(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6762734
(24)【登録日】2020年9月11日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】定量X線分析及び比率補正方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/207 20180101AFI20200917BHJP
G01N 23/2055 20180101ALI20200917BHJP
G01N 23/223 20060101ALI20200917BHJP
G01N 23/2206 20180101ALI20200917BHJP
【FI】
G01N23/207
G01N23/2055 320
G01N23/223
G01N23/2206
【請求項の数】7
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-39689(P2016-39689)
(22)【出願日】2016年3月2日
(65)【公開番号】特開2016-176931(P2016-176931A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2018年10月18日
(31)【優先権主張番号】14/636,938
(32)【優先日】2015年3月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503310327
【氏名又は名称】マルバーン パナリティカル ビー ヴィ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100103779
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 定雄
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルザラス ファン デン ホーヘンホフ
(72)【発明者】
【氏名】チャラランポス ザーカダス
【審査官】
田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−152409(JP,A)
【文献】
米国特許第03855470(US,A)
【文献】
特許第2728556(JP,B2)
【文献】
特開2011−089987(JP,A)
【文献】
特開2001−116705(JP,A)
【文献】
特開平09−113468(JP,A)
【文献】
米国特許第04592082(US,A)
【文献】
田仲圭,X線回折によるスラグ中のフリーライムの定量分析,鉄と鋼,2014年,Vol.100 No.11,pp.40-44
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源からのエネルギーEのX線を試料表面に入射角ψ1で入射させ、前記試料の表面に対して出射角ψ2におけるX線検出器でエネルギーEの回折X線強度Id(θd)を測定することにより、透過X線のX線回折測定を行うステップであって、前記入射角と前記出射角との差2θdは、予め定めた成分のX線回折ピークに対応するものである、ステップと、
X線回折ピークに対応する前記角度の差2θdから0.2〜5°だけ離れる前記入射角と出射角の差2θbgで、エネルギーEのX線のバックグランド強度Id(θbg)の測定を行うことにより、X線の補正測定を行うステップと、
前記X線回折強度と前記バックグランド強度の強度比から前記予め定めた成分の量を算出するステップと、
を有し、
前記X線の補正測定を行うステップは、X線回折測定のステップで使用された同じ入射角ψ1で入射されるX線を使用し、ψ3は、ψ3=ψ2±Δψで、Δψは0.2〜5°の範囲としたとき、試料の表面からの出射角度ψ3でX線のバックグランド強度を測定し、
予め定めた成分の量の算出は、wflを対象とする成分の重量比としたとき、前記の強度比Id(θd)/Id(θdg)と算出されるW=wfl/(1−wfl)との間のリニアな関係を使用することを含む、
X線分析方法。
【請求項2】
前記予め定めた成分の量の算出は、前記予め定めた成分の量に対する強度比を関連付ける校正曲線により予め定めた成分の量を得ること含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記予め定めた成分は、フリーライムである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
