特許第6762785号(P6762785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6762785
(24)【登録日】2020年9月11日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】開放型冷媒圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/02 20060101AFI20200917BHJP
   F04B 39/12 20060101ALI20200917BHJP
   F04C 29/02 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   F04B39/02 E
   F04B39/02 N
   F04B39/12 101D
   F04C29/02 311K
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-136771(P2016-136771)
(22)【出願日】2016年7月11日
(65)【公開番号】特開2018-9457(P2018-9457A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 創
(72)【発明者】
【氏名】宮本 善彰
(72)【発明者】
【氏名】水野 尚夫
(72)【発明者】
【氏名】野口 章浩
(72)【発明者】
【氏名】後藤 孝
(72)【発明者】
【氏名】鹿内 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】後藤 秀作
【審査官】 上野 力
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−227956(JP,A)
【文献】 特開2004−176543(JP,A)
【文献】 特開2001−99080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/02
F04B 39/12
F04C 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに形成された吸入ポートと、
前記ハウジングの内部に設けられ、潤滑油を含む冷媒ガスを圧縮する圧縮機構と、
前記圧縮機構を駆動する駆動軸と、
前記駆動軸が前記ハウジングから外部に突出する軸穴に設けられ、前記ハウジングの内部から外部への前記冷媒ガスの漏出を防止するシール部材と、
前記ハウジングの内部から前記シール部材に繋がる冷媒供給通路と、
前記吸入ポートから前記ハウジングの内部に導入された前記冷媒ガスを、前記冷媒供給通路側と前記圧縮機構側とに分配する冷媒ガス分配部と、
を備え、
前記冷媒ガス分配部による前記冷媒ガスの分配率は、前記冷媒供給通路側への分配量が前記圧縮機構側への分配量よりも多くなるように設定されており、
前記冷媒ガス分配部は、前記ハウジングの内部に別部品として取り付けられ、
前記冷媒供給通路は、その少なくとも一部が、前記ハウジングの内面に形成された冷媒供給溝に前記冷媒ガス分配部が被装されることによって形成されている開放型冷媒圧縮機。
【請求項2】
前記冷媒ガス分配部による前記冷媒ガスの分配率は、前記吸入ポートから前記ハウジングの内部に導入された前記冷媒ガスの全量が前記冷媒供給通路側に流れるように設定されている請求項1に記載の開放型冷媒圧縮機。
【請求項3】
前記冷媒供給通路の末端部は、前記シール部材と、該シール部材の内側に配置されている軸受部材との間に形成されたシール空間に連通している請求項1又は2に記載の開放型冷媒圧縮機。
【請求項4】
