特許第6762713号(P6762713)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6762713酵素的に遊離可能な検出部を有する接合体による細胞検出
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6762713
(24)【登録日】2020年9月11日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】酵素的に遊離可能な検出部を有する接合体による細胞検出
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/34 20060101AFI20200917BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20200917BHJP
   G01N 33/532 20060101ALI20200917BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20200917BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20200917BHJP
   C12N 9/24 20060101ALN20200917BHJP
   C12N 9/46 20060101ALN20200917BHJP
   C12N 9/44 20060101ALN20200917BHJP
   C12N 9/26 20060101ALN20200917BHJP
   C12N 9/42 20060101ALN20200917BHJP
   C12N 9/20 20060101ALN20200917BHJP
   C12N 9/16 20060101ALN20200917BHJP
   C12N 9/50 20060101ALN20200917BHJP
【FI】
   C12Q1/34ZNA
   C12Q1/02
   G01N33/532 A
   !C07K16/00
   !C07K14/705
   !C12N9/24
   !C12N9/46
   !C12N9/44
   !C12N9/26 A
   !C12N9/42
   !C12N9/20
   !C12N9/16 Z
   !C12N9/50
【請求項の数】10
【外国語出願】
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-252842(P2015-252842)
(22)【出願日】2015年12月25日
(65)【公開番号】特開2016-136937(P2016-136937A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2018年8月22日
(31)【優先権主張番号】14200361.5
(32)【優先日】2014年12月27日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】312000044
【氏名又は名称】ミルテニー バイオテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Miltenyi Biotec GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ドーゼ
(72)【発明者】
【氏名】ジェニファー ブリーデン
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ミルテニー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ロッケル
(72)【発明者】
【氏名】ヴェロニカ ルドルフ
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/049289(WO,A1)
【文献】 国際公開第2002/065132(WO,A1)
【文献】 特表2004−509975(JP,A)
【文献】 特表2002−511845(JP,A)
【文献】 特表2001−500116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00− 1/70
G01N 33/00−33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)一般式(I)Xn−P−Ym[式中、Xは、検出部であり、Pは、酵素的に分解可能なスペーサーであり、かつYは、抗原認識部であり、かつn、mは、1から100の間の整数であり、かつXおよびYは、Pに共有結合されている]を有する接合体を準備すること、
b)生物学的検体の試料と前記接合体とを接触させることで、抗原認識部Yによって認識される標的部を標識すること、
c)前記接合体で標識された標的部を、検出部Xにより検出すること、ならびに、
d)スペーサーPを酵素的に分解することで、検出部Xを前記接合体から開裂させること、によって行う、生物学的検体の試料中の標的部を検出するための方法であって、
少なくとも2種の接合体が準備され、ここで、それぞれの抗原認識部Yは異なる抗原を認識するものであり、前記検出部Xが発色団部、蛍光部、リン光部、発光部、吸光部、放射性部、遷移金属および同位体マスタグ部からなる群から選択されており、酵素的に分解可能な前記スペーサーPは、多糖類、デプシペプチド、ポリエステルおよびそれらの誘導体からなる群から選択され、かつ、前記抗原認識部Yは抗体、フラグメント化抗体、フラグメント化抗体誘導体、ペプチド/MHC複合体を標的とするTCR分子、細胞接着受容体分子、共刺激分子のための受容体、または人工的にエンジニアリングされた結合分子であり、ここで、前記スペーサーPは、多量体化された低親和性の抗原認識部Yと一緒に準備され、前記抗原認識部Yは、スペーサーPの酵素的に分解により単量体化され、かつ、前記標的部分から開裂されることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記酵素的に分解可能なスペーサーPを分解するために使用される酵素は、グリコシダーゼ、デキストラナーゼ、プルラナーゼ、アミラーゼ、イヌリナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、キトサナーゼ、キチナーゼ、プロテイナーゼ、エステラーゼおよびリパーゼからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接合体によって検出される生物学的検体は、光学的手段、静電力、圧電力、機械的分離、または音響的手段によって試料から分離される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも2種の接合体が準備され、それぞれの酵素的に分解可能なスペーサーPが異なる酵素によって分解されることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
生物学的検体の試料を、ステップb)において、異なる検出部Xおよび/または異なる酵素的に分解可能なスペーサーPおよび/または異なる抗原認識部Yを有する、少なくとも2種の接合体と同時に接触させ、そして後続のステップc)およびステップd)において、検出を実施し、そしてそれぞれの接合体を開裂させることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
生物学的検体の試料を、ステップb)において、異なる検出部Xおよび/または異なる酵素的に分解可能なスペーサーPおよび/または異なる抗原認識部Yを有する少なくとも2種の接合体と同時に接触させ、そしてステップc)およびステップd)において、検出の実施とそれぞれの接合体の開裂を同時に行うことを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
生物学的検体の試料を、異なる検出部Xおよび/または異なる酵素的に分解可能なスペーサーPおよび/または異なる抗原認識部Yを有する少なくとも2種の接合体と、ステップa)〜d)を含む後続の序列において接触させることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