予め定めた成分の既知の濃度を持つ複数の試料について、請求項1に記載の方法を実施することにより、予め定めた成分の濃度に対する強度比を関連付ける校正曲線を得るステップと
未知の試料について、請求項1の方法に従い、未知の試料中の予め定めた成分の量を測定するステップを有する、
X線分析方法。
【請求項5】
前記予め定めた成分の既知の濃度を持つ複数の試料の濃度を関数として前記強度比に直線を当てはめるステップを更に有する、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
実質的に水位に延びる試料を保持するための試料台と;
前記試料台に向けてX線を照射するX線源と;
透過ジオメトリーで回折X線の強度を測定するための試料台の他方の側に配置されるX線検出器と、
制御装置と、を備えるX線装置であって、
前記制御装置は、前記X線装置に、前記試料台上に設けられた試料に対して請求項1乃至5のいずれかの方法を実行させるように設けられている、X線装置。
【請求項7】
試料の蛍光X線測定を行うための、前記試料台のX線源と同じ側に位置する更なるX線システムを含む、
請求項6に記載のX線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定量X線分析とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線を使用する材料分析は多くの応用分野や産業において正確なデータを提供している。蛍光X線測定は試料中の組成元素の決定を可能にする。しかしながら、ある応用分野においては、これは十分でなく、また、単に組成元素を決定するだけでなく、試料の結晶相のような構造パラメータを決定する要請が存在し、これらではX線回折が使用される。
【0003】
代表的には、高い解像度のX線回折測定が反射モードで実施され、ここではX線の入射ビームが試料の第1の面に入射し、次いで、試料の同じ面で回折角2θで回折されたX線が検出器により検出される。
【0004】
ある応用分野においては、X線回折測定を透過モードで行うようにすることが有用であり、このモードでは、X線は試料の第1の面に入射し、第1の面から第2の面に試料を通過した後、回折角2θで回折したX線が測定される。
【0005】
この透過ジオメトリ(幾何学的構造)での測定に伴う問題は、試料そのものがX線を吸収することである。したがって、試料中のX線の吸収は通常は知られていないので、試料の与えられいかなる相における量を決定するための回折X線の正確な定量分析を行うことは困難である。
したがって、X線回折の厚みとマトリックス補正を量的に実行する方法への要求が存在している。
媒体を直接に通過る電磁波の吸収は、ビア-ランバートの法則(Beer-Lambert law)により、以下の式で与えられる。
【0006】
I=I
0e
-μρd
ここで、I
0は、入射線の強さ、Iは材料を通過した電磁波の強さ、μは材料の減衰係数、ρは材料の密度、dは材料の厚さ(即ち、材料中の電磁波の行路程)である。
【0007】
定量X線測定における吸収の影響は多くの理由により、この簡単な式が示すものよりより困難なものとしている。
【0008】
X線が偏向することなく直接に試料を透過する場合の、この簡単なビア-ランバートの場合、測定されたX線強度に対する吸収の影響を単一の値である積μρdにより特徴付けられる。
【0009】
このことは、問題のX線が回折X線或いは向きが変えられた場合は可能ではなく、吸収を特徴付けるためには、積μρdと質量吸収係数μの二つのパラメータを必要とする。
【0010】
この観点から、ある試料は厚さに制限が課されることとなる。圧縮粉末の試料では、取扱いと測定に十分な強度を持つ試料となる好適な試料の厚さは、少なくとも2mm、好ましくは3mmである。
【0011】
しかしながら、多くの応用分野で必要とされる典型的なX線のエネルギーに対するこれらの厚さでは、試料の厚み中のX線の吸収は50%より大きい。このことは、吸収の影響は大きく、簡単なビア-ランバートの法則からのなんらかのずれが顕著となる。大きな吸収は、測定強度と試料中の特定の元素の濃度との関係が直線的とはならないことを意味する。
【0012】
