(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6762877
(24)【登録日】2020年9月11日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】熱ショックタンパク質を本質的に含まない医薬製剤、医薬製剤を含むバイアル又は投与具、バイアル又は投与具を含むキット、並びにアレルギーの治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/35 20060101AFI20200917BHJP
A61K 39/36 20060101ALI20200917BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20200917BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20200917BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20200917BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
A61K39/35
A61K39/36
A61K39/00 H
A61K39/00 G
A61P37/08
A61K9/08
A61K47/26
【請求項の数】25
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-561381(P2016-561381)
(86)(22)【出願日】2015年4月9日
(65)【公表番号】特表2017-510600(P2017-510600A)
(43)【公表日】2017年4月13日
(86)【国際出願番号】EP2015057772
(87)【国際公開番号】WO2015155310
(87)【国際公開日】20151015
【審査請求日】2018年3月23日
(31)【優先権主張番号】14164293.4
(32)【優先日】2014年4月10日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516297976
【氏名又は名称】アシット バイオテック エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】レゴン、 ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】ピロトン、 サビーヌ
(72)【発明者】
【氏名】プラシエ、 ガエル
【審査官】
参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/000783(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/011095(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/35
A61K 9/08
A61K 39/00
A61K 39/36
A61K 47/26
A61P 37/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレルギーの治療に用いられる医薬製剤であって、
抗原構造物の断片10〜200μg/ml、ここで該抗原構造物は前記アレルギーを誘発する抗原構造物であり、前記断片は免疫寛容を誘導し、前記断片のうち少なくとも70重量%が1,000〜10,000Daである、
2〜6%(w/v)のマンニトール、
0.5〜2%(w/v)のトレハロース、及び
水
を含み、熱ショックタンパク質の含有量が0.5ng/ml未満である前記医薬製剤。
【請求項2】
前記抗原構造物の断片の濃度が50〜200μg/mlである請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
緩衝剤をさらに含む請求項1又は請求項2に記載の医薬製剤。
【請求項4】
前記緩衝剤がリン酸塩緩衝剤である、請求項3に記載の医薬製剤。
【請求項5】
皮下注射のための形態である請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項6】
前記熱ショックタンパク質の量が0.1ng/ml未満である請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項7】