前記シール部材から前記圧縮機構側に前記冷媒ガスを導く冷媒排出通路が設けられている請求項1からのいずれかに記載の開放型冷媒圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒ガスを圧縮する開放型冷媒圧縮機に係り、詳しくは駆動軸がハウジングから突出する部分に設けられるシール部材の摩耗を防止するようにした開放型冷媒圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーエアコン等において冷媒ガスを圧縮する冷媒圧縮機(コンプレッサ)は、アルミ合金等で形成されたハウジングの内部に圧縮機構が収容され、この圧縮機構を駆動する駆動軸がハウジングの一面から突出し、その突出部に設けられた電磁クラッチ付のプーリーがベルトを介してエンジン等に駆動されるようになっている。このような冷媒圧縮機は、そのハウジングに駆動軸を突出させる軸穴が形成されていることから開放型と呼ばれる。これに対し、密閉された圧力容器の内部に圧縮機構と駆動モータとが内蔵されたものは密閉型と呼ばれる。
【0003】
開放型の冷媒圧縮機において、駆動軸の突出部、即ちハウジングの軸穴にはリップシール(リップ付のオイルシール)が設けられ、ハウジング内部の冷媒ガスが外部に漏洩することが防止されている。このリップシールは、冷媒ガスに混合された潤滑油によって潤滑されるが、冷媒ガスの循環量が低下する低負荷運転時等にはリップシールへの給油が不足することが考えられる。その場合はリップ先端が摩耗し、冷媒ガスおよび油漏れの原因となる懸念がある。
【0004】
この懸念を解決するため、例えば特許文献1に開示されているように、ハウジングの内壁面に、リップシールおよびその近傍にある軸受部材に通じる案内溝や連通孔を形成し、運転中にハウジング内部を流れる冷媒ガスおよび潤滑油がこれらのオイル通路を経てリップシールおよび軸受部材に供給されるようにした開放型冷媒圧縮機がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−23849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来では上記のようにハウジング内部を流れる冷媒ガスおよび潤滑油がどの程度リップシールに供給されているのかが判明せず、例えば一時的な潤滑油の不足によりリップシールが摩耗する可能性が残されていた。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、駆動軸がハウジングから突出する部分に設けられるシール部材を冷媒ガスに含まれる潤滑油によって確実に潤滑可能にし、シール部材の摩耗を防止することのできる開放型冷媒圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る開放型冷媒圧縮機は、ハウジングと、前記ハウジングに形成された吸入ポートと、前記ハウジングの内部に設けられ、潤滑油を含む冷媒ガスを圧縮する圧縮機構と、前記圧縮機構を駆動する駆動軸と、前記駆動軸が前記ハウジングから外部に突出する軸穴に設けられ、前記ハウジングの内部から外部への前記冷媒ガスの漏出を防止するシール部材と、前記ハウジングの内部から前記シール部材に繋がる冷媒供給通路と、前記吸入ポートから前記ハウジングの内部に導入された前記冷媒ガスを、前記冷媒供給通路側と前記圧縮機構側とに分配する冷媒ガス分配部と、を備え、前記冷媒ガス分配部による前記冷媒ガスの分配率は、前記冷媒供給通路側への分配量が前記圧縮機構側への分配量よりも多くなるように設定されている。
【0009】
上記構成の開放型冷媒圧縮機によれば、吸入ポートからハウジングの内部に導入された冷媒ガスが、冷媒ガス分配部によって冷媒供給通路側と圧縮機構側とに分配される。冷媒供給通路側に分配された冷媒ガスはシール部材に流れ、冷媒ガス中に含まれる潤滑油によってシール部材が潤滑される。一方、圧縮機構側に分配された冷媒ガスは圧縮機構により圧縮されて圧縮冷媒ガスとなり、ハウジングに形成された吐出ポートから吐出される。
【0010】