更なる問題としては、吸収は試料の成分の関数であるということである。試料中の種々の成分の濃度の変化は、吸収に大きな変化となって現れる。このことは、成分の量がわからず、吸収に影響を与えるため、試料中の与えられた成分の量を測定するようにされる定量X線分析にとっては問題となる。
【0013】
圧縮粉末試料を測定するときの更なる問題は、厚さdが通常は正確にわからないことである。一般に、工業分野の環境においては、圧縮粉末試料を作成し、次に、できるだけ早く測定することが望まれている。一般に、X線測定を実施する前に厚さを正確に測定することは望ましくない。
【0014】
これらの困難性は、
図1を参照することによりわかるが、
図1は、0%、10%、20%及び30%の種々のバインダーパーセントでワックスバインダーが混合された標準のセメントクリンカー材料(ポートランド セメント クリンカー:Portland cement clinker)の3つの試料の試料厚みの関数としての理論的に計算されたフリーライム(遊離CaO:遊離酸化カルシウム)の回折強度を示している。厚みのより大きい試料はより大きい回折の材料を含む、-2倍の厚みの試料は2倍の量のフリーライムを持つ-にもかかわらず、実際、回折強度は小さいといことを留意されたい。3mm程度の現実的な試料の厚さはかなりの非線形レジームとなり、測定強度と試料中のフリーライムの量との関係は単純とならない。
【0015】
更に、
図2に示すように、回折強度は、また、正確な組成に依存する。
【0016】
図2は、ポートランド セメント クリンカーの3個の異なる試料についての3つのグラフを示している。これらの試料の間では全体的に類似しているものの、回折強度は試料の間で異なっており、このことは、吸収の影響が試料間で異なる正確な組成の関数であることを示すものである。約3mmの厚みにおいては、約8%の回折強度の差が現れている。このことが、また、フリーライムの濃度の定量測定を回折測定から計算することを困難にしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
定量測定についての変化する組成の効果は、測定される試料、即ち、マトリックス、の組成に依存するため、マトリックス補正として知られている。マトリックス補正を計算することは、一般的に難しい。したがって、この困難を避ける測定方法に対する要請がある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明によると、以下のステップからなるX線分析方法が提供される:
X線源エからのネルギーEのX線を試料表面に入射角ψ
1で入射させ、前記試料の表面に対して出射角ψ
2におけるX線検出器でエネルギーEの回折X線の強度I
d(θ
d)を測定することにより、透過X線のX線回折測定を行う、(前記入射角と前記出射角との差2θdは、予め定めた成分のX線回折ピークに対応する)ステップと;
X線回折ピークに対応する前記角度差2θ
dから0.2〜5°だけ離れる前記入射角と出射角の差2θ
bgで、エネルギーEのX線のバックグランド強度Id(θ
bg)の測定を行うことにより、X線の補正測定を行うステップと、
前記回折強度とバックグランド強度の強度比から前記予め定めた成分の量を算出するステップ。
【0019】
このように測定を行うことにより、試料を通過の影響を相殺することが可能となり、したがって、透過ジオメトリにおいても定量測定が可能となる。この相殺効果の理論は以下に説明される。
【0020】
X線の補正測定を行うステップは、X線回折測定のステップで使用された同じ入射角ψ1で入射されるX線を使用し、試料の表面からの出射角度ψ
3でX線のバックグランド強度を測定することができる。ここで、ψ
3は、ψ
3=ψ
2±Δψで、Δψは0.2〜5°の範囲である。コリメータと検出器の位置のずれを僅かにすることにより、試料の不均一性に伴って生じる不正確さを減少させて、両方の測定において同一の試料の体積が現れることを確保することが可能となる。
【0021】
予め定めた成分の量の算出は、前記の強度比と算出される。
W=w
fl/(1-w
fl)との間のリニアな関係を使用することができる。
【0022】
ここで、w
flは、問題とする成分の重量比である。この置き換えは、結局、当てはめをより容易にするリニアの校正曲線となる。
【0023】
予め定めた成分の量の算出は、予め定めた成分の量に対する強度比を関連付ける校正曲線により予め定めた成分の量を得ることを可能にする。予め定めた成分は、フリーライムとすることができる。
【0024】