生物学的検体の試料を、異なる検出部Xおよび/または異なる酵素的に分解可能なスペーサーPおよび/または異なる抗原認識部Yを有する少なくとも2種の接合体と、ステップa)〜c)を含む後続の序列において接触させ、単独のステップd)において、この接合体の開裂を同時に行うことを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
生物学的検体の試料を、異なる検出部Xおよび/または異なる酵素的に分解可能なスペーサーPおよび/または異なる抗原認識部Yを有する少なくとも2種の接合体と、ステップa)〜c)を含む後続の序列において接触させ、後続のステップd)において、それぞれの接合体の開裂を行うことを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
細胞の試料を、異なる検出部Xおよび/または異なる酵素的に分解可能なスペーサーPおよび/または異なる抗原認識部Yを有する少なくとも2種の接合体と、ステップa)〜d)を含む後続の序列において接触させ、その際、第一の接合体のステップd)と、第二の接合体のステップb)を同時に行うことを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的部または標的細胞を、検出部と酵素的に分解可能なスペーサーを介して連結された抗原認識部とを有する接合体で標識することによって、標的部もしくは標的細胞を、または細胞試料から検出または同定するための方法であり、ここで、前記標的部の検出後に、前記スペーサーは酵素的に分解され、それにより標識された標的部から少なくとも前記検出部が遊離される、前記方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1または複数の抗体に接合された蛍光色素は、免疫蛍光分析のために通常使用されている。抗体、蛍光色素、フローサイトメーター、フローソーター、および蛍光顕微鏡に関する数多くの別形がこの二十年間で開発され、標的細胞の特異的な検出および単離が可能となっている。免疫蛍光技術における一つの問題は、蛍光放出の検出閾値であり、その検出閾値は、例えばより優れた検出器、フィルタシステム、レーザ、または改変された蛍光色素、すなわちより良好な量子収率を有する蛍光色素によって高めることができる。
【0003】
蛍光標識は多岐にわたり使用されているが、決してそれが細胞の標識と検出の唯一の方法というわけではない。蛍光色素以外に、遷移金属同位体マスタグ標識または放射性同位体標識等の他の検出部が使用されている。それから、標識の検出は、マスサイトメトリーまたはシンチレーションアッセイで行われる。
【0004】
注目抗原を標的とする蛍光色素−接合体を使用したフローソーティングで標的細胞を単離することで、高純度の標的細胞フラクションが得られる。一つの欠点は、ソーティング工程の後に、細胞は依然として、該ソーティング工程の間に検出および同定のために使用された蛍光色素−接合体で標識されているということである。
【0005】
MHCマルチマーによる抗原特異的T細胞の単離について記載されるように、標識の配備は標的細胞に影響を及ぼすことがある(特許文献1(米国特許第7776562号明細書))。細胞の変質を避けるためには、最善には、検出および/またはソーティングの後に、蛍光部および抗原認識部を遊離させることが可能である。特許文献1(米国特許第7776562号明細書)は、可逆的ペプチド/MHCマルチマーまたはFab−ストレプタマーによる標的細胞の間接的な非共役的な標識に基づく可逆的な蛍光標識法を開示している。StreptagIIを有する低親和性のペプチド/MHCモノマーもしくはFabモノマーはストレプトアクチンを介してマルチマー化することで、標的抗原について高い結合力を有する複合体が得られる。マルチマー(多量体)化およびモノマー(単量体)化の可逆性は、競合物であるビオチンの添加によって開始される。低親和性のペプチド/MHCモノマーもしくはFabモノマーの解離の後に、抗原は相互作用相手から遊離される。StreptagII/ストレプトアクチン−相互作用の他に、PEO−ビオチン/抗ビオチン抗体相互作用を基礎とする可逆的な磁気的細胞分離のためにもう一つの間接的な結合相互作用が記載されている(特許文献2(欧州特許出願公開第2725359(A1)号明細書))。
【0006】
特許文献3(国際公開第20080918100号パンフレット)は、酵素が蛍光色素用のアクチベーターとして作用し、該酵素の放射線に誘導される開裂によって前記色素が標的細胞から遊離されうる接合体を開示している。
【0007】
1種より多くの細胞ポピュレーションまたは特定のサブポピュレーションを識別してターゲティングするための多重パラメータ標識に関して、これらの開発された可逆的な間接的なシステムは、図1および図2に示した欠点を表す。図1は、2種の細胞ポピュレーション(CD4およびCD8)と、抗CD8−PEO−ビオチン/抗ビオチン−APCおよび抗CD4−PEO−ビオチン/抗ビオチン−PEとの接触によって得られる混合物を示している。ビオチン/抗ビオチン複合体の可逆的性質のため、得られる平衡は、2種ではなく4種の細胞−色素接合体を含む。得られる平衡は、複合体の動力学的特性および熱力学的特性によって決定され、異なる結合相手が交換された後に至り、それぞれの標的抗原は両方の蛍光部で蛍光標識されるに至る。特異的標識ではなくて、ほぼ予測できない混合物が得られる。図2aおよび図2bは、この効果の2つの例を示している。その交換の度合いは、図2aおよび図2bで裏付けられる抗ビオチン−蛍光色素−接合体の選択ならびに複合体の成分の濃度のようなパラメータに左右される。従って、可逆的な間接的なシステムを基礎とする可逆的な蛍光標識は、単一パラメータ標識のために適しているにすぎず、多重パラメータ標識のためには適していない。可逆的な間接的なシステムと比較して、共有結合された抗原認識部と検出部は、特異的標識をもたらし、多重パラメータを標的とする可能性を有する。CD4+標的細胞およびCD8+標的細胞の、共有結合された抗CD4−PEおよび抗CD8−APCによる特異的標識の一例は、図2cに示されている。
【0008】
抗原認識部と検出部との間の間接的な非共有結合的な相互作用の特異的競合に基づく可逆的なシステムの他に、磁気的細胞分離のために、幾つかの他の可逆的なシステムが開発された。分離後に標的細胞から磁気粒子を遊離させるための公知の方法は、機械的撹拌、または化学的もしくは酵素的に開裂可能な該磁気粒子へのリンカーである。例えば特許文献4(米国特許第6190870号明細書)および特許文献5(国際公開第96/31776号パンフレット)は、デキストランで被覆された、および/またはデキストランを介して抗原認識部に連結された磁気粒子を基礎とする磁気的細胞分離を開示している。単離された標的細胞の引き続いての磁気粒子からの開裂は、デキストラン分解酵素のデキストラナーゼの添加によって開始される。デキストランベースの磁気粒子の他に、特許文献6(米国特許第5719031号明細書)にデキストラン−蛍光色素−接合体の消化が記載されている。この場合に、デキストラン−蛍光色素−接合体の標識の度合いは、蛍光消光をもたらすのに十分に高い。従って、分解は蛍光放出シグナルの強化を伴い、それが酵素的消化工程の定量化のために使用される。
【0009】
蛍光色素の接続による蛍光消光は、特許文献7(英国特許出願公開第2372256号明細書)にも記載されている。細胞は、複数の蛍光色素を含み、それらがリンカーを介して抗体に結合された接合体で染色される。高密度の蛍光色素は蛍光シグナルを消光することとなるので、特許文献7(英国特許出願公開第2372256号明細書)は、前記リンカーを酵素的に分解して前記接合体から蛍光色素を遊離することを記載している。遊離された蛍光色素は自己消光を受けないため、より強力な蛍光シグナルが、すなわちより良好な解像度が得られる。しかしながら、該蛍光シグナルは標的から解離された後に検出されるので、細胞表面上にある標的部の同定は、特許文献7(英国特許出願公開第2372256号明細書)による方法では不可能である。更に、得られる混合型の蛍光シグナルを特定の接合体および/または標的へと割り当てることができないので、1種より多くの標的を同時に検出することはできない。