熱ショックタンパク質を含まない請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項8】
熱ショックタンパク質が添加されていない請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項9】
前記抗原構造物の断片が加水分解アレルゲンである請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項10】
前記加水分解アレルゲンが、前記抗原構造物の酵素的加水分解により調製される加水分解アレルゲンである、請求項9に記載の医薬製剤。
【請求項11】
前記加水分解アレルゲンが、
a)アレルゲンタンパク質を含むアレルゲンの天然供給源を抽出して抽出物を形成するステップ、
b)前記抽出物を精製して非タンパク質成分を除去し、精製抽出物を形成するステップ、
c)前記精製抽出物を変性して、精製変性抽出物を形成するステップ、
d)精製変性抽出物を純化して不純物を除去し、純化変性抽出物を形成するステップ、
e)前記純化変性抽出物を加水分解して、前記加水分解アレルゲンを形成するステップ、
f)前記加水分解アレルゲンを精製して10,000Da超の分子量を有するペプチド及び1,000Da未満の分子量を有するペプチドを除去してペプチドの70%が10,000Da〜1,000Daである精製加水分解物を得るステップ、
を含む方法により得られ、
前記精製変性抽出物が複数のタンパク質を含み、前記複数のタンパク質のうち、合わせて全タンパク質の少なくとも60%(w/w)を構成する最も量の多い(w/w)タンパク質は少なくとも2つのタンパク質であり、全タンパク質が前記精製変性抽出物の乾燥重量の少なくとも60%(w/w)をなす、請求項9又は請求項10記載の医薬製剤。
【請求項12】
前記精製加水分解物において、ペプチドの80%が10,000Da〜1,000Daである、請求項11に記載の医薬製剤。
【請求項13】
前記加水分解アレルゲンが、
a)アレルゲンタンパク質を含むアレルゲンの供給源を抽出して抽出物を形成するステップ、
b)前記抽出物を精製して非タンパク質成分を除去し、精製抽出物を形成するステップ、
c)前記精製抽出物を第一変性剤で変性して、精製変性抽出物を形成するステップ、
d)前記精製変性抽出物を純化して不純物を除去し、純化変性抽出物を形成するステップ、
e)前記純化変性抽出物を第二変性剤で変性して、変性アレルゲン混合物を形成するステップ、及び
f)前記変性アレルゲン混合物を加水分解して、加水分解アレルゲンを形成するステップ
を含む方法により得られる、請求項9又は請求項10記載の医薬製剤。
【請求項14】
前記抗原構造物が、ミルクアレルゲン、毒液アレルゲン、卵アレルゲン、雑草アレルゲン、草(grass)アレルゲン、草(grass)花粉アレルゲン、樹木アレルゲン、灌木アレルゲン、花アレルゲン、穀物アレルゲン、真菌アレルゲン、果実アレルゲン、ベリーアレルゲン、ナッツアレルゲン、種子アレルゲン、豆アレルゲン、魚アレルゲン、甲殻類アレルギー、肉アレルゲン、香辛料アレルゲン、昆虫アレルゲン、ダニアレルゲン、動物アレルゲン、動物鱗屑アレルゲン、及びパラゴムノキのアレルゲンからなる群から選択される抗原構造物である、請求項1〜請求項13のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項15】
前記抗原構造物が、草(grass)花粉アレルゲン、ピーナッツアレルゲン、ハウスダストダニアレルゲン、ブタクサアレルゲン、及びスギアレルゲンからなる群から選択される抗原構造物である、請求項1〜請求項14のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項16】
患者に別々の時に少なくとも2回の注射をすることを含むアレルギーの治療に用いるための、請求項1〜請求項15のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項17】
製剤の量を漸次増やしつつ2〜20回の注射を行うことを含む治療に用いるための、請求項16に記載の医薬製剤。
【請求項18】
前記抗原構造物の断片が40μg〜1000μgの累積用量となるように、アレルギーの治療のために皮下注射により患者に投与される、請求項1〜請求項17のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項19】