冷媒ガス分配部による冷媒ガスの分配率は、冷媒供給通路側への分配量が圧縮機構側への分配量よりも多くなるように設定されているため、十分な量の冷媒ガスがシール部材に供給される。したがって、冷媒ガス中に含まれる潤滑油によりシール部材を優先的に潤滑し、シール部材の潤滑状態を向上させて摩耗を防止することができる。シール部材に供給された冷媒ガスは、次に圧縮機構側に流れ、他の機構等を潤滑した後、圧縮機構により圧縮されて圧縮冷媒ガスとなる。
【0011】
上記構成の開放型冷媒圧縮機において、前記冷媒ガス分配部による前記冷媒ガスの分配率は、前記吸入ポートから前記ハウジングの内部に導入された前記冷媒ガスの全量が前記冷媒供給通路側に流れるように設定してもよい。これにより、吸入ポートから吸入された冷媒ガスの全量が最初にシール部材に流れるため、シール部材への潤滑油の供給量が最大量となり、これによってシール部材の潤滑状態を最大限に向上させることができる。
【0012】
上記構成の開放型冷媒圧縮機において、前記冷媒ガス分配部は、前記ハウジングの内部に別部品として取り付けられる。こうすれば、冷媒ガス分配部の形状を適宜設定することにより、冷媒ガスの分配量を自在に設定することができる。
【0013】
上記構成の開放型冷媒圧縮機において、冷媒供給通路は、その少なくとも一部が、前記ハウジングの内面に形成された冷媒供給溝に前記冷媒ガス分配部が被装されることによって形成される。こうすれば、冷媒ガス分配部の形状はハウジングの内面に形成された冷媒供給溝を覆うことができる形状であれば良いため、冷媒ガス分配部の形状を簡素化することができる。
【0014】
上記構成の開放型冷媒圧縮機において、前記冷媒供給通路の末端部は、前記シール部材と、該シール部材の内側に配置されている軸受部材との間に形成されたシール空間に連通するようにしてもよい。こうすれば、シール空間に供給された冷媒ガスが軸受部材の隙間を通過して圧縮機構側に流れ出るため、軸受部材を良好に潤滑できるとともに、シール部材への冷媒供給量が過剰になっても、シール部材に加わる冷媒ガスの圧力が過大になって冷媒が外部に漏れることを防止することができる。
【0015】
上記構成の開放型冷媒圧縮機において、前記シール部材から前記圧縮機構側に前記冷媒ガスを導く冷媒排出通路を設けてもよい。こうすれば、シール部材に供給された冷媒ガスおよび潤滑油を冷媒排出通路によって圧縮機構側へと導き、冷媒ガスおよび潤滑油の定常流を形成することで、開放型冷媒圧縮機の各部の潤滑を良好に行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明に係る開放型冷媒圧縮機によれば、駆動軸がハウジングから突出する部分に設けられるシール部材を冷媒ガスに含まれる潤滑油によって確実に潤滑可能にし、シール部材の摩耗を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態を示す開放型圧縮機の部分縦断面図である。
図2図1のII矢視により冷媒ガス分配部を示す分解斜視図である。
図3図1のIII-III線に沿うサブ軸受付近の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図1乃至図3を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態を示す開放型スクロール圧縮機(開放型冷媒圧縮機)の部分縦断面図である。本実施形態に係る開放型スクロール圧縮機1は、例えば自動車のエンジンルーム内に設置されてエンジン動力により駆動され、冷媒ガスを圧縮するように構成されたカーエアコン用のものであるが、これに限らず、居住空間空調用や、冷凍システム、ヒートポンプ式給湯システム等に用いられる開放型圧縮機に本発明を適用してもよい。
【0019】
開放型スクロール圧縮機1は、アルミ合金等で形成された略円筒形状のハウジング2を備えている。ハウジング2は、本体をなすハウジング本体2Aと、ハウジング本体2Aの一端に設けられた開口部を気密的に閉塞するようにボルト等で固定されるハウジングカバー2Bとから構成されている。ハウジング本体2Aの図示しない他端は閉塞されている。
