛やブラシを用いて掃くようにようにして除去する。
【0009】
その後、木型13の表面形状にほぼ整合する凹形状の型19を用意し、この際、凹形状の型19の外周端部には突部19aを形成し、この突部19aを木型13の外周部に当接させることで、これら各型19,13相互間に隙間21を形成する。そして、この隙間21にシリコン吐出ノズル23から液状のシリコン25を吐出して充填し、木型13の表面形状(粒子17)を型取りする(製品形状の反転)。
【0010】
上記隙間21へのシリコン25の充填が完了し、このシリコン25が凝固したら、粒子17を表面に備える木型13を凹形状の型19から外す。そして、型19の表面に付着しているシリコン25の表面には、前記
図5(b)に示した粒子17相当の微細な凹部25aが形成されることになる。
【0011】
次に、導電性の材料(ニッケルが蒸着できるものであればよい)をシリコン25の表面に流し込み、基本型27を作製する。その後、この作製した基本型27を脱型する。
【0012】
続いて、上記した基本型27を、溶解したニッケル29を収容している電鋳槽31に浸漬し、基本型27の表面にニッケル層33を積層させる。基本型27からニッケル層33を引き離すことで、このニッケル層33からなる電鋳型33Aが完成する。
【0013】
そして、上記完成した電鋳型33Aを利用して内装品1などの製品を製造する(以上、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2011−104987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前述の内装品1には、以下に示すような改善すべき点がある。内装品1では、成形する際に使用する金型の製造するために、粒子17を木型に貼り付け、木型13の表面形状(粒子17)を凹形状の型19を用いて型取りし、シリコン25を用いて基本型27を作製し、基本型27の表面にニッケル層33を積層させ、基本型27からニッケル層33を引き離すことで、このニッケル層33からなる電鋳型33Aを生成する。このように、非常に複雑で手間暇がかかる作業を要するため、製造コストがかかり、また、製造に時間がかかるため、結果として内装品1が高価なものとなる、という改善すべき点がある。
【0016】
そこで、本発明は、安価で簡単に触感のいい表面加工樹脂成形品を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明における課題を解決するための手段及び発明の効果を以下に示す。
【0018】
本発明に係る表面加工樹脂成形品は、表面に配置される第1の凹部、及び、第1の凸部からなる表面加工を有する表面加工樹脂成形品であって、前記第1の凹部は網目状に配置され、前記第1の凸部は前記第1の凹部によって取り囲まれた領域上の平滑面として形成され、少なくとも前記第1の凸部は、表面に
(25±3μm)の高さを有する微細な第2の凸部、を有し、前記第2の凸部は、前記第1の凸部の表面において
(160±10μm)のピッチでランダムに配置されること、を特徴とする。
【0019】
これにより、触感のいい表面加工樹脂成形品を、安価で簡単に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る表面加工樹脂成形品の一実施例であるシボ表面加工樹脂成形品100の断面概略を示す図である。
【
図2】シボ表面加工樹脂成形品100の一部拡大図であり、Aは第1の凸部103を、Bは第2の凸部105を、それぞれ示す図である。
【
図3】シボ表面加工樹脂成形品100に関するサンプル試験の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明していく。
【実施例1】
【0022】
本発明に係る表面加工樹脂成形品の一実施形態である自動車の内装品に用いられるシボ表面加工樹脂成形品100について、
図1を用いて説明する。
図1に、シボ表面加工樹脂成形品100の表面断面の概略図を示す。
【0023】
樹脂成型品100は、表面に、網目状に配置される第1の凹部101、第1の凹部101によって取り囲まれた領域に形成される第1の凸部103を有している。なお、第1の凹部101及び第1の凸部103は、いわゆるシボ表面加工によって形成される。
【0024】
第1の凸部103は、表面に微細な第2の凸部105を有している。第2の凸部105は、第1の凸部103の表面において、ランダムに配置される。ここで、第2の凸部105は、高さが22μm〜28μm、隣接する第2の凸部105間のピッチが150μm〜170μm、として形成される。なお、第1の凹部101につても、同様に第2の凸部105を有している。
【0025】
図2Aに示すように、比較的広く、平滑な平面を有する第1の凸部103に、さらに、
図2Bに示すような微細な第2の凸部105(図中濃い点部分)をランダムに形成することによって、使用者がシボ加工表面に触れた際の触感をよくすることができる。つまり、比較的大きな平滑面に、微細な凸部をランダムに配置することによって、シボ表面加工の触感をよくすることができる。
【0026】
なお、発明者は、シボ表面加工樹脂成形品100を製造するにあたり、第2の凸部105についていくつかのサンプルを作成し、所定人数によるサンプル試験を実施した。サンプルについては、
図3に示すように、第2の凸部105の高さH(
図1参照)を2種類(25μm、35μm)、それぞれの高さについてピッチLp(
図1参照)を5種類(160μm、175μm、190μm、205μm、220μm)、合計10種類作成した。その結果、第2の凸部105について、高さが25μm、ピッチが160μm、175μm、190μm、205μmについて、従来の一般的なシボ表面加工樹脂成形品に比して、触った際の触感がよい、との結果を得ている。その中でも、高さHが25μm、ピッチLpが160μmのサンプルが、最も触感がいいとの評価が得られたため、高さについては±3μm、ピッチについては±10μmの範囲を最適値として設定した。
【0027】
このサンプル試験からも、比較的大きな平滑面に、微細な凸部をランダムに配置することによって、シボ表面加工の触感がよくなることが分かる。
【0028】
シボ表面加工樹脂成形品100の製造においては、金型を製造する際に、フィルムを用いたシート貼りエッチング工法を用いて、金型の表面にシボ表面加工を施す。また、製造した金型を用いた射出成形によって、シボ表面加工樹脂成形品100を製造する。
【0029】
[他の実施例]
(1)シボ表面加工樹脂成形品100の使用場所:前述の実施例1においては、シボ表面加工樹脂成形品100を自動車の内装品に使用するとしたが、いい触感が求められる場所であれば、例示のものに限定あれない。
【0030】
(2)表面加工:前述の実施例1においては、表面加工としてシボ加工を例示したが、比較的広い面積の第2の凸部を有するものであれば、例示のものに限定されない。例えば、ディンプル加工や、小毛穴を有する革加工であってもよい。
【0031】
(3)第2の凸部を有する場所:前述の実施例1においては、第1の凹部101、及び、第1の凸部103に、第2の凸部105が形成されるとしたが、第1の凸部103のみに形成されるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る表面加工樹脂成形品は、例えば、自動車の内装品に用いることができる。
【符号の説明】
【0033】
100 表面加工樹脂成形品
101 第1の凹部
103 第1の凸部
105 第2の凸部