3〜10日の間隔で皮下注射により投与される、請求項18に記載の医薬製剤。
【請求項20】
2回の皮下注射が、同一注射機会に前記患者の身体の異なる位置で実施される、請求項18又は請求項19に記載の医薬製剤。
【請求項21】
前記患者の身体の異なる位置のうち一方が患者の一方の腕にあり、前記患者の身体の異なる位置のうち他方が患者の他方の腕にある、請求項20に記載の医薬製剤。
【請求項22】
前記抗原構造物の断片の前記患者への投与が毎年繰り返される、請求項18〜請求項21のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項23】
請求項1〜請求項22のいずれか一項に記載の医薬製剤を0.2〜1.5ml含むバイアル又は投与具。
【請求項24】
注射器である請求項23に記載の投与具。
【請求項25】
請求項23に記載のバイアル又は投与具、又は請求項24に記載の投与具を2〜30個含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬製剤、特にアレルギー、自己免疫疾患又は移植片拒絶を治療するために有用な医薬製剤、に関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第6,312,711号は、ストレスタンパク質及び抗原構造物のエピトープの複合体の投与を含む、移植片拒絶又はアレルギー性自己免疫反応に関連する病態を治療することを意図した薬学的又は食品組成物を開示する。
【0003】
国際公開第2013/011095号は、0.5ng〜200μgのHSP70、0.5〜100μgの抗原構造物の断片を含む皮下注射のための医薬製剤を開示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
寛容誘導のための医薬製剤中に熱ショックタンパク質を含ませることに関連した多くの研究がなされてきたが、臨床結果は常に満足がいくものというわけではない。これらの製剤を改良することが、依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
驚くべきことに、
−アレルギー反応を誘発する抗原構造物の断片10〜200μg/ml、
−2〜6%(w/v)のマンニトール、
−0.5〜2%(w/v)のトレハロース、
−水
を含み、熱ショックタンパク質を本質的に含まない医薬製剤が、高効率で安全な治療のために用いられ得る、ということがここに判明した。
【0006】
マンニトール及びトレハロースを含むが熱ショックタンパク質が添加されていない溶液中に溶解した抗原構造物の断片は、投与においては安全でありながら、関連抗原に対する寛容を誘発するための治療にも適している。
【0007】
マンニトール及びトレハロースは、従来技術において医薬製剤の処方のために用いられてきたが、これは一般的には凍結乾燥品に関連して用いられてきたものである。
本発明の医薬製剤は、製造中に凍結乾燥されないが、にもかかわらず貯蔵時に高度の安定性をもたらす。
医薬製剤は、約2〜6%(w/v)のマンニトールを含む。トレハロースの適量は0.5〜2%(w/v)の量であり、ここで体積は25℃で測定される。
前記製剤は緩衝剤も含み、リン酸塩緩衝剤が好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態では、医薬製剤は、皮下注射のための形態である。
本発明の製剤は、熱ショックタンパク質を本質的に含まない。熱ショックタンパク質を本質的に含まないとは、1μg/ml未満、好ましくは1.0ng/ml未満、さらに好ましくは0.5ng/ml未満の濃度を意味する。
【0009】
抗原構造物の断片は、好ましくは、抗原構造物の酵素的加水分解により調製される。抗原構造物の断片を調製するための好ましい形態。加水分解アレルゲン断片、好ましくは抗原の非タンパク質成分を含まない加水分解アレルゲン断片、を得るための好ましい方法は、国際公開第2008/000783号、国際公開第2009/083589号及び国際公開第2012/172037号に記載された方法であり、これらの方法は、参照により取り込まれる。
【0010】
これらの方法の主なステップは、
・アレルゲンの供給源からのアレルゲンタンパク質の抽出、
・第一精製ステップと、その後の変性、好ましくは還元剤及びカオトロピック剤による変性、
・さらなる精製ステップ
・タンパク質の加水分解
である。
さらなる変性ステップを、加水分解前に用いてもよい。