校正曲線は、予め定めた成分の既知の濃度を持つ複数の試料について、上述の方法を実施することにより、予め定めた成分の濃度に対する強度比を関連付けすることにより得ることができる。
【0025】
この方法は、予め定めた成分の既知お濃度を持つ複数の試料の濃度を関数として直線を強度比にあてはめることを含むことができる。
【0026】
他の態様においては、本発明は以下のX線装置であり、
実質的に水位に延びる試料を保持するための試料台と;
前記試料台に向けてX線を照射するX線源と;
透過ジオメトリーで回折X線の強度を測定するための試料台の他方の側に配置されるX線検出器と;
制御装置を備え、
前記制御装置は、前記X線装置を、前記試料台上に設けられた試料に対して上述の方法を実行させるように設けられている、X線装置。
【0027】
この装置は、更に、試料の蛍光X線測定を行うための、試料台のX線源と同じ側に位置する更なるX線システムを含むことができる。この追加的システムは、試料を装置から取り除くことなく、試料の完全な特徴付けを可能とするための更なる測定を可能にする。
【0028】
本発明の実施例を図面を参照して述べる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】ワックス中の異なる粉末濃度を持つ試料について厚さに対する測定強度を示すグラフである。
【
図2】異なる成分を持つ試料について厚さに対する測定強度を示すグラフである。
【
図3】「理論」セクションで述べる構成の入射及び出射X線を模式的に示す図である。
【
図4】試料の厚さdを関数とするマトリックス補正項の比率を示す。
【
図5】本発明の第1実施例の測定を行うために使用する装置を示す。
【
図6】フリーライムのパーセントの強度に対する比の校正曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、試料の厚さについての明確な知識を必要としないで、透過ジオメトリでのX線回折における測定された光子強度の補正に適用できる。
【0031】
理論
透過ジオメトリで実行されるX線回折測定は、測定される試料片が、生成された光子が背面側から一定の出口角度で逃げることができるように限定された厚みを持つことを必要としている。理論的計算は、測定される光子強度は試料の厚さと共に組成の両方に依存するであろうことを予見している。
【0032】
この意味において、試料の調整に関しての測定の再現性は、試料の調整中に異なる希釈割合(バインダー/材料)が適用されることを前提とすると、単一の試料から調整された試料片においてさえもかなりの影響を受ける。
【0033】
X線の試料の通過の吸収は以下により決定される:
【0034】
【数1】
上式は、試料片の質量減衰係数(通常、cm
2/gで表される)で、試料片に含まれる全ての元素の重量比w
i、及び各元素の励起エネルギーEにおける各元素の質量減衰係数μ
i(E)を含むため試料片の組成に直接に関連する.
この式及びこの書類の他の式で使用される関連する記号の定義をここでまとめておく。
【0035】
【表1】
図3に示すように、入射角ψ
1で試料に入射し、更に、出射角ψ
2で特定の元素により回折されるXを考える。
【0036】
ここで、数学の理解のために例を示す。
【0037】
この例では、測定を通じて、特定の(予め定めた)成分はフリーライムであるが、他の成分についても適用可能である。
【0038】
入射線はAG-Kaであるとすると、第1次回折は回折角2θ=13.3°であると想定される。したがって、この例では、入射角ψ
1=57°とすると、出射角ψ
2=57°+13.3°=70.3°となる。
【0039】
この回折ピークに対応する出射角において、シンチレーション検出器により観察される強度は、以下の式により与えられる。
【0041】
【数3】
は、角度θ
flにおける自己吸収項である。
【0042】
σは、回折ピークにおける測定された所定の成分の散乱断面積であり、σ
othは他の全ての成分の散乱断面積であることを留意されたい。
【0043】
もし、検出器とコリメータが0.5°〜5°の範囲、例えば、1°のΔψだけ回転すると、以下の式で表される角度2θ
bg=2θ
fl+1における散乱強度を観測することになる。
【0045】
【数5】
マトリックス吸収項は、出射角ψ
3=ψ
2+1°を含んでいるため、僅かに変更されていることを留意されたい。
【0046】
評価された実験装置については、ψ
1=57°で、ψ
2=57°+13.3°=70.3°、ψ