【0010】
蛍光シグナルの排除は、検体の逐次染色を基礎とする免疫蛍光技術のためには必要不可欠である。これらの技術は、標識と検出を同時に使用する標準的な手順と比較して、より高い多重化の可能性をもたらすと明らかになっている。しかしながら、これらの技術は、接合された蛍光部の光ブリーチング法または化学ブリーチング法(特許文献8(米国特許第7741045(B2)号明細書)、特許文献9(欧州特許第0810428(B1)号明細書)、または特許文献10(独国特許出願公開第10143757号明細書))による酸化分解を基礎としていて、検体に残る抗体による立体障害にさらされる。
【0011】
蛍光シグナルを排除するための化学ブリーチング法の他に、特許文献10(独国特許出願公開第10143757号明細書)は、抗体の酵素的分解による蛍光シグナルの排除を提案している。抗体の酵素的分解は、抗体の構造に高度に左右されるとともに、酵素と抗体の「適合する」ペアの特異的選択を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第7776562号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第2725359(A1)号明細書
【特許文献3】国際公開第20080918100号パンフレット
【特許文献4】米国特許第6190870号明細書
【特許文献5】国際公開第96/31776号パンフレット
【特許文献6】米国特許第5719031号明細書
【特許文献7】英国特許出願公開第2372256号明細書
【特許文献8】米国特許第7741045(B2)号明細書
【特許文献9】欧州特許第0810428(B1)号明細書
【特許文献10】独国特許出願公開第10143757号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の課題は、生物学的検体の試料中または試料上で標的を特異的に標識および検出し、引き続き検出部を除去して、可逆的な標識をもたらし、および/または更なる異なる標識および検出のサイクルを可能にする方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
驚くべきことに、酵素的に分解可能なスペーサーを介して検出部に連結された抗原結合部から構成される接合体を酵素的に分解でき、それにより、該検出部を生物学的検体から遊離させることができることが判明した。遊離後に、前記生物学的検体は、以前の標識の干渉を受けることなく、改めて同じまたは異なる接合体に供されうる。
【0015】
従って、本発明の主題は、生物学的検体の試料中の標的部を検出するための方法であって、
a)一般式(I)Xn−P−Ym[式中、Xは、検出部であり、Pは、酵素的に分解可能なスペーサーであり、かつYは、抗原認識部であり、かつn、mは、1から100の間の整数であり、かつXおよびYは、Pに共有結合されている]を有する少なくとも1種の接合体を準備すること、
b)前記生物学的検体の試料と少なくとも1種の接合体とを接触させることで、抗原認識部Yによって認識される標的部を標識すること、
c)前記接合体で標識された標的部を、検出部Xにより検出すること、ならびに
d)スペーサーPを酵素的に分解することにより、検出部Xを前記接合体から開裂させること、によって行う前記方法である。
【0016】
本発明の方法により、1または複数の異なる標的部を、同時にまたは逐次的に、検出部に由来するシグナルにより特異的に検出し、引き続き分析後に該検出部を遊離させる、迅速かつ確実な方法が提供される。該方法による検出部の「酵素的な消光」は、生物学的検体の分析のためのより迅速かつより侵襲性の低いプロトコールを可能にする。先行技術と比較して、本発明の方法は、注目対象物に有害なことがある反応性酸素種、高エネルギーまたは高熱の導入を避け、同時に、多重の標的部を可逆的に標識することを可能にする。更に、該接合体の分解/解体によって、多数の染色(検出)サイクルが用いられる場合に、ほとんど立体障害は認められない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、先行技術によるビオチン/抗ビオチン相互作用を基礎とする間接的な標識システムによる可逆的染色を示している。
図2図2は、平衡状態における、ビオチン/抗ビオチン相互作用を基礎とする間接的な標識システムによる細胞の多色染色を示している。
図3図3は、高親和性(a)または低親和性(b)の抗原認識部Y、酵素的に分解可能なスペーサーP、および検出部Xの接合体による、生物学的検体としての標的細胞の特異的標識による本発明の方法を図示している。
図4図4は、種々の抗原認識部と検出部を有する本発明による接合体による3パラメータのフローサイトメトリー分析の結果のドットプロットを例示している。
図5図5は、種々の抗原認識部と検出部を有する本発明による接合体による5パラメータのフローサイトメトリー分析の結果のドットプロットを例示している。
図6図6は、種々の抗原認識部と検出部を有する本発明による、逐次的に2パラメータを標識する接合体の画像を示している。異なる細胞表面マーカーが細胞上に局在してよく、それにより異なる細胞ポピュレーションまたはサブポピュレーションの測定が可能となる。
図7図7は、種々の抗原認識部と検出部を有する本発明による、同時に5パラメータを標識する接合体の画像を示している。異なる細胞表面マーカーが細胞上に局在してよく、それにより異なる細胞ポピュレーションまたはサブポピュレーションの測定が可能となる。
【0018】
詳細な説明
検出部Xおよび抗原認識部Yは、酵素的に分解可能なスペーサーPに、共有結合または準共有結合されていてよい。用語「共有結合または準共有結合」は、解離定数≦10-9Mを有するXとPとの間の結合およびYとPとの間の結合を指す。
【0019】
用語「検出部Xおよび/または抗原認識部Yの接合体からの開裂」は、XとPとの間の結合が抑制されて、検出部Xおよび/または抗原認識部Yが、例えば解離または洗浄によって標的から取り除かれうることを意味する。
【0020】
図3は、高親和性(a)または低親和性(b)の抗原認識部Y、酵素的に分解可能なスペーサーP、および検出部Xの接合体による、生物学的検体としての標的細胞の特異的標識による本発明の方法を図示している。スペーサーが酵素的に分解されると、高親和性の抗原認識部、例えば抗体は、安定な結合をもたらし、それにより検出部XおよびスペーサーPが除去される(a)。低親和性の抗原認識部は、分解の間に単量体化されることとなる。低親和性の抗原認識部の解離後に、抗原は検出部X、スペーサーP、および抗原認識部Yから除去される(b)。
【0021】
本発明の方法は、ステップa)〜d)の1または複数の序列で行うことができる。各序列の後に、前記検出部と、場合により前記抗原認識部は、前記標的部から遊離(除去)される。特に生物学的検体が更に加工されるべき生細胞であるとき、本発明の方法は、無標識の細胞が得られるという利点を有する。
【0022】
各ステップa)〜d)の後および/または前に、洗浄ステップe)が、結合されなかった接合体または遊離された検出部のような不所望な材料を試料から除去するために実施されてよい。
【0023】
標的部
本発明による方法で検出されるべき標的部は、組織切片、細胞集合体、懸濁細胞、または付着細胞のような生物学的検体のいずれに存在してもよい。それらの細胞は生細胞であっても死細胞であってもよい。好ましい標的部は、生物学的検体、例えば、無脊椎動物(例えば、線虫、キイロショウジョウバエ)、脊椎動物(ゼブラフィッシュ、アフリカツメガエル)、および哺乳動物(ハツカネズミ、ヒト)の、動物全体、臓器、組織切片、細胞集合体または単一細胞に、細胞内または細胞外で発現された抗原である。
【0024】
検出部
前記接合体の検出部Xは、検出目的に使用できる特性または機能を有する任意の部、例えば発色団部、蛍光部、リン光部、発光部、吸光部、放射性部、および遷移金属同位体マスタグ部からなる群から選択される部であってよい。
【0025】