【0020】
ハウジング2の内部空間S1にはスクロール圧縮機構4(圧縮機構)および駆動軸5が収容されている。ハウジング2の外周面には、圧縮される前の冷媒ガスが吸入される吸入ポート3と、スクロール圧縮機構4により圧縮された冷媒ガスが吐出される吐出ポート(非図示)とが設けられている。
【0021】
駆動軸5は、ハウジングカバー2Bにメイン軸受6およびサブ軸受7(軸受部材)を介して回転自在に支持されている。メイン軸受6としては例えば単列深溝玉軸受が用いられ、サブ軸受7としては例えばニードル軸受が用いられている。駆動軸5の一端はハウジングカバー2Bに形成された軸穴8を通って外部に突出している。サブ軸受7は軸穴8の内部に圧入されており、サブ軸受7の外方側にリップシール9(シール部材)が圧入されている。リップシール9はサブ軸受7に向かって傾倒し、且つ駆動軸5の外周面に軽く圧接されるリップ9aを備えている。
【0022】
ハウジングカバー2Bの先端外周部にはプーリー軸受11を介してプーリー12が回転自在に設置されており、このプーリー12と図示しないエンジン等の駆動源に設けられた駆動プーリーとの間にベルト(非図示)が巻装される。駆動軸5の先端部に固定されたクラッチ板13がプーリー12の外端面に近接して対向しており、プーリー12の内側に位置するようにハウジングカバー2Bに固定された電磁クラッチ14が励磁されると、クラッチ板13がプーリー12側に引き付けられてプーリー12の外端面と摩擦係合し、プーリー12の回転が駆動軸5に伝達されて駆動軸5が回転する。
【0023】
駆動軸5の後端には、駆動軸5の中心軸線に対して所定寸法だけ偏心したクランクピン5aが一体に形成されており、このクランクピン5aはドライブブッシュ16およびドライブ軸受17を介してスクロール圧縮機構4の旋回スクロール18背面に形成されたボス18aに嵌合されている。
スクロール圧縮機構4は、旋回スクロール18と図示しない固定スクロールとが180度位相をずらされて噛み合わせられた公知の構成のものであり、駆動軸5が回転すると、自転防止機構19の働きによって旋回スクロール18が固定スクロールに対して公転旋回運動するように駆動され、両方のスクロール間に形成された一対の圧縮室(非図示)が外周位置から中心位置へと移動しながらその容積を漸次減少させる。
このため、吸入ポート3からハウジング2の内部空間S1に吸入された冷媒ガスがスクロール圧縮機構4に吸入・圧縮されて吐出ポートから吐出され、図示しない凝縮器等に供給される。部材20はバランサウェイトである。
【0024】
冷媒ガス中には潤滑油(冷凍機油)が所定の比率で含まれており、この潤滑油のミストによってメイン軸受6、サブ軸受7、リップシール9、クランクピン5a、ドライブブッシュ16、ドライブ軸受17、自転防止機構19、スクロール圧縮機構4等の各内部機構部が潤滑されるようになっている。リップシール9は、ハウジング2の内部から外部への冷媒ガスおよび潤滑油の漏出を防止するシール部材であり、冷媒ガス中に含まれるオイルに潤滑されることでリップ9aの摩耗を防止されているが、冷媒ガスの循環量が低下する低負荷運転時等にはリップシール9の給油が不足してリップ9a先端が摩耗する虞がある。
【0025】
このようなリップシール9の摩耗を防止するために、この開放型スクロール圧縮機1は、吸入ポート3から吸入された冷媒ガスを、ハウジング2の内部空間S1側よりもリップシール9側に優先的に流すように構成されている。その構成は以下の通りである。
【0026】
吸入ポート3の内側には冷媒導入空間S2が形成されている。この冷媒導入空間S2は、ハウジング本体2Aの開口部に差し込まれるハウジングカバー2Bの差し込みフランジ2Baに穿設した冷媒通過孔2Bb(従来から既存の孔)の底部を、図2にも示すような仕切りプレート22(冷媒ガス分配部)で閉塞することによって所定の容積(数cc程度)を有する部屋として画成したものである。なお、吸入ポート3および冷媒導入空間S2は、例えばハウジング2の最上部に位置付けられている。従来は仕切りプレート22が存在しなかったため、吸入ポート3は冷媒通過孔2Bbを経てそのまま内部空間S1に連通していた。