【0011】
抗原構造物は、アレルギー反応を誘発する抗原構造物から選択される。このような抗原構造物は、アレルゲンとも称す。好ましいアレルゲンは、天然タンパク質アレルゲンである。適切な例は、ミルクアレルゲン、毒液アレルゲン、卵アレルゲン、雑草アレルゲン、草(grass)アレルゲン、草(grass)花粉アレルゲン、樹木(tree)アレルゲン、灌木(shrub)アレルゲン、花アレルゲン、穀物アレルゲン、真菌アレルゲン、果実アレルゲン、ベリーアレルゲン、ナッツアレルゲン、種子アレルゲン、豆アレルゲン、魚アレルゲン、甲殻類アレルギー、肉アレルゲン、香辛料アレルゲン、昆虫アレルゲン、ダニアレルゲン、動物アレルゲン、動物鱗屑アレルゲン、パラゴムノキのアレルゲンから選択される。非常に好ましいアレルゲンは、草(grass)花粉アレルゲン、ピーナッツアレルゲン、ハウスダストダニアレルゲン、ブタクサアレルゲン及びスギアレルゲンである。
【0012】
本発明の一実施形態では、医薬製剤は、患者に別々の時に少なくとも2回の注射をすることを含む治療に用いられ、好ましくは、製剤は、製剤の量を漸次増やしつつ2〜20回の注射を行うことを含む治療に用いるためのものである。
本発明のさらなる実施形態は、本発明の医薬製剤を0.2〜1.50ml又は0.5〜1.50ml含むバイアル又は投与具(application device)である。
【0013】
本発明のさらなる実施形態は、2〜20個又は2〜30個のバイアル又は投与具を含むキットであり、前記投与具は、製剤を漸増量で注射することを含む治療に用いるために必要な量の本発明の医薬製剤を含む。
針表面に存在する有効成分が真皮中に拡散することが避けられるため、投与具はより好都合な形態である。
典型的実施形態では、投与具は注射器である。例えば投与具は、製剤の100μg/mlの溶液を含んでもよく、第一注射器が50μlを、他の器具が100、200、500μl及び1000μlを含んでいてもよい。その利点は、製剤がすぐに使えることである。予め充填された投与具は、投与中の誤り率を低減する。
【0014】
驚くべきことに、本発明の製剤は、少なくとも6か月間、好ましくは1年超の間、冷蔵庫温度で安定である。室温で保存された場合でも、安定性によりこれに近い期間の貯蔵が可能である。これらの特性により、使用前に凍結乾燥製剤を溶解することに関連した面倒な作業が避けられる。
マンニトール及びトレハロースにより製剤の高安定性が得られ、これにより製剤の安全性及び効能が増大する、と考えられる。
【0015】
本発明のさらなる実施形態は、本発明の医薬製剤を用いて、抗原構造物の断片を累積用量40〜1000μgで皮下注射により患者に投与することを含む、アレルギーの治療方法である。
注射機会(session)間の好ましい間隔は、2〜10日である。
好ましい一実施形態では、患者は、注射機会中に、例えば来院中に、患者の身体の異なる位置に2回の皮下注射を受ける。注射は、好ましくは30〜60分間隔で行われる。注射のための好ましい位置は、患者の左腕及び右腕である。
【実施例】
【0016】
製剤の安全性及び効果を分析した。試験は、ドイツのドレスデンのカール・グスタフ・カルス大学病院及びドイツのケルンのケルン大学病院で実行した。
【0017】
効果
試験材料として、以下の成分を含む、ホソムギ(Lolium perenne)からのアレルゲン抽出物を用いた。
−国際公開第2008/000783号に従って調製された100μg/mlの加水分解花粉アレルゲン抽出物、
−42mg/mlのマンニトール、
−10.2mg/mlのトレハロース、
−0.69mg/mlのリン酸塩
−0.70mg/mlのNaCl、及び
−水
【0018】
投与スキームは、各腕において30分間隔で投与される2回の注射を伴う6回の来院を包むものであった。6回の来院での合計12回の皮下注射の中で、累積用量は490μgであった。治療の前後に、付加の来院(来院1、来院8)が行われた。これは、草(grass)花粉アレルゲンによるアレルギー性鼻炎又は鼻炎結膜炎を有する61名の患者に関するモノセントリックな研究であった。この分析には、44名の患者が含まれ、他の患者は依然として治療中である。
【0019】
投薬レジメンは、100μg/mlの濃度で、5μg、10μg、20μg、40μg、70μg及び100μgであった。これは各腕に投与されるので、来院当たりでは倍量が投与された。44名の患者についてのこの中間分析から、38名は研究の最後まで残り、6名が脱落した。1名は全身性反応のためであり、1名は個人的理由のためであり、4名の患者はもはや連絡不能となった。