適切な蛍光部は、免疫蛍光技術、例えばフローサイトメトリーまたは蛍光顕微鏡法の技術から公知の蛍光部である。本発明のこれらの実施形態においては、前記接合体で標識された標的部は、検出部Xを励起させ、得られた放出(光ルミネセンス)を検出することによって検出される。この実施形態においては、前記検出部Xは、好ましくは蛍光部である。
【0026】
有用な蛍光部は、タンパク質ベースの蛍光部、例えばフィコビリタンパク質、ポリマー型蛍光部、例えばポリフルオレン、小分子有機色素、例えばキサンテン、例えばフルオレセインもしくはローダミン、シアニン、オキサジン、クマリン、アクリジン、オキサジアゾール、ピレン、ピロメテン、または有機金属錯体、例えばRu錯体、Eu錯体、Pt錯体であってよい。単分子実体の他に、蛍光性タンパク質または小分子有機色素のクラスター、ならびにナノ粒子、例えば量子ドット、アップコンバーティングナノ粒子、金ナノ粒子、色素付加ポリマーナノ粒子を、蛍光部として使用することもできる。
【0027】
光ルミネセンス検出部のもう一つの群は、励起後の光の時間遅延型放出を伴うリン光部である。リン光部は、有機金属錯体、例えばPd錯体、Pt錯体、Tb錯体、Eu錯体、またはリン光性顔料が導入されたナノ粒子、例えばランタニドドープされたSrAl24を含む。
【0028】
本発明のもう一つの実施形態においては、前記接合体で標識された標的は、照射による事前励起なくして検出される。この実施形態においては、前記検出部は、放射性標識であってよい。それらは、非放射性同位体を、その放射性対応物、例えばトリチウム、32P、35Sもしくは14Cと交換することによるか、または共有結合された標識、例えばチロシンに結合された125I、フルオロデオキシグルコース内の18F、もしくは有機金属錯体、すなわち99Tc−DTPAを導入することによる、放射性同位体標識の形であってよい。
【0029】
もう一つの実施形態においては、前記検出部は、化学発光を引き起こすことが可能である。すなわちルミノールの存在下のセイヨウワサビペルオキシダーゼ標識である。
【0030】
本発明のもう一つの実施形態においては、前記接合体で標識された標的は、放射線放出によっては検出されずに、紫外線、可視光もしくは近赤外線の吸収によって検出される。適切な吸光性検出部は、蛍光放出を有さない吸光性色素、例えば小分子有機クエンチャー色素、例えばN−アリールローダミン、アゾ色素およびスチルベンである。
【0031】
もう一つの実施形態においては、前記吸光性検出部Xを、パルスレーザ光によって照射して、光音響シグナルを発生させることができる。
【0032】
本発明のもう一つの実施形態においては、前記接合体で標識された標的は、遷移金属同位体の質量分析的検出によって検出される。遷移金属同位体マスタグ標識は、共有結合された有機金属錯体またはナノ粒子成分として導入できる。ランタニドおよび隣接する後期遷移元素の同位体タグが当該技術分野で知られている。
【0033】
検出部Xは、スペーサーPに共有結合、または非共有結合されていてよい。共有結合または非共有結合のための方法は、当業者に公知である。検出部XとスペーサーPとの間で共有結合される場合に、検出部もしくはスペーサーPにある活性化された基と、スペーサーPもしくは検出部Xにある官能基とを直接的に反応させること、またはヘテロ二官能性リンカー分子を介して、該分子をまず一方の結合相手と反応させて、次にその他の結合相手と反応させることが可能である。
【0034】
例えば、実体への連結のために多数のヘテロ二官能性化合物が入手可能である。例証される実体には、アジドベンゾイルヒドラジド、N−[4−(p−アジドサリチルアミノ)ブチル]−3’−[2’−ピリジルジチオ]プロピオンアミド)、ビススルホスクシンイミジルスベレート、ジメチルアジピミデート、ジスクシンイミジルタートレート、N−y−マレイミドブチリルオキシスクシンイミドエステル、N−ヒドロキシスルホスクシンイミジル−4−アジドベンゾエート、N−スクシンイミジル[4−アジドフェニル]−1,3’−ジチオプロピオネート、N−スクシンイミジル[4−ヨードアセチル]アミノベンゾエート、グルタルアルデヒド、スクシンイミジル−[(N−マレイミドプロピオンアミド)ポリエチレングリコール]エステル(NHS−PEG−MAL)、およびスクシンイミジル4−[N−マレイミドメチル]シクロヘキサン−1−カルボキシレートが含まれる。好ましい連結基は、3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(SPDP)、または4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(SMCC)であって、検出部に反応性スルフヒドリル基を有し、スペーサーPに反応性アミノ基を有するものである。
【0035】
検出部XとスペーサーPとの準共有結合は、解離定数≦10-9Mをもたらす結合システム、例えばビオチン−アビジン結合相互作用で達成できる。
【0036】
酵素的に分解可能なスペーサーP
酵素的に分解可能なスペーサーPは、特定の酵素、特にヒドロラーゼによって開裂可能な任意の分子であってよい。酵素的に分解可能なスペーサーPとして適しているのは、例えば多糖類、タンパク質、ペプチド、デプシペプチド、ポリエステル、核酸およびそれらの誘導体である。
【0037】
適切な多糖類は、例えばデキストラン、プルラン、イヌリン、アミロース、セルロース、ヘミセルロース、例えばキシランまたはグルコマンナン、ペクチン、キトサンまたはキチンであり、それらは、誘導体化することで、検出部Xおよび抗原認識部Yの共有結合または非共有結合のための官能基をもたらすことができる。様々なそのような改変は当該技術分野で公知であり、例えばイミダゾリルカルバメート基は、多糖とN,N’−カルボニルジイミダゾールとを反応させることによって導入することができる。引き続き、アミノ基を、このイミダゾリルカルバメート基とヘキサンジアミンとを反応させることによって導入することができる。多糖類は、過ヨウ素酸塩を使用して酸化させることで、アルデヒド基をもたらすことができ、またはN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドおよびジメチルスルホキシドで酸化させることで、ケトン基をもたらすこともできる。アルデヒドまたはケトン官能基は、引き続き好ましくは還元的アミノ化の条件下でジアミンと反応させることでアミノ基が得られるか、またはタンパク質様の結合部にあるアミノ置換基と直接的に反応させることができる。カルボキシメチル基は、多糖をクロロ酢酸で処理することによって導入することができる。カルボキシ基を当該技術分野で公知の方法により活性化させ、それにより活性化されたエステル、例えばN−ヒドロキシスクシンイミドエステルまたはテトラフルオロフェニルエステルを得ることで、ジアミンのアミノ基と反応させてアミノ基を得ることも、またはタンパク質様の結合部のアミノ基と直接的に反応させることもできる。一般的に、アルキル基を有する官能基は、多糖類をハロゲン化合物でアルカリ性条件下で処理することによって導入することができる。例えば、アリル基は、臭化アリルを使用することによって導入することができる。アリル基は、更に、システアミン等のチオールを有する化合物とのチオール−エン反応において使用することでアミノ基を導入することができ、またはジスルフィド結合の還元によって遊離された、もしくは例えば2−イミノチオランによるチオール化によって導入されたチオール基を有するタンパク質様の結合部と直接的にチオール−エン反応において使用することができる。
【0038】
酵素的に分解可能なスペーサーPとして使用されるタンパク質、ペプチド、およびデプシペプチドは、アミノ酸の側鎖官能基を介して官能化することで、検出部Xおよび抗原認識部Yを結合させることができる。改変に適した側鎖官能基は、例えばリシンによって提供されるアミノ基であるか、またはシステインによってジスルフィド架橋の還元後に得られるチオール基である。
【0039】
酵素的に分解可能なスペーサーPとして使用されるポリエステルおよびポリエステルアミドは、側鎖官能性をもたらすコモノマーを用いて合成でき、または後に官能化させることもできる。分岐したポリエステルの場合には、官能化は、カルボキシルまたはヒドロキシル末端基を介して行うことができる。ポリマー鎖の重合後官能化は、例えば不飽和結合の付加、すなわちチオレン反応もしくはアジド−アルキン反応を介して、またはラジカル反応による官能基の導入を介して行うことができる。