3=71.3°である。
【0047】
2つのチャンネルにおける測定強度の比を得る。
【0050】
しかしながら、第1の測定強度が回折ピークと仮定すると、出射角ψ
3、即ち、θ
bgにおけるフリーライムピークに相当する強度は小さい。したがって、この場合、下記の式(8)の第1項は小さく、以下のように書くことができる。
【0051】
【数8】
これは、特にフリーライムピークの例に当てはまる。通常のフリーライムの範囲(0.1%〜2.0%)では、分母の合計の第1項は10
-3よりかなり小さくなる。これは、重量比の値の項とAg-Kaの対応する回折角に相当するものから離れたフリーライム結晶による散乱の確率が、少なくとも1桁小さいという事実に起因するものである。
【0052】
これらの条件では、上記比率は以下のようになる。
【0053】
【数9】
ここで、G=G
fl/G
bgで、ジオメトリ係数の比である。
【0054】
この式は、なお、単純はリニアの関係からは離れたものであり、自己吸収項Mを含むものである。
図4は、フリーライムの場合の自己吸収項の比Mを、μ≒5.0cm
2/g、ρ≒2.0g/cm
3、厚さ値が2.8mm〜3.2mmの代表的なクリンカー成分の厚さdを関数として示したものである。
【0055】
図4に示されるように、試料の厚さの300μmの変化は、約0.1%の質量吸収係数の比に影響する。この観点において、強度の比は試料の厚みの変化にはより影響されない。
【0056】
したがって、本発明者は、式(4)を以下のように書き直すことが妥当であることを示すことができた。
【0057】
【数10】
試料の組成が一定であるとすると、等価断面積σ
fl(θ
fl)/σ
oth(θ
bg)及びσ
oth(θ
fl)/σ
oth(θ
bg)は、また、一定である。このような場合には、強度比はフリーライムの重量比の関数としてのみで書き直すことができる。
【0058】
【数11】
一般的に、2つのリニア関数の比はリニアではなく、有理関数である。
【0059】
W=w
fl/(1-w
fl)とすると、
【0060】
【数12】
と書ける。
したがって、W=w
fl/(1-w
fl)で、w
flが関心のある成分比とした場合、強度の比率は、比率Wのリニア関数とみなすことができる。
【0061】
換言すると、上述のように2つの測定を行うことにより、校正のために多大な労力なしには定量測定を非常に困難なものとするM項の影響を避けることが可能となる。
【0062】
本方法は、単にバックグランド補正を差し引くだけでない、即ち、本方法は、ピークの高さを差し引くことにより決定するためにバックグランドの測定をするものでないことを留意されたい。その替わりに、本方法は、強度比を使用することにより、マトリックス補正項Mは効果的に補正されるため、フリーライムのピークと適切な隣接位置の強度の比を使用するものである。
【0063】
実施例
上記の式W=w
fl/(1-w
fl)及び式(12)は、
図5に示されるシステムで測定するために使用することができる。
【0064】
X線装置2は試料6を保持する試料台4を有している。
【0065】
X線源10は試料台4の下に設けられる。この方法では、必要とされないが、蛍光X線を検出するための蛍光X線検出器12が便宜のため試料台4の下に設けられている。蛍光X線検出器はエネルギーを関数としてX線を測定するエネルギー分散型検出器でもよく、或いは、特定の波長のX線を選択して測定する、ゴニオメータ、マスク、結晶、コリメータ及び検出器を有する波長分散型X線検出器であってもよい。
【0066】
透過X線検出器14がゴニオメータ上の試料台4の上方に設けられ、角度の関数として回折X線を測定するようにしている。
【0067】
コリメータ16及びフィルタ18を含む他の多くの要素が設けられている。コリメータ16は、回折測定のみに必要とされ、蛍光X線測定では除かれる。更に、コリメータ15は、試料により回折された特定の角度のX線のみを選別するものであることに留意されたい。コリメータ15が、試料とX線検出器の間に設けられ、また、同じようにゴニオメータ上で異なる回折角を選択 するために回動できるように設けられている。
【0068】
実際、もし、X線検出器14が十分に大きいX線入射窓を持っていれば、補正測定(下記参照)におけるバックグランド強度を測定するために必要な全ては、コリメータ15を回動させることである。本装置は、メモリ22及びプロセッサ24を含む制御装置20により制御される。
【0069】