【0027】
図2に示すように、仕切りプレート22は、ハウジング2(2B)の内部に別部品として2本のボルト23で取り付けられるものである。仕切りプレート22は、例えば板金材料を階段状に屈曲成形した形状であり、図1および図2に示すように、ハウジング2の中心側から順に、第1垂直面22aと、第1水平面22bと、第2垂直面22cと、第2水平面22dとを有している。第2水平面22dは冷媒導入空間S2の底部なす面であり、第1垂直面22aの水平方向両端部にはボルト穴22eが穿設されている。
【0028】
図1および図3に示すように、サブ軸受7が圧入される軸穴8の内周面には、その周方向に等間隔で例えば4つの冷媒誘導溝25が形成されている。これらの冷媒誘導溝25は、例えば時計の文字盤における12時、3時、6時、9時の位置(図3参照)にそれぞれ配置されており、それらの先端はリップシール9とサブ軸受7との間に形成されたシール空間S3に連通し、後端はハウジング2の内部空間S1に連通している。図3に示すように、サブ軸受7は、外輪部材7aと、内輪部材7bと、これら内外輪部材7a,7b間に配置された複数のコロ状の転動部材7cと、これら複数の転動部材7cを等間隔に保持する保持器7dとを有している。外輪部材7aには冷媒誘導溝25に整合する位置に給油孔7eが形成されている。
【0029】
また、図1および図3に示すように、3時、6時、9時の位置にある冷媒誘導溝25からは、駆動軸5の軸心線から放射方向に延びてハウジング2の内部空間S1に連通する冷媒排出通路27が形成されている。さらに、これら3つの冷媒排出通路27の位置に合わせて、ハウジングカバー2Bの差し込みフランジ2Baを貫通する3つの冷媒排出通路28が形成されている。これらの冷媒排出通路27,28は、後述するようにリップシール9に供給された冷媒ガスをスクロール圧縮機構4側に導く通路である。
【0030】
図2に示すように、ハウジング2(2B)の内部側から見て、軸穴8が内部空間S1側に開口する部分の上部内壁面に数ミリの高さを有する肉盛部31が形成されており、この肉盛部31の幅方向中央部に、図1にも示す鉛直方向に延びる冷媒供給溝32aが形成され、その両側にボルト穴33が形成されている。肉盛部31を形成することは必須ではなく、冷媒供給溝32aを形成可能であれば肉盛部31を省いてもよい。また、この冷媒供給溝32aの上端部からメイン軸受6側に向かって水平方向に延びる冷媒供給溝32bが形成されている(図1図2参照)。冷媒供給溝32bには、前述の3つの冷媒排出通路28と同様に形成された1つの冷媒誘導通路29が連通しており、この冷媒誘導通路29の他端は冷媒導入空間S2に連通している。
【0031】
仕切りプレート22は、その第1垂直面22aが肉盛部31に当てがわれて2本のボルト23でボルト穴33に締結される。これにより、前述の通り仕切りプレート22の第2水平面22dによって冷媒導入空間S2の底部が閉塞される。また、冷媒供給溝32aと32bとに、それぞれ仕切りプレート22の第1垂直面22aと第1水平面22bとが被装され、冷媒供給溝32a,32bがそれぞれ内部空間S1に対して隔絶された通路となる。なお、図1では仕切りプレート22の第2水平面22dがメイン軸受6の外周面とハウジングカバー2Bとの間に挟まれる態様となっているが、メイン軸受6を境にして仕切りプレート22を2つに分割し、その各々を個別にハウジング2の内面に固定するようにしてもよい。
【0032】
最上部の冷媒誘導溝25(図3中に示す12時の位置のもの)と、冷媒供給溝32aと、冷媒供給溝32bと、冷媒誘導通路29とにより、冷媒導入空間S2からリップシール9に繋がる冷媒供給通路35が形成されている。この冷媒供給通路35の末端部は軸穴8の内周面に形成された冷媒誘導溝25であるため、リップシール9とサブ軸受7との間のシール空間S3に通じている。そして、仕切りプレート22は、吸入ポート3から冷媒導入空間S2に導入された冷媒ガスを、冷媒供給通路35側とスクロール圧縮機構4側とに分配する冷媒ガス分配部として機能する。