【0040】
酵素的に分解可能なスペーサーPとして使用される核酸は、好ましくは、検出部Xおよび抗原認識部Yの付着のために適した3’末端および5’末端に官能基を伴って合成される。例えばアミノまたはチオール官能価をもたらす核酸合成のための適切なホスホラミダイト構成単位は、当該技術分野で公知である。
【0041】
酵素的に分解可能なスペーサーPは、同じ酵素または異なる酵素によって分解可能な1つより多くの異なる酵素的に分解可能な単位から構成されていてよい。
【0042】
抗原認識部Y
用語「抗原認識部Y」は、細胞に細胞内または細胞外で発現された抗原のような、生物学的検体に発現された標的部に対する任意の種類の抗体、フラグメント化抗体、またはフラグメント化抗体誘導体を指す。前記用語は、完全にインタクトな抗体、フラグメント化抗体、またはフラグメント化抗体誘導体、例えばFab、Fab’、F(ab’)2、sdAb、scFv、ジscFv、ナノボディーに関する。そのようなフラグメント化抗体誘導体は、これらの種類の分子を含む共有結合および非共有結合の接合体を含めて組み換え法によって合成することができる。抗原認識部の更なる例は、ペプチド/MHC複合体を標的とするTCR分子、細胞接着受容体分子、共刺激分子のための受容体、人工的にエンジニアリングされた結合分子、例えば細胞表面分子を標的とするペプチドまたはアプタマーである。
【0043】
本発明の方法で使用される接合体は、100個までの、好ましくは1〜20個の抗原認識部Yを含んでよい。抗原認識部と標的抗原との相互作用は、高親和性であっても、低親和性であってもよい。単独の低親和性の抗原認識部の結合相互作用は、低すぎて抗原と安定な結合をもたらすことができない。低親和性の抗原認識部は、酵素的に分解可能なスペーサーPへの接合によって多量体化することで、高い結合力を提供することができる。前記スペーサーPがステップd)において酵素的に開裂されると、低親和性の抗原認識部は単量体化されることとなり、それにより、検出部X、スペーサーP、および抗原認識部Yの完全な除去がもたらされる(図3b)。高親和性の抗原認識部は安定な結合を提供し、それにより、ステップd)の間に検出部XおよびスペーサーPの除去がもたらされる。
【0044】
好ましくは、用語「抗原認識部Y」は、生物学的検体(標的細胞)によって、細胞内で発現される抗原、例えばIL2、FoxP3、CD154、または細胞外で発現される抗原、例えばCD3、CD14、CD4、CD8、CD25、CD34、CD56、およびCD133に対する抗体を指す。
【0045】
抗原認識部Y、特に抗体は、側鎖アミノ基またはスルフヒドリル基を通じてスペーサーPへと結合されうる。幾つかの場合において、抗体のグルコシド側鎖を過ヨウ素酸塩によって酸化させて、アルデヒド官能基を得ることができる。
【0046】
抗原認識部Yは、スペーサーPに共有結合、または非共有結合されていてよい。共有結合または非共有結合のための方法は、当業者に公知であり、検出部Xの接合について挙げたのと同じものである。
【0047】
本発明の方法は、特に、複合体混合物からの特定の細胞型の検出および/または単離のために有用であり、ステップa)〜d)の1つより多くの逐次的な序列または並行した序列を含んでよい。該方法は、様々な接合体の組み合わせを使用することができる。例えば、接合体は、2つの異なるエピトープに特異的な抗体、例えば2つの異なる抗CD34抗体を含みうる。複数の異なる抗原は複数の異なる抗体、例えば、2つの別異のT細胞ポピュレーションの間の区別のために抗CD4抗体および抗CD8抗体を含む複数の異なる接合体により、または制御性T細胞のような異なる細胞サブポピュレーションの区別のために抗CD4抗体および抗CD25抗体を含む複数の異なる接合体により対処されうる。
【0048】
酵素
遊離剤としての酵素の選択は、酵素的に分解可能なスペーサーPの化学的性質によって決定され、これは1種の酵素または異なる酵素の混合物であってよい。酵素は好ましくはヒドロラーゼであるが、リアーゼまたはレダクターゼも可能である。例えば、スペーサーPが多糖である場合に、グリコシダーゼ(EC 3.2.1)が遊離剤として最も適している。好ましいのは、特定のグリコシド構造を認識するグリコシダーゼ、例えばデキストランのα(1→6)結合を開裂するデキストラナーゼ(EC 3.2.1.11)、プルランのα(1→6)結合を開裂するプルラナーゼ(EC 3.2.1.142)もしくはプルランのα(1→6)結合およびα(1→4)結合を開裂するプルラナーゼ(EC 3.2.1.41)、プルラン中のα(1→4)結合を開裂するネオプルラナーゼ(EC 3.2.1.135)、およびイソプルラナーゼ(EC 3.2.1.57)である。好ましいのは、アミロースのα(1→4)結合を開裂するα−アミラーゼ(EC 3.2.1.1)およびマルトジェニックアミラーゼ(EC 3.2.1.133)、イヌリン中のβ(2→1)フルクトシド結合を開裂するイヌリナーゼ(EC 3.2.1.7)、セルロースのβ(1→4)結合で開裂するセルラーゼ(EC 3.2.1.4)、キシランのβ(1→4)結合で開裂するキシラナーゼ(EC 3.2.1.8)、α(1→4)D−ガラクツロナンメチルエステル結合で排除的に開裂するエンドペクチンリアーゼ等のペクチナーゼ(EC 4.2.2.10)、またはペクチンのα(1→4)D−ガラクトシヅロン結合で開裂するポリガラクツロナーゼ(EC 3.2.1.15)、キトサンのβ(1→4)結合で開裂するキトサナーゼ(EC 3.2.1.132)、およびキチンの開裂のためのエンドキチナーゼ(EC 3.2.1.14)である。
【0049】
タンパク質およびペプチドはプロテイナーゼによって開裂されうるが、該プロテイナーゼは、細胞上の標的構造の分解を避けるために配列特異的である必要がある。配列特異的プロテアーゼは、例えばENLYFQ/Sで開裂するシステインプロテアーゼであるTEVプロテアーゼ(EC 3.4.22.44)、配列DDDDKの後で開裂するセリンプロテアーゼであるエンテロペプチダーゼ(EC 3.4.21.9)、配列IEGRもしくはIDGRの後で開裂するセリンエンドペプチダーゼである第Xa因子(EC 3.4.21.6)、または配列LFVLFQ/GPで開裂するシステインプロテアーゼであるHRV3Cプロテアーゼ(EC 3.4.22.28)である。
【0050】
ペプチド骨格にエステル結合を含むペプチドであるデプシペプチドまたはポリエステルは、エステラーゼ、例えばブタ肝臓エステラーゼ(EC 3.1.1.1)またはブタ膵臓リパーゼ(EC 3.1.1.3)によって開裂されうる。核酸は、配列特異的でありうるエンドヌクレアーゼ、例えば制限酵素(EC 3.1.21.3、EC 3.1.21.4、EC 3.1.21.5)、例えばEcoRI、HindIIもしくはBamHI、またはより一般的には例えばピリミジンに隣接するホスホジエステル結合を開裂するDNAseI(EC 3.1.21.1)によって開裂されうる。
【0051】
添加される酵素の量は、所望の時間で前記スペーサーを実質的に分解するのに十分である必要がある。検出シグナルは、通例、少なくとも約80%低下され、より通例には少なくとも約95%低下され、好ましくは少なくとも約99%低減される。遊離のための条件は、温度、pH、金属補因子の存在、還元剤等の点で実験的に最適化されうる。分解は、通例では、少なくとも約15分で、より通例には、少なくとも約10分で完了することとなり、通例は、約30分を上回ることにはならない。
【0052】
細胞検出法
接合体Xn−P−Ymで標識された標的を検出するための方法および装置は、検出部Xによって決まる。
【0053】