本実施例においては、X線源10はAg-Ka線を出射するようにされ、フィルタ18はAg-Kb線を濾過し、可能であれば、連続線も濾過するようにされている。このフィルタはAg-Kb線を濾過するためのRh又はPdの層と連続線を濾過するためのAgのような他の層を含む多層構造である。Ag或いはAgに加えるものとして原子番号の大きい元素の層を使用することができる。
【0070】
使用に際しては、粉末圧縮法により試料6が調整される。粉末はワックスバインダと共に試料台に配置される試料を形成するためにリング状に圧縮される。この特定の例では、試料はクリンカーの試料で、測定される予め定めた成分はフリーライムである。
【0071】
次に、回折ピーク2θ
fl=13.3°における強度の測定が、入射角ψ
1を与えるように位置するX線源と出射角ψ
2=ψ
1+13.3°における透過X線検出器により測定される。
【0072】
次に、透過X線検出器14及びコリメータ15がΔψだけ新たな出射角ψ
3に回動され、X線源10を回動せずに、出射角ψ
3における強度の補正測定が行われる。
【0073】
次に、補正強度により徐算された測定強度の強度比率が得られ、この比率とWの間のリニアの関係(式12)から、制御装置が関心のある成分、ここではフリーライムの重量割合を決定し、次いで、これを式W=w
fl/(1-w
fl)を使用してフリーライム濃度に変換する。
【0074】
校正曲線を得るために、濃度の既知の多くの試料を使用して校正が実施される。これらの試料の各々は、上述の方法で測定され、強度比に対する濃度の校正曲線が強度比をパラメータWにあてはめることにより得られる。これらの測定と校正は、全て、測定を実施するために装置2を制御するための制御装置のプロセッサ22を制御するメモリ24に記憶されるコードにより制御されて実行される。
【0075】
実験例
本方法の適用可能性とともに、行われる近似の有効性をテストするために実験が行われた。
【0076】
複数のペレットのセットが準備された。このセットは、適当なフリーライム(FL)の量が混入したクリンカーマトリックスを素材として試験片から成るもので、フリーライムの量は、0%、0.5%、1%、1.5%、2%、3%、4%及び5%に等しい最終的なフリーライム濃度を生み出すようにされているものである。
【0077】
想定された強度比が期待されたリニアの関係が維持されてえいるかどうかをテストするという観点で、上述のようにして測定が行われた。測定は、入射角ψ1=57°で、ψ
2=70.3°及びX線回折(XRD)の近傍(XRDBG)ψ3=71.3°における回折強度を測定して実行された。
【0078】
フリーライム成分の校正曲線が
図6に示されている。上述に説明した方法を使用したこの校正曲線は良好に定まり、リニアであることを留意されたい。
【0079】
更に、同様な種類のものについての実験からも上述の結果が確認でき、また、フリーライムチャンネルの測定強度とそのチャンネルからの小さい角度変位における測定強度の比も厚さの範囲において略一定であり前述の比率の方法も使用できることが証明された。
【0080】
本方法の利点は、入射X線と回折X線は両方の測定について同じ試料の体積と相互に影響しあうため、試料の不均一性はそれほど重要でないことである。更に、本方法は、機器に起因するドリフトは、強度比を使用することにより殆ど打ち消され、これにより、更なる複雑な校正を必要としない。
【0081】
クリンカー試料のフリーライムを測定するとき、それらのセメント試料中の他の成分についての興味が存在する。蛍光X線検出器12を使用する蛍光X線分析を、試料を装置から除去することなく、それらの試料の組成元素を決定することができる。特に、試料中にCa、Fe、Al、Siが酸化物の形態で存在するという仮定でのそれらの元素の測定はクリンカー試料の全ての成分の測定を可能とするものである。
【0082】
当業者であれば、上述の本発明の方法及び装置は必要に応じて適宜変更できるであろう。
【0083】
上記の測定は、クリンカー試料中のフリーライムの回折ピークの測定を参照して説明したが、本発明の方法は、上述の例に限定されるものでなく、マトリックス補正を必要とする他の試料も同様に測定することができる。
【符号の説明】
【0084】
2 X線装置
4 試料台
6 試料
10 X線源
12 蛍光X線検出装置
14 透過X線検出装置
15 コリメータ
16 コリメータ
18 フィルタ
20 制御装置
22 メモリ
24 プロセッサ