【0033】
本実施形態における仕切りプレート22による冷媒ガスの分配率は、冷媒供給通路35側への分配量の方がスクロール圧縮機構4側への分配量よりも格段に多くなるように設定されている。即ち、冷媒導入空間S2から冷媒供給通路35側への冷媒ガスの流動抵抗が、冷媒導入空間S2からスクロール圧縮機構4側への冷媒ガスの流動抵抗よりも大幅に小さくなるように仕切りプレート22の形状が定められている。
【0034】
例えば、本実施形態では仕切りプレート22の第2水平面22dによって冷媒導入空間S2の底部が全面的に閉塞されているため、冷媒ガスの分配率は、冷媒導入空間S2に導入された冷媒ガスのほぼ全量が冷媒供給通路35側に流れるように設定されている。しかしながら実際には、仕切りプレート22の各面22a〜22dと冷媒導入空間S2(ハウジングカバー2B)との間にシール手段が設けられておらず、両者22,2B間に隙間が存在するため、冷媒導入空間S2に流入する冷媒ガスのうちの若干量がこの隙間からスクロール圧縮機構4側(内部空間S1側)に漏出することになる。
【0035】
以上のように構成された開放型スクロール圧縮機1において、駆動軸5が回転すると、スクロール圧縮機構4が冷媒ガスを吸入することよってハウジング2の内部空間S1に負圧が発生し、この負圧によって吸入ポート3から冷媒導入空間S2に冷媒ガスが導入される。導入された冷媒ガスは、仕切りプレート22によって冷媒供給通路35側とスクロール圧縮機構4側(内部空間S1側)とに分配されるが、本実施形態では、冷媒導入空間S2に導入された冷媒ガスの略全量が冷媒供給通路35側に分配されるように設定されている。
【0036】
即ち、冷媒導入空間S2から冷媒供給通路35側に分配された冷媒ガスは、冷媒供給通路35の始点である冷媒誘導通路29から流入し、冷媒供給溝32a,32bと、冷媒供給通路35の末端部である上側の冷媒誘導溝25(図3に示す12時の位置にある冷媒誘導溝25)とを経てシール空間S3に流れ、この冷媒ガスに含まれるミスト状の潤滑油によってリップシール9とサブ軸受7とが潤滑される。冷媒ガスは上側の冷媒誘導溝25を通過する際にサブ軸受7の外輪部材7aに形成された給油孔7eからもサブ軸受7の内部に流入し、サブ軸受7を潤滑する。
【0037】
サブ軸受7を潤滑し終えた冷媒ガス(潤滑油)は、図3に示す3時、6時、9時の位置にある冷媒誘導溝25と、これら3本の冷媒誘導溝25から延びる3本の冷媒排出通路27、およびこれらに整合する冷媒排出通路28を通って内部空間S1側に放出され、冷媒導入空間S2から仕切りプレート22の隙間を通過した冷媒ガスと合流する。この冷媒ガスは、メイン軸受6を通過してこれを潤滑した後、クランクピン5a、ドライブブッシュ16、ドライブ軸受17、自転防止機構19、スクロール圧縮機構4等に供給されてこれらを潤滑する。その後、冷媒ガスはスクロール圧縮機構4に吸入され、圧縮されて圧縮冷媒ガスとなり、ハウジング2に形成された吐出ポートから吐出されて凝縮器等の需要部に供給される。
【0038】
このように、仕切りプレート22によって、冷媒導入空間S2から冷媒供給通路35側へ流れる冷媒ガスの分配量が、冷媒導入空間S2からスクロール圧縮機構4側(内部空間S1)への冷媒ガスの分配量よりも多くなるように設定されているため、十分な量の冷媒ガスをリップシール9に供給することができる。したがって、冷媒ガスの循環量が低下する低負荷運転時等においても、冷媒ガス中に含まれる潤滑油によってリップシール9を優先的に潤滑し、リップシール9の潤滑状態を向上させてリップ9aの摩耗を防止することができる。
【0039】