本発明の一つの別形においては、前記検出部Xは、蛍光部である。蛍光色素−接合体で標識された標的は、蛍光部Xの励起と、得られた蛍光シグナルの分析によって検出される。励起波長は通常は蛍光部Xの吸収極大に応じて選択され、当該技術分野で公知のようにレーザーまたはLEDによって提供される。幾つかの異なる検出部Xが多重色/パラメータ検出のために使用される場合に、重なり合った吸収スペクトルを有さず、少なくとも重なり合った吸収極大を有さない蛍光部を選択することに注意するべきである。検出部として蛍光部が使用される場合に、標的は、例えば蛍光顕微鏡下で、フローサイトメーター、スペクトルフルオロメーター、または蛍光スキャナー中で検出することができる。化学発光によって放出された光は、励起を省く類似の計器によって検出することができる。
【0054】
本発明のもう一つの別形においては、検出部は吸光部であり、前記吸光部は、照射光強度と透過光強度または反射光強度との間の差異によって検出される。吸光部は、光音響イメージングによって検出することもでき、前記光音響イメージングは、超音波シグナル等の音響シグナルを生成するためにパルスレーザーの吸収を使用する。
【0055】
放射性検出部は、放射性同位体によって放出される放射線を通じて検出される。放射線の検出のための適切な計器は、例えばシンチレーションカウンターを含む。ベータ放出の場合には、電子顕微鏡法を検出のために使用することもできる。
【0056】
遷移金属同位体マスタグ部は、マスサイトメトリー機器に組み込まれたICP−MS等の質量分析法によって検出される。
【0057】
本方法の使用
本発明の方法は、調査、診断、および細胞療法における様々な用途のために使用することができる。
【0058】
本発明の第一の別形においては、細胞のような生物学的検体は、計数の目的のために、すなわち接合体の抗原認識部によって認識されるある一定の抗原のセットを有する試料からの細胞の量を確認するために検出される。
【0059】
第二の別形においては、生物学的検体の1または複数のポピュレーションは、前記試料から検出されて、標的細胞として分離される。この別形は、例えば臨床調査、診断、および免疫療法において標的細胞の純化のために使用することができる。この別形においては、1または複数のソーティングステップを、ステップa)、b)、c)、d)のいずれかの後に、そして場合により洗浄ステップe)の後に行うことができる。
【0060】
もう一つの別形においては、ステップc)において前記接合体によって検出された生物学的検体は、光学的手段、静電力、圧電力、機械的分離、または音響的手段によって試料から分離される。この目的のために、ステップc)において前記接合体によって検出された生物学的検体は、試料から、それらの検出シグナルに応じて1または複数のポピュレーションへと、同時にまたは引き続きステップd)の実施前に、光学的手段、静電力、圧電力、機械的分離、または音響的手段によって分離される。
【0061】
そのような分離のために適しているのは、特にフローソーター、例えばFACSまたはMEMSを基礎とするセルローターシステムであり、それらは、例えば欧州特許出願公開第14187215.0号明細書または欧州特許出願公開第14187214.3号明細書に開示されている。
【0062】
本発明のもう一つの別形においては、前記接合体の抗原認識部によって認識される生物学的検体上の抗原のような標的部が測定される。そのような技術は、「マルチエピトープリガンド地図作成(Multi Epitope Ligand Cartography)」、「チップベースサイトメトリー(Chip−based Cytometry)」または「Multioymx」として知られており、例えば欧州特許第0810428号明細書、欧州特許第1181525号明細書、欧州特許第1136822号明細書、または欧州特許第1224472号明細書に記載されている。この技術においては、細胞は固定化され、蛍光部と結合された抗体と接触される。前記抗体は、生物学的検体(例えば細胞表面)上のそれぞれの抗原によって認識され、未結合のマーカーを除去し、蛍光部を励起した後に、抗原の位置は、蛍光部の蛍光放出によって検出される。ある一定の別形においては、蛍光部に結合された抗体の代わりに、MALDIイメージングまたはCyTOFのために検出可能な部に結合された抗体を使用することができる。当業者は、どのように蛍光部を基礎とする技術を改変して、これらの検出部を用いて作業するかを認識している。
【0063】
標的部の位置特定は、蛍光放射線の波長について十分な解像度および感度を有するデジタルイメージングデバイスによって達成される。前記デジタルイメージングデバイスは、光学的拡大装置と一緒に、または前記装置を用いずに、例えば蛍光顕微鏡と一緒に使用してよい。得られた画像は、適切な記憶装置に、例えばハードドライブに、例えばRAW形式、TIF形式、JPEG形式またはHDF5形式で記憶される。
【0064】
異なる抗原を検出するために、同じもしくは異なる蛍光部または抗原認識部Yを有する異なる抗原−接合体を提供することができる。異なる波長を有する蛍光放出の並行した検出は限られているので、抗体−蛍光色素−接合体は、逐次的に、個々に、または小さいグループ(2〜10)で順々に利用される。
【0065】
本発明による方法の更なるもう一つの別形においては、試料の生物学的検体、特に懸濁細胞は、マイクロキャビティ中での捕捉によって、または接着によって固定化される。
【0066】
更に、一般式(I)Xn−P−Ym[式中、Pは酵素的に分解可能なスペーサーを表す]を有する接合体の他に、一般式(II)Xn−P’−Ym[式中、X、Y、n、mは、式(I)中と同じ意味を有し、かつXおよびYは、P’に対して共有結合または非共有結合されているが、その際、P’はスペーサーであってよく、それはPEGスペーサーのように酵素的に分解可能ではない]を有する追加の接合体を提供することができる。もう一つの別形においては、一般式(III)Xn−Ym[式中、X、Y、n、mは、式(I)中と同じ意味を有する]を有する少なくとも1種の酵素的に分解できない少なくとも1種の接合体が提供されうる。一般式(II)および(III)の酵素的に分解できない接合体は、開裂ステップを乗り越え、更なる検出のために使用することができる。酵素的に分解できない接合体は、蛍光部の酸化的破壊または放射線に誘導される破壊によって消光することができる。
【0067】
一般的に、本発明の方法は、幾つかの別形において実施することができる。例えば、標的部によって認識されなかった接合体は、例えばバッファーによって、該接合体で標識された標的部を検出する前に洗浄することによって除去することができる。
【0068】
本発明の一つの別形においては、少なくとも2種の接合体は、同時に準備されるか、または後続の染色序列において準備され、その際、それぞれの抗原認識部Yは、異なる抗原を認識する。その他の一つの別形においては、少なくとも2種の接合体は、同時にまたは後続の染色序列において試料へと提供でき、その際、それぞれの接合体は、異なる酵素によって開裂される異なる酵素的に分解可能なスペーサーPを含む。両方の場合において、前記標識された標的部は、同時にまたは逐次的に検出されうる。逐次的な順次の検出は、スペーサー分子Pの同時の酵素的分解を含むか、または引き続き任意に未結合部を任意に中間的に除去(洗浄)しつつスペーサー分子Pを酵素的に分解することを含んでよい。
【0069】
本発明のもう一つの別形は、酵素的分解と酸化的ブリーチングの組み合わせによる蛍光放出の排除を含む。ブリーチングのために必要な化学物質は、「マルチエピトープリガンド地図作成(Multi Epitope Ligand Cartography)」、「チップベースサイトメトリー(Chip−based Cytometry)」または「Multioymx」技術についての上述の文献から公知である。
【0070】
本発明の方法は、以下の実施形態において実施することができる。
【0071】
本発明の実施形態Aは、生物学的検体の試料をステップb)において、異なる検出部Xおよび/または異なる酵素的に分解可能なスペーサーPおよび/または異なる抗原認識部Yを有する少なくとも第一の接合体および第二の接合体と、同時に接触させ、そして後続のステップc)およびステップd)において、検出を実施し、そしてそれぞれの接合体を開裂させることを特徴とする。開裂ステップは、同じまたは異なる酵素を用いて行うことができる。
【0072】
本発明の実施形態Bは、生物学的検体の試料をステップb)において、異なる検出部Xおよび/または異なる酵素的に分解可能なスペーサーPおよび/または異なる抗原認識部Yを有する少なくとも第一の接合体および第二の接合体と、同時に接触させ、そしてステップc)およびステップd)において、検出を同時に実施して、それぞれの接合体を開裂させることを特徴とする。