脱落を含めて、患者に適用された累積用量は、表1から得られる。
【0020】
【表1】
【0021】
治療前に、皮膚プリックテストを実行した。皮膚反応の結果(mmで表される)は、表2に示される。陽性対照は、ヒスタミンの注射であった。
【0022】
【表2】
【0023】
さらに、IgEの血清レベルを試験した。結果を、表3に報告する。
【0024】
【表3】
【0025】
【化1】
【0026】
注射量を漸次増やし、来院1、来院6及び来院8での結膜誘発試験(CPT)により、反応を試験した。CPT段階を、表4のとおり定義した(Gronemeyer’s grading,Richelman et al 2003 Arch.Allergy.Immunol.130;51−59)。
【0027】
【表4】
【0028】
結果を、表5〜7に報告する。
【0029】
【表5】
【0030】
【表6】
【0031】
【表7】
【0032】
まとめると、1名の患者(2.7%)だけが、治療前に「Provokationslosung」に対する応答を示していなかった。これは、治療中には29名(76.3%)、治療後には24名(64.9%)に改善した。CPTの改善は、来院8では全患者の93.8%に関して達成されている。
【0033】
安全性
24名の患者はいかなる副作用にも言及せず、20名の患者は1つ以上の副作用を有したが、重篤な副作用を経験した患者はいなかった。注射部位では、一般的に、発赤及び膨疹が注射部位に生じる。膨疹サイズは、重要な安全性指標である。これは、注射の約30分後に測定される。
【0034】
表8は、来院及び注射の間での発赤直径(cm)の変動を示す。驚くべきことに、また予想外にも、注射量を漸次増やした際に典型的に見られる発赤直径の増大は生じなかった。これに対して、治療の間、発赤直径はほとんど安定しているか、あるいはわずかに減少することさえあった。これは予想外のことであり、投与に対する耐性が良好であることの指標である。
【0035】
【表8】
【0036】
【表9】
【0037】
さらに、典型的膨疹反応は1cm未満であった。ガイドラインによれば、局所反応が約5cmの限界に到達した場合、治療を適合化が必要となる。本試験において、膨疹に関して観察された最大値は3.5cmであった。
特に、膨疹直径は全身性反応の良好な指標である。
【0038】
注射後30分以内に発生する即時アレルギー性全身性反応は少数の患者でしか報告されず、その反応は、これらの反応の管理に関するAWMFの推奨に従って等級分けされた。
【0039】
【化2】
【0040】
等級I(軽度)の即時アレルギー性全身性反応が2名の患者(患者の3.3%)で報告され、等級II(中等度)の5即時アレルギー性全身性反応が4名の患者(患者の6.6%)で報告された。これらの頻度は、文献に報告されている頻度より低い(Calderon MA,Alves B,Jacobson M,Hurwitz B,Sheikh A,Durham S Allergen injection immunotherapy for seasonal allergic rhinitis(Review)The Cochrane Library 2007,Issue 1のメタ分析においては等級II全身性反応について22%)。
【0041】
結論
治療に対する耐性は良好であり、治療は高度に効率的であった。
【0042】
本明細書中に引用された参考文献はすべて、参照により、本明細書中の明示的な教示と不整合を生じない範囲全体が取り込まれる。
【0043】
比較研究
マンニトール/トレハロースを含む製剤の安全性を、技術的(technical)リン酸塩緩衝生理食塩水製剤と比較すること。この比較製剤は、
100μg/mlの第一試験で用いられた花粉ペプチド
0.35mg/mlのリン酸塩
0.56mg/mlのNaCl
0.01mg/mlのKCl
を含んでいた。
これらの研究は、製品が異なる調合であり、また各処置が2回の注射に分けられている、すなわちより多くのアレルゲンが適用される、という点で異なっていた。
【0044】
【表10】
【0045】
予想外にも、トレハロース/マンニトール組成物の使用は、膨疹直径の低減を生じた。
本発明の態様は以下を含む。
付記1
−アレルギー反応を誘発する抗原構造物の断片10〜200μg/ml、
−2〜6%(w/v)のマンニトール、
−0.5〜2%(w/v)のトレハロース、
−水