本実施形態では、仕切りプレート22による冷媒ガスの分配率を、冷媒導入空間S2に導入された冷媒ガスの略全量が冷媒供給通路35側に流れるように設定したため、吸入ポート3から吸入された冷媒ガスの略全量が最初にリップシール9に流れる。このため、リップシール9への潤滑油の供給量が最大量となり、リップシール9の潤滑状態を最大限に向上させてリップ9aの摩耗を防止することができる。
【0040】
仕切りプレート22は、ハウジング2の内部に別部品として取り付けられるようになっているため、仕切りプレート22の形状を適宜設定することにより、冷媒ガスの分配量を自在に設定することができる。例えば、仕切りプレート22の第2水平面22d等に穴を穿設する、あるいは仕切りプレート22(22a〜22d)を曲げる(変形させる)等して冷媒導入空間S2やハウジングカバー2B(肉盛部31)等との間の隙間を広くする、といった変更を施すことにより、上記の冷媒ガス分配率を容易に変更することができる。
【0041】
冷媒供給通路35は、その一部が、ハウジング2の内面に形成された冷媒供給溝32a,32bに仕切りプレート22の第1垂直面22aおよび第1水平面22bが被装されることによって形成されている。本構成によれば、仕切りプレート22の形状は冷媒供給溝32a,32bを覆うことができる平坦な形状であれば良いため、仕切りプレート22の形状を簡素化することができる。例えば、本実施形態では仕切りプレート22を板金材料で形成し、その各面22a〜22dを平坦にして形状を簡素化しているため、製造が容易になっている。
【0042】
冷媒供給通路35の末端部である冷媒誘導溝25は、リップシール9とサブ軸受7との間に形成されたシール空間S3に連通しているため、リップシール9に供給された冷媒ガスがサブ軸受7の隙間を通過してスクロール圧縮機構4側に流れ出る。このため、サブ軸受7を良好に潤滑するとともに、リップシール9への冷媒供給量が過剰になっても、リップシール9に加わる冷媒ガスの圧力が過大になって冷媒が外部に漏れることを防止することができる。
【0043】
また、リップシール9からスクロール圧縮機構4側に冷媒ガスを導く冷媒排出通路27,28を設けたことにより、リップシール9に供給された冷媒ガスおよび潤滑油を冷媒排出通路27,28によってスクロール圧縮機構4側へと導き、冷媒ガスおよび潤滑油の定常流を形成することで、開放型スクロール圧縮機1の各部の潤滑を良好に行うことができる。
【0044】
以上に説明したように、本実施形態に係る開放型スクロール圧縮機1によれば、駆動軸5がハウジング2から突出する部分(軸穴8)に設けられるリップシール9を、冷媒ガスに含まれる潤滑油によって確実に潤滑可能にし、リップシール9(リップ9a)の摩耗を防止することができる。
【0045】
なお、本発明は上記実施形態の構成のみに限定されるものではなく、適宜変更や改良を加えることができ、このように変更や改良を加えた実施形態も本発明の権利範囲に含まれるものとする。
例えば、開放型スクロール圧縮機1の基本的な内部構造や部品の位置関係等については、必ずしも本実施形態に示すものと同一である必要はない。
特に、上記実施形態では、吸入ポート3の内側に形成された冷媒導入空間S2が、ハウジングカバー2Bの差し込みフランジ2Baに穿設した冷媒通過孔2Bbの底部を仕切りプレート22の第2水平面22dによって閉塞することによって構成されているが、例えば仕切りプレート22の形状のみによって冷媒導入空間S2を構成するようにしてもよい。
また、スクロール式の冷媒圧縮機構に代えて、ロータリー式、ベーン式、斜板式等、他の形式の冷媒圧縮機構にしてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 開放型冷媒圧縮機
2 ハウジング
3 吸入ポート
4 スクロール圧縮機構(圧縮機構)
5 駆動軸
7 サブ軸受(軸受部材)
8 軸穴
9 リップシール(シール部材)
22 仕切りプレート(冷媒ガス分配部)
27,28 冷媒排出通路
32a,32b 冷媒供給溝
35 冷媒供給通路
S1 内部空間
S2 冷媒導入空間
S3 シール空間
図1
図2
図3