【0073】
例2(図4および図5)ならびに例3(図7)は、この実施形態の効果を実証している。ここでは、異なるPBMCポピュレーションが、3種または5種のFab−デキストラン−蛍光色素−接合体で同時に標識され、それにより、フローサイトメトリー分析による細胞の区別が可能となり(図4aおよび図5a)、または蛍光顕微鏡による細胞上の表面マーカーの位置特定が可能となる(図7a)。蛍光部は、デキストラナーゼによって同時に酵素的に開裂され、それはフローサイトメトリー分析(図4bおよび図5b)によって、または蛍光顕微鏡法(図7b)によって実証されている。この別形は、異なる細胞ポピュレーションまたは細胞サブポピュレーションの同時の検出および/または単離のための迅速かつ特異的な多重パラメータ標識を提供する。
【0074】
本発明の実施形態Cは、生物学的検体の試料を、異なる検出部Xおよび/または異なる酵素的に分解可能なスペーサーPおよび/または異なる抗原認識部Yを有する少なくとも第一の接合体および第二の接合体と、ステップa)〜d)を含む後続の序列において接触させることを特徴とする。
【0075】
例3(図6)は、実施形態Cに従って行われる。PBMCは、逐次的に、後続の序列において、抗CD4−Fab−デキストラン−PE(抗CD4−Fab−Dex−PE、図6a)または抗CD8−Fab−デキストラン−PE(抗CD8−Fab−Dex−PE、図6c)で標識され、それにより、細胞上の表面マーカーの位置特定が蛍光顕微鏡によって可能となる(図6aおよび図6c)。この実施形態のそれぞれの序列において、蛍光シグナルは、Fab−デキストラン−蛍光色素−接合体の酵素的分解によって排除された(図6b)。
【0076】
この実施形態は、任意に、開裂された検出部Xを除去するための洗浄ステップe)(すなわちステップd)の後)、および/またはステップb)の後に未結合の接合体を除去するための洗浄ステップe)を含みうる。
【0077】
本発明の実施形態Dは、生物学的検体の試料を、異なる検出部Xおよび/または異なる酵素的に分解可能なスペーサーPおよび/または異なる抗原認識部Yを有する少なくとも第一の接合体および第二の接合体と、ステップa)〜c)を含む後続の序列において接触させ、単独のステップd)において該接合体の開裂を同時に行うことを特徴とする。
【0078】
本発明の実施形態Eは、生物学的検体の試料を、異なる検出部Xおよび/または異なる酵素的に分解可能なスペーサーPおよび/または異なる抗原認識部Yを有する少なくとも第一の接合体および第二の接合体と、ステップa)〜c)を含む後続の序列において接触させ、後続のステップd)においてそれぞれの接合体の開裂を行うことを特徴とする。
【0079】
本発明の実施形態Fは、生物学的検体の試料を、異なる検出部Xおよび/または異なる酵素的に分解可能なスペーサーPおよび/または異なる抗原認識部Yを有する少なくとも第一の接合体および第二の接合体と、ステップa)〜d)(任意に洗浄ステップe))を含む後続の序列において接触させることで、開裂された検出部X)を除去することを特徴とし、その際、第一の接合体のステップd)および第二の接合体のステップb)が同時に行われる。
【0080】
実施形態Cと比べて、実施形態Fによる方法は、多重の標識サイクル、検出、およびスペーサーPの酵素的分解のための時間の削減をもたらす。
【実施例】
【0081】
例1 − 可逆的な間接的PEO−ビオチン/抗ビオチンシステムによる多重パラメータ細胞表面染色
コントロール:PBS/EDTA/BSAバッファー中のPBMCを、抗CD8−APCおよび抗CD4−PEで4℃で10分かけて染色した。前記細胞を洗浄して、フローサイトメトリーによって分析した。
【0082】
複合体A〜Dを、抗CD8−PEO−ビオチン+抗ビオチン−APC(A);抗CD4−PEO−ビオチン+抗ビオチン−PE(B);抗CD8−PEO−ビオチン+抗ビオチン−PE(C);抗CD4−PEO−ビオチン+抗ビオチン−APC(D)の4℃での15時間にわたるインキュベートによって調製した。
【0083】
PBS/EDTA/BSAバッファー中のPBMCを、複合体A(抗CD8−PEO−ビオチン/抗ビオチン−APC)または複合体C(抗CD8−PEO−ビオチン/抗ビオチン−PE)で4℃で10分かけて染色した。前記細胞を、冷PBS/EDTA/BSAバッファーで洗浄し、そして複合体B(抗CD4−PEO−ビオチン/抗ビオチン−PE)または複合体D(抗CD4−PEO−ビオチン/抗ビオチン−APC)で4℃で10分かけて染色した。前記細胞を冷PBS/EDTA−BSAバッファーで洗浄して、フローサイトメトリーによって分析した。抗体−PEO−ビオチン接合体は、欧州特許出願公開第2725359(A1)号明細書に従って調製した。
【0084】
図2は、直接的な標識システムおよび可逆的な間接的な標識システムにおける、異なる抗体による多重パラメータ標識のフローサイトメトリー分析の典型的な結果のドットプロットを例示している。コントロール実験においては、細胞は、抗CD4−PEと抗CD8−APCの直接接合体であって抗体と蛍光色素とが共有結合されたもので標識された(c)。同じ抗体と蛍光色素であるが可逆的な間接的なビオチン/抗ビオチン結合相互作用を介して連結されたもの(図1に描いた)は、図2aと図2bに例示される抗ビオチン−蛍光色素接合体のかなりの交換をもたらした。交換の度合いは、標識条件(複合体の逐次的なまたは同時の標識)、複合体の成分の濃度、抗ビオチン−蛍光色素接合体の選択等のパラメータに左右される。最良の事例のうちの一つの一例は、aに示されており、最低の事例はbに示されている。bにおいては、CD8+細胞の蛍光シグナルは、複合体D(抗CD4−PEO−ビオチン/抗ビオチン−APC)によってCD4+細胞に向けられるAPCチャンネルにおいて、複合体C(抗CD8−PEO−ビオチン/抗ビオチン−PE)での標識により当初向けられたPEチャンネルにおけるよりも高い。複合体の成分のこの交換は、多重パラメータ分析において標的細胞の数え切れない蛍光シグナルをもたらす。
【0085】
例2 − 直接的なFab−デキストラン−蛍光色素接合体を用いた可逆的な多重パラメータ細胞表面染色およびフローサイトメトリー分析
タンパク質ベースの蛍光部、例えばPEもしくはAPCを有する抗体−またはFab−デキストラン−蛍光色素接合体を調製するために、抗体またはFabを、MESバッファー中10mMのDTTで還元した。室温で90分のインキュベート時間後に、抗体をPBS/EDTAバッファーを用いたサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。タンパク質ベースの蛍光部を、2−イミノチオランと一緒に室温で60分にわたりインキュベートすることによってチオール化した。蛍光部をPBS/EDTAバッファーを用いたサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。アミノデキストランを、SMCCと一緒に室温で60分のインキュベートによって活性化し、そしてPBS/EDTAバッファーを用いたサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。抗体−もしくはFab−デキストラン−蛍光色素接合体の接合のために、活性化されたFabまたは抗体および蛍光部をまず混合し、次いで活性化されたデキストランに添加した。室温で60分間インキュベートした後に、β−メルカプトエタノールに続いてN−エチルマレイミドをモル過剰で添加することで、未反応のマレイミド官能基またはチオール官能基をブロックした。前記抗体−またはFab−デキストラン−蛍光色素接合体をPBS/EDTAバッファーを用いたサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。抗体またはFabおよび蛍光部の濃度を、280nmでの吸光度と、蛍光色素の特定の波長での吸光度によって測定した。
【0086】