を含み、熱ショックタンパク質を本質的に含まない医薬製剤。
付記2
アレルギー反応を誘発する前記抗原構造物の断片の濃度が50〜200μg/mlである付記1に記載の医薬製剤。
付記3
緩衝剤、好ましくはリン酸塩緩衝剤、をさらに含む付記1又は付記2に記載の医薬製剤。
付記4
皮下注射のための形態である付記1〜付記3のいずれか一項に記載の医薬製剤。
付記5
前記熱ショックタンパク質の量が1μg/ml未満、好ましくは0.5ng/ml未満である付記1〜付記4のいずれか一項に記載の医薬製剤。
付記6
前記抗原構造物の断片が加水分解アレルゲン、好ましくは前記抗原構造物の酵素的加水分解により調製される加水分解アレルゲン、である付記1〜付記5のいずれか一項に記載の医薬製剤。
付記7
前記断片のうち少なくとも70重量%が1,000〜10,000Daである付記1〜付記6のいずれか一項に記載の医薬製剤。
付記8
前記加水分解アレルゲンが、
a)アレルゲンタンパク質を含むアレルゲンの天然供給源を抽出して抽出物を形成するステップ、
b)前記抽出物を精製して非タンパク質成分を除去し、精製抽出物を形成するステップ、
c)前記精製抽出物を変性して、精製変性抽出物を形成するステップ、
d)精製変性抽出物を純化して不純物を除去し、純化変性抽出物を形成するステップ、
e)変性アレルゲンを加水分解して、前記加水分解アレルゲンを形成するステップ、
f)ペプチドの70%、より好ましくは80%、が10,000Da〜1,000Daである精製加水分解物を得るために、前記加水分解アレルゲンを精製して10,000Da超の分子量を有するペプチド及び1,000Da未満の分子量を有するペプチドを除去するステップ、
を含む方法により得られ、
前記精製変性抽出物が複数のタンパク質を含み、前記複数のタンパク質のうち、合わせて全タンパク質の少なくとも60%(w/w)を構成する最も量の多い(w/w)タンパク質は少なくとも2つのタンパク質であり、全タンパク質が前記精製変性抽出物の乾燥重量の少なくとも60%(w/w)をなす、付記6記載の医薬製剤。
付記9
前記加水分解アレルゲンが、
a)アレルゲンタンパク質を含むアレルゲンの供給源を抽出して抽出物を形成するステップ、
b)前記抽出物を精製して非タンパク質成分を除去し、精製抽出物を形成するステップ、
c)前記精製抽出物を第一変性剤で変性して、精製変性抽出物を形成するステップ、
d)前記精製変性抽出物を純化して不純物を除去し、純化変性抽出物を形成するステップ、
e)前記純化変性抽出物を第二変性剤で変性して、変性アレルゲン混合物を形成するステップ、及び
f)前記変性アレルゲン混合物を加水分解して、加水分解アレルゲンを形成するステップ
を含む方法により得られる、付記6記載の医薬製剤。
付記10
前記抗原構造物が、ミルクアレルゲン、毒液アレルゲン、卵アレルゲン、雑草アレルゲン、草(grass)アレルゲン、草(grass)花粉アレルゲン、樹木アレルゲン、灌木アレルゲン、花アレルゲン、穀物アレルゲン、真菌アレルゲン、果実アレルゲン、ベリーアレルゲン、ナッツアレルゲン、種子アレルゲン、豆アレルゲン、魚アレルゲン、甲殻類アレルギー、肉アレルゲン、香辛料アレルゲン、昆虫アレルゲン、ダニアレルゲン、動物アレルゲン、動物鱗屑アレルゲン及びパラゴムノキのアレルゲンである付記1〜付記8のいずれか一項に記載の医薬製剤。
付記11
患者に別々の時に少なくとも2回の注射をすることを含むアレルギーの治療に用いるための、好ましくは、製剤の量を漸次増やしつつ2〜20回の注射を行うことを含む治療に用いるための、付記1〜10のいずれか一項に記載の製剤。
付記12
付記1〜付記11のいずれか一項に記載の医薬製剤を0.2〜1.5ml含むバイアル又は投与具。
付記13
注射器である付記12に記載の投与具。
付記14
付記12又は付記13に記載のバイアル又は投与具を2〜30個含むキット。
付記15
1回以上の注射機会(session)に、付記1〜付記10のいずれか一項に記載の医薬製剤を用いて、抗原構造物の断片を40μg〜1000μgの累積用量で皮下注射により患者に投与することを含む、アレルギーの治療方法。
付記16
注射機会が3〜10日の間隔で実施される付記15に記載の方法。
付記17
2回の皮下注射が、同一注射機会に前記患者の身体の異なる位置で実施される、付記15又は付記16のいずれか一項に記載の方法。
付記18
前記2つの異なる位置が患者の両腕にある付記17に記載の方法。
付記19
前記治療が毎年繰り返される、付記15〜付記18のいずれか一項に記載の方法。