小分子有機色素、例えばフルオレセインを有する抗体−またはFab−デキストラン−蛍光色素接合体の調製のために、アミノデキストランを、NHS活性化された小分子色素と一緒にインキュベートした。室温で60分のインキュベート時間後に、デキストラン−蛍光色素接合体をPBS/EDTAバッファーを用いたサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。デキストラン−蛍光色素−接合体を、更にSMCCと一緒に室温で60分のインキュベートによって活性化し、そしてPBS/EDTAバッファーを用いたサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。抗体またはFabを、MESバッファー中10mMのDTTで還元した。室温で90分のインキュベート時間後に、抗体をPBS/EDTAバッファーを用いたサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。抗体−もしくはFab−デキストラン−蛍光色素接合体の接合のために、活性化されたFabまたは抗体を、活性化されたデキストランに添加した。室温で60分間インキュベートした後に、β−メルカプトエタノールに続いてN−エチルマレイミドをモル過剰で添加することで、未反応のマレイミド官能基またはチオール官能基をブロックした。前記抗体−またはFab−デキストラン−蛍光色素接合体をPBS/EDTAバッファーを用いたサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。抗体またはFabおよび蛍光部の濃度を、280nmでの吸光度と、蛍光色素の特定の波長での吸光度によって測定した。
【0087】
3パラメータ標識
PBS/EDTA/BSAバッファー中のPBMCを、抗CD8−Fab−デキストラン−フルオレセイン、抗CD4−Fab−デキストラン−APC、および抗CD3−Fab−デキストラン−PEで4℃で10分かけて染色した。前記細胞を冷PBS/EDTA−BSAバッファーで洗浄して、フローサイトメトリーによって分析した。蛍光標識の可逆性のために、細胞をデキストラナーゼと一緒に、またはデキストラナーゼなしに、21℃で10分にわたりインキュベートし、PBS/EDTA−BSAバッファーで洗浄し、そしてフローサイトメトリーによって分析した。
【0088】
5パラメータ標識
PBS/EDTA/BSAバッファー中のPBMCを、抗CD3−Fab−デキストラン−VioBlue(登録商標)、抗CD8−Fab−デキストラン−フルオレセイン、抗CD45RA−Fab−デキストラン−VioGreenTM、抗CD45RO−Fab−デキストラン−Oyster(登録商標)647、および抗CD62L−Fab−デキストラン−PEで4℃で10分かけて染色した。前記細胞を冷PBS/EDTA−BSAバッファーで洗浄して、フローサイトメトリーによって分析した。蛍光標識の可逆性のために、細胞をデキストラナーゼと一緒に、またはデキストラナーゼなしに、21℃で10分にわたりインキュベートし、PBS/EDTA−BSAバッファーで洗浄し、そしてフローサイトメトリーによって分析した。
【0089】
図4および図5は、異なる細胞ポピュレーションおよび細胞サブポピュレーションの区別を可能にした種々のFab−デキストラン−蛍光色素接合体での3パラメータ標識の、および5パラメータ標識のフローサイトメトリー分析の結果のドットプロットを例示している。
【0090】
3パラメータでの例のために、PBMCを、抗CD8−Fab−デキストラン−フルオレセイン(フルオレセイン)、抗CD4−Fab−デキストラン−APC(APC)、および抗CD3−Fab−デキストラン−PE(PE)で特異的に同時に標識した(図4a)。異なる細胞サブポピュレーションを、抗CD3−Fab−デキストラン−VioBlue(登録商標)(VioBlue)、抗CD8−Fab−デキストラン−フルオレセイン(フルオレセイン)、抗CD45RA−Fab−デキストラン−VioGreenTM(VioGreen)、抗CD45RO−Fab−デキストラン−Oyster(登録商標)647(Oyster−647)、および抗CD62L−Fab−デキストラン−PE(PE)によるPBMCの例示的な5パラメータ標識によって区別した(図5a)。
【0091】
デキストラン分解酵素であるデキストラナーゼの添加の後に、種々の標識がされた細胞ポピュレーションの残留している蛍光強度は、検出限界の範囲にあった(図4bおよび図5b)。デキストラナーゼを用いないと、細胞ポピュレーションの蛍光強度には影響が及ぼされなかった(図4cおよび図5c)。
【0092】
例3 − 直接的なFab−デキストラン−蛍光色素接合体を用いた可逆的な逐次的な多重パラメータ細胞表面染色および蛍光顕微鏡分析
Fab−デキストラン接合体は、例2に従って調製した。
【0093】
逐次的な2パラメータ標識
PBS/EDTA/BSAバッファー中のPBMCを、CytoCaptureディッシュ中で沈降によって捕捉した。まず、前記細胞を、抗CD4−Fab−デキストラン−PEで21℃で10分にわたり染色し、PBS/EDTA/BSAバッファーで洗浄し、そして蛍光顕微鏡で画像を撮影した。蛍光標識の可逆性のために、細胞をデキストラナーゼと一緒に21℃で10分にわたりインキュベートし、改めてPBS/EDTA/BSAバッファーで洗浄し、そして蛍光顕微鏡で画像を撮影した。次に、試料を抗CD8−Fab−デキストラン−PEで再染色し、その後に蛍光標識を、抗CD4−Fab−デキストラン−PEについて記載したのと同じ手順を用いて遊離させた。その分析のために、細胞特異的蛍光強度値を、撮影した画像から物体認識アルゴリズムを介して引き出した。
【0094】
5パラメータ標識
PBS/EDTA/BSAバッファー中のPBMCを、抗CD3−Fab−デキストラン−VioBlue(登録商標)、抗CD8−Fab−デキストラン−フルオレセイン、抗CD45RA−Fab−デキストラン−VioGreenTM、抗CD45RO−Fab−デキストラン−Oyster(登録商標)647、および抗CD62L−Fab−デキストラン−PEで染色した。その細胞をPBS/EDTA−BSAバッファーで洗浄して、蛍光顕微鏡法によって分析した。蛍光標識の可逆性のために、細胞をデキストラナーゼと一緒に21℃で10分にわたりインキュベートし、改めてPBS/EDTA/BSAバッファーで洗浄し、そして蛍光顕微鏡法によって分析した。
【0095】
図6および図7は、細胞上の異なる細胞表面マーカーの位置決定、ならびに異なる細胞ポピュレーションおよび細胞サブポピュレーションの区別を可能にした種々のFab−デキストラン−蛍光色素接合体での逐次的な2パラメータ標識の、および同時の5パラメータ標識の蛍光顕微鏡で撮影された画像を例示している。
【0096】
逐次的な2パラメータ標識の例のために、PBMCを、抗CD4−Fab−デキストラン−PE(抗CD4−Fab−Dex−PE、図6a)または抗CD8−Fab−デキストラン−PE(抗CD8−Fab−Dex−PE、図6c)で標識し、蛍光顕微鏡法によって分析した。2つの標識と検出のステップの間で、蛍光シグナルは、Fab−デキストラン−蛍光色素−接合体の酵素的分解によって排除された(図6b)。図6dは、全ての画像の統計的解析を示す。
【0097】
5パラメータ標識のために、PBMCを、抗CD3−Fab−デキストラン−VioBlue(登録商標)(抗CD3−Fab−Dex−VB)、抗CD8−Fab−デキストラン−フルオレセイン(抗CD8−Fab−Dex−FITC)、抗CD45RA−Fab−デキストラン−VioGreenTM(抗CD45RA−Fab−Dex−VG)、抗CD45RO−Fab−デキストラン−Oyster(登録商標)647(抗CD45RO−Fab−Dex−Oy647)、および抗CD62L−Fab−デキストラン−PE(抗CD62L−Fab−Dex−PE)で同時に染色した(図7a)。
【0098】
デキストラン分解酵素であるデキストラナーゼの添加の後に、種々の標識がされた細胞ポピュレーションの残留している蛍光強度は、背景シグナルの範囲内にあった(図7b)ため、それは、更なる逐次的な多重パラメータ標識と検出のサイクルを可能